(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002218
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】防火窓
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20221227BHJP
E06B 5/16 20060101ALI20221227BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C03C27/12 P
E06B5/16
E04B1/94 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103309
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山田 暁仁
(72)【発明者】
【氏名】長壽 研
【テーマコード(参考)】
2E001
2E239
4G061
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA32
2E001HA11
2E001HD11
2E001HD13
2E239CA01
2E239CA22
2E239CA30
2E239CA32
2E239CA43
2E239CA45
2E239CA46
2E239CA53
2E239CA61
4G061AA28
4G061BA01
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】遮炎性能を高めることを可能にした防火窓を提供する。
【解決手段】防火窓11は、合わせガラス12と、窓枠13とを備える。合わせガラス12は、第1板ガラス12a及び第2板ガラス12bと、第1板ガラス12aと第2板ガラス12bとの間に配置される樹脂層12cとを有する。防火窓11は、合わせガラス12の両主面S1,S2のうち、例えば、第1主面S1に向かい合うように配置され、合わせガラス12を固定するための押縁14と、押縁14を窓枠13に取り付ける取付部材15とを備える。取付部材15は、押縁14よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる軸部15aと、軸部15aの両端にそれぞれ接続される第1固定部15b及び第2固定部15cとを有する。防火窓11は、取付部材15の第1固定部15bが窓枠13に固定され、取付部材15の第2固定部15cが押縁14に固定される取付構造18を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の板ガラスと前記二枚の板ガラスの間に配置される樹脂層とを有する合わせガラスと、
前記合わせガラスが取り付けられる窓枠と、
前記合わせガラスの両主面のうち、少なくとも一方の主面に向かい合うように配置され、前記合わせガラスを固定するための押縁と、
前記押縁を前記窓枠に取り付ける取付部材と、を備える防火窓であって、
前記取付部材は、前記押縁よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる軸部と、
前記軸部の両端にそれぞれ接続される第1固定部及び第2固定部と、を有し、
前記取付部材の前記第1固定部が前記窓枠に固定され、
前記取付部材の前記第2固定部が前記押縁に固定される取付構造を備える、防火窓。
【請求項2】
前記押縁が中空である、請求項1に記載の防火窓。
【請求項3】
前記窓枠は、下枠と、上枠と、前記下枠の長手方向の両端部と前記上枠の長手方向の両端部とをそれぞれ接続する一対の縦枠と、を有し、
前記取付構造を構成する前記窓枠は、前記下枠を含む、請求項1又は請求項2に記載の防火窓。
【請求項4】
前記取付部材における前記軸部の熱膨張係数と、前記押縁の熱膨張係数との差は、10×10-6/K以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の防火窓。
【請求項5】
前記取付部材の前記軸部の長さ寸法は、15mm以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の防火窓。
【請求項6】
前記押縁は、前記窓枠と接触した状態で前記窓枠に取り付けられる、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の防火窓。
【請求項7】
前記取付部材は、前記軸部と前記第1固定部と前記第2固定部とが同じ材料からなる一体成形品である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の防火窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火窓に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、合わせガラスと、合わせガラスが取り付けられる窓枠とを備える防火窓が知られている。合わせガラスは、二枚の板ガラスと、二枚の板ガラスの間に配置される樹脂層とを有している。このような防火窓の合わせガラスが火炎によって加熱されると、合わせガラスの樹脂層が溶融したり熱分解したりすることで、液状物又は揮発物が生成される。二枚の板ガラスの間に存在する液状物又は揮発物は、板ガラスに不要な外力を与えることで板ガラスを破損させるおそれがある。そこで、特許文献1の防火窓では、窓枠に液状物又は揮発物を排出する排出孔を設けることで、二枚の合わせガラスの間からの液状物又は揮発物の排出を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような合わせガラスを備える防火窓では、防火窓で区画される一方の空間で火災が発生した場合、合わせガラスの樹脂層から生成した液状物又は揮発物が二枚の板ガラスの間から合わせガラスと窓枠との間に排出される。このような液状物又は揮発物が、上記火災が発生した空間とは反対側となる非加熱側の空間に流入すると、その空間で液状物又は揮発物が燃焼し、防火性能が損なわれる場合がある。すなわち、防火窓の遮炎性能を高めるためには、上記液状物又は揮発物の非加熱側の空間への流入を抑えることが重要である。
【0005】
本発明の目的は、遮炎性能を高めることを可能にした防火窓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する防火窓は、二枚の板ガラスと前記二枚の板ガラスの間に配置される樹脂層とを有する合わせガラスと、前記合わせガラスが取り付けられる窓枠と、前記合わせガラスの両主面のうち、少なくとも一方の主面に向かい合うように配置され、前記合わせガラスを固定するための押縁と、前記押縁を前記窓枠に取り付ける取付部材と、を備える防火窓であって、前記取付部材は、前記押縁よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる軸部と、前記軸部の両端にそれぞれ接続される第1固定部及び第2固定部と、を有し、前記取付部材の前記第1固定部が前記窓枠に固定され、前記取付部材の前記第2固定部が前記押縁に固定される取付構造を備える。
【0007】
上記構成の防火窓では、上記押縁側となる空間の火炎によって防火窓の取付部材が加熱される。取付部材は、その軸部が軸線方向に沿って熱膨張し、伸長する。このとき、取付部材の軸部は、押縁よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる。このため、押縁よりも取付部材が大きく膨張し、取付部材の第2固定部が固定された押縁が、取付部材の第1固定部が固定された窓枠から離間するように移動する。これにより、窓枠と押縁との間に隙間が形成される。このように形成された隙間から、液状物又は揮発物が加熱側の空間に排出され、非加熱側の空間への液状物又は揮発物の流入を抑えることができる。その結果、非加熱側での延焼を抑制することが可能となる。
【0008】
上記防火窓において、前記押縁は中空であってもよい。この構成によれば、取付部材の第2固定部が固定された押縁が、取付部材の第1固定部が固定された窓枠から離間するように移動する際に形成される窓枠と押縁との隙間を大きくすることができる。これにより、液状物又は揮発物を加熱側の空間により排出させることができる。
【0009】
上記防火窓において、前記窓枠は、下枠と、上枠と、前記下枠の長手方向の両端部と前記上枠の長手方向の両端部とをそれぞれ接続する一対の縦枠と、を有し、前記取付構造を構成する前記窓枠は、前記下枠を含んでもよい。
【0010】
この構成によれば、下枠と合わせガラスとの間の空間内の液状物を下枠と押縁との間の隙間から加熱側の空間に排出させることができる。これにより、非加熱側の空間への液状物の流入を抑えることができる。
【0011】
上記防火窓において、前記取付部材における前記軸部の熱膨張係数と、前記押縁の熱膨張係数との差は、10×10-6/K以上であってもよい。
この構成によれば、火災の発生時に窓枠と押縁との間に形成される隙間をより大きくすることができる。これにより、加熱側の空間への液状物又は揮発物の排出を促進することが可能となる。
【0012】
上記防火窓において、前記取付部材の前記軸部の長さ寸法は、15mm以上であってもよい。この構成によれば、火災の発生時に窓枠と押縁との間に形成される隙間をより大きくすることができる。これにより、加熱側の空間への液状物又は揮発物の排出を促進することが可能となる。
【0013】
上記防火窓において、前記押縁は、前記窓枠と接触した状態で前記窓枠に取り付けられてもよい。この構成によれば、火災の発生前の防火窓の使用時において、例えば、窓枠と押縁との境界が視認され難くなる。これにより、防火窓の外観の品位を保つことができる。また、火災の発生前の防火窓の使用時において、例えば、窓枠と押縁との隙間に水や異物が侵入することを抑えることができる。
【0014】
上記防火窓において、前記取付部材は、前記軸部と前記第1固定部と前記第2固定部とが同じ材料からなる一体成形品であってもよい。この構成によれば、例えば、取付部材を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、防火窓の遮炎性能を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】火災が発生した場合の防火窓の作用を説明する部分断面図である。
【
図5】火災が発生した場合の防火窓の作用を説明する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、防火窓の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0018】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の防火窓11は、合わせガラス12と、合わせガラス12が取り付けられる窓枠13とを備えている。防火窓11は、合わせガラス12の両主面となる第1主面S1及び第2主面S2のうち、第1主面S1に向かい合うように配置される押縁14と、押縁14を窓枠13に取り付ける取付部材15とを備えている。
【0019】
<合わせガラス12>
図2に示すように、防火窓11の合わせガラス12は、第1板ガラス12aと、第2板ガラス12bと、これら二枚の板ガラス12a,12bの間に配置される樹脂層12cとを有している。第1板ガラス12a及び第2板ガラス12bは、例えば、特定防火設備に要求される防火性能を満たす防火ガラスである。第1板ガラス12a及び第2板ガラス12bとしては、例えば、耐熱性結晶化ガラス、ホウケイ酸ガラス、及びソーダライムガラスが挙げられる。なお、第1板ガラス12a及び第2板ガラス12bの種類や厚さは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0020】
樹脂層12cは、第1板ガラス12aと第2板ガラス12bとの間に挟み込まれるように配置されている。樹脂層12cは、第1板ガラス12aと第2板ガラス12bとに接着されている。樹脂層12cは、第1板ガラス12a及び第2板ガラス12bの少なくとも一方が割れた場合にガラス片の飛散を抑える。樹脂層12cを構成する樹脂としては、アイオノマー樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂層12cは、単層構造を有していてもよいし、複数種の樹脂層からなる積層構造を有していてもよい。
【0021】
本実施形態の合わせガラス12は、正面視で四角形状であるが、合わせガラス12の形状は、四辺形状以外の多角形状であってもよいし、楕円形状や円形状であってもよい。
<窓枠13>
窓枠13は、例えば、金属材料から構成される。金属材料としては、例えば、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム等が挙げられる。
図1に示すように、窓枠13は、例えば、合わせガラス12の外周形状に沿った全体形状を有している。本実施形態の窓枠13の全体形状は、四角枠状である。詳述すると、窓枠13は、下枠13aと、上枠13bと、下枠13aの長手方向の両端部と上枠13bの長手方向の両端部とをそれぞれ接続する一対の縦枠13cとを有している。下枠13a、上枠13b、及び縦枠13cは、一体成形品であってもよいし、各枠を接合した接合品であってもよい。
【0022】
図2に示すように、窓枠13は、合わせガラス12の外周端面に沿って配置される枠本体部16と、合わせガラス12の第2主面S2に向かい合うように配置される支持部17とを有している。
図3に示すように、枠本体部16は、取付部材15を固定するための第1ねじ孔H1を有している。
【0023】
<押縁14及び取付部材15>
図1に示すように、押縁14は、下枠13a、上枠13bと、一対の縦枠13cとに沿って延びるように配置されている。
図2及び
図3に示すように、防火窓11の押縁14は、合わせガラス12の第1主面S1に向かい合うように配置される内壁14aと、内壁14aの外側において内壁14aと離間して配置される外壁14bとを有している。押縁14は、中空であり、内壁14aの先端部と外壁14bの先端部とを接続する先端壁14cを有している。
図3に示すように、押縁14の先端壁14cは、取付部材15を固定するための第2ねじ孔H2を有している。
【0024】
図2及び
図3に示すように、防火窓11の取付部材15は、軸部15aと、軸部15aの両端にそれぞれ接続される第1固定部15b及び第2固定部15cとを有している。
取付部材15の軸部15aは、押縁14よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる。軸部15aの熱膨張係数と押縁14の熱膨張係数との差は、10×10
-6/K以上であることが好ましい。すなわち、軸部15aの熱膨張係数をα1[/K]とし、押縁14の熱膨張係数をα2[/K]とした場合、α1-α2≧10×10
-6の関係を満たすことが好ましい。ここで、熱膨張係数は、0℃以上、230℃以下の範囲の平均熱膨張係数をいう。
【0025】
取付部材15の軸部15aの材料としては、例えば、金属材料が挙げられる。取付部材15の金属材料としては、例えば、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。アルミニウムの熱膨張係数は、約24×10-6/Kである。亜鉛の熱膨張係数は、約33×10-6/Kである。
【0026】
押縁14の材料としては、例えば、金属材料が挙げられる。押縁14の金属材料としては、例えば、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。鋼材であるSS400の熱膨張係数は、約12×10-6/Kである。ステンレス鋼であるSUS304の熱膨張係数は、約18×10-6/Kである。
【0027】
図2に示すように、防火窓11は、取付部材15の第1固定部15bが窓枠13に固定され、取付部材15の第2固定部15cが押縁14に固定される取付構造18を備えている。
【0028】
図2及び
図3に示すように、取付部材15の第1固定部15bにおける外周面は、窓枠13の第1ねじ孔H1に螺合するねじ部を有している。取付部材15の第2固定部15cにおける外周面は、押縁14の第2ねじ孔H2に螺合するねじ部を有している。取付部材15の軸部15aは、押縁14の内壁14aと外壁14bとの間の空間において非接触の状態で配置されている。
【0029】
取付部材15の軸部15aの材料と、第1固定部15bの材料とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。取付部材15の軸部15aの材料と、第2固定部15cの材料とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。第1固定部15bの材料と第2固定部15cの材料とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。取付部材15は、軸部15aと第1固定部15bと第2固定部15cとが同じ材料からなる一体成形品であることが好ましい。
【0030】
取付部材15の軸部15aの長さ寸法L1は、15mm以上であることが好ましい。取付部材15の軸部15aの長さ寸法L1の上限は、特に限定されないが、例えば、100mm以下である。
【0031】
このように取付部材15で窓枠13に取り付けられた押縁14は、窓枠13と接触している状態で配置されている。すなわち、押縁14は、取付部材15の第1固定部15bを窓枠13の第1ねじ孔H1から取り外すことで、窓枠13から離間させることができる状態で配置されている。
【0032】
<上記以外の構成>
防火窓11は、合わせガラス12の位置決め、緩衝、封止等を目的とした各種部材を必要に応じて備えていてもよい。詳述すると、
図1及び
図2に示すように、本実施形態の防火窓11は、合わせガラス12を支持するセッティングブロック19を備えている。セッティングブロック19は、例えば、合わせガラス12の下端縁を長手方向に沿って部分的に支持するように複数配置することができる。セッティングブロック19は、例えば、ゴム材料から構成することができる。
【0033】
図2に示すように、本実施形態の防火窓11は、窓枠13の支持部17と合わせガラス12との間に配置されるバックアップ材20とシーリング材21とを備えている。また、防火窓11は、押縁14と、合わせガラス12との間に配置されるバックアップ材20とシーリング材21とを備えている。シーリング材21は、合わせガラス12の正面視でバックアップ材20の内側を充填するように配置される。バックアップ材20は、例えば、樹脂発泡体等により構成される。シーリング材21としては、例えば、シリコーン系シーリング材が挙げられる。
【0034】
<防火窓11の使用状態>
図2に示すように、防火窓11は、第1空間A1と第2空間A2とを区画するように配置される。防火窓11で区画される第1空間A1は、火災の発生が想定される加熱側の空間である。防火窓11は、第1空間A1で火災が発生した場合、第2空間A2への延焼を抑える。
【0035】
まず、火災が発生した場合の合わせガラス12の状態について説明する。
図4に示すように、第1空間A1の火炎FLによって防火窓11の合わせガラス12が加熱されると、樹脂層12cから液状物又は揮発物が生成される。液状物又は揮発物は、第1板ガラス12aと第2板ガラス12bとの間から、合わせガラス12と窓枠13との間の空間に排出される。例えば、液状物22は、第1板ガラス12aと第2板ガラス12bとの間から下枠13aに向けて流下することで、合わせガラス12と下枠13aとの間の空間に排出される。
【0036】
窓枠13と合わせガラス12との間の空間内の液状物22又は揮発物の量が増大すると、液状物22又は揮発物が、合わせガラス12の外周縁を回り込むように流動し、第1空間A1と第2空間A2と両空間に排出される可能性が高まる。
【0037】
次に、火災が発生した場合の防火窓11の状態について説明する。
図4及び
図5に示すように、第1空間A1の火炎FLによって防火窓11の取付部材15が加熱されると、取付部材15の軸部15aは、
図5に双方向矢印で示す軸線方向に沿って熱膨張する。すなわち、取付部材15の軸部15aは、
図2に示される火災の発生前の長さ寸法L1から、
図5に示される長さ寸法L2に伸長する。このとき、取付部材15の軸部15aは、押縁14よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる。このため、押縁14よりも取付部材15が大きく膨張し、取付部材15の第2固定部15cが固定された押縁14が、取付部材15の第1固定部15bが固定された窓枠13から離間するように移動する。これにより、窓枠13と押縁14との間に隙間が形成される。このように形成された隙間から、液状物22又は揮発物が加熱側の空間である第1空間A1に排出され、非加熱側の空間である第2空間A2への液状物22又は揮発物の流入を抑えることができる。その結果、非加熱側での延焼を抑制することが可能となる。
【0038】
図5に示される窓枠13と押縁14との隙間寸法D1は、取付部材15の軸部15aの材料や軸部15aの寸法、及び押縁14の材料により設定することが可能である。一例として、アルミニウム製や亜鉛製の軸部15aを有し、軸部15aの長さ寸法L1が20mmの取付部材を用いることができる。この取付部材を用いて、例えば、SS400製の押縁を窓枠に固定した防火窓を約420℃まで加熱した場合、
図5に示される窓枠13と押縁14との隙間寸法D1は、例えば、0.1mm以上、0.16mm以下の範囲内となる。
【0039】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)防火窓11は、合わせガラス12と、合わせガラス12が取り付けられる窓枠13とを備えている。防火窓11は、合わせガラス12の第1主面S1に向かい合うように配置される押縁14と、押縁14を窓枠13に取り付ける取付部材15とを備えている。取付部材15は、軸部15aと、軸部15aの両端にそれぞれ接続される第1固定部15b及び第2固定部15cとを有している。取付部材15の軸部15aは、押縁14よりも大きい熱膨張係数を有する材料からなる。防火窓11は、取付部材15の第1固定部15bが窓枠13に固定され、取付部材15の第2固定部15cが押縁14に固定される取付構造18を備えている。
【0040】
この構成によれば、上述したように、加熱側の空間である第1空間A1に液状物22又は揮発物を排出させることより、非加熱側の空間である第2空間A2への液状物22又は揮発物の流入を抑えることができる。その結果、非加熱側での延焼を抑制することが可能となる。従って、防火窓11の遮炎性能を高めることが可能となる。
【0041】
(2)窓枠13は、下枠13aと、上枠13bと、一対の縦枠13cとを有している。上記取付構造18を構成する窓枠13は、下枠13aを含む。この場合、下枠13aと合わせガラス12との間の空間内の液状物22を下枠13aと押縁14との間の隙間から加熱側の空間である第1空間A1に排出させることができる。これにより、非加熱側の空間である第2空間A2への液状物22の流入を抑えることができる。従って、液状物22を要因とした延焼を抑えることで、防火窓11の遮炎性能を高めることが可能となる。
【0042】
(3)防火窓11において、取付部材15における軸部15aの熱膨張係数と、押縁14の熱膨張係数との差は、10×10-6/K以上であることが好ましい。この場合、火災の発生時に窓枠13と押縁14との間に形成される隙間をより大きくすることができる。これにより、加熱側の空間である第1空間A1への液状物22又は揮発物の排出を促進することが可能となる。従って、防火窓11の遮炎性能をより高めることが可能となる。
【0043】
(4)防火窓11において、取付部材15の軸部15aの長さ寸法L1は、15mm以上であることが好ましい。この場合、火災の発生時に窓枠13と押縁14との間に形成される隙間をより大きくすることができる。これにより、加熱側の空間である第1空間A1への液状物22又は揮発物の排出を促進することが可能となる。従って、防火窓11の遮炎性能をより高めることが可能となる。
【0044】
(5)防火窓11において、押縁14は、窓枠13と接触した状態で窓枠13に取り付けられている。この場合、火災の発生前の防火窓11の使用時において、例えば、窓枠13と押縁14との境界が視認され難くなる。これにより、防火窓11の外観の品位を保つことができる。また、火災の発生前の防火窓11の使用時において、例えば、窓枠13と押縁14との隙間に水や異物が侵入することを抑えることができる。
【0045】
(6)防火窓11の取付部材15は、軸部15aと第1固定部15bと第2固定部15cとが同じ材料からなる一体成形品であることが好ましい。この場合、例えば、取付部材15を簡素化することができる。
【0046】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
・上記防火窓11における取付部材15では、第1固定部15bをねじ部によって窓枠13に固定しているが、例えば、溶接、リベット接合等によって窓枠13に固定することもできる。取付部材15の第2固定部15cについても、例えば、溶接、リベット接合等によって押縁14に固定することもできる。
【0048】
・上記防火窓11では、火災の発生前の使用時において、押縁14は、窓枠13と接触した状態で取り付けられているが、押縁14は、窓枠13との間に隙間を有するように取り付けられる構成に変更することもできる。この変更例の防火窓において、火災が発生した場合には、取付部材の軸部の熱膨張により、窓枠13と押縁14との間の隙間を拡大することができる。これにより、加熱側の空間である第1空間A1への液状物22又は揮発物の排出を促進することが可能となる。
【0049】
・防火窓11において、上記押縁14を上記取付部材15によって取り付ける取付構造18は、下枠13a、上枠13b、及び縦枠13cの少なくとも一つの枠に対して適用することができる。また、この取付構造18は、一対の縦枠13cのうち、少なくとも一方の縦枠13cに対して適用することができる。この取付構造18を上枠13b又は縦枠13cに適用した場合、加熱側の空間である第1空間A1に揮発物を排出することにより、非加熱側の空間である第2空間A2への揮発物の流入を抑えることができる。
【0050】
・押縁14は、内壁14aと、外壁14bと、先端壁14cとを有しているが、取付部材15の軸部15aと接触しない形状を有する底壁をさらに備えていてもよい。
・防火窓11の上記窓枠13は、支持部17を有しているが、この支持部17を省略し、次のように変更してもよい。すなわち、防火窓11を上記実施形態の押縁14である第1の押縁と、合わせガラス12の第2主面S2側に向かい合うように配置される第2の押縁とを備える防火窓に変更することができる。第2の押縁の取付構造は、特に限定されないが、この取付構造についても上記取付部材15を用いた取付構造18を採用することが好ましい。この構成によれば、第2空間A2において火災が発生した場合、窓枠13と第2の押縁との隙間から、液状物22又は揮発物を第2空間A2に排出させることができる。このため、第2空間A2における火災の発生についても、上記(1)欄で述べたように、防火窓11の遮炎性能を高めることが可能となる。
【0051】
・上記合わせガラス12は、第1板ガラス12a、第2板ガラス12b、及び樹脂層12cの三層構造を有しているが、三枚以上の板ガラスと、二層以上の樹脂層とからなる五層以上の構造を有していてもよい。例えば、第1板ガラス、第1樹脂層、第2板ガラス、第2樹脂層、及び第3板ガラスの順に積層された五層構造を有する合わせガラスであってもよい。
【0052】
・防火窓11は、合わせガラス12の第1主面S1及び第2主面S2が鉛直方向に対して傾斜した傾斜面となる状態で使用することもできる。この場合であっても、上記取付構造18における窓枠13が下枠13aを含むことで、上記(2)欄で述べた効果を得ることができる。
【0053】
・防火窓11は、合わせガラス12の第1主面S1及び第2主面S2が鉛直方向に直交する水平面となる状態で使用することもできる。
【符号の説明】
【0054】
11…防火窓
12…合わせガラス
12a…第1板ガラス
12b…第2板ガラス
12c…樹脂層
13…窓枠
13a…下枠
13b…上枠
13c…縦枠
14…押縁
15…取付部材
15a…軸部
15b…第1固定部
15c…第2固定部
18…取付構造