(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022532
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】なめこ容器詰め製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20230208BHJP
【FI】
A23L19/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127452
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】503090717
【氏名又は名称】天狗罐詰株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 光
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC06
4B016LG14
4B016LP05
4B016LP10
(57)【要約】
【課題】なめこから、なめこ本来の成分が失われることを抑制でき、なめこが含むうま味成分の量を増加させることができるなめこ容器詰め製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】容器、及び前記容器に詰められたなめこを含む処理対象を、60℃以上70℃以下の温度で保持する、なめこ容器詰め製品の製造方法。前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持した後、前記処理対象に対し加熱殺菌の処理を行うことが好ましい。前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持する時間は4分間以上であることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器、及び前記容器に詰められたなめこを含む処理対象を、60℃以上70℃以下の温度で保持する、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のなめこ容器詰め製品の製造方法であって、
前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持した後、前記処理対象に対し加熱殺菌の処理を行う、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のなめこ容器詰め製品の製造方法であって、
前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持する時間は4分間以上である、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のなめこ容器詰め製品の製造方法であって、
前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持するとき、前記容器の内部は脱気され、前記容器は密封されている、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、なめこ容器詰め製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
なめこ容器詰め製品とは、なめこと、なめこを収容する容器とを備える製品である。従来、なめこ容器詰め製品は、なめこを水洗いする処理、なめこをボイルする処理、なめこからヌメリを除去する処理等を含む製造方法により製造されていた。なめこをボイルする処理を含む製造方法は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の製造方法では、なめこから、なめこ本来の成分が失われ易かった。また、容器に詰められたなめこは、うま味成分を一層多く含むことが好ましい。本開示の1つの局面では、なめこから、なめこ本来の成分が失われることを抑制でき、なめこが含むうま味成分の量を増加させることができるなめこ容器詰め製品の製造方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面は、容器、及び前記容器に詰められたなめこを含む処理対象を、60℃以上70℃以下の温度で保持する、なめこ容器詰め製品の製造方法である。本開示の1つの局面であるなめこ容器詰め製品の製造方法によれば、なめこ本来の成分が失われることを抑制でき、なめこが含むうま味成分の量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施例2における処理対象の温度の推移を表すグラフである。
【
図2】実施例3における処理対象の温度の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.なめこ容器詰め製品の製造方法の構成
本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法では、処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持する。処理対象は、容器と、その容器に詰められたなめことを含む。
【0008】
容器として、酸素を透過し難い容器が好ましい。容器が酸素を透過し難い場合、なめこ容器詰め製品に含まれるなめこの品質が一層向上する。容器として、遮光性が高い容器が好ましい。容器の遮光性が高い場合、なめこ容器詰め製品に含まれるなめこの品質が一層向上する。後述する加熱殺菌の処理を行う場合、容器は、加熱殺菌の処理に耐えうる容器であることが好ましい。
【0009】
容器の材質として、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ONY(ナイロン)、LLDPE(ポリエチレン)等が挙げられる。容器として、例えば、多層構造の積層フィルムから成る容器がある。積層フィルムとして、例えば、PETの層と、ONYの層と、LLDPEの層とを積層した3層の積層フィルム(以下では、PET/ONY/LLDPE積層フィルムとする)が挙げられる。PET/ONY/LLDPE積層フィルムにおいて、ONYの層は、PETの層と、LLDPEの層とに挟まれている。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるPETの層の厚みは、例えば、12μmである。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるONYの層の厚みは、例えば、25μmである。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるLLDPEの層の厚みは、例えば、50μmである。
【0010】
処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持する時間(以下では保持時間とする)は4分間以上であることが好ましい。保持時間が4分間以上である場合、なめこ容器詰め製品に含まれるなめこにおける5’-グアニル酸二ナトリウム(以下グアニル酸とする)の含有量が一層多くなる。保持時間は6分間以上であることが一層好ましい。保持時間が6分間以上である場合、なめこ容器詰め製品に含まれるなめこにおけるグアニル酸の含有量が特に多くなる。処理対象の温度が60℃以上70℃以下の範囲にあるとき、処理対象の温度は時間の経過とともに上昇してもよいし、一定でもよい。
【0011】
本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法では、例えば、処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持した後、処理対象に対し加熱殺菌の処理を行う。加熱殺菌の処理を行った場合、なめこ容器詰め製品の保管及び流通が容易になる。
【0012】
加熱殺菌の処理は、120℃の温度で4分間以上加熱する処理、又は、F値が4以上になる処理であることが好ましい。F値は、加熱殺菌の効果を表す指標である。F値がNであることは、基準温度でN分間加熱する場合と同等の加熱殺菌の効果があることを意味する。Nは正の実数である。基準温度とは121.1℃である。加熱殺菌の処理が、F値が4以上である処理である場合、なめこ容器詰め製品を常温で保管したり、常温で流通させたりすることができる。
【0013】
処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持するとき、容器の内部は脱気され、容器は密封されていることが好ましい。この場合、酸素によってなめこの品質が劣化したり、なめこが退色したりすることを抑制できる。処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持するとき、なめこは、容器によって真空包装されていることが好ましい。この場合、酸素によってなめこの品質が劣化したり、なめこが退色したりすることを抑制できる。
【0014】
本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法では、原料として、ブランチングを行っていない生鮮なめこを使用することが好ましい。ブランチングにおいて、なめこが含む酵素が不活性化したり、食物繊維や有効なミネラル分がなめこから流出したりすることがあるためである。有効なミネラル分として、例えば、カリウム、ナイアシン等が挙げられる。
【0015】
2.なめこ容器詰め製品の製造方法が奏する効果
本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法によれば、容器に詰められたなめこは、なめこ本来の成分を失い難く、容器に詰められる前のなめこに比べてうま味成分を多く含む。その理由は以下のように推測される。
【0016】
うま味成分にはグアニル酸等が含まれる。グアニル酸とグルタミン酸とが混ざると、うま味が数十倍強くなる。なめこに含まれるグアニル酸の量は、グアニル酸の元であるリボ核酸、リボ核酸を分解してグアニル酸を生成する反応に関与する酵素(以下では生成酵素とする)、及びグアニル酸の分解に関与する酵素(以下では分解酵素とする)のバランスによって決まる。処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持するとき、生成酵素の活性は高くなり、分解酵素の大部分は分解される。そのため、処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持した後、容器に詰められたなめこは、うま味成分を多く含み、特にグアニル酸を多く含む。なお、なめこ本来の成分とは、未処理のなめこに含まれる成分である。
また、本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法によれば、容器に詰められたなめこは、ヌメリ成分を多く含む。ヌメリ成分は、例えば、食物繊維である。食物繊維は、水溶性食物繊維と、不溶性食物繊維とを含む。
さらに、本開示のなめこ容器詰め製品の製造方法によれば、容器に詰められたなめこは、なめこ本来のミネラル分を多く含む。ミネラル分は、例えば、カリウムやナイアシンである。
【0017】
3.実施例
(3-1)なめこ容器詰め製品の製造方法
(i)実施例1
生鮮なめこを用意した。後述する水洗い洗浄を実施するまで、生鮮なめこを冷凍庫で保管した。次に、栽培上付着しうる異物、夾雑物等を除去するために、生鮮なめこに対し、水洗い洗浄を行った。水洗い洗浄の強度は、異物、夾雑物等を除去できる範囲で最低限とした。
【0018】
次に、なめこを水切りしてから、一定量のなめこを袋に充填した。袋は、PET/ONY/LLDPE積層フィルムから成っていた。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるPETの層の厚みは12μmであった。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるONYの層の厚みは25μmであった。PET/ONY/LLDPE積層フィルムに含まれるLLDPEの層の厚みは50μmであった。袋は容器に対応する。PET/ONY/LLDPE積層フィルムは、後述する加熱殺菌の処理に耐えられる部材である。また、袋の内部に無線温度測定機を収容した。無線温度測定機はなめこの温度を測定する。
【0019】
次に、真空包装機を用い、袋の内部及びなめこの内部の空気を脱気し、袋を密封シールした。ここまでの工程により、袋と、その袋に詰められたなめことを含む処理対象が得られた。
次に、加熱装置を用い、処理対象を加熱する処理(以下では予備加熱処理とする)を行った。予備加熱処理のとき、処理対象を加熱装置の庫内に収容した。予備加熱処理のとき、加熱装置の庫内の温度は55℃であった。予備加熱処理の時間は13分間であった。
【0020】
予備加熱処理の終了後、すぐに、同じ加熱装置を用いて加熱殺菌の処理を行った。加熱殺菌の処理のとき、加熱装置の庫内の温度は118℃であった。加熱殺菌の処理の時間は33分間以上であった。
【0021】
加熱殺菌の処理の終了後、処理対象の温度が40℃以下になるように、処理対象を冷却した。以上の工程により、なめこ容器詰め製品が製造された。
無線温度測定機の測定値を用いて、予備加熱処理の開始時点から冷却の終了時点までの期間における処理対象の温度の推移を取得した。その温度の推移から保持時間を算出した。実施例1では、保持時間は4分間未満であった。
【0022】
(ii)実施例2~4
実施例2~4では、基本的には実施例1と同様にして、なめこ容器詰め製品を製造した。ただし、実施例2では、予備加熱処理のとき、加熱装置の庫内の温度は65℃であった。また、実施例3では、予備加熱処理のとき、加熱装置の庫内の温度は75℃であった。また、実施例4では、予備加熱処理のとき、加熱装置の庫内の温度は85℃であった。予備加熱処理の時間は全て13分間であった。
【0023】
実施例2では、保持時間は4分間であった。実施例3では、保持時間は11分間であった。実施例4では、保持時間は6分間であった。実施例2における処理対象の温度の推移を
図1に示す。実施例3における処理対象の温度の推移を
図2に示す。
【0024】
(iii)実施例5
実施例5では、基本的には実施例1と同様にして、なめこ容器詰め製品を製造した。ただし、実施例5では、予備加熱処理を行わなかった。すなわち、実施例5では、処理対象の製造後、すぐに、加熱殺菌の処理を行った。実施例5では、保持時間は4分間未満であった。
【0025】
(iv)比較例1
生鮮なめこを用意した。生鮮なめこを、袋にいれない状態で水に投入し、ボイルした。ボイルのとき、水温は90℃以上であった。ボイルの時間は10分間であった。
【0026】
次に、水晒しの工程により、なめこの表面のヌメリを除去した。次に、なめこを水切りしてから、一定量のなめこと水とを袋に充填した。次に、袋の内部をある程度脱気した状態で袋を密封した。
【0027】
次に、加熱殺菌の処理を行った。加熱殺菌の処理のとき、なめこの温度は120℃であった。加熱殺菌の処理の時間は50分間であった。以上の工程により、なめこ容器詰め製品が製造された。
【0028】
(3-2)うま味成分の含有量の測定
実施例1~5及び比較例1のそれぞれについて、高速クロマトグラフ法により、なめこに含まれるうま味成分の量を測定した。うまみ成分は、グアニル酸、アスパラギン酸、及びグルタミン酸であった。測定結果を表1に示す。うまみ成分の量の単位は、100gのなめこに含まれるうま味成分の質量(mg)である。
【0029】
【0030】
実施例1~5では、比較例1に比べて、なめこに含まれるうま味成分の量が多かった。実施例1~4では、実施例5に比べて、なめこに含まれるうま味成分の量が一層多かった。実施例2~4では、実施例1に比べて、なめこに含まれるうま味成分の量が一層多かった。
【0031】
(3-3)食物繊維総量の測定
実施例2~5、比較例1、及び生鮮なめこ原料のそれぞれについて、プロスキー変法により、食物繊維総量を測定した。生鮮なめこ原料とは、各実施例において原料として用いた生鮮なめこである。食物繊維総量とは、100gのなめこに含まれる食物繊維の質量である。食物繊維総量は、100gのなめこに含まれる水溶性食物繊維の質量と、100gのなめこに含まれる不溶性食物繊維の質量との和である。食物繊維総量の単位は、g/100gである。
測定結果を表1に示す。実施例2~5では、比較例1及び生鮮なめこ原料に比べて、食物繊維総量が多かった。
【0032】
(3-4)カリウムの含有量の測定
実施例2~4、比較例1、及び生鮮なめこ原料のそれぞれについて、誘導結合プラズマ発光分析法により、なめこに含まれるカリウムの量を測定した。測定結果を表1に示す。カリウムの量の単位は、100gのなめこに含まれるカリウムの質量(mg)である。実施例2~4では、比較例1に比べて、なめこに含まれるカリウムの量が多かった。
【0033】
(3-5)ナイアシンの含有量の測定
実施例2~4、比較例1、及び生鮮なめこ原料のそれぞれについて、ナイアシン定量用基礎培地法により、なめこに含まれるナイアシンの量を測定した。測定結果を表1に示す。ナイアシンの量の単位は、100gのなめこに含まれるナイアシンの質量(mg)である。実施例2~4では、比較例1に比べて、なめこに含まれるナイアシンの量が多かった。
【0034】
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0035】
(4-1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0036】
(4-2)上述したなめこ容器詰め製品の製造方法の他、なめこ容器詰め製品、なめこの処理方法、なめこ加工品等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器、及び前記容器に詰められたなめこを含む処理対象を、60℃以上70℃以下の温度で4分間以上保持し、
前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持するとき、前記容器の内部は脱気され、前記容器は密封されている、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のなめこ容器詰め製品の製造方法であって、
前記処理対象を60℃以上70℃以下の温度で保持した後、前記処理対象に対し加熱殺菌の処理を行う、
なめこ容器詰め製品の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
(3-3)食物繊維総量の測定
実施例2~4、比較例1、及び生鮮なめこ原料のそれぞれについて、プロスキー変法により、食物繊維総量を測定した。生鮮なめこ原料とは、各実施例において原料として用いた生鮮なめこである。食物繊維総量とは、100gのなめこに含まれる食物繊維の質量である。食物繊維総量は、100gのなめこに含まれる水溶性食物繊維の質量と、100gのなめこに含まれる不溶性食物繊維の質量との和である。食物繊維総量の単位は、g/100gである。
測定結果を表1に示す。実施例2~4では、比較例1及び生鮮なめこ原料に比べて、食物繊維総量が多かった。