(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022112
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】抗ERBB3抗体治療に対する食道癌の応答を予測する方法およびキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230207BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230207BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230207BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230207BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/50 P
C12N15/13
C12Q1/68
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022183631
(22)【出願日】2022-11-16
(62)【分割の表示】P 2020520701の分割
【原出願日】2018-06-12
(31)【優先権主張番号】201710485107.3
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519458509
【氏名又は名称】キャンブリッジ ライフ サイエンシーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】シュエ ジャームズ チュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ ヤー
(72)【発明者】
【氏名】フー ファイチョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】食道癌がERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)による治療に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する方法。
【解決手段】食道癌から得られた組織サンプル中、SDC、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6、GNAZから選択される少なくとも一種のマーカーの腫瘍サンプル中のRNAレベルまたはタンパク質レベルの発現を測ることにより食道癌がERBB3抗体による処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道癌が抗ERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する方法であって、
前記方法は、
(a)前記食道癌のサンプル中のSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルを測り、
(b)前記発現レベルを対応するバイオマーカーの閾値発現レベルと比較することを含み、
前記SDC2および/またはGNAZの発現レベルが前記閾値発現レベル以下、および/またはPTGES、NCF2、NOXA1またはCARD6から選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であると予測する方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーはNRG1をさらに含み、NRG1の発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であることを表す請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項1または2に記載の方法。
(a)(i)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:6のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)(i)SEQ ID NO:11のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:13のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)(i)SEQ ID NO:21のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:22 のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:23のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:24のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:26のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)(i)SEQ ID NO:31のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:33のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:34のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:35のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)(i)SEQ ID NO:40のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:41のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)(i)SEQ ID NO:47のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:49のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:50のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:51のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:52のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)(i)SEQ ID NO:57のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項4】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項1または2に記載の方法。
(a)SEQ ID NO:7のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)SEQ ID NO:17のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:18のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)SEQ ID NO:27のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:28のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)SEQ ID NO:36のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:37 のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:44のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:54のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)SEQ ID NO:59のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:60のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項5】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を含む抗体から選択される請求項1または2に記載の方法。
(a)SEQ ID NO:9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:10のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(b)SEQ ID NO:19のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:20のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(c)SEQ ID NO:29のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:30のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(d)SEQ ID NO:38のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:39のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(e)SEQ ID NO:45のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:46のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(f)SEQ ID NO:55のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:56のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、および
(g)SEQ ID NO:61のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:62のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖
【請求項6】
前記抗ERBB3抗体は、
(i)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を含むCDRH1、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含むCDRH2、およびSEQID NO:3のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含むCDRL1、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むCDRL2、およびSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域
を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗ERBB3抗体は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記抗ERBB3抗体は、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:10のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオマーカーの発現レベルはバイオマーカーのタンパク質発現レベルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記バイオマーカーの発現レベルはバイオマーカーのmRNA発現レベルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
SDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの食道癌のサンプル中の発現レベルを測る試薬の、食道癌が抗ERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測するキットの製造における使用。
【請求項12】
前記キットは、
(a)前記試薬を用いて食道癌のサンプル中のSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルを測り、および
(b)前記発現レベルを対応するバイオマーカーの閾値発現レベルと比較する方法により食道癌が抗ERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する使用であって、
前記SDC2および/またはGNAZの発現レベルが前記閾値発現レベル以下、および/またはPTGES、NCF2、NOXA1またはCARD6から選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であることを表す請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記バイオマーカーはNRG1をさらに含み、NRG1の発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であることを表す請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項11~13のいずれか一項に記載の使用。
(a)(i)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:6のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)(i)SEQ ID NO:11のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:13のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)(i)SEQ ID NO:21のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:23のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:24のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:26のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)(i)SEQ ID NO:31のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:33のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:34のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:35のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)(i)SEQ ID NO:40のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:41のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)(i)SEQ ID NO:47のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:49のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:50のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:51のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:52のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)(i)SEQ ID NO:57のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項15】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項11~13のいずれか一項に記載の使用。
(a)SEQ ID NO:7のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)SEQ ID NO:17のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:18のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)SEQ ID NO:27のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:28のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)SEQ ID NO:36のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:37のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:44のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:54のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)SEQ ID NO:59のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:60のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項16】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を含む抗体から選択される請求項11~13のいずれか一項に記載の使用。
(a)SEQ ID NO:9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:10のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(b)SEQ ID NO:19のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:20のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(c)SEQ ID NO:29のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:30のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(d)SEQ ID NO:38のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:39のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(e)SEQ ID NO:45のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:46のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(f)SEQ ID NO:55のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:56のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、および
(g)SEQ ID NO:61のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:62のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖
【請求項17】
SDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの食道癌のサンプル中の発現レベルを測る試薬を含む、食道癌が抗ERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測するキット。
【請求項18】
NRG1発現レベルを測る試薬をさらに含む請求項17に記載のキット。
【請求項19】
一種または複数種の対照としての他の遺伝子の発現レベルを測る試薬をさらに含む請求項17に記載のキット。
【請求項20】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項17または18に記載のキット。
(a)(i)SEQ ID NO:1のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:6のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)(i)SEQ ID NO:11のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:13のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)(i)SEQ ID NO:21のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:23のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:24のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:26のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)(i)SEQ ID NO:31のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:33のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:34のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:35のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)(i)SEQ ID NO:40のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:41のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)(i)SEQ ID NO:47のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:49のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:50のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:51のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:52のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)(i)SEQ ID NO:57のアミノ酸配列で表されるCDRH1、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列で表されるCDRH2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDRH3を含む免疫グロブリン重鎖可変領域、および
(ii)SEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDRL1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDRL2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDRL3を含む免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項21】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む抗体から選択される請求項17または18に記載のキット。
(a)SEQ ID NO:7のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(b)SEQ ID NO:17のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:18のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(c)SEQ ID NO:27のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:28のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(d)SEQ ID NO:36のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ IDNO:37のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(e)SEQ ID NO:43のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:44のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(f)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:54のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域、および
(g)SEQ ID NO:59のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:60のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域
【請求項22】
前記抗ERBB3抗体は以下の免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を含む抗体から選択される請求項17または18に記載のキット。
(a)SEQ ID NO:9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:10のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(b)SEQ ID NO:19のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:20のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(c)SEQ ID NO:29のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:30のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(d)SEQ ID NO:38のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:39のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(e)SEQ ID NO:45のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:46のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、
(f)SEQ ID NO:55のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:56のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖、および
(g)SEQ ID NO:61のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:62のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍の臨床分子診断に関する。
【背景技術】
【0002】
大多数の抗腫瘍薬は一部の腫瘍患者には有效であるが、他の患者には無効である。これは腫瘍間に遺伝子変化が存在するためであり、同一患者の異なる腫瘍においても見られる。標的治療について言えば、患者の応答はさらに各々異なってくる。従って、どの患者がどの薬の恩恵を受けるかを予測する適切な方法がないと、標的治療のポテンシャルを全て発揮できない。the National Institutes of Health(NIH)によれば、用語「バイオマーカー」とは「客観的に測れる特徴であり、且つ、当該特徴は正常な生物の発病過程として、或いは治療的介入に対する薬理学的応答の指示薬として評価される」と定義されている(Biomarkers Definitions Working Group、2001、Clin.Pharmacol.Ther.69:89-95)。
【0003】
どのような患者が特定の薬剤に対して臨床応答を最も示す可能性があるかを事前に鑑定することで新薬の研究開発を加速させることができる。同時に、これは臨床試験の規模、継続時間およびコストも顕著に縮小できる。現在、ゲノミクス、プロテオミクスおよび分子イメージングなどの技術により、特定の遺伝子変異、具体的な遺伝子の発現レベルおよび他の分子バイオマーカーを迅速に、高感度に、確実に検出可能となっている。複数種の技術が腫瘍分子の特徴付けに用いられているが、既知の癌バイオマーカーは非常に少ないため、癌バイオマーカーの臨床応用はほとんどまだ実現されていない。例えば、最近のレビュー論文では、癌の診断および治療を改善するために、バイオマーカーおよびそれらの使用の研究開発を加速させる必要が非常にあると記されている(Cho、2007、Molecular Cancer6:25)。
【0004】
癌バイオマーカーに関する別のレビュー論文でも次のように指摘されている。現在の課題は癌バイオマーカーを発見することである。臨床では既に複数種の腫瘍(例えば慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍、肺癌および多形性膠芽腫)において分子標的試薬の使用に成功しているが、標的試薬に対する患者の応答を評価する効果的な戦略が不足しているため、これら分子標的試薬の幅広い応用には制限がある。問題は主に、新薬を評価するために、分子定義された癌を用いて臨床試験を行う患者を選択できないことにある。従って、特定の試薬の恩恵を受ける可能性が最も高い患者を確実に鑑定できるバイオマーカーが必要である(Sawyers、2008、Nature452:548-552、at548)。
【0005】
上記の文献に記されているように、臨床で使用されるバイオマーカーおよびこの種のバイオマーカーに基づく診断方法を見つける必要がある。
【0006】
以下の3種類の異なる癌バイオマーカーが知られている:(1)予後バイオマーカー、(2)予測バイオマーカー、および(3)薬力学(PD)バイオマーカー。予後バイオマーカーは、侵襲性(即ち、成長率および/または転移の速さ、および治療に対する不応)に基づいて癌を分類するために用いられ、例えば固形腫瘍である。これは「不良效果」腫瘍と区別するために、「良好效果」腫瘍と呼ばれることがある。予測バイオマーカーは特定の患者が特定の薬剤による治療の恩恵を受ける可能性を評価するために用いられる。例えば、乳癌を患っている患者は、そのERBB2(HER2)遺伝子が増幅されている場合、トラスツズマブによる治療の恩恵を受ける可能性があるが、ERBB2遺伝子が増幅されていない患者は、トラスツズマブによる治療の恩恵を受けない可能性がある。患者が薬を服用すると、PDバイオマーカーはその分子標的に対する薬の作用を示す。従って、PDバイオマーカーは通常、新薬臨床研究開発の早期段階で、用量レベルおよび投与頻度を指導するために用いられる。癌バイオマーカーの議論についてはSawyers、2008、Nature452:548-552を参照可能である。
【0007】
EGFRまたはHER2によって駆動される腫瘍は、通常、EGFRまたはHER2の阻害薬による処理に反応するが、これら腫瘍は常にこれら阻害薬に対して耐性を生じる。抗EGFRまたは抗HER2治療に対して耐性を生じるメカニズムの一つはERBB3(HER3とも称する)シグナル伝達の活性化である。例えばEngelman等、2006、Clin. Cancer Res.12:4372、Ritter等、2007、Clin.Cancer Res.13:4909、Sergina等、2007、Nature445:437を参照されたい。この他、NRG1誘導HER2-ERBB3ヘテロダイマーの活性化は、EGFR阻害薬に対する耐性にも関係している(Zhou等、2006、Cancer Cell10:39)。従って、ERBB3は薬剤耐性の研究開発において重要な役割を果たし、EGFRおよびHER2と形成したヘテロダイマーにより腫瘍の阻害および保持に関わる。ERBB3はキナーゼ活性が欠如しているため、ERBB3阻害薬、特に抗ERBB3抗体の研究開発に注目が集まっている。
【0008】
他の種類の標的治療と同様に、全てではないが一部の腫瘍は抗ERBB3の治療に反応している。従って、腫瘍がERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)による治療に対して応答を生じる可能性がある(またはその可能性がない)患者を鑑定するのに用いることができる予測バイオマーカーに基づく方法が必要である。
【0009】
近年、ニューレグリン-1(NRG1)の発現はERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)による治療に対する腫瘍の感受性と関連することが分かっている。ERBB3の一つの主要なリガンドとして、NRG1はERBB3と他のERBBファミリーメンバーのヘテロダイマー化を促進することで複数種の細胞内シグナル経路を活性化できる。Meetze等の報告によれば、抗ERBB3抗体が引き起こす腫瘍成長阻害(TGI)はERBB3の発現レベルと関連せず、NRG1の発現レベルと有意に相関している。即ち、腫瘍のサンプル中のNRG1発現レベルがある閾値以上である場合、前記腫瘍は抗ERBB3抗体による処理に応答を生じる可能性がある。従ってNRG1は腫瘍がERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)による治療に対して応答を生じるか否かを予測するための効果的なバイオマーカーとして期待される(CN103959065AおよびSergina等、2015、Clin Cancer Res;21(5)、1106-1113参照)。
【0010】
しかし、本発明者は、食道癌異種移植モデルにおいて、NRG1発現レベルの低いモデルは常に抗ERBB3抗体に対して感受性ではないが、NRG1発現レベルの高いモデルは抗ERBB3抗体処理に対して応答を生じるまたは応答を生じない可能性があることを発見した(実施例2参照)。これはバイオマーカーとしてNRG1を単独で使用することにより食道癌がERBB3抗体による処理に応答を生じるか否かを予測するのはあまり効果的ではないことを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Biomarkers Definitions Working Group、2001、Clin.Pharmacol.Ther.69:89-95
【非特許文献2】Cho、2007、Molecular Cancer6:25
【非特許文献3】Sawyers、2008、Nature452:548-552、at548
【非特許文献4】Engelman等、2006、Clin. Cancer Res.12:4372
【非特許文献5】Ritter等、2007、Clin.Cancer Res.13:4909
【非特許文献6】Sergina等、2007、Nature445:437
【非特許文献7】Zhou等、2006、Cancer Cell10:39
【非特許文献8】Sergina等、2015、Clin Cancer Res;21(5)、1106-1113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、単独使用する、またはNRG1と合わせて使用するときに、食道癌がERBB3抗体による処理に応答を生じるか否かを正確に予測できる他のバイオマーカーの提供が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一部は次のような発見に基づいている:食道癌から得られた組織サンプル中、SDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6、GNAZの発現レベルは、ERBB3抗体による処理に対する食道癌の感受性に関連している。驚くべきことに、本発明者は、この相関性が、上記6個のバイオマーカーSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZのそれぞれの単独の発現レベルが全て、食道癌がERBB3抗体による処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測するのに十分に用いることができるほど非常に強いことを発見した。本発明者はさらに、上記バイオマーカーの併用(即ち、2個以上のバイオマーカーを使用すること)がERBB3抗体による処理に対する食道癌の感受性を予測する有効性をさらに高めることを発見した。従って、本発明は食道癌がERBB3阻害薬( 例えば抗ERBB3抗体)処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する方法を提供する。前記方法は、(a)食道癌のサンプル中のSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルを測り、(b)前記発現レベルを対応するバイオマーカーの閾値発現レベルと比較することを含み、前記SDC2および/またはGNAZの発現レベルが前記閾値発現レベル以下、および/またはPTGES、NCF2、NOXA1またはCARD6から選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌はERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)処理に対して感受性であることを表す。逆に、前記SDC2および/またはGNAZの発現レベルが前記閾値発現レベルより高い、および/またはPTGES、NCF2、NOXA1またはCARD6から選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルが前記閾値発現レベルより低い場合、前記食道癌はERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)処理に対して耐性であることを表す。
【0015】
一つの実施形態において、本発明の方法はNRG1遺伝子の発現レベルを測ることをさらに含み、前記NRG1発現レベルがその閾値発現レベル以上である場合、当該食道癌はERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)処理に対して感受性であることを表す。
【0016】
一つの実施形態において、本発明の方法は、(a)食道癌のサンプル中のSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルを測り、(b)前記発現レベルを対応するバイオマーカーの閾値発現レベルと比較することを含み、前記SDC2および/またはGNAZの発現レベルが前記閾値発現レベル以下であり、且つPTGES、NCF2、NOXA1またはCARD6から選択される一つまたは複数のバイオマーカーの発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌はERBB3阻害薬(例えば抗ERBB3抗体)処理に対して感受性であることを表す。
【0017】
本発明のバイオマーカー(即ちSDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZならびにNRG1)の発現レベルとはタンパク質の発現レベルまたはmRNAの発現レベルを指す。タンパク質の発現は当業者に周知の各種の方法により測ることができる。例えば免疫組織化学(IHC)分析、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光法等である。mRNAの発現レベルも当業者に周知の各種の方法により測ることができる。例えば定量PCR、マイクロアレイ、デジタルPCR、トランスクリプトームシークエンシング(RNAseq)等である。
【0018】
本発明の別の面において、SDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの食道癌のサンプル中の発現レベルを測る試薬の、食道癌がERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを識別する診断テストキットの製造における使用を提供する。一つの実施形態において、上記バイオマーカーはNRG1をさらに含む。
【0019】
本発明の別の面において、SDC2、PTGES、NCF2、NOXA1、CARD6およびGNAZから選択される一つまたは複数のバイオマーカーの食道癌のサンプル中の発現レベルを測る試薬を含む、食道癌が抗ERBB3抗体処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかを予測する診断テストキットを提供する。一つの実施形態において、本発明のキットはNRG1発現レベルを測る試薬をさらに含む。前記試薬は当業者に周知である遺伝子のmRNAまたはタンパク質発現レベルを測る試薬である。例えば、リアルタイム定量PCRでmRNA発現レベルを測るとき、前記試薬は本発明のバイオマーカーを特異的に増幅するプライマー、DNAポリメラーゼおよびその発現レベルを測る緩衝液、反応物等を含む。IHC分析でタンパク質発現レベルを測るとき、前記試薬は本発明のバイオマーカーに対する抗体(一次抗体)および一次抗体と結合する検出抗体(二次抗体)等を含む。一つの実施形態において、本発明のキットは一種または複数種の対照としての他の遺伝子の発現レベルを測る試薬をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】抗ERBB3抗体の免疫グロブリン重鎖可変領域配列のCDR
H1、CDR
H2およびCDR
H3配列(Kabat定義)を示す概略図であり、前記抗体はCAN017、04D01、09D03、11G01、12A07、18H02および22A02として表される(
図2の囲み枠で示される領域に対応)。
【
図2】抗ERBB3抗体の完全な免疫グロブリン重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す概略図であり、前記抗体はCAN017、04D01、09D03、11G01、12A07、18H02および22A02として表される。各抗体のアミノ酸配列を照合し、相補性決定配列(CDR)(Kabat定義)、CDR
H1、CDR
H2およびCDR
H3は囲み枠で示される。囲み枠外の配列はフレームワーク(FR)配列を表す。
【
図3】抗ERBB3抗体の免疫グロブリン軽鎖可変領域配列のCDR
L1、CDR
L2およびCDR
L3配列(Kabat定義)を示す概略図であり、前記抗体はCAN017、04D01、09D03、11G01、12A07、18H02および22A02として表される(
図4の囲み枠で示される領域に対応)。
【
図4】抗ERBB3抗体の完全な免疫グロブリン軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す概略図であり、前記抗体はCAN017、04D01、09D03、11G01、12A07、18H02および22A02として表される。各抗体のアミノ酸配列を互いに照合し、相補性決定配列(CDR)(Kabat定義)、CDR
L1、CDR
L2およびCDR
L3は囲み枠で示される。囲み枠外の配列はフレームワーク(FR)配列を表す。
【
図5】(A)全長CAN017免疫グロブリン重鎖および(B)全長CAN017免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図6】(A)全長04D01免疫グロブリン重鎖および(B)全長04D01免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図7】(A)全長09D03免疫グロブリン重鎖および(B)全長09D03免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図8】(A)全長11G01免疫グロブリン重鎖および(B)全長11G01免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図9】(A)全長12A07免疫グロブリン重鎖および(B)全長12A07免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図10】(A)全長18H02免疫グロブリン重鎖および(B)全長18H02免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図11】(A)全長22A02免疫グロブリン重鎖および(B)全長22A02免疫グロブリン軽鎖を定義するアミノ酸配列を提供する図である。
【
図12】食道癌異種移植モデルにおいて、hIgG(20mg/kg)および抗ERBB3抗体CAN017(20mg/kg)の腫瘍阻害活性を測った実験結果のまとめである。
【
図13】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とSDC2のmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はSDC2のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はSDC2のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図14】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とGNAZのmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はGNAZのmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はGNAZのmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図15】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とNCF2のmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はNCF2のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はNCF2のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図16】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とNOXA1のmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はNOXA1のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はNOXA1のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図17】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とPTGESのmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はPTGESのmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はPTGESのmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図18】上図は散布図であり、20個の異種移植物モデルにおけるCAN017の生体内効力(腫瘍成長阻害の百分比(TGI)として表される)とCARD6のmRNA発現レベルとの関係を示す。20個のデータポイントは(黒丸)で表示され、実線はCARD6のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性を示す。下図はCARD6のmRNA発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意差分析である。
【
図19】GNAZおよびNRG1の発現レベルと腫瘍成長阻害(TGI)百分比との関係を示す概略図である。Y軸に平行な実線はNRG1の閾値発現レベル2.05を示し、X軸に平行な実線はGNAZの閾値発現レベル1.1を示す。黒菱形はTGI<70%を示し、白三角はTGI>70%を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書で使用されるように、「CAN017」とはヒト化抗ヒトERBB3モノクローナル抗体を指し、その全長重鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:9であり、その全長軽鎖アミノ酸配列はSEQ ID NO:10である。
【0022】
本明細書で使用されるように、「ERBB3」(HER3とも称される)とは下記遺伝子およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指し、前記遺伝子はEntrez Gene ID No.2065として識別される。
【0023】
本明細書で使用されるように、「ERBB3阻害薬」とはERBB3と結合し、ERBB3の腫瘍細胞中の生物学的活性を阻害、中和、防止または除去する分子(小分子または高分子、例えば抗体またはその抗原結合断片)を指す。
【0024】
本明細書で使用されるように、「NRG1」(ニューレグリン-1、heregulin、HRGまたはHRG1とも称される)とはEntrez Gene ID No.3084およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0025】
本明細書で使用されるように、「SDC2」(シンデカン2とも称される)とはEntrez Gene ID No.6383およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0026】
本明細書で使用されるように、「NCF2」(好中球サイトカイン2とも称される)とはEntrez Gene ID No.4688およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0027】
本明細書で使用されるように、「NOXA1」(NADPHオキシダーゼ活性剤1とも称される)とはEntrez Gene ID No.10811およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0028】
本明細書で使用されるように、「GNAZ」(Gタンパク質サブユニットαZとも称される)とはEntrez Gene ID No.2781およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0029】
本明細書で使用されるように、「PTGES」(プロスタグランジンE合成酵素とも称される)とはEntrez Gene ID No.9536およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0030】
本明細書で使用されるように、「CARD6」(カスパーゼ動員ドメインファミリーメンバー6とも称される)とはEntrez Gene ID No.84674およびその対立遺伝子変異体によってコード化されたヒトタンパク質を指す。
【0031】
本明細書で使用されるように、処理に対して生じる「反応」または「応答」とは処理される腫瘍について言えば、腫瘍が(a)成長緩慢、(b)成長停止、または(C)衰退することを示すことを指す。
【0032】
本明細書で使用されるように、「発現レベル」とは本発明の食道癌のサンプル中のバイオマーカーの発現レベルを指す。例えば、発現レベルは(1)RNAseqで測ったmRNA発現レベル(FPKMにより標準化)、または(2)IHCテストにおける染色強度として表すことができる。閾値発現レベルを用いて本発明のバイオマーカーの発現レベルを説明することができ、これは、例えばROC曲線分析を用いて、閾値測定分析において経験的に測定できる。
【0033】
本明細書で使用されるように、「閾値測定分析」とは、食道癌のサンプル中の当該バイオマーカーの閾値発現レベルを測定するために、食道癌のデータセットを分析することを指す。
【0034】
本明細書で使用されるように、「閾値発現レベル」とは、当該発現レベル(NRG1、NCF2、NOXA1、PTGESおよびCARD6の場合)以上、または当該発現レベル(SDC2およびGNAZの場合)以下であるというような発現レベルを指し、食道癌の腫瘍はERBB3阻害薬による処理に対して感受性であると分類される。
【0035】
ERBB3抗体
本明細書に開示される方法はERBB3阻害薬による処理に対する食道癌の応答を予測するために用いることができ、前記阻害薬は例えば抗ERBB3抗体または抗ERBB3抗体の抗原結合断片である。幾つかの実施形態において、食道癌はERBB3抗体(またはその抗原結合断片)に対して感受性であるかまたは耐性であるかに分けられ、前記抗体はNRG1(例えばNRG1-β1)とERBB3の結合を阻害または防止し、これによりERBB3のリガンド誘導のダイマー化(例えば抗ERBB3抗体CAN017、04D01、12A07、18H02および22A02)を間接的に阻害または防止する。他の実施形態において、腫瘍は抗体(またはその抗原結合断片)に対して感受性であるかまたは耐性であるかに分類され、前記抗体はNRG1とERBB3の結合(例えば抗ERBB3抗体09D03および11G01)を妨げない条件下でERBB3のダイマー化を阻害または防止する。
【0036】
例示的な実施形態において、ERBB3阻害薬は以下の抗体CAN017、04D01、12A07、18H02、22A02、11G01および09D03のうちの1つである。
【0037】
抗ERBB3抗体CAN017は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:4のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:6のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体CAN017は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図5に示されるように、抗体CAN017はSEQ ID NO:9の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:10の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0038】
抗ERBB3抗体04D01は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:11のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:13のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体04D01は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図6に示されるように、抗体04D01はSEQ ID NO:19の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:20の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0039】
抗ERBB3抗体09D03は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:21のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:23のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:24のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:26のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体09D03は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:28のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図7に示されるように、抗体09D03はSEQ ID NO:29の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:30の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0040】
抗ERBB3抗体11G01は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:31のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:32のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:33のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:34のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:35のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体11G01は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:36のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:37のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図8に示されるように、抗体11G01はSEQ ID NO:38の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:39の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0041】
抗ERBB3抗体12A07は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:40のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:41のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体12A07は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:43のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:44のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図9に示されるように、抗体12A07はSEQ ID NO:45の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:46の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0042】
抗ERBB3抗体18H02は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:47のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:48のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:49のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:50のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:51のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:52のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体18H02は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:54のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図10に示されるように、抗体18H02はSEQ ID NO:55の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:56の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0043】
抗ERBB3抗体22A02は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図1に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:57のアミノ酸配列で表されるCDR
H1、SEQ ID NO:58のアミノ酸配列で表されるCDR
H2、およびSEQ ID NO:42のアミノ酸配列で表されるCDR
H3を含む。
図3に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:14のアミノ酸配列で表されるCDR
L1、SEQ ID NO:15のアミノ酸配列で表されるCDR
L2、およびSEQ ID NO:16のアミノ酸配列で表されるCDR
L3を含む。例示的な実施形態において、抗体22A02は免疫グロブリン重鎖可変領域および免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、
図2に示されるように、前記免疫グロブリン重鎖可変領域はSEQ ID NO:59のアミノ酸配列を含む。
図4に示されるように、前記免疫グロブリン軽鎖可変領域はSEQ ID NO:60のアミノ酸配列を含む。別の例示的な実施形態において、
図11に示されるように、抗体22A02はSEQ ID NO:61の免疫グロブリン重鎖アミノ酸配列、およびSEQ ID NO:62の免疫グロブリン軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0044】
当業者であれば、上記可変領域を各定常領域配列に繋げることにより、完全な重鎖またはkappa軽鎖抗体配列を構築し、活性的な全長免疫グロブリン重鎖および軽鎖を形成できることを理解できると考えられる。例えば、完全な重鎖は重鎖可変領域、およびその後のマウスまたはヒトIgG1またはIgG2b重鎖定常配列(本分野では既知である)を含み、完全なkappa鎖はkappa可変配列、およびその後のマウスまたはヒトkappa軽鎖定常配列(本分野では既知である)を含む。さらに、免疫グロブリン重鎖および軽鎖から得られるCDR1、CDR2およびCDR3配列をヒトまたはヒト化された免疫グロブリンフレームワーク領域に配置することができると考えられる。
【0045】
サンプル
食道癌から得られる組織サンプル(例えばヒト患者から得られるヒト食道癌組織サンプルであって、前記ヒト患者は例えばERBB3阻害薬による処理が検討されているヒト患者である)はRNA源、タンパク質源または免疫組織化学(IHC)用の薄切片源として使用でき、こうすれば実施で開示される方法においてサンプル中の本発明のバイオマーカーのレベルを測定することができる。従来の腫瘍組織生検機器およびプロセスにより組織サンプルを得ることができる。内視鏡組織生検、切除組織生検、切開組織生検、細針生検、パンチ組織生検、掻爬組織生検および皮膚組織生検は当業者が腫瘍サンプルを得るために使用できる公認されている医学プロセスの実例である。腫瘍組織のサンプルはバイオマーカーの遺伝子発現を測るために、十分なRNA、タンパク質または薄切片を提供できるくらい十分に大きいものでなければならない。
【0046】
腫瘍組織のサンプルは、バイオマーカーの発現または含有量を測ることを許容する如何なる形式でもよい。要するに、組織サンプルはRNA抽出、タンパク質抽出または薄切片の調製に十分でなければならない。従って、組織サンプルは新鮮で、適切な低温学技術により保存されたまたは非低温学技術で保存されたものとすることができる。臨床組織生検サンプルを処理する標準的な方法は組織サンプルをホルマリン内に固定し、それからパラフィンに埋め込む。この種の形式のサンプルは通常、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織と称される。その後に分析する組織の調製の適切な技術は当業者に周知のものである。
【0047】
バイオマーカーの発現
本明細書に記載されるように、任意の適切な方法により腫瘍から得られた組織サンプル中のバイオマーカーの発現レベルを測定または測ることができる。複数のこの種の方法は当分野では既知のものである。例えば、サンプル中のバイオマーカーのタンパク質のレベルまたは量を測る、あるいはサンプル中のバイオマーカーのRNAのレベルまたは量を測ることによりバイオマーカーの発現レベルを測定できる。
【0048】
幾つかの実施形態において、食道癌は、ERBB3阻害薬による処理に対して、感受性であるかまたは耐性であるかに分類され、完全に食道癌から得られた組織サンプル中のバイオマーカーの発現状況に基づく。別の実施形態において、本発明のバイオマーカーの発現以外、さらに一種または複数種の他の遺伝子の発現を測り、腫瘍を、ERBB3阻害薬による処理に対して感受性であるかまたは耐性であるかに分類する。本発明は、幾つかの実施形態において、本発明のバイオマーカー以外に一種または複数種の他の遺伝子の発現を測るとき、一種または複数種の他の遺伝子はErbB1、ErbB2およびERBB3(例えばErbB1、ErbB2およびERBB3の如何なる単量体、ヘテロダイマーおよび/またはホモダイマー、および/または単量体またはダイマー形式のリン酸化ErbB1、ErbB2およびERBB3)を含まない。本発明ではさらに、本発明のバイオマーカー以外、一種または複数種の他の遺伝子の発現を測ることは、例えばデータの標準化などのための、対照または標準品として役割を果たす遺伝子を測ることを含むことができると考えられる。
【0049】
RNA分析
本発明のバイオマーカーのmRNA発現レベルを測定する方法は、従来のマイクロアレイ分析、デジタルPCR、RNAseqおよび定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、標準プロトコルを使用して標的細胞、腫瘍または組織からRNAを抽出する。他の実施形態において、RNAの分離を必要としない技術を使用してRNA分析を行う。
【0050】
組織サンプルから真核生物mRNAを迅速かつ効果的に抽出する方法は当業者には周知のものである。例えばAusubel et al.、1997、Current Protocols of Molecular Biology、John Wiley&Sonsを参照されたい。組織サンプルは、例えば臨床研究の食道癌患者のサンプルなど、新鮮で凍結されたまたは固定パラフィン包埋(FFPE)のサンプルとすることができる。通常、新鮮なまたは凍結された組織サンプルから分解して得られたRNAは往々にして、FFPEサンプルから得られるRNAよりも形成される断片が少ない。しかし、腫瘍材料のFFPEサンプルはより簡単に入手でき、FFPEサンプルは本発明の方法において使用される適切なRNA源である。RT-PCRによる遺伝子発現プロファイリングのために、FFPEサンプルをRNA源とする議論については、例えばClark-Langone等、2007、BMC Genomics8:279を参照されたい。また、De Andresら、1995、Biotechniques18:42044、およびBakerら、米国特許出願公開番号2005/0095634を参照されたい。市販のキット(供給者が提供したRNA抽出および製造用の説明書付き)を使用できる。複数種のRNA分離産物および完全なキットの販売供給者としてはQiagen(Valencia、CA)、Invitrogen(Carlsbad、CA)、Ambion(Austin、TX)およびExiqon(Woburn、MA)がある。
【0051】
通常、RNAの分離は組織/細胞の破壊から始まる。組織/細胞の破壊プロセスでは、RNAに対するRnaseの分解を減らすのが望ましい。RNA分離中にRnase活性を制限する一種の方法は、細胞が破壊されたら変性剤を細胞内容物と接触させることを確保する。別の慣例としてはRNA分離中に一種または複数種のプロテアーゼを含める。任意的に、新鮮な組織サンプルを収集したら、室温でRNA安定溶液に浸漬する。安定溶液が細胞に急速に浸透し、4℃で保存できるようRNAを安定させて、その後の分離に備える。この種の安定溶液は市販で入手可能なRNAlater(登録商標)(Ambion、Austin、TX)である。
【0052】
幾つかの形態において、トータルRNAは塩化セシウム密度勾配遠心分離により破壊された腫瘍材料から分離して得られる。通常、mRNAは細胞のトータルRNAの約1%~5%を占める。固定化Oligo(dT)(例えばOligo(dT)セルロース)は、通常、mRNAをリボソームRNAおよび転移RNAと分離するのに用いる。分離後に保存する場合、必ずRNAはRNaseを含まない条件で保存する。分離したRNAを安定保存する方法は当分野では既知のものである。RNAを安定保存するための複数種の市販製品は入手可能である。
【0053】
マイクロアレイ
従来のDNAマイクロアレイ発現プロファイリング技術によりバイオマーカーのmRNA発現レベルを測ることができる。DNAマイクロアレイは、例えばガラス、プラスチックまたはシリコンなどの固体表面または基質に固定された特定のDNAセグメントまたはプローブの集合である。そして各特定のDNAセグメントはアレイ内の既知の位置を占有する。標識RNAサンプルとのハイブリダイゼーションは通常、アレイ内の各プローブに対応するRNA分子を検出および定量化を許容する厳密なハイブリダイゼーション条件下で行われる。非特異的に結合したサンプル材料を除去できるよう厳密に洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡または他の適切な検出方法によりマイクロアレイをスキャンする。現在、市販されているDNAマイクロアレイ(DNAチップとも称される)には、通常、数万個のプローブが含まれているため、数万個の遺伝子の発現を同時に測ることができる。この種のマイクロアレイは本発明の実施に用いることができる。若しくは、NRG1を測るのに必要な少数の数種類のプローブに加え、必須とされる対照または標準品(例えばデータの標準化に用いる)を含むカスタムチップは公開された方法の実施に用いることができる。
【0054】
データの標準化に有利なように、2色マイクロアレイリーダーを使用できる。2色(2チャンネル)システムでは、第一波長を発する第一蛍光色素によりサンプルを標識化すると同時に異なる波長を発する第二蛍光色素によりRNAまたはcDNA標準品を標識化する。例えば、Cy3(570nm)およびCy5(670nm)は通常、2色マイクロアレイシステムにおいて一緒に使用する。
【0055】
DNAマイクロアレイ技術は良好に発展しており、市販で入手でき、広く使用されている。従って、公開された方法を実施するとき、当業者は過度な実験なしに、マイクロアレイ技術によりバイオマーカータンパク質をコード化した遺伝子の発現レベルを測ることができる。DNAマイクロアレイチップ、試薬(例えばRNAまたはcDNA調製、RNAまたはcDNA標識化、ハイブリダイゼーションおよび洗浄溶液に用いられるもの)、機器(例えばマイクロアレイリーダー)およびプロトコルは、当分野では周知であり、複数種の市販のものが入手可能である。マイクロアレイシステムの市販供給者としてはAgilent Technologies(Santa Clara、CA)およびAffymetrix(Santa Clara、CA)があるが、他のPCRシステムも使用可能である。
【0056】
定量PCR
従来の定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)技術により本発明のバイオマーカーのmRNAレベルを測ることができる。qRT-PCRの長所として、感受性、柔軟性、定量精度および密接に関連するmRNAを識別できる能力が含まれる。定量PCRのための組織サンプルの処理に関するガイダンスは複数種のソースから入手でき、qRT-PCRに用いる市販の機器および試薬メーカーおよび供給者(例えばQiagen(Valencia、CA)およびAmbion(Austin、TX))を含む。qRT-PCRの自動化実施に用いる機器およびシステムは市販で入手でき、多くの実験室においてよく使用されている。周知の市販システムの実例はthe Applied Biosystems7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems、Foster City、CA)である。
【0057】
mRNAが分離されると、RT-PCRによる遺伝子発現を測る第一のステップはmRNAテンプレートをcDNAに逆転写し、続いてPCR反応で指数的増幅を呈する。2種類のよく用いられる逆転写酵素は、トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV-RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV-RT)である。逆転写反応は、通常、プライマーとして、特定のプライマー、ランダムなヘキサマーまたはoligo(dT)プライマーを使用する。適切なプライマーは市販で入手でき、例えばGeneAmp(登録商標) RNA PCR kit(Perkin Elmer、Waltham、MA)である。得られたcDNA産物はその後のポリメラーゼ連鎖反応においてテンプレートとして用いられる。
【0058】
耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼを用いてPCRステップを実施する。PCRシステムでよく用いられるポリメラーゼの大部分はテルムス・アクウァーティクス(Thermus aquaticus、Taq)ポリメラーゼである。PCRの選択性はプライマーの使用に由来し、前記プライマーは増幅の標的となるDNA領域、即ち標的タンパク質をコード化した遺伝子から逆転写されるcDNAの領域と相補的である。従って、本発明はqRT-PCRを使用するとき、各マーカー遺伝子に対して特異的なプライマーは当該遺伝子のcDNA配列に基づく。供給者が提供する説明書に基づき、SYBR(登録商標) greenまたはTaqMan(登録商標)(Applied Biosystems、Foster City、CA)というような市販の技術を使用できる。ハウスキーピング遺伝子(例えばβアクチンまたはGAPDH)のレベルを比較することにより、ロードサンプル中の差異に対して伝令RNAのレベルを標準化できる。mRNAの発現レベルは、如何なる単一の対照サンプル、例えば正常な非腫瘍組織または細胞などから得られるmRNAに対するものとして表される。若しくは、セットの腫瘍サンプルまたは腫瘍細胞株から得られるmRNA、または市販の一組の対照mRNAから得られるmRNAに対するものとして表される。
【0059】
NRG1および/または本発明のバイオマーカーの発現状況をPCR分析するための複数の適切なプライマーセットを設計でき、かつ、過度な実験なしに、当業者により合成できる。若しくは、本発明を実施するための複数のPCRプライマーセットは例えばApplied Biosystemsなどの複数の市販のものを購入できる。PCRプライマーは好ましくは長さ約17~25個のヌクレオチドである。融解温度(Tm)を推定する従来のアルゴリズムによりプライマーを特定のTmを持つように設計できる。プライマー設計およびTm推定ソフトウエアは例えばPrimer Express(商標)(Applied Biosystems)など、市販で入手でき、さらに例えばPrimer3(Massachusetts Institute of Technology)など、インターネットからも入手できる。確立されたPCRプライマー設計の原理を応用することにより、大量の異なるプライマーにより、NRG1および本発明のバイオマーカーを含む、任意の既定の遺伝子の発現レベルを測ることができる。
【0060】
RNAseq
さらに、RNAseq技術により本発明のバイオマーカーのmRNA発現レベルを測ることができる。RNAseqは全ゲノムレベルの遺伝子発現差異研究を行うことができ、以下の長所を持つ:(1)各転写断片配列の直接測定、単一ヌクレオチド分解能の精度、同時に従来のマイクロアレイハイブリダイゼーションの蛍光アナログ信号による交差反応および背景ノイズ問題(即ちデジタル化信号付き)が存在しない、(2)細胞中の数個という少数のコピーされた稀な転写物を検出できる(即ち、感度が非常に高い)、(3)全ゲノム解析が可能である、(4)稀な転写物および正常な転写物を同時に鑑定および定量化できる6桁を超える動的検出範囲(即ち、検出範囲が広い)。以上の長所により、RNAseqは既にRNA発現レベルを正確に測るための強力なツールになっている。
【0061】
RNAseqの原理は次のとおりである:RNAを抽出した後で精製し、cDNAに逆転写し、それからシーケンシングしてショートリード(short reads)を取得する。ショートリードをゲノムの対応する位置で照合し、その後、照合結果に対して、遺伝子レベル、エクソンレベルおよび転写レベルのスプライシングを行い、最後にスプライシング結果をデータ統計し、標準化した後にmRNAレベル上の遺伝子の発現レベルを得る。ここで、照合ステップ、スプライシングおよび統計ステップならびに標準化ステップはいずれも当業者に既知の各種ソフトウエアにより実行できる。例えば照合ステップはBFAST、BOWTIE、GNUmap、CloudBurst、GMAP/GSNAP、RzaerS、SpliceMap、TopHat、MIRA、Soap等のソフトウエアにより実行できる。スプライシングおよび統計ステップはCufflinks、ALEXA-seq等のソフトウエアにより実行できる。標準化ステップはERANGE、Myrna等のソフトウエアにより実行できる。比較的よく用いられるRNAseqデータの標準化方法としては、RPKM(reads per kilobase of exon model per million mapped reads)、FPKM(fragments per kilobase of exon model per million mapped reads)およびTPM(tag per million)がある。
【0062】
よく用いられるRNAseqプラットフォームとしてはIllumina GA/HiSeq、SOLiDおよびRoche454がある。
【0063】
qNPA(商標)
幾つかの実施形態においては、RNA抽出または分離に係らない技術によりRNA分析を行う。この種の技術は定量的ヌクレアーゼ保護アッセイであり、これは市販で入手でき、商品名はqNPA(商標)(High Throughput Genomics、Inc.、Tucson、AZ)である。分析される腫瘍組織のサンプルがFFPE材料の形式である場合、前記技術は有利である。例えばRoberts et al.、2007、Laboratory Investigation87:979-997を参照されたい。
【0064】
タンパク質分析
他の実施形態において、タンパク質レベルで本発明のバイオマーカーの発現を検出できる。本発明のバイオマーカーのタンパク質発現レベルを測る方法としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA) 、IHC分析、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光法等がある。
【0065】
ELISA
ELISAの実施には本発明のバイオマーカーに対する少なくとも一種の抗体、即ち検出抗体が必要である。以下にNRG1を例に説明する。分析対象のサンプルから得られるNRG1タンパク質を、例えばポリスチレン製マイクロタイタープレートなどの固体支持体に固定する。この種の固定は表面に吸着することによる非特異的な結合である。あるいは、「サンドイッチ」ELISAにおいてサンプルから得られるNRG1が捕捉抗体(検出抗体とは異なる抗NRG1抗体)に結合するという、特異的な結合により固定できる。NRG1が固定された後、検出抗体を加え、検出抗体は結合したNRG1と複合体を形成する。検出抗体は直接または間接的 (例えば特異的に検出抗体を見分ける第二抗体)に酵素に結合する。通常、各ステップ間では、穏やかな洗浄溶液により結合したNRG1を有するマイクロタイタープレートを洗浄する。典型的なELISAプロトコルはさらに一つまたは複数のブロッキングステップを含み、これは前記タイタープレートに非特異的に結合する不要なタンパク質試薬をブロッキングするウシ血清アルブミンのような非特異的な結合タンパク質の使用に関する。最後の洗浄ステップの後、適切な酵素基質を加えてタイタープレートを着色してサンプル中のNRG1の量を示す視覚信号を生成する。前記基質は例えば発色基質または蛍光基質とすることができる。ELISA法、試薬および装置は当分野で周知のものであり、市販で入手可能である。
【0066】
免疫組織化学(IHC)
免疫組織化学(IHC)または免疫蛍光法(IF)により(例えば可視化)腫瘍組織サンプルまたは臨床サンプル中のNRG1の存在およびレベルを測定できる。臨床サンプルは通常、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロック形式で保存されるため、IHCおよびIFは特に臨床サンプル中のNRG1タンパク質を測るのに用いられる。IHCまたはIFによりNRG1を測定するには少なくとも一種のNRG1に対する抗体が必要である。IHCおよびIFに適する抗NRG1抗体は市販で入手可能である。例えば、適切な抗体はR&DSystems(Minneapolis、MN)、abcam(Cambridge、MA)、Santa Cruz Biotechnology、Inc.(Santa Cruz、CA)またはNovus Biologicals(Littleton、CO)から購入できる。標準技術を用いて、抗NRG1抗体は腫瘍から得られた薄切片(例えばFFPE切片および凍結腫瘍切片を含む5ミクロン切片)中のNRG1タンパク質の存在状況を検出できる。通常、腫瘍材料を収集および保存する最初のプロセスにおいて固定したタンパク質の抗原構造を回復できるように腫瘍切片に対して最初の処理を行う。その後、スライドをブロッキングして抗NRG1検出抗体の非特異的な結合を防ぐ。次に、抗NRG1抗体(一次抗体)とNRG1タンパク質の結合によりNRG1タンパク質の存在状況を検出する。一次抗体を見分け、一次抗体と結合した検出抗体(二次抗体)を検出可能な酵素または蛍光色素と結合させる。通常、ステップ間では非特異的なタンパク質(例えばウシ血清アルブミン)により腫瘍切片を洗浄およびブロッキングする。検出抗体が検出可能な酵素と結合されていれば、適切な酵素基質により、視覚信号を生成できるようスライドを着色する。検出抗体が蛍光色素と結合されていれば、蛍光顕微鏡によりスライドを観察する。サンプルはヘマトキシリンを使用して再染色できる。
【0067】
データ解釈
閾値発現レベルは本発明のバイオマーカーの発現レベルを説明するのに用いることができる。例えば、食道癌のサンプルにおいて、SDC2および/またはGNAZの発現レベルがその対応する閾値発現レベル以下である場合、当該食道癌はERBB3阻害薬(例えばERBB3抗体)による処理に対して感受性である(反応性である)。あるいは、SDC2および/またはGNAZの発現レベルがその対応する閾値発現レベルより高い場合、当該食道癌はERBB3阻害薬(例えばERBB3抗体)による処理に対して耐性である(反応性でない)と表される。NRG1、NCF2、NOXA1、PTGESおよびCARD6について言えば、これらのうち一つまたは複数の発現レベルがその相応する閾値発現レベル以上である場合、当該食道癌はERBB3阻害薬(例えばERBB3抗体)による処理に対して感受性である(反応性である)。逆に、これらのうち一つまたは複数の発現レベルがその対応する閾値発現レベルより低い場合、当該食道癌はERBB3阻害薬(例えばERBB3抗体)による処理に対して耐性である(反応性でない)と表される。
【0068】
閾値測定分析
各バイオマーカーの閾値発現レベルは、閾値測定分析により確定できる。好ましくは、閾値測定分析は受信者操作特性(ROC)曲線分析を含む。ROC曲線分析は既に確立された統計学技術であり、当該技術の応用は当業者の知識範囲内である。ROC曲線分析の議論については通常、Zweig等、1993、「Receiver operating characteristic(ROC)plots:a fundamental evaluation tool in clinical medicine」、Clin.Chem.39:561-577、およびPepe、2003、The statistical evaluation of medical tests for classification and prediction、Oxford Press、New Yorkを参照できる。
【0069】
閾値測定分析のデータセットには以下が含まれる:(a)急性応答データ(応答性または非応答性)、および(b)一組の腫瘍から得られた各腫瘍サンプルの本発明のバイオマーカーの発現レベル。特定の実施形態において、腫瘍の組織サンプル中のバイオマーカーの発現レベルを測ることにより閾値発現レベルを測定でき、前記腫瘍は以下のヒト患者から得られる:前に抗ERBB3阻害薬による処理を受けており、且つ抗ERBB3阻害薬に対して感受性であると示された食道癌患者、および前に抗ERBB3阻害薬による処理を受けており、且つ抗ERBB3阻害薬に対して耐性であると示された食道癌患者。
【0070】
以下の方式でROC曲線分析を実行できる(NRG1を例とする)。NRG1発現レベルが閾値以上のサンプルは全てレスポンダー(感受性である)に分類され、NRG1発現レベルが閾値より低いサンプルは全て非レスポンダー(耐性である)に分類される。テストグループのサンプルから得られた各NRG1発現レベルについて言えば、当該発現レベルを閾値として使用し、サンプルを「レスポンダー」と「非レスポンダー」(仮想呼び出し)に分類する。当該方法は仮想呼び出しをデータセットの実際の応答データと比較することで各潜在閾値のTPR(y値)およびFPR(x値)を計算できる。それからTPRおよびFPRを用いてドットプロットを作成してROC曲線を構築する。ROC曲線が(0、0)点から(1.0、0.5)点までの斜線よりも高い場合、NRG1テスト結果がランダムよりも良いテスト結果であることを示す。
【0071】
ROC曲線は最適な閾値点を識別するのに用いることができる。最適な閾値点は、偽陽性コストと偽陰性コストの間で最適なバランスが生じる点である。これらコストは等しくある必要はない。ROC空間において、点x、yでの分類の平均予想コスト(C)は以下の式で測定できる:
C=(1-p)α*x+p*β(1-y)
但し:α=偽陽性コスト、β=陽性過誤(偽陰性)コスト、およびp=陽性状況の比率。
【0072】
αおよびβに異なる値を割り当てることにより偽陽性および偽陰性の重みを変えることができる。例えば、応答グループに、より多くの患者(代償はより多くの非レスポンダーの患者を治療すること)を含むと決めた場合、より高い重みをαに与えることができる。このような場合において、偽陽性コストおよび偽陰性コストは同じである(αはβに等しい)と仮定される。従って、ROC空間では、点x、yでの分類の平均予想コストは以下のとおりである:
C’=(1-p)*x+p*(1-y)。
【0073】
全ての対になった偽陽性および偽陰性(x、y)により最小のC’を計算できる。最適な閾値はC’における(x、y)値として計算される。
【0074】
通常、NRG1発現レベルが高いほど、腫瘍はERBB3阻害薬に対して感受性を持つ可能性がある。そして、NRG1発現レベルが低いほど、腫瘍はERBB3阻害薬に対して耐性である可能性がある。上記閾値測定分析は本発明の他のバイオマーカーの閾値発現レベルも測定できる。
【0075】
テストキット
また、本発明はさらに、本発明の方法の実施に用いられる特定の成分を含む診断テストキットを提供する。診断測定の実施において、診断テストキットは便利さ、速さ、および再現性が増加した。例えば、例示的なqRT-PCRに基づく実施形態において、基本的な診断テストキットは本発明のバイオマーカーの発現を分析するためのPCRプライマーを含む。他の実施形態において、より複雑なテストキットは、PCRプライマーだけでなく、PCR技術によりバイオマーカー発現レベルを測る緩衝液、反応物および詳細な説明書をさらに含む。幾つかの実施形態において、前記キットはRNAサンプル以外に、テストプロトコルおよびテストに必要な全ての消耗構成要素もさらに含む。
【0076】
例示的なDNAマイクロアレイに基づく実施形態において、テストキットは、特定の機器と一緒に使用するように設計されたマイクロ流体カード(アレイ)を含む。任意的に、マイクロ流体カードは本発明のバイオマーカーを測るために特別に設計された、カスタマイズされた装置である。この種のカスタマイズマイクロ流体カードは市販で入手可能である。例えば、TaqManは384ウェルマイクロ流体カード(アレイ)であり、the Applied Biosystems7900HT Fast Real Time PCR System(Applied Biosystems、Foster City、CA)と一緒に使用するよう設計されている。マイクロ流体カードは、一種または複数種の他の遺伝子の発現を測れるよう、他のプローブを任意的に含むことができると理解すべきである。対照または標準品としての役割を果たせる(例えばデータの標準化に用いる)、あるいは上記以外の、さらには情報を提供するような他の遺伝子を含むことができる。
【0077】
幾つかの実施形態において、テストキットはIHCにより本発明のバイオマーカーの含有量を測定する材料を含む。例えば、IHCキットは本発明のバイオマーカーに対する一次抗体、およびレポーター酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ)と共役する二次抗体を含むことができる。幾つかの実施形態において、二次抗体は共役ポリマーで置き換えられ、前記ポリマーは一次抗体を特異的に見分ける。
【実施例0078】
以下の実例により本発明をさらに説明する。以下の実例は説明するためのものであり、如何なる方式においても本発明の範囲または内容を限定するものと理解されるべきではない。
【0079】
実施例1 CAN017に対する食道癌の異種移植成長の応答
以下の方式によりCAN017に対する食道癌の応答を評価した。
【0080】
食道癌患者の手術後に得られた新鮮な腫瘍組織を小さな腫瘍塊に分け、免疫不全マウス(BALB/cヌードマウス)に皮下接種し、腫瘍の成長状態を定期的に観察した。腫瘍が一定の体積に達した後、人道的な方法でマウスを屠殺し、腫瘍を新しいBALB/cヌードマウスに皮下接種した。腫瘍の成長状態に基づいて成長曲線をプロットするとともに腫瘍サンプルを収集し、凍結し、腫瘍組織を観察し、その後、次世代の接種が必要な時に蘇生させた。数世代を経て最適化させた後、食道癌の異種移植モデルの確立に成功した。当該モデルを9~11週齢の雌BALB/cヌードマウスの右側に皮下接種し、接種モデルの直径は2~3mmである。
【0081】
毎週2回、ノギスを用いて腫瘍を測った。下記式で腫瘍体積を計算した:幅x幅x長さ/2。腫瘍が約158mm3に達したとき、これらマウスをランダムに3組に分け、各組ともマウス10匹とした。一組は生理食塩水を投与し、一組はhIgG対照(20mg/kg体重)を投与し、別の一組はCAN017(20mg/kg体重)を投与した。3日毎に一回投与し、3週間腹腔内注射した。腫瘍体積およびマウス体重を毎週2回記録した。腫瘍成長は、生理食塩水対照と比較した阻害百分比として表される。
【0082】
要するに、CAN017により20個の食道癌の異種移植モデル(各モデルともマウス10匹)を処理し、その統計結果は
図12に示すとおりである。全20個の異種移植モデルに対するCAN017の平均阻害百分比は43.6%程度で、全20個の異種移植モデルに対する対照hIgGの平均阻害百分比は-5.5%であった。統計学分析結果は、hIgGと比べ、食道癌の異種移植モデルに対するCAN017の阻害百分比が有意レベル(P<0.01)に達したことを示した。これらの結果は、CAN017が食道癌腫瘍の成長を効果的に阻害できることを示した。
【0083】
CAN017に対する単一の食道癌の異種移植モデルの応答をさらに分析し、前記応答は-40%の腫瘍成長阻害(TGI)から腫瘍退縮までの範囲で変化したことが分かった。「腫瘍退縮」とは処理前の、評価期間の開始時の腫瘍のサイズに比べ、評価期間終了時に、腫瘍がさらに小さくなっていることを指す。達した腫瘍成長阻害に基づき、レスポンダー(TGI>70%と定義されるもの)および非レスポンダー(TGI<70%と定義されるもの)を識別した。評価された20個のモデルにおいて、9個はレスポンダー、11個は非レスポンダーであることが分かった([表1])。これらの組はCAN017応答の分子マーカーを識別できる。
【0084】
表1.20個の食道癌の異種移植モデルに対するCAN017の腫瘍成長阻害の結果およびそのNRG1の平均mRNA発現レベル
【表1】
【0085】
実施例2 バイオマーカーNRG1の発現レベルおよび閾値測定
以下の形態に基づき、RNAseqによりNRG1の発現レベルを測定した:腫瘍組織を急速凍結した後、RNeasy Mini Kit (Qiagen、番号74106)でRNAを抽出、精製し、その後、TruSeq(商標)RNA Sample Preparation Guide(Illumina、番号RS-930-2001)に基づき、精製した後のRNAを前処理し、それからメーカーの説明に基づき、HiSeq X System(Illumina)上でシーケンシングし、得られたデータをFPKMで標準化し(log2(FPKM+1)値で表示)、NRG1の発現レベルを取得した。
【0086】
CAN017で処理する前に20個の食道癌の異種移植モデル(平均各モデルともマウス10匹)中のNRG1発現レベル値を測定し、各モデルの平均NRG1発現レベルは[表1]に示されるとおりである。得られたNRG1発現レベル値に基づいて、受信者操作特性(ROC)曲線を生成し、CAN017腫瘍応答を予測するためのNRG1の閾値発現レベルを測定した。ROC分析結果は、NRG1の閾値発現レベルは2.05であることを示した。つまり、当該閾値発現レベルより高い場合、CAN017の腫瘍応答を予測する。実際、NRG1の発現レベルは、テストした大多数の異種移植モデルにおいてCAN017の応答結果と一致した(即ち、閾値発現レベル2.05以上はCAN017に対して応答があることを示す。閾値発現レベル2.05より低いのはCAN017に対して応答がないことを示す)。しかし食道癌の異種移植モデルES0026、ES2356およびES0215において、NRG1の発現レベルはいずれも閾値発現レベルより高いが、この3つの異種移植モデルは実際には、CAN017に対して応答しなかった。このように、NRG1はバイオマーカーとして、食道癌がERBB3抗体による処理に対して応答があるか否かをある程度予測するが、NRG1を単独で使用して予測する有効性は限定的であった。
【0087】
実施例3 本発明のバイオマーカーの発現レベルとCAN017応答との関係
実施例2に記載のRNAseq方法に基づき、20個の食道癌の異種移植モデル(平均各モデルともマウス10匹)中のSDC2、GNAZ、PTGES、NCF2、NOX1およびCARD6の発現レベルをそれぞれ測定し、ROC曲線により各バイオマーカーの閾値発現レベルを測定した。各バイオマーカーの閾値発現レベルの結果は以下のとおりである:SDC2の閾値発現レベルは4.9、GNAZの閾値発現レベルは1.1、PTGESの閾値発現レベルは2.75、NCF2の閾値発現レベルは2.6、NOX1の閾値発現レベルは2.7、CARD6の閾値発現レベルは1.0であった。
【0088】
各モデル中の各バイオマーカーの平均発現レベルに基づき、これらモデル中のCAN017腫瘍成長阻害をプロットし、回帰分析により各バイオマーカーの発現レベルと腫瘍成長阻害との相関性の有意性を検出した。結果は
図13~
図18に示すとおりである。
【0089】
具体的には、
図13に示されるように、腫瘍成長阻害およびSDC2発現の間に負の相関が観察された。より具体的に言えば、CAN017による処理後の腫瘍成長阻害の増加はSDC2発現の減少に関連する。回帰分析により、この種の相関には高度な統計学的意義(有意性F<0.05)があると分かった。
図14は腫瘍成長阻害およびGNAZ発現の間に負の相関があることを示している。即ち、腫瘍成長阻害はGNAZ発現レベルの増加に伴い減少し、この種の相関性は統計学上も有意である(有意性F<0.05)。
【0090】
図15~
図18はそれぞれ、腫瘍成長阻害およびNCF2、NOXA1、PTGES、CARD6発現の間に全て正の相関があることを示している。即ち、腫瘍成長阻害はこれらのバイオマーカー発現レベルの増加に伴い増加し、この種の相関性は統計学上も有意である(有意性F<0.05)。
【0091】
以上の結果は、本発明のバイオマーカーSDC2、GNAZ、PTGES、NCF2、NOX1およびCARD6中のそれぞれの発現レベルが腫瘍成長阻害と有意に相関することを示している。従って、これらバイオマーカーは全て、腫瘍がCAN017処理に対して応答があるか否かを予測するのに使用できる。
【0092】
実施例4 抗ERBB3の抗体CAN017に対する食道癌の異種移植モデルの応答
実施例3で得られた各バイオマーカーの閾値発現レベルに基づき、CAN017に対して応答があることを予測する異種移植モデルを選択するとともに、CAN017に対して応答がないことを予測する異種移植モデルを選択する。具体的には、閾値発現レベルが4.9であるSDC2に関して、高発現の異種移植モデルES0195およびES0204(SDC2発現レベルはそれぞれ5.8および5.2)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答がないと予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES0042およびES0190(SDC2発現レベルはそれぞれ0.6および4.3)を選択し、前記モデルがCAN017に対して応答があると予測した。同様に、閾値発現レベルが1.1であるGNAZに関しては、高発現の異種移植モデルES0201およびES2411(GNAZ発現レベルはそれぞれ1.3および1.9)を選択し、前記モデルがCAN017に対して応答がないと予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES0184およびES0199(GNAZ発現レベルはそれぞれ0.2および0.5)を選択し、前記モデルがCAN017に対して応答があると予測した。閾値発現レベルが2.6であるNCF2に関しては、高発現の異種移植モデルES0191およびES0176(NCF2発現レベルはそれぞれ5.1および3.2)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答があると予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES0204およびES0026(NCF2発現レベルはそれぞれ0.1および0.9)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答がないと予測した。閾値発現レベルが2.7であるNOXA1に関して、高発現の異種移植モデルES2311およびES0214(NOXA1発現レベルはそれぞれ2.98および3.9)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答があると予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES11087およびES0148(NOXA1発現レベルはそれぞれ2.14および1.6)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答がないと予測した。閾値発現レベルが2.75であるPTGESに関して、高発現の異種移植モデルES0159およびES0141(PTGES発現レベルはそれぞれ5.69および3.9)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答があると予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES10084およびES0172(PTGES発現レベルはそれぞれ0.55および1.7)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答がないと予測した。閾値発現レベルが1.0であるCARD6に関して、高発現の異種移植モデルES11069およびES0147(CARD6発現レベルはそれぞれ4.01および1.1)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答があると予測した。同時に、低発現の異種移植モデルES0212およびES0136(CARD6発現レベルはそれぞれ0.09および0.1)を選択し、前記モデルはCAN017に対して応答がないと予測した。
【0093】
実施例1に記載の方法に基づき、20mg/kgの抗体CAN017で上記選択した異種移植モデル(各モデルともマウス5匹)を処理し、3週間後、各モデルの腫瘍成長阻害状況を統計した。結果は[表3]に示すとおりである。
【0094】
表3.抗体CAN017で処理した異種移植モデルの結果統計。
【表2】
【0095】
以上のデータは、SDC2、GNAZ、PTGES、NCF2、NOX1およびCARD6の発現レベルを測ることによりCAN017による処理に対する腫瘍の応答を効果的に予測できることを示している。
【0096】
実施例5 本発明のバイオマーカーとNRG1の併用
本発明者はさらに、本発明のバイオマーカーとNRG1を併用すると、CAN017処理に対して腫瘍は応答があるかどうかを予測する正確性をさらに高められることを発見した。上記のように、単独のNRG1をマーカーとすると、食道癌の異種移植モデルES0026、ES2356およびES0215の応答(即ち、NRG1の発現レベルは閾値より高いが、CAN017で処理した後は応答がない(TGI<70%))を正確に予測できない。本発明者はこの3つのモデル中の本発明のバイオマーカーの発現レベルを測定した。結果は[表4]に示すとおりである。
【0097】
表4.異種移植モデルES0026、ES2356およびES0215中のバイオマーカーの発現レベル。
【表3】
【0098】
以上のデータはこの3つのモデルのうち、SDC2およびGNAZの発現レベルはいずれもその対応する閾値発現レベルより高く、NCF2およびNOXA1の発現レベルはいずれもその対応する閾値発現レベルより低いことを示している。これは、これらバイオマーカーにより予測するとき、異種移植モデルES0026、ES2356およびES0215はCAN017処理に対して応答がないと予測されたことを表す。言い換えれば、NRG1がその閾値発現レベルよりも高いとき、本発明のバイオマーカーの発現レベルを測ることは、CAN017処理に対して腫瘍は応答があるかどうかを予測する正確性をさらに高めることができることを表す(例えば、異種移植モデルES0026、ES2356およびES0215の場合に、本発明のバイオマーカーはCAN017処理に対して応答がないと正確に予測できると考えられる)。
【0099】
本発明者はさらに、TGIと正の相関を有する少なくとも一つのバイオマーカーおよびTGIと負の相関を有する一つのバイオマーカーを同時に用いると、正確率がさらに高くなることを発見した。20個の食道癌の異種移植モデルにおいてNRG1をマーカーとして単独使用した場合の予測の正確率は85%であり、GNAZをマーカーとして単独使用した場合の予測の正確率は90%であった。しかしNRG1およびGNAZをマーカーとして同時に使用した場合の予測の正確率は95%に達した(
図19)。
【0100】
実施例6 抗ERBB3の抗体11G01に対する食道癌の異種移植モデルの応答
他の抗ERBB3抗体に対する応答の予測方法を証明するために、作用メカニズムがCAN017と異なる抗ERBB3抗体(抗体11G01)により実施例4で選択された12個の食道癌の異種移植モデルを処理した。具体的には、20mg/kgの抗体11G01を用いて、選択した12個の食道癌の異種移植モデルを実施例1に記載の方式で処理し、3週間後に各モデルの腫瘍成長阻害百分比を統計した。結果は実施例4と同様であった(即ち、各バイオマーカーに基づいて予測した腫瘍の抗体に対する応答状況は実際に観察された腫瘍の抗体に対する応答状況と一致した。データは未表示)。これは、本発明のバイオマーカーは作用メカニズムがCAN017と異なる他の抗ERBB3抗体による処理に対する食道癌の応答を効果的に予測できることを示している。
【0101】
引用による結合
全ての目的から発し、本明細書で言及される特許文献および科学論文におけるそれぞれの完全な開示内容はいずれも引用により本明細書中に組み込まれる。
【0102】
均等物
本発明の精神または本質的特徴を逸脱することなく、他の具体的な形式で本発明を実施することができる。従って、上記の実施形態は全ての面において、本明細書で説明される本発明を限定するものとしてではなく、説明するものとして理解されるべきである。従って、本発明の範囲は、上記説明ではなく、附属の特許請求の範囲により指定されるものである。また、当該特許請求の範囲の均等的な意味および範囲内の全ての変更はこの中に含まれる。
前記バイオマーカーはNRG1をさらに含み、NRG1の発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であることを表す請求項1に記載の方法。
前記抗ERBB3抗体は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖可変領域、およびSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む請求項1または2に記載の方法。
前記抗ERBB3抗体は、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン重鎖、およびSEQ ID NO:10のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン軽鎖を含む請求項1または2に記載の方法。
前記バイオマーカーはNRG1をさらに含み、NRG1の発現レベルが前記閾値発現レベル以上である場合、前記食道癌は抗ERBB3抗体処理に対して感受性であることを表す請求項11に記載の使用。