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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022341
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】制御装置、及びコイルシステム
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
H02J1/00 304E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020015034
(22)【出願日】2020-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】新妻 素直
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 栄一
【テーマコード(参考)】
5G165
【Fターム(参考)】
5G165BB08
5G165CA01
5G165DA02
5G165EA02
5G165GA01
5G165HA01
5G165JA04
5G165JA07
5G165LA01
5G165LA07
5G165NA03
(57)【要約】
【課題】電力効率の向上又は出力の増大が可能な制御装置、及びコイルシステムを提供すること。
【解決手段】制御装置10は、コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値を取得する取得部11と、計測値に基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧を算出する算出部14と、出力電圧を出力する指令を電源に出力する出力部15と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに電力を供給するための電源を制御する制御装置であって、
前記コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値を取得する取得部と、
前記計測値に基づいて、前記コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧を算出する算出部と、
前記出力電圧を出力する指令を前記電源に出力する出力部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記出力電圧は、前記計測値から推定される前記コイル周囲の大気の状態において前記導体間で放電を生じさせる電圧よりも小さい、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
異常を検出する検出部をさらに備え、
前記算出部は、前記検出部によって異常が検出された場合、前記コイルが使用される前記コイル周囲の大気の状態の範囲において前記導体間で放電を生じさせない電圧を前記出力電圧として算出する、請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記大気の状態は、大気圧である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の制御装置と、
前記制御装置によって制御される電源と、
前記電源から電力の供給を受けるコイルを含むコイル装置と、
を備えるコイルシステム。
【請求項6】
前記計測値を出力するセンサをさらに備える、請求項5に記載のコイルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、及びコイルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの互いに隣り合う導体間で放電が生じる電圧は、気体の圧力等の大気の状態に依存して変化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-207742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルの互いに隣り合う導体間における放電を防止するために、コイルに印加される電圧が制限される。例えば、大気圧は標高等によって変動するので、大気圧が変動した場合でも導体間で放電が生じないようにするために、コイルに印加される電圧の電圧値は、大気圧の変動範囲において最も低い電圧制限値に設定されることがある。使用環境(例えば、移動体に搭載されたコイルにおいて、コイルが使用される場所の標高及び天候)の変化に伴い大気圧が変わると、電圧制限値よりも高い電圧値の電圧がコイルに印加されたとしても、導体間において放電が生じない場合がある。しかしながら、上述の電圧値の設定方法では、電圧制限値以下の電圧値が用いられるので、電力損失を低減すること、及び出力を増加することができない。
【0005】
本開示は、電力効率の向上又は出力の増大が可能な制御装置、及びコイルシステムを説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、コイルに電力を供給するための電源を制御する装置である。この制御装置は、コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧を算出する算出部と、出力電圧を出力する指令を前記電源に出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電力効率を向上すること、又は出力を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る制御装置を含むコイルシステムの概略構成を示す図である。
図2図2は、図1に示される電源の構成例を示す図である。
図3図3は、図1に示される電源の別の構成例を示す図である。
図4図4は、図1に示される電源のさらに別の構成例を示す図である。
図5図5は、図1に示される制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図6図6は、図1に示される制御装置の機能構成を示す図である。
図7図7は、計測値と目標電圧値との関係を説明するための図である。
図8図8は、テーブルの設定方法の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、インバータの入力電圧と出力電圧との関係を求めるための構成を示す図である。
図10図10は、計測値と放電開始電圧値との組を取得するための構成を示す図である。
図11図11は、図1に示される制御装置が行う出力電圧設定方法の一連の処理を示すフローチャートである。
図12図12は、大気圧と出力電圧値との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る制御装置は、コイルに電力を供給するための電源を制御する装置である。この制御装置は、コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値を取得する取得部と、計測値に基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧を算出する算出部と、出力電圧を出力する指令を前記電源に出力する出力部と、を備える。
【0010】
この制御装置では、コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値に基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧が算出され、当該出力電圧を出力する指令が電源に出力される。このため、大気の状態に応じた出力電圧が電源から出力される。例えば、大気圧が高い場合には、出力電圧をある程度高くしても、コイルの導体間で放電は生じない。このように、大気の状態に応じた出力電圧を出力することにより、出力電圧が固定されている場合と比較して、出力を増大することが可能となる。あるいは、電源が一定の電力を出力する場合には、出力電流を減らすことができるので、コイルにおける損失を低減することができる。その結果、電力効率を向上させることが可能となる。
【0011】
出力電圧は、計測値から推定されるコイル周囲の大気の状態においてコイルの導体間で放電を生じさせる電圧よりも小さくてもよい。この場合、コイルの導体間で放電を生じさせる電圧よりも小さい出力電圧が電源から出力される。したがって、コイルの導体間で放電を生じさせることなく、電力効率を向上すること、及び出力を増大することの少なくともいずれかが可能となる。
【0012】
上記制御装置は、異常を検出する検出部をさらに備えてもよい。算出部は、検出部によって異常が検出された場合、コイルが使用されるコイル周囲の大気の状態の範囲においてコイルの導体間で放電を生じさせない電圧を出力電圧として算出してもよい。異常が検出された場合には、大気の状態に応じた出力電圧が正確に算出されないおそれがある。これに対し、異常が検出された場合に、コイルが使用されるコイル周囲の大気の状態の範囲にわたってコイルの導体間で放電を生じさせない電圧が出力電圧として算出される。したがって、異常が検出された場合でも、コイルの導体間で放電を生じさせないようにすることができる。
【0013】
大気の状態は、大気圧であってもよい。この場合、大気圧に応じた出力電圧が電源から出力される。この場合も、出力電圧が固定されている場合と比較して、出力を増大することが可能となる。あるいは、電源が一定の電力を出力する場合には、出力電流を減らすことができるので、コイルにおける損失を低減することができる。その結果、電力効率を向上させることが可能となる。
【0014】
本開示の別の側面に係るコイルシステムは、上記制御装置と、制御装置によって制御される電源と、電源から電力の供給を受けるコイルを含むコイル装置と、を備える。
【0015】
このコイルシステムは、上述の制御装置を含む。このため、コイルシステムでは、電力効率を向上すること、又は出力を増大することが可能となる。
【0016】
上記コイルシステムは、計測値を出力するセンサをさらに備えてもよい。この場合、センサによって出力された計測値に基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧が算出される。
【0017】
[2]実施形態の例示
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0018】
図1は、一実施形態に係る制御装置を含むコイルシステムの概略構成を示す図である。図2は、図1に示される電源の構成例を示す図である。図3は、図1に示される電源の別の構成例を示す図である。図4は、図1に示される電源のさらに別の構成例を示す図である。図5は、図1に示される制御装置のハードウェア構成を示す図である。図6は、図1に示される制御装置の機能構成を示す図である。図7は、計測値と目標電圧値との関係を説明するための図である。図1に示されるコイルシステム1は、大気の状態に応じた駆動電圧でコイルを駆動するシステムである。コイルシステム1は、電源2と、インバータ3と、コイル装置4と、センサ5と、制御装置10と、を備えている。
【0019】
電源2は、コイル装置4のコイルに電力を供給するための装置である。電源2は、制御装置10によって制御される。具体的には、電源2は、制御装置10から出力指令Cを受信し、出力指令Cに基づいて出力電圧の出力電圧値Vdcを変更する可変電圧の電源である。出力指令Cは、電源2に出力電圧値Vdcの出力電圧を出力させるための指令である。本実施形態では、電源2は、直流出力電源であり、直流の電力Pdcをインバータ3に出力する。
【0020】
電源2は、例えば、PFC(Power Factor Correction)回路を備えていてもよい。PFC回路としては、昇圧型、降圧型、又は昇降圧型のPFC回路が用いられ得る。電源2は、例えば、商用電源から交流電力を受け、交流電力を電力Pdcに変換するとともに、PFC回路によって出力電圧値Vdcを変更する。
【0021】
電源2は、例えば、トランス、及び整流器を備えていてもよい。この場合、トランスは、巻き数が互いに異なる複数のタップと、複数のタップのうち接続するタップを切り替える回路開閉器と、を含む。回路開閉器の例としては、コンタクタ及び電子スイッチが挙げられる。電源2は、例えば、商用電源から交流電流を受け、トランスで変圧し、整流器で整流することによって、電力Pdcを生成する。トランスの回路開閉器によって、タップを切り替えることにより、出力電圧値Vdcが変更される。
【0022】
電源2は、例えば、電池と、DC(Direct Current)-DCコンバータと、を備えていてもよい。電池は、1個の電池セルから構成されてもよく、直列接続された複数個の電池セルから構成されてもよい。この場合、DC-DCコンバータの制御によって、出力電圧値Vdcが変更される。
【0023】
図2図4に示される構成例では、電源2は、複数の電池セル21と、複数の回路開閉器と、を備えている。電池セル21は、一次電池でもよく、二次電池でもよい。電池セル21としては、鉛蓄電池、リチウムイオン電池、及び太陽電池等の種々の電池が用いられ得る。複数の電池セル21には、複数種類の電池が混在してもよい。回路開閉器の例としては、コンタクタ及び電子スイッチが挙げられる。これらの構成例では、回路開閉器によって電池セル21の直列数を切り替えることによって、出力電圧値Vdcが変更される。
【0024】
図2に示される電源2の構成例では、複数(ここでは6個)の電池セル21が直列に接続されており、1段目の電池セル21の正極端子が回路開閉器SW1を介して電源2の端子2aに接続され、6段目(最終段)の電池セル21の負極端子が電源2の端子2bに接続されている。1段目の電池セル21の負極端子と2段目の電池セル21の正極端子との接続点は、回路開閉器SW2を介して端子2aに接続されている。2段目の電池セル21の負極端子と3段目の電池セル21の正極端子との接続点は、回路開閉器SW3を介して端子2aに接続されている。3段目の電池セル21の負極端子と4段目の電池セル21の正極端子との接続点は、回路開閉器SW4を介して端子2aに接続されている。
【0025】
この構成例では、回路開閉器SW1が閉状態に設定され、回路開閉器SW2~SW4が開状態に設定された場合、端子2aと端子2bとの間の電圧の出力電圧値Vdcは、直列に接続された6個の電池セル21の電圧値Vsとなる。回路開閉器SW2が閉状態に設定され、回路開閉器SW1,SW3,SW4が開状態に設定された場合、出力電圧値Vdcは、直列に接続された5個の電池セル21の電圧値(5Vs/6)となる。同様に、回路開閉器SW3が閉状態に設定され、回路開閉器SW1,SW2,SW4が開状態に設定された場合、出力電圧値Vdcは、直列に接続された4個の電池セル21の電圧値(2Vs/3)となる。回路開閉器SW4が閉状態に設定され、回路開閉器SW1~SW3が開状態に設定された場合、出力電圧値Vdcは、直列に接続された3個の電池セル21の電圧値(Vs/2)となる。このように、直列に接続されている電池セル21の数を回路開閉器SW1~SW4で切り替えることにより、電源2の出力電圧値Vdcが切り替えられる。
【0026】
図3に示される電源2の構成例は、回路開閉器SW5,SW6をさらに備える点において図2の構成例と相違する。回路開閉器SW5は、3段目の電池セル21の負極端子と4段目の電池セル21の正極端子との間に設けられている。回路開閉器SW6は、3段目の電池セル21の負極端子と端子2bとの間に設けられている。この構成例では、直列に接続されている電池セル21の数が、1~6個の間で切り替えられる。また、回路開閉器SW1,SW4,SW6が閉状態に設定され、回路開閉器SW2,SW3,SW5が開状態に設定された場合、1~3段目の電池セル21が直列に接続された直列回路と、4~6段目の電池セル21が直列に接続された直列回路とが、並列に接続される。この場合も、出力電圧値Vdcは、Vs/2の電圧値となる。
【0027】
図4に示される電源2の構成例は、6個の電池セル21が直列に接続された直列回路と、5個の電池セル21が直列に接続された直列回路と、4個の電池セル21が直列に接続された直列回路と、を備えている。6個の電池セル21が直列に接続された直列回路では、1段目の電池セル21の正極端子が回路開閉器SW1を介して端子2aに接続され、6段目の電池セル21の負極端子が端子2bに接続されている。5個の電池セル21が直列に接続された直列回路では、1段目の電池セル21の正極端子が回路開閉器SW2を介して端子2aに接続され、5段目の電池セル21の負極端子が端子2bに接続されている。4個の電池セル21が直列に接続された直列回路では、1段目の電池セル21の正極端子が回路開閉器SW3を介して端子2aに接続され、4段目の電池セル21の負極端子が端子2bに接続されている。このように、互いに電池セル21の直列数が異なる複数の直列回路が、回路開閉器SW1~SW3で切り替えられることにより、直列に接続されている電池セル21の数が切り替えられる。これにより、電源2の出力電圧値Vdcが切り替えられる。
【0028】
インバータ3は、電源2から供給される電力Pdcを交流の電力Pacに変換する装置である。インバータ3は、電力Pacをコイル装置4に供給する。インバータ3は、電力Pdcをスイッチングすることによって電力Pacを生成する。インバータ3は、例えば、スイッチングを行うための半導体素子を含む。このような半導体素子の例としては、MOS FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor)及びIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が挙げられる。
【0029】
コイル装置4の運転状態に応じて、インバータ3におけるスイッチングのデューティ及び半導体素子の導通時間の長さが変更される。コイル装置4が非接触給電用のコイル装置である場合、コイル装置4の運転状態は、給電の有無、及び給電電力を含む。コイル装置4がモータである場合、コイル装置4の運転状態は、モータの回転数、及びトルクを含む。なお、スイッチングにより正負の極性が変わるものの、スイッチングによりインバータ3の入力と出力とが導通するので、インバータ3の入力電圧がインバータ3の出力電圧に表れる。このため、電源2の出力電圧値Vdcが高ければ、インバータ3の出力電圧の電圧値(の絶対値)、つまりコイル装置4の駆動電圧の電圧値(の絶対値)は高く、電源2の出力電圧値Vdcが低ければ、インバータ3の出力電圧の電圧値(の絶対値)、つまりコイル装置4の駆動電圧の電圧値(の絶対値)は低い。
【0030】
コイル装置4は、電源2から電力の供給を受けるコイルを含む。具体的には、コイルは、インバータ3から電力Pacを受ける。コイル装置4は、コイルに電気的に接続された受動的な電気回路をさらに含んでいてもよい。コイル装置4の例としては、非接触給電用のコイル装置、及びモータが挙げられる。
【0031】
コイル装置4が非接触給電用のコイル装置である場合、コイル装置4は、コイルに加えて、受動的な電気回路である接地のための回路、及び整合回路を含んでいてもよい。整合回路は、インダクタ、キャパシタ、又はインダクタ及びキャパシタの組み合わせで構成され得る。コイル装置4がモータである場合、コイル装置4は、コイルに加えて、受動的な電気回路である接地のための回路、及びフィルタ回路を含んでいてもよい。フィルタ回路は、例えば、EMC(Electro Magnetic Compatibility)対策のために設けられ、インダクタ、キャパシタ、又はインダクタ及びキャパシタの組み合わせで構成され得る。
【0032】
センサ5は、コイル装置4に含まれるコイル周囲の大気の状態を推定するための計測値Mを出力する。コイル周囲の大気とは、コイルが晒される大気である。大気の状態の例としては、大気圧及び湿度が挙げられる。大気の状態を推定するための計測値は、大気の状態を直接計測した値でもよく、大気の状態を推定可能な値でもよい。例えば、大気圧は、標高(高度)によって変化するので、計測値として標高が用いられてもよい。センサ5の例としては、圧力センサ、湿度センサ、及び高度センサが挙げられる。高度センサの例としては、GPS(Global Positioning System)を用いるセンサが挙げられる。センサ5は、計測値Mを制御装置10に出力する。センサ5は、コイル装置4(コイル)に隣接するように設けられてもよい。コイル装置4が大気の流通が良い場所に配置されている場合には、大気の状態が同一と見なせる範囲であれば、センサ5は、コイル装置4から離れていてもよい。例えば、コイル装置4が駐車場の床面に設置され、センサ5が駐車場内のポールに取りつけられていてもよい。
【0033】
制御装置10は、電源2を制御する装置である。制御装置10は、センサ5から受信した計測値Mに応じた出力電圧値Vdcを算出し、出力電圧値Vdcの出力電圧を出力させるための出力指令Cを電源2に送信する。
【0034】
図5に示されるように、制御装置10は、物理的には、1又は複数のプロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、出力装置105、及び通信装置106等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成され得る。プロセッサ101の例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。主記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)で構成される。補助記憶装置103は、例えば、ハードディスク装置又はフラッシュメモリで構成され、一般に不揮発性で主記憶装置102よりも大量のデータを記憶可能な容量を有する。入力装置104は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、及び操作ボタンで構成される。出力装置105は、例えば、ディスプレイ、及びスピーカで構成される。通信装置106は、例えば、ネットワークインタフェースカード(NIC)又は無線通信モジュールで構成される。
【0035】
制御装置10の図6に示される各機能は、主記憶装置102等のハードウェアに1又は複数の所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、1又は複数のプロセッサ101の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、主記憶装置102及び補助記憶装置103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0036】
図6に示されるように、制御装置10は、機能的には、取得部11と、検出部12と、記憶部13と、算出部14と、出力部15と、を備えている。
【0037】
取得部11は、計測値Mを取得する。具体的には、取得部11は、センサ5から計測値Mを取得し、計測値Mを算出部14に出力する。例えば、センサ5がアナログ出力のセンサである場合、取得部11はA/D(Analog to Digital)変換回路である。センサ5がGPS受信機である場合、取得部11はGPS受信機との通信インタフェースである。取得部11は、センサ5から取得した計測値Mを算出部14が処理可能なデジタルデータに変換し、当該デジタルデータを算出部14に出力する。
【0038】
検出部12は、異常を検出する。検出部12は、例えば、センサ5の異常及び制御装置10の異常を検出する。検出部12は、異常を検出した場合、異常を示す異常情報を算出部14に出力する。例えば、センサ5がGPS受信機であれば、検出部12は、センサ5と取得部11とが一定時間以上通信できない場合、センサ5の異常と判断してもよい。センサ5として複数のセンサが用いられる構成では、検出部12は、複数のセンサの測定値の差が、測定誤差の範囲を超えている場合、センサ5の異常と判断してもよい。例えば、ウォッチドッグタイマーが設けられており、プロセッサ101が一定周期ごとにウォッチドッグタイマーをリセットする構成において、検出部12は、ウォッチドッグタイマーがリセットされなくなった場合、制御装置10の異常と判断してもよい。
【0039】
記憶部13は、計測値Mと目標電圧値Vtとの関係を規定するテーブル13aを格納している。目標電圧値Vtは、電源2から出力されるべき出力電圧値Vdcの値であり、電圧値Vdisよりも小さい。電圧値Vdisは、計測値Mから推定されるコイル周囲の大気の状態においてコイルの導体間で放電を生じさせる出力電圧の電圧値である。テーブル13aには、様々な計測値Mとそれに対応する目標電圧値Vtとの組が設定されている。テーブル13aの設定方法は後述する。
【0040】
算出部14は、計測値Mに基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧(出力電圧値Vdc)を算出する。算出部14は、取得部11から計測値Mを受け取ると、記憶部13に格納されているテーブル13aを参照し、計測値Mに対応する目標電圧値Vtを取得する。なお、取得部11が取得した計測値Mと対応する計測値がテーブル13aに存在しない場合、算出部14は、計測値Mよりも小さい計測値のうち計測値Mに最も近い計測値に対応する目標電圧値と、計測値Mよりも大きい計測値のうち計測値Mに最も近い計測値に対応する目標電圧値とのうち、小さい方の値を目標電圧値Vtとする。最も近い2つの計測値に対応する目標電圧値のうち小さい方の値を用いることにより、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧となる。
【0041】
図7を参照して具体的に説明すると、計測値Mが計測値M以上で計測値Mよりも小さい場合、目標電圧値Vt_0と目標電圧値Vt_1とのうち、小さい方の目標電圧値Vt_1が目標電圧値Vtとして用いられる。同様に、計測値Mが計測値M以上で計測値Mよりも小さい場合、目標電圧値Vt_1と目標電圧値Vt_2とのうち、小さい方の目標電圧値Vt_1が目標電圧値Vtとして用いられる。計測値Mが計測値M以上で計測値Mよりも小さい場合、目標電圧値Vt_2と目標電圧値Vt_3とのうち、小さい方の目標電圧値Vt_2が目標電圧値Vtとして用いられる。計測値Mが計測値MN-2以上で計測値MN-1よりも小さい場合、目標電圧値Vt_(N-2)と目標電圧値Vt_(N-1)とのうち、小さい方の目標電圧値Vt_(N-2)が目標電圧値Vtとして用いられる。計測値Mが計測値MN-1以上で計測値M以下である場合、目標電圧値Vt_(N-1)と目標電圧値Vt_Nとのうち、小さい方の目標電圧値Vt_(N-1)が目標電圧値Vtとして用いられる。計測値Mが他の範囲に含まれる場合も同様である。
【0042】
上述のように、電源2が出力電力値を連続的に変更可能な場合、算出部14は、目標電圧値Vtを出力電圧値Vdcとして算出する。電源2が出力電力値を離散的に変更可能な場合、算出部14は、電源2が出力可能な出力電圧値のうち、目標電圧値Vt以下で最大の出力電圧値を出力電圧値Vdcとして算出する。つまり、出力電圧値Vdcは、電圧値Vdisよりも小さい。
【0043】
算出部14は、検出部12によって異常が検出された場合、電圧値Vlim1(図12参照)を出力電圧値Vdcとして算出する。電圧値Vlim1は、コイル装置4の使用範囲全体にわたってコイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧の電圧値である。使用範囲は、コイルが使用される可能性があるコイル周囲の大気の状態の範囲である。電圧値Vlim1は、予め決定され、記憶部13に格納されている。算出部14は、出力電圧値Vdcを出力部15に出力する。
【0044】
出力部15は、出力指令Cを電源2に出力(送信)する。出力部15は、算出部14から出力電圧値Vdcを受け取ると、電源2に出力電圧値Vdcの出力電圧を出力させるための出力指令Cを生成し、出力指令Cを電源2に出力する。
【0045】
次に、テーブル13aの設定方法について詳細に説明する。図8は、テーブルの設定方法の一例を示すフローチャートである。図9は、インバータの入力電圧と出力電圧との関係を求めるための構成を示す図である。図10は、計測値と放電開始電圧値との組を取得するための構成を示す図である。以下の手順は、コイル装置4の運用が開始される前に行われる。コイル装置4の運用期間中に以下の手順が行われることによって、テーブル13aが再設定されてもよい。
【0046】
図8に示されるように、まず、インバータ3の入力電圧と出力電圧との関係が求められる(ステップS1)。ステップS1では、図9に示されるように、電源2がインバータ3を介してコイル装置4に接続される。コイル装置4の駆動電圧を計測するために電圧計測器51がコイル装置4の入力間(つまり、インバータ3の出力間)に接続される。そして、電源2の出力電圧値(つまり、インバータ3の入力電圧値)が電圧値Vtestとなるように、電源2に出力指令Cが送信される。電圧値Vtestは、コイル装置4のコイルの導体間において放電を生じさせない電圧値である。電圧値Vtestは、インバータ3の構成及び動作、並びにコイル装置4のコイルの形状及び寸法等から推定される。例えば、電圧値Vtestは、電源2が出力可能な最も低い電圧値に設定される。
【0047】
このとき、インバータ3のデューティ比は、一定値に固定される。インバータ3が複数のデューティ比で動作し得る場合には、同じインバータ3の入力電圧に対してインバータ3の出力電圧が最も高くなるデューティ比が用いられる。つまり、インバータ3のレッグの上アーム及び下アームのいずれかが導通している時間が最も長いデューティ比が用いられる。この状態で、電圧計測器51は、電圧値Vrms1を計測する。電圧計測器51によって計測される電圧値は、例えば実効値である。
【0048】
インバータ3のデューティ比が一定であれば、インバータ3の入力電圧(出力電圧値Vdc)とインバータ3の出力電圧(電圧値Vac)とは比例するので、関係式(1)が得られる。
【数1】
【0049】
続いて、計測値Mと放電開始電圧値Vrms2_iとが計測され、記録される(ステップS2)。なお、変数iは、1以上N(Nは1以上の整数)以下の整数である。ステップS2では、図10に示されるように、コイル装置4及びセンサ5がチャンバー52に収容される。本実施形態では、計測値Mとして圧力値が用いられている。チャンバー52は、吸気及び排気を行うためのポンプ等によって、チャンバー52内の圧力を変更することが可能に構成されている。チャンバー52は、コイル装置4の使用範囲よりも広い範囲でチャンバー52内の圧力を変更することが可能である。コイル装置4の使用範囲は、コイル装置4が使用される最低の大気圧から最高の大気圧までの範囲である。
【0050】
さらに、部分放電試験器53がコイル装置4に接続され、記録器54がセンサ5及び部分放電試験器53に接続される。部分放電試験器53は、電圧を印加することによって放電を開始する電圧値(放電開始電圧値)を計測する装置である。部分放電試験器53は、インバータ3と同じ周波数の交流電力を出力する。記録器54は、センサ5によって計測された計測値M(ここでは、圧力値)及び部分放電試験器53によって計測された放電開始電圧値Vrms2_iを記録するレコーダである。記録器54に代えて人間が計測値M及び放電開始電圧値Vrms2_iを手書きで記録してもよい。部分放電試験器53によって計測される放電開始電圧値は、例えば実効値である。必要に応じ、センサ5によって計測された計測値Mをレコーダ及び人間が記録できるように、部分放電試験器53は構成されてもよい。例えば、センサ5とレコーダとの間にA/D変換器が設けられ、A/D変換器が計測値をデジタル信号に変換してレコーダに出力してもよい。また、計測値を表示する表示器が設けられることによって、人間が計測値を読めるようにしてもよい。
【0051】
そして、計測値Mと放電開始電圧値Vrms2_iとが計測される。なお、変数iの初期値は、1に設定されている。ここでは、計測値Mとして圧力値が用いられる。具体的には、ポンプを動作させることによって、チャンバー52内の圧力が圧力値Pに設定され、センサ5は圧力値Pを計測し、圧力値Pを計測値Mとして記録器54に送信する。続いて、部分放電試験器53は、放電開始電圧値Vrms2_iを計測し、放電開始電圧値Vrms2_iを記録器54に送信する。そして、記録器54は、センサ5によって計測された圧力値P(計測値M)と部分放電試験器53によって計測された放電開始電圧値Vrms2_iとを対応付けて記録する。変数iが1からNまで1ずつ増加され、計測値M及び放電開始電圧値Vrms2_iの計測及び記録が順に行われる。
【0052】
なお、圧力値P(i=1~N)には、コイル装置4が使用される環境(使用環境)において想定される最低の大気圧と最高の大気圧とが含まれる。例えば、変数iが増加するにつれ、圧力値Pが大きくなるとすると、圧力値Pは、使用環境において想定される最低の大気圧以下であり、圧力値Pは、コイル装置4の使用環境において想定される最高の大気圧以上である。圧力値P(i=1~N)は、例えば、コイル装置4の使用環境において想定される最低の大気圧と最高の大気圧との間を(N-1)で均等に分割することによって設定されてもよい。
【0053】
続いて、放電開始電圧値Vrms2_iがインバータ3の入力電圧における電圧値Vdis_iに変換される(ステップS3)。放電開始電圧値Vrms2_iは、コイル装置4に印加される交流電圧(インバータ3の出力電圧)の電圧値であり、インバータ3の入力電圧と出力電圧との間には関係式(1)が成立する。したがって、関係式(1)において、電圧値Vacに放電開始電圧値Vrms2_iを代入し、出力電圧値Vdcに電圧値Vdis_iを代入することにより得られる以下の式(2)によって、放電開始電圧値Vrms2_iは電圧値Vdis_iに変換される。
【数2】
【0054】
続いて、電源2が出力すべき目標電圧値Vt_iが算出される(ステップS4)。目標電圧値Vt_iは、電圧値Vdis_iに倍率αを乗算することによって、算出される。倍率αは、0以上1未満の値である。つまり、出力電圧の電圧値が電圧値Vdis_iの場合に、コイル装置4において放電が開始するので、目標電圧値Vt_iは、電圧値Vdis_iよりも小さい値に設定される必要がある。計測誤差及びコイル装置4の製造ばらつきを考慮して、出力電圧値Vdcが目標電圧値Vt_iに設定されたときに、コイル装置4において放電が生じる可能性を十分低くできるように、倍率αは設定される。倍率αは、変数iの値によらずに一定であってもよく、変数iの値ごとに変更されてもよい。例えば、一定のマージンを確保するために、目標電圧値Vt_iが小さいほど、倍率αは小さく設定されてもよい。
【0055】
なお、電圧値Vdis_iに倍率αを乗じることに代えて、電圧値Vdis_iから値βを減算することによって、目標電圧値Vt_iが算出されてもよい。値βは、電圧値Vdis_iよりも小さい正の数である。
【0056】
そして、計測値Mと目標電圧値Vt_iとのN個の組が、記憶部13に格納されているテーブル13aに設定される(ステップS5)。以上により、テーブル13aが設定される。
【0057】
複数のコイル装置4が互いに同一に設計されている場合、1つのコイル装置4に対して上記手順が実施されてテーブル13aが設定され、他のコイル装置4には同じテーブル13aが設定されてもよい。もちろん、各コイル装置4に対して上記手順が実施され、複数のコイル装置4に対してそれぞれ別のテーブル13aが設定されてもよい。
【0058】
出力電圧値Vdcが目標電圧値Vt_iに設定されたとき、式(1)から、コイル装置4の駆動電圧(すなわち、インバータ3の出力電圧)は、式(3)で示される。
【数3】
【0059】
目標電圧値Vt_iは、式(4)に示されるように、電圧値Vdis_iに倍率αを乗じることによって得られる。
【数4】
【0060】
式(4)を式(3)に代入することによって、コイル装置4の駆動電圧は、式(5)によって表される。
【数5】
【0061】
さらに、式(5)に式(2)を代入することによって、コイル装置4の駆動電圧は、式(6)によって表される。
【数6】
【0062】
放電開始電圧値Vrms2_iは、コイル装置4が圧力値Pの大気圧において使用されたときに放電を開始する駆動電圧であり、αは1未満の値である。したがって、式(6)に示されるコイル装置4の駆動電圧(電圧値Vac)は放電開始電圧値Vrms2_iより小さい値、すなわち放電を生じない駆動電圧である。つまり、コイル装置4が圧力値Pの大気圧において使用されるとき、出力電圧値Vdcが目標電圧値Vt_iに設定されれば、コイル装置4の駆動電圧は、式(6)で表され、放電開始電圧値Vrms2_iより小さい値なので放電を生じない。
【0063】
次に、制御装置10が行う出力電圧設定方法について説明する。図11は、図1に示される制御装置が行う出力電圧設定方法の一連の処理を示すフローチャートである。図11に示される一連の処理は、所定時間毎に開始される。所定時間は、放電開始電圧値に影響を及ぼす程度に大気の状態が変化する時間よりも十分短い時間に設定される。例えば、コイル装置4がモータで、コイル装置4が車両に搭載されており、車両が山を登ったり下ったりする場合には、所定時間は短く設定されてもよい。コイルシステム1が非接触給電装置である場合、コイルシステム1の設置場所は基本的には変わらないので、所定時間は長く設定されてもよい。所定時間は、例えば、30分又は1時間程度に設定される。
【0064】
まず、取得部11がセンサ5から計測値Mを取得する(ステップS11)。そして、取得部11は、計測値Mを算出部14に出力する。
【0065】
続いて、算出部14は、取得部11から計測値Mを受け取ると、検出部12がセンサ5又は制御装置10の異常を検出しているか否かを判定する(ステップS12)。算出部14は、例えば、検出部12から異常情報を受け取った場合、センサ5又は制御装置10に異常が発生したことを検出する。ステップS12において、算出部14は、検出部12が異常を検出していないと判定した場合(ステップS12;NO)、計測値Mに応じて出力電圧値Vdcを算出する(ステップS13)。具体的には、算出部14は、記憶部13に格納されているテーブル13aを参照し、計測値Mに対応する目標電圧値Vtを取得する。そして、電源2が出力電力値を連続的に変更可能な場合、算出部14は、目標電圧値Vtを出力電圧値Vdcとして算出する。電源2が出力電力値を離散的に変更可能な場合、算出部14は、電源2が出力可能な出力電圧値のうち、目標電圧値Vt以下で最大の出力電圧値を出力電圧値Vdcとして算出する。そして、算出部14は、出力電圧値Vdcを出力部15に出力する。
【0066】
一方、ステップS12において、算出部14は、検出部12が異常を検出していると判定した場合(ステップS12;YES)、予め定められている電圧値Vlim1を出力電圧値Vdcとして算出する(ステップS14)。そして、算出部14は、出力電圧値Vdcを出力部15に出力する。
【0067】
続いて、出力部15は、算出部14から出力電圧値Vdcを受け取ると、電源2に出力電圧値Vdcの出力電圧を出力させるための出力指令Cを生成し、出力指令Cを電源2に出力する(ステップS15)。以上により、制御装置10が行う出力電圧設定方法の一連の処理が終了する。
【0068】
そして、電源2は、制御装置10から出力指令Cを受け取ると、出力指令Cによって指定された出力電圧値Vdcを有する出力電圧を出力する。インバータ3は、電源2から出力された出力電圧を駆動電圧に変換し、コイル装置4に駆動電圧を供給する。このようにして得られた駆動電圧の電圧値は、コイル装置4のコイル周囲の大気の状態において、コイル装置4のコイル導体間で放電が生じない電圧値である。したがって、コイルの隣り合う導体間で放電が生じないように、コイル装置4が駆動される。
【0069】
次に、図12を参照して、コイルシステム1及び制御装置10の作用効果を説明する。図12は、大気圧と出力電圧値との関係の一例を示す図である。例えば、大気圧は標高及び天候によって変動する。具体的には、高度が高くなるにつれて大気圧は低くなる。また、低気圧が接近すれば大気圧は低くなり、高気圧が接近すれば大気圧は高くなる。比較例では、コイル装置4が使用される場所の標高及び天候が変化したとしても、コイルの導体間で放電が生じないように、コイルに印加される電圧には制限値が設定されている。したがって、比較例では、図12中に太破線で示されるように、大気圧によらずに、出力電圧は一定の電圧値Vlim1に制限される。
【0070】
しかしながら、標高及び天候が変わることによって、電圧値Vlim1よりも高い電圧値Vlim2までの出力電圧が電源2から出力されたとしても、コイルの導体間で放電が生じない場合がある(図12の区間2)。同様に、電圧値Vlim2よりも高い電圧値Vlim3までの出力電圧が電源2から出力されたとしても、コイルの導体間で放電が生じない場合がある(図12の区間3)。コイルシステム1及び制御装置10では、大気圧に応じて、出力電圧が変更される。例えば、区間2では、電圧値Vlim1よりも大きく、電圧値Vlim2以下の電圧値を有する出力電圧が出力される。区間3では、電圧値Vlim1よりも大きく、電圧値Vlim3以下の電圧値を有する出力電圧が出力される。つまり、出力電圧値Vdcは、大気圧の変化に応じて電圧値Vlim1よりも高く設定される。
【0071】
このため、電源2が一定の電力Pdcを供給する場合には、出力電流値を下げることができるので、コイルにおける電力損失を低減することが可能となる。電源2が一定の出力電流を出力する場合には、電源2から出力される電力Pdcを増大することができる。コイル装置4の使用範囲が広いほど、上記効果は顕著に現れる。
【0072】
以上説明したように、コイルシステム1及び制御装置10では、コイル周囲の大気の状態を推定するための計測値Mに基づいて、コイル装置4のコイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧値Vdcが算出され、当該出力電圧値Vdcの出力電圧を出力する出力指令Cが電源2に出力される。このため、大気の状態に応じた出力電圧値Vdcの出力電圧が電源2から出力される。例えば、大気圧が高い場合には、出力電圧値Vdcをある程度高くしても、コイルの導体間で放電は生じない。このように、大気の状態に応じた出力電圧値Vdcの出力電圧を出力することにより、出力電圧値Vdcが固定されている場合と比較して、電力Pdcを増大することが可能となる。あるいは、電源2が一定の電力Pdcを出力する場合には、出力電流を減らすことができるので、コイルにおける損失を低減することができる。その結果、電力効率を向上させることが可能となる。
【0073】
出力電圧値Vdcは、電圧値Vdisよりも小さい。したがって、コイルの導体間で放電を生じさせることなく、電力効率を向上すること、又は出力を増大することが可能となる。言い換えると、大気の状態が変化しても、コイルの隣り合う導体間で放電が生じず、かつ、不必要に出力電圧値Vdcが下げられない。したがって、電力効率を向上させること、及び出力を増大することの少なくともいずれかが可能となる。
【0074】
センサ5又は制御装置10に異常が検出された場合には、大気の状態に応じた出力電圧値Vdcが正確に算出されないおそれがある。これに対し、異常が検出された場合に、コイルが使用されるコイル周囲の大気の状態の範囲にわたって導体間で放電を生じさせない電圧値Vlim1が出力電圧値Vdcとして算出される。したがって、異常が検出された場合でも、コイルの導体間で放電を生じさせないようにすることができる。
【0075】
上記実施形態では、大気の状態として、大気圧が用いられる。この場合、コイル装置4の周囲の大気圧に応じた出力電圧値Vdcの出力電圧が電源2から出力される。したがって、出力電圧値Vdcが固定されている場合と比較して、電力Pdcを増大することが可能となる。あるいは、電源2が一定の電力Pdcを出力する場合には、出力電流を減らすことができるので、コイルにおける損失を低減することができる。その結果、電力効率を向上させることが可能となる。出力電圧値Vdcは、コイル装置4のコイルの周囲の大気圧においてコイルの隣り合う導体間で放電が生じる電圧値Vdisより低いので、コイル装置4での放電が防止される。大気圧が変化してより高い電圧でも放電しない場合には、出力電圧値Vdcを高くすることができ、電力効率を向上させること、及び出力を増大することの少なくともいずれかが可能となる。
【0076】
コイルシステム1では、センサ5によってコイル装置4のコイル周囲の大気の状態(大気圧)が計測され、計測値Mに基づいて、コイルの導体間で放電を生じさせない出力電圧値Vdcが算出される。
【0077】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。
【0078】
例えば、上記実施形態では、センサ5として、大気の状態(圧力)を直接測定するセンサが用いられているが、大気の状態を間接的に測定するセンサが用いられてもよい。例えば、大気圧と標高とには相関関係があることが知られているので、センサ5として、コイル装置4の標高を測定する高度センサが用いられてもよい。この場合、計測値Mとして標高が用いられるので、テーブル13aには、標高と目標電圧値Vtとの組が格納される。なお、大気圧と標高との関係にはばらつきがあるので、目標電圧値Vtは、電圧値Vdis_iに倍率γを乗算することによって、算出されてもよい。倍率γは、0以上1未満の値であり、倍率αよりも小さい値である。この場合も、上記実施形態と同様の効果が奏される。
【0079】
コイルの導体間で放電が生じない電圧制限値は、大気圧以外の大気の状態に依存することもある。例えば、電圧制限値は、湿度に依存し得る。このため、センサ5として湿度を測定するセンサ(湿度センサ)が用いられてもよい。あるいは、センサ5として、圧力センサに加えて、湿度センサが用いられてもよい。この場合、制御装置10は、計測値Mとして圧力値及び湿度を受け取り、コイル装置4のコイル周囲の大気の圧力値及び湿度に応じて、出力電圧値Vdcを変更してもよい。チャンバー52として、圧力及び湿度を変更可能なチャンバーが用いられ、様々な圧力値及び湿度と放電開始電圧値Vrms2との組が記録される。テーブル13aには、圧力値、湿度、及び目標電圧値Vtの組み合わせが設定される。
【0080】
算出部14は、テーブル13aを参照することなく、出力電圧値Vdcを算出してもよい。例えば、電源2が電圧値Vdcaと電圧値Vdcbとの2つの電圧値の出力電圧のみを出力可能である場合、テーブル13aに代えて閾値Mthが用いられてもよい。電圧値Vdcaは、電圧値Vdcbよりも大きい。閾値Mthは、以下の第1条件及び第2条件を満たす値である。第1条件は、大気の状態を推定するための値が閾値Mth以上である場合、出力電圧値Vdcが電圧値Vdcaに設定されれば、コイル装置4のコイルの隣り合う導体間で放電が生じないという条件である。第2条件は、大気の状態を推定するための値が閾値Mth未満である場合、出力電圧値Vdcが電圧値Vdcbに設定されれば、コイル装置4のコイルの隣り合う導体間で放電が生じないという条件である。この場合、算出部14は、計測値Mが閾値Mth以上である場合、電圧値Vdcaを出力電圧値Vdcとして算出する。算出部14は、計測値Mが閾値Mth未満である場合、電圧値Vdcbを出力電圧値Vdcとして算出する。
【0081】
閾値Mthは、コイル装置4の運用が開始される前に、以下のように決定され、記憶部13に格納される。例えば、テーブル13aに設定されている計測値Mと目標電圧値Vt_iとの組のうち、電圧値Vdca以上である目標電圧値Vt_iを含む組が抽出される。そして、抽出された組に含まれる計測値Mのうち最小の計測値Mが閾値Mthに設定される。計測値Mとして大気圧が用いられる場合、閾値Mth以上の大気圧では、目標電圧値Vt_iは電圧値Vdca以上である。このため、電源2の出力電圧値Vdcが電圧値Vdcaに設定されたとしても、コイルの隣り合う導体間で放電が生じない。
【0082】
電圧値Vdcb未満の目標電圧値Vt_iを含む組が存在する場合、その組に含まれる計測値M未満の大気圧では、電源2の出力電圧値Vdcが電圧値Vdcbに設定されたとしても、コイルの隣り合う導体間で放電が生じる可能性がある。このような場合には、電源2を改造又は交換することによって、電圧値Vdcb未満の目標電圧値Vt_iを含む組が存在しなくなるように、電圧値Vdcbがさらに低くされる。これにより、大気圧が閾値Mth未満である場合に、目標電圧値Vt_iは電圧値Vdcb以上となるので、コイルの隣り合う導体間で放電が生じない。この実施形態においては、テーブル13aは閾値Mthを決定するために使用されるだけなので、記憶部13はテーブル13aを格納しなくてもよい。
【0083】
上記実施形態では、試験によりテーブル13aが設定されているが、テーブル13aの設定方法はこれに限られない。例えば、回路モデルと、放電開始電圧値を予測するモデルと、を用いたシミュレーションによってテーブル13aが設定されてもよい。回路モデルは、電源2の出力電圧においてインバータ3が動作したときのコイル装置4の各部の電圧を予測するシミュレーションモデルである。放電開始電圧値を予測するモデルは、大気の状態と、コイルの導体の材質及び形状、絶縁物の材質及び形状、並びにコイル導体と絶縁物との位置関係とに応じて放電開始電圧値を予測するシミュレーションモデルである。
【0084】
制御装置10は、異常検出を行わない場合、検出部12を備えていなくてもよい。制御装置10は、記憶部13を備えていなくてもよい。この場合、算出部14は、制御装置10の外部の記憶部に格納されているテーブル13aを参照してもよい。
【0085】
インバータ3は、機械的に電圧を反転させる整流子に置き換えられてもよい。この場合、コイル装置4として直流モータが採用され得る。モータ巻線がコイルに相当する。
【0086】
コイルシステム1は、インバータ3を備えていなくてもよい。この場合、電源2として、電圧可変の交流出力電源が用いられ、電源2はコイル装置4に直接接続される。
【0087】
コイルシステム1は、センサ5を備えていなくてもよい。この場合、制御装置10は、コイルシステム1の外部のセンサから計測値Mを取得する。
【符号の説明】
【0088】
1 コイルシステム
2 電源
3 インバータ
4 コイル装置
5 センサ
10 制御装置
11 取得部
12 検出部
13 記憶部
13a テーブル
14 算出部
15 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12