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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022196
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20230207BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230207BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230207BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/88 Z
A61K35/76
A61P25/16
A61P25/08
A61P25/00
A61K38/17
A61K48/00
【審査請求】有
【請求項の数】44
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022189903
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2018537662の分割
【原出願日】2017-02-10
(31)【優先権主張番号】1650192-6
(32)【優先日】2016-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】518250173
【氏名又は名称】コンビジーン エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】コカイア メラブ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】神経ペプチドYと神経ペプチドY2受容体をコードする配列を含む組み換えアデノ随伴ウイルスベクター、該ベクターを含むアデノ随伴ウイルス粒子、および該アデノ随伴ウイルス粒子を含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】一態様において、特定の配列と90%の配列同一性を有する神経ペプチドYと、特定の配列と90%の配列同一性を有する神経ペプチドY2受容体を含む組み換えアデノ随伴ウイルスベクター、該ベクターがアデノ随伴ウイルスカプシドタンパク質により封入されるアデノ随伴ウイルス粒子、ならびに哺乳動物のてんかん等の神経障害の予防または処置に使用するための、該アデノ随伴ウイルス粒子を含む医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経ペプチドY(NPY)コード配列と神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列とを含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター。
【請求項2】
前記神経ペプチドY(NPY)コード配列は、配列番号1に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列は、配列番号2に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクターは、AAV2逆方向末端反復配列(ITR)、ハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)、内部リボソーム進入部位(IRES)、ウッドチャック肝炎翻訳後調節要素(WPRE)、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化(bGH‐polyA)シグナル配列の機能的要素の少なくとも一つ、好ましくは全てをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
前記ベクターはハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)を含み、前記CAGプロモーター配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流に位置する、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクターは内部リボソーム進入部位(IRES)を含み、前記IRES配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の間に位置する、請求項4または5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターはウッドチャック肝炎翻訳後調節エレメント(WPRE)を含み、前記WPRE配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する、請求項4~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターはウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナル配列を含み、前記(BGHpA)シグナル配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する、請求項4~7のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターは二つのITR配列を含み、第一ITR配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流の前記ベクターの5’末端に位置し、第二ITR配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流の前記ベクターの3’末端に位置する、請求項4~8のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項10】
前記配列は、
5’‐ITR、CAG、NPY、IRES、NPY2R、WPRE、BGHpAおよびITR‐3’、または
5’‐ITR、CAG、NPY2R、IRES、NPY、WPRE、BGHpAおよびITR‐3’
の順に操作可能に連結される、請求項4~9のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
前記5’末端ITRは、配列番号7に対応する配列、または配列番号7に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有し、前記3’末端ITRは、配列番号8に対応する配列、または配列番号8に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
前記CAGは、配列番号4に対応する配列、または配列番号4に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記IRESは、配列番号3に対応する配列、または配列番号3に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~12のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
前記WPREは、配列番号5に対応する配列、または配列番号5に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~13のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
前記BGHpAは、配列番号6に対応する配列、または配列番号6に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~14のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
前記ベクターは、配列番号9に対応する配列、または配列番号9に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有するか、または前記ベクターは、配列番号10に対応する配列、または配列番号10に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記ベクターの配列は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化される、請求項4~16のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項18】
前記NPY2Rコード配列は、前記NPYコード配列の下流にある、請求項4~16のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項19】
前記CAGプロモーター配列と、前記CAGプロモーター配列の下流および前記IRES配列の上流の前記NPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基、好ましくは40~5塩基、最も好ましくは20~10塩基の範囲内である、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項20】
前記IRES配列と下流のNPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基、好ましくは40~2塩基、最も好ましくは10~4塩基の範囲内である、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載のベクターを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子であって、前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質により封入される、AAV粒子。
【請求項22】
前記AAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より、好ましくはAAV1またはAAV8より選択され、最も好ましくはAAV1である、請求項21に記載のAAV粒子。
【請求項23】
AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、またはAAV8‐NPY/Y2である、請求項21~22のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項24】
AAV1‐NPY/Y2である、請求項21~23のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項25】
請求項21~24のいずれか一項に記載のAAV粒子を含む医薬組成物であって、哺乳動物の神経障害の予防、抑制、改善または処置における使用のための、医薬組成物。
【請求項26】
前記神経障害はてんかんまたはパーキンソン病である、請求項25に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項27】
前記てんかんは薬剤抵抗性てんかんである、請求項25に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項28】
前記神経障害はパーキンソン病である、請求項25に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物は部位特異的頭蓋内注射により投与される、請求項25~28のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項30】
前記AAV粒子は、単回用量または二回、三回、四回、五回用量等の複数回用量としての投与のために処方される、請求項25~29のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項31】
機能的AAVの有効用量は、0.1~50μgまたは0.5~20μg等、0.01~100μgの間の機能的AAV粒子の範囲である、請求項25~30のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項32】
対象の神経障害を処置、抑制、または改善するための方法であって、
神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の請求項25~31のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップ
を含む、方法。
【請求項33】
前記対象は哺乳動物対象である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記対象は、ヒト、イヌ、ネコまたはウマ対象である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記対象はヒト対象である、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記神経障害はてんかんまたはパーキンソン病である、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は部位特異的頭蓋内注射を通じて送達される、請求項32~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記神経障害はてんかんであり、前記組成物は単数または複数のてんかん病巣の位置に送達される、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
NPYおよびY2ゲノムの哺乳動物細胞への送達の方法であって、請求項21~24に記載のAAV粒子を細胞に導入するステップを含む、方法。
【請求項40】
前記細胞は、神経細胞、肺細胞、網膜細胞、上皮細胞、筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、心筋細胞、骨細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、前駆細胞、および幹細胞からなる群より選択される、請求項39に記載の送達の方法。
【請求項41】
NPYおよびY2ゲノムを対象に投与する方法であって、前記対象に請求項39または40に記載の細胞を投与するステップを含む、方法。
【請求項42】
前記対象は哺乳動物対象である、請求項41に記載の核酸を対象に投与する方法。
【請求項43】
前記対象はヒト対象である、請求項41に記載の核酸を対象に投与する方法。
【請求項44】
NPYおよびY2ゲノムの対象への送達の方法であって、対象における哺乳動物細胞に請求項21~24のいずれか一項に記載のAAV粒子を投与するステップであって、前記ウイルス粒子が前記対象の海馬に投与される、ステップを含む、方法。
【請求項45】
NPYが治療効果を有するかまたはNPY欠乏により引き起こされる疾患を軽減する方法であって、前記疾患は、てんかんまたはパーキンソン病より選択され、前記方法は、神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の請求項19~24のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項46】
NPYを必要な対象に提供する方法であって、
NPY欠乏を有する対象等のNPYを必要とする対象を選択するステップと;
前記対象に薬学的に有効な量の請求項19~24のいずれか一項に記載の組成物を提供するステップと
を含む、方法。
【請求項47】
前記対象は、例えばEEGおよび/またはてんかんもしくはパーキンソン病の臨床診断等の臨床評価または診断試験によりNPY欠乏を有する対象として選択される、請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のベクター要素と一緒にNPYおよびその受容体Y2(NPY2R)をエンコードするある核酸配列を含むベクターに関する。さらに、本発明は、AAV粒子を形成するアデノ随伴ウイルス血清型1、2および8からのカプシドタンパク質に封入された前記ベクターに関する。最後に、本発明は、哺乳動物のてんかん等の神経障害の処置のための薬剤の調製に使用される前記ベクターまたは前記AAV粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO;World Health Organization)によれば、中枢神経系に関係する障害は大きな社会経済的健康問題を構成し、現在利用可能な治療選択肢は不十分である。これらの障害は、てんかんおよびパーキンソン病を含むがこれらに限定されない。
【0003】
てんかんは、世界で最も古くから認められている神経学的状態の一つであり、書面による記録は紀元前4000年にさかのぼる。恐怖、誤解、差別、社会的汚名が、何世紀にもわたりてんかんを取り巻いている。この汚名は、今日多くの国々で続いており、障害をもつ人々やその家族の生活の質に影響を与えうる。世界中の約1%の人がてんかんを患っており、てんかんは世界で最も一般的な神経疾患の一つとなっている。
【0004】
てんかん発作は、短時間でほとんど検出不可能なものから長期間の激しい震えまで変動しうる症状の発現である。てんかんでは、発作が繰り返される傾向があり、特定可能な根本的原因がないことが多い。
【0005】
発作の発現は、同期した脳細胞群における過剰放電の結果である。脳の様々な部分が、このような放電の部位になりうる。この障害を患う10人の対象中6人に影響を及ぼす最も一般的なタイプのてんかんは、特発性てんかんと呼ばれ、特定可能な原因はない。既知の原因を有するてんかんは、二次性てんかんまたは症候性てんかんと呼ばれる。二次性(または症候性)てんかんの原因には、出生前または周産期の傷害による脳損傷、脳奇形を伴う先天性異常または遺伝的状態、重度の頭部損傷、脳への酸素の量を制限する卒中、髄膜炎、脳炎、神経嚢虫症等の脳の感染、ある遺伝的症候群、または脳腫瘍を含む。
【0006】
てんかん症例の最大70%が日常の投薬で処置できると推定されている。しかし、この処置への反応が悪い人々は、処置されないままでいるか、てんかん手術や、深部脳刺激(DBS;deep brain stimulation)、迷走神経刺激(VNS;vagus nerve stimulation)、または食事等の非薬理学的処置に頼らざるを得ない可能性がある。
【0007】
WHOによれば、てんかんは、早死にすることにより失われる生活年数と完全に健康ではない状態で生活する時間とを組み合わせた時間ベースの測定値である世界疾病負荷の0.75%を占める。2012年には、てんかんが原因で、約2060万障害調整生存年数(DALY;disability‐adjusted life years)が失われた。てんかんは、医療の必要性、早期死亡および労働生産性の喪失の点で重要な経済的影響を有する。
【0008】
したがって、てんかんを処置するための新たなアプローチおよびそれに続く新しい方法が必要とされている。特許文献1には、一つまたはいくつかの神経ペプチドがそれらの対応する受容体の一つ以上と一緒に神経系の細胞に過剰発現される、神経系の障害の処置のための有望なアプローチが記載される。神経伝達物質の放出の増加は、神経伝達物質の作用を媒介する受容体の代償的なダウンレギュレーションにつながることが多く、したがって対応する受容体の発現は、経時的な治療効果の制限を回避するのに役立つ。神経ペプチドおよび受容体過剰発現のコンセプトを用いる改良されたアプローチは、新たなてんかんの処置に、特に現在の薬品処置アプローチが所望の治療効果につながらないタイプのてんかんである薬剤抵抗性てんかんの処置に有用であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2046394(A1)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の態様は、神経ペプチドY(NPY;neuropeptide Y)コード配列と神経ペプチドY2受容体(PY2R;neuropeptide Y2 receptor)コード配列とを含む組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV;recombinant adeno‐associated viral)ベクターを提供することにより、好ましくは、以上に特定された当技術の欠陥および欠点の一つ以上を単独でまたは任意の組み合わせにおいて緩和、軽減または除去し、少なくとも上述の問題を解決することを目的とする。
【0011】
本発明の一態様によれば、ベクターは、AAV2逆方向末端反復配列(ITR;Inverted Terminal Repeat)、ハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)、内部リボソーム進入部位(IRES;internal ribosome entry site)、ウッドチャック肝炎翻訳後調節要素(WPRE;woodchuck hepatitis post‐translational regulatory element)、および/またはウシ成長ホルモンポリアデニル化(bGH‐polyA;bovine growth hormone polyadenylation)シグナル配列の機能的要素の少なくとも一つ、好ましくは全てをさらに含む。
【0012】
本発明の一態様では、AAV粒子は前記ベクターを含み、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV;adeno‐associated virus)カプシドタンパク質により封入される。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、医薬組成物は、哺乳動物のてんかんまたはパーキンソン病等の神経障害の予防、抑制または処置用の前記AAV粒子を含む。
【0014】
本発明の一態様では、対象の神経障害を処置、抑制または改善するための方法は、てんかんまたはパーキンソン病等の神経障害を患う哺乳動物またはヒト対象等の対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の前記組成物を投与するステップを含む。
【0015】
本発明の別の態様によれば、NPYおよびY2ゲノムの哺乳動物細胞への送達の方法は、前記AAV粒子を細胞に導入するステップを含む。さらに別の実施形態では、NPYおよびY2ゲノムを哺乳動物またはヒト対象等の対象に投与する方法は、対象に前記細胞を投与するステップを含む。
【0016】
本発明の一態様では、NPYおよびY2ゲノムの対象への送達の方法は、対象における哺乳動物細胞に前記AAV粒子を投与するステップであって、ウイルス粒子が対象の海馬に投与される、ステップを含む。
【0017】
本発明の別の態様によれば、NPYが治療効果を有するかまたはNPY欠乏により引き起こされる疾患を低減する方法であって、疾患はてんかんまたはパーキンソン病より選択される方法は、神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の前記組成物を投与するステップを含む。
【0018】
本発明のさらに別の態様によれば、例えばEEGおよび/またはてんかんもしくはパーキンソン病の臨床診断等の臨床評価または診断検査によりNPY欠乏を有するものとして選択された対象等のNPYを必要とする対象にNPYを提供する方法は、NPY欠乏を有する対象等のNPYを必要とする対象を選択するステップと、前記対象に薬学的に有効な量の前記組成物を提供するステップとを含む。
【0019】
本発明の他の態様は、本出願の特許請求の範囲に見られる代替物にも関する。
【0020】
本発明に可能なこれらおよびその他の態様、特徴および利点は、添付の図面を参照した本発明の実施形態の以下の説明から明らかになり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本明細書に記載の実施形態のいくつかで使用されるベクターの概略図であり、図1Aは、神経ペプチドY(NPY)および神経ペプチド受容体2(NPY2R)の導入遺伝子順序が、NPYがNPY2Rの上流にあるものであり、図1Bは、神経ペプチドY(NPY)および神経ペプチド受容体2(NPY2R)の導入遺伝子順序が、NPY2RがNPYの上流にあるものである。
図2】ddPCRによるトランスフェクションされたHEK293細胞における導入遺伝子発現をまとめたグラフである。NPYおよびNPY2R標的配列の数がddPCRにより測定された。対照として、非処置細胞またはNPYおよびNPY2Rをエンコードする配列(IRES)を含まないAAV発現プラスミドを使用する。対応スチューデントt検定、t=3.927、P=0.0294。データポイント/バーは、平均+SEMを表す(処置当たりn=4)。
図3】ラットからの海馬スライスにおけるNPY発現を示したグラフである。片側AAVベクター処置の三週間後の背側海馬のCA1領域のNPYレベル。観察されたNPY陽性免疫蛍光シグナルに対応してNPYレベルが評価された:1(内因性レベルに対応するNPYレベル)、2(内因性レベルを上回る低いNPY発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のNPY発現)、および4(内因性レベルを上回る高いNPY発現)。データは平均値±s.e.mとして示し、Mann‐Whitney U検定を用いて分析した。未処置ナイーブ対照動物と比較してP<0.05。
図4】片側AAV‐NPY/Y2ベクター処置の三週間後の背側海馬のNPY発現を示した画像である。DAB染色が濃くなるほどNPY様免疫反応レベルが高くなる。AAV‐Y2/NPYベクターで処置したラット(図示せず)は、図に見られる発現の9~17%に対応するNPY発現を有した。
図5】ラットからの海馬スライスにおけるNPY2Rの機能性を示し、5Aは、片側AAVベクター処置の三週間後の背側海馬のCA1領域の機能的NPY2R結合のレベルを示したグラフである。データは平均値±s.e.mとして示し、独立両側スチューデントt検定を用いて分析した。未処置ナイーブ対照動物と比較してはP<0.05、***はP<0.001。5Bは、Aに示される機能的NPY2R結合の代表的な画像である。
図6】ラットからの海馬スライスのNPY2R発現を示し、6Aは、片側AAVベクター処置の三週間後の背側海馬におけるNPY2R結合のレベルを示すグラフである。海馬CA1領域のY2受容体結合を評価し、Y2受容体シグナルに対応する値を与えた:1(内因性レベルに対応するY2受容体発現)、2(内因性レベルを上回る低いY2受容体発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のY2受容体発現)、および4(内因性レベルを上回る高いY2受容体発現)。データは平均値±s.e.mとして示し、Mann‐Whitney U検定を用いて分析した。は未処置ナイーブ対照動物と比較してP<0.05。6Bは、6Aに示される機能的NPY2R結合の代表的な画像である。
図7】AAV誘導性導入遺伝子過剰発現のレベルとの関係における単回カイニン酸注射(s.c.)後の2時間の観察中の発作の発症を示したグラフである。図7Aは、発作の発症とAAV誘導性NPY導入遺伝子過剰発現との間の関係を示す。対照:内因性レベルに対応するNPYレベル(図3の値1に対応する)。低:低いNPY導入遺伝子発現レベル(図3の値2に対応する)。高:高いNPY導入遺伝子発現レベル(図3の値3~4に対応する)。a)最初の運動発作(MS;motor seizure)までの潜伏時間、b)てんかん重積状態(SE;status epilepticus)までの潜伏時間、およびc)発作の時間はいずれも、内因性レベルに等しいNPY発現を有するラットと比較して、高い導入遺伝子NPY発現を有する処置ラットにおいて有意に異なっており、抗発作効果が示された。d)発作回数はいずれのカテゴリーにおいても影響がなかった。図7Bは、発作の発症とAAV誘導性NPY2R(Y2)導入遺伝子過剰発現との間の関係を示す。対照:内因性レベルに対応するNPY2Rレベル(図3の値1に対応する)、低:低いNPY2R導入遺伝子発現レベル(図3の値2に対応する)、高:高いNPY2R導入遺伝子発現レベル(図3の値3~4に対応する)。a)最初の運動発作(MS)までの潜伏時間、b)てんかん重積状態(SE)までの潜伏時間、c)発作の時間、およびd)発作回数は、いずれのNPY2R発現カテゴリーにおいても有意に変化しなかった。しかし、高NPY2R発現カテゴリーでは特にc)発作の時間の減少の強い傾向が観察された。データは平均値±s.e.mとして示し、有意一方向ANOVAの後、Bonferroni多重比較事後検定を用いて分析した。P<0.05、**P<0.01。
図8】KA誘発発作に対する両側海馬内AAVベクター注射の効果を示す。図8Aは、KA誘発発作に対する両側海馬内AAV1ベクター注射の効果を示す。a)最初の運動発作までの潜伏時間およびd)発作の合計回数は、対照(AAV1空)と比較して、AAV1ベクター媒介性NPYおよびY2過剰発現の後に影響がなかった。b)てんかん重積状態(SE)までの潜伏期間およびc)発作の合計時間はいずれもAAV1‐NPY/Y2処置後に対照(AAV1空)と比較して有意に減少したが、AAV1‐Y2/NPYには有意な効果がなかった。データは平均±SEMである(各群でn=7~8)。対照(AAV1空)に対してP<0.05、有意一方向ANOVAの後、Bonferroni多重比較事後検定。図8Bは、KA誘発発作に対する両側海馬AAV2ベクター注射の効果を示す。AAV2ベクター媒介性NPYおよびY2過剰発現後にKA誘発発作に対する効果は観察されなかった。これには、a)最初の運動発作までの潜伏時間、b)てんかん重積状態(SE)までの潜伏時間、c)発作の合計時間、およびd)発作の合計回数の観察が含まれた。データは平均±SEMである(各群でn=8)。有意一方向ANOVAの後、Bonferroni多重比較事後検定。図8Cは、KA誘発発作に対する両側海馬AAV8ベクター注射の効果を示す。AAV8ベクター媒介性NPYおよびY2過剰発現後にKA誘発発作に対する効果は観察されなかった。これには、a)最初の運動発作までの潜伏時間、b)てんかん重積状態(SE)までの潜伏時間、c)発作の合計時間、およびd)発作の合計回数の観察が含まれた。データは平均±SEMである(各群でn=8~12)。有意一方向ANOVAの後、Bonferroni多重比較事後検定。
図9】ハロペリドール誘発性のパーキンソン病様症状のカタレプシーにおける、マウスの両側線条体内AAV1‐NPY/Y2またはAAV空(対照)ベクター注射の効果を示す。A)AAV1‐NPY/Y2ベクターによる処置は、AAV1空と比較して、カタレプシー状態が起きている時間の有意な減少を誘導した。データは平均値±s.e.mとして示し、双方向反復測定ANOVAを用いて分析した。P<0.05は、AAV1空ベクター処置とAAV1‐NPY/Y2ベクター処置との間で全体として有意な処置効果を示す。B)AAV1‐NPY/Y2ベクターでの処置は、AAV1空と比較して、15分間隔で観察したカタレプシー状態が起きている平均時間の有意な減少を誘導した。データは平均値±s.e.mとして示し、二方向スチューデントt検定を用いて分析した。P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明は、遺伝子療法のためのAAVベクターに、特に哺乳動物のてんかん等の神経障害の処置のための前記ベクターのAAV粒子に適用可能な本発明の実施形態に焦点を当てる。
【0023】
神経障害には、脳、脊髄および他の神経を含むがこれらに限定されない神経系の障害の大きな群、とりわけ構造的、生化学的および/またはシグナル伝達異常が含まれる。神経障害は、ヒトに限定されず、本明細書において「対象」と呼ばれるウマ、イヌおよびネコなどの他の哺乳動物にも見られる。例えば、一般的なイヌの集団におけるイヌてんかん発症率は、0.5%~5.7%の間であると推定される。
【0024】
神経ペプチドY(NPY)は、36アミノ酸長のペプチド神経伝達物質であり、哺乳動物の中枢神経系において最も豊富に発現されるものの一つである。NPYは、アルツハイマー病(Rose et al,2009)、ハンチントン病、およびパーキンソン病等の神経変性疾患の動物モデルにおいて神経保護を及ぼすことが示されている。NPYは、ラットの海馬スライスにおいてシャッファー側枝CA1シナプスの興奮を減少させることが最初に示され、続いてシナプス前のグルタミン酸放出のY2受容体依存性抑制に関与することが示されている。グルタミン酸は、脳の主要な興奮性神経伝達物質であり、したがって発作活動下に見られる開始、拡散、および無秩序なシナプス伝達の原因となる。一貫して、NPY欠乏変異マウスは発作感受性がより高く、NPYの脳室内投与は、ラットの実験発作モデルにおいてin vivoで抗てんかん様効果を及ぼす。重要なことに、NPYは、ヒトのてんかん性海馬における興奮性シナプス伝達も抑制する(Patrylo et al.,1999;Ledri et al.,2015)。海馬では、NPYの抗てんかん効果は、主にY2またはY5受容体への結合を介して媒介され(Woldbye et al.,1997,2005;El Bahh et al.,2005;Benmaamar et al.,2005)、一方でY1受容体の活性化は発作を促進する(Benmaamar et al.,2003)。
【0025】
NPYは、その抗てんかん効果により、標的化遺伝子療法に応用されている。したがって、NPYのrAAV媒介性海馬過剰発現は、ラットにおける刺激誘発性急性発作に対して、およびてんかん重積状態の発作の三ヵ月後の自発発作に対して、抑制効果を及ぼす。異なるNPY受容体サブタイプに特異的な関与を利用するために、単独のまたはNPYと組み合わせたY1、Y2、またはY5受容体の過剰発現による遺伝子療法も行われている。したがって、NPYおよびY2またはY5を組み合わせた海馬過剰発現は、NPYまたは受容体の単独過剰発現と比較して、ラットにおける刺激誘発性急性発作に対して優れた発作抑制効果があった(Woldbye et al.,2010;Gotzsche et al.,2012)。
【0026】
対照的に、Y1受容体の海馬過剰発現は、後の研究により予測されるように、発作促進効果につながる(Benmaamar et al.,2003;Olesen et al.,2012)。類似のアプローチにおいて、Y2選択性アゴニストNPY13‐36のrAAVベクター媒介性過剰発現も、抗てんかん効果を及ぼした(Foti et al.,2007)。その後、NPYおよびY2受容体のrAAVベクター媒介性過剰発現の抗てんかん効果のトランスレーショナルな価値は、臨床的に関連するラットの長期慢性てんかんモデルで試験されるとさらなる支持を得ている(Ledri et al.,2016)。
【0027】
本明細書には、てんかんおよび/またはパーキンソン病を必要な対象において処置または抑制するためにAAVベクターを利用する遺伝子療法のいくつかのアプローチが記載される。さらに、AAVベクターは現在、神経疾患の処置における治療用導入遺伝子の送達に安全に使用できると考えられている(McCown,2011;Bartus et al.,2014)。しかし、治療用導入遺伝子を安全に発現するのに有効な組み換えウイルスベクターの開発は、いくつかの障害に直面しており、これがヒト遺伝子療法での広範な使用に存在する障害である。したがって、rAAVベクターを含む新たな遺伝子療法の設計は、特定の組織および遺伝子療法標的のために高度にカスタマイズされた独特な構築物を創出する多くの異なる要素の慎重な選択を伴う。
【0028】
単一のrAAVによりエンコードされるNPYおよびY2受容体の過剰発現を含む新規な遺伝子療法は、本明細書に記載のベクターの配置および機能的要素の特定の選択(例えば構築物における遺伝子要素の順序および/またはある遺伝子要素間の距離)を考慮すれば、特定のAAV血清型のカプシドタンパク質とともに使用されたときに効率的なin vivo発現を生成することが予想された。以下に提示する開示は、てんかんもしくはパーキンソン病またはこれらに関連する発作活動等の疾病を処置または改善する薬剤を必要とする対象のてんかんおよび/またはパーキンソン病を処置および/または抑制するための、これらの組成物ならびにこれらの組成物を作製および使用する方法をさらに詳細に記載する。
【0029】
rAAV NPYおよびNPY2Rベクター
同じベクター中にNPYおよびNPY2Rコード配列を有することにより、NPY2RおよびNPYが相同的に拡散され、エフェクター分子NPYおよびその標的の発作抑制性受容体NPY2Rの発現の近接性が確保される。さらに、同じベクター中にNPYおよびNPY2Rコード配列を有することにより、一つの細胞におけるNPYおよびNPY2Rのゲノム挿入数を相同とすることができ、挿入されるNPYおよびNPY2R遺伝子の比率の制御が可能になる。
【0030】
したがって、第一実施形態では、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、神経ペプチドY(NPY;配列番号15参照)コード配列と神経ペプチドY2受容体(NPY2R;配列番号16参照)コード配列とを含む。
【0031】
ベクター中の神経ペプチドY(NPY)コード配列は、配列番号1に対応する配列を有するか、または配列番号1と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。神経ペプチドY(NPY)コード配列は、機能的神経ペプチドYをエンコードする限り、例えば分子がその受容体に結合できる限り、短縮型であってもよい。短縮型配列は、(294個中)265個、275個、285個、290個等、少なくとも255個の塩基を含み、配列番号1と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、機能的神経ペプチドYをエンコードしうる、例えば分子がその受容体に結合できる。
【0032】
ベクター中の神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列は、配列番号2に対応する配列を有するか、または配列番号2と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列は、機能的神経ペプチドY2受容体である限り、例えば分子がそのリガンドに結合できる限り、短縮型であってもよい。短縮型配列は、(1146個中)1000個、1115個、1130個、1140個等、少なくとも975個の塩基を含み、配列番号2と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、機能的神経ペプチドY2受容体をエンコードしうる、例えば分子がそのリガンドに結合できる。
【0033】
受容体の存在量は組織特異的発現の一因子であるが、AAVベクターの他の要素が組織特異的発現に影響しうる。以下に記載するように、導入遺伝子の配置、すなわちベクター中のNPYおよびNPY2R遺伝子の順序、ならびに/あるいは、NPYおよび/またはNPY2Rをエンコードする遺伝子からのプロモーター要素および/またはエンハンサー要素に対する距離の制御により、ベクター設計においてさらなる発現制御が与えられる。内因性遺伝子プロモーターにより生じるまたはプロモーター要素またはエンハンサー要素からの転写干渉は、遺伝子座での導入遺伝子発現に影響する。したがってベクターは、改変を欠く従来のベクター設計と比較して選択されたベクターのプロモーター要素および/またはエンハンサー要素に関して導入遺伝子発現を向上させるように、改変されている。第一実施形態では、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の導入遺伝子配置は、プロモーターへの近接性の点でNPYをエンコードする遺伝子がNPY2Rをエンコードする遺伝子に先行するものである(例えばNPYをエンコードする遺伝子は、NPY2Rをエンコードする遺伝子よりもプロモーターに近接するように、ベクター上のNPY2Rをエンコードする遺伝子の上流に提示される)。前記神経ペプチドY(NPY)をエンコードする配列は、配列番号1に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。前記神経ペプチドY2受容体(NPY2R)をエンコードする配列は、配列番号2に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。遺伝子発現を通じて、神経ペプチドY(NPY)コード配列がプロ神経ペプチドYプレプロタンパク質(配列番号15)の合成において用いられ、神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列が神経ペプチドY受容体2型(配列番号16)の合成において用いられる。当業者に知られるように、代替的配列が同じペプチド配列をエンコードすることも可能である。したがって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、配列番号15によるタンパク質をエンコードする配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列、および、配列番号16によるタンパク質をコードする配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列も含みうる。NPYをエンコードする遺伝子は、前記プロモーターと並置されうる。NPYをエンコードする遺伝子は、プロモーター領域の末端から5~60、5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えばNPYをエンコードする遺伝子は、プロモーター領域の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60ヌクレオチドで開始し、またはNPYをエンコードする遺伝子は、プロモーターから前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。プロモーターは、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチン(CAG)プロモーターでありうる。ベクター中のCAGプロモーター配列は、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。CAGプロモーター配列は、機能的である(例えば遺伝子の発現を誘導する)限り短縮型でもよく、短縮型CAGプロモーター配列は、(936個中)875個、900個、925個、935個等、少なくとも850個の塩基を含み、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、前記プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導しうる。CAGプロモーターは、配列番号4に対応する配列、または配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。IRES配列は、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の間に配置されうる。IRES配列は、NPYをエンコードする遺伝子の末端から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、IRES配列は、NPYをエンコードする遺伝子末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで開始し、またはIRES配列は、NPYをエンコードする配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。IRES配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子の開始から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で終了しうる(例えば、IRES配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子の開始から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで終了し、またはIRES配列は、NPY2Rをエンコードする配列の開始から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で終了する)。IRES配列は、A7 EMCV IRES配列でありうる。ベクター中のA7 EMCV IRES配列は、配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。A7 EMCV IRES配列は、機能的である(例えば遺伝子発現を誘導する)限り短縮型でもよく、短縮型A7 EMCV IRES配列は、(582個中)少なくとも525個、545個、560個、570個、または575個の塩基を含み、配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。IRESは、配列番号3に対応する配列、または配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流にウッドチャック肝炎転写後調節要素(WPRE)が配置されることができ、任意にWPREは、NPY2Rをエンコードする遺伝子の近位にあり、および/またはNPY2Rをエンコードする遺伝子に並置される。WPRE配列は、ベクター中のNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流に配置されうる。WPRE配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子の末端から5~80、5~70、5~60、5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、WPRE配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、または80ヌクレオチドで開始し、またはWPRE配列は、NPY2Rをエンコードする配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。ベクター中のWPRE配列は、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。この配列は、ウッドチャックB型肝炎ウイルス(WHV8)ゲノムの塩基対1093~1684と100%の相同性を有する。WPRE配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型WPRE配列は、(593個中)少なくとも525個、545個、555個、565個、575個、または585個の塩基を含み、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。WRPEは、配列番号5に対応する配列、または配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクターは、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流に配置され、任意にWPREの近位にあり、および/またはWPREに並置される、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(BGHpA;bovine growth hormone polyadenylation)を含みうる。BGHpA配列は、WPREの下流に配置されうる。BGHpA配列は、WPRE配列の末端から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、BGHpA配列は、WPRE配列の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで開始し、またはBGHpA配列は、WPRE配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。
【0034】
ベクター中の「BGHpAシグナル配列」とも呼ばれるBGHpA配列は、配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。BGHpAシグナル配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型BGHpAシグナル配列は、(269個中)少なくとも225個、235個、245個、255個、または265個の塩基を含み、配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。BGHpAシグナルは、配列番号6に対応する配列、または配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクターは、ベクター中のプロモーターの上流に配置された第一AAV2逆方向末端反復(ITR;inverted terminal repeat)ドメインおよび/またはNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流に配置された第二ITRドメインも含むことができ、好ましくは第二ITRドメインはBGHpAドメインの近位に配置される。ベクター中の5’末端ITR配列は、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。5’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。ベクター中の3’末端ITR配列は、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。3’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。5’末端ITRは、配列番号7に対応する配列、または配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有することができ、3’末端ITRは、配列番号8に対応する配列、または配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。上述の遺伝子のいずれか一つ以上は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化されうる。後述のように、AAV2、AAV1およびAAV8の三つのAAV血清型が、本明細書に記載のベクターの遺伝子送達に有効であることが分かった。したがって、上述のベクターは、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より選択されるAAVカプシドタンパク質によりパッケージングされうる。また、後述のように、AAV1カプシドタンパク質によりパッケージングされたベクターは、てんかん発作モデルでの試験成績がより良好であり、したがってベクターの好ましいパッケージングは、AAV1カプシドタンパク質によるものであることが分かった。
【0035】
第二実施形態では、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の導入遺伝子配置は、NPY2Rをエンコードする遺伝子がプロモーターに対してより近位であるようにNPYをエンコードする遺伝子に先行するものである(例えばNPY2Rをエンコードする遺伝子は、NPYをエンコードする遺伝子よりもプロモーターに近接するように、ベクター上のNPYをエンコードする遺伝子の上流に提示される)。前記神経ペプチドY(NPY)をエンコードする配列は、配列番号1に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。前記神経ペプチドY2受容体(NPY2R)をエンコードする配列は、配列番号2に対応する配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。遺伝子発現を通じて、神経ペプチドY(NPY)コード配列がプロ神経ペプチドYプレプロタンパク質(配列番号15)の合成において用いられ、神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列が神経ペプチドY受容体2型(配列番号16)の合成において用いられる。当業者に知られるように、代替的配列が同じペプチド配列をエンコードすることも可能である。したがって、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、配列番号15によるタンパク質をエンコードする配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列、および配列番号16によるタンパク質をコードする配列、または前記配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を含みうる。NPYをエンコードする遺伝子は、前記プロモーターと並置されうる。NPY2Rをエンコードする遺伝子は、プロモーター領域の末端から5~60、5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えばNPY2Rをエンコードする遺伝子は、プロモーター領域の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、または60ヌクレオチドで開始し、またはNPY2Rをエンコードする遺伝子は、プロモーターから前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。プロモーターは、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチン(CAG)プロモーターでありうる。ベクター中のCAGプロモーター配列は、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。CAGプロモーター配列は、機能的である(例えば遺伝子の発現を誘導する)限り短縮型でもよく、短縮型CAGプロモーター配列は、(936個中)875個、900個、925個、935個等、少なくとも850個の塩基を含み、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、前記プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導しうる。CAGプロモーターは、配列番号4に対応する配列、または配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。IRES配列は、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の間に配置されうる。IRES配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子の末端から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、IRES配列は、NPY2Rをエンコードする遺伝子末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで開始し、またはIRES配列は、NPY2Rをエンコードする配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。IRES配列は、NPYをエンコードする遺伝子の開始から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で終了しうる(例えば、IRES配列は、NPYをエンコードする遺伝子の開始から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで終了し、またはIRES配列は、NPYをエンコードする配列の開始から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で終了する)。IRES配列は、A7 EMCV IRES配列でありうる。ベクター中のA7 EMCV IRES配列は、配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。A7 EMCV IRES配列は、機能的である(例えば遺伝子発現を誘導する)限り短縮型でもよく、短縮型A7 EMCV IRES配列は、(582個中)少なくとも525個、545個、560個、570個、または575個の塩基を含み、配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。IRESは、配列番号3に対応する配列、または配列番号3と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流にウッドチャック肝炎転写後調節要素(WPRE)が配置されることができ、任意にWPREは、NPYをエンコードする遺伝子の近位にあり、および/またはNPYをエンコードする遺伝子に並置される。WPRE配列は、ベクター中のNPYをエンコードする遺伝子の下流に配置されうる。WPRE配列は、NPYをエンコードする遺伝子の末端から5~80、5~70、5~60、5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、WPRE配列は、NPYをエンコードする遺伝子の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、または80ヌクレオチドで開始し、またはWPRE配列は、NPYをエンコードする配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。ベクター中のWPRE配列は、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。この配列は、ウッドチャックB型肝炎ウイルス(WHV8)ゲノムの塩基対1093~1684と100%の相同性を有する。WPRE配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型WPRE配列は、(593個中)少なくとも525個、545個、555個、565個、575個、または585個の塩基を含み、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。WRPEは、配列番号5に対応する配列、または配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクターは、ベクター中のNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流に配置され、任意にWPREの近位にあり、および/またはWPREに並置される、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(BGHpA)を含みうる。BGHpA配列は、WPREの下流に配置されうる。BGHpA配列は、NPY2RをWPRE配列の末端から5~50、5~40、5~30、5~20、5~15または5~10ヌクレオチド以内で開始しうる(例えば、BGHpA配列は、WPRE配列の末端から5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドで開始し、またはBGHpA配列は、WPRE配列から前述のヌクレオチド数の位置のうちの任意の二つにより定義される範囲内で開始する)。
【0036】
ベクター中の「BGHpAシグナル配列」とも呼ばれるBGHpA配列は、配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。BGHpAシグナル配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型BGHpAシグナル配列は、(269個中)少なくとも225個、235個、245個、255個、または265個の塩基を含み、配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。BGHpAシグナルは、配列番号6に対応する配列、または配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有しうる。ベクターは、ベクター中のプロモーターの上流に配置された第一AAV2逆方向末端反復(ITR)ドメインおよび/またはNPYおよびNPY2Rをエンコードする遺伝子の下流に配置された第二ITRドメインも含むことができ、好ましくは第二ITRドメインはBGHpAドメインの近位に配置される。ベクター中の5’末端ITR配列は、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。5’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。ベクター中の3’末端ITR配列は、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。3’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。5’末端ITRは、配列番号7に対応する配列、または配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有することができ、3’末端ITRは、配列番号8に対応する配列、または配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。上述の遺伝子のいずれか一つ以上は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化されうる。後述のように、AAV2、AAV1およびAAV8の三つのAAV血清型が、本明細書に記載のベクターの遺伝子送達に有効であることが分かった。したがって、上述のベクターは、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より選択されるAAVカプシドタンパク質によりパッケージングされうる。また、後述のように、AAV1カプシドタンパク質によりパッケージングされたベクターは、てんかん発作モデルでの試験成績がより良好であり、したがってベクターの好ましいパッケージングは、AAV1カプシドタンパク質によるものであることが分かった。これらのベクターおよびパッケージングシステムの特定の要素に関するさらなる開示は、以下の節に提供される。
【0037】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト、霊長類および非霊長類動物種(ネコおよびイヌならびにその他多数)に感染することが知られているパルボウイルス科(Parvoviridae)の小さな非エンベロープDNAウイルスの群を構成する。AAVが病気を引き起こすことは現在知られておらず、このウイルスは非常に軽度の免疫応答を引き起こす。AAVを利用した遺伝子療法ベクターは、分裂細胞および静止細胞(分裂していないときの細胞の状態)の両方に形質導入し、すなわち導入遺伝子を導入して発現を開始させ、宿主細胞のゲノムに組み込まれずに染色体外の状態で存続しうる(野生型ウイルスではウイルスにより担持される遺伝子のヒト19番染色体の特定の部位での宿主ゲノムへの組み込みが生じる)。これらの特徴により、AAVは遺伝子療法用のウイルスベクターの作製に非常に魅力的になっている。
【0038】
2005年現在、ヒトおよび非ヒト霊長類由来の組織サンプルにおいて少なくとも110の重複しないAAV血清型が発見され、記載されている。血清型は、細胞表面抗原に基づいて一緒に分類された、細菌またはウイルスの種の中または異なる個体の免疫細胞の間での異なるバリエーションであり、生物の亜種レベルへの血清学的および疫学的分類を可能にする。既知のAAV血清型は全て、複数の多様な組織型からの細胞に感染しうる。組織特異性は、AAVベクターのカプシド血清型により決定され、これはシュードタイピングすなわち血清型特異的カプシドタンパク質を変更することにより、治療での使用に重要な指向性範囲を変えることにより変えることができる。これらのうち、血清型2(AAV2)がこれまでに最も広範囲に検討されている。AAV2は、骨格筋、ニューロン、血管平滑筋細胞および肝細胞への天然の指向性を示す。AAV2に関しては、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG;heparan sulfate proteoglycan)、Vβ5インテグリンおよび線維芽細胞増殖因子受容体1(FGFR‐1;fibroblast growth factor receptor 1)の三つの細胞受容体が記載されており、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが一次受容体として機能すると考えられる。
【0039】
AAV2、AAV1およびAAV8の三つのAAV血清型が、本明細書に記載のベクターの遺伝子送達に有効であることが分かった。脳においては、これらのAAV血清型はニューロン指向性を示す。
【0040】
マーモセット、マウスおよびマカクの大脳皮質における、AAV2ベースのゲノム構造体、AAV血清型1、2または8由来のカプシドタンパク質によるシュードタイピング、および交換可能なプロモーター(CMV、CaMKIIまたはSynI)からなるベクターを用いた比較研究から、形質導入および導入遺伝子発現の指向性、拡散性および効率における血清型特異的な異なる特徴が明らかになった(Watakabe et al.,2015)。
【0041】
全体としてAAV2は、ベクターのより小さい拡散および天然発生的なニューロン指向性を有する点で他の血清型と異なった。しかし、いずれの血清型も、ニューロン特異的プロモーター(CaMKIIまたはSyn1)の下でニューロンにおける導入遺伝子発現を誘導することができ、血清型2を除いて他の血清型の間ではウイルス拡散に差はなかった。提案された血清型は全て、脳への導入遺伝子のAAVベクター媒介性送達に適するように思われる。
【0042】
血清型1および8は、拡散および導入遺伝子発現が同等であり、血清型2より効率的であるように思われる。血清型1、2および8はいずれもグリアおよびニューロンに形質導入できることが証明されており、異なるプロモーターの選択により細胞サブタイプ特異的制限がより良好に達成されるようである。
【0043】
一実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より選択される。
【0044】
AAVベクターゲノム要素
導入遺伝子の発現を誘導するのに適したAAVベクターを生産するために、AAV発現カセットの要素が慎重に評価および選択されている。これには、ITR配列、プロモーター、一つのベクターからの複数の導入遺伝子の発現のためのマルチシストロニック発現要素、およびエンハンサー要素が含まれる。
【0045】
ITR配列
逆方向末端反復(ITR)配列は、使用される野生型ゲノム由来の唯一保存された遺伝子要素であり、これらの配列は、第二DNA鎖合成のためのセルフプライミングおよびAAV粒子におけるDNAのカプシド形成を含む、いくつかのシス作用プロセスに必要である。逆方向末端反復(ITR)配列は、AAVゲノムの効率的な増殖に必要であると思われるそれらの対称性にちなんで命名された。逆方向末端反復(ITR)配列は、プライマーゼに依存しない第二DNA鎖の合成を可能にする、いわゆるセルフプライミングに寄与するヘアピン形成能力によりこの特性を獲得する。ITRは、AAV DNAの宿主細胞ゲノム(ヒト19番染色体)への組み込み、ならびに完全に組み立てられたデオキシリボヌクレアーゼ耐性AAVの生成と組み合わせたAAV DNAの効率的なカプシド形成の両方に必要であることが示されている。利用可能なITR配列の選択のうちAAV血清型2が本明細書に記載のベクターの多くで選択されており、これにより後述のようにAAV1、AAV2またはAAV8カプシドのいずれかにベクターを効率的にパッキングしてビリオンを生成することが可能であった。末端反復である二つのITR配列は、ベクターの5’末端および3’末端にそれぞれ位置する。
【0046】
一実施形態では、二つのITR配列は、NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流および下流の、ベクターの5’末端および3’末端にそれぞれ位置する。
【0047】
本発明のベクター中の5’末端ITR配列は、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。5’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0048】
ベクター中の3’末端ITR配列は、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。3’末端ITR配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ITR配列は、(183個中)155個、165個、175個、180個等、少なくとも145個の塩基を含み、配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0049】
一実施形態では、5’末端ITRは、配列番号7に対応する配列、または配列番号7と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有し、3’末端ITRは、配列番号8に対応する配列、または配列番号8と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0050】
CAGプロモーター
遺伝学において、プロモーターは、特定の遺伝子の転写を開始させるDNAの領域である。プロモーターは、遺伝子の転写開始部位の近くの、当該DNAの同じ鎖上および(センス鎖の5’領域に向かって)上流に位置する。通常、プロモーターは100~1000塩基対の長さである。一般に、プロモーターは二つの主なクラス、すなわちTATAおよびCpGに分類されている。しかし、転写因子の同じ組み合わせ構成を用いる遺伝子が、異なる遺伝子発現パターンを有する。さらに、ヒトにおいて、異なる組織が異なるクラスのプロモーターを用いることが分かっている。
【0051】
形質導入率および遺伝子発現レベルに対する種々のプロモーター配列の効果は、細胞型の間で変動する。最適なプロモーターの選択を可能にするために、広範囲の利用可能なプロモーターが検査および評価されている。本発明においては、CAGプロモーターが、標的組織における適切な遺伝子発現のトリガ―を提供することが分かっている。遺伝子療法のためにAAVベクターを使用して過去に行われた臨床試験のいくつかは、治療的に有益な効果のために十分に高い効能を得る上で問題に直面している。したがって、哺乳動物発現ベクターにおいて高レベルの遺伝子発現を駆動するために使用される強力な合成プロモーターとして知られるCAGプロモーターが選択された。多くの組織型で、CAGプロモーターは、UBCおよびPGKプロモーター等の他の一般に使用される細胞プロモーターよりも高いレベルの発現をもたらすことが分かっている。CAGプロモーターは以下の配列を含む:(C)サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサー要素、(A)プロモーター、ニワトリβ‐アクチン遺伝子の第一エクソンおよび第一イントロン、(G)ウサギβ‐グロビン遺伝子のスプライス受容体。したがってこれは、転写配列の一部(二つのエクソンおよびイントロン)およびエンハンサー要素を含むため、厳密な意味でのプロモーターではない。
【0052】
一実施形態では、CAGプロモーター配列は、NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流に位置する。
【0053】
本発明のベクター中のCAGプロモーター配列は、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0054】
CAGプロモーター配列は、機能的である(例えば遺伝子の発現を誘導する)限り短縮型でもよく、短縮型CAGプロモーター配列は、(936個中)875個、900個、925個、935個等、少なくとも850個の塩基を含み、配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、前記プロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導しうる。
【0055】
一実施形態では、CAGプロモーターは、配列番号4に対応する配列、または配列番号4と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0056】
IRES
IRESと略される内部リボソーム進入部位は、タンパク質合成のより大きなプロセスの一部としてメッセンジャーRNA(mRNA)配列の途中での翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。真核生物では通常、翻訳は、開始複合体の形成に5’キャップの認識が必要であるため、mRNA分子の5’末端でのみ開始されうる。IRES配列をベクターに組み込むことにより、一つのベクターからの二つの遺伝子のバイシストロニック発現が可能となり、ここで第一遺伝子は通常の5’キャップで開始され、第二遺伝子はIRESで開始される。
【0057】
さらに、NPYおよびNPY2R rAAVベクターは、一つの細胞へのNPYおよびNPY2Rの均一な挿入を可能にするが、IRES要素の組み込みは、NPYおよびNPY2R遺伝子の不均一な発現を可能にする。さらに、上述のようにNPYおよびNPY2R遺伝子の導入遺伝子配置を選択することにより、二つの導入遺伝子間で発現比を入れ替えることが可能である。これにより、標的組織および処置のためのNPYおよびNPY2Rのin vivo発現比の適切なバランスが達成されうる。
【0058】
一実施形態では、IRES配列は、NPYのコード配列とNPY2Rのコード配列との間に位置する。
【0059】
ピコルナウイルスのIRES、異なる肝炎ウイルスのIRESおよびクリパウイルスのIRES等のいくつかの異なるウイルスのIRES配列が現在知られている。
【0060】
考えられる既知のIRES配列のうち、本発明者は、改変A7配列を含む脳心筋炎ウイルス(EMCV;encephalomyocarditis virus)由来の内部リボソーム進入部位(IRES)がベクターに最も適することを発見した。
【0061】
脳心筋炎ウイルス由来のIRESは、真核細胞または無細胞抽出物にタンパク質を発現するために実験的および薬学的用途において一般的に使用され、適切に構成されたシストロンに高レベルのキャップ非依存性翻訳活性を与える。改変A7配列(Rees et al.,1996;Bochkov and Palmenberg,2006)により、非改変EMCV IRESよりもA7 EMCV IRESでより良好なシストロン翻訳が達成されることが示されている。
【0062】
本発明のベクター中のA7 EMCV IRES配列は、配列番号3に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチド配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0063】
A7 EMCV IRES配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型A7 EMCV IRES配列は、(582個中)525個、545個、560個、570個、または575個の塩基を含み、配列番号3に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチド配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0064】
一実施形態では、IRESは、配列番号3に対応する配列、または配列番号3に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0065】
WPRE
標的細胞における遺伝子発現を確保するために、送達および転写レベルが最適化されうる。しかし、遺伝子発現を改善するために転写後方法を適用することもできる。本発明のベクターは、ウッドチャック肝炎転写後調節要素(WPRE)を組み込みうる。WPREは、特定の三次構造の形成により導入遺伝子の発現を増加させるのを助け、これにより転写後に異種遺伝子の発現を増強するDNA配列である。WPREはγ、α、およびβ成分を含む三部分調節要素である。本発明のベクターでは、完全なWPRE活性のために、完全な三部分WPREが組み込まれている。
【0066】
一実施形態では、WPRE配列は、NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する。
【0067】
本発明のベクター中のWPRE配列は、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。この配列は、ウッドチャックB型肝炎ウイルス(WHV8)ゲノムの塩基対1093~1684と100%の相同性を有する。
【0068】
WPRE配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型WPRE配列は、(593個中)少なくとも525個、545個、555個、565個、575個、または585個の塩基を含み、配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0069】
一実施形態では、WRPEは、配列番号5に対応する配列、または配列番号5と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0070】
ウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナル配列
ベクターは、ウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpAまたはbGH‐polyA)シグナル配列も組み込みうる。BGHpAシグナル配列は、導入遺伝子転写物の効率的かつ正確なポリアデニル化を確保する3’フランキング配列である(Goodwin and Rottman,1992)。二つの主な機能は、DNA転写を終結させること、および核からリボソームへのRNAの輸送に加えて転写されたRNAの3’末端を分解から保護することである。したがって、BGHpAシグナル配列は、ベクター中の最後から二番目の要素として、3’末端のITR配列のすぐ上流に位置する。
【0071】
したがって、一実施形態では、(bGH‐polyA)シグナル配列は、前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する。
【0072】
ベクター中のBGHpAシグナル配列は、配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0073】
BGHpAシグナル配列は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型BGHpAシグナル配列は、(269個中)少なくとも225個、235個、245個、255個、または265個の塩基を含み、配列番号6に存在するのと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0074】
一実施形態では、BGHpAシグナルは、配列番号6に対応する配列、または配列番号6と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0075】
ベクターのまとめ
まとめると、プロモーターおよびエンハンサー要素、シス作用要素、ならびに導入遺伝子配置およびバイシストロニック要素に関する特定の選択の結果、例示的な実施形態により二つの設計が選択された:
ITR-CAG-NPY-IRES-NPY2R-WPRE-BGHpA-ITR
ITR-CAG-NPY2R-IRES-NPY-WPRE-BGHpA-ITR
【0076】
したがって、一実施形態では、ベクターは、AAV2逆方向末端反復配列(ITR)、ハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)、内部リボソーム進入部位(IRES)、ウッドチャック肝炎翻訳後調節要素(WPRE)、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナル配列の機能的要素を含む。
【0077】
一つのさらなる実施形態では、ベクターの機能的要素の配列は、操作可能に連結され、(上流から下流へ)
5’‐ITR、CAG、NPY、IRES、NPY2R、WPRE、BGHpAおよびITR‐3’、または
5’‐ITR、CAG、NPY2R、IRES、NPY、WPRE、BGHpA、およびITR‐3’
の順序である。
【0078】
完全配列のベクターは、機能的要素間のいくつかの塩基も含み、二つのこのような完全配列が、例示的な実施形態により組み立てられた。一実施形態では、ベクターは、配列番号9に対応する配列、もしくは配列番号9と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有し、またはベクターは、配列番号10に対応する配列、もしくは配列番号10と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する。
【0079】
ベクター配列(単数または複数)は、機能的である限り短縮型でもよく、短縮型ベクター配列(単数または複数)は、(4288個中)4230個、4260個、4270個、4280個等、少なくとも4200個の塩基を含み、配列番号9と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有し、または短縮型ベクター配列(単数または複数)は、(4288個中)4230個、4260個、4270個、4280個等、少なくとも4200個の塩基を含み、配列番号10と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性等、少なくとも90%の配列同一性(%SI)を共有しうる。
【0080】
ベクターは、プロモーターまたは内部リボソーム進入部位配列とNPYおよび/またはNPY2Rコード配列との間の距離等、ベクター内範囲で記載されることもできる。AAVは約4.7Kのパッケージング容量を有するため、ベクターの合計サイズも考慮事項である。
【0081】
一実施形態では、CAGプロモーター配列と、CAGプロモーター配列の下流およびIRES配列の上流のNPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基、好ましくは40~5塩基、最も好ましくは20~10塩基の範囲内である。
【0082】
一実施形態では、IRES配列と下流のNPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基、好ましくは40~2塩基、最も好ましくは10~4塩基の範囲内である。
【0083】
当技術分野で知られるように、遺伝コードの縮重を利用した遺伝子最適化のためのいくつかのツールが存在する。縮重により、一つのタンパク質が多くの代替的な核酸配列によりエンコードされうる。コドン選好は各生物において異なり、これにより異種発現系における組み換えタンパク質の発現に困難が生じ、発現が低く不確かになりうる。これは、野生型配列が発現収量についても、分解、調節および他の特性についても最適化されない可能性のある同種発現についても当てはまりうる。したがって、転写、スプライシング、翻訳、およびmRNA分解等の遺伝子発現の様々な局面に関与する多数の配列関連パラメータを用いてベクターがヒト発現のために最適化されうる。
【0084】
したがって、一実施形態では、ベクターの配列は、ヒトにおける使用のためにコドン最適化されている。
【0085】
AAV粒子の生成
実験セクションでさらに説明するように、ベクターは、血清型1、2または8のカプシドタンパク質にパッキングされる。したがって、(上記の)二つのベクターから、以下にまとめる六つの異なるAAV粒子が生成されうる:
AAV2.1-ITR-CAG-NPY-IRES-NPY2R-WPRE-BGHpA-ITR
AAV2.1-ITR-CAG-NPY2R-IRES-NPY- WPRE-BGHpA-ITR
AAV2.2-ITR-CAG-NPY-IRES-NPY2R-WPRE-BGHpA-ITR
AAV2.2-ITR-CAG-NPY2R-IRES-NPY-WPRE-BGHpA-ITR
AAV2.8-ITR-CAG-NPY-IRES-NPY2R-WPRE-BGHpA-ITR
AAV2.8-ITR-CAG-NPY2R-IRES-NPY-WPRE-BGHpA-ITR
【0086】
したがって、一実施形態では、AAV粒子は、いわゆるシュードタイピングされたAAV粒子、つまり異なるAAV血清型由来のカプシドタンパク質でコーティングされたAAV粒子にパッケージングされたアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質により封入された本発明のベクターを含む。
【0087】
AAV粒子の送達
NPYおよびNPY2R遺伝子療法の送達は、好ましくは、ベクターを含むAAV粒子の部位特異的頭蓋内注射によるべきである。AAV粒子を含む医薬組成物は、哺乳動物のてんかんまたはパーキンソン病等の神経障害の予防、抑制、改善または処置に使用される。主な標的は薬剤抵抗性(難治性、抗療性、医学的難治性、薬剤耐性)てんかんであり、それはこれらの形態のてんかんには処置効果のある方法がほとんど存在しないためである。薬剤抵抗性てんかんは、薬品処置に効果がないか、または薬品処置の結果に経時的な変動がある広範囲のタイプのてんかんを含む。非常に広く一般的に言えば、薬剤抵抗性は、発作を抗てんかん薬(AED;anti epileptic drug)療法に応答して完全な制御下または許容される制御下におくことができないことであると言える。
【0088】
一実施形態では、医薬組成物は、哺乳動物のてんかんまたはパーキンソン病等の神経障害の予防、抑制、改善または処置に使用するためのAAV粒子を含む。一つのさらなる実施形態では、前記神経障害はてんかんである。一つのさらなる実施形態では、前記てんかんは薬剤抵抗性てんかんである。一つのさらなる実施形態では、対象は、ヒト、ウマ、イヌまたはネコ対象等の哺乳動物対象である。一つのさらなる実施形態では、対象は、ヒト対象である。一つのさらなる実施形態において、神経障害はてんかんであり、組成物は、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐NPY/Y2、AAV2‐Y2/NPY、AAV8‐NPY/Y2、またはAAV8‐Y2/NPY粒子、例えばAAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、またはAAV8‐NPY/Y2粒子、例えばAAV1‐NPY/Y2粒子を含む。一つのさらなる実施形態では、神経障害はパーキンソン病であり、組成物は、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐NPY/Y2、AAV2‐Y2/NPY、AAV8‐NPY/Y2、またはAAV8‐Y2/NPY粒子、好ましくはAAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、またはAAV8‐NPY/Y2粒子、好ましくはAAV1‐NPY/Y2粒子を含む。
【0089】
パーキンソン病の特徴は、線条体におけるドーパミン放出の喪失につながる、線条体に突出する黒質のドーパミンニューロンの喪失である。その結果、ドーパミン作動性伝達の低下および大脳基底核回路内の下流の異常発火が生じ、これにより筋固縮およびカタレプシー症状が起こる。NPYは、Y2受容体活性化を通じてドーパミンの合成および放出を促進することによりこのドーパミン作動性伝達の低下を抑えるが、Y1受容体の活性化は反対の効果を有する(Adewale et al.,2005,2007)。さらに、NPYは、in vitroおよびin vivoの両方で6‐ヒドロキシドーパミン(6‐OHDA)誘導性の毒性に対してドーパミン作動性ニューロンにY2媒介性神経保護効果を及ぼす(Decressac et al.,2011,2012)。さらに、パーキンソン病患者の死後脳には、健常対照と比較して尾状核および被殻におけるNPY陽性細胞数の増加がみられ(Cannizzaro et al.,2003)、これは内因性であるが連続的に不十分な神経保護応答を反映する可能性がある。これは、線条体および黒質のドーパミン作動性ニューロンが機能的Y2受容体を発現すること(Shaw et al.,2003)および線条体6‐OHDA誘導性のドーパミン作動性ニューロンの喪失後の線条体および側坐核におけるNPY陽性ニューロン数の増加と整合する(Kerkerian‐Le Goff et al.,1986;Salin et al.,1990)。
【0090】
一つのさらなる実施形態では、前記神経障害はパーキンソン病である。遺伝子療法は、AAV血清型の組織指向性に依存して全身的に送達されてもよいが、頭蓋内注射により、高い効能および最小限の副作用での罹患脳領域への正確な標的化が得られる。このようにすれば、ウイルスベクターは、白質路に沿った周辺領域への予想される最小限の拡散で限定された領域内に含まれる。神経障害のタイプに応じて、AAV送達アプローチは、非常に限定された脳領域へのものであるか、または適切な場合には大脳皮質のより広い領域をカバーする送達のいずれかでありうる。てんかんのタイプおよび単数または複数のてんかん病巣の位置に応じて、AAV送達アプローチは、非常に限定された脳領域へのものであるか、または適切な場合には大脳皮質のより広い領域をカバーする送達のいずれかでありうる。したがって、脳室内、硝子体内、静脈内、皮下、筋肉内、鼻腔内、経粘膜、大脳内、腹腔内、くも膜下腔内、動脈内投与等、いくつかの可能な投与方法が存在する。
【0091】
一実施形態では、AAV粒子を含む医薬組成物は、部位特異的頭蓋内注射により送達される。
【0092】
本発明の全てのAAV血清型は、グリア細胞およびニューロンに形質導入できることが証明されている。AAV2血清型は、ベクターのより小さい拡散および天然発生的なニューロン指向性を示しており、そのためAAV2血清型カプシドタンパク質によるベクターが、より小さくより限定された脳領域への適切な送達でありうる。同様に、AAV1またはAAV8血清型カプシドタンパク質によるベクターは、大脳皮質のより大きな領域をカバーする適切な送達でありうる。
【0093】
AAV粒子の用量は、単回用量、または一回もしくは複数回に与えられる複数回用量からなりうる。単回用量は、複数回の頭蓋内注射を避ける利点を有するが、複数回用量は、注射の合間に患者の用量応答を監視しながら各注射により低い用量を使用できる。通常、用量は0.1~50μgまたは0.5~20μg等、0.01~100μgの範囲の機能的AAV粒子であり得る。形質導入の効能は、注射中および注射後の対象の姿勢等、ベクターの拡散を促進するための他の要因によっても影響されうる。
【0094】
一実施形態では、機能的AAVの有効用量は、0.1~50μgまたは0.5~20μg等、0.01~100μgの間の機能的AAV粒子の範囲である。一つのさらなる実施形態では、AAV粒子は、単回用量または二回、三回、四回、五回用量等の複数回用量として投与するために処方される。
【0095】
一実施形態では、対象の神経障害を処置、抑制、または改善するための方法は、神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量のこのような組成物を投与するステップを含む。一つのさらなる実施形態では、対象は、ヒト対象等の哺乳動物対象である。さらに、神経障害はてんかんまたはパーキンソン病である。この方法では、組成物は、部位特異的頭蓋内注射を通じて送達され、一つのさらなる実施形態では、神経障害はてんかんであり、組成物は単数または複数のてんかん病巣の位置に送達される。
【0096】
NPYおよびNPY2Rの送達は、ベクターを含むAAV粒子の細胞への送達による、対象からの内因性細胞等の細胞への送達であってもよい。次いでこのような細胞が、AAVベクターにより感染または形質導入された細胞がその後移植されるex vivo遺伝子療法のアプローチでみられるように、哺乳動物のてんかんまたはパーキンソン病等の神経障害の予防、抑制、改善または処置のために対象の部位に注射または移動させることなどにより投与されうる。このような対象は、ヒト対象等の哺乳動物でありうる。
【0097】
一実施形態では、NPYおよびY2ゲノムの哺乳動物細胞への送達の方法は、前記AAV粒子を細胞に導入するステップを含む。一つのさらなる実施形態では、細胞は、神経細胞、肺細胞、網膜細胞、上皮細胞、筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、心筋細胞、骨細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、前駆細胞、および幹細胞からなる群より選択される。一実施形態では、NPYおよびY2ゲノムを対象に投与する方法は、(NPYおよびY2ゲノムを含む)前記細胞を対象に投与するステップを含む。一実施形態では、対象は、ヒト対象等の哺乳動物対象である。
【0098】
一実施形態では、NPYおよびY2ゲノムの対象への送達の方法は、対象における哺乳動物細胞に前記AAV粒子を投与するステップであって、ウイルス粒子が対象の海馬に投与される、ステップを含む。
【0099】
一実施形態では、NPYおよびY2ゲノムの対象への送達の方法は、対象における哺乳動物細胞に前記AAV粒子を投与するステップであって、ウイルス粒子が対象の線条体、側座核、黒質、腹側被蓋野、または内側前脳束に投与される、ステップを含む。
【0100】
NPYおよびNPY2Rの送達は、NPYおよび/またはNPY2R活性化が治療効果を有するかまたはNPY欠乏により引き起こされる疾患を減少させるためのものであってもよく、疾患は、てんかんおよびパーキンソン病より選択される。したがって、一実施形態では、NPYが治療効果を有するかまたはNPY欠乏により引き起こされる疾患を減少させる方法であって、疾患は、てんかんおよびパーキンソン病より選択される、方法は、神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の前記組成物を投与するステップを含む。
【0101】
一実施形態では、NPYを必要な対象に提供する方法は、NPY欠乏を有する対象等のNPYを必要とする対象を選択するステップと、前記対象に薬学的に有効な量の前記組成物を提供するステップとを含む。一つのさらなる実施形態では、前記対象は、例えばEEGおよび/またはてんかんもしくはパーキンソン病の臨床診断等の臨床評価または診断試験によりNPY欠乏を有する対象として選択される。
【0102】
導入遺伝子発現の評価
本発明のベクターの、NPYおよびNPY2Rの発現を開始させる能力が試験された。図2に見られるように、NPYおよびNPY2Rの配列を含むAAV発現プラスミドによるHEK293細胞の一時的トランスフェクションにより、デュプレックスddPCR反応におけるNPYおよびY2標的配列の両方の量の上昇により測定して、両導入遺伝子をエンコードするmRNA転写物のレベルの上昇が生じた。両方のプラスミドで、IRESの上流の導入遺伝子の標的配列の発現レベルは、下流の導入遺伝子の標的配列よりも豊富であった。
【0103】
海馬におけるNPYおよびNPY2Rの発現
NPYおよびNPY2R配列を含むAAV発現プラスミドの配列を実験的に検証した後、プラスミドがAAV血清型1、2または8由来のAAVカプシド粒子にパッケージングされて、上述のように合計6つの独特なAAVベクター粒子が生成された。これらの粒子が精製され、ラットにおけるin vivo試験に進められた。成体雄Wistarラットの背側海馬への頭蓋内注射の三週間後に、動物が安楽死させられ、脳が採取され、急速冷凍された。続いて、これらの脳からの脳スライスに対し、NPYを標的とする免疫組織化学的アッセイならびにNPY2Rの結合およびGPCRの機能的結合を可視化するオートラジオグラフィーアッセイを用いて、NPYおよびNPY2Rの導入遺伝子発現の評価が行われた。AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐NPY/Y2、またはAAV8‐NPY/Y2による処置はいずれも、NPYレベルの有意な増加をもたらした(図3および4)。NPY発現を誘導するAAVベクターの階層的順序は以下の通りであった:AAV1‐NPY/Y2=AAV1‐Y2/NPY=AAV8‐NPY/Y2>AAV‐NPY/Y2>AAV8‐Y2/NPY=AAV2‐Y2/NPY。六つのベクターの全てが機能的NPY2Rレベルの上昇をもたらし(図5Aおよび5B)、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐Y2/NPY、またはAAV8‐Y2/NPYによる処置後にはNPY2R結合レベルの有意な増加も観察された(図6Aおよび6B)。NPY2R発現を誘導するAAVベクターの階層的順序は以下の通りであった:AAV1‐Y2/NPY>AAV8‐Y2/NPY=AAV1‐NPY/Y2>AAV2‐Y2/NPY>AAV8‐NPY/Y2=AAV2‐NPY/Y2。
【0104】
したがって、両方のAAV発現プラスミド(AAV‐NPY/Y2およびAAV‐Y2/NPY)が良好に転写され、NPYおよびNPY2Rタンパク質の発現をもたらした。さらに、全ての場合に、導入遺伝子発現のレベルは、IRES配列の上流または下流に位置する導入遺伝子配列に依存し、IRES配列の上流に位置する導入遺伝子は、IRES配列の下流に位置する導入遺伝子よりも相対的に高いレベルで発現された。
【0105】
AAV血清型1からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAVベクターは、ラット海馬に頭蓋内注射されたときに最も高い導入遺伝子発現効能を有した(AAV1>AAV8>AAV2)。したがって、一実施形態では、AAV粒子のAAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群、好ましくはAAV1およびAAV8より選択される。
【0106】
驚くべきことに、AAV血清型1からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAVベクターは、AAV血清型2および8からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされた他のAAVベクターが下流の導入遺伝子の相対的に低い発現を示したのと比較して、(図4Aおよび4Bに見られるように)IRES要素の下流に位置する導入遺伝子の非常に高い発現を示した。したがって、AAV血清型1からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAVベクターは、第一および第二導入遺伝子(すなわちNPYおよびNPYR2)の高い発現を示す。
【0107】
臨床的AAV遺伝子療法のより大きな障害の一つは、高い効能で安全な発現を確保することである。したがって、均一に高い発現が非常にプラスであるとみなされる。したがって、一実施形態では、AAV粒子のAAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より選択され、最も好ましくはAAV1である。一つのさらなる実施形態では、AAV粒子は、両方の導入遺伝子(NPYおよびNPY2R)のより相同な過剰発現のためにAAV1カプシドタンパク質を有する。
【0108】
対照的に、NPYおよびNPY2R導入遺伝子の非相同発現効能が望ましい場合には、AAV血清型2および8からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAVベクターが好ましい可能性がある。
【0109】
一実施形態によれば、本明細書で使用されるところの配列同一性(%SI)は、任意の都合の良い方法により評価されうる。このような計算にはコンピュータプログラムを使用することが一般的であり、配列対の比較およびアライメントのための標準プログラムの組には、ALIGN(Myers and Miller,CABIOS,4:11‐17,1988)、FASTA(Pearson,Methods in Enzymology,183:63‐98,1990)およびギャップBLAST(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.,25:3389‐3402,1997)、またはBLASTP(Devereux et al.,Nucleic Acids Res.,12:387,1984)が含まれる。このようなリソースが手元にない場合、一実施形態によれば、配列同一性(%SI)は、(%SI)=100%(ペアワイズアラインメントにおける同一残基数)/(最短配列の長さ)として計算されうる。
【0110】
表1~3に示すように、スコアリングを用いて発現結果がさらに分析されうる。表1では、導入遺伝子発現が血清型ごとにスコアリングされた。
【0111】
【表1】
【0112】
表1は、NPYおよびY2過剰発現AAV1、2および8ベクターで処置した動物におけるNPYおよびNPY2Rタンパク質レベルを示す。観察されたNPYまたはNPY2Rタンパク質シグナルに対応してタンパク質レベルが評価された:1(内因性レベルに対応するタンパク質レベル)、2(内因性レベルを上回る低いタンパク質発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のタンパク質発現)、および4(内因性レベルを上回る高いタンパク質発現)。データは、平均値±s.e.mとして示される。続いて、異なるAAVベクターに1~3のランクが与えられ、1は最も高い発現レベルに等しく、3は最低に等しい。
【0113】
したがって、AAV血清型1からのカプシドタンパク質でシュードタイピングされたAAVベクターは、ラット海馬に頭蓋内注射されたときに最も高い導入遺伝子発現効能を有した(AAV1>AAV8>AAV2)ことが明らかである。
【0114】
さらに、導入遺伝子発現は、表2に示すように、二つのベクターの配置(NPY/Y2またはY2/NPY)に関しても評価されうる。
【0115】
【表2】
【0116】
表2は、NPY/Y2またはY2/NPY AAVベクターで処置した動物におけるNPYおよびNPY2Rタンパク質レベルを示す。観察されたNPYまたはNPY2Rタンパク質シグナルに対応してタンパク質レベルが評価された:1(内因性レベルに対応するタンパク質レベル)、2(内因性レベルを上回る低いタンパク質発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のタンパク質発現)、および4(内因性レベルを上回る高いタンパク質発現)。データは、平均値±s.e.mとして示される。続いて、異なるAAVベクターに1~2のランクが与えられ、1は最も高い発現レベルに等しく、2は最低に等しい。
【0117】
したがって、導入遺伝子発現のレベルは、IRES配列の上流または下流に位置する導入遺伝子配列に依存し、IRES配列の上流に位置する導入遺伝子は、IRES配列の下流に位置する導入遺伝子よりも相対的に高いレベルで発現されたことが明らかである。
【0118】
KA誘発発作に対するAAVベクター媒介性効果
ラットにおけるカイニン酸誘発発作モデルを用いて、NPVおよびその受容体のAAVベクター媒介性発現の発作抑制効果が評価された。このモデルは、最初の運動発作およびてんかん重積状態までの潜伏時間ならびに発作の頻度および持続期間の測定、ならびに一般的な修正された発作重症度スコアを含み、側頭葉てんかんにおける急性発作事象を反映すると考えられる。これは図7に示されており、図7は、AAV誘導性導入遺伝子過剰発現のレベルとの関係での、単回カイニン酸注射(s.c.)後の2時間の観察期間中の発作発症のグラフ図を示す。高レベルのAAVベクター誘導性NPY発現レベルは、内因性レベルおよびより低レベルのNPY発現と比較して、最初の運動発作およびてんかん重積状態の両方までの潜伏時間の増加ならびに発作が起きている時間の減少をもたらした(図7A)。高レベルのAAVベクター誘導性NPY2R発現レベルは、内因性レベルおよびより低レベルのNPY2R発現と比較して、有意なレベルには達しないものの、発作が起きている時間の減少傾向をもたらした(図7B)。
【0119】
図8Aでは、AAV1‐NPY/Y2による処置は、てんかん重積状態(SE)の発症までの潜伏時間を増加させ、合計発作時間を減少させたが、AAV1‐Y2/NPY処置後に観察された効果には、AAV1空処置と比較して統計的有意性が見られなかった(図8A)ことがさらに分かる。AAV1‐NPY/Y2およびAAV1‐Y2/NPYのいずれも、最初の運動発作までの潜伏時間または合計発作回数には影響しなかった(図8A)。
【0120】
図8Bに見られるように、AAV2‐NPY/Y2またはAAV2‐Y2/NPYによる処置は、AAV2空と比較して発作の発症または重症度に有意な変化をもたらさなかった(図8B)。
【0121】
図8Cに見られるように、AAV8‐NPY/Y2による処置は、てんかん重積状態(SE)の発症までの潜伏時間の増加および合計発作時間の減少が見られたが、AAV8‐Y2/NPYにはAAV8空と比較して有意な効果は観察されなかった(図8C)。しかし、AAV8‐NPY/Y2誘導性の合計発作時間の減少の、有意ではないが強い傾向は観察された(図8C)。
【0122】
全てのベクター粒子の中で、AAV1‐NPY/Y2による処置が、発作持続時間の減少およびSEの発症までの潜伏時間の増加の観察により明らかである抗発作効果をもたらすことが分かった。AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐NPY/Y2、AAV2‐Y2/NPY、AAV8‐NPY/Y2、またはAAV8‐Y2/NPYによる処置は、発作の発症または重症度の統計的に有意な抑制をもたらさなかった。AAVベクター粒子の拡散およびNPY導入遺伝子発現効能は、血清型に依存することが分かった(AAV1>AAV8>AAV2)。NPYおよびY2の導入遺伝子発現は、NPY免疫染色および機能的Y2受容体結合アッセイによりそれぞれ確認された。頭蓋内注射およびAAVベクター処置後の動物に異常行動または明らかな健康問題は観察されなかった。
【0123】
まとめると、図8は、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV8‐NPY/Y2に、発作持続時間の減少およびSEの発症までの潜伏時間の増加の観察により明らかな抗発作効果の明確な傾向がみられ、AAV1‐NPY/Y2では明確な統計的有意性があることを示す。AAV2構築物では結果はそれほど明確ではなく、AAV8‐Y2/NPYも抗発作効果の明確な傾向はみられなかった。in vivo系では、発現は効能と同じではないが、発現は依然としてベクター機能にとって必須であることが明らかである。
【0124】
NPYおよびNPY2Rの導入遺伝子を単一の構築物から発現させることにより、本発明のベクターは、動物モデルにおいてNPY/NPY2Rタンパク質の両方の発現レベルが医学的効果と相関付けられるのを目にする以前にはみられなかった機会を提供する。全ての形質導入細胞は、全ての移入遺伝子が同じ位置に局在化され、NPY/NPY2Rの比率が固定されベクターに依存する(そのため全ての形質転換細胞でも比率が一貫する)、同数のNPYおよびNPY2R遺伝子を有する構築物で感染させている。NPYとNPY2R遺伝子の拡散および分布も異ならず、これらは全く同じ細胞内に局在する。これらの効果は、NPYおよびNPY2R遺伝子をそれぞれ含む二つのベクターを用いて達成することは不可能である。このことによるプラスの効果には、非常に一貫した処置結果が含まれる。統計的には、これにより個々のベクターの効果をスコアリングすることも容易になる。表3に示すように、ベクターの様々な品質(発現およびカイニン酸誘発発作抑制効能)をスコアリングすることにより、いずれのベクターが処置に最も優れているかを強調することがより容易になる。
【0125】
【表3】
【0126】
表3は、導入遺伝子発現および急性カイニン酸誘発発作モデルにおける抗発作処置としての効能の両方に基づく六つのAAVベクターの総合ランキングを示す。ランクは1から6まで与えられ、1は最高ランクに等しく、6は最低ランクに等しい。総合ランクは、発現および効能ランキングの平均ランクを表す。総合ランキングによれば、AAV1‐NPY/Y2=AAV1‐Y2/NPY=AAV8‐NPY/Y2>AAV8‐Y2/NPY=AAV2‐NPY/Y2>AAV2‐Y2/NPYである。
【0127】
したがって、一実施形態では、AAV粒子は、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、またはAAV8‐NPY/Y2である。一実施形態では、AAV粒子は、AAV1‐NPY/Y2である。
【0128】
AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐NPY/Y2、またはAAV8‐NPY/Y2での処置はいずれも、NPYレベルの有意な増加をもたらした(図3および4)。六つのベクター全てによる処置が、機能的NPY2Rレベルの増加をもたらした(図5Aおよび5B)が、AAV1‐Y2/NPYで最も高い発現がもたらされた。六つのベクター全てでNPY2R結合レベルが増加し、AAV1‐NPY/Y2、AAV1‐Y2/NPY、AAV2‐Y2/NPY、またはAAV8‐Y2/NPYでの処置後には有意に増加した(図6Aおよび6B)。NPY発現を誘導するAAVベクターの階層的順序は以下の通りであった:AAV1‐NPY/Y2=AAV1‐Y2/NPY=AAV8‐NPY/Y2>AAV‐NPY/Y2>AAV8‐Y2/NPY=AAV2‐Y2/NPY。NPY2R発現を誘導するAAVベクターの階層的順序は以下の通りであった:AAV1‐Y2/NPY>AAV8‐Y2/NPY=AAV1‐NPY/Y2>AAV2‐Y2/NPY>AAV8‐NPY/Y2=AAV2‐NPY/Y2。これは、共局在化したNPY2R発現を伴う高いNPY発現がin vivoの効能に好ましいと思われることを示唆する。
【0129】
ハロペリドール誘発カタレプシーグリッドテスト
マウスにおけるハロペリドール誘発カタレプシーモデルを用いて、カタレプシー状態に対するNPYおよびその受容体のAAVベクター媒介性発現の影響が評価された。このモデルは、ドーパミンD2受容体に拮抗し、線条体のドーパミン含有量を減少させることが知られるハロペリドールの投与を利用する。これによりドーパミン作動性伝達のブロックおよび大脳基底核回路内の下流の異常発火がもたらされ、パーキンソン病で観察される運動症状を再現した筋固縮およびカタレプシーの症状として現れる。
【0130】
図9Aに見られるように、マウスへのAAV1‐NPY/Y2ベクターの注射は、AAV1空と比較して、カタレプシー状態が起きている時間の有意な減少が誘導された。さらに、図9Bは、AAV1‐NPY/Y2ベクターによる処置は、AAV1空と比較して、15分間隔で観察したカタレプシー状態が起きている平均時間の有意な減少も誘導したことを示す。
【0131】
本発明は、単数または複数の特定の実施形態を参照して以上に説明されているが、本明細書に記載された特定の形態に限定されることは意図されない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、上記の特定のもの以外の、例えば上述したものとは異なる他の実施形態が、これらの添付の特許請求の範囲内で等しく可能である。
【0132】
特許請求の範囲において、「含む/含んでいる」という用語は、他の要素またはステップの存在を排除するものではない。さらに、個々にリストされているが、複数の手段、要素または方法ステップが、例えば単一のユニットまたはプロセッサにより実施されうる。加えて、個々の特徴が異なる請求項に含まれうるが、これらは有利に組み合わせられる可能性があり、異なる請求項に含まれることは、特徴の組み合わせが実現可能および/または有利ではないことを意味しない。加えて、単数刑での言及は複数形を排除するものではない。「一つの(a)」、「一つの(an)」、「第一」、「第二」等の用語は、複数形を排除しない。特許請求の範囲の参照符号は、明確のための例として提供されるにすぎず、特許請求の範囲をいかなる点でも限定するものと解釈されてはならない。
【実施例0133】
以下の実施例は単なる例であり、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0134】
ベクター
ヒトNPY(NM_000905.3)およびNPY2R(NM_000910.2)オープンリーディングフレーム(ORF;open reading frame)ならびに内部リボソーム進入部位(IRES配列、A7バージョン)を、0.9kbハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチン(CAG)プロモーターの制御下の、ウッドチャック肝炎転写後調節要素(WPRE)およびAAV2逆方向末端反復が隣接するウシ成長ホルモンポリアデニル化(bGH)シグナルを含むAAV発現プラスミドにクローニングした。得られたベクターが図1Aおよび1Bに概略的にまとめられる。
【0135】
AAV粒子へのAAVベクターゲノムのパッケージング
ベクターDNAを、相補AAVゲノム(pAV2(ATCC)等)または組み換えAAVプラスミドの存在下で許容性真核細胞(ヒト293細胞等)にトランスフェクションする。細胞を(LB+アンピシリンで37℃で)2~4日間培養した後、複数の凍結/解凍サイクルによりウイルス粒子を放出させ、その後60℃に加熱することによりアデノウイルスヘルパーウイルスを不活性化する。得られた細胞可溶化物は、AAV粒子にパッケージングされたAAVベクターを有するAAV粒子を含む。上記の二つのベクター、およびAAV1、2、8ヘルパーウイルスを使用して、六つの異なるAAV粒子が得られる。生産された全てのベクターが、いわゆるシュードタイピングされたAAV粒子、つまりAAV血清型1、2および8由来のカプシドタンパク質でコーティングされたAAV粒子にパッケージングされた、AAV血清型2由来のITRを含む上記のAAVプラスミド構築物からなる。
【0136】
ラット海馬へのAAVベクターの注射
AAVベクターを麻酔し、成体雄Wistarラットの背側海馬に片側注射(座標セット1:前後-3.3mm、内外1.8mm、背腹硬膜から-2.6mm、または座標セット2:前後-4.0mm、内外-2.1mm、背腹頭蓋表面から-4.3mm)、または背腹側海馬に両側注射(前後-3.3mm、内外+/-1.8mm、背腹-2.6mm、AP-4.8mm、ML±5.2mm、DV-6.4および-3.8mm)した。前後軸ではブレグマ、内外軸では中線を基準点とした。半球あたり1または3μlの体積のウイルスベクター懸濁液(1.1×1012ゲノム粒子/ml)を注入した。
【0137】
ラットにおけるカイニン酸誘発発作
AAVベクター注射の三週間後、ラットにカイニン酸(KA;10mg/kg;0.9%等張生理食塩水に希釈;pH7.4)を皮下注射し、個別のプレキシガラスボックス(30×19×29cm)に入れ、2時間ビデオ録画した。続いて、処置条件を知らない観察者が、最初の運動発作およびてんかん重積状態までの潜伏時間、運動発作が起きている時間、ならびに発作の回数を評価した。運動発作は、少なくとも15秒間の前肢および/または後肢の間代性運動として定義された。
【0138】
安楽死およびラットからの組織回収
KA注射の三時間後、動物を深く麻酔し、断頭した。脳を迅速に回収し、ドライアイス上で急速凍結し、その後、さらなる処理まで-80℃で保存した。
【0139】
ラットにおけるAAVベクター媒介性導入遺伝子発現の評価
AAVベクター処置後の発現レベルを、対応する未処置対照ラットにおける発現レベルと比較した。二つの導入遺伝子NPYおよびNPY2Rの発現レベルおよび分布パターンを、処置した動物からの細胞または海馬脳スライスでのddPCRアッセイ、免疫組織化学的アッセイおよびオートラジオグラフィーアッセイを用いて評価した。
【0140】
ドロップレットデジタルPCR(ddPCR;Droplet digital PCR)アッセイ:AAV‐NPY/Y2またはAAV‐Y2/NPYベクターでトランスフェクションしたヒト胚性腎臓293細胞からRNAを単離した。iScript Advanced cDNASynthesis kit for RT‐qPCR(Bio‐Rad)を用いてcDNAを合成した。Integrated DNA Technologies RealTime qPCR Assay設計ツールを使用してddPCR用のプライマーおよびプローブアッセイ(Integrated DNA Technologies)が設計された:NPY(順方向:CTCATCACCAGGCAGAGATATG(配列番号11);逆方向:ACCACATTGCAGGGTCTTC(配列番号12))、NPY2R(順方向:CTGGACCTGAAGGAGTACAAAC(配列番号13);逆方向:GTTCATCCAGCCATAGAGAAGG(配列番号14))。Bio‐Rad QX200プラットフォームを使用して、FAM標識NPY標的配列およびHEX標識NPY2R標的配列を測定する二本鎖ddPCRアッセイを行った。プローブ用の1xddPCR Supermix(dUTPを含まない)(Bio‐Rad)、NPYプライマー/FAMプローブ(900nM/250nM)、NPY2Rプライマー/HEXプローブ(900nM/250nM)および1:5000希釈された2μlのcDNAを含む20μlの反応物を、ドロップレット生成およびPCRに使用した。アニーリング/伸長温度60℃のドロップレットデジタルPCRの標準サイクル条件(BioRad C1000 Touchサーマルサイクラー)を使用した。QuantaSoft(商標)ソフトウェア(BioRad)を使用してQX200 droplet reader(BioRad)でサンプルを分析した。
【0141】
NPY免疫組織化学的アッセイ:ウサギ抗NPY抗体(1:500/1:10,000;Sigma‐Aldrich)でのインキュベーション後、Cy3コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体(1:200、Jackson Immunoresearch,USA)またはビオチン化ロバ抗ウサギ二次抗体でのインキュベーションおよび3,3‐ジアミノベンジジン(DAB)を用いて、海馬スライスにおけるNPY発現を可視化した。Olympus BX61顕微鏡およびCellSensソフトウェアを用いてデジタル化された画像を得た。定性的評価の後、背側海馬CA1(錐体層ならびに上昇層および放線状層)のNPYレベルを評価し、NPY陽性シグナルに対応する値を与えた:1(内因性レベルに対応するNPYレベル)、2(内因性レベルを上回る低いNPY発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のNPY発現)、および4(内因性レベルを上回る高いNPY発現)。データは平均値±s.e.mとして示し、Mann‐Whitney U検定を用いて分析する。未処置ナイーブ対照動物と比較してP<0.05。
【0142】
NPY Y2受容体結合オートラジオグラフィーアッセイ:海馬スライスを、10nMのLeu31、Pro34‐神経ペプチドY(Y1/Y4/Y5選択性アゴニスト;#H‐3306,Bachem AG,Switzerland)とともに0.1nMの[125I][Tyr36]モノヨード‐PYY(4000Ci/mmol;#IM259;Amersham Biosciences)でインキュベートして、Y2結合を可視化した。非特異的結合を可視化するために、1μM非標識NPY(ヒト/ラット合成、Schafer‐N,Denmark)を加えた。その後、スライスを125I感受性Kodak Biomax MSフィルム(Amersham Biosciences)に露光し、現像した。定性的評価の後、背側海馬CA1(錐体層ならびに上昇層および放線状層)のY2受容体結合を評価し、Y2受容体シグナルに対応する値を与えた:1(内因性レベルに対応するY2受容体発現)、2(内因性レベルを上回る低いY2受容体発現)、3(内因性レベルを上回る中程度のY2受容体発現)、および4(内因性レベルを上回る高いY2受容体発現)。データは平均値±s.e.mとして示し、Mann‐Whitney U検定を用いて分析する。未処置ナイーブ対照動物と比較してP<0.05。
【0143】
NPY Y2機能的受容体結合オートラジオグラフィーアッセイ:Y2受容体の機能的結合の可視化のために、海馬スライスを40μMの[35S]‐GTPγS(1250Ci/mmol;NEG030H250UC;PerkinElmer,DK)、1μMのNPY(Schafer‐N,Copenhagen,DK)、1μMのY1受容体アンタゴニストBIBP3226(#E3620,Bachem AG,Switzerland)、および10μMのY5受容体アンタゴニストL‐152,804(#1382,Tocris Cookson,UK)でインキュベートした。Y2受容体の結合を確認するために、BIBP3226およびL‐152,804と一緒に1μMのY2受容体アンタゴニストBIIE0246(#1700,Tocris Cookson,UK)をNPYに加えた。40μMの[35S]‐GTPγSおよび10μMの非標識GTPγS(#89378;Sigma‐Aldrich)を含むバッファーB中でのインキュベーションにより、非特異的結合を決定する。続いて、スライスをKodak BioMax MRフィルムに露光し、現像した。ImageJソフトウェア(National Institute of Health,USA)を用いて、背側海馬CA1(錐体層ならびに上昇層および放線状層)のY2受容体の機能的結合を評価した。データを平均値±s.e.mとして示し、両側スチューデントt検定を用いて分析する。未処置ナイーブ対照動物と比較してはP<0.05、***はP<0.001。
【0144】
マウス線条体へのAAVベクターの注射
マウスを麻酔し、ブレグマに対して以下の座標の三部位にウイルスベクター(1.1×1012ゲノム粒子/ml)を注射した:外頭蓋を基準点として用いて前後:+0.85mm;内外:±1.85mm;背腹:-3.00mm(1μl)、-3.4mm(0.5μl)、-3.85mm(1μl)。
【0145】
マウスにおけるハロペリドール誘発カタレプシーグリッドテスト
この一般的に使用されるパーキンソン病の症状の薬理学的モデルは、ドーパミンD2受容体に拮抗し、線条体のドーパミン含有量を減少させることが知られるハロペリドールの投与を利用する(Duty and Jenner,2011)。これによりドーパミン作動性伝達のブロックおよび大脳基底核回路内の下流の異常発火がもたらされ、パーキンソン病で観察される運動症状を再現した筋固縮およびカタレプシーの症状として現れる。
【0146】
マウスにハロペリドールを注射し(1.0mg/kg、i.p.)、マウスを金属グリッド上に60秒間置いて試験し、不動化時間を記録した。これは、ハロペリドールの注射後に、処置条件を知らない観察者により、2時間の観察期間中30分毎に60秒間の観察期間にわたって行った。
【0147】
【表4-1】
【0148】
【表4-2】
【0149】
【表4-3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023022196000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経ペプチドY(NPY)コード配列と神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列とを含む、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターであって、前記NPY2Rコード配列は、前記NPYコード配列の下流にある、前記ベクター
【請求項2】
前記神経ペプチドY(NPY)コード配列は、配列番号1に対応する配列、または前記配列と少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記神経ペプチドY2受容体(NPY2R)コード配列は、配列番号2に対応する配列、または前記配列と少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクターは、AAV2逆方向末端反復配列(ITR)、ハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)、内部リボソーム進入部位(IRES)、ウッドチャック肝炎翻訳後調節要素(WPRE)、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化(bGH‐polyA)シグナル配列の機能的要素の少なくとも一つをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
前記ベクターはハイブリッドサイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ‐アクチンCAGプロモーター(CAG)を含み、前記CAGプロモーター配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流に位置する、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクターは内部リボソーム進入部位(IRES)を含み、前記IRES配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の間に位置する、請求項4または5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターはウッドチャック肝炎翻訳後調節エレメント(WPRE)を含み、前記WPRE配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する、請求項4~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターはウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナル配列を含み、前記(BGHpA)シグナル配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流に位置する、請求項4~7のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項9】
前記ベクターは二つのITR配列を含み、第一ITR配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の上流の前記ベクターの5’末端に位置し、第二ITR配列は前記NPYおよびNPY2Rのコード配列の下流の前記ベクターの3’末端に位置する、請求項4~8のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項10】
前記配列は、
5’‐ITR、CAG、NPY、IRES、NPY2R、WPRE、BGHpAおよびITR‐3’の順に操作可能に連結される、請求項4~9のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
前記5’末端ITRは、配列番号7に対応する配列、または配列番号7に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有し、前記3’末端ITRは、配列番号8に対応する配列、または配列番号8に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
前記CAGは、配列番号4に対応する配列、または配列番号4に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記IRESは、配列番号3に対応する配列、または配列番号3に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~12のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
前記WPREは、配列番号5に対応する配列、または配列番号5に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~13のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
前記BGHpAは、配列番号6に対応する配列、または配列番号6に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~14のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
前記ベクターは、配列番号9に対応する配列、または配列番号9に存在する対応する長さのオリゴヌクレオチドフラグメントと少なくとも90%の配列同一性(%SI)を有する配列を有する、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記ベクターの配列は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化される、請求項4~16のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項18】
前記CAGプロモーター配列と、前記CAGプロモーター配列の下流および前記IRES配列の上流の前記NPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基の範囲内である、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項19】
前記IRES配列と下流のNPYまたはNPY2Rのコード配列との間の距離は、60~0塩基の範囲内である、請求項4~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載のベクターを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子であって、前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質により封入される、AAV粒子。
【請求項21】
前記AAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2およびAAV8からなる群より選択される、請求項20に記載のAAV粒子。
【請求項22】
AAV1‐NPY/Y2、またはAAV8‐NPY/Y2である、請求項2021のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項23】
AAV1‐NPY/Y2である、請求項2022のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項24】
請求項2023のいずれか一項に記載のAAV粒子を含む医薬組成物であって、哺乳動物の神経障害の予防、抑制、改善または処置における使用のための、医薬組成物。
【請求項25】
前記神経障害はてんかんまたはパーキンソン病である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記てんかんは薬剤抵抗性てんかんである、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記神経障害はパーキンソン病である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記組成物は部位特異的頭蓋内注射により投与される、請求項2427のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記AAV粒子は、単回用量または二回、三回、四回、若しくは五回用量の複数回用量としての投与のために処方される、請求項2428のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
機能的AAVの有効用量は、0.01~100μgの間の機能的AAV粒子の範囲である、請求項2429のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項31】
対象(ただし、ヒトを除く。)の神経障害を処置、抑制、または改善するための方法であって、
神経障害を患う対象の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の請求項2430のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップ
を含む、方法。
【請求項32】
前記対象は哺乳動物対象である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記対象は、イヌ、ネコまたはウマ対象である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記神経障害はてんかんまたはパーキンソン病である、請求項3133のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は部位特異的頭蓋内注射を通じて送達される、請求項3134のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記神経障害はてんかんであり、前記組成物は単数または複数のてんかん病巣の位置に送達される、請求項3135のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
NPY遺伝子及びY2遺伝子の哺乳動物細胞(ただし、ヒト生体内における細胞を除く。)への送達の方法であって、請求項2023に記載のAAV粒子を細胞に導入するステップを含む、方法。
【請求項38】
前記細胞は、神経細胞、肺細胞、網膜細胞、上皮細胞、筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、心筋細胞、骨細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞、前駆細胞、および幹細胞からなる群より選択される、請求項37に記載の送達の方法。
【請求項39】
NPY遺伝子及びY2遺伝子を対象(ただし、ヒトを除く。)に投与する方法であって、請求項37または38に記載の方法を含む、方法。
【請求項40】
前記対象は哺乳動物対象である、請求項39に記載の遺伝子を対象に投与する方法。
【請求項41】
NPY遺伝子及びY2遺伝子の対象(ただし、ヒトを除く。)への送達の方法であって、対象における哺乳動物細胞(ただし、ヒト細胞を除く。)に請求項2023のいずれか一項に記載のAAV粒子を投与するステップであって、前記ウイルス粒子が前記対象の海馬に投与される、ステップを含む、方法。
【請求項42】
NPYが治療効果を有するかまたはNPY欠乏により引き起こされる疾患を軽減する方法であって、前記疾患は、てんかんまたはパーキンソン病より選択され、前記方法は、神経障害を患う対象(ただし、ヒトを除く。)の中枢神経系の細胞に、薬学的に有効な量の請求項2430のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項43】
NPYを必要な対象(ただし、ヒトを除く。)に提供する方法であって、
NPY欠乏を有する対象のNPYを必要とする対象を選択するステップと;
前記対象に薬学的に有効な量の請求項2430のいずれか一項に記載の組成物を提供するステップと
を含む、方法。
【請求項44】
前記対象は、EEGおよび/またはてんかんもしくはパーキンソン病の臨床診断の臨床評価または診断試験によりNPY欠乏を有する対象として選択される、請求項43に記載の方法。
【外国語明細書】