(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022358
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】磁気浮上搬送装置
(51)【国際特許分類】
B60L 13/04 20060101AFI20230208BHJP
H02K 41/02 20060101ALI20230208BHJP
H02K 41/03 20060101ALI20230208BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20230208BHJP
B61B 13/08 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B60L13/04 S
H02K41/02 C
H02K41/03 A
B65G54/02
B61B13/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127034
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】二村 宗男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明
(72)【発明者】
【氏名】金沢 威風
【テーマコード(参考)】
3F021
5H113
5H641
【Fターム(参考)】
3F021AA07
3F021CA06
3F021DA02
5H113AA05
5H113BB09
5H113CC03
5H113CC08
5H113DA02
5H113DB04
5H113DB07
5H113KK02
5H641BB06
5H641GG02
5H641GG16
5H641GG21
5H641HH03
5H641JA07
5H641JA09
(57)【要約】
【課題】磁気浮上搬送装置において、カーブにおける台車の安定性をより向上させる。
【解決手段】磁気浮上用部材11の幅に対応した領域(主領域MR)においては、磁化領域(第1磁化領域)20A、20B、20Cが形成されている。主領域MRの外側において、左側に磁化領域(第2磁化領域)20X、右側に磁化領域(第2磁化領域)20Yが形成されている。磁化領域20X、20Yを含めた場合でも、隣接する磁化領域間では磁化の向きが逆転している。ただし、磁化領域20X、20Yの幅は領域20A等よりも広く設定されている。レール20を用いることによって、磁気浮上用部材11のx方向での移動に伴って磁気浮上用部材11に働く磁場に起因した力のモーメントを、従来の構成の場合と逆に設定することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導状態にある磁気浮上用部材が固定された移動体と、前記移動体の進行方向に沿って形成され前記進行方向と垂直な面内における磁場の面内での変動を有する磁場分布を生成するレールと、が組み合わされ、前記磁場分布に対する前記磁気浮上用部材のピン止め効果によって前記移動体を前記レールと非接触の状態で前記レールに沿って移動させる磁気浮上搬送装置であって、
前記レールには、前記進行方向と垂直な面内において、
当該面内の一方向である配列方向に沿って、前記配列方向及び前記進行方向と垂直な方向である主磁化方向に沿って磁化された複数の磁化領域が、前記主磁化方向に沿った磁化の向きが、前記配列方向に沿って交互に変化するように配列され、
前記配列方向に沿った前記磁気浮上用部材の幅に対応した範囲である主領域において、前記磁化領域である第1磁化領域が前記配列方向に沿って複数形成され、
前記配列方向に沿った前記主領域の外側において、前記主領域中の前記第1磁化領域の幅よりも広い幅で形成された前記磁化領域である第2磁化領域が形成されたことを特徴とする磁気浮上搬送装置。
【請求項2】
前記主領域において、同一の幅をもつ前記第1磁化領域が複数配列して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上搬送装置。
【請求項3】
前記主領域において、前記第1磁化領域の幅は、前記第2磁化領域がある側に向けて大きくされたことを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上搬送装置。
【請求項4】
前記第2磁化領域は、同一の向きに磁化された複数の領域が前記配列方向で配列されて形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気浮上搬送装置。
【請求項5】
前記レールは、前記配列方向に沿った磁化の向きが徐々に回転するように、隣接する前記磁化領域の間に、前記主磁化方向と交差する方向に磁化された補助磁化領域を具備することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の磁気浮上搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2種超伝導体のピン止め効果を用いてレールに対して移動体を非接触で束縛し、レールに沿って移動させる磁気浮上搬送装置に関する。
【0002】
着磁されたレール上で台車を磁気力によって浮上させて移動させる磁気浮上搬送装置が知られている。特に、第2種超伝導体における磁場のピン止め効果を利用した磁気浮上搬送装置においては、磁場を発生するレールと、第2種超伝導体で構成され台車に固定された磁気浮上用部材とが組み合わせて用いられる。第2種超伝導体は、その内部の磁場の変化が起きないように動きが制限されるため、非特許文献1に記載されたように、複数の磁石による非一様な磁場分布を進行方向と垂直な面内で生成するようなレールを用いれば、ピン止め効果によって、この面内における磁気浮上用部材(第2種超伝導体)とレールとの間の位置関係が固定されるように磁気浮上用部材に力が働く。このため、磁気浮上用部材(台車)をレールと非接触の状態で維持することができる。一方、このような磁石を進行方向(レールの延伸方向)に沿って一様に形成すれば、この磁場分布は進行方向に沿って変化しないため、磁気浮上用部材は進行方向に沿っては自在に移動可能となる。このため、レールと磁気浮上用部材(台車)とを非接触でこれらの間の間隔を一定とした状態で、レールに沿って台車を自在に移動させることができる。
【0003】
特許文献1には、共に鉛直方向に沿って着磁され極性が反対の2本のレール上を台車が移動する搬送装置が記載されている。ここで、台車には前記の磁気浮上用部材である姿勢安定部が複数固定され、これによって台車の姿勢も安定させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】公益財団法人国際超電導産業技術研究センターHP(https://www.istec.or.jp/istec-animation/SFTrain-j.pdf)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の磁気浮上搬送装置においては、台車の進行方向(あるいはレール)が直線状である場合には、台車をレールに対して束縛させた状態で安定して進行させることができる。一方、速度が高くかつ進行方向(レール)がカーブする(曲がる)場合には、台車をカーブの外側に移動させるような大きな遠心力が働き、ピン止め効果による力に抗して台車がレールから脱落(脱線)しやすくなった。なお、磁気浮上搬送装置においては、常に台車(移動体)はレールと非接触であるが、このように台車がレールに束縛されなくなった状態を以下では脱線と呼称する。
【0007】
このため、磁気浮上搬送装置において、カーブにおける移動体の安定性をより向上させることが求められた。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の磁気浮上搬送装置は、超伝導状態にある磁気浮上用部材が固定された移動体と、前記移動体の進行方向に沿って形成され前記進行方向と垂直な面内における磁場の面内での変動を有する磁場分布を生成するレールと、が組み合わされ、前記磁場分布に対する前記磁気浮上用部材のピン止め効果によって前記移動体を前記レールと非接触の状態で前記レールに沿って移動させる磁気浮上搬送装置であって、前記レールには、前記進行方向と垂直な面内において、当該面内の一方向である配列方向に沿って、前記配列方向及び前記進行方向と垂直な方向である主磁化方向に沿って磁化された複数の磁化領域が、前記主磁化方向に沿った磁化の向きが、前記配列方向に沿って交互に変化するように配列され、前記配列方向に沿った前記磁気浮上用部材の幅に対応した範囲である主領域において、前記磁化領域である第1磁化領域が前記配列方向に沿って複数形成され、前記配列方向に沿った前記主領域の外側において、前記主領域中の前記第1磁化領域の幅よりも広い幅で形成された前記磁化領域である第2磁化領域が形成されたことを特徴とする。
本発明の磁気浮上搬送装置は、前記主領域において、同一の幅をもつ前記第1磁化領域が複数配列して形成されたことを特徴とする。
本発明の磁気浮上搬送装置は、前記主領域において、前記第1磁化領域の幅は、前記第2磁化領域がある側に向けて大きくされたことを特徴とする。
本発明の磁気浮上搬送装置において、前記第2磁化領域は、同一の向きに磁化された複数の領域が前記配列方向で配列されて形成されたことを特徴とする。
本発明の磁気浮上搬送装置において、前記レールは、前記配列方向に沿った磁化の向きが徐々に回転するように、隣接する前記磁化領域の間に、前記主磁化方向と交差する方向に磁化された補助磁化領域を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように構成されているので、磁気浮上搬送装置において、カーブにおける移動体の安定性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の磁気浮上搬送装置の構成を簡略化して示す斜視図(a)、断面図(b)である。
【
図2】従来の磁気浮上搬送装置において、磁気浮上用部材が進行方向と垂直な方向に移動した場合に磁気浮上用部材の各部に働く力及びこれによる姿勢変化を算出した結果である。
【
図3】一般的な台車における直進時とカーブ走行時における姿勢の例である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る磁気浮上搬送装置の構成を簡略化して示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る磁気浮上搬送装置において、磁気浮上用部材が進行方向と垂直な方向に移動した場合に磁気浮上用部材の各部に働く力及びこれによる姿勢変化を算出した結果である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る磁気浮上搬送装置の変形例の構成を簡略化して示す断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る磁気浮上搬送装置の他の変形例の構成を簡略化して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る磁気浮上搬送装置について説明する。ここでは、まず、例えば非特許文献1に記載されたような従来の磁気浮上搬送装置の構造及びその問題点について説明する。
図1は、非特許文献1に記載されたような、従来の磁気浮上搬送装置9の構成を模式的に示す斜視図(a)、その進行方向に垂直な断面図(b)である。ここでは、レール90と台車(移動体)10が組み合わせて用いられ、鉛直方向がz方向(上側が正側)、進行方向がy方向、進行方向及び鉛直方向と垂直な方向がx方向とされる。
図1(b)においては、台車10は記載されず、台車10に固定された磁気浮上用部材11のみが記載されている。磁気浮上用部材11は超伝導状態の第2種超伝導体で構成されている。なお、記載は省略されているが、台車10においては、磁気浮上用部材11を超伝導の臨界温度以下の温度にするための冷却機構が搭載されている。また、特許文献1に記載されたように磁気浮上用部材11は進行方向(y方向)に沿って複数設けられていてもよいが、ここではy方向に沿った姿勢については考慮しないため、磁気浮上用部材11は一つのみ設けられているものとする。
【0013】
レール90は、強磁性体材料で構成され、鉛直方向(z方向)に沿って磁化された3つの磁化領域90A、90B、90Cがx方向(配列方向)に沿って配列されて構成されている。ここで、磁化領域90Aと磁化領域90Cの磁化の向きは同一(下向き)であり、これらの間の磁化領域90Bの磁化の向きはこれらとは逆(上向き)である。すなわち、レール90の進行方向(y方向)と垂直な断面(
図1(b))においては、水平方向(x方向:鉛直方向(z方向)及び進行方向(y方向)と垂直な方向)に沿って3つの磁化領域が配列して形成され、この配列において隣接する2つの磁化領域では磁化の向きが逆向きとなる。
【0014】
図1(b)においてはレール90の進行方向(延伸方向)に沿ったある一点での進行方向に垂直な断面構造が示されているが、この断面構造は進行方向(y方向)に沿って一様に形成されている。また、
図1の例では3つの磁化領域が設けられているが、隣接する2つの磁化領域では磁化の向きが逆向きとなるように、より多くの磁化領域が設けられていてもよい。
【0015】
非特許文献1等に記載されるように、この構成によって、レール90の上側において、xz面内における、磁場の面内での変動を有する磁場分布を形成することができ、この磁場分布に対する磁気浮上用部材11(第2種超伝導体)のピン止め効果によって、磁気浮上用部材11のxz面内での移動は制限され、磁気浮上用部材11(台車10)のレール90からの間隔を一定に維持させることができる。一方、この磁場分布はy方向では一様となるため、磁気浮上用部材11(台車10)はy方向に沿って自在に移動が可能である。
【0016】
なお、このように磁気浮上用部材11は重力とは無関係にレール90に対して束縛されるため、上記のz方向(進行方向(y方向)と配列方向(x方向)と垂直な方向)が実際の鉛直方向と等しい必要はなく、実際にはz方向がどの方向であっても上記の磁気浮上搬送装置9を機能させることができる。
【0017】
ここで、レール90による磁場をxz面内で効率的に用いるためには、x方向において、磁気浮上用部材11の幅とレール90の幅を同程度とすることが好ましい。また、ピン止め効果を高めるためにはx方向における磁場勾配(磁場強度の変動)を一様に大きくすることが有効であり、このためには、磁化領域90A、90B、90Cの幅は同等とされ、
図1では3つの磁化領域(90A、90B、90C)が形成されているが、その数は多いことが好ましい。
【0018】
図1の場合において、ピン止め効果によってx方向においてその中心がレール90の中心に束縛された磁気浮上用部材11(台車10)が、レール90の中心からx方向に沿って移動した際に磁気浮上用部材11に加わる力を算出した。ここで、
図1(b)における磁気浮上用部材11の中心、左側、右側の3箇所において鉛直方向に加わる力を算出した。
図2は、この力をx方向における位置毎に算出した結果である。ここで、
図1(b)の状態をx=0とし、磁気浮上用部材11が
図1(b)の状態から右側に移動した場合がx>0であり、左側に移動した場合がx<0である。また、この力は、いずれの場合も磁気浮上用部材11を浮上させるように上向きに働く。
【0019】
図2の結果より、磁気浮上用部材11がx=0(原点O)からx>0側に移動した場合、左側において右側よりもこの力が大きくなり、x<0側に移動した場合、右側において左側よりもこの力が大きくなる。このような左右の力の不均衡(差分)によって、磁気浮上用部材11(台車10)には力のモーメントが働き、その鉛直面(xz面)内における姿勢が変化する。この姿勢は、
図2中の上側に模式化して示されている。ここでは、磁気浮上用部材11の中心の原点O(レール90(磁化領域90B)の中心)に対する位置関係と、上記の磁気浮上部材11の姿勢が模式的に示されており、a0はx=0(原点)、a+は小さく正側に移動(x>0)、a++は大きく右側に移動(x>0)、a-は小さく左側に移動(x<0)、a--は大きく左側に移動(x<0)、の状態をそれぞれ示す。対称性より、a0においては左側と右側で作用する力は等しく、この姿勢が基準(水平)となる。
【0020】
ここで示されるように、x>0(a+、a++)の場合は磁気浮上用部材11を時計回りに、x<0(a-、a--)の場合はこれを反時計回りに回動させる。すなわち、磁気浮上用部材11がx方向に沿って原点Oから移動した場合には、磁気浮上用部材11における移動した側と反対側が浮き上がるような姿勢変化が発生する。磁気浮上用部材11は台車10に固定されているため、この姿勢変化は台車10において同様に発生する。x>0となるような状況は、例えばx方向の正側に向けて遠心力が働くようにカーブを走行する場合(カーブの曲率中心がx<0側にある場合)において発生し、この場合においては、
図2に示されるように、磁気浮上用部材11におけるx方向負側(カーブにおける内側)が浮き上がるように姿勢が変化する。x<0となる状況は、これとは逆向きに遠心力が働いた場合に発生する。
【0021】
一方、
図3は、上記のような磁気浮上式ではなく、車輪120A(図中左側)、120B(図中右側)がレール130に案内されて移動する通常の台車(移動体)110が走行する状況を模式的に示す、ここでは進行方向に垂直な台車110の状況が、直進時(A)、カーブ走行時(B)において模式的に示されている。ここでは、車両110の走行時には重力Gが常時作用し、カーブにおいてはこれに遠心力CFが加わり、これら以外の力は働かないものとする。カーブ走行時(B)では、外側に向く遠心力CFによって、図中右側の車輪120Bを中心とした図中時計回りの力のモーメントMが発生する。これによって、カーブの内側(図中左側)における車輪120Aが浮き上がるような車両110の姿勢変化が発生する。
【0022】
このため、カーブの曲率半径が小さくなった場合や車両110の速度が高い場合には、遠心力CFが大きくなり、台車110が脱線するおそれがある。このような遠心力CFによる姿勢変化は、車輪が用いられない磁気搬送装置9においても同様である。すなわち、ピン止めの効果に抗して遠心力によりレール90と磁気浮上用部材11の間隔が広がった場合には、レール90が生成した磁場の影響が磁気浮上用部材11に及ばなくなり、実質的に
図3の台車110が脱線した場合と同様の状況となる。脱線に至らない場合においても、上記のような傾斜によって台車110に搭載された積載物が落下しやすくなる。
【0023】
図1の構成において、カーブで台車10に対して遠心力が作用した場合、
図3に示されたように台車10に対して遠心力CFのみによって発生する力のモーメントMと、
図2で説明されたような、同じ遠心力による台車10が外側への移動時において磁気浮上用部材11に対する磁気的な効果によって発生する力のモーメントは、同一の向きとなる。このため、大きな遠心力が作用した場合、これらが合算されて台車10に作用する力のモーメントは特に大きくなり、台車10の姿勢変化が特に顕著となった場合には、上記のピン止め効果による台車10の束縛が困難になる。あるいは、傾斜が特に大きくなることにより、積載物が特に落下しやすい。
【0024】
すなわち、
図1の構成において、レール90がカーブした箇所を台車10が走行する際には、台車10の安定性は良好ではなく、脱線や積載物の落下が発生しやすくなった。
【0025】
遠心力の作用のみによって発生する
図3の状況は台車の構成(車輪を用いた方式、磁気浮上方式)によらずに常に発生する。これに対して、
図2に示されたような台車10(磁気浮上用部材11)のx方向での移動時において磁場との相互作用によって磁気浮上用部材11に働く力の状況は、磁場分布あるいはレールの磁気的構成によって変化する。この調整によって、重力と遠心力のみが作用する
図3の場合において働く力のモーメントMの向きと、台車10(磁気浮上用部材11)の移動時において磁場との相互作用によって磁気浮上用部材11に働く力のモーメントの向きを逆向きとすることができる。これによって、カーブにおける台車10に加わる力のモーメントを小さくしてその姿勢変化を小さくすることができる。
【0026】
以下に、このような状況を実現する磁気浮上搬送装置1におけるレール20の構成について説明する。
図4は、この磁気浮上搬送装置1の構成を模式的に示す進行方向に垂直な断面図であり、
図1(b)に対応する。ここでは、レール20と台車10(磁気浮上用部材11)が組み合わせて用いられ、台車10と磁気浮上用部材11については
図1と同様であり、台車10についての記載は省略されている。
【0027】
進行方向と垂直な断面である
図1(b)において、レール90の幅は磁気浮上用部材11と等しくされ、その範囲内でレール90は3分割された磁化領域(90A、90B、90C)で構成されたのに対し、
図4においては、レール20全体の幅は磁気浮上用部材11よりも広く設定され、磁気浮上用部材11の幅に対応した領域(主領域MR)においては、前記のレール90と同様に、z方向(主磁化方向)に沿って磁化された磁化領域(第1磁化領域)20A、20B、20Cが形成されている。ここで、磁化領域20A、20Cにおける磁化の方向は下向きであり、磁化領域20Bにおける磁化の方向は上向きとなっており、z方向に沿った磁場の向きがx方向(配列方向)では磁化領域毎に交互に変化する。図中における各磁化領域の幅は同一とされている。この点については前記のレール90と同様である。すなわち、この範囲内ではz方向に沿った磁化の向きがx方向に沿って交互に変化し、隣接する磁化領域間では磁化の向きが逆転している、
【0028】
ただし、このレール20においては、主領域MRの外側において、左側に磁化領域(第2磁化領域)20X、右側に磁化領域(第2磁化領域)20Yが形成されており、領域20Xにおける磁化の方向はこれに隣接する磁化領域20Aと逆向き(上向き)、領域20Yにおける磁化の向きは、これに隣接する磁化領域20Cと逆向き(上向き)とされている。すなわち、磁化領域20X、20Yを含めた場合でも、隣接する磁化領域間では磁化の向きが逆転している点は同様である。ただし、磁化領域20X、20Yの幅は領域20A等よりも広く設定されている。
【0029】
この場合において
図2と同様の計算を行った結果を
図5に示す。ここでもxの値(正負)毎に磁気浮上用部材11の中心、左側、右側の3箇所において作用する力が算出されている。対称性より、x=0付近では左側に働く力と右側に働く力は等しい。
【0030】
一方、
図5のx>0におけるb+で示された範囲では、右側に作用する力が左側に作用する力よりも大きくなる。この傾向は
図2におけるx>0におけるa+、a++とは逆となる。このため、これによって磁気浮上用部材11には反時計回りの力のモーメントが作用し、図示されるように磁気浮上用部材11を右側が持ち上がるように傾斜させる。また、
図5のx<0におけるb-の範囲では、左側に作用する力が右側に作用する力よりも大きくなる。この傾向は
図2におけるx<0におけるa-、a--とは逆となる。このため、これによって磁気浮上用部材11には時計回りの力のモーメントが作用し、図示されるように磁気浮上用部材11を左側が持ち上がるように傾斜させる。
【0031】
このように、
図4の構成のレール20を用いることによって、磁気浮上用部材11のx方向での移動に伴って磁気浮上用部材11に働く磁場に起因した力のモーメントを、
図1の構成の場合と逆、あるいは遠心力の作用によって磁気浮上用部材11に働く力のモーメントと逆、に設定することができる。このため、磁気浮上用部材11に働く磁場に起因した力のモーメントによって、遠心力による磁気浮上用部材11の姿勢変化を小さくすることができ、これによって台車10の脱線を防止することができる。
【0032】
なお、
図5において、xがx>0でb+の範囲よりも大きくなった場合には左側に作用する力と右側に作用する力の大小関係がb+の範囲とは逆転し、
図2におけるa+等と同様となり、xがx<0でb-の範囲よりも小さくなった場合も同様に
図2におけるb-等と同様となる。しかしながら、少なくともxの絶対値が小さなb+、b-の範囲では、上記のように遠心力による磁気浮上用部材11の姿勢変化を小さくすることができ、ピン止め効果による磁気浮上用部材11(車体10)を束縛する作用を維持することができるため、このようにxの絶対値が大きくなるような磁気浮上用部材11(車体10)の移動は抑制される。このため、上記のb+、b-の領域がx=0の近くに存在することによって、台車10の脱線を防止することができる。
【0033】
また、
図5に示された効果が
図3に示された遠心力CFによる効果を上回る場合には、カーブにおいて磁気浮上用部材11(台車10)は、
図5に示されたような、カーブにおける台車10の外側が持ち上がるような姿勢変化をする。こうした場合には、
図3に示された逆向きの姿勢変化と比べて、積載物の落下が発生しにくい。この観点からも、
図5に示された状況は好ましい。
【0034】
図4の構成において、磁気浮上用部材11の直下における磁化領域(第1磁化領域)20A、20B、20C(主領域MR)は
図1におけるレール90(磁化領域90A、90B、90C)と変わるところがなく、
図4におけるレール20の原点O近傍(磁気浮上用部材11直下)で形成される磁場分布は
図1におけるものと変わりがない。このため、磁化領域20A、20B、20Cによって形成される磁場によるピン止め効果によって磁気浮上用部材11を束縛することができることも同様である。
【0035】
上記のようにx方向に沿った移動に伴う磁気浮上用部材11の姿勢変化が
図1の構成の場合とは逆向きとなることは、外側の磁化領域(第2磁化領域)20X、20Yに起因する。このため、上記の構成において、磁化領域(第2磁化領域)20X、20Yのx方向における幅は磁化領域(第1磁化領域)20A~20Cの幅よりも広くされた。磁化領域(第2磁化領域)20X、20Yのx方向における幅が広い方が上記の効果が大きくなり、具体的には、磁化領域(第2磁化領域)20X、20Yの幅は磁化領域(第1磁化領域)20A~20Cの幅の1.3倍以上とすることが好ましい。
【0036】
このような作用をもつ第2磁化領域の構成として、
図4以外の構成の例について説明する。
図6(a)(b)は、このような例を
図4に対応させて示す。
【0037】
図6(a)に示された磁気浮上搬送装置2においては、レール30の主領域MRで磁化領域(第1磁化領域)30A~30Dが、主領域MRの左側には磁化領域(第2磁化領域30X)、右側には磁化領域(第2磁化領域30Y)が、隣接した磁化領域の間では磁化の向きが逆向きとなるように設けられる。また、前記のように、磁化領域30X、30Yの幅は主領域MR中の磁化領域(第1磁化領域)30A~30Dの幅よりも広く設定される。
【0038】
ただし、
図1の場合とは異なり、主領域MR中における磁化領域30Aの幅は隣接する磁化領域30Bの幅よりも広く設定され、磁化領域30Dの幅は磁化領域30Cの幅よりも広く設定される。このため、左から順に配列された磁化領域30X、30A、30B、30C、30D、30Yの各幅は、中心から外側に向かって徐々に広く設定されている。これにより、磁化領域(第2磁化領域)30X、30Yによる
図5に示された効果を特に大きくすることができる。
【0039】
図6(b)に示された磁気浮上搬送装置3において用いられレール40においては、全ての磁化領域(40A~40F、40X1~40X3、40Y1~40Y3)は同じ幅を有するように形成され、その磁化の向きのみが制御される。すなわち、主領域MRにおける磁化領域40A~40Fにおいては、隣接する2つの磁化領域の間では磁化の向きが逆向きとなるように設定される。また、主領域MRの左側の磁化領域40X1~40X3においては磁化の向きは同一(上向き)とされ、この向きは隣接する磁化領域40Aと逆である。すなわち、磁化領域40X1~40X3が結合した磁化領域(第2磁化領域)40Xが形成されることによって、前記の第2磁化領域20Xと同様の効果が得られる。主領域MRの右側においても同様であり、磁化領域40Y1~40Y3が結合した磁化領域(第2磁化領域)40Yが形成される。
【0040】
このような構成は、複数の磁化領域が設けられたレールにおいて、個々の磁化領域の磁化の向きの調整のみを行うことによって実現することができる。このため、例えば
図6(b)において仮に磁化領域40X1~40X3の磁化を下向き、磁化領域40Y1~40Y3の磁化を上向きとすれば、磁化領域40A~40Fに対応した領域を主領域、磁化領域40X1~40X3が連結した第2磁化領域40X、磁化領域40Y1~40Y3が連結した第2磁化領域40Yを形成することができる。このため、異なる大きさの磁気浮上用部材に対応させてレールを製造する際に、レールの素材として共通のものを用い、この磁化の状況のみを変えることによって各レールを製造することができる。このため、このレールを安価に製造することができる。
【0041】
また、上記のようにx方向に沿った磁場強度の変動を大きくすると共に、磁場強度を高めることができる構成として、x方向に沿って磁場の向きが徐々に回転するように、磁場が上向きの磁化領域と磁場が下向きの磁化領域の間に磁場が横向きの領域(補助磁化領域)を設けたハルバッハ配列が知られている。上記の構成は、このハルバッハ配列においても適用することができる。
図7(a)(b)は、ハルバッハ配列において上記の発明を適用した例である。
【0042】
図7(a)に示された磁気浮上搬送装置4においては、レール50の主領域MRで、磁化領域(第1磁化領域)50A~50Cが、主領域MRの左側には磁化領域(第2磁化領域)50X0、右側には磁化領域(第2磁化領域)50Y0が、共にz方向(主磁化方向)に沿って磁化されて設けられており、これらの磁化領域は、z方向に沿った磁化の向きがx方向(配列方向)に沿って交互に変化するように配列される。また、前記のように、磁化領域(第2磁化領域)50X0、50Y0の幅は主領域MR中の磁化領域(第1磁化領域)50A~50Cの幅よりも広く設定される。すなわち、前記のレール20、30、40における第1磁化領域と第2磁化領域との間の関係はこのレール50においても満たされている。
【0043】
ただし、ここではハルバッハ配列が用いられ、磁化領域50X0と磁化領域50Aの間、磁化領域50Aと磁化領域50Bの間、磁化領域50Bと磁化領域50Cの間、磁化領域50Cと磁化領域50Y0の間には、x方向に沿って磁化された補助磁化領域50S1、50S2、50S3、50S4が、それぞれ設けられている。補助磁化領域50S1、50S2、50S3、50S4における磁化の向きは、配列方向(x方向)に沿って磁化の向きが徐々に回転するように、それぞれ図中左向き、右向き、左向き、右向きとなるように設定されている。
【0044】
同様に、磁化領域50X0の外側(図中左側)には、右向きの磁化をもつ補助磁化領域50T1が、磁化領域50Y0の外側(図中右側)には、左向きの磁化をもつ補助磁化領域50T2が、それぞれ設けられている。これによって磁化領域50X0と補助磁化領域50T1が連結した実質的な第2磁化領域50X、磁化領域50Y0と補助磁化領域50T2が連結した実質的な第2磁化領域50Yを、それぞれ主領域MRの左右に形成することができる。
【0045】
この構造においては、x方向の全体にわたり、レール50をハルバッハ配列とすることができる。このため、レール50が形成する磁場強度を高めることができる。
【0046】
図7(b)に示された磁気浮上搬送装置5においては、レール60の主領域MRで、磁化領域(第1磁化領域)60A~60Cが、主領域MRの左側には磁化領域(第2磁化領域)60X0、右側には磁化領域(第2磁化領域)60Y0が、共にz方向(主磁化方向)に沿って磁化されて設けられており、これらの磁化領域は、z方向に沿った磁化の向きがx方向(配列方向)に沿って交互に変化するように配列される。また、前記のように、磁化領域(第2磁化領域)60X0、60Y0の幅は主領域MR中の磁化領域(第1磁化領域)60A~60Cの幅よりも広く設定される。すなわち、前記のレール20、30、40における第1磁化領域と第2磁化領域との間の関係はこのレール60においても満たされている。
【0047】
ここで用いられるハルバッハ配列においては、磁化領域60X0と磁化領域60Aの間、磁化領域60Aと磁化領域60Bの間、磁化領域60Bと磁化領域60Cの間、磁化領域60Cと磁化領域60Y0の間には、x方向及びz方向と交差する方向(斜め方向)に沿って磁化された補助磁化領域60S1及び補助磁化領域60S2、補助磁化領域60S3及び補助磁化領域60S4、補助磁化領域60S5及び補助磁化領域60S6、補助磁化領域60S7及び補助磁化領域60S8が、それぞれ設けられている。補助磁化領域60S1、60S2における磁化の向きは、配列方向(x方向)に沿って磁化の向きがx方向正側に向けて反時計回りに回転するように、それぞれ図中左上向き、左下向きとなるように設定されている。補助磁化領域60S3、60S4、60S5、60S6、60S7、60S8についても同様であり、これらの磁化の向きは、配列方向(x方向)に沿って磁化の向きがx方向正側に向けて反時計回りに回転するように設定されている。
【0048】
同様に、磁化領域60X0の外側(図中左側)には、右上向きの磁化をもつ補助磁化領域60T1が、磁化領域60Y0の外側(図中右側)には、左上向きの磁化をもつ補助磁化領域60T2が、それぞれ設けられている。これによって磁化領域60X0と補助磁化領域60T1が連結した実質的な第2磁化領域60X、磁化領域60Y0と補助磁化領域60T2が連結した実質的な第2磁化領域60Yを、それぞれ主領域MRの左右に形成することができる。この構造においても、x方向の全体にわたり、レール60をハルバッハ配列とすることができる。
【0049】
なお、上記の例では、x方向における主領域MRの幅は磁気浮上用部材11の幅と等しくされ、磁気浮上用部材11が原点Oにある場合においては、磁気浮上用部材11の端部と主領域MRの端部(第2磁化領域の内側の端部)がx方向で一致していた。しかしながら、これらが厳密に一致する必要はなく、例えば原点Oにおける磁気浮上用部材11の端部と主領域MRの端部(第2磁化領域の内側の端部)との間に、単一の第1磁化領域の幅以内のずれがあった場合でも、
図5と同様の作用が得られることは明らかである。すなわち、配列方向(x方向)において磁気浮上用部材の幅と主領域の幅(2つの第2磁化領域間の間隔)が等しい必要はない。
【0050】
また、上記の例では各磁化領域における磁化はz方向(鉛直方向)に沿っていたが、少なくともこの方向は配列方向(x方向)と交差し、前記と同様に磁化の向きがx方向に沿って交互に変化すればよい。また、各磁化領域における磁化の方向は厳密に一致する必要もない。
【0051】
また、上記の例では、y方向に沿って台車10を自在に移動させるために磁場はy方向に沿っては一様であるものとしたが、台車10の移動の制限を設ける場合等のために、y方向に沿っても目的に応じて適宜磁場分布を形成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1、2、3、4、5、9 磁気浮上搬送装置
10、110 台車(移動体)
11 磁気浮上用部材
20、30、40、50、60、90、130 レール
20A~20C、30A~30D、40A~40F、50A~50C、60A~60C 磁化領域(第1磁化領域)
20X、20Y、30X、30Y、40X、40Y、50X、50Y、50X0、50Y0、60X、60Y、60X0、60Y0 磁化領域(第2磁化領域)
50S1~50S4、50T1、50T2、60S1~60S8、60T1、60T2 補助磁化領域
90A~90C、40X1~40X3、40Y1~40Y3 磁化領域
120A、120B 車輪
CF 遠心力
G 重力
M 力のモーメント
MR 主領域