(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022038
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】樹脂製品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20230207BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230207BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230207BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177025
(22)【出願日】2022-11-04
(62)【分割の表示】P 2018236866の分割
【原出願日】2018-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】313014077
【氏名又は名称】トクラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】太田 孝
(72)【発明者】
【氏名】佐野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】紺野 良文
(57)【要約】
【課題】傷が目立たない高品質の樹脂製品、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂製品1は、合成樹脂を含むベース層11、及び、合成樹脂を含む有色の層(12)であって前記ベース層11の表面に設けられた有色の層(12)を有する基材10、並びに、有色の層(12)の表面10aに設けられた塗膜20を備える。別の樹脂製品1は、合成樹脂を含む人造大理石である基材10、及び、基材10の表面10aに設けられた塗膜20を備える。塗膜20は、合成樹脂30、及び、分散状態の中空無機粒子40を含んでいる。中空無機粒子40のメジアン径aは、10~50μmである。中空無機粒子40の真比重は、0.55~1.20である。塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aである。塗膜20の表面20aにおいて、中空無機粒子40の一部が露出している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂を含むベース層、及び、合成樹脂を含む有色の層であって前記ベース層の表面に設けられた有色の層を有する基材と、
前記有色の層の表面に設けられた塗膜と、を備える樹脂製品であって、
前記塗膜は、合成樹脂と、分散状態の中空無機粒子と、を含み、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aであり、
前記塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部が露出している、樹脂製品。
【請求項2】
合成樹脂を含む人造大理石である基材と、
前記基材の表面に設けられた塗膜と、を備える樹脂製品であって、
前記塗膜は、合成樹脂と、分散状態の中空無機粒子と、を含み、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aであり、
前記塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部が露出している、樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
システムキッチンのカウンターやシンク、洗面化粧台のカウンターやボウル、バスタブ、等に人造大理石が使用されている。人造大理石の成形品は、例えば、型内に人造大理石用樹脂組成物を注入して硬化させることにより形成することができる。
【0003】
また、特許文献1には、人造大理石の表面に塗膜が形成されたシステムキッチン用塗装人造大理石が開示されている。劣化した油脂を含む異物が付着しても長期にわたり外観に優れるようにするため、前記塗膜は、樹脂と、酸化防止剤と光安定剤の一方又は両方とを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塗装人造大理石の表面に傷が付いた場合、塗膜のみならず人造大理石にまで傷が付くことがある。この場合、人造大理石に付いた傷が目立ってしまう。
尚、上述のような問題は、洗面化粧台やバスタブといった塗装品等、システムキッチン用塗装人造大理石以外にも存在する。
【0006】
本発明は、傷が目立たない高品質の樹脂製品を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂製品は、合成樹脂を含むベース層、及び、合成樹脂を含む有色の層であって前記ベース層の表面に設けられた有色の層を有する基材と、
前記有色の層の表面に設けられた塗膜と、を備える樹脂製品であって、
前記塗膜は、合成樹脂と、分散状態の中空無機粒子と、を含み、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aであり、
前記塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部が露出している、態様を有する。
また、本発明の樹脂製品は、合成樹脂を含む人造大理石である基材と、
前記基材の表面に設けられた塗膜と、を備える樹脂製品であって、
前記塗膜は、合成樹脂と、分散状態の中空無機粒子と、を含み、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aであり、
前記塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部が露出している、態様を有する。
【0008】
参考として、本発明は、合成樹脂を含むベース層、及び、合成樹脂を含む有色の層であって前記ベース層の表面に設けられた有色の層を有する基材の前記有色の層の表面に、合成樹脂に中空無機粒子が分散した塗膜が設けられた樹脂製品の製造方法であって、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるように、前記合成樹脂となる樹脂材料に前記中空無機粒子を分散させた塗液を前記基材の表面に塗布する塗布工程と、
前記基材の表面に形成された塗膜の表面を研磨して該塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部を露出させる研磨工程と、を含む、態様を有していてもよい。
また、本発明は、合成樹脂に中空無機粒子が分散した塗膜が人造大理石である基材の表面に設けられた樹脂製品の製造方法であって、
前記中空無機粒子のメジアン径aは、10~50μmであり、
前記中空無機粒子の真比重は、0.55~1.20であり、
前記塗膜において前記中空無機粒子が無い部分の厚さが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるように、前記合成樹脂となる樹脂材料に前記中空無機粒子を分散させた塗液を前記基材の表面に塗布する塗布工程と、
前記基材の表面に形成された塗膜の表面を研磨して該塗膜の表面において前記中空無機粒子の一部を露出させる研磨工程と、を含む、態様を有していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、傷が目立たない高品質の樹脂製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】例としての樹脂製品の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【
図3】着色層を有する樹脂製品の例を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0012】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~5に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0013】
[態様1,2]
本技術の態様1に係る樹脂製品1は、合成樹脂を含むベース層11、及び、合成樹脂を含む有色の層(12)であって前記ベース層11の表面に設けられた有色の層(12)を有する基材10、並びに、有色の層(12)の表面10aに設けられた塗膜20を備える。本技術の態様2に係る樹脂製品1は、合成樹脂を含む人造大理石である基材10、及び、基材10の表面10aに設けられた塗膜20を備える。前記塗膜20は、合成樹脂30、及び、分散状態の中空無機粒子40を含んでいる。前記中空無機粒子40のメジアン径aは、10~50μmである。前記中空無機粒子40の真比重は、0.55~1.20である。前記塗膜20において前記中空無機粒子40が無い部分31の厚さは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aである。前記塗膜20の表面20aにおいて、前記中空無機粒子40の一部が露出している。
【0014】
上記態様1,2では、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上あるので、塗膜20が均質であり、樹脂製品1の表面(20a)の強度及び意匠が良好である。中空無機粒子40のメジアン径aが10~50μmである点でも、樹脂製品1の表面(20a)の意匠が良好である。また、中空無機粒子40の真比重が0.55~1.20であるので、合成樹脂30に対して中空無機粒子40が良好に分散しており、塗膜20が均質である。さらに、前述の厚さtが0.3a以上であるので、中空無機粒子40が塗膜20から脱落しないように合成樹脂30で保持される。これにより、中空無機粒子40の脱落によるピンホール等といった外観の低下が防止され、樹脂製品1の表面(20a)の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。一方、前述の厚さtが1.2a以下であるので、塗膜20の表面20aから露出している中空無機粒子40が多く、樹脂製品1の表面(20a)の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。ここで、樹脂製品1の表面(20a)に傷が付いても、分散状態の硬い中空無機粒子40により基材10まで傷付くことが抑制され、塗膜20の表面20aにおいて中空無機粒子40の一部が露出している中で合成樹脂30が傷付いても傷が目立たない。従って、態様1,2は、傷が目立たない高品質の樹脂製品を提供することができる。
【0015】
ここで、メジアン径aは、ISO 13220:2009を基に作成されたJIS Z8825:2013(粒子径解析-レーザ回折・散乱法)に準拠した粒子径分布から求められる累積分布50vol%の粒子径x、すなわち、体積基準の中位径x50とする。
真比重は、中空無機粒子内の中空部を残した状態で中空無機粒子間の空隙を含まない中空無機粒子そのものの密度とする。真比重は、無次元量であるが、実質的に真密度(単位:g/cm3)と同じである。
中空無機粒子の一部が露出していることは、中空無機粒子の一部が合成樹脂で覆われていないことを意味する。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0016】
[態様3]
ところで、前記塗膜20に含まれる合成樹脂30は、透明性を有していてもよい。この態様は、塗膜20の表面20aにおいて中空無機粒子40の一部が露出している中で合成樹脂30が傷付いても、合成樹脂30が透明性を有しているので、傷がさらに目立たない。従って、本態様は、傷がさらに目立たない高品質の樹脂製品を提供することができる。
ここで、塗膜中の合成樹脂が透明性を有するとは、塗膜中の合成樹脂を通して基材の表面の様子が少しでも分かることを意味し、合成樹脂が透視性を有することに限定されない。従って、塗膜中の合成樹脂は、半透明や有色でもよい。
尚、上記態様3の付言も、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様4,5]
また、本技術の態様4に係る樹脂製品1の製造方法は、塗布工程S2と研磨工程S3を含み、合成樹脂を含むベース層11、及び、合成樹脂を含む有色の層(12)であって前記ベース層11の表面に設けられた有色の層(12)を有する基材10の前記有色の層(12)の表面10aに、合成樹脂30に中空無機粒子40が分散した塗膜20が設けられた樹脂製品1の製造方法である。さらに、本技術の態様5に係る樹脂製品1の製造方法は、塗布工程S2と研磨工程S3を含み、合成樹脂30に中空無機粒子40が分散した塗膜20が人造大理石である基材10の表面10aに設けられた樹脂製品1の製造方法である。ここで、前記中空無機粒子40のメジアン径aが10~50μmであり、前記中空無機粒子40の真比重が0.55~1.20である。前記塗布工程S2では、前記塗膜20において前記中空無機粒子40が無い部分31の厚さが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるように、前記合成樹脂30となる樹脂材料35に前記中空無機粒子40を分散させた塗液25を前記基材10の表面10aに塗布する。前記研磨工程S3では、前記基材10の表面10aに形成された塗膜20の表面20aを研磨して該塗膜20の表面20aにおいて前記中空無機粒子40の一部を露出させる。
【0018】
上記態様4,5では、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上となるように塗液25が塗布されるので、均質な塗膜20が形成される。これにより、樹脂製品1の表面(20a)の強度及び意匠が良好である。中空無機粒子40のメジアン径aが10~50μmである点でも、得られる樹脂製品1の表面(20a)の意匠が良好である。また、中空無機粒子40の真比重が0.55~1.20であるので、塗液25の中で中空無機粒子40が浮遊しすぎたり沈降しすぎたりせずに安定して分散する。これにより、合成樹脂30に対して中空無機粒子40が良好に分散した均質な塗膜20が形成される。さらに、前述の厚さtが0.3a以上であるので、中空無機粒子40が塗膜20から脱落しないように合成樹脂30で保持される。これにより、中空無機粒子40の脱落によるピンホール等といった外観の低下が防止され、樹脂製品1の表面(20a)の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。一方、前述の厚さtが1.2a以下であるので、塗膜20の表面20aが研磨されることにより多くの中空無機粒子40が露出し、樹脂製品1の表面(20a)の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。ここで、樹脂製品1の表面(20a)に傷が付いても、分散状態の硬い中空無機粒子40により基材10まで傷付くことが抑制され、塗膜20の表面20aにおいて中空無機粒子40の一部が露出している中で合成樹脂30が傷付いても傷が目立たない。従って、態様4,5は、傷が目立たない高品質の樹脂製品の製造方法を提供することができる。
【0019】
尚、樹脂製品1は、システムキッチン、システムバス、洗面化粧台、等に適用することができる。システムキッチンの場合、キッチンカウンター、キッチンシンク、等の部位に樹脂製品1を適用することができる。システムバスの場合、バスタブ、バスカウンター、等の部位に樹脂製品1を適用することができる。洗面化粧台の場合、洗面カウンター、洗面ボウル、等の部位に樹脂製品1を適用することができる。
【0020】
(2)樹脂製品の具体例:
図1は、本技術の一実施形態に係る樹脂製品1の断面を模式的に例示している。樹脂製品1は、硬化又は固化した合成樹脂を含む基材10、及び、基材10の表面10aに設けられた塗膜20を備えている。基材10は、充填剤、特に、無機充填剤を含む人造大理石が好ましい。人造大理石は、充填剤と合成樹脂の一方を主成分とし他方を副成分として含む樹脂材料である。ここで、主成分とは、他の成分が無いか、他の成分がある場合には最も多い成分を意味する。副成分は、主成分以外の成分を意味する。塗膜20は、硬化又は固化した合成樹脂30、及び、分散状態の中空無機粒子40を含んでいる。合成樹脂30は、傷をさらに目立たなくする点から、透明性を有する合成樹脂が好ましい。
【0021】
基材10に含まれる合成樹脂、及び、塗膜20に含まれる合成樹脂30は、熱硬化性樹脂といった硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂には、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、これらの少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。熱可塑性樹脂には、熱可塑性アクリル樹脂等を用いることができる。塗膜用の透明性を有する熱硬化性樹脂には、アクリルウレタン樹脂やポリエステルウレタン樹脂等を含むウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、これらの少なくとも一部の組合せ、等の透明性を有する熱硬化性樹脂を用いることができる。塗膜用の透明性を有する熱可塑性樹脂には、熱可塑性アクリル樹脂等の透明性を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。合成樹脂には、本技術の効果を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、等の一種以上の添加剤が含まれてもよい。
【0022】
基材10には、充填剤、着色剤、等の有色の添加剤が含まれてもよい。基材10が有色の添加剤を含む場合、基材10を人造大理石等として形成することができ、樹脂製品1の表面にセラミック調等の質感を表現することができる。ここで、セラミック調は、陶器等を含む焼物の趣があることを意味する。充填剤には、有機充填剤を用いてもよいが、無機充填剤を用いると基材10がさらに硬くなって傷付き難くなり、樹脂製品1の表面の傷がさらに目立たなくなる。無機充填剤には、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ガラス、シリカ、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、等の一種以上の粉末材料や粒状材料を用いることができる。着色剤には、無機着色剤と有機着色剤の少なくとも一方を用いることができ、顔料を用いてもよいし、染料を用いてもよい。無機着色剤には、酸化チタンや酸化亜鉛や硫化亜鉛といった白色顔料、酸化鉄イエローといった黄色顔料、カーボンブラックや酸化鉄ブラックといった黒色顔料、酸化鉄レッドといった赤色顔料、ウルトラマリンブルーといった青色顔料、等の一種以上を用いることができる。有機着色剤には、フタロシアニンブルーといった青色顔料、イソインドリノンイエローといった黄色顔料、ジケトピロロピロールといった橙色顔料、等の一種以上を用いることができる。
【0023】
基材10の鉛筆硬度は、4H以上が好ましく、5H以上がより好ましい。ここで、鉛筆硬度は、JIS K5600-5-4:1999(塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法))に準拠した鉛筆硬度とする。基材が鉛筆硬度4H以上と硬いと、基材に傷が生じ難くなり、樹脂製品1の表面の傷が特に目立たなくなる。尚、基材を硬くするためには、例えば、無機充填剤に硬い材料を使用したり、基材に含まれる無機充填剤の配合量を増やしたりすればよい。
基材10における無機充填材の存在比は、基材の目標とする硬さによるが、特に限定されず、例えば、1~90重量%程度、より好ましくは25~75重量%程度とすることができる。
【0024】
合成樹脂30を含む塗膜20には、無機材料の中に中空部41を有する中空無機粒子40が多数、分散して存在している。ここで、
図1の上部に示すように、各中空無機粒子40についてJIS Z8825:2013に準拠した粒子径をdとする。中空無機粒子40が真球である場合、粒子径dは中空無機粒子40の直径となる。中空無機粒子40のメジアン径aは、粒子径dの体積基準の累積分布から求められる50vol%の中位径x
50である。中空無機粒子40のメジアン径aは、10~50μmである。メジアン径aが9μm以下であると、塗膜の表面の凹凸が小さいためにつや消し感が少なくなる。メジアン径aが10μm以上であることにより、塗膜20の表面20aの凹凸によって適度のつや消し感が生じ、セラミック調等の適度の質感、及び、触感が生じる。メジアン径aが51μm以上であると、塗膜の表面に形成される凹凸の粗さが目立ち、触感が低下してしまう。メジアン径aが50μm以下であることにより、塗膜20の表面20aの凹凸が粗すぎず、樹脂製品1の表面に良好な意匠、及び、触感が得られる。
【0025】
中空無機粒子40には、ガラス、シラスといった火山堆積物、等の無機材料の中空粒子を用いることができる。中空無機粒子40にガラスといった透明性を有する材料を用いると、中空無機粒子40を通して基材10の表面10aの様子が分かるので、樹脂製品1の表面の意匠性を向上させることができる。
【0026】
中空部41を有する中空無機粒子40の真比重は、0.55~1.20であり、中空部の無い無機材料の真比重と比べて小さい。真比重が0.54以下である場合、合成樹脂30を形成するための液状樹脂組成物に中空無機粒子40の集合物を混合しても浮きすぎてしまい、中空無機粒子40に偏りが生じた塗膜20が形成されてしまう。中空無機粒子40の真比重が0.55以上になると、液状樹脂組成物に中空無機粒子40が安定して分散し、均質な塗膜20が形成される。また、中空無機粒子40の真比重が1.21以上である場合、合成樹脂30を形成するための液状樹脂組成物に中空無機粒子40の集合物を混合しても沈みすぎてしまい、中空無機粒子40に偏りが生じた塗膜20が形成されてしまう。中空無機粒子40の真比重が1.20以下になると、液状樹脂組成物に中空無機粒子40が安定して分散し、均質な塗膜20が形成される。
【0027】
図2は、樹脂製品の断面の要部を拡大して模式的に例示している。
図1,2に示すように、塗膜20の表面20aは、中空無機粒子40の存在により凹凸を有する。ここで、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さをtとする。厚さtは、8μm以上、且つ、0.3a~1.2aである。
【0028】
厚さtが7μm以下である場合、分散状態の中空無機粒子40を含む塗液25を基材10の表面10aに均質に塗布することができない。厚さtを8μm以上にすると、塗液25を基材10の表面10aに均質に塗布することができ、均質な塗膜20が形成される。これにより、良好な強度及び意匠の表面を有する樹脂製品1が得られる。
【0029】
厚さtが0.2a以下である場合、中空無機粒子40が塗膜20から脱落して塗膜20にピンホール等が生じることがあり、樹脂製品1の意匠が低下することがある。厚さtを0.3a以上にすると、中空無機粒子40が塗膜20から脱落しないように合成樹脂30で保持される。これにより、ピンホール等といった外観の低下が防止され、樹脂製品1の表面の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。一方、厚さtが1.3a以上である場合、塗膜20に多くの中空無機粒子40が埋まってしまい、樹脂製品1の表面の耐摩耗性及び耐傷性が低下する。厚さtを1.2a以下にすると、塗膜20の表面20aが研磨されることにより多くの中空無機粒子40が露出し、樹脂製品1の表面の耐摩耗性及び耐傷性が向上する。
【0030】
塗膜20の表面20aは、研磨されることにより中空無機粒子40の一部が露出している。
図1,2には、中空無機粒子40の露出部分42が示されている。研磨する前の塗膜20の表面では、中空無機粒子40が存在する凸部分でも合成樹脂30が中空無機粒子40を覆っている。研磨は、塗膜20の表面の凸部分において、中空無機粒子40を覆う合成樹脂30を除去し、中空無機粒子40の凸状の外形を残すように行われる。研磨により、中空無機粒子40の外形の一部が出現し、分散状態の中空無機粒子40の光沢感が樹脂製品1の表面に付与される。塗膜20の表面20aの凹凸によるつや消し感と、中空無機粒子40において研磨された凸状の外形による光沢感とが相俟って、セラミック調等の良好な意匠と高い表面硬度を有する樹脂製品1が得られる。
【0031】
塗膜20における中空無機粒子40の存在比は、中空無機粒子40の粒子径や上述の厚さtによるが、例えば、0.5~20重量%、より好ましくは1~10重量%程度とすることができる。
上述した塗膜20は、基材10の表面10aのみならず、基材10の裏面10bに形成されてもよい。
【0032】
図3に示すように、合成樹脂を含む基材10は、複数の層を有していてもよい。
図3に示す基材10は、塗膜20が設けられた表面10aに合成樹脂を含む有色の層である着色層12を有している。着色層12は、合成樹脂を含むベース層11の表面に形成されている。ベース層11には、
図1,2で示した基材10に使用可能な材料を用いることができる。着色層12は、合成樹脂と着色剤を含み、樹脂製品1の表面にセラミック調等の質感を付与する機能を有する。着色層12の合成樹脂及び着色剤には、
図1,2で示した基材10に使用可能な材料を用いることができる。
尚、基材10の裏面10bにも着色層が形成されてもよく、この着色層が上述した塗膜20で覆われてもよい。
【0033】
(3)樹脂製品の製造方法の具体例:
図4は、本技術の一実施形態に係る樹脂製品1の製造方法を模式的に例示している。この製造方法は、基材形成工程S1、塗布工程S2、及び、研磨工程S3を含んでいる。基材形成工程S1では、合成樹脂を含む基材10を形成する。塗布工程S2では、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるように、合成樹脂30となる樹脂材料35に中空無機粒子40を分散させた塗液25を基材10の表面10aに塗布する。ここで、中空無機粒子40のメジアン径aは10~50μmであり、中空無機粒子40の真比重は0.55~1.20である。研磨工程S3では、基材10の表面10aに形成された塗膜20の表面20aを研磨して該塗膜20の表面20aにおいて中空無機粒子40の一部を露出させる。
【0034】
基材10を形成するための合成樹脂、及び、塗膜20を形成するための合成樹脂30は、上述したように、熱硬化性樹脂といった硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性の樹脂組成物には、不飽和ポリエステル樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、ビニルエステル樹脂組成物、フェノール樹脂組成物、ウレア樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物、シリコーン樹脂組成物、フッ素樹脂組成物、これらの少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。塗膜用の透明性を有する熱硬化性の樹脂組成物には、アクリルウレタン樹脂組成物やポリエステルウレタン樹脂組成物等を含むウレタン樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、ビニルエステル樹脂組成物、フェノール樹脂組成物、ウレア樹脂組成物、シリコーン樹脂組成物、フッ素樹脂組成物、これらの少なくとも一部の組合せ、等の透明性を有する樹脂組成物を用いることができる。液状樹脂組成物には、液状の重合性モノマー等に少なくとも重合体を溶解した重合性溶液を含む樹脂組成物等を用いることができる。ここで、重合性モノマー等とは、重合性モノマーとそのオリゴマーとの中から選ばれる一種以上の物質とする。
【0035】
上記重合性溶液に含まれる重合性モノマー等には、ラジカル重合反応により重合するラジカル重合性モノマー等を用いることができる。このようなラジカル重合性モノマー等には、芳香族ビニル化合物系モノマー、アクリル酸エステル系モノマー、ビニル化合物系モノマー、アリル化合物系モノマー、これらのオリゴマー、等を用いることができ、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、メチルメタクリレート(別名:メタクリル酸メチル)、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルサクシネート、トリアリルシアヌレート、これらのオリゴマー、等を用いることができる。これらのラジカル重合性モノマー等は、一種用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。重合性溶液におけるラジカル重合性モノマー等の配合比は、特に限定されず、例えば、重合体100重量部に対して30~500重量部程度、より好ましくは40~400重量部程度とすることができる。
【0036】
上記重合性溶液に含まれる重合体には、不飽和ポリエステル(不飽和基を持つポリエステル)、ビニルエステル、ポリアクリル酸といったアクリル酸系ポリマー、等、熱硬化性の樹脂組成物に含まれる公知の重合体の一種以上を用いることができる。尚、不飽和ポリエステルは、例えば、飽和ジカルボン酸を加えた不飽和ジカルボン酸(例えば無水マレイン酸やフマル酸といった不飽和二塩基酸)と2価アルコールを反応させることにより得られる。
【0037】
重合性溶液には、重合禁止剤等といった添加剤が添加されてもよい。重合禁止剤には、ハイドロキノン、p-ベンゾキノン、メチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、カテコール、t-ブチルカテコール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、等の一種以上を用いることができる。
【0038】
上述した重合性溶液を含む液状樹脂組成物には、本技術の効果を損なわない範囲において、硬化剤、硬化促進剤(硬化助剤)、熱可塑性ポリマー、増粘剤、補強剤、重合調整剤、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、等の一種以上の添加剤を添加してもよい。硬化剤には、有機過酸化物、アゾ化合物、等の一種以上を用いることができ、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサエート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリル、等の一種以上を用いることができる。液状樹脂組成物における硬化剤の配合比は、例えば、重合性溶液100重量部に対して0.1~5重量部程度とすることができる。硬化促進剤(硬化助剤)には、ナフテン酸コバルト、オクトエ酸コバルト、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル、3級アミン、ベンジルジメチルアミン、オクチル酸スズ、二環式アミジン化合物、第4級ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、等の一種以上を用いることができる。
【0039】
基材用の液状樹脂組成物には、上述した充填剤、上述した着色剤、等の有色の添加剤が含まれてもよい。充填剤を使用する場合において、液状樹脂組成物における充填剤の配合比は、基材の目標とする硬さによるが、特に限定されず、例えば、重合性溶液100重量部に対して5~600重量部程度、より好ましくは10~400重量部程度とすることができる。
【0040】
基材形成工程S1における液状樹脂組成物の成形は、型内に液状樹脂組成物を注入する注型、塗布、射出成形、等により行うことができる。液状樹脂組成物が熱硬化性といった硬化性である場合、賦形された液状樹脂組成物が硬化することにより基材10が形成される。液状樹脂組成物が熱可塑性である場合、賦形された液状樹脂組成物が固化することにより基材10が形成される。
【0041】
得られる基材10の表面10aには、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるように塗液25が塗布される(塗布工程S2)。塗液25は、硬化又は固化した合成樹脂30となる液状樹脂材料35に中空無機粒子40を分散させた懸濁液である。
図4には、樹脂材料35と中空無機粒子40を含む塗液25が基材10の表面10aに塗布された半製品2が示されている。中空無機粒子40が無い部分31の厚さtの目標が0.3a~1.2aであるので、塗液25の表面25aに凹凸が生じる。塗液25の表面25aでは、中空無機粒子40が存在する凸部分でも樹脂材料35の被覆部分32が中空無機粒子40を覆っている。従って、樹脂材料35が硬化又は固化すると、塗膜20の表面において中空無機粒子40が存在する凸部分でも合成樹脂30の被覆部分が中空無機粒子40を覆っている状態となる。
【0042】
塗液25に含まれる樹脂材料35には、合成樹脂30を形成する上述の液状樹脂組成物を用いることができる。塗液25に含まれる中空無機粒子40には、
図1,2で示した中空無機粒子40に使用可能な材料を用いることができる。
また、液状樹脂材料35の粘性を下げるため、揮発性を有する溶媒を樹脂材料35に入れてもよい。揮発性を有する溶媒には、炭化水素系溶剤やエーテル系溶剤といった有機溶剤等を用いることができる。炭化水素系溶剤には、トルエン、キシレン、ヘプタン、等の一種以上を用いることができる。エーテル系溶剤には、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、等の一種以上を用いることができる。
【0043】
塗液25における中空無機粒子40の配合比は、中空無機粒子40の粒子径や上述の厚さtによるが、例えば、重合性溶液100重量部に対して0.5~20重量部程度、より好ましくは1~10重量部程度とすることができる。
【0044】
塗液25の塗布は、スプレー塗り、ロールコーティング、刷毛塗り、へら付け、ローラー塗り、これらの少なくとも一部の組合せ、等により行うことができる。塗液25を塗布する量は、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aとなるような量にすればよい。
【0045】
樹脂材料35が硬化性である場合、基材10に塗液25を塗布した後に樹脂材料35の硬化が進み、塗液25が塗膜20に変化する。樹脂材料35が熱硬化性である場合、樹脂材料35の硬化を促進させるために半製品2を加熱してもよい。加熱条件は、特に限定されないが、例えば、50~60℃程度で1~2時間程度とすることができる。樹脂材料35が揮発性の溶媒を含む場合、塗液25の塗布後に溶媒が揮発する。樹脂材料35が熱可塑性である場合、溶融した樹脂材料35に中空無機粒子40が分散した塗液25が塗布に使用され、塗布後に樹脂材料35の温度が下がると樹脂材料35の固化により塗液25が塗膜20に変化する。研磨する前の塗膜20の表面では、中空無機粒子40が存在する凸部分でも硬化又は固化した合成樹脂30が中空無機粒子40を覆っている。
【0046】
形成された塗膜20の表面は研磨され、中空無機粒子40の一部が塗膜20の表面20aに出現する(研磨工程S3)。これにより、
図1~3で示したような樹脂製品1が形成される。塗膜20の表面の研磨は、研磨紙による研磨、バフ研磨、ベルト研磨、これらの少なくとも一部の組合せ、等により行うことができる。研磨紙による研磨は、例えば、粒度500~3000メッシュ程度、より好ましくは粒度1000~2000程度の研磨紙を当て木に当てる等して徒手又は機械により行うことができる。バフ研磨には、ディスクポリッシャー、両頭グラインダー、等のバフ研磨機を使用することができる。バフには、綿、ネル、等の研磨輪を用いることができる。バフ研磨時の研磨剤には、固形や液状のワックスを使用することができる。塗膜20の表面の凸部分において中空無機粒子40を覆う合成樹脂30を除去するために研磨紙を用いて研磨し、露出した中空無機粒子40の光沢感を向上させるためにバフ研磨を行ってもよい。
【0047】
尚、
図3で示したように着色層12を有する樹脂製品1を製造する場合には、基材形成工程S1において、上述した方法によりベース層11を形成した後、ベース層11の表面に着色層用の塗液を塗布し、硬化又は固化した合成樹脂と着色剤を含む着色層12を形成すればよい。塗布工程S2では着色層12の表面に塗液25が塗布され、研磨工程S3で塗膜20の表面が研磨される。
【0048】
本製造方法では、塗膜20において中空無機粒子40が無い部分31の厚さtが8μm以上となるように塗液25が塗布されるので、均質な塗膜20が形成される。これにより、表面の強度及び意匠が良好な樹脂製品1が得られる。中空無機粒子40のメジアン径aが10~50μmである点でも、表面の意匠が良好な樹脂製品1が得られる。また、塗液25の中で真比重0.55~1.20の中空無機粒子40が安定して分散するので、合成樹脂30に対して中空無機粒子40が良好に分散した均質な塗膜20が形成される。さらに、前述の厚さtが0.3a~1.2aであるので、合成樹脂30で脱落しないように保持されている中空無機粒子40が研磨により多数露出し、良好な耐摩耗性及び耐傷性を有する樹脂製品1が得られる。塗膜20の表面20aの凹凸によるつや消し感と、中空無機粒子40において研磨された外形による光沢感とが相俟って、樹脂製品1は、セラミック調等の良好な意匠と高い表面硬度を有する。
【0049】
ここで、樹脂製品1の表面に傷が付いても、分散状態の硬い中空無機粒子40により基材10まで傷付くことが抑制される。また、塗膜20の表面20aにおいて中空無機粒子40の一部が露出している中で合成樹脂30が傷付いても、傷が目立たない。特に、合成樹脂30が透明性を有する場合、傷がさらに目立たない。
以上より、本具体例は、傷が目立たない高品質の樹脂製品、及び、その製造方法を提供することができる。
【0050】
(4)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0051】
[液状樹脂溶液に分散した中空無機粒子の安定性の確認]
中空無機粒子には、真比重が0.20、0.37、0.46、0.55、0.80、1.20、及び、2.40である7段階の中空ガラス粒子を用いた。
まず、透明なアクリルウレタン樹脂組成物400gに対して、揮発性を有する溶媒として有機溶剤を400g程度混合し、液状樹脂溶液の粘度をアネスト岩田株式会社製の粘度カップNK-2にて滴下時間が9秒になるように調整した。中空無機粒子の真比重の各段階について、中空無機粒子8gを液状樹脂溶液に混合した塗液サンプル(硬化剤を含まず。)を調製した。各塗液サンプルを30分放置し、樹脂製品として支障を来すような中空無機粒子の浮きや沈降が生じるか否かを観察した。
【0052】
結果を表1に示す。
【表1】
中空無機粒子の真比重が0.46以下である場合、塗膜中の中空無機粒子に偏りが生じ過ぎるほど中空無機粒子が液状樹脂溶液中で浮きすぎていた。中空無機粒子の真比重が2.40以上である場合、塗膜中の中空無機粒子に偏りが生じ過ぎるほど中空無機粒子が液状樹脂溶液中で沈み過ぎていた。中空無機粒子の真比重が0.55~1.20である場合、液状樹脂溶液中で中空無機粒子が安定して分散していた。従って、中空無機粒子の真比重が0.55~1.20であると、樹脂製品サンプルの表面が中空無機粒子の偏りの少ない良好な意匠となる。
【0053】
[基材の作製]
不飽和ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、充填剤として水酸化アルミニウム粉末150重量部、着色剤としてホワイトトナー(50%品)1重量部、及び、硬化剤としてパーオキシカーボネート1重量部を添加して混合し、調製された懸濁液を型に注入して60℃で1時間硬化させ、厚さ10mmの人造大理石基材サンプルを作製した。
【0054】
[塗液の塗布]
透明なアクリルウレタン樹脂組成物100重量部に対して、硬化剤25重量部、揮発性を有する溶媒として有機溶剤75重量部、及び、中空無機粒子としてメジアン径a=26μmの中空ガラス粒子2重量部を添加して混合し、調製された塗液を表1の各試験区の厚さtの塗膜となるように人造大理石基材サンプルの表面にスプレーで塗布した。中空無機粒子の真比重は、0.60である。
【表2】
塗液の塗布後、各サンプルを50~60℃の環境下に1~2時間置き、塗液の樹脂材料を硬化させた。その後、当て木に当てた研磨紙を塗膜の表面に手掛けし、さらに、塗膜の表面にバフ研磨を行い、中空無機粒子の一部が露出した樹脂製品サンプルを形成した。尚、試験区1~6の内、試験区1,6は比較例である。
【0055】
[樹脂製品サンプルの表面の観察及び評価]
各試験区の樹脂製品サンプルについて、表面を観察し、表面の研磨により中空無機粒子の脱落が見られたか否かを観察した。
【0056】
[引っ掻き試験及び傷視認性評価]
図5に示す傷付け用治具81をデュポン式落下衝撃試験機(以下、試験機と記載)に取り付け、治具81の上に2000gのおもり82を載せ、治具81の下に樹脂製品サンプル83を置いて治具81の下端をサンプル83の表面に当て、一定速度でサンプル83をスライドさせた。尚、治具81の直径81Dは12.4mmであり、治具81の全長81Lは180mmであり、治具81の下端の曲率半径81Rは0.5mmであり、治具81の重量は150gである。従って、サンプル83の表面には治具81の下端から2150gに対応する荷重が加わることになる。
【0057】
引っ掻き試験後、サンプル83の表面の照度が300[lx]以上となるようにサンプル83の表面を蛍光灯で照らし、サンプル83の表面から50cm以上離れた複数の評価者が目視によりサンプル83の表面の傷を観察した。
【0058】
[試験結果]
各樹脂製品サンプルの表面に露出した中空無機粒子には、光沢感が見られた。また、中空無機粒子の脱落の有無、及び、傷視認性評価の試験結果を表3に示す。
【表3】
表3に示すように、厚さtが5μm且つ0.20aである試験区1の樹脂製品サンプルには、表面の研磨により中空無機粒子の脱落が見られた。一方、厚さが8μm以上且つ0.30a以上である試験区2~6の樹脂製品サンプルには、表面の研磨による中空無機粒子の脱落は見られなかった。
また、厚さtが1.29aである試験区6の樹脂製品サンプルには、表面に目立つ傷が見られた。厚さtが1.20aである試験区5の樹脂製品サンプルの表面には傷が見られたものの、傷は目立たないものであった。厚さtが0.88以下である試験区1~4の樹脂製品サンプルの表面には、見る角度によって見える程度の目立たない傷しか無く、傷は試験区5の樹脂製品サンプルよりも目立たないものであった。
【0059】
以上より、厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aである試験区2~5は、樹脂製品サンプルの表面の研磨による中空無機粒子の脱落が見られず、且つ、樹脂製品サンプルの表面に目立つ傷が見られなかった。試験区2~5の中では、試験区2~4の表面の傷は試験区5の表面の傷よりも目立たず、試験区5よりも試験区2~4の方が良好な結果となった。
また、試験区2~5の樹脂製品サンプルの表面は、塗膜の表面の凹凸によるつや消し感と、露出して研磨された中空無機粒子の外形による光沢感とを有し、セラミック調の良好な質感も有していた。
【0060】
尚、厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aである場合において、中空無機粒子のメジアン径aが9μm以下であると樹脂製品サンプルの表面のつや消し感が少なく、中空無機粒子のメジアン径aが51μm以上であると樹脂製品サンプルの表面の粗さが目立って触感も低下してしまう。中空無機粒子のメジアン径aが10~50μmであると、樹脂製品サンプルの表面にセラミック調の適度な質感、及び、触感が生じる。
【0061】
以上より、塗膜において中空無機粒子が無い部分の厚さtが8μm以上且つ0.3a~1.2aであって表面において中空無機粒子の一部が露出した樹脂製品は、傷が目立たない高品質の樹脂製品であることが確認された。
【0062】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、傷が目立たない高品質の樹脂製品、その製造方法、等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1…樹脂製品、2…半製品、
10…基材、10a…表面、10b…裏面、11…ベース層、12…着色層、
20…塗膜、20a…表面、25…塗液、25a…表面、
30…合成樹脂、31…中空無機粒子が無い部分、32…被覆部分、35…樹脂材料、
40…中空無機粒子、41…中空部、42…露出部分、
S1…基材形成工程、S2…塗布工程、S3…研磨工程。