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特開2023-22070積層フィルムおよびその製造方法ならびに燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022070
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】積層フィルムおよびその製造方法ならびに燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230207BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20230207BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20230207BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230207BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20230207BHJP
【FI】
B32B27/00 L
H01M8/10 101
H01M8/1004
C08J7/043 CEP
C08J7/043 CES
C08J7/043 CEX
C08J7/043 CFD
C08J7/043 CFG
B32B27/32 E
B32B7/06
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180367
(22)【出願日】2022-11-10
(62)【分割の表示】P 2021172791の分割
【原出願日】2020-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和之
(72)【発明者】
【氏名】西村 協
(72)【発明者】
【氏名】新村 工
(57)【要約】
【課題】離型層が環状オレフィン系樹脂で形成されていても、環境的な負荷の大きい成分を用いることなく、基材とは強固に密着し、かつ転写媒体としてのイオン交換樹脂含有層と円滑に離型できる積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層と、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層と、環状オレフィン系樹脂を含む第二層とをこの順序で積層して、離型フィルムを調製する。前記環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンと、エチレン、プロピレン、1-ブテンおよびイソブテンから選択される少なくとも一種の鎖状オレフィンとの共重合体であってもよい。第二層および第一層は、いずれもコーティングによって形成される層であってもよい。前記第二層の平均厚みは30μm以下であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層と、環状オレフィン系樹脂を含む第二層とがこの順序で積層された離型フィルムであって、
前記環状オレフィン系樹脂が、環状オレフィンと、エチレン、プロピレン、1-ブテンおよびイソブテンから選択される少なくとも一種の鎖状オレフィンとの共重合体である離型フィルム。
【請求項2】
酸変性オレフィン系樹脂が、酸変性ポリエチレン系樹脂である請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
環状オレフィンが、二環式オレフィンを含む請求項1または2記載の離型フィルム。
【請求項4】
二環式オレフィンの割合が、環状オレフィン全体に対して10モル%以上である請求項3記載の離型フィルム。
【請求項5】
環状オレフィン系樹脂中の環状オレフィン単位と鎖状オレフィン単位との割合(モル比)が、前者/後者(モル比)=1/99~99/1である請求項1~4のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項6】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度が、50~350℃である請求項1~5のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項7】
第二層の平均厚みが30μm以下である請求項1~6のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項8】
基材層が、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドおよびセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種を含む請求項1~7のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項9】
第一層が塩基性化合物をさらに含む請求項1~8のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項10】
基材層の上に、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層用液状組成物をコーティングして中間層を形成する第一層形成工程、得られた第一層の上に、環状オレフィン系樹脂を含む第二層用液状組成物をコーティングして第二層を形成する第二層形成工程を含む請求項1~9のいずれかに記載の離型フィルムの製造方法。
【請求項11】
第一層用液状組成物が水性エマルジョンである請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の離型フィルムの第二層に、イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂含有層が積層された積層フィルム。
【請求項13】
イオン交換樹脂が側鎖にスルホン酸基またはその塩を有するフッ素樹脂であり、かつイオン交換樹脂含有層が電解質膜および/または電極膜である請求項12記載の積層フィルム。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の離型フィルムの第二層の上にイオン交換樹脂含有層を積層するイオン交換樹脂含有層形成工程を含む請求項12または13記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項15】
ロール・ツー・ロール方式で製造される請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
請求項12または13記載の積層フィルムからイオン交換樹脂含有層以外の層を剥離する剥離工程を含む固体高分子型燃料電池の膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池の構成部材である膜電極接合体などを製造(製膜)す
る際に使用可能な積層フィルムおよびその製造方法ならびに前記積層フィルムを用いて前
記膜電極接合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池や水素供給装置では、白金触媒や白金担持カーボンが触媒として
使用されるが、平滑な触媒層を得るために、離型フィルム上に触媒インクを塗工、乾燥し
、転写する方法が知られている。
【0003】
詳しくは、固体高分子型燃料電池は、膜電極接合体(Membrane Electr
ode Assembly:MEA)と称される基本構成を有している。MEAは、イオ
ン交換膜である固体高分子電解質膜の両面に、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末を
主成分とする電極膜(触媒層または電極触媒膜)を積層し、得られた積層体を導電性の多
孔膜である燃料ガス供給層と空気供給層とでさらに挟み込んで得られる。このMEAにお
いて、電解質膜および電極膜のいずれにもイオン交換樹脂が含まれているが、電解質膜お
よび電極膜はキャスト法および/またはコーティング法などにより形成される。電解質膜
と電極膜との積層方法としては、通常、支持体にそれぞれ形成された両層を接触させて、
温度130~150℃程度(使用材料によっては150~200℃程度)、圧力1~10
MPa程度で加熱圧着することにより密着した後、支持体を剥離する方法が用いられる。
【0004】
そのため、支持体としては離型フィルムが用いられるが、電解質膜および電極膜を離型
フィルムの上にキャスト(コーティング)して形成する場合、離型フィルムの上に均一な
厚みで塗工するための塗工性(塗工適性)と、使用後に電解質膜及び電極膜から容易に剥
離するための離型性(剥離性)とを両立させるのは困難であった。すなわち、一般的に、
離型フィルムに対する濡れ性が高く、塗工性の高いコーティング液は、密着性が高くなっ
て離型性が低くなる傾向があった。特に、電極膜は、多量の触媒粒子を含むため、電極膜
を形成するバインダーとの比率によっては離型時に電極膜が凝集破壊し、離型フィルム上
に残存し易い。さらに、電解質膜および電極膜は、通常、水系の溶媒に分散されているが
、離型フィルムは、離型性が高く、水系溶媒をはじき易いため(濡れ性が低いため)、離
型フィルムの表面に、キャスト(コーティング)により、均一な厚みを有する電解質膜お
よび電極膜を形成するのも困難であった。
【0005】
さらに、離型フィルムには、電解質膜及び電極膜に対する適度な密着性、詳しくは、電
解質膜および電極膜作成後の後工程(搬送工程など)で剥がれない程度の密着性も要求さ
れる。
【0006】
また、離型フィルムは、取り扱い性や生産性を向上させるために、機械的特性の高い基
材フィルムと積層して使用されることも多いが、電解質膜および電極膜に対する離型性に
優れる離型フィルムでは、反応性基などを有さない汎用の基材フィルムに対する密着性を
向上させるのは比較的困難である。そのため、電解質膜および電極膜作成の過程(特に、
電解質膜および電極膜の両層を加熱接着した後、離型フィルムを剥離する工程)において
、離型フィルムの少なくとも一部(離型剤)が電解質膜および/または電極膜に転移し易
い。さらに、燃料電池製造用離型フィルムには、製造工程上、耐熱性が要求される上に、
生産性の点から、ロール・ツー・ロール方式で製造されるため、柔軟性も要求される。
【0007】
離型フィルムとしては、一般的には、フッ素系フィルムが汎用されているが、耐熱性、
離型性、非汚染性には優れているものの、高価である上に、使用後の廃棄焼却処理におい
て燃焼し難く、有毒ガスを発生し易い。さらに、弾性率が低く、乾燥や転写時の加熱によ
って離型フィルムが波打ったりするため、使用前に前処理が必要であったり、ロール・ツ
ー・ロール方式での製造が困難である。
【0008】
このように、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体の製造に利用される離型フィルムは
、各種の条件を充足する必要があるため、利用できる離型フィルムの選択は困難であった
。特に、離型性と塗工性という相反する特性を充足する必要があるため、汎用の離型フィ
ルムの利用が困難であったが、フッ素系フィルムに代わる離型フィルムとして、環状オレ
フィン系樹脂で形成された離型フィルムが提案されている。
【0009】
特開2010-234570号公報(特許文献1)には、シクロオレフィン系コポリマ
ーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる積層体が開示されて
おり、前記離型フィルムとして、シクロオレフィン系コポリマーをフィルム状に溶融押出
成形した離型フィルムや、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの基材の
フィルムの上にシクロオレフィン系コポリマー溶液をコーティングして形成された離型フ
ィルムも記載されている。また、実施例では、PETフィルムの上に、流延装置を用いて
、エチレンとノルボルネンとの共重合体を含む溶液をキャストし、厚さ0.5μmの離型
フィルムを形成している。
【0010】
特許第5300240号公報(特許文献2)には、プラスチック基材に積層され、塩素
含有樹脂で構成された第一層と、この第一層に積層され、環状オレフィン系樹脂で構成さ
れた第二層とで構成された積層フィルムが開示されている。この文献では、塩素含有樹脂
で構成された第一層を、プラスチック基材と第二層との間に介在させることにより、プラ
スチック基材と第二層との密着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010-234570号公報
【特許文献2】特許第5300240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の離型フィルムでも、電解質膜および電極膜に対する離型性は充分
ではなかった。特に、環状オレフィン系樹脂は、フッ素樹脂などと同様に、表面エネルギ
ーが低いために、基材の樹脂との密着または接着が困難であり、電解質膜および電極膜の
製造過程(特に、電解質膜および電極膜の両層を加熱接着した後、離型フィルムを剥離す
る工程)において、電解質膜および/または電極膜に転移する。さらに、環状オレフィン
系樹脂で形成された離型層を薄肉化するためには、押出成形と延伸処理とを組み合わせた
成形方法で製造するのは困難であり、コーティングによるキャスト法を採用せざるを得な
い。しかし、キャスト法で、密着性の高い離型層を形成するためには、密着させる対象の
表面を固化する必要がある。そのため、コーティングにより環状オレフィン系樹脂で離型
層を形成する場合は、密着表面に接着性樹脂を用いても、接触前の固化によって接着性が
低減し、密着性の高い積層体を製造するのは困難である。前述のように、環状オレフィン
系樹脂で形成された離型層は、要求される自身の機能から、密着性を高めるのが困難な層
であるため、尚更である。
【0013】
一方、特許文献2の積層フィルムでは、塩素含有樹脂を用いることにより、環状オレフ
ィン系樹脂で形成された層の密着性を向上させた稀有な例であるが、この積層フィルムは
有害なハロゲンを含むため、環境的な負荷が大きい。
【0014】
従って、本開示の目的は、離型層が環状オレフィン系樹脂で形成されていても、環境的
な負荷の大きい成分を用いることなく、基材とは強固に密着し、かつ転写媒体としてのイ
オン交換樹脂含有層と円滑に離型できる積層フィルムおよびその製造方法ならびに前記積
層フィルムを用いて前記膜電極接合体を製造する方法を提供することにある。
【0015】
本開示の他の目的は、離型層が薄肉であっても、イオン交換樹脂含有層との離型性も向
上でき、取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール(roll to roll)方式に
よって高い生産性で固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(電解質膜および/または電極
膜)を製造できる積層フィルムおよびその製造方法ならびに前記積層フィルムを用いて前
記膜電極接合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため、基材層と、酸変性オレフィン系樹脂を含む第
一層と、環状オレフィン系樹脂を含む第二層と、イオン交換樹脂を含むイオン樹脂含有交
換層とをこの順序で積層することにより、離型層としての第二層が環状オレフィン系樹脂
で形成されていても、環境的な負荷の大きい成分を用いることなく、基材とは強固に密着
し、かつ転写媒体としてのイオン交換樹脂含有層と円滑に離型できることを見出し、本発
明を完成した。
【0017】
すなわち、本開示の積層フィルムは、基材層と、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層
と、環状オレフィン系樹脂を含む第二層と、イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂含有層
とがこの順序で積層されている。前記酸変性オレフィン系樹脂は、酸変性ポリエチレン系
樹脂であってもよい。前記環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンと鎖状オレフィンと
の共重合体であってもよい。前記第二層の平均厚みは30μm以下であってもよい。前記
基材層は、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド
、ポリイミドおよびセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種を含んで
いてもよい。前記第一層は塩基性化合物をさらに含んでいてもよい。前記イオン交換樹脂
は、側鎖にスルホン酸基またはその塩を有するフッ素樹脂であってもよい。前記イオン交
換樹脂含有層は、電解質膜および/または電極膜であってもよい。
【0018】
本開示には、基材層の上に、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層用液状組成物をコー
ティングして中間層を形成する第一層形成工程、得られた第一層の上に、環状オレフィン
系樹脂を含む第二層用液状組成物をコーティングして第二層を形成する第二層形成工程、
得られた第二層の上にイオン交換樹脂含有層を積層するイオン交換樹脂含有層形成工程を
含む前記積層フィルムの製造方法も含まれる。前記第一層用液状組成物は水性エマルジョ
ンであってもよい。この製造方法は、ロール・ツー・ロール方式で製造してもよい。
【0019】
本開示には、前記積層フィルムからイオン交換樹脂含有層以外の層を剥離する剥離工程
を含む固体高分子型燃料電池の膜電極接合体の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本開示では、基材層と、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層と、環状オレフィン系樹
脂を含む第二層と、イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂含有層とをこの順序で積層され
ているため、離型層としての第二層が環状オレフィン系樹脂で形成されていても、環境的
な負荷の大きい成分を用いることなく、基材とは強固に密着し、かつ転写媒体としてのイ
オン交換樹脂含有層と円滑に離型できる。特に、離型層からイオン交換樹脂含有層を剥離
しても、イオン交換樹脂含有層に離型層の少なくとも一部が転移するのを抑制できる。さ
らに、イオン交換樹脂含有層との離型性も向上でき、取り扱い性に優れる。そのため、固
体高分子型燃料電池の膜電極接合体(電解質膜および/または電極膜)を製造するための
離型フィルムとして用いても、膜電極接合体側に離型剤が転移するのを抑制できる。また
、ロール・ツー・ロール方式によって高い生産性で固体高分子型燃料電池の膜電極接合体
(電解質膜および/または電極膜)を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第二層]
本開示の積層フィルムは、離型層としての第二層を含む。第二層は、環状オレフィン系
樹脂を含み、離型性に優れる。
【0022】
環状オレフィン系樹脂は、少なくとも繰り返し単位として環状オレフィン単位を含んで
いればよい。環状オレフィン単位を形成するための重合成分(モノマー)は、環内にエチ
レン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンであり、単環式オレフィン、二環式オレ
フィン、三環以上の多環式オレフィンなどに分類できる。
【0023】
単環式オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン
、シクロオクテンなどの環状C4-12シクロオレフィン類などが挙げられる。
【0024】
二環式オレフィンとしては、例えば、2-ノルボルネン;5-メチル-2-ノルボルネ
ン、5,5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネンなどのC1―
アルキル基を有するノルボルネン類;5-エチリデン-2-ノルボルネンなどのアルケ
ニル基を有するノルボルネン類;5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-メチ
ル-5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネンなどのアルコキシカルボニル基を有する
ノルボルネン類;5-シアノ-2-ノルボルネンなどのシアノ基を有するノルボルネン類
;5-フェニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-5-メチル-2-ノルボルネンなど
のアリール基を有するノルボルネン類;オクタリン;6-エチル-オクタヒドロナフタレ
ンなどのC1-2アルキル基を有するオクタリン類などが挙げられる。
【0025】
多環式オレフィンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン;2,3-ジヒドロジシク
ロペンタジエン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジ
メタノシクロペンタジエノナフタレン、メタノオクタヒドロシクロペンタジエノナフタレ
ンなどの誘導体;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデンなどとの付加物;シクロペ
ンタジエンの3~4量体などが挙げられる。
【0026】
これらの環状オレフィンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの
環状オレフィンのうち、積層フィルムの離型性と柔軟性とのバランスに優れる点から、二
環式オレフィンが好ましい。環状オレフィン(環状オレフィン単位を形成するための環状
オレフィン)全体に対して二環式オレフィン(特に、ノルボルネン類)の割合は10モル
%以上であってもよく、例えば30モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ま
しくは80モル%以上(特に90モル%以上)であり、二環式オレフィン単独(100モ
ル%)であってもよい。特に、三環以上の多環式オレフィンの割合が大きくなると、ロー
ル・ツー・ロール方式での製造に用いることが困難となる。
【0027】
代表的な二環式オレフィンとしては、例えば、置換基を有していてもよいノルボルネン
(2-ノルボルネン)、置換基を有していてもよいオクタリン(オクタヒドロナフタレン
)などが例示できる。前記置換基としては、メチル基、エチル基、アルケニル基、アリー
ル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシ
ル基、シアノ基、アミド基、ハロゲン原子などが挙げられる。これらの置換基は、単独で
または二種以上組み合わせてもよい。これらの置換基のうち、積層フィルムの離型性を損
なわない点から、メチル基やエチル基などの非極性基が好ましい。これらの二環式オレフ
ィンのうち、ノルボルネンやC1-2アルキル基を有するノルボルネンなどのノルボルネ
ン類(特に、ノルボルネン)が特に好ましい。
【0028】
環状オレフィン系樹脂は、少なくとも繰り返し単位として環状オレフィン単位を含んで
いればよいが、基材層または中間層との密着性や機械的特性の点から、環状オレフィン系
共重合体(シクロオレフィンコポリマー)が好ましい。環状オレフィン系共重合体は、異
なる種類の環状オレフィン単位を含む環状オレフィン単位の共重合体であってもよく、環
状オレフィン単位と他の共重合性単位との共重合体であってもよい。これらの共重合体の
うち、前記密着性および機械的特性のバランスに優れる点から、環状オレフィン単位と他
の共重合性単位との共重合体が好ましく、繰り返し単位として環状オレフィン単位および
鎖状オレフィン単位を含む共重合体が特に好ましい。
【0029】
鎖状オレフィン単位は、環状オレフィンの開環により生じた鎖状オレフィン単位であっ
てもよいが、環状オレフィン単位と鎖状オレフィン単位との割合を制御し易い点から、鎖
状オレフィンを重合成分とする単位が好ましい。
【0030】
鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、
1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、
1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン
などの鎖状C2-12オレフィン類などが挙げられる。これらの鎖状オレフィンは、単独
でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィンのうち、α-鎖状C
2-10オレフィン類が好ましく、α-鎖状C2-8オレフィン類が特に好ましい。
【0031】
環状オレフィン単位と鎖状オレフィン単位との割合(モル比)は、例えば、前者/後者
=1/99~99/1程度の範囲から選択でき、例えば、前者/後者=10/90~98
/2、好ましくは20/80~97/3、さらに好ましくは30/70~95/5(特に
40/60~90/10)程度である。環状オレフィン単位の割合が少なすぎると、耐熱
性が低下し、多すぎると、機械的特性も低下し易い。
【0032】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン単位および鎖状オレフィン単位以外に他の共
重合性単位を含んでいてもよい。他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性
モノマー)としては、例えば、α-鎖状C2-3オレフィン(エチレン、プロピレンなど
)、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン
系単量体(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、(メタ)アクリル系単量体[例えば
、(メタ)アクリル酸、またはこれらの誘導体((メタ)アクリル酸エステルなど)など
]などが挙げられる。前記共重合性モノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用
できる。
【0033】
他の共重合性単位の割合は、積層フィルムの離型性を損なわない範囲が好ましく、オレ
フィン単位の合計(例えば、環状オレフィン単位および鎖状オレフィン単位の合計)に対
して、例えば10モル%以下、好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下
である。
【0034】
環状オレフィン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(G
PC)において(溶媒:トルエン)、ポリスチレン換算で、例えば10,000~100
,000、好ましくは20,000~80,000程度である。分子量が小さすぎると、
製膜性が低下し易く、大きすぎると、粘度が高くなるため、取り扱い性が低下し易い。
【0035】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121-1087に
準拠した方法において、例えば50~350℃(例えば80~330℃)、好ましくは1
00~320℃、さらに好ましくは120~310℃(特に130~300℃)程度であ
る。ガラス転移温度が低すぎると、耐熱性が低いため、高温での処理が困難となり易く、
高すぎると、生産が困難となる虞がある。なお、本明細書および特許請求の範囲において
、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。例えば、示差走査
熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC6200」)を用い、JIS
K7121に準じ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定してもよい。
【0036】
環状オレフィン系樹脂は、付加重合により得られた樹脂であってもよく、開環重合(開
環メタセシス重合など)により得られた樹脂であってもよい。また、開環メタセシス重合
により得られた重合体は、水素添加された水添樹脂であってもよい。環状オレフィン系樹
脂の重合方法は、慣用の方法、例えば、メタセシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合
、チーグラー型触媒を用いた付加重合、メタロセン系触媒を用いた付加重合(通常、メタ
セシス重合触媒を用いた開環メタセシス重合)などを利用できる。具体的な重合方法とし
ては、例えば、特開2004-197442号公報、特開2007-119660号公報
、特開2008-255341号公報、Macromolecules, 43, 4527(2010)、Polyhedron,
24, 1269(2005), J. Appl. Polym. Sci, 128(1), 216(2013), Polymer Journal, 43, 331
(2011)に記載の方法などを利用できる。また、重合に用いる触媒も、慣用の触媒、例えば
、Macromolecules, 31, 3184(1988)、Journal of Organometallic Chemistry, 2006年, 6
91巻, 193頁に記載の方法で合成された触媒などを利用できる。
【0037】
第二層(離型層)は、他の樹脂や慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の樹脂と
しては、例えば、鎖状オレフィン系樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)などが挙
げられる。慣用の添加剤としては、例えば、充填剤、滑剤(ワックス、脂肪酸エステル、
脂肪酸アミドなど)、帯電防止剤、界面活性剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、光安定
剤など)、難燃剤、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤などが含まれていてもよい。また、表面
平滑性を損なわない範囲で、有機または無機粒子(特にゼオライトなどのアンチブロッキ
ング剤)を含んでいてもよい。
【0038】
第二層中の環状オレフィン系樹脂の割合は、例えば80質量%以上、好ましくは90質
量%以上、さらに好ましくは95質量%以上(例えば95~100質量%)であってもよ
く、100質量%(環状オレフィン系樹脂のみ)であってもよい。
【0039】
第二層の平均厚みは、30μm以下であってもよく、例えば0.1~10μm(例えば
0.1~5μm)、好ましくは0.15~5μm(例えば0.2~3μm)、さらに好ま
しくは0.3~2μm(特に0.5~1μm)程度であってもよい。第二層が薄肉である
と、取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール方式などに適するとともに、経済性も向上
する。なお、平均厚みは、第二層の塗工量(単位面積当たりの固形分重量)および密度に
基づいて算出できる。
【0040】
第二層は、コーティングによって平滑な表面を形成してもよく、例えば、表面において
、JIS B0610に準拠した算術平均粗さ(Ra)は1μm以下(例えば1nm~1
μm)であり、例えば1~800nm、好ましくは1~500nm、さらに好ましくは1
~300nm(特に1~200nm)程度であってもよい。Raが大きすぎると、イオン
交換樹脂含有層に対する適度な密着性や基材層に対する密着性が低下する虞がある。
【0041】
第二層は、基材層の少なくとも一方の面側に形成されていればよく、基材層の一方の面
側に形成されていてもよく、基材層の両面側に形成されていてもよい。
【0042】
[第一層]
本開示の積層フィルムは、第一層を含み、前記第二層と後述する基材層との間に介在し
て積層フィルムの層間の密着性を向上できる。本開示では、第一層を介在させることによ
り、易接着層を有していない基材層や表面処理されていない基材層であっても、離型性の
高い第二層を基材層に強固に固定または接着できる。そのため、離型性と自身の安定性(
基材層と第二層との密着性)とを高度に両立できるため、離型性の高いフッ素樹脂の主鎖
と、離型性の低いスルホン酸基を含む側鎖とを有する特異な構造を有するイオン交換樹脂
を含むイオン交換樹脂含有層に対しても、優れた離型性(必要なときに容易に剥離でき、
不要なときに剥離を抑制できる特性)を示し、自身の安定性も向上できる。さらに、この
ような第一層は、接着成分として、酸変性オレフィン系樹脂を含むため、環境的な負荷も
小さい。
【0043】
酸変性オレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プ
ロピレン、ブテン、メチルペンテン-1などのα-C2-12オレフィンの単独または共
重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が
好ましい。
【0044】
ポリエチレン系樹脂は、エチレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましくは8
0モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含むオレフィン系樹脂
であればよく、エチレン単位以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。
【0045】
他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性モノマー)としては、例えば、
プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-
ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-鎖状C3-12オレフィン;スチレン
などの芳香族ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪族ビニルエステル系モ
ノマー;ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマー;マレイン酸ジメチル、マレイ
ン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸ジC1-10アルキルエステル;(
メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの
(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-
10アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エス
テル;(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。これら
の共重合性モノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、
(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸C1-12アルキルエステルが特に
好ましい。エチレン単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とのモル比は、前者/後者=
50/50~100/0、好ましくは60/40~99/1、さらに好ましくは70/3
0~95/5(特に75/25~90/10)程度である。
【0046】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体
、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-(メ
タ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0047】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましく
は80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含むオレフィン系
樹脂であればよく、プロピレン単位以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。
【0048】
他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性モノマー)としては、前記ポリ
エチレン系樹脂の共重合性モノマーとして例示されたモノマーのうち、プロピレンの代わ
りにエチレンを使用できる以外は同一のモノマーを利用できる。好ましい態様も同一であ
る。
【0049】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重
合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ブテン-エチレン共重合体などが挙げ
られる。
【0050】
これらのオレフィン系樹脂のうち、接着性に優れる点から、ポリエチレン系樹脂が特に
好ましい。
【0051】
酸変性オレフィン系樹脂は、カルボン酸で変性されたオレフィン系樹脂であればよく、
詳しくは、カルボキシル基および/または酸無水物基を有するオレフィン系樹脂であれば
よい。酸による変性方法としては、オレフィン系樹脂の骨格にカルボキシル基および/ま
たは酸無水物基が導入されればよく、特に限定されないが、機械的特性などの点から、カ
ルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体を共重合により導入する方法が好
ましい。共重合の形態としては、ランダム共重合、ブロック共重合などであってもよいが
、表層および基材層との接着性を向上できる点から、グラフト共重合が好ましい。
【0052】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体としては、例えば、不飽和モ
ノカルボン酸[例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ
酸など]、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物[例えば、(無水)マレイン酸、フマル
酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸、メサコン酸など]などが挙げられる。
これらの単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のう
ち、接着性を向上できる点から(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、(無水
)マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が
特に好ましい。
【0053】
前記単量体の割合は、オレフィン系樹脂100質量部に対して0.01~30質量部程
度の範囲から選択でき、例えば0.1~20質量部、好ましくは0.2~10質量部、さ
らに好ましくは0.3~8質量部(特に0.5~5質量部)程度である。前記単量体の割
合が少なすぎると、基材層との接着性が低下する虞があり、逆に多すぎると、第二層との
接着性が低下する虞がある。
【0054】
酸変性オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ
(GPC)において、ポリスチレン換算で、例えば10,000~150,000、好ま
しくは30,000~100,000、さらに好ましくは40,000~80,000程度
である。分子量が小さすぎると、製膜性が低下し易く、大きすぎると、粘度が高くなるた
め、取り扱い性が低下し易い。
【0055】
第一層は、他の樹脂成分をさらに含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、
鎖状オレフィン系樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)、アクリル系樹脂、ポリア
ミド系樹脂、ポリエステル系樹脂(熱可塑性共重合ポリエステルなど)などの熱可塑性樹
脂;イソシアネート系化合物、イミノ基含有ポリマー(ポリエチレンイミンなど)などの
反応性接着成分;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキ
レングリコールなどの水溶性高分子;脂肪酸酸エステル(ステアリン酸エステルなど)、
脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなど)などの高級
脂肪酸類などが挙げられる。他の樹脂成分の割合は、酸変性オレフィン系樹脂100質量
部に対して30質量部以下であってもよく、例えば0.5~20質量部、好ましくは1~
15質量部、さらに好ましくは3~10質量部程度である。
【0056】
第一層は、塩基性化合物をさらに含んでいてもよく、塩基性化合物は、前記酸変性オレ
フィン系樹脂と塩を形成してもよい。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;エチ
ルアミン、プロピルアミン、イソブチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ト
リエチルアミンなどの脂肪族アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメ
チルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン;モルホリン、
ピリジンなどの複素環式アミンなどが挙げられる。塩基性化合物の割合は、酸変性オレフ
ィン系樹脂100質量部に対して20質量部以下であってもよく、例えば0.01~10
質量部、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部程度である
【0057】
第一層は、第二層の項で例示された慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。第一層は
、塩素含有樹脂を含んでいなくても密着性が高いため、塩素含有樹脂を含まないのが好ま
しく、特に、ハロゲン化合物またはハロゲン元素を実質的に含まないのが好ましく、全く
含まないのがさらに好ましい。
【0058】
第一層中の酸変性オレフィン系樹脂の割合は、例えば70質量%以上、好ましくは80
質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(例えば90~98質量%)であってもよ
く、100質量%(酸変性オレフィン系樹脂のみ)であってもよい。
【0059】
第一層の平均厚みは、第一層の平均厚みは20μm以下であってもよく、例えば0.0
1~10μm(例えば0.03~5μm)、好ましくは0.05~3μm(例えば0.1
~2μm)、さらに好ましくは0.15~1μm(特に0.2~0.5μm)程度であっ
てもよい。第二層が薄肉であると、取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール方式などに
適するとともに、経済性も向上する。なお、平均厚みは、第一層の塗工量(単位面積当た
りの固形分重量)および密度に基づいて算出できる。
【0060】
[基材層]
本開示の積層フィルムは、基材層をさらに含む。基材層は、例えば、燃料電池の製造工
程において、離型フィルムとして利用される積層フィルムの寸法安定性を向上でき、特に
、ロール・ツー・ロール方式において張力が負荷されても、伸びを抑制でき、さらに乾燥
工程や加熱圧着処理などによって高温に晒されても、高い寸法安定性を維持し、電解質膜
や電極膜などのイオン交換樹脂含有層との剥離を抑制できる点から、耐熱性および寸法安
定性の高い材質で形成されているのが好ましく、具体的には、150℃における弾性率が
100~1000MPaの合成樹脂で形成されていてもよい。前記弾性率は、例えば、1
20~1000MPa、好ましくは150~1000MPa、さらに好ましくは200~
1000MPa程度であってもよい。弾性率が小さすぎると、積層フィルムの寸法安定性
が低下し、ロール・ツー・ロール方式での製造において、離型層としての第二層と、イオ
ン交換樹脂含有層との剥離が発生し、燃料電池の生産性が低下する虞がある。
【0061】
このような合成樹脂としては、例えば、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が使用でき
るが、ロール・ツー・ロール方式で製造できる柔軟性を有する点から、熱可塑性樹脂が好
ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン系樹脂、環状
ポリオレフィンなど)、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポ
リイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、セ
ルロース誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースエステルなど)などが挙げられ
る。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。本発明で
は、中間層が基材層に対する密着性に優れるため、これらの熱可塑性樹脂は、密着性を向
上させるための反応性基や極性基(反応性基で形成された側鎖など)を実質的に有さない
のが好ましい。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系
重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドおよびセルロース誘導体からなる群より
選択された少なくとも1種(特に、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミドおよびセ
ルロースエステルからなる群より選択された少なくとも1種)が好ましく、耐熱性と柔軟
性とのバランスに優れる点から、ポリエステル、ポリイミドが特に好ましい。さらに、ポ
リエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレー
ト(PEN)などのポリC2-4アルキレンアリレート系樹脂が好ましく使用できる。ポ
リイミドとしては、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどが
挙げられる。
【0062】
基材層は、積層フィルムのフィルム強度を向上させる点から、延伸フィルムで形成され
ていてもよい。延伸は、一軸延伸であってもよいが、フィルム強度を向上できる点から、
二軸延伸が好ましい。延伸倍率は、縦及び横方向において、それぞれ、例えば1.5倍以
上(例えば1.5~6倍)であってもよく、好ましくは2~5倍、さらに好ましくは3~
4倍程度である。延伸倍率が低すぎると、フィルム強度が不十分となり易い。
【0063】
基材層も、前記第二層の項で例示された慣用の添加剤を含んでいてもよい。基材層中の
合成樹脂の割合は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましく
は95質量%以上(例えば95~100質量%)であってもよい。
【0064】
基材層の表面平滑性は、コーティングにより第一層および第二層を形成できればよく、
特に限定されないが、JIS B0601に準拠した算術平均粗さRaは1μm以下であ
ってもよく、好ましくは100nm以下(例えば10~100nm)程度である。
【0065】
基材層の表面は、第一層との密着性を向上させるために、表面処理に供してもよい。表
面処理としては、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、
オゾンや紫外線照射処理などが挙げられる。これらのうち、コロナ放電処理が好ましい。
【0066】
基材層は、慣用の接着性樹脂で形成された易接着層(例えば、基材層がポリエステル樹
脂である場合、低分子量のポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、非晶性ポリエス
テル樹脂などの接着性樹脂で形成された易接着層など)を有していてもよい。本開示では
、第一層の密着性が高いため、基材層は、易接着層を有さない基材層であってもよい。そ
のため、本開示では、易接着層を有さない基材層を用いることにより、積層フィルムの層
構造を簡略化でき、薄肉化することもできる。
【0067】
基材層の平均厚みは、例えば1~300μm、好ましくは5~200μm、さらに好ま
しくは10~100μm(特に20~80μm)程度である。基材層の厚みが大きすぎる
と、ロール・ツー・ロール方式での生産が困難となり、薄すぎると、寸法安定性、ロール
・ツー・ロール方式での搬送性が低下し、シワなどが混入する虞がある。
【0068】
[イオン交換樹脂含有層]
本開示の積層フィルムは、前記第二層の上に積層され、かつイオン交換樹脂を含むイオ
ン交換樹脂含有層を含む。イオン交換樹脂含有層は、前記第一層を介して基材層の上に形
成された第二層を離型層として転写される転写媒体としてのイオン交換樹脂含有層であっ
てもよい。すなわち、基材層に第一層を介して第二層が積層した離型フィルムによって転
写される転写媒体であってもよい。
【0069】
前記イオン交換樹脂としては、燃料電池で利用される慣用のイオン交換樹脂を利用でき
るが、なかでも、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂などの陽イオン交換
樹脂が好ましく、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基また
はこれらの塩などを有するイオン交換樹脂(詳しくは、電解質機能を有する電解質基とし
て、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基またはこれらの塩などが導
入されたイオン交換樹脂)などが挙げられ、スルホン酸基またはその塩を有するイオン交
換樹脂(電解質基としてスルホン酸基またはその塩が導入されたイオン交換樹脂)が特に
好ましい。
【0070】
前記スルホン酸基を有するイオン交換樹脂としては、スルホン酸基またはその塩を有す
る各種の樹脂を使用できる。各種の樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレ
ンなどのポリオレフィン、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアセタール、
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエ
ーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ
スルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂などが挙げら
れる。
【0071】
前記スルホン酸基またはその塩を有するイオン交換樹脂のなかでも、スルホン酸基また
はその塩を有するフッ素樹脂、架橋ポリスチレンのスルホン化物などが好ましく、スルホ
ン酸基またはその塩を有するポリスチレン-グラフト-ポリエチレンテトラフルオロエチ
レン共重合体、ポリスチレン-グラフト-ポリテトラフルオロエチレン共重合体などであ
ってもよい。なかでも、離型性などの点から、スルホン酸基またはその塩を有するフッ素
樹脂(少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロ炭化水素樹脂など)
が特に好ましい。特に、固体高分子型燃料電池では、側鎖にスルホン酸基(または-CF
CFSOH基)またはその塩を有するフッ素樹脂、例えば、[2-(2-スルホテ
トラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフル
オロエチレンとの共重合体(ブロック共重合体など)などが好ましく利用される。
【0072】
イオン交換樹脂のイオン交換容量は0.1meq/g以上であってもよく、例えば0.
1~2.0meq/g、好ましくは0.2~1.8meq/g、さらに好ましくは0.3
~1.5meq/g(特に0.5~1.5meq/g)程度であってもよい。
【0073】
このようなイオン交換樹脂としては、デュポン社製「登録商標:ナフィオン(Nafi
on)」などの市販品を利用できる。なお、イオン交換樹脂としては、特開2010-2
34570号公報に記載のイオン交換樹脂などを用いてもよい。
【0074】
イオン交換樹脂含有層は、前記イオン交換樹脂で形成された電解質膜、前記イオン交換
樹脂および触媒粒子を含む電極膜であってもよい。特に、固体高分子型燃料電池を製造す
るための積層フィルムである場合、基材層の上に第一層および第二層(離型層)を積層し
た積層体を離型フィルムとして、離型層の上に、イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂含
有層(電解質膜、電極膜、膜電極接合体)を密着させた積層フィルムであってもよい。
【0075】
電極膜(触媒層または電極触媒膜)において、触媒粒子は触媒作用を有する金属成分(
特に、白金(Pt)などの貴金属単体または貴金属を含む合金)を含んでおり、通常、カ
ソード電極用電極膜では白金を含み、アノード電極用電極膜では白金-ルテニウム合金を
含む。さらに、触媒粒子は、通常、前記金属成分を、導電材料(カーボンブラックなどの
炭素材料など)に担持させた複合粒子として使用される。電極膜において、イオン交換樹
脂の割合は、例えば、触媒粒子100質量部に対して、例えば5~300質量部、好まし
くは10~250質量部、さらに好ましくは20~200質量部程度である。
【0076】
イオン交換樹脂含有層も、第二層の項で例示された慣用の添加剤を含んでいてもよく、
例えば、無機粒子や無機繊維などの無機材料(炭素質材料、ガラス、セラミックスなど)
を含んでいてもよい。
【0077】
第二層が基材層の両面に形成されている場合、イオン交換樹脂含有層は、第二層(離型
層)の少なくとも一方の面に形成されていればよく、離型層の両面に形成されていてもよ
く、第二層の一方の面のみに形成されていてもよい。
【0078】
イオン交換樹脂含有層の平均厚みは、例えば1~500μm、好ましくは1.5~30
0μm、さらに好ましくは2~100μm、より好ましくは3~50μm、最も好ましく
は5~30μm程度である。
【0079】
電解質膜の平均厚みは、例えば1~500μm、好ましくは2~300μm、さらに好
ましくは3~100μm、より好ましくは5~50μm、最も好ましくは8~30μm程
度である。
【0080】
電極膜の平均厚みは、例えば1~100μm、好ましくは2~80μm、さらに好まし
くは2~50μm、より好ましくは3~30μm程度である。
【0081】
[積層フィルムの特性]
本開示の積層フィルムは、基材層の少なくとも一方の面に、第一層を介在させて第二層
が積層されているが、基材層の上に第二層をコーティングにより形成できるため、薄肉で
均一な第二層を形成できる。
【0082】
本開示の積層フィルムは、離型性に優れるため、イオン交換樹脂含有層に対して適度な
密着性と離型性とを有するため、固体高分子型燃料電池や水素供給装置の膜電極接合体(
MEA)を製造できる積層フィルムに利用でき、イオン交換樹脂を含む電解質膜および/
または電極膜をその上に積層し、MEAを製造した後、MEAから剥離するためのフィル
ムに好ましく利用できる。
【0083】
[積層フィルムの製造方法]
本開示の積層フィルムは、基材層の上に、酸変性オレフィン系樹脂を含む第一層用液状
組成物をコーティング(または流延)して第一層を形成する第一層形成工程、得られた第
一層の上に、環状オレフィン系樹脂を含む第二層用液状組成物をコーティングして第二層
を形成する第二層形成工程、得られた第二層の上にイオン交換樹脂含有層を積層するイオ
ン交換樹脂含有層形成工程を経て得られる。
【0084】
(第一層形成工程)
第一層形成工程において、第一層用液状組成物(コーティング剤)は、前述の第一層を
形成するための成分に加えて、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は疎水性溶媒であってもよ
いが、取り扱い性などの点から、水性溶媒が好ましい。溶媒が水性溶媒である場合、第一
層用液状組成物は、水性エマルジョンであってもよい。
【0085】
水性溶媒としては、例えば、水;エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロ
ヘキサノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類などが挙げられる。これらの
水性溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、水を主成分
とする溶媒が好ましく、水とC1-4アルカノールとの混合溶媒が特に好ましい。
【0086】
水性溶媒が水とC1-4アルカノール(特に、イソプロパノールなどのC2-3アルカ
ノール)との混合溶媒である場合、C1-4アルカノールの割合は、水100質量部に対
して100質量部以下であってもよく、例えば5~80質量部、好ましくは10~50質
量部、さらに好ましくは12~40質量部程度である。
【0087】
第一層用液状組成物中における固形分濃度(有効成分濃度)は、例えば1~50質量%
、好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%(特に15~25質量
%)程度である。水性溶媒の割合は、酸変性オレフィン系樹脂100質量部に対して、例
えば100~1000質量部程度の範囲から選択できる。
【0088】
コーティング方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコータ
ー、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコー
ター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター法、スプレー法、スピナー
法などが挙げられる。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法、グラ
ビアコーター法などが汎用される。
【0089】
乾燥は、自然乾燥であってもよいが、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させても
よい。乾燥温度は、50℃以上であってもよく、例えば50~200℃、好ましくは60
~150℃、さらに好ましくは80~120℃程度である。
【0090】
(第二層形成工程)
第二層形成工程において、第二層用液状組成物(コーティング剤)は、前述の第二層を
形成するための成分に加えて、溶媒を含んでいてもよい。
【0091】
溶媒としては、例えば、水;エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキ
サノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン
、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオ
キサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブな
どのセロソルブ類;セロソルブアセテート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど
のエステル類;ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素
類;トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタンやジクロロエタンなど
のハロゲン化炭化水素類;ソルベントナフサなどの芳香族系油などが挙げられる。これら
の溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、取り扱い性、
溶解性に優れる点から、トルエンなどの芳香族炭化水素類が好ましい。
【0092】
第二層用液状組成物中における固形分濃度(有効成分濃度)は、例えば1~50質量%
、好ましくは2~30質量%、さらに好ましくは3~20質量%(特に5~15質量%)
程度である。水性溶媒の割合は、環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、例えば3
00~2000質量部、好ましくは500~1500質量部、さらに好ましくは800~
1200質量部程度である。
【0093】
コーティング方法および乾燥方法は、好ましい態様も含め、前記第一層形成工程のコー
ティング方法および乾燥方法と同一である。
【0094】
本開示では、柔軟性に優れた基材層を選択することにより、積層フィルムの製造をロー
ル・ツー・ロール方式で行うことができ、生産性を向上できる。
【0095】
(イオン交換樹脂含有層形成工程)
イオン交換樹脂含有層形成工程において、イオン交換樹脂含有層の積層方法は、通常、
イオン交換樹脂含有層用液状組成物をコーティング方法が利用される。
【0096】
イオン交換樹脂含有層をコーティング(または流延)により形成するために、イオン交
換樹脂含有層用液状組成物は、イオン交換樹脂(またはイオン交換樹脂および触媒粒子)
を溶媒に溶解または分散した溶液または分散液の状態でコーティングに供される。
【0097】
溶媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノー
ル、1-ブタノールなどのC1-4アルカノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエ
チルケトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、スルホキシド
類(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種
以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、取り扱い性などの点から、水や、水
とC1-4アルカノールとの混合溶媒が汎用される。溶液または分散液中の溶質または固
形分(イオン交換樹脂、触媒粒子)の濃度は、例えば1~80質量%、好ましくは2~6
0質量%、さらに好ましくは3~50質量%程度である。
【0098】
コーティング方法としては、前記第一層形成工程で例示された慣用の方法が挙げられる
。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法などが汎用される。
【0099】
イオン交換樹脂(および触媒粒子)を含む溶液をコーティングした後、加熱して乾燥す
ることにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、50℃以上であってもよく、電解質
膜では、例えば80~200℃(特に100~150℃)程度であり、電極膜では、例え
ば50~150℃(特に60~120℃)程度である。
【0100】
[膜電極接合体の製造方法]
本開示の積層フィルムを膜電極接合体の製造で用いる場合、例えば、第1の離型フィル
ム(第一層を介して基材層の上に第二層を積層した離型フィルム)の離型層(第二層)の
上に電解質膜をコーティングにより積層し、第1の離型フィルムの上に電解質膜が積層さ
れた第1の積層フィルムを製造し、かつ第2の離型フィルムの離型層の上に電極膜をコー
ティングにより積層し、第2の離型フィルムの上に電極膜が積層された第2の積層フィル
ムを製造してもよい。
【0101】
得られた第1および第2の積層フィルムは、通常、密着工程に供されるが、連続的に製
造する場合は、密着工程の前に、イオン交換樹脂含有層形成工程において、密着工程が行
われる場所に搬送される。
【0102】
本開示では、前記積層フィルムが柔軟性に優れるため、このような搬送を伴うイオン交
換樹脂含有層形成工程をロール・ツー・ロール方式で行うことができ、生産性を向上でき
る。さらに、第二層(離型層)と基材層との組み合わせにより、積層フィルムの寸法安定
性にも優れるため、ロール・ツー・ロール方式でも、積層フィルムの張力による伸びが抑
制される。そのため、イオン交換樹脂含有層が剥離することなく、ロール状に巻き取るこ
とができ、生産性を向上できる。
【0103】
得られた積層フィルムは、密着工程に供してもよい。密着工程では、第1および第2の
離型フィルムの離型層の上にそれぞれ積層された電解質膜と電極膜とを密着させて膜電極
接合体が調製される。
【0104】
電解質膜と電極膜との密着は、通常、加熱圧着により密着される。加熱温度は、例えば
、80~250℃、好ましくは90~230℃、さらに好ましくは100~200℃程度
である。圧力は、例えば、0.1~20MPa、好ましくは0.2~15MPa、さらに
好ましくは0.3~10MPa程度である。
【0105】
密着工程で密着した複合体(電解質層と電極膜とが密着した積層体)は、積層フィルム
からイオン交換樹脂含有層(電解質膜および/または電極膜)以外の層(第1および第2
の離型フィルム)を剥離する剥離工程に供され、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体が
得られる。本開示では、前述のイオン交換樹脂含有層形成工程における乾燥処理や加熱圧
着処理を経た積層体であっても適度な剥離強度を有するため、イオン交換樹脂含有層形成
工程における積層工程や密着工程では離型フィルムとイオン交換樹脂含有層とが剥離せず
に、剥離工程では容易に離型フィルムを剥離でき、作業性を向上できる。
【0106】
さらに、第1の離型フィルムを剥離した電解質膜に対して、前記密着工程および剥離工
程と同様に、さらに第3の離型フィルムの離型層の上に電極膜(第2の離型フィルムがア
ノード電極用電極膜である場合、カソード電極用電極膜)が積層された積層体の電極膜を
密着させて離型フィルムを剥離し、慣用の方法で、各電極膜の上に燃料ガス供給層および
空気供給層をそれぞれ積層することにより膜電極接合体(MEA)が得られる。
【0107】
また、電解質膜の両面に、第1の電極膜を含む第1の積層フィルムと、第2の電極膜を
含む第2の積層フィルムとを、電解質膜と電極膜とを接触させてそれぞれ密着させた後、
離型フィルムを剥離し、電解質膜の両面に電極膜が積層されたMEAを製造してもよい。
【0108】
なお、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴と
も組み合わせることができる。
【実施例0109】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に
よって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた積層フィルムの特性は、以
下の方法で評価した。
【0110】
[使用した原料]
酸変性オレフィン系樹脂:ユニチカ(株)製「アローベースSE-1205J2」
ポリエステル系コート剤:ポリエステル樹脂水分散体、高松油脂(株)製「ペスレジン
A-647GEX」
水酸基含有ポリオレフィン系コート剤:ポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマー、三
菱化学(株)製「ポリテールH」
UV硬化系コート剤:日本化工塗料(株)製「FA-3291」
環状オレフィン系共重合体A:ポリプラスチックス(株)製「TOPAS(登録商標)
6013」、ガラス転移温度138℃
【0111】
環状オレフィン系共重合体B:下記方法で合成した共重合体
(環状オレフィン系共重合体Bの合成法)
乾燥した300mLの2口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、ジメチルア二リウム
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート8.1mg、トルエン235.7mL、
7.5モル/Lの濃度でノルボルネンを含有するトルエン溶液7.0mL、1-オクテン
6.7mL、トリイソブチルアルミニウム2mLを添加して、反応溶液を25℃に保持し
た。この溶液とは別個に、グローブボックス中で、触媒として、92.9mgの(t-ブ
チルアミド)ジメチル-9-フルオレニルシランチタンジメチル[(t-BuNSiMe
2Flu)TiMe2]をフラスコに入れ、5mLのトルエンに溶解させた。この触媒溶
液2mLを300mLフラスコに加えて重合を開始した。2分後に2mLのメタノールを
添加して反応を終了させた。次いで、得られた反応混合物を塩酸で酸性に調整した大量の
メタノール中に放出して沈殿物を析出させ、濾別、洗浄後、乾燥して、2-ノルボルネン
・1-オクテン共重合体(環状オレフィン系共重合体B)を6.5g得た。得られた共重
合体の数平均分子量Mnは73,200、ガラス転移温度Tgは265℃、動的貯蔵弾性
率(E’)は-20℃付近に転移点を有し、2-ノルボルネンと1-オクテンとの組成(
モル比)は、前者/後者=85/15であった。
【0112】
環状オレフィン系共重合体C:下記方法で合成した共重合体
(環状オレフィン系共重合体Cの合成法)
1-オクテンを1-ヘキセンに変更し、配合量を4.8mLに変更する以外は環状オレ
フィン系共重合体Bの合成法と同様にして、2-ノルボルネン・1-ヘキセン共重合体(
環状オレフィン共重合体C)を4.3g得た。得られた共重合体のMnは31600、T
gは300℃、動的貯蔵弾性率(E’)が-20℃付近に転移点を有し、2-ノルボルネ
ンと1-ヘキセンとの組成(モル比)は、前者/後者=88/12であった。
【0113】
ポリエステルフィルム:二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ユニチカ(株
)製「ポリエステルフィルム エンブレット(登録商標)S50」、厚み50μm、易接
着層なし
PTFEフィルム:日東電工(株)製「ニトフロン」
イオン交換樹脂分散液:側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの水-アル
コール分散液、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2020CSタイプ」、固形
分20質量%
イオン交換樹脂膜:側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマー膜、デュポン社
製「ナフィオン(登録商標)112」、膜厚約50μm
Pt担持カーボン:田中貴金属工業(株)製「TEC10E50E」。
【0114】
[平均厚み]
塗工前後の重量差から塗工量を求め、樹脂の比重から塗膜厚みを求めた。
【0115】
[離型性]
得られた積層体から離型フィルムを剥がした際に、被剥離体に第二層(離型層)が転写
されているか否かを確認し、以下の基準で評価した。
【0116】
○…被剥離体に離型層が転写していない
×…被剥離体に離型層が転写している。
【0117】
実施例1
(第一層用塗布液の調製)
酸変性オレフィン系樹脂を固形分濃度が10質量%になるように希釈した第一層用塗布
液を得た。
【0118】
(第二層用塗布液の調製)
環状オレフィン系共重合体Aをトルエンに撹拌溶解し、固形分濃度10質量%の塗布液
を得た。
【0119】
(積層フィルムの作製)
ポリエステルフィルムの上に、第一層用塗布液をメイヤーバーコーティング法によりコ
ーティングし、100℃の温度で2分間乾燥して第一層を形成した。得られた第一層の上
に、第二層用塗布液をメイヤーバーコーティング法によりコーティングし、100℃の温
度で1分間乾燥して第二層を形成した。さらに、イオン交換樹脂分散液を用意し、メイヤ
ーバーを用いて第二層上に前記溶液をキャストし、その塗膜を100℃のオーブン内で乾
燥させて、イオン交換樹脂含有層(電解質膜)を形成した。その後、さらに130℃のオ
ーブン内で30分間熱処理をし、積層フィルムAを得た。第一層の平均厚みは約0.3μ
m、第二層の平均厚みは0.6μm、電解質膜の厚みは約10μmであった。
【0120】
Pt担持カーボン7質量部、イオン交換樹脂分散液35質量部をボールミルで混合し、
電極膜(電極用触媒層)の塗布液とし、PTFEフィルムにドクターブレードを用いて電
極膜の塗布液を塗工後、130℃で5分乾燥し、約10μmの電極膜を形成した積層フィ
ルムBを作製した。
【0121】
積層フィルムAと積層フィルムBとを、電解質膜と電極膜とを接触させて140℃、5
MPaで約1分間ホットプレスした後、積層フィルムAの離型フィルム(電解質膜以外の
層)を剥がした。
【0122】
実施例2
ポリエステルフィルムの上に、第一層用塗布液をメイヤーバーコーティング法によりコ
ーティングし、100℃の温度で2分間乾燥して第一層を形成した。得られた第一層の上
に、第二層用塗布液メイヤーバーコーティング法によりコーティングし、100℃の温度
で1分間乾燥して第二層を形成した。さらに、Pt担持カーボン7質量部、イオン交換樹
脂分散液35質量部をボールミルで混合し、電極膜(電極用触媒層)の塗布液とし、第二
層上にドクターブレードを用いて電極膜の塗布液を塗工後、130℃で5分乾燥し、約1
0μmの電極膜を形成した積層フィルムCを得た。第一層の平均厚みは約0.3μm、第
二層の平均厚みは0.6μm、電極膜の厚みは約10μmであった。
【0123】
次に、イオン交換樹脂膜を電解質膜として用い、得られた積層フィルムCの電極膜と接
触させて140℃、5MPaで約1分間ホットプレスし、積層フィルムCの離型フィルム
(電極膜以外の層)を剥がした。
【0124】
実施例3
第二層用塗布液として、環状オレフィン系共重合体Aの代わりに環状オレフィン系共重
合体Bを用いる以外は実施例1と同様にして積層フィルムを製造し、離型フィルムを剥離
した。
【0125】
実施例4
第二層用塗布液として、環状オレフィン系共重合体Aの代わりに環状オレフィン系共重
合体Bを用いる以外は実施例2と同様にして積層フィルムを製造し、離型フィルムを剥離
した。
【0126】
実施例5
第二層用塗布液として、環状オレフィン系共重合体Aの代わりに環状オレフィン系共重
合体Cを用いる以外は実施例1と同様にして積層フィルムを製造し、離型フィルムを剥離
した。
【0127】
実施例6
第二層用塗布液として、環状オレフィン系共重合体Aの代わりに環状オレフィン系共重
合体Cを用いる以外は実施例2と同様にして積層フィルムを製造し、離型フィルムを剥離
した。
【0128】
比較例1
第一層を形成することなく、第二層を形成する以外は実施例1と同様にして積層フィル
ムを製造し、離型フィルムを剥離した。
【0129】
比較例2
第一層を形成することなく、第二層を形成する以外は実施例2と同様にして積層フィル
ムを製造し、離型フィルムを剥離した。
【0130】
比較例3
第一層用塗布液として、ポリエステル系コート剤を固形分濃度が10質量%になるよう
に希釈した塗布液を用いる以外は実施例1と同様にして積層フィルムを製造し、離型フィ
ルムを剥離した。
【0131】
比較例4
第一層用塗布液として、水酸基含有ポリオレフィン系コート剤を固形分濃度が10質量
%になるように希釈した塗布液を用いる以外は実施例1と同様にして積層フィルムを製造
し、離型フィルムを剥離した。
【0132】
比較例5
(第一層用塗布液の調製)
UV硬化系コート剤を固形分濃度が10質量%になるように希釈した第一層用塗布液を
得た。
【0133】
(積層フィルムの作製)
ポリエステルフィルムの上に、第一層用塗布液をメイヤーバーコーティング法によりコ
ーティングし、100℃の温度で1分間乾燥後、高圧水銀ランプにて500mJ/cm
照射して第一層を形成した。以降の工程(第二層を形成する以降の工程)は実施例1と同
様にして、積層フィルムを製造し、離型フィルムを剥離した。
【0134】
実施例および比較例で得られた積層フィルムの離型性を評価した結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られた積層フィルムは、ハロゲン元素など
の環境的な負荷の大きい材料を使用することなく、離型性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本開示の積層フィルムは、離型性に優れるため、食品、医薬品、化学品、光学部材、電
気・電子材料などの各種分野における離型フィルム、例えば、ポリマー層に対する離型フ
ィルムとして利用できる。特に、イオン交換樹脂含有層に対して適度な剥離性を有するた
め、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(Membrane Electrode A
ssembly:MEA)を製造するための離型フィルム、特に、イオン交換樹脂を含む
電解質膜および/または電極膜をその上に積層し、MEAを製造した後、MEAから剥離
するためのフィルムに好ましく利用できる。