(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022334
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】積層体、マイクロ流路チップ及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/08 20060101AFI20230208BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20230208BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20230208BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20230208BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20230208BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20230208BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20230208BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20230208BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C03C27/08 Z
B81B1/00
B81C3/00
B23K20/00 310A
B23K26/361
C03C15/00 Z
B32B37/00
B01J19/00 321
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019202796
(22)【出願日】2019-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】中田 亮一
【テーマコード(参考)】
3C081
4E167
4E168
4F100
4G059
4G061
4G075
【Fターム(参考)】
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3C081AA17
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3C081EA27
4E167AA06
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4G059AA01
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4G075EB50
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】高精度の分析、実験等を可能とするマイクロ流路チップにも利用が可能な積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】孔が形成されたエッチングで得られた基板2の表面と封止部材4の表面に、スパッタリングによって金属コーティング層7a,7bを形成する。基板2の金属コーティング層7aと封止部材4の金属コーティング層7b同士が接触するように積層して、両金属コーティング層7a,7bの金属原子を拡散することにより、基板2と封止部材4とを接合する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に孔が形成されたエッチングで得られた基板に、前記孔の少なくとも一部を塞ぐように封止部材を前記基板に接合することにより、パターンを形成する積層体の製造方法であって、
前記封止部材の一面と基板の一主面に、スパッタリングによって金属コーティング層を設ける封止工程と、
前記基板の金属コーティング層と前記封止部材の金属コーティング層同士が接触するように積層して、両金属コーティング層の金属原子を拡散することにより、前記封止部材と前記基板とを接合する工程と、
を含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記接合に使用する金属が、金又は銅である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記スパッタリングによって、前記金属コーティング層を0.2から20nmに形成する、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記封止部材と前記基板とを接合する工程を、常温常圧下で行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記基板がガラスであり、封止部材がガラス又は樹脂である、請求項1から4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
ガラス板にパルスレーザを照射して、貫通孔のパターンを描画する工程と、
前記ガラス板をエッチングして、描画された貫通孔のパターン形状を有する孔を形成すると共に孔の幅と前記ガラス板の厚さを調整することにより、前記基板を形成する工程と、
をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法を使用し、前記孔のパターンがマイクロ流路のパターンである、マイクロ流路チップの製造方法。
【請求項8】
主面と平行な方向に延在する孔が形成された基板と、
前記孔の少なくとも一部を塞ぐように前記基板の両主面に接合された封止部材と、を備える積層体であって、
前記基板と前記封止部材とが、厚さが0.4から40nmの金属層により接合されている、積層体。
【請求項9】
更に、前記封止部材に樹脂板が、厚さが0.4から40nmの金属層により接合されている、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記基板は、
対向する主面が平行で、主面と平行な方向に延在する孔が形成されたガラス板であり、
前記孔の側壁と前記封止部材とで確定される断面が実質的に矩形の孔を有する、請求項8又は9に記載の積層体。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の積層体により形成されるマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、マイクロ流路チップ及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー、医療、農学等の分野では、微少量の試料を用いた反応や分析等の実験(μTAS、Micro-Total Analysis System)には、数μmから数十μm幅の流路に試料液を流すためのマイクロ流路チップが使用される。
【0003】
マイクロ流路チップは、ガラス、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等の透明性を有する材料に数μmから数十μm幅の流路を形成し、封止部材を積層することにより製造される。従って、加工の容易さから、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂材料が、マイクロ流路チップの材料として多用されている。
【0004】
マイクロ流路チップのような積層体を製造する方法は、ガラス基板又は透明樹脂基板に孔を形成した後、孔を封止するために、樹脂板を積層して接着する方法が一般的である(特許文献1、2)。
【0005】
封止用の樹脂板の接着には、何れの文献においても、加熱加圧処理して溶着する、「熱圧着」が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-196106号公報
【特許文献2】特開2014-40061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、積層体の表面の保護のために、その他、積層体に何らかの特性を付与するために、封止部材の上に更に樹脂シートを積層し、多層構造にする場合がある。その場合、基板に、封止部材と樹脂シートを一度に積層して熱圧着するのは困難である。樹脂を複数積層すると、熱伝導効率が低下するからである。
従って、下層の樹脂より軟化温度が低い樹脂材料を上に積層して、その都度、熱圧着する必要がある。
【0008】
しかし、熱圧着を繰り返すと、樹脂が収縮して、製品自体に歪みが生じる。マイクロ流路チップは、微少量の試料を取り扱う実験、分析に使用する器具である。従って、マイクロ流路チップにこのような歪みが存在すると、実験、分析の精度が低下する。
【0009】
熱圧着処理を使用しないで支持基材と封止部材とを接着する方法として、接着剤を使用する方法が考えられる。しかし、接着剤中の溶剤が試料液に溶出するおそれがあり、高精度の分析、実験等が困難となるおそれがあるため、接着剤を使用することは好ましくない。更に、接着剤の種類によっては、樹脂を溶かすものもある。このような接着剤を使用すると、樹脂製の基板、封止部材の表面が溶けて、曇ったり、変形したりするおそれがある。このような場合にも、実験、分析の精度が低下する。
【0010】
本発明の目的は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高精度の分析、実験等を可能とするマイクロ流路チップにも利用が可能な積層体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、 主面に孔が形成されたエッチングで得られた基板に、前記孔の少なくとも一部を塞ぐように封止部材を前記基板に接合することにより、パターンを形成する積層体の製造方法であって、以下の工程を含む。
前記封止部材の一面と基板の一主面に、スパッタリングによって金属コーティング層を設ける封止工程と、
前記基板の金属コーティング層と前記封止部材の金属コーティング層同士が接触するように積層して、両金属コーティング層の金属原子を拡散することにより、前記封止部材と前記基板とを接合する工程。
【0012】
前記接合に使用する金属が、金又は銅であることが好ましい。
【0013】
前記スパッタリングによって、前記金属コーティング層を0.2から20nmに形成することが好ましい。
【0014】
前記封止部材と前記基板とを接合する工程を、常温常圧下で行うことが好ましい。
【0015】
本発明の積層体の製造方法では、前記基板がガラスであり、封止部材がガラス又は樹脂である積層体を製造することができる。
【0016】
前記製造方法は、
ガラス板にパルスレーザを照射して、貫通孔のパターンを描画する工程と、
前記ガラス板をエッチングして、描画された貫通孔のパターンの形状を有する孔を形成すると共に孔の幅と前記ガラス板の厚さを調整することにより、前記基板を形成する工程と、
をさらに備えてもよい。
【0017】
本発明のマイクロ流路チップの製造方法は、前記積層体の製造方法を使用し、前記孔のパターンがマイクロ流路のパターンである。
【0018】
本発明の積層体は、
主面と平行な方向に延在する孔が形成された基板と、
前記孔の少なくとも一部を塞ぐように前記基板の両主面に接合された封止部材と、
を備える。
前記基板と前記封止部材とが、厚さが0.4から40nmの金属層により接合されている。
【0019】
更に、前記封止部材に樹脂板が、厚さが0.4から40nmの金属層により接合されていることが好ましい。
【0020】
前記基板は、
対向する主面が平行で、主面と平行な方向に延在する孔が形成されたガラス板であり、
前記孔の側壁と前記封止部材とで確定される断面が実質的に矩形の孔を有していてもよい。
【0021】
本発明のマイクロ流路チップは前記積層体により形成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、高精度の分析、実験等に使用するマイクロ流路チップに利用が可能な積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る積層体により形成されるマイクロ流路チップを表す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は(A)のC-C線断面図、(D)は(C)の一部拡大図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る製造方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態に係る基板の製造方法の一例を表す図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る製造方法における基板と封止部材との接合工程を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る製造方法におけるスパッタリングを表す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る製造方法における原子拡散結合による接合の過程を表す図である。
【
図7】本発明の実施の形態の変形例を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかる積層体とその製造方法について、実施の1形態であるマイクロ流路チップを形成する積層体1を、図面を参照して説明する。
【0025】
本実施の形態に係る積層体1により形成されるマイクロ流路チップ1は、
図1(B)、(C)に示すように、孔3が形成されたエッチングで得られた基板2と、基板2の両主面上に配置された封止部材4と5とを備える。
【0026】
基板2の材料は、透明材料であれば、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン等の透明樹脂材料の他、ガラスを使用することができる。基板2の両主面は、互いに平行に形成されている。
【0027】
図1(C)、(D)に示すように、基板2には、マイクロ流路を形成する孔3が形成されている。孔3は、
図1(A)に示すように、基板2の面方向に必要な長さだけ延在している。
【0028】
図1(D)に拡大して示すように、孔3に面する基板2の壁面は、基板2の表面にほぼ垂直であるが、湾曲していてもよく、テーパー部があってもよい。孔3の幅Wは、例えば、2μm程度~3mm程度の範囲で任意である。
孔3により形成されるマイクロ流路には、試料導入部、リザーバなどの幅広部6が適宜配置されている。
【0029】
封止部材4と5は、それぞれ、樹脂フィルム又はガラス板等から構成される。封止部材4は、基板2の一主面に0.4から40nmの厚さの金属層を介して接合され、封止部材5は、封止部材4の対向する他の主面に0.4から40nmの厚さの金属層を介して接合され、基板2に密着している。
【0030】
マイクロ流路は、基板2に形成された孔3の対向する側壁と封止部材4と5とから構成される。
また、孔3を貫通孔とした場合、その深さは基板2の厚さと等しく、例えば、100~400μmである。
【0031】
また、封止部材4又は5の、幅広部6に対向する位置には、適宜、開口部が形成されている。
【0032】
次に、上記構成を有する積層体1の製造方法を
図2~7を参照して説明する。
【0033】
本実施の形態に係る積層体1の製造方法は、概略すると、i)基板2と封止部材4、5を用意する工程、ii)基板2に孔3を設け、エッチングする工程、iii)基板2に封止部材4と5を貼り付ける工程、から構成される。
以下、各工程を順番に
図2を参照して説明する。
【0034】
1.まず、基板2を用意する(ステップS11)。基板2の材質は、任意である。例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられる。基板2の厚さは任意である。
基板2の縦、横の寸法は、特に制限はなく、積層体1の用途に応じて選択すればよい。
基板の透明性は問わないが、透明の基板を用いた場合には、透過光を照射して測定したり使用するデバイスに用いることができる。
【0035】
2.基板2に、孔3を形成する(ステップS12)。
孔3を形成する方法は、特に制限されない。基板2の材質と孔3の形状に応じて、適宜選択すればよい。
【0036】
孔3を形成する具体的な方法としては、例えば、基板2の材料として樹脂の基板を使用する場合には、ファインカッター等を使用して機械的に切削する方法、レーザ光を使用して切削する方法等が挙げられる。また、三次元プリンタを使用して、孔3が形成された基板を作製してもよい。
【0037】
これらの方法は、組み合わせて使用することもできる。
【0038】
孔3の幅及び深さは任意であるが、通常は、例えば、幅は2μm~3mm、深さは100μm~1.5mmである。また、孔3の壁面は、基板2の表面にほぼ垂直とするが、湾曲していてもよく、テーパー部があってもよい。
【0039】
また、基板2として、ガラス板を使用する場合には、以下に説明する手法も可能である。
ガラス板とパルスレーザ装置との相対位置を移動しながら、
図3に示すように、基板2にパルスレーザ光Lを照射し、生成される微細孔19によって、貫通孔パターンを描画する。
【0040】
ここで、パルスレーザとは、ピコ秒レーザ及びフェムト秒レーザのような、極めて短いパルス幅を有するレーザである。ピコ秒レーザはピコ秒オーダーのパルス幅を有するレーザである。またフェムト秒レーザは、フェムト秒オーダーのパルス幅を有するレーザである。
【0041】
パルスレーザによって形成された微細孔19を中心とする直径10から20μmの範囲は、ガラスが改質されている。この改質は、これらのパルスレーザにより、ガラスの分子鎖が切断される等の効果によるものである。
【0042】
改質部分は、後述するエッチング工程において、改質されていない部分より、エッチングレートが、数倍から数十倍速くなる。
【0043】
そのため、エッチング液は速やかに改質部分の内部に浸入してエッチングを進め、さらに、基板2の表面に平行な方向にもエッチングは進み、貫通孔が形成される。
【0044】
貫通孔の側壁は、基板2の表面に対してほぼ垂直となり、且つ、表面形状が均一で平坦となる。このようにして断面形状が矩形の貫通孔(流路)が形成された、ガラス製の基板2が得られる。
【0045】
3.封止部材4,5を用意する(ステップS21,S31)。
封止部材4,5としては、ガラス板、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等の透明性を有するシートを使用することができる。
封止部材4,5の厚さは、積層体1の透明性と、用途に応じた寸法と、使用に耐え得る強度を確保できれば、特に制限されない。
封止部材4,5の縦、横のサイズは、基板2の縦横サイズに合わせて適宜選択される。
【0046】
4.エッチングする(ステップS13,S22,S32)
エッチングすることで、基板や封止部材の表面は平滑になり、常温常圧で原子拡散接合することができる。
【0047】
エッチングの方法は、特に制限されることはなく、公知の任意の方法でよい。例えば、エッチング液が張られたエッチング槽の中にガラス板を浸す方法でもよい。
【0048】
エッチング液は特に限定されることはないが、フッ化水素酸を使用できる。エッチング槽としては、フッ化水素酸による腐食を防止するためのライニングが施された槽を使用する。ライニングには、テトラフルオロエチレンが好ましい。
【0049】
前述したとおり、基板としてガラス板を用いて、パルスレーザの照射によって孔3を形成する場合、レーザの照射による改質部分は、エッチングレートが大きい(エッチング速度が速い)。そのため、エッチング液は速やかに改質部の内部に浸入してエッチングを進め、さらに、ガラス板の表面に平行な方向にもエッチングは進む。
したがって、この場合、孔3を形成する工程とエッチング工程を同時に行うことができるという利点を有する。
【0050】
従って、パターンの壁面は、ガラス板の表面に対して垂直、且つ、表面形状が均一で平坦になる。
【0051】
これにより、パターンの幅Wに対して深さLが大きい、高アスペクト比のパターンを形成することができる。
【0052】
5.封止工程
次に、基板2に封止部材4,5を接合し、孔3を封止する。
本発明では、基板の片面を封止しても、
図4に示すように、基板の両面を封止しても良い。
【0053】
封止部材の材質は任意である。例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられる。また、例えば流路の入口や出口に利用できるように、あらかじめ孔を有する封止部材を用いても良い。
【0054】
封止部材4,5を基板2に接合する方法として、以下に述べる加熱も加圧も必要としない原子拡散接合を用いる。
【0055】
接合対象面、即ち、基板2の表面と封止部材4,5の表面に、薄い金属の層を形成する(ステップS12,S22,S32,S14)。
エッチング済みの基板を用いることで、基板や封止部材を研磨する必要なく、常温常圧で原子拡散接合を行うことができる。
【0056】
薄い金属の膜を形成するために、例えば、スパッタリング法を使用する。
【0057】
この場合、例えば、
図5に示すように、スパッタリング装置の真空チャンバ14内の陰極として、コーティング対象の金属から形成されたターゲット15を配置し、陽極16上にコーティングの対象の基板2を載置する。
なお、陰極15の下部に、荷電粒子を加速させるためのマグネトロン17を設置してもよい。
【0058】
次に、真空チャンバ14内を排気して真空状態にした後、アルゴン等のガスを少量導入し、陽極16とターゲット15との間に、電圧を印加する。
【0059】
電圧の印加によって、真空チャンバ14内のアルゴンが電離してプラスイオンとなり、陰極であるターゲット15に引き寄せられ、衝突する。
それによってターゲット15の表面が分子レベルの塊で弾き飛ばされ、ターゲット15に向かい合っている基板2に付着する。
このようにして、基板2の表面に金属がコーティングされる。
【0060】
基板2のもう一方の主面にも、同様の方法でスパッタリングを行い、金属コーティング層を設ける。
封止部材4,5の貼り付け面にも同様の方法でスパッタリングを行い、金属コーティング層を設ける。
【0061】
スパッタリングにより堆積する金属は、金、銅、チタン、銀、アルミニウム、モリブデン、タンタル、タングステン等あらゆる金属を用いることができる。試料に化学的な影響を及ぼさないものが好ましく、金又は銅が好ましい。金はほとんど化学反応性を示さない。銅は、酸化皮膜を形成すると不動態となり、化学反応しにくくなる。但し、化学的に安定性が最も優れているという観点から、金を使用することが最も好ましい。金又は銅等の金属を使用する場合、予め、チタンをコーティングし、その上に金又は銅等の金属をスパッタリングすることが好ましい。
【0062】
スパッタリングによる金属コーティング層の厚さは、金属原子1層分あればよく、従って、0.2nm程度以上あればよい。また、流路の透明性を確保する必要があるという観点から、金属コーティング層は厚すぎないことが好ましく、20nm以下であることが好ましい。
【0063】
続いて、基板2の金属コーティング層と封止部材4,5の金属コーティング層とを接触させて、接合する(ステップS13,S15)。
【0064】
原子拡散結合によって、基板2と封止部材4とが接合される過程を、
図6(1)~(4)に示す。(1)~(4)の過程は、例えば、高温や加圧条件下等、あらゆる条件下で行うことができる。しかし、本発明では、エッチングで得られた基板を用いているため、常温常圧下で行うことが可能であり、温度や圧力の調整のための設備を必要とせず、接合工程を容易に行うことができる。
【0065】
(1)基板2の金属コーティング層7aと封止部材4の金属コーティング層7bとを向かい合わせ、位置合わせをする。
(2)基板2の金属コーティング層7aと封止部材4の金属コーティング層7bとを接触させる。境界(点線部)より金属コーティング層7aと7bとの間で金属原子の拡散が始まる。
(3)金属コーティング層7aと7bの金属原子が再配列される。
(4)金属原子の再配列によって、金属コーティング層7aと7bの境界(
図5(2)中の点線部)が消失して、基板2と封止部材4との間に、単一の金属層7が形成される。
その結果、基板2と封止部材4とが強固に接合される。
【0066】
封止部材5についても、同様の操作により、基板2と接合する。
【0067】
なお、基板2と封止部材4,5との接合に、原子拡散接合を使用することには、以下の利点がある。
1.金属原子の拡散によって接合がなされるので、接合する物質に制限がない。
2.金または銅が流路内部をコーティングすることによって、化学的に安定した孔パターン3を形成できる。
3.常温下且つ常圧下で、基板2と封止部材4,5の貼り付け面を接触させるだけで接合がなされる。従って、加熱、加圧等の設備も手順も不要である。
ここで、「常温」とは、JIS Z 8703に規定する20℃±15℃(5~35℃)の範囲をいう。また、「常圧」とは、大気圧と同義である。
【0068】
このように、金属コーティング層7a、7bに金または銅を使用した場合、試料液に化学的な影響がない。金属コーティング層の厚さが0.2から20nmであれば、封止部材4,5の孔3の部分の透明性、流路の寸法にほとんど影響がない。従って、スパッタリングは、基板2、封止部材4,5にマスクせずに行うこともできるが、必要があればマスクしてからスパッタリングを行ってもよい。
【0069】
更に、接合時に基板2及び封止部材4,5に応力が生じないため、部材の歪みによる、積層体1の変形、破損を防ぐことができる。
【0070】
また、従来は困難であった、ガラスと樹脂、及び、ガラス同士の接合も、容易に行うことができる。よって、ガラス材を使用した、透明性、耐熱性、耐薬品性に優れた積層体も、容易に製造することができる。
【0071】
6.切断工程(ステップS18)
基板2、封止部材4,5を接合してなる接合体の不要部分を、レーザカッタなどを用いて切断する。本切断工程は任意である。
更に、必要に応じて、封止部材4又は5の幅広部6に対向する領域に、試料導入用の開口を形成する。このようにして、積層体1を完成する。
【0072】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0073】
変形例1
上記実施の形態では、封止部材4,5はそれぞれ単独の層であるが、
図7に示すように、封止部材4、5の上の他の層を形成して、積層膜としてもよい。
【0074】
積層体1の表面を保護する、あるいは、その他の機能を積層体1に付与する必要性が生じる場合がある。
そのよう場合には、例えば、
図7に示すように、封止部材4,5の上に、必要な機能を有する樹脂板9,10を、原子拡散接合を使用して貼り付けてもよい。
【0075】
前述したとおり、原子拡散接合は、常温常圧下で接合することができるので、各部材にも負担がかからない。また、加熱、加圧の工程が不要なので、下層の部材より軟化点が低い部材を使用しなければならない等の制約がなく、用途に応じて、材料を自由に選択できる。
【0076】
具体的には、以下の工程によって、樹脂板9,10を封止部材4,5に接合する。
1.封止部材4,5と樹脂板9,10の貼り付け面を研磨する。
2.封止部材4,5と樹脂板9、10の研磨面に、スパッタリングにより、金属コーティング層を設ける。
3.封止部材4,5の金属コーティング層と樹脂板9、10の金属コーティング層とが接触するように積層する。
【0077】
変形例2
上記実施の形態では、試料導入用の開口を封止部材4又は5に形成した。試料導入部の位置、形成方法等は、これらに限定されない。例えば、マイクロ流路の両端部を試料導入部とすることも可能である。このような構造は、例えば、
図8に示すように、先ず、基板2、封止部材4,5を積層してマイクロ流路が封止され状態の接合体8とする。接合体8の両端部の切断線C
1,C
2を、レーザカッタ等を用いて切断することにより、マイクロ流路の両端部に試料導入部が形成される。
【0078】
本発明において、孔3の全部又は一部が、貫通していなくてもよい。孔3が全く貫通していない場合には、基板2の孔3が開口している主面にのみ封止部材を配置すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、歪みが少ない積層体を製造することができるため、バイオテクノロジー、医療、農学等の分野で使用するマイクロ流路チップの製造に有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 積層体
2 基板
3 孔
4 封止部材
5 封止部材
6 幅広部
7 金属層
7a 金属コーティング層
7b 金属コーティング層
8 接合体
9 樹脂板
10 樹脂板
14 真空チャンバ
15 ターゲット
16 陽極
17 マグネトロン
19 微細孔