(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022208
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/17 20060101AFI20230207BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230207BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230207BHJP
【FI】
A61K36/17
A61P31/14
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190935
(22)【出願日】2022-11-30
(62)【分割の表示】P 2022517226の分割
【原出願日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2020167897
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」「感染初期のCOVID-19患者の重症化を防止する新規生薬エキス製剤の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(71)【出願人】
【識別番号】510318332
【氏名又は名称】学校法人松山大学
(71)【出願人】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003665
【氏名又は名称】株式会社ツムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】花輪 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】日向 須美子
(72)【発明者】
【氏名】小田口 浩
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸広
(72)【発明者】
【氏名】日向 昌司
(72)【発明者】
【氏名】上間 匡
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】内山 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】天倉 吉章
(72)【発明者】
【氏名】好村 守生
(72)【発明者】
【氏名】楊 金緯
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和臣
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防又は治療のための抗ウイルス剤、および予防のための方法を提供する。
【解決手段】麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、または麻黄エキス由来の高分子縮合型タンニンを有効成分として含む医薬品製剤、漢方製剤、食品その他の組成物の使用。好ましくは、これらの組成物は経口摂取可能な形態で提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項3】
麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項4】
医薬品製剤又は漢方製剤の形態である、請求項1~請求項3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
食品の形態である、請求項2又は請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス又は麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む飲食物を経口的に摂取させることを含む、新型コロナウイルス感染症の予防のための方法。
【請求項7】
麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス又は麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分として含有する医薬品を対象に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための方法。
【請求項8】
高分子縮合型タンニンをゲル浸透クロマトグラフィーで定量することにより、請求項1~請求項5に記載の抗ウイルス剤の抗ウイルス作用の有効性を担保する方法。
【請求項9】
麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、請求項1の抗ウイルス剤。
【請求項10】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、請求項2の抗ウイルス剤。
【請求項11】
他の新型コロナウイルス感染症治療薬を対象に投与することをさらに含む、請求項6又は請求項7の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻黄エキス、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(Ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: EFE)、及び/又は、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的な感染拡大が生じており、その予防法及び治療法の確立が喫緊の課題となっている。このような背景から、様々な既存の医薬品からCOVID-19の治療に有効であるものを早急に見出す研究が進められている。しかしながら、コロナウイルス以外のウイルスに対して有効性が確認されている薬剤であっても、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して有効であるかは、容易に予想できず、感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験によって有効性を検証する必要がある。
【0003】
現在までに、日本国内で承認されている治療薬を以下の表に示す(非特許文献1:新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.3版, 2021年8月29日/日刊薬業 2021年9月27日)。抗体医薬品のロナプリーブとゼビュディ以外は、中等症以上の患者に対する治療薬である。ロナプリーブとゼビュディは、点滴静注のため、治療できる医療機関に制限があり、薬価も10万円以上すると言われており、抗体のために増産も難しい。このため、自宅療養中の軽症者に安全かつ安価に投与できる経口治療薬が求められている。
【0004】
【0005】
漢方薬は、複数の生薬を組み合わせた漢方処方のエキスであり、伝統的に様々な疾病の治療に用いられてきた。漢方薬の適用は、現代医学とは異なる漢方医学的概念に基づいて処方されている。したがって、COVID-19に対する漢方治療が期待されている。このような背景から、漢方医学的概念に加え、これまでの知見を踏まえ、いくつかの漢方薬が候補薬として提案されている(非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、具体的なエビデンスは無く、可能性の提示に留まっている。また、中国で伝統的に使用されている複数の生薬のエキスである中医薬、清肺排毒湯について、候補薬となることが提案されている(非特許文献2、非特許文献4)。しかしながら、清肺排毒湯は抗ウイルス剤としての作用機序は不明であり、すべての生薬、あるいは、特定の複数の生薬の組み合わせで効果を示すのか、特定の生薬エキス単独でも有効であるかについては報告されていない。
【0006】
上述したように、生薬は漢方薬等の伝統薬として用いられている。生薬は、路地での栽培、あるいは、自生しているものを収穫し、乾燥して用いている。したがって、同じ種であっても、採取季節や天候等の不確定因子の影響を受け、成分含量が変動することがある。抗ウイルス作用を有する生薬や漢方薬等を経験的に用いることは可能であるが、採取されたロットの力価は不確定であるため、効能効果を標榜した医薬品として提供するためには、適切な試験を実施し、適切な規格に適合していることを確認しなければならない。
【0007】
麻黄は、日本薬局方に収載されている医薬品であり、その薬効は、ほとんど全てエフェドリンアルカロイドに起因するものと信じられてきた。しかし、発明者らは、麻黄に、エフェドリンアルカロイドに依存しない有用な薬効を見出だし、副作用の原因物質であるエフェドリンアルカロイドを選択的に除去することで、安全性の高い医薬品として麻黄エキスを提供できるとの発想に至り、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、抗インフルエンザウイルス薬としての用途を示してきた(特許文献1、非特許文献5)。さらに、発明者は、重量平均分子量45,000以上の麻黄由来高分子縮合型タンニンがこれらの薬効に関与していることを明らかにしている(特許文献2、非特許文献6)。
【0008】
このように、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンは、いくつかの薬効を有することが示されているが、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用は報告がない。また、これまでの知見から抗新型コロナウイルス作用を示すか、当業者であっても不明であった。
【0009】
しかし、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンが、抗コロナウイルス作用を有していることが明らかとなれば、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗コロナウイルス剤として提供できる。また、主たる薬効成分を定量する方法を開発することで、麻黄エキスやエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスだけでなく、経験的に新型コロナウイルス感染症の治療に用いられている麻黄を含有する漢方薬についても、構成生薬として用いている麻黄の抗ウイルス作用を担保した医薬品として提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2015/076286(特願2015-549167号)
【特許文献2】特開2019-131536号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.3版, 2021年8月29日
【非特許文献2】渡辺賢治、金成俊、柴山周乃、劉建平、賈立群、金、顔宏融、[緊急寄稿]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割、週刊日本医事新報 5008号、p44(2020年04月18日発行)
【非特許文献3】小川恵子、(特別寄稿)COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)、(一財)日本感染症学会ウエブサイト、http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【非特許文献4】有田龍太郎、▲高▼山真、石沢興太、石井正、中国における COVID-19 に対する清肺排毒湯の報告、(一財)日本感染症学会ウエブサイト、http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【非特許文献5】Oshima N, Yamashita T, Hyuga S, Hyuga M, Kamakura H, Yoshimura M, Maruyama T, Hakamatsuka T, Amakura Y, Hanawa T, Goda Y, Efficiently prepared ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: a putative marker and antiproliferative effects. J Nat Med. 2016; 70: 554-62.
【非特許文献6】Yoshimura M, Amakura Y, Hyuga S, Hyuga M, Nakamori S, Maruyama T, Oshima N, Uchiyama N, Yang J, Oka H, Ito H, Kobayashi Y, Odaguchi H, Hakamatsuka H, Hanawa T, Goda Y, Quality Evaluation and Characterization of Fractions with Biological Activities in Ephedra Herb Extract and Ephedrine Alkaloids-Free Ephedra Herb Extract. Chem Pharm Bull. 2020; 68(2): 140-149.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明には、既存薬や医薬品候補組成物の抗コロナウイルス作用について、コロナウイルスの感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験による検証が必要である。
【0014】
本発明者らは、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いることができる有用な組成物として、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンについて、新型コロナウイルスの感染機構に基づいた分子レベルや細胞レベルでの評価実験を行った結果、抗新型コロナウイルス作用を有することを見出し、さらに、抗新型コロナウイルス作用の主成分である高分子縮合型タンニンをゲル浸透クロマトグラフィーで分離する技術で有効性を担保する方法を見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、代表的な態様として、以下の(1)~(11)を提供するものである。
(1)麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(2)麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(3)麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とし、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤。
(4)医薬品製剤又は漢方製剤の形態である、上記の抗ウイルス剤。
(5)食品の形態である、(2)又は(3)に記載の抗ウイルス剤。
(6)エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む飲食物を経口的に摂取させることを含む、新型コロナウイルス感染症の予防のための方法(望ましくは、医療行為を除く)。
(7)麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分として含有する医薬品を対象に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のための方法。
(8)高分子縮合型タンニンをゲル浸透クロマトグラフィーで定量することにより、上記(1)~(5)に記載の組成物の抗ウイルス剤としての有効性を担保する方法。
(9)麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、(1)の抗ウイルス剤。
(10)エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスが高分子縮合型タンニンを0.01%以上含む、(2)の抗ウイルス剤。
(11)他のCOVID-19治療薬を対象に投与することをさらに含む、(6)または(7)の方法。
【発明の効果】
【0016】
本願発明により、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)、及び、高分子縮合型タンニンを抗新型コロナウイルス剤として提供できることが明らかとなった。また、抗新型コロナウイルス作用の主成分が分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンであることが明らかとなり、抗ウイルス剤としての有効性を担保するゲル浸透クロマトグラフィーによる定量法が確立できた。
【0017】
既に述べたように、COVID-19の患者に安全かつ安価に投与できる経口治療薬が求められている。2021年9月現在、世界で開発中の経口治療薬を以下の表に示す。
【0018】
【0019】
EFE以外の治療薬はRNAポリメラーゼ阻害剤とメインプロテアーゼ阻害剤であり、EFEと同じ作用機序の経口治療薬はない。EFEはロナプリーブ及びゼビュディと同じ作用機構で、SARS-CoV2のスパイクタンパク質に結合して、宿主細胞への結合を阻止する。上の表の経口治療薬がEFEよりも先に医薬品化されても、作用機序が異なるため、EFEとの併用も可能である。また、経口治療薬は患者が自宅で服用するために、安全性が最も重要であるが、EFEは副作用成分を除去しているため安全性が高い。さらにロナプリーブやゼビュディよりも安価に供給でき、EFEの作用機序から、医療従事者、濃厚接触者や、ワクチン接種ができない者に対する予防的投与が可能であると考えられる。最近、EFEがSARS-CoV-2の変異株に対しても有効であることが明らかになった。実施例で示すように、EFEはSARS-CoV-2の様々な変異株の感染を阻害する。したがって、新たに出現する変異への脅威にも対応が可能である。
【0020】
FEFの有効成分は高分子縮合型タンニンの混合物(麻黄由来高分子縮合型タンニン)であると考えられ、多様な構造と多様な分子量を有している。発明者らは、理論に拘束される意図はないが、このように多様な構造と多様な分子量を持つことが、麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)または麻黄由来高分子縮合型タンニンの様々な薬効(抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、抗インフルエンザウイルス薬としての用途)の理由であろうと考えている。本発明者らは、EFEおよび麻黄由来高分子縮合型タンニンがインフルエンザウイルスの感染阻害作用を奏することを確認している。インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの構造の差異の方が、新型コロナウイルスの変異よりも大きいが、どちらのウイルスも阻害できることを考えると、EFEや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、将来的に出現する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異に対しても幅広く対応可能であると期待される。
【0021】
以上のことから、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び/又は、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分とする医療用または一般用医薬品である抗新型コロナウイルス剤を新型コロナウイルス感染症の治療に用いることで、入院管理を必要とせず、自宅や宿泊施設療養中の感染初期の軽症患者の重症化を抑制することが可能である。
【0022】
また、抗新型コロナウイルス剤を一般用医薬品として提供できるため、医療従事者や濃厚接触者がセルフメディケーションによる早期の予防的治療が可能となる。さらに、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、副作用成分であるエフェドリンアルカロイドを含まないため、食薬区分上、食品としての利用が可能であるため、新型コロナウイルス感染症の予防を期待した保健機能食品として提供することもできる。
【0023】
さらに、麻黄を含有する漢方薬をはじめ、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、高分子縮合型タンニンについて、抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】新型コロナウイルス感染細胞に対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加によるウイルスコピー数の影響を示すグラフである。VeroE6/TMPRSS2細胞における新型コロナウイルスのN1 RNAコピー数について、コントロール条件(黒丸)及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加条件(三角)の挙動を示す。 x軸:ウイルス接種後の経過時間 y軸:SARS-CoV-2 RNAコピー数。
【
図2】新型コロナウイルス変異株に対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの感染阻害効果を示す。
【
図3】新型コロナウイルスの感染に関連するスパイクタンパク質のS1ドメインに対するエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス成分の結合を示すセンサーグラムである。実測値(実線)にフィッティングする結合モデルによる予測値(破線)を示した。
【
図4】新型コロナウイルス感染に関わるスパイクタンパク質に対する麻黄由来高分子縮合型タンニンの結合を示すセンサーグラムである。400 nM、200 nM、及び100 nM高分子縮合型タンニンについて、各実測値(実線)にフィッティングする結合モデルによる予測値(各破線)を示した。
【
図5】麻黄由来高分子縮合型タンニン(EMCT)による新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とACE2の結合阻害作用を示すグラフである。50%結合阻害濃度(IC50)は、4パラメーターロジスティック回帰の結果(実線)、3 ng/mLと算出された。
【
図6】MHV感染5日目の右肺のウイルス量を示す。
【
図8】プロアントシアニジンAタイプ及びプロアントシアニジンBタイプの構造及びその構成ユニットの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療用の抗ウイルス剤として、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンを使用すること、及び、これらを有効成分として含む医薬品や食品等の組成物を提供する。
【0026】
麻黄エキスの製造
本発明に用いられる麻黄エキスは、マオウ科植物Ephedra sinica Stapf、Ephedra intermedia Schrenk et C. A. MeyerまたはEphedra equisetina Bunge (Ephedraceae)の地上茎を用いる。生、乾燥もしくは地上茎を加工したものを利用できる。麻黄エキスの抽出工程は、周知の方法のいずれかに基づいて行なうことができる。抽出溶媒としては、水または温水、熱水、アルコール系溶媒、およびアセトンなどその他の有機溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどを例示することができる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0027】
抽出溶媒の量は麻黄の乾燥重量に対して、2-100重量部、4-50重量部、または8―25重量部であることが好ましい。抽出温度は4-98℃が好ましい。抽出時間は30分-2時間が好ましい。抽出方法は攪拌抽出、浸漬抽出、向流抽出、超音波抽出、超臨界抽出などの任意の方法で行うことができる。一態様において、抽出溶媒は水であり、そして、麻黄エキスは、麻黄の熱水抽出液および/または熱水抽出物であることができる。麻黄の熱水抽出液および/または熱水抽出物は、麻黄の乾燥原料に対して、2-100重量部、4-50重量部、または8-25重量部、または約10重量部の熱水(例えば、約95℃)で、30分-2時間抽出することにより得られる。
【0028】
得られた抽出液、または抽出液を濾過し得られた濾液、もしくは濾液を濃縮した濃縮液、濃縮液を乾燥して得られる乾燥物は、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスあるいは麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造の原料として用いることができる。
【0029】
また、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を用途としての麻黄エキス原薬や漢方薬原料エキスとして用いる場合、後述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上含むことが好ましく、0.1%以上含むことがさらに好ましい。そのような、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上または0.1%以上含むことが示された麻黄エキスも本発明の範囲内である。
【0030】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造
本発明に用いられるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄エキスを原料とし、陽イオン交換クロマトグラフィーによってエフェドリンを除去し、濃縮乾燥を経て、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを得ることができる。
【0031】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスであり、エフェドリンアルカロイド(エフェドリンとプソイドエフェドリンの合計)を0.23%以下の量で含むものが好ましく、より好ましくはエフェドリンアルカロイドを0.023%以下の量で含むものであり、さらに好ましくは0.05ppm(検出限界)以下の量で含む。
【0032】
日本薬局方では、麻黄は生薬の乾燥物に対し,総アルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を0.7%以上含むと規定されており、この量は麻黄エキスで換算した場合、約2.3%~3.5%以上含むものと計算されるので、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと明確に区別される。
【0033】
なお、上記の麻黄エキス中の総アルカロイド含量の換算は、「漢方の主張―現代科学と漢方製剤」(成川一郎、p162-163、(株)健友館、1991年発行)及び参考例1から求められる。日本薬局方の麻黄から麻黄エキスを作製すると、麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドは、ほぼ全て麻黄エキスへ移行する。しかし、麻黄から得られる麻黄エキスの収率は20%から30%になるため、麻黄エキスに含まれる総アルカロイドは、3.3倍~5倍に濃縮される。したがって、日本薬局方で規定される麻黄の総アルカロイドである「0.7%以上」を3.3倍~5倍にした数値2.3%~3.5%以上が麻黄エキスの総アルカロイドの規定値となる。本発明に用いられるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、エフェドリンアルカロイド含量を、麻黄エキスの10分の1以下とすることで、エフェドリンアルカロイドの副作用の出現の可能性が極めて少ないであろうと考えられる。
【0034】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造に適した陽イオン交換カラムは、エフェドリンアルカロイドの除去効率に応じ、充填剤を選択することができる。エフェドリンアルカロイド含量が0.23%以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、FPC3500、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。エフェドリンアルカロイド含量が0.023%以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。さらに、エフェドリンアルカロイド含量が0.05ppm以下のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造には、強酸性陽イオン交換樹脂PK216をカラム充填剤として選択できるほか、強酸性陽イオン交換樹脂SK1B、IR120Bも選択することができる。
【0035】
また、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス剤を用途としてのエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス原薬として用いる場合、後述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上含むことが好ましく、0.1%以上含むことがさらに好ましい。そのような、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを0.01%以上または0.1%以上含むことが示されたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスも本発明の範囲内である。
【0036】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造において、クロマトグラフィーの具体的な実施方法は、当業者に周知な方法のいずれかによる。乾燥方法は、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレー乾燥などの任意の方法で行うことができる。必要な場合にはデキストリンなどの賦形剤を入れてもよい。
【0037】
麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンで、プロアントシアニジンAタイプ及びプロアントシアニジンBタイプの重合したプロアントシアニジンである。より詳細には、前記高分子縮合型タンニンは、エクステンションユニットとして、カテコールタイプ又はピロガロールタイプのフラバン 3-オールが主にプロアントシアニジンBタイプで縮合し、その一部にプロアントシアニジンAタイプの縮合型タンニンユニットを含み、さらにターミナルユニットとして、カテコールタイプ又はピロガロールタイプのフラバン 3-オールを主に含み、ピロガロールタイプとカテコールタイプを、4~5:1の比率で含む(
図8)。ここで、分子量は、GPC用標準ポリスチレンを標準物質として換算した分子量である。
【0038】
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、麻黄エキスあるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原料とし、カラムクロマトグラフィーによって、水とアルコール、あるいは、水とアセトンとの混合溶媒を用いて、アルコールもしくはアセトン濃度を高くしながら順次溶出して得ることができる。分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを含む抽出分画物から溶媒を留去し、乾燥させたものを原薬として用いることができる。
【0039】
具体的には、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水に溶解したものを、極性の低い有機溶媒から極性の高い有機溶媒を用いて順次分配し、得られる水エキスをカラムクロマトグラフィーによって、水とメタノール、エタノール又はアセトンから選択される有機溶媒との混合溶媒を用いて、有機溶媒濃度を高くしながら順次溶出し、得られる各分画の分子量を測定して、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを含む抽出分画物を得る。
【0040】
極性の低い有機溶媒の例としては、ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等が挙げられ、極性の高い有機溶媒の例としては、n-ブタノール、エタノール、メタノール、水等が挙げられる。分画に用いるカラムクロマトグラフィーでは、Diaion HP-20等のスチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤、あるいは、LH-20等、その他の芳香族系合成吸着剤を用いることができる。各分画の分子量測定は、粘度法、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、質量分析法、浸透圧法等を用いることができる。
【0041】
さらに具体的には、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水で溶解したもの、あるいは、これらのエキスを、酢酸エチル、水飽和n-ブタノールで順次分配して得た水エキスを以下のクロマトグラフィーの出発材料とする。これらのエキスについて、Diaion HP-20カラムクロマトグラフィーを用いて、H2O、20%MeOH、40%MeOH、MeOHの順で順次溶出して分画し、H2O分画物、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物の各分画物を得る。このうち、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物として、分子量10,000~500,000の麻黄由来高分子縮合型タンニンを得ることができる。
【0042】
本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、20%MeOH分画物、40%MeOH分画物、MeOH分画物を単独で、又は任意の組合せで用いることにより調製できる。分画物中に、上述の分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを10%以上含むことが好ましく、40%以上含むことがさらに好ましい。
【0043】
別の方法として、本発明の麻黄由来高分子縮合型タンニンは、麻黄エキス又はエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを水で溶解したもの、あるいは、上述する水エキスをSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーを用いて、50%MeOH、次いで80%MeOHで洗浄後、70%アセトン分画物として、麻黄由来高分子縮合型タンニンを得ることができる。
【0044】
麻黄由来高分子縮合型タンニンの製造において、クロマトグラフィーの具体的な実施方法は、当業者に周知な方法のいずれかによる。また、クロマトグラフィーで得られた麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む溶液、もしくは、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレー乾燥などの任意の方法で乾燥して得られた粉末を原薬として用いることができる。また、デキストリンなどの賦形剤を添加した後、上記の方法で乾燥させることで、粉末としての物性を改善した原薬を調製することも可能である。
【0045】
医薬品および治療方法
本発明の一態様において、麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、あるいは、麻黄由来高分子縮合型タンニンを、抗新型コロナウイルス剤の有効成分として用いることができる。
【0046】
麻黄エキス、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、あるいは、麻黄由来高分子縮合型タンニンを有効成分として含有する医薬品製剤を、新型コロナウイルス感染症の予防又は治療のために、そのような予防又は治療を必要とする対象に投与することができる。したがって、対象は、軽症または重症の患者のみならず、感染の疑いのある人であってもよい。
【0047】
本発明の医薬品製剤の投与方法は特に限定されるものではないが、経口投与可能な剤形が好ましい。本発明の医薬用組成物は種々の剤形とすることができる。
【0048】
例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。
【0049】
例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0050】
麻黄は漢方薬の構成生薬として幅広く用いられていることから、麻黄を含有する漢方薬、及び、麻黄を、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えた漢方薬を抗コロナウイルス薬として提供できる。
【0051】
食品
本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンは、副作用成分であるエフェドリンアルカロイドを含まないため、食品としての利用が可能である。したがって、本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス、及び、麻黄由来高分子縮合型タンニンは、食品に含有させることができる。例えば、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原材料に配合することにより、様々な食品の形態とすることができる。食品として、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;飴、キャンディー、チュアブル、ゼリー、ガム、チョコレート等の菓子類;顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤など種々の形態の健康食品、機能性表示食品や栄養補助食品が挙げられる。
【0052】
食品としては、一般的な食品であっても、特に機能表示を伴わない健康補助食品、栄養補助食品等(いわゆるサプリメント)であっても、機能表示付きの食品(例えば、保健機能食品)であってもよい。食品は特別の用途に適する旨の表示(いわゆるヘルスクレーム)を付した食品であってもよいが、医薬として摂取されるものは含まない。ヘルスクレームの例としては、特定の疾病リスク(例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患するリスク)を低減する旨の表示であることができる。
【0053】
このような食品には、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスや麻黄由来高分子縮合型タンニンの他に、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖、乳糖等の糖類を加えることができる。
【0054】
新型コロナウイルス感染症の予防のために、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスまたは麻黄由来高分子縮合型タンニンを含む飲食物を経口的に摂取させることも、本発明の一態様である。このような行為は、医療行為としてではなく実施されることが望ましいと思われる。
【0055】
高分子縮合型タンニンの定量
本発明は、分子量の範囲を特定した麻黄由来高分子縮合型タンニンの含量を定量することも包含する。例えば、原料生薬である麻黄、麻黄エキス原薬、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス原薬、及び、高分子縮合型タンニン原薬について、高分子縮合型タンニンは、抗新型コロナウイルス作用の指標成分とすることができる。
【0056】
すなわち、上述の医薬品原料や原薬のみならず、食品など、組成物中の高分子縮合型タンニン含有量を定量し、含有量の規格を満たしていることを確認する試験を設定することにより、それらの組成物の抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保することが可能である。さらに、麻黄湯や葛根湯などの麻黄を含有する漢方薬についても、同様な規格と試験方法を設定することにより、それらの組成物の抗新型コロナウイルス剤としての有効性を担保することが可能である。
【0057】
高分子縮合型タンニンの定量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行う。具体的な方法は、実施例7に記載の方法で例示されるが、これに限定されない。例えば、試料溶液及び高分子縮合型タンニン標準物質溶液のピーク面積AT及びASから、試料1 mg中の高分子縮合型タンニンの量(mg)を算出することができる。
【0058】
上述したように、GPC分析は、原料生薬である麻黄の受入試験、各種原薬及び食品の有効成分の含量規格の試験方法として用いることができる。
【0059】
高分子縮合型タンニンの定量は、液体はそのまま、固体は任意の溶媒で溶液とすることで測定試料として用いることができるが、高分子縮合型タンニン含量が少ない組成物や夾雑物を多く含む組成物については、本明細書に記載した高分子縮合型タンニンの調製方法、すなわち、抽出方法やカラムクロマトグラフィー等を前処理方法として用いることで、定量が可能となり、定量の感度、精度、直線性等を改善できる場合もある。
【0060】
一態様において、麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを調製し、得られた麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスについて、分子量10,000~500,000の高分子縮合型タンニンを定量し、高分子縮合型タンニン含量が0.01%以上である麻黄エキスまたはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを、抗新型コロナウイルス剤の原薬として使用する。
【0061】
援用
本発明の開示には、非特許文献5(Oshima N, Yamashita T, Hyuga S, Hyuga M, Kamakura H, Yoshimura M, Maruyama T, Hakamatsuka T, Amakura Y, Hanawa T, Goda Y, Efficiently prepared ephedrine alkaloids-free Ephedra Herb extract: a putative marker and antiproliferative effects. J Nat Med. 2016; 70: 554-62)および非特許文献6(Yoshimura M, Amakura Y, Hyuga S, Hyuga M, Nakamori S, Maruyama T, Oshima N, Uchiyama N, Yang J, Oka H, Ito H, Kobayashi Y, Odaguchi H, Hakamatsuka H, Hanawa T, Goda Y, Quality Evaluation and Characterization of Fractions with Biological Activities in Ephedra Herb Extract and Ephedrine Alkaloids-Free Ephedra Herb Extract. Chem Pharm Bull. 2020; 68(2): 140-149)に記載された事項を援用する。
【0062】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例0063】
実施例1:エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの新型コロナウイルス感染阻害作用
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により、新型コロナウイルス感受性細胞であるVeroE6/TMPRSS2細胞での新型コロナウイルスの増殖等に抑制効果が出現するかを検討した。
【0064】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加濃度は、事前にVeroE6/TMPRSS2細胞に対してエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの毒性が観察されない最高濃度を確認し、50 μg/mLとした。比較対照としてエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加しないコントロール群を同時に検討した。
【0065】
新型コロナウイルスの感染評価は、VeroE6TMPRSS2細胞に新型コロナウイルスを感染させ、一定時間培養した後、RNAを抽出し、PCR法によりウイルスのRNA量として定量し、標準物質の検量線からコピー数を求めた。
【0066】
VeroE6/TMPRSS2細胞を10%FBS-DMEMで5x105個/mLとなるように懸濁し、48ウエルプレート3枚に1ウエルあたり200μL播種し、CO2インキュベーターで24時間培養した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群は、50μg/mL エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加無血清DMEMに交換、コントロール群は、無血清DMEMに交換し、1時間 、CO2インキュベーターで保温した。各ウエルにMOI (Multiplicity of Infection)=0.03となるように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2,JPN/TY/WK-521株)を接種し、1時間、CO2インキュベーター内で保温した。無血清DMEMで2回洗浄し、無血清DMEMを加えた。1枚のプレートはそのまま回収し(0時間)、他の2枚のプレートは、ウイルス接種後4時間、及び24時間、CO2インキュベーター内で保温した。各プレートについて、培地も含めて細胞を全量からRNAを抽出し、米国CDCのSARS-CoV-2-N1をプローブとしたRT-PCRを実施した。米国CDCのN遺伝子プラスミドを用いて検量線を作成し、ウイルスのコピー数を求めた(表A)。
【0067】
【0068】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加していないコントロール群では、アッセイ開始時点(0時間)で約10,000コピーのWK-521のRNAが検出され、4時間で約400倍、24時間で約20,000倍に増加していた。一方、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加群 においては、アッセイ開始時点(0時間)で約2,000コピーのWK-521のRNAが検出され、4時間で約25倍、24時間で約130倍に増加していた(
図1)。
【0069】
アッセイ開始時点のWK-521のコピー数が、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により20%まで低下したことから、コロナウイルスの感染初期段階が抑制されていることが確認された。また、経時的なウイルス増殖率についても、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加により著しく抑制されており、24時間後のウイルスコピー数は、コントロールのコピー数に対して0.17%と、極めてわずかな量に留まっていた。これらの結果から、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、新型コロナウイルスの感染初期や感染段階のウイルス増殖に対して抑制効果を示すことが明らかになった。
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス添加濃度は、事前にVeroE6/TMPRSS2細胞に対してエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの毒性が観察されない最高濃度を確認し、50 μg/mLとした。比較対照としてエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加しないコントロール群を同時に検討した。
新型コロナウイルスの感染評価は、VeroE6/TMPRSS2細胞に各株を感染させ、一時間培養した後、RNAを抽出し、PCR法によりウイルスのRNA量として定量し、標準物質の検量線からコピー数を求めた。24時間後の培養上清中の感染性ウイルスの力価を求めた。
24時間培養後の感染性ウイルスの力価は、培養上清25μLを採取し、10倍階段希釈列を作成したのち、96ウェルプレートに播種しておいたVeroE6/TMPRSS2細胞へ感染させ、4日間培養後に、細胞変性効果(CPE: Cytopathic effect)を顕微鏡下で確認し、CPE出現したウェル数、希釈倍数から算出した。