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特開2023-22120機械的振動の検出による心臓の除細動のためのインプラント型医療装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022120
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】機械的振動の検出による心臓の除細動のためのインプラント型医療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20230207BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20230207BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61N1/39
A61B5/02 350
A61B5/11
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184497
(22)【出願日】2022-11-18
(62)【分割の表示】P 2019228169の分割
【原出願日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】18306762.8
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510166157
【氏名又は名称】ソーリン シーアールエム エス ア エス
【氏名又は名称原語表記】SORIN CRM S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ルーカ ヴィターリ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル クロワ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】心臓の異常および危険な不整脈の検出の感度および特異性が増大したインプラント型医療装置を提供する。
【解決手段】好適な実施形態の一例に従うインプラント型医療装置は、心臓除細動器であって、電気的除細動信号を生成するように構成されたインプラント型除細動器と、前記電気的除細動信号を患者に送るように構成されるインプラント型電極と、患者の心臓による機械的振動を検出し、検出された機械的振動に対応する電気信号である検出信号を提供するインプラント型センサ手段と、前記検出信号を分析して機械的振動を特徴付けるパラメータを決定し、該パラメータのみに基づいて、前記インプラント型除細動器の除細動動作を開始するように構成されるコントローラを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント型医療装置、特に心臓除細動器であり、
電気的除細動信号を生成するように構成されたインプラント型除細動器と、
前記電気的除細動信号を患者に送るように構成され、リードによって前記インプラント型除細動器に接続されたインプラント型電極と、
インプラント型センサ手段であって、特に患者の心臓による機械的振動を検出し、この機械的振動は心臓の血行力学的活動に関連する振動であり、検出された機械的振動に対応する電気信号である検出信号を提供するように構成されたインプラント型センサ手段と、
前記検出信号を分析して機械的振動を特徴付ける少なくとも1つのパラメータを決定し、このパラメータは検出信号の振幅、相関および形の少なくとも一つであり、機械的振動のみを特徴付ける決定された1つまたは複数のパラメータのみに基づいて、前記インプラント型除細動器の除細動動作を開始するようにまたは開始しないように構成されたコントローラと、
を備えるインプラント型医療装置。
【請求項2】
前記決定された1つまたは複数のパラメータは検出された信号の振幅、相関、形態、またはその対の存在のうちの少なくとも1つであり、ここでこの形態は検出信号のダブレットの存在を含める請求項1に記載のインプラント型医療装置。
【請求項3】
前記インプラント型センサ手段は、前記リードに配されるか、前記コントローラを備えるハウジング内に配される、請求項1または2に記載のインプラント型医療装置。
【請求項4】
前記インプラント型センサ手段は加速度計を備え、前記検出信号は加速度計信号であり、および/または、
前記インプラント型センサ手段は音響センサを備え、前記検出信号は音響信号である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項5】
前記コントローラは、機械的振動を特徴付けるパラメータ、特に加速度計信号の抽出された包絡線が所定の閾値未満である場合に、前記インプラント型除細動器に、電気除細動信号を患者に提供させるように構成される、請求項1から4のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項6】
追加の検出信号を得るために心音を検出するように構成された、特に前記リード内に配置された少なくとも1つの追加のセンサ手段をさらに備える請求項1~5のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【請求項7】
前記インプラント型センサ手段と前記追加のセンサ手段とは前記リード内の異なる位置に配置され、前記コントローラは前記追加のセンサ手段によって得られた追加の検出信号に基づいて前記インプラント型除細動器の動作を制御するように構成される請求項6に記載のインプラント型医療装置。
【請求項8】
前記コントローラは機械的振動を特徴付けるパラメータとして前記検出信号と前記追加の検出信号との間の相関を決定するように、および/または前記検出信号と前記追加の検出信号との信号対雑音比を決定するように構成される請求項7に記載のインプラント型医療装置。
【請求項9】
前記コントローラは、第1の電気除細動信号が送達された後に得られる前記検出信号を分析し、前記検出信号に基づいて前記インプラント型除細動器の動作を制御するように構成され、該制御することは、前記分析した前記検出信号に基づいて第2の電気除細動信号が送達されるか否かを制御することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のインプラント型医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は特に、例えば頻脈性不整脈を治療するための患者の心臓の除細動のためのインプラント型医療装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓頻拍性不整脈はますます多くの患者が苦しんでいる重篤な健康問題を表す。特にうっ血性心不全に罹患している患者は、特に基礎疾患が冠状動脈疾患、心筋症、僧帽弁逸脱、または他の弁性心疾患の形態である場合に、心房細動(AF)、心室頻拍性不整脈(心室頻拍(VT)および心室細動(VF))、および心房粗動のような頻拍性不整脈のリスクが増加している。交感神経活性化はまた、心臓内、心臓上、または心臓周辺の交感神経線維のニューロン作用による頻脈性不整脈のリスクおよび重症度を有意に増加させ、エピネフリン(アドレナリン)の剥離を介して、これは既に上昇した心拍数を悪化させ得る。
【0003】
VTは心室組織またはプルキンエ線維のいずれかの下部心臓においてのみ生じる。VTの間、心室内の電気信号は異常に発火し始め心室収縮の急速な速度を引き起こし、その速度は心臓が適切に満たすことができないほど速く、それによって前方流を実質的に減少させ、その結果大動脈弁を通って末梢血管系に排出される血液の体積が劇的に減少する。脳および他の重要な器官系はそれらの生物学的完全性を維持するために適切な血液潅流を必要とするので血流のこの突然の減少は直ちに有害な結果を有し得る。血液が欠乏すると短期間であっても生命維持に必要な器官系が損傷を受ける可能性がある。脳は心拍出量の減少に対して特に敏感である。最初にVTの間のような低流量状態の間に脳の電気システムが影響を受け患者の意識が損なわれることがある。この低流動状態が数分間持続するかまたは全く持続しない場合、脳組織損傷が始まる。6~8分後、この損傷は永続的になり得、そしてVTによって引き起こされる血行力学的障害が直ちにそして決定的に矯正されない限り最終的に慢性の障害または死を導き得る。VT中、心室内を循環する活動電位は、洞房(SA)節からの活動電位の正常な伝播と衝突し干渉し、結果として生じる急速な心拍数は心腔を時期尚早に収縮させ、十分に満たさず、したがって適切な血流を妨げ潜在的に致死的な血行力学的障害を引き起こす。
【0004】
したがってVTは生命を脅かす危険性を呈し、VF、全収縮、および突然の心臓死に変性する可能性がある。VTおよびVFの両方、ならびに他の形態の潜在的に生命を脅かす頻脈性不整脈は心臓を正常な洞調律に回復させるために迅速に処置されなければならない。VTを治療するための現在の標準的なケアには医学的緊急性が高まる順に、抗不整脈薬、カルディオバージョン、高周波アブレーション、および心臓手術が含まれる。
【0005】
特許文献1は心不全患者の心機能を改善するための迷走神経刺激を開示している。自律神経は多腔心内膜刺激およびショック療法を送達するのに適した3つのリードによって心臓と電気的に連絡する刺激装置を使用して心機能に影響を及ぼすように刺激される。刺激装置がインプラント型除細動器(ICD)として動作するように意図される場合、装置は不整脈の発生を検出し、検出された不整脈を終了させることを目的とした治療を心臓に適用する。除細動ショックは一般に中程度から高エネルギーレベルであり、非同期的に送達されそして専ら細動の処置に関連する。
【0006】
特許文献2および特許文献3は共に心臓下閾値迷走神経刺激を開示している。迷走神経刺激器は虚血に起因する損傷を抑制または低減するために、迷走神経に伝達される心臓閾値未満の電気パルスを生成するように構成される。不整脈検出のために心臓刺激装置は心房および心室感知回路を利用して心臓信号を感知し、リズムが生理的であるか病的であるかを判定する。低エネルギーカルディオバージョンでは、ICD装置は典型的にはQRSと同期してカルディオバージョン刺激を送達し、したがってT波の脆弱な期間を回避しVFの開始の危険性の増大を回避する。一般に抗頻拍ペーシングまたはカルディオバージョンが頻拍を終了させない場合、例えばプログラムされた時間間隔の後または頻拍が加速する場合ICD装置は除細動治療を開始する。
【0007】
特許文献4は電気雑音またはアーチファクトの存在のために、複数の皮下非胸腔内電極によって明確な電気心臓信号を識別することができない場合に、関心のある信号を迅速に探索するために心臓音の音響信号などの心臓電気活動とは独立した信号を感知する非電気生理学的ソースセンサを使用するICD装置を開示する。信号プロセッサは検出窓を使用して複数の電気信号から心臓信号を識別するために、非電気生理学的信号の使用から決定された開始時間に検出窓を開始するように構成される。
【0008】
しかしながらインプラント型除細動器における最も重要な機能の1つは、頻脈性不整脈事象の高感度かつ特異的な検出を保証することである。ショックパルスのタイムリーな送達を提供し可能な限り迅速に患者を洞調律に戻すために良好な感度が必要とされる。同時にいくつかの重大な悪影響を有することが知られている不必要な除細動ショックを最小限に抑えることが非常に重要である。したがってインプラント型医療装置はその検出アルゴリズムにおいて良好な特異性を有する必要がある。当技術分野では心臓電気信号(表面心電図または心臓内心電図)を使用して即時介入を必要とする頻拍事象と、ショック送達が遅延されるか、または全く回避される可能性さえある他の事象とを区別する。しかしながら電気信号の分析に基づいて除細動を行うか否かの決定は十分に信頼できるものであるとは証明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,277,761号明細書
【特許文献2】米国特許第7,813,805号明細書
【特許文献3】米国特許第7,869,869号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0098587号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に鑑みて本開示の目的は、当技術分野と比較して心臓の異常および危険な不整脈の検出の感度および特異性が増大したインプラント型医療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の問題は電気的除細動信号を生成するように構成されたインプラント型除細動器と、リードによってインプラント型除細動器に接続され患者に電気的除細動信号を送達するように構成されたインプラント型電極と、患者の心臓による機械的振動を検出し、検出された機械的振動に基づいて検出信号を提供するように構成されたセンサ手段、特にインプラント型センサ手段と、機械的振動を特徴付ける少なくとも一つのパラメータを決定するための検出信号を分析し、そしてインプラント型除細動器の除細動動作または検出信号を分析して機械的振動を特徴付ける少なくとも1つのパラメータを決定し、機械的振動のみを特徴付ける決定された1つまたは複数のパラメータに基づいて、インプラント型除細動器の除細動動作を開始するようにまたは開始しないように構成されたコントローラとを備えたインプラント型医療装置、特に心臓除細動器によって対処される。
【0012】
機械的振動は特に心音に関連し得ることが理解されるべきである。心音の検出はそれに関連する振動の検出を介して達成することができ、心音の検出は音響信号または振動信号に基づくことができる。一変形例によれば、センサ手段はインプラント可能なセンサ手段であってもよく、または別の変形例によれば、センサ手段は患者の皮膚に取り付け可能である。
【0013】
したがって本明細書では、機械的振動は心臓の血行力学的活動に密接に関連する。通常のサイクルの間、心臓弁はリズミカルに開閉し、心音の主要な決定要因の1つである特徴的な振動を生成する。心臓弁の開閉は弁セクションを横切る血流によって駆動されるので、心音の存在は血管系における血流の存在に関連付けられ得、逆もまた同様であり、心音の不在は血液循環の欠如および結果として組織潅流の欠如を示し得る。したがって特許文献4とは異なり、非電気生理学的信号は電気心臓信号が探索されるべき時間窓を決定するために使用されず、電気ショックを供給することが適切である状況と即座の動作が必要でない状況との間の信頼できる識別のためにコントローラによって直接使用される。特に例えば心内膜加速度トレースに記録された心音は洞調律または血行力学的に安定なVTエピソードの間に生じる振幅と比較して、血行力学的に不安定な心室頻拍(VT)事象の間に有意に減少した振幅を有する(以下の図1の詳細な説明を参照のこと)。したがって特に心内膜加速度トレースにおける心音の振幅の分析に基づいてインプラント型除細動器の動作を制御することができる。特許文献4における非電気生理学的信号の欠如は感知された電気信号が電気雑音に関連することを示すが、本発明によるこのような信号の欠如は患者の心臓の不十分な収縮に関連するので除細動動作をトリガする。
【0014】
さらにコントローラは追加の検出信号、特に電気的な心臓信号がないことに基づいてインプラント型除細動器の動作を制御するように構成される。したがってインプラント型除細動器の動作は機械的振動を特徴付ける少なくとも1つのパラメータのみに基づく。この実施形態におけるインプラント型除細動器の動作は検出された音響信号のみの分析に基づいて制御される。
【0015】
一実施形態によれば、決定されたパラメータは、振幅、相関、特に自己相関、形態、例えば検出された信号におけるダブレットの存在のうちの少なくとも1つとすることができる。例えば音響信号の振幅が所定の第1の閾値を下回る場合、除細動信号が患者に送達されてもよい。ここで形態は、信号の形状、例えば信号の幅、ダブレットの存在などに関連する。
【0016】
心臓によって生成される振動は適切なセンサによって検出および測定することができ、信号に含まれる情報はいくつかの目的のために処理および利用可能にすることができる。センサ手段は使用時に心臓内または心臓に近接するように、または例えばコントローラを備えるハウジング内でリードから分離するようにリード内に配置することができる。例えばインプラント型センサ手段は検出された音響信号を取得するための音響センサ、および/または加速度計信号を取得するための加速度計を備えることができる。
【0017】
上述の実施形態の全てにおいて、検出信号の分析は例えば加速度計によって取得された検出信号の包絡線を抽出すること、および/または抽出された包絡線を機械的振動を特徴付けるパラメータとして使用することを含むことができる。例えばコントローラは、機械的振動を特徴付けるパラメータ、特に抽出された包絡線、例えば加速度計信号の包絡線が所定の閾値、例えば第1の所定の閾値を下回る場合に除細動器に電気除細動信号を患者に送達させるように構成されてもよい(以下の詳細な説明も参照)。閾値化は治療ショックが送達されなければならないかどうかの決定を容易にするための信頼できる手段と考えることができる。検出信号自体の代わりに検出信号の相関値に基づく同じまたはパラメータの抽出された包絡線が閾値との比較のために使用されてもよい(以下も参照)。形態、例えば信号の幅または信号のダブレットの存在もまた必要な情報を送達することができる。
【0018】
上述の実施形態の全てにおいて、心音を検出するように構成された2つ以上のセンサ手段が提供されてもよく、例えば機械的振動を検出し追加の検出信号を提供するように構成された少なくとも1つの追加のセンサ手段がリード内に配置されてもよい。機械的振動を検出するように構成された2つ以上のセンサ手段がリード線内の異なる位置に配置されてもよい。コントローラは追加のセンサ手段によって得られた追加の検出信号に基づいて除細動器の動作を制御するように構成されてもよい。この場合コントローラは感度および特異性をさらに向上させるために検出信号と追加の検出信号との間の相関、および/または検出信号と追加の検出信号との信号対雑音比に基づいて機械的振動を特徴付けるパラメータとして除細動器の動作を制御するように構成されてもよい。
【0019】
さらなる実施形態によれば、コントローラは第1の電気除細動信号が患者に送達された後に取得された検出信号を分析し、分析された検出信号に基づいて第2の電気除細動信号が患者に送達されるかまたは送達されないように検出信号に基づいてインプラント型除細動器の動作を制御するように構成され得る。例えば分析された検出信号に基づいて除細動器および電極によって患者の不安定な心室頻拍(VT)または心室細動(VF)に送達された治療ショックの後に終了したかどうかを決定することができる。不安定なVTまたはVFの終了が達成されていない場合コントローラは除細動器に別の治療ショックを送達させることができる。さもなければ付加的な衝撃を不必要に与えることを回避することができる。
【0020】
本開示のさらなる特徴および利点を図面を参照して説明する。本明細書では本開示の好ましい実施形態を例示することを意図した添付の図面を参照する。このような実施形態は本開示の全範囲を表すものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】洞調律、安定心室頻拍および不安定心室頻拍および対応する検出信号に対する左心室圧および左心室圧上昇率を示す。
図2】本発明の一例による、心音を検出するための単一のセンサ手段、特に加速度計を備えるインプラント型医療装置の構成を示す。
図3】本発明の一例による、心音を検出するための2つのセンサ手段、特に2つの加速度計を備えるインプラント型医療装置の構成を示す。
図4】検出信号の分析に関連した包絡線抽出および閾値化を示す。
図5】例示的な実施形態によるインプラント型装置の動作を示す流れ図である。
図6】別の例示的な実施形態によるインプラント型装置の動作を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下添付図面を参照して本開示を説明する。さまざまな構造、システム、および装置が単に説明の目的のためにおよび当業者に周知の詳細で本開示を不明瞭にしないように図面に概略的に示されている。それにもかかわらず添付の図面は本開示の例示的な実施例を説明発明説明するために含まれる。本明細書において使用される語句は関連技術の当業者が理解している意味と同じ意味に使用されていると理解および解釈すべきである。用語またはフレーズの特別な定義、すなわち当業者によって理解されるような通常の意味または慣習的な意味とは異なる定義は、特に明記しない限り本明細書における用語またはフレーズの一貫した使用によって暗示されることを意図していない。
【0023】
以下の実施形態は当業者が本開示を利用することを可能にするのに十分詳細に説明される。本開示に基づいて他の実施形態が明らかであり、システム、構造、プロセス、または機械的変更が本開示の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。以下の説明では本開示の完全な理解を提供するために数字固有の詳細が与えられる。しかしながら本開示の実施形態は特定の詳細なしに実施されてもよいことは明らかであろう。本開示を曖昧にすることを避けるためにいくつかの周知の回路、システム構成、構造構成、および工程方法は詳細には開示されない。
【0024】
本明細書では事象の検出に応答して治療電気信号を送達することができるインプラント型医療装置が開示される。事象は不安定な心室頻拍(VT)または心室細動(VF)であり得る。事象は心音に関連する機械的振動に基づいて検出される。一般に心臓収縮の有効性は心音の機械的振動を検出することによって決定することができる。
【0025】
図1は洞調律、安定VTおよび不安定VTのそれぞれの特性を示す。上段には心電図信号が示されている。心電図信号は安定および不安定なVTレジームにおいて洞調律とは有意に異なるが、安定VTと不安定VTとの間の信頼できる区別は心電図信号に基づいては不可能である。図1の2列目と3列目には、洞調律、安定心室頻拍、不安定心室頻拍の左心室圧と左心室圧上昇率が示されており、不安定VTレジームでは血流はほとんど存在しないことがわかる。これは心臓雑音の検出に基づいて不安定なVTを検出するために使用することができる。図1の最下列に見られるように、EAトレースに記録された心音は安定なVTおよび洞調律レジームと比較して不安定なVTレジームにおいて有意に低減される。原則として心音は互いにまたは別の音響複合体存在(S3、S4)に関して、第1の心音(S1)複合振幅、第2の心音(S2)複合振幅、S1および/またはS2タイミングとしてのパラメータに基づいて電気ショックが患者に送達されることを必要とする事象を検出するために分析されてもよい。
【0026】
したがって機械的振動の検出に基づいて治療電気信号を送達することができる。例えば患者にインプラントされた心臓除細動器が起動される。さらにショックの送達後の洞調律(または他の血行力学的に安定な状況)への復帰は心音に関連する検出された機械的振動に基づいて確認され得る。それによって状況の疑わしい解釈の場合に別のショックを送達することを回避することができ、または最初のショックが洞調律を回復するのに効果的でなかった場合、またはVTが安定状態から不安定状態に変性した場合に別のショックの送達を加速することができる。
【0027】
図2は本開示の実施形態による、皮下インプラント型心臓除細動器(S―ICD)の形態のインプラント型医療装置を示す。この装置は除細動器ユニット20とデータ処理ユニットとも呼ばれるコントローラ21とを含む。
【0028】
除細動器20は神経内で求心性および遠心性の両方に伝播する活動電位をトリガすることによって、自律神経調節機能を改善するように調整された電気パルス発生器を含んでもよい。除細動器ユニット20はチタンなどの生体適合性材料で構成された密封ハウジング内に封入されてもよい。ハウジングは一フッ化リチウム炭素一次電池または再充電可能な二次電池などの電池によって電力供給される電子回路を含むことができる。
【0029】
電子回路はシステム電力を調整する電圧レギュレータ、論理、および制御回路を含むことができる相補型金属酸化膜半導体集積回路を使用して実装することができ、この回路はシステム電力を調整する電圧レギュレータ、論理、および制御回路を含み、この制御回路は内部に除細動パラメータが格納されパルス発生器機能全体を制御し、外部プログラマまたは他の外部ソースからプログラミングコマンドを受信および実装し、遠隔測定情報を収集および格納し、感覚入力を処理し、スケジュールされたおよび感覚ベースの治療出力を制御し、無線周波数信号を使用して外部プログラマと遠隔通信するトランシーバ、プログラミング命令を受信し、遠隔測定情報を外部プログラマに送信するアンテナ、ならびに外部プログラマ、単純な患者磁石、または電磁コントローラを使用して除細動器20の動作への遠隔アクセスを提供するリードスイッチまたは磁石の存在を検出する他の手段を含む。
【0030】
データ処理ユニット/コントローラ21は、記憶された除細動パラメータおよびタイミングサイクルに従って制御プログラムを実行するように構成される。電極26はリード線22を介して除細動器20に接続されている。電極26は例えば螺旋電極、プローブ電極、カフ電極などの様々な形態で提供されてもよい。一対のこのような電極を設けてもよい。一例によれば、除細動器20のハウジングはリターン電極として機能することができる。動作中、電極26は胸骨上の皮下に配置されてもよく、一方除細動器20は皮下ポケット内に横方向に埋め込まれてもよい。電極26は患者の迷走神経に取り付けることができる。
【0031】
図2に示す例では、センサ手段23がリード22内に配置されている。センサ手段23は心臓から来て胸骨に衝突し、リード線に伝達される機械的振動を検出するための加速度計または音響センサとすることができる。センサ手段23は検出された振動に基づいて検出信号を供給する。検出信号は機械的振動を表す少なくとも1つのパラメータを決定するために除細動器20に設けられたデータ処理ユニット/コントローラ21によって処理(分析)することができる。検出信号の処理は少なくとも部分的に周波数領域で実行されてもよく、すなわち検出信号は例えば(移動窓)FFTまたはウェーブレット変換によってある倍―周波数処理を受ける。図2に示す実施形態では、データ処理ユニット/コントローラ21は一定または可変利得を有する増幅手段24―aと、時定数または時調整可能フィルタ係数を有するフィルタリング手段24―bと、包絡線抽出手段24―cと、閾値化手段24―dと、決定手段24―eとを備える。
【0032】
増幅手段24―a(例えばセンサ手段23を作動させるために電力供給またはバイアス回路に結合されている)は、センサ手段23によって得られた検出信号を増幅する。フィルタリング手段24―bはバンドパスフィルタを含むことができる。包絡線抽出手段24―cは検出信号の包絡線を抽出し、それによって後に実行される閾値処理を容易にする。(全波)整流手段は負のピークを正のピークにまたはその逆に変換するために包絡線抽出手段24―cの上流に設けられてもよい。抽出された包絡線は閾値化手段24―dによって所定の閾値と比較される。
【0033】
比較結果に基づいて決定手段24―eは除細動器20の動作、すなわち患者への治療電気信号の送達を引き起こすかまたは引き起こさない。特に決定手段24―eは抽出された包絡線が所定の閾値を下回った場合に、仮定された血行力学的に不安定な頻拍または心室細動を終了させるために除細動器20に電気ショックを供給させる。この場合心臓は血管系に血液を適切に送り込んでいない。所定の閾値は固定されていてもよいし動的に調整可能であってもよい。特に閾値レベルは検出信号の特定の特性に比例してもよく、動的に評価されてもよく(例えば特定の時間窓にわたって平均化された電力など)、ベースラインに対して固定または可変のオフセットを有してもよく、雑音レベルまたは動的に評価される検出信号の別のパラメータを有してもよく、閾値は、1つまたは2つの限界(クランピング)内に含まれるように強制されてもよく、原加速度計信号からまたは閾値と比較される信号とは異なる方法で(例えば異なるフィルタを用いて)処理される加速度計信号から計算されてもよい。
【0034】
閾値処理手段24―dはヒステリシスを使用することができ、低から高への遷移が行われると高から低への遷移が所定の時間の前に生じないような遅延を有することができる。これはいくつかの遷移を併合するために有用であり得、その結果一連のパルスよりむしろ連続的な高レベルは心臓が良好に機能しているときに生成され得、一方連続的な低レベルは血液循環の非存在下で生成され得る。閾値処理手段24―dはまた、あるホールドオフ期間すなわち新しいパルスが生成され得る前のパルスの終了後の所定の期間を使用してもよい。
【0035】
決定手段24―eはセンサ手段23のみによって提供される検出信号に基づいて出力を提供する。一例として加速度計または音響センサ情報は識別可能な心電図複合体の存在(または不在)に関連する情報と統合することができる。
【0036】
図3図2に示したものと同様であるが、電極36を除細動器30に接続するリード線32に設けられた2つのセンサ手段33―aおよび33―bを含む装置を示す。除細動器30は、2つのセンサ手段33―aおよび33―bによって提供される検出信号を増幅するための一定または可変利得を有する2つの増幅手段34―aおよび34―bと、増幅された検出信号をフィルタリングするための時定数または時調整可能フィルタ係数を有する2つのフィルタリング手段34―cおよび34―dと、増幅されフィルタリングされた検出信号を結合するための結合手段34―eと、結合され増幅されフィルタリングされた検出信号を処理するためのさらなる処理手段34―fとを備える処理手段/コントローラ31と、包絡線抽出および閾値化を備えることができる決定手段34―eとを備える。増幅されフィルタリングされた結合検出信号の処理は図2を参照して説明した増幅され、フィルタリングされた検出信号の処理と同様であってもよく、2つのセンサ手段は加速度計および/または音響センサであってもよい。
【0037】
図3に示される2つ以上のセンサ手段(33―a、33―b)を含む構成は、図2に示される1つのセンサ手段(23)を含む構成に関していくつかの利点を提供することができ、一方2つ以上のセンサ手段が提供される場合複雑さが増加する。図3に示される構成ではセンサ手段33―aおよび33―bによって得られる検出信号の品質係数(例えばベースライン雑音とピークとの間の比率)が決定されてもよく、判定結果に基づいて検出信号のうちの1つまたは検出信号の結合部分のみがさらに処理されてもよい。このようにして装置は例えば患者の体内のリード位置、または患者ごとの特性の変化に起因して加速度計と機械的振動との結合における可能な差異に関してその弾性を改善することができる。装置は単に1つ以上のセンサ手段を遮断する代わりに、例えば相関プロセスを介して別々の信号を1つの信号に結合することができ、それによって結果として得られる信号は2つ以上の個々の加速度計間の相関レベルに比例する。これは実際の心臓信号とセンサ手段の1つには現れるが他のセンサ手段には現れない可能性がある外来起源の雑音との間のより良好な識別を可能にすることができる。
【0038】
図2に示す構成および図2に示す構成の両方で既に説明したように、(結合された)検出信号の包絡線を抽出することができる。図4は検出信号の包絡線(破線)を示す。信号は閾値と比較することができる。比較の結果は図4の下部にバイナリ表現で示されている(包絡線についての「0」は閾値を超えない、包絡線についての「1」は閾値を超える)。これにより安定したVTは除細動器20、30の作動を必要とする不安定なVT(閾値未満の包絡線)と確実に区別することができる。
【0039】
図2および図3に示す実施形態では、センサ手段23または33―a、33―bは使用時に心臓内または心臓に近接するようにリード線内に配置される。変形例によれば、センサ手段は例えばコントローラ21、31を備える除細動器ユニット20、30のハウジング内に配置されてリード線とは別個に配置されてもよい。さらなる変形例によれば、センサ手段は例えばパッチに組み込まれた、または接着テープによって固定可能なインプラント不可能なセンサ手段であってもよい。
【0040】
図2および図3に示される装置の例示的な動作モードは図5および図6に示される。図5に示すプロセスの流れは50で開始する。図示の例では電気ショックが送出されるべきか否かの決定は加速度計または音響センサ信号または心音を検出するセンサ手段によって得られる他の検出信号に基づいて行われ(それぞれ図2および図3の23および33―aおよび33―b参照。
【0041】
方法52では加速度計または音響信号または心音または心音の包絡線を検出するセンサ手段によって得られる他の検出信号が所定の閾値を超えるか否かが決定される(図2~4の説明も参照)。有意なパルスが存在すると判定された場合、したがって閾値を超えると(YES)、血行力学的に安定なVTが存在し特別なことは起こらないと仮定される。閾値が検出信号またはその包絡線によって超えられない(NO)と判定された場合、血行力学的に不安定なVTまたはVFが存在すると仮定され、図2および図3を参照して説明した判定手段は仮定された血行力学的に不安定なVTまたはVFを終了させるために除細動器20、30が電気ショックを送達しなければならないと判定する(53)。
【0042】
図2および図3に示す装置の別の動作モードを図6に示すがこの手順は60から開始する。61において治療用電気除細動信号が患者に送達されるかどうかが決定される。この治療用電気除細動信号の送出は、例えば図5を参照して説明したように決定することができる。治療用電気除細動信号が送達された後(YES)、任意選択で正常な心調律が回復されることを可能にするために治療用電気除細動信号は所定の期間待機される(61)。
【0043】
方法63(図5の方法52と同様)では加速度計または音響センサ信号(または心音を検出するセンサ手段によって得られる他の検出信号)またはその包絡線が所定の閾値を超えるかどうかが判定される。その信号またはその包絡線が所定の閾値を超え(YES)、以前に送達された治療電気除細動信号に応答して弁の周期的な開閉を示す場合、不安定なVTまたはVFは首尾よく終了したと宣言され得、アルゴリズムは例えば次の事象が来るのを待つ待機状態に進むことができる。反対にその信号が閾値より下にある場合(NO)、VTまたはVFの成功しなかった終了が仮定され得る。この場合別の治療電気除細動信号(電気ショック)を患者に送達することができる。
【0044】
前述の実施形態はすべて限定を意図するものではなく本発明の特徴および利点を示す例として役立つ。上記の特徴および実施形態のいくつかまたはすべては異なる方法で組み合わせることもできることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6