(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022549
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】遮音板およびそれを用いた防音壁
(51)【国際特許分類】
E01F 8/00 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127479
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀田 善彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢之
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001AA01
2D001BA02
2D001BB01
2D001CA01
2D001CB01
2D001CC02
2D001CD03
(57)【要約】
【課題】支柱間に遮音板を設けた防音壁において、簡素な構造で、遮音性能を確保しつつ背面側の点検作業を正面側から容易に行えるようにする。
【解決手段】防音壁を構築する遮音板1に、支柱寄りの部位の下部で正面部から背面部へ貫通する簡素な構造の点検用貫通口16を設けて、防音壁の正面側から遮音板1の点検用貫通口16を通して背面側の支柱取付部に使用されているボルト等を容易に点検できるようにするとともに、その点検用貫通口16と吸音材14の収納空間とを壁部材19、20、21、22で区画し、点検用貫通口16を開閉する扉17を設けることにより、点検時以外の通常時における遮音性能が確保されるようにしたのである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸音孔があけられた正面部と、前記正面部と空間を隔てて対向する背面部と、前記正面部と背面部の間の空間に収納される吸音材とを備え、所定の間隔で立設される支柱の間に設けられて防音壁を構築する遮音板において、
前記防音壁を構築する際に支柱寄りとなる部位の下部に、前記正面部から背面部へ貫通する点検用貫通口が設けられており、その点検用貫通口が壁部材によって前記吸音材を収納する空間と区画されるとともに、前記点検用貫通口を開閉する扉が設けられていることを特徴とする遮音板。
【請求項2】
前記扉が前記背面部に対して摺動自在に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の遮音板。
【請求項3】
所定の間隔で立設される支柱の間に複数の遮音板を高さ方向に積み重ねて構築した防音壁において、請求項1または2に記載の遮音板が最下段に配置されていることを特徴とする防音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音板と、それを用いて構築され騒音源から発生する騒音を遮る防音壁に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路では、一般に、車両の走行によって発生する騒音の周辺地域への拡散を抑えるために、その騒音を遮る防音壁が設置されている。この防音壁としては、道路の路側部や中央分離帯等に所定の間隔で立設したH型鋼からなる支柱の間に、吸音材を収納し、正面側(道路側)に多数の吸音孔があけられた遮音板を高さ方向に積み重ねて構築したタイプのものが多く見られる。このような防音壁は、線路を走行する鉄道車両や工場等の騒音源から発生する騒音を遮るために設置されることもある。
【0003】
ところで、上記のタイプの防音壁では、通常、基礎の上面に載置されるベースプレートに支柱の下端部を溶接等で取り付け、そのベースプレートをアンカーボルトで基礎に固定して支柱を立設している。
【0004】
そして、防音壁が道路における橋や高架の道路等(高架橋)の路側部に設けられている場合、その支柱取付部に使用されているボルト等の点検を行う際に、正面側の点検作業の負荷は小さいが、道路外側となる背面側の点検はオーバーフェンス車等の高所作業車を用いて行わなければならず、作業負荷が大きいという問題がある。
【0005】
これに対し、特許文献1では、防音壁の点検作業の負荷を軽減するために、防音壁を構築する遮音板の背面部に開口を設けて、防音壁の正面側から背面側の支柱取付部に使用されているボルト等を点検できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1で提案されている防音壁では、遮音板の内側の空間全体に吸音材が正面側を露出させた状態で収納されているが、吸音材を遮音板の内側空間に内蔵して正面側を覆ったタイプの防音壁では、遮音板に設けた背面側点検用の開口が必要以上に大きいものや、開口の構造が複雑なものが多い。
【0008】
そこで、本発明は、支柱間に遮音板を設けた防音壁において、簡素な構造で、遮音性能を確保しつつ背面側の点検作業を正面側から容易に行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の遮音板は、複数の吸音孔があけられた正面部と、前記正面部と空間を隔てて対向する背面部と、前記正面部と背面部の間の空間に収納される吸音材とを備え、所定の間隔で立設される支柱の間に設けられて防音壁を構築する遮音板において、前記防音壁を構築する際に支柱寄りとなる部位の下部に、前記正面部から背面部へ貫通する点検用貫通口が設けられており、その点検用貫通口が壁部材によって前記吸音材を収納する空間と区画されるとともに、前記点検用貫通口を開閉する扉が設けられている構成を採用した。
【0010】
すなわち、防音壁を構築する遮音板に、支柱寄りの部位の下部で正面部から背面部へ貫通する簡素な構造の点検用貫通口を設けて、防音壁の正面側から遮音板の点検用貫通口を通して背面側の支柱取付部に使用されているボルト等を容易に点検できるようにするとともに、その点検用貫通口と吸音材の収納空間とを壁部材で区画し、点検用貫通口を開閉する扉を設けることにより、点検時以外の通常時における遮音性能が確保されるようにしたのである。
【0011】
上記構成の遮音板において、前記扉は、前記背面部に対して摺動自在に設けられているものとすることができる。
【0012】
また、本発明の防音壁は、所定の間隔で立設される支柱の間に複数の遮音板を高さ方向に積み重ねて構築した防音壁において、上記構成の遮音板が最下段に配置されているものである。したがって、最下段以外の遮音板に点検用貫通口のないものを用いて、設置コストや遮音性能が従来と大きく変わらない形態で、前述のように背面側のボルト等の点検作業を正面側から容易に行えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述したように、防音壁を構築する遮音板に正面部から背面部へ貫通する点検用貫通口を設けたので、背面側のボルト等を正面側から容易に点検できる。そして、その遮音板の点検用貫通口を壁部材によって吸音材収納空間と区画するとともに、点検用貫通口を開閉する扉を設けたので、遮音性能も確保することができる。また、その遮音板は、点検用貫通口の構造を簡素にできるので、製造しやすいものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】(a)、(b)は、それぞれ
図1のIIa-IIa線、IIb-IIb線に沿った断面図(2段目の遮音板は省略)
【
図7】
図4に対応して遮音板の扉の変形例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1、
図2(a)、(b)および
図3は、実施形態の遮音板1を用いた防音壁を示す。この防音壁は、基礎2の上面に所定の間隔でH型鋼からなる支柱3を立設し、その支柱3の間に複数の遮音板1,1’を高さ方向に積み重ねて構築している。その遮音板1,1’は、最下段に実施形態の遮音板1が配置され、その上に従来の遮音板1’が複数段積み重ねられており、それぞれの両側部を両側の支柱3のコの字断面内に嵌め込まれている。
【0016】
前記支柱3は、その下端部に溶接されたベースプレート4を基礎2の上面に載置し、そのベースプレート4を貫通するアンカーボルト5を基礎2に埋め込むことによって、ベースプレート4とともに基礎2上に固定されている。ベースプレート4の上面には、支柱3の下端部の正面側を支持する1対のリブ4aが設けられている。また、アンカーボルト5は正面側と背面側に2本ずつ配されており、その背面側の2本は頭部が遮音板1の背面部よりも内側に入り込む位置に配されている(
図2(b)参照)。
【0017】
この実施形態の遮音板1は、全体として横長の長方形状であり、
図4にも示すように、その正面部を形成する正面板11と、正面部と空間を隔てて対向する背面部を形成する背面板12と、左右両側面を形成する側面板13と、その正面板11と背面板12の間の空間に収納される厚板状の吸音材14とを備えている。その正面板11はアルミニウム合金板、背面板12はラミネート鋼板、側面板13はめっき鋼板でそれぞれ形成され、吸音材14はポリエステル繊維で形成されている。なお、背面板はめっき鋼板でもよく、吸音材はグラスウールでもよい。そして、この遮音板1には、防音壁を構築する際に両側の支柱3寄りとなる部位の下部に、正面部から背面部へ貫通する点検用貫通口16が設けられている。
【0018】
前記正面板11は、正面部の点検用貫通口16の開口を除く部分に、ルーバー状に多数の吸音孔11aがあけられている。また、上端には背面側へ折り曲げられた上板部11bが設けられている。
【0019】
前記背面板12は、正面板11と平行に配置されており、点検用貫通口16の開口と、背面側のアンカーボルト5との干渉を避けるための切欠き状の凹部12a(
図3参照)が2つずつ設けられている。その点検用貫通口16の開口は、後述するように背面板12に対してスライド(摺動)する扉17で開閉されるようになっている。また、その高さ方向の中央部分には、遮音板1の長手方向に延び、全体としての断面強度を向上させるための凹部12bが形成されている。
【0020】
背面板12の上端には、正面側へ折り曲げられて正面板11の上板部11bと重なった状態で連結される上板部12cが設けられており、下端には正面側へ折り曲げられて遮音板1の底側を塞ぐ底板部12dが設けられ、その底板部12dの正面側の下向き折曲部が遮音板1の正面部の下端部分を形成するものとなっている。また、底板部12dの下面側には、ベースプレート4に載置される部分を除いて、下向き折曲部の下端と基礎2の上面との隙間を塞ぐゴム製の止水シート18が設けられ、遮音板1の正面側から背面側へ雨水等が流れ出さないようになっている。
【0021】
そして、正面板11と背面板12と側面板13とが図示省略したリベットやスポット溶接で互いに連結されて一体化され、その内部空間(正面部と背面部の間の空間)のうち、点検用貫通口16以外の部分に吸音材14が収納されている。
【0022】
前記点検用貫通口16は、
図5および
図6に示すように、その上下と両側に配される壁部材(上部隔壁19、底部隔壁20および両側の側部隔壁21、22)によって吸音材14を収納する空間と区画されている。これにより、吸音材14の背後(吸音材14と背面板12との間)の空間が密閉され、所定の吸音性能を発揮することができる。
【0023】
また、上部隔壁19および底部隔壁20は、それぞれの背面側に、後述するように扉17を背面板12に対してスライド自在に案内するレール部19a、20aを有している。そのレール部19a、20aは、それぞれ断面クランク状に折り曲げられており、上部隔壁19および底部隔壁20の背面側端から遮音板1の長手方向中央側へ延び出している(
図3参照)。
【0024】
そして、上部隔壁19および底部隔壁20は、それぞれの正面側の折曲部19b、20bが正面板11の内壁に当接する状態で、レール部19a、20aが背面板12にリベット23で固定されており、両側部隔壁21、22は、それぞれの正面側の折曲部21a、22aが正面板11の内壁に当接する状態で、上下端の折曲部21b、22bがそれぞれ上部隔壁19および底部隔壁20にリベット23で固定されている。また、支柱3側の側部隔壁21は、背面側の折曲部21cが背面板12に図示省略したリベットで固定されている。
【0025】
前記扉17は、上下端に断面コの字状の折曲部17aを有する板状部材であり、内側面に把手24が設けられている。そして、その折曲部17aが上部隔壁19および底部隔壁20のレール部19a、20aと背面板12の開口縁部とで形成されるコの字断面に摺動自在に嵌まり込む状態で、遮音板1の長手方向にスライドして点検用貫通口16の背面側開口を開閉するようになっている。この扉17は、防音壁の点検時以外の通常時は閉じられており、背面側の点検時にのみ開けられる。
【0026】
一方、従来の遮音板1’は、上述した実施形態の遮音板1のベースとなるもので、実施形態の遮音板1のような点検用貫通口は設けられておらず、正面部と背面部の間の空間全体に実施形態の遮音板1と同じ材質の吸音材が収納されている。
【0027】
この防音壁は、上記の構成であり、最下段の遮音板1に、支柱3寄りの部位の下部で正面部から背面部へ貫通する点検用貫通口16を設けたので、その背面側の扉17を開くことにより、背面側のアンカーボルト5の状態も正面側から容易に点検することができる。
【0028】
また、点検用貫通口16と吸音材14の収納空間とが壁部材19、20、21、22で区画され、点検用貫通口16を開閉する扉17が設けられているうえ、点検用貫通口16自体が背面側の点検作業に必要な最小限の大きさで形成されるので、点検時以外の通常時における遮音性能や吸音性能が十分に確保される。
【0029】
そして、遮音板1は、点検用貫通口16が上下左右を区画されているので、その上方に吸音材14を安定して設置することができるし、点検用貫通口16の構造が簡素なため、製造しやすいものとなっている。
【0030】
上述した実施形態では、遮音板1の背面板12に対して摺動する扉17で点検用貫通口16を開閉するようにしたが、このような摺動タイプの扉に代えて揺動タイプの扉を用いることもできる。例えば、
図7に示す例では、上部隔壁19および底部隔壁20のレール部19a、20aをなくして、底部隔壁20の背面側の端部に断面L字状の取付部材25を設け、その取付部材25に平板状の扉26の一端部を垂直面内で揺動自在に取り付けている。この扉26は、通常時は、垂直に立ち上がった状態で他端部が適宜の手段により背面板12の開口の上縁部に固定されて閉じられており、点検時には、一端部を中心に正面側へ揺動して開けられるようになっている。なお、閉じられているときに正面側を向く面には把手27が設けられている。
【0031】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
例えば、点検用貫通口を開閉する扉は、実施形態では背面側に設けたが、正面側に設けて通常時の正面側からの外観が良くなるようにすることもできる。
【0033】
また、実施形態では点検用貫通口から背面側のアンカーボルトを点検できるようにしたが、背面側のその他の状態も点検用貫通口から容易に点検することができる。
【符号の説明】
【0034】
1、1’ 遮音板
2 基礎
3 支柱
4 ベースプレート
5 アンカーボルト
11 正面板
11a 吸音孔
12 背面板
13 側面板
14 吸音材
16 点検用貫通口
17、26 扉
19 上部隔壁(壁部材)
19a レール部
20 底部隔壁(壁部材)
20a レール部
21、22 側部隔壁(壁部材)
24、27 把手