(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022557
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20230208BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127492
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】児島 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 徹
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505BB06
5H505CC01
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505FF07
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA01
5H505HA05
5H505HA08
5H505HB02
5H505JJ24
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】電力変換器のPWM制御による多パルス駆動から1パルス駆動までの全運転範囲で、トルク制御の高精度化、制御安定性を向上させる。
【解決手段】電圧指令に基づくベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置として、交流電動機の直交する2つの回転座標軸であるd軸およびq軸の電流指令値を生成する電流指令演算部と、交流電動機電流を検出してd軸およびq軸の電流検出値に変換する電流検出部と、d軸およびq軸の電流指令値、d軸およびq軸の電流検出値および交流電動機の回転速度に基づいてd軸およびq軸の電圧指令を演算する電圧指令演算部とを備え、電圧指令演算部は、d軸電流指令値とd軸電流検出値とのd軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例制御にし、q軸電流指令値とq軸電流検出値とのq軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例および積分制御にして、d軸およびq軸の電圧指令を演算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧指令に基づくベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置であって、
前記交流電動機の直交する2つの回転座標軸であるd軸およびq軸それぞれの電流指令値を生成する電流指令演算部と、
前記交流電動機に流れる電流を検出して前記d軸および前記q軸それぞれの電流検出値に変換する電流検出手段と、
前記d軸および前記q軸それぞれの電流指令値、前記d軸および前記q軸それぞれの電流検出値および前記交流電動機の回転速度に基づいて、前記d軸および前記q軸それぞれの前記電圧指令を演算する電圧指令演算部と
を備え、
前記電圧指令演算部は、前記d軸の電流指令値と前記d軸の電流検出値とのd軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例制御にし、前記q軸の電流指令値と前記q軸の電流検出値とのq軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例および積分制御にして、前記d軸および前記q軸それぞれの前記電圧指令を演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記電圧指令演算部は、前記d軸の前記電圧指令を、前記d軸の電流指令値、前記d軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算し、前記q軸の前記電圧指令を、前記d軸の電流指令値、前記q軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記電圧指令演算部を第1の電圧指令演算部とし、当該第1の電圧指令演算部とは異なる第2の電圧指令演算部を更に備え、
前記第2の電圧指令演算部は、前記d軸電流偏差を用いるフィードバック制御および前記q軸電流偏差を用いるフィードバック制御を共に比例および積分制御にして、前記d軸および前記q軸それぞれの前記電圧指令を演算し、
前記第1の電圧指令演算部と前記第2の電圧指令演算部とを、前記交流電動機の回転速度、前記電力変換器の変調率、前記電力変換器が出力するPWM制御のパルス数および前記電力変換器に出力するゲート指令信号電圧更新周期の少なくともいずれか一つに応じて切り換えて使用する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記第2の電圧指令演算部は、前記d軸の前記電圧指令を、前記d軸電流偏差、前記d軸電流偏差の積分出力、前記q軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算し、前記q軸の前記電圧指令を、前記q軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力、前記d軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記d軸および前記q軸それぞれの前記電圧指令に基づいて、前記電力変換器を多パルス駆動から1パルス駆動にわたって運転する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置を搭載する鉄道車両。
【請求項7】
電力変換器により駆動される交流電動機を電圧指令に基づいてベクトル制御する交流電動機の駆動制御方法であって、
前記交流電動機の直交する2つの回転座標軸であるd軸およびq軸それぞれの電流指令値を生成し、
前記交流電動機に流れる電流を前記d軸および前記q軸それぞれの電流検出値に変換し、
前記電圧指令を前記d軸および前記q軸それぞれの電圧指令に分けて生成する方法として、
前記d軸の電流指令値と前記d軸の電流検出値とのd軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例制御により行い、
前記q軸の電流指令値と前記q軸の電流検出値とのq軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例および積分制御により行い、
前記d軸の電圧指令を、前記d軸の電流指令値、前記d軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力および前記交流電動機の回転速度に基づいて演算し、
前記q軸の電圧指令を、前記d軸の電流指令値、前記q軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記前記d軸および前記q軸それぞれの電圧指令に分けて生成する方法を第1の方法とし、当該第1の方法とは別に、
前記d軸電流偏差を用いるフィードバック制御および前記q軸電流偏差を用いるフィードバック制御を共に比例および積分制御により行い、
前記d軸の電圧指令を、前記d軸電流偏差、前記d軸電流偏差の積分出力、前記q軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算し、
前記q軸の電圧指令を、前記q軸電流偏差、前記q軸電流偏差の積分出力、前記d軸電流偏差の積分出力および前記回転速度に基づいて演算する
方法を第2の方法とし、
前記第1の方法と前記第2の方法とを、前記交流電動機の回転速度、前記電力変換器の変調率、前記電力変換器が出力するPWM制御のパルス数および前記電力変換器に出力するゲート指令信号電圧更新周期の少なくともいずれか一つに応じて切り換えて実行する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記電力変換器を多パルス駆動から1パルス駆動にわたって運転する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法に関し、電気鉄道車両、電気自動車、産業用インバータ、風力発電システムおよびディーゼル発電機システム等に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギー化や環境負荷低減の要求の高まりから、交流電動機の駆動制御装置は、家電製品、産業機器、インフラなど幅広い用途にその普及が進んでいる。
一般に交流電動機を可変速駆動するためには、直流電力を任意の周波数と電圧に変換するインバータ装置が用いられる。そのインバータ装置は、半導体スイッチング素子を用いた主回路と前記スイッチング素子を制御する制御器から構成され、例えば、前記スイッチング素子を任意のキャリア周波数でパルス幅変調制御(以下、「PWM制御」と称する)することにより、交流電動機への印加電圧および周波数を制御し、交流電動機の可変速駆動を行っている。
【0003】
交流電動機の駆動制御方法としては、交流電動機の主磁束方向に流れる電流とその主磁束方向に直交する方向に流れる電流がそれぞれ指令値と一致するように、比例・積分によるフィードバック制御することで交流電動機のトルクを制御する手法が知られている。
【0004】
しかしながら、インバータ装置で出力可能な最大電圧の大きさは、インバータ装置に接続される直流電源電圧の大きさによって制限される。そのため、交流電動機の高速回転時や直流電源電圧の低下時にインバータ装置の出力電圧が飽和した場合、交流電動機に流れる電流を指令値に一致させるために比例・積分によるフィードバック制御を行うと、フィードバック電流と指令値の偏差を積分し続けることになり、交流電動機の電流やトルクが振動、発散するなど制御系が不安定に陥りやすくなる。
【0005】
そこで、インバータ装置の出力電圧が飽和した場合は、インバータ出力電圧が最大となる方形波電圧を出力する電圧制御(同期1パルス制御)に交流電動機の制御方法を切り換える必要がある。上記した電流制御から電圧制御に切り換える手法として、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
特許文献1には、電力変換装置の出力電圧が飽和状態になった場合、電流制御の積分項を徐々に零に収束させて積分制御を停止させて、電流制御から電圧制御へ制御方法を切り換える技術、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の技術は、インバータ装置の直流電源電圧の低下等により電動機への印加電圧が飽和した場合に、回転座標系上のd軸およびq軸の積分項を徐々に零に収束させ、電流制御から電圧制御へ制御を滑らかに切り換えるものである。そのため、インバータ装置の出力電圧が飽和したか否かを判定し、その判定値に応じて電流制御と電圧制御を切り換える必要がある。
【0009】
しかし、インバータ装置の出力電圧が飽和した高速域での交流電動機の制御において、インバータ装置に接続される直流電源電圧が変動した場合、その制御方法の切り換え動作が頻繁に行われることになり、制御応答の遅れやトルク、電流の切り換えショックの原因になる恐れがある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記の課題に鑑み、インバータ出力電圧の飽和状態に応じて制御方式を切り換える必要がなく、かつベクトル制御の制御安定性を向上する交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の交流電動機の駆動制御装置の一つは、電圧指令に基づくベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置であって、交流電動機の直交する2つの回転座標軸であるd軸およびq軸それぞれの電流指令値を生成する電流指令演算部と、交流電動機に流れる電流を検出してd軸およびq軸それぞれの電流検出値に変換する電流検出手段と、d軸およびq軸それぞれの電流指令値、d軸およびq軸それぞれの電流検出値および交流電動機の回転速度に基づいて、d軸およびq軸それぞれの電圧指令を演算する電圧指令演算部とを備え、電圧指令演算部は、d軸の電流指令値とd軸の電流検出値とのd軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例制御にし、q軸の電流指令値とq軸の電流検出値とのq軸電流偏差を用いるフィードバック制御を比例および積分制御にして、d軸およびq軸それぞれの電圧指令を演算するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータ装置の直流電源電圧変動時の制御方式の切換え処理による制御応答の遅延や、電流、トルクの振動の発生を回避し、PWM制御による多パルス駆動から同期1パルス駆動まで適用可能で、安定かつ応答性の高い電動機駆動制御の実現が可能になる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図2】本発明による交流電動機の駆動制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。
【
図3】実施例1に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図4】実施例1に係る電圧ベクトル演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図5】実施例1に係るdc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図6】実施例1に係るqc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図8】実施例2に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図9】実施例2に係る第一の電圧ベクトル演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図10】実施例2に係る第二の電圧ベクトル演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図11】実施例2に係る第二のdc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図12】実施例2に係る第二のqc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図13】本発明の実施例3に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図14】実施例3に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図15】本発明の実施例4に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図16】実施例4に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図17】本発明の実施例5に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図18】実施例5に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図19】本発明の実施例6に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
【
図20】実施例6に係るベクトル制御部の構成例を表すブロック図である。
【
図21】実施例6に係る電圧ベクトル演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図22】実施例6に係るdc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図23】実施例6に係るqc軸電圧指令演算部の構成例を表すブロック図である。
【
図24】本発明の実施例7として、実施例1から6のいずれかを用いた交流電動機の駆動制御装置を搭載する鉄道車両の一部の概略構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として、実施例1~7について詳細に説明する。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、重複した説明を省略する。以下で説明する実施例および変形例は、矛盾しない範囲で、その一部または全部を組み合わせてもよい。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図1では、制御対象である交流電動機103、交流電動機103を駆動する電力変換器102、電力変換器102を制御する制御器101、交流電動機103のトルク指令Tm*を発生する指令発生器105、交流電動機103に流れる電流を検出する相電流検出部121および交流電動機103の回転速度を検出する回転速度検出部124、を備える。
【0016】
交流電動機103は、電力変換器102から出力される交流電力により制御される電動機である。なお、本発明の各実施例では、交流電動機の一種として、誘導電動機を例に発明内容を説明するが、この電動機に限定されるものではなく、本発明は他のすべての交流電動機に適用可能である。また、本発明の各実施例では交流電動機を例にしているが、交流発電機を制御対象としても交流電動機の場合と同様の効果が得られる。
【0017】
電力変換器102は、電力変換器102に直流電力を供給する入力端子123aと123b、6個のスイッチング素子Sup~Swnで構成される主回路部132、主回路部132を直接駆動するゲート・ドライバ133、電力変換器102の過電流保護用に取り付けた直流抵抗器134および平滑用コンデンサ131、を備える。また、電力変換器102は、入力端子123a、123bから供給される直流電力を、制御器101が生成したゲート指令信号に基づいて交流電力に変換し、変換した交流電力を交流電動機103に供給する。
【0018】
相電流検出部121は、電力変換器102から交流電動機103に流れる交流電流iuおよびiwを検出する。この相電流検出部121は、例えばホール素子を用いた電流センサにより実現される。なお、
図1に示す相電流検出部121は、2相検出による交流電流検出の構成としているが、3相検出としてもよい。また、相電流センサを用いず、電力変換器102の過電流保護用に取り付けられた直流抵抗器134を流れる電流値から推定される交流電流値を用いてもよい。
【0019】
回転速度検出部124は、交流電動機103の回転速度ωrmを検出する。この回転速度検出部124は、例えばエンコーダなどにより実現される。また、検出された交流電動機103の回転速度ωrmから速度演算部115にて交流電動機103の回転速度の電気角周波数ωreを算出し、更にベクトル制御部112にてベクトル制御のインバータ周波数ω1を算出する。
【0020】
なお、永久磁石同期電動機など回転子位置を検出する必要がある場合には、回転速度検出部124の代わりに、例えばレゾルバやエンコーダ、磁気センサなどを用いて回転子位置を検出し、その回転子位置に基づいて交流電動機の回転速度を算出すればよい。
【0021】
更には、回転位置センサや速度センサを用いず、電圧指令値や電流検出値などに基づいて、交流電動機103の回転速度ωrや回転子位置θdを推定したものを用いて、速度センサレスや位置センサレスとする構成としてもよい。
【0022】
指令発生器105は、制御器101の上位に位置する制御器で、交流電動機へのトルク指令Tm*を発生する。
【0023】
制御器101は、指令発生器105からのトルク指令Tm*に基づき、交流電動機103の発生トルクを制御する。この制御器としては、例えば、交流電動機103に流れる電流を制御する場合には電流制御器が、あるいは、回転速度や位置を制御する場合には速度制御器や位置制御器が、用いられる。実施例1では、トルクの制御を行うことを目的とするトルク制御器として動作しているが、上位の制御器として速度制御器や位置制御器を用いた構成としてもよい。
【0024】
制御器101の構成としては、電流指令演算部111、ベクトル制御部112、電流検出部113、dq座標変換部114、速度演算部115、位相演算部116、極座標変換部117、UVW座標変換部118およびPWM信号制御器119、を備える。
【0025】
また、制御器101は、交流電動機103を流れる交流電流iuおよびiwの検出値である交流電流検出値IuおよびIw、回転速度検出部124からの交流電動機103の回転速度ωrmおよび指令発生器105からのトルク指令Tm*に基づいた電流制御系と位相制御系の演算結果から、電力変換器102のスイッチング素子を駆動するためのゲート指令信号を生成し、電力変換器102のゲート・ドライバ133に供給する。
【0026】
図2は、本発明による交流電動機103の駆動制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。ここで、交流電動機103としては、上述のとおり、誘導電動機を例に説明する。
図2では、a軸とb軸で定義されるab軸座標系は、誘導電動機の固定子巻線の位相を表す固定子座標系である。a軸は、一般的に誘導電動機のu相巻線位相が基準にとられる。
【0027】
d軸とq軸で定義されるdq軸座標系は、誘導電動機の回転子に励磁される磁束方向を表す回転子座標系である。
dc軸とqc軸で定義されるdc-qc軸座標系は、制御器101がd軸およびq軸方向と想定している座標系であり、制御軸とも呼ばれる。
なお、各座標系において組み合わされる座標軸同士は、いずれも互いに直交している。
上記の各座標系において、
図2に示すように、a軸を基準としたd軸およびdc軸の各軸の位相を、θdおよびθdcとそれぞれ表す。また、d軸に対するdc軸の偏差をΔθcと表す。
【0028】
以下、
図1に示す制御器101の構成について詳しく説明する。
電流指令演算部111は、ベクトル制御部112から出力されるインバータ周波数ω1、平滑用コンデンサ131の電圧検出値Ecfおよび指令発生器105から出力されるトルク指令Tm*に基づいて演算されたdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*を出力する。ここで、電流指令値Idc*およびIqc*の演算は、例えば、トルク指令Tm*、電圧検出値Ecfおよびインバータ周波数ω1に対して最適なd軸およびq軸の電流指令値を予め試験や解析から求めた値を参照テーブルや、関数式、近似式、設計式または理論式として用いて求めればよい。
【0029】
ベクトル制御部112は、dq座標変換部114が出力したdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcと、電流指令演算部111が出力したdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*とを一致させるべく、トルク電流成分(q軸電流成分)と励磁電流成分(d軸電流成分)とに分離してそれぞれ電流制御を行う。この電流制御の結果と、誘導電動機103aの回転速度ωreとに基づいて、回転座標系であるdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*が演算され、出力される。
【0030】
電流検出部113は、相電流検出部121が検出した誘導電動機103aに流れる交流電流iuおよびiwから三相電流検出値Iu、IvおよびIwを演算し、dq座標変換部114に出力する。
【0031】
dq座標変換部114は、電流検出部113が出力した三相電流検出値Iu、IvおよびIwを、ベクトル制御部112が出力したベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて位相演算部116が出力した制御位相θdcを用い、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcに変換して出力する。
【0032】
速度演算部115は、回転速度検出部124が出力した誘導電動機103aの回転速度ωrmに基づいて、誘導電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreを演算して出力する。
【0033】
位相演算部116は、ベクトル制御部112が出力したベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて、制御位相θdcを演算して出力する。
【0034】
極座標変換部117は、ベクトル制御部112が出力したdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*に基づいて、電圧振幅指令V1*および電圧位相指令δに変換して出力する。
【0035】
UVW座標変換部118は、極座標変換部117が出力した電圧振幅指令V1*、電圧位相指令δおよび位相演算部116が出力した制御位相θdcに基づいて、三相交流電圧指令Vu*、Vv*およびVw*に変換してPWM信号制御器119に出力する。
【0036】
PWM信号制御器119は、任意のキャリア周波数fcと平滑用コンデンサ131の電圧検出値Ecfとに基づいて、三角波キャリアを生成し、その三角波キャリアと三相交流電圧指令Vu*、Vv*およびVw*とに基づく変調波との大小比較を行い、パルス幅変調を実施する。このパルス幅変調の演算結果にて生成されたゲート指令信号によって、電力変換器102のスイッチング素子をオン/オフ制御する。
【0037】
次に、実施例1の特徴部分であるベクトル制御部112について詳しく説明する。
図3は、実施例1に係るベクトル制御部112の構成例を表すブロック図である。
図3に示すベクトル制御部112は、電圧ベクトル演算部201およびインバータ周波数演算部202を備える。また、ベクトル制御部112は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*とIqc*、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcとIqcおよび誘導電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreを入力として、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*とVqc*およびベクトル制御のインバータ周波数ω1を出力する。
【0038】
インバータ周波数演算部202は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*とIqc*および誘導電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreに基づいて、ベクトル制御のインバータ周波数ω1を演算して出力する。
【0039】
インバータ周波数演算部202において、ベクトル制御のためのインバータ周波数ω1は、誘導電動機を制御対象とした場合、誘導電動機の回転速度の電気角周波数ωreに、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*に基づいて算出したすべり周波数ωsを加算したものとする。
【0040】
なお、実施例1では、交流電動機103を、誘導電動機を例として説明したため、誘導電動機の回転速度の電気角周波数ωreにすべり周波数ωsを加算してインバータ周波数ω1とした。他に、例えば交流電動機103を永久磁石同期電動機とした場合は、すべり周波数ωsを演算せず、電気角周波数ωreをベクトル制御のインバータ周波数ω1とすればよい。
【0041】
図4は、実施例1に係る電圧ベクトル演算部201の構成例を表すブロック図である。
図4に示す電圧ベクトル演算部201は、d軸電流偏差演算部301、q軸電流偏差演算部302、q軸積分器303、dc軸電圧指令演算部401およびおよびqc軸電圧指令演算部402、を備える。
【0042】
また、電圧ベクトル演算部201は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*とIqc*、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcとIqcおよびベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*を演算して出力する。
【0043】
d軸電流偏差演算部301は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*からdc-qc軸座標系上の電流検出値Idcを減算し、dc軸電流偏差量ΔIdcとして出力する。
【0044】
q軸電流偏差演算部302は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Iqc*からdc-qc軸座標系上の電流検出値Iqcを減算し、qc軸電流偏差量ΔIqcとして出力する。
【0045】
q軸積分器303は、q軸電流偏差演算部302が出力したqc軸電流偏差量ΔIqcを積分処理し、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iとして出力する。
【0046】
dc軸電圧指令演算部401は、電流指令演算部111が出力したdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*、d軸電流偏差演算部301が出力したdc軸電流偏差量ΔIdc、q軸積分器303が出力したqc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数演算部202が出力したインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*を演算して出力する。
【0047】
qc軸電圧指令演算部402は、電流指令演算部111が出力したdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*、q軸電流偏差演算部302が出力したqc軸電流偏差量ΔIqc、q軸積分器303が出力したqc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数演算部202が出力したインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vqc*演算して出力する。
【0048】
図5は、実施例1に係るdc軸電圧指令演算部401の構成例を表すブロック図である。
図5に示すdc軸電圧指令演算部401は、比例器501、502並びに503、加算器801、減算器802および乗算器901を備える。また、dc軸電圧指令演算部401は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*、dc軸電流偏差量ΔIdc、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*を演算して出力する。
【0049】
dc軸電圧指令演算部401において、比例器501でdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*に比例ゲインKrを乗算し、比例器502でdc軸電流偏差量ΔIdcに比例ゲインKpdを乗算し、加算器801で両者を加算する。また、比例器503および乗算器901により、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iに比例ゲインKqdとインバータ周波数ω1を乗算する。その上で、これらを減算器802で減算したものを、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*とする。例えば、以下の式(1)にて演算される。
【数1】
【0050】
ここで、dc軸電圧指令演算部401の比例ゲインKr、KpdおよびKqdは、誘導電動機を制御対象とした場合、例えば、以下の式(2)にて演算されるものとする。
【数2】
ここで、式(2)において、R1*は、誘導電動機の一次抵抗の制御設定値、Lσ*は、誘導電動機の一次換算漏れインダクタンスの制御設定値、ωacr*は、電流制御の制御応答角周波数である。なお、dc軸電圧指令演算部401の比例ゲインKr、KpdおよびKqdは、定数でもよいし、電流指令値、電流検出値、速度およびベクトル演算周期などの関数式として演算したものを用いてもよい。
【0051】
図6は、実施例1に係るqc軸電圧指令演算部402の構成例を表すブロック図である。
図6に示すqc軸電圧指令演算部402は、比例器504、505、506並びに507、加算器801および乗算器901を備える。また、qc軸電圧指令演算部402は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*、qc軸電流偏差量ΔIqc、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vqc*を演算して出力する。
【0052】
qc軸電圧指令演算部402において、比例器504でdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*に比例ゲインKdqを、続いて乗算器901でインバータ周波数ω1を乗算する。比例器505でqc軸電流偏差量ΔIqcに比例ゲインKpqを乗算し、比例器506でqc軸電流偏差積分値ΔIqc-iに比例ゲインKiqを乗算し、加算器801で両者を加算する。更に、これらを加算器801で加算した上で、比例器507でインバータ周波数ω1に比例ゲインKfを乗算したものと、加算器801で加算したものを、dc-qc軸上の電圧指令Vqc*とする。例えば、以下の式(3)にて演算される。
【数3】
【0053】
ここで、qc軸電圧指令演算部402の比例ゲインKpq、Kiq、KdqおよびKfは、誘導電動機を制御対象とした場合、例えば、以下の式(4)にて演算されるものとする。
【数4】
ここで、式(4)において、R1*は、誘導電動機の一次抵抗の制御設定値、Lσ*は、誘導電動機の一次換算漏れインダクタンスの制御設定値、ωacr*は、電流制御の制御応答角周波数、M*は、誘導電動機の相互インダクタンスの制御設定値、L2*は、誘導電動機の二次自己インダクタンスの制御設定値、Φ2d*は、誘導電動機の二次磁束指令値である。
【0054】
なお、Φ2d*は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*に相互インダクタンスの制御設定値M*を乗算し、誘導電動機の二次時定数T2相当をフィルタ時定数とする一次遅れフィルタを通過させたものとする。
【0055】
また、qc軸電圧指令演算部402の比例ゲインKpq、Kiq、KdqおよびKfは、定数でもよいし、電流指令値、電流検出値、速度およびベクトル演算周期などの関数式として演算したものを用いてもよい。
【0056】
次に、本発明の特徴であるベクトル制御部112を用いて交流電動機を駆動制御した場合の安定化原理について、詳しく説明する。
まず、ベクトル制御部112によるdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*の演算において、dc軸の電流制御に積分器を用いない構成とすることで、インバータ出力電圧の飽和の有無によらず同一の制御方式を使用できるようになる。すなわち、インバータ装置の多パルス駆動から電圧利用率が最大となる同期1パルス駆動を含む全速度域で利用可能となるベクトル制御方式であり、電流制御の積分演算を停止させて電圧制御に切り換えるなどの処理が不要になる。そのため、直流電源電圧変動時の制御方式の切換え処理による制御応答の遅延や、電圧、電流、トルクのばたつきを防止することができる。
【0057】
また、ベクトル制御部112によるdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*の演算において、dc軸電流のフィードバック制御を比例制御、qc軸電流のフィードバック制御を比例および積分制御(以下、「比例・積分制御」と略す)にして、dc軸とqc軸とで非対称な制御構成としている。ここで、qc軸の電流制御の積分器出力を用いてdc軸の電圧指令Vdc*のdq軸干渉項の電圧を補償している。その結果、インバータ出力電圧が飽和した場合でも、qc軸の電流制御を介してdc軸の電圧指令Vdc*を制御することになるため、dc軸の電流制御に積分器を用いない構成でも、十分に誘導電動機のトルクを制御することができる。
【0058】
更に、ベクトル制御部112によるdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*の演算において、dc軸の電流制御に積分器を用いない構成とすることで、dc軸の電流制御として比例・積分によるフィードバック制御を行うよりも、高速・回生(電動機トルクが負)時の安定性が改善される。これについては、以下に詳しく説明する。
【0059】
式(5)に、誘導電動機を含むdc軸の電圧指令Vdc*演算に関係する伝達ループの一巡伝達関数Gvdを示す。
【数5】
ここで、式(5)において、Rσは、誘導電動機の二次抵抗を一次側に換算した一次換算抵抗値、Lσは、誘導電動機の一次換算漏れインダクタンス値、T2は、誘導電動機の二次時定数である。
【0060】
このdc軸の電圧指令Vdc*の演算に関係する伝達関数は、すべり周波数が負となる回生時に、誘導電動機の二次磁束を安定化する制御ループとして機能する。dc軸電流のフィードバック制御を比例制御のみにすることで、電流制御の制御応答角周波数ωacr*が低い場合でも、この伝達ループの直流ゲインが1/(Rσ+Kpd)倍されて上がるため、dc軸電流のフィードバック制御を比例・積分制御の構成にするよりも高速・回生時の安定性が改善される。したがって、電気鉄道車両や風力発電システムなど電流制御の制御応答が高くない用途において、インバータ制御システムの安定化を図るのに有効な方式となる。
【0061】
以上説明したように、実施例1によれば、電流指令値Idc*、dc軸電流偏差量ΔIdc、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*を演算するdc軸電圧指令演算手段と、電流指令値Idc*、dc軸電流偏差量ΔIqc、qc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の電圧指令Vqc*演算するqc軸電圧指令演算手段とを用いることで、インバータ装置の直流電源電圧変動時の制御方式の切換え処理による制御応答の遅延や、電圧、電流、トルクのばたつきを防止し、交流電動機の駆動制御装置の制御安定性の向上が可能となる。
これにより、特に低速域で、電流指令に高精度に追従することが可能となり、また、インバータ装置の出力電圧の飽和の有無に拘わらず、任意の交流電動機の回転速度に応じてdc軸電流のフィードバック制御の積分演算の停止または開始ができるようになる。よって、実施例1よりも、低速域での電流制御の精度向上や高応答化、高速域での制御安定性の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
ベクトル制御部112bは、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*とIqc*、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcとIqcおよび誘導電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreを入力とする。
インバータ周波数演算部202は、実施例1と同様に、電流指令値Idc*とIqc*および誘導電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreに基づいて、ベクトル制御のインバータ周波数ω1を演算する。
第一の電圧ベクトル演算部201bは、電流指令値Idc*とIqc*、電流検出値IdcとIqcおよびインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の第一の電圧指令Vdc1*およびVqc1*を演算する、
第二の電圧ベクトル演算部203bは、第一の電圧ベクトル演算部201bと同様の入力に基づいて、dc-qc軸上の第二の電圧指令Vdc2*およびVqc2*を演算する。
dc軸電圧指令切換器601bは、インバータ周波数ω1に基づいて、第一の電圧ベクトル演算部201bが出力した第一の電圧指令Vdc1*と、第二の電圧ベクトル演算部203bが出力した第二の電圧指令Vdc2*とを切り換えて、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*として出力する。
ここで、dc軸電圧指令切換器601bは、例えば、インバータ周波数ω1が交流電動機の最大回転速度の1/3(閾値)以下であれば、第二の電圧ベクトル演算部203bが出力した第二の電圧指令Vdc2*をdc-qc軸上の電圧指令Vdc*として出力し、インバータ周波数ω1が交流電動機の最大回転速度の1/3(閾値)より大きければ、第一の電圧ベクトル演算部201bが出力した第一の電圧指令Vdc1*をdc-qc軸上の電圧指令Vdc*として出力すればよい。
qc軸電圧指令切換器602bは、インバータ周波数ω1に基づいて、第一の電圧ベクトル演算部201bが出力した第一の電圧指令Vqc1*と、第二の電圧ベクトル演算部203bが出力した第二の電圧指令Vqc2*を切り換えて、dc-qc軸上の電圧指令Vqc*として出力する。
ここで、qc軸電圧指令切換器602bは、例えば、インバータ周波数ω1が交流電動機の最大回転速度の1/3(閾値)以下であれば、第二の電圧ベクトル演算部203bが出力した第二の電圧指令Vqc2*をdc-qc軸上の電圧指令Vqc*として出力し、インバータ周波数ω1が交流電動機の最大回転速度の1/3(閾値)より大きければ、第一の電圧ベクトル演算部201bが出力した第一の電圧指令Vqc1*をdc-qc軸上の電圧指令Vqc*として出力すればよい。
第二の電圧ベクトル演算部203bは、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*とIqc*、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcとIqcおよびベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の第二の電圧指令Vdc2*およびVqc2*を演算して出力する。
d軸電流偏差演算部304bは、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*からdc-qc軸座標系上の電流検出値Idcを減算し、dc軸電流偏差量ΔIdcとして出力する。
q軸電流偏差演算部305bは、dc-qc軸座標系上の電流指令値Iqc*からdc-qc軸座標系上の電流検出値Iqcを減算し、qc軸電流偏差量ΔIqcとして出力する。
第二のdc軸電圧指令演算部403bは、d軸電流偏差演算部304bが出力したdc軸電流偏差量ΔIdc、d軸積分器306bが出力したdc軸電流偏差積分値ΔIdc-i、q軸積分器307bが出力したqc軸電流偏差積分値ΔIqc-iおよびベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の第二の電圧指令Vdc2*を演算して出力する。
第二のqc軸電圧指令演算部404bは、q軸電流偏差演算部305bが出力したqc軸電流偏差量ΔIqc、q軸積分器307bが出力したqc軸電流偏差積分値ΔIqc-i、d軸積分器306bが出力したdc軸電流偏差積分値ΔIdc-iおよびベクトル制御のインバータ周波数ω1に基づいて、dc-qc軸上の第二の電圧指令Vqc2*を演算して出力する。
なお、第二のdc軸電圧指令演算部403bの比例ゲインKpd2、Kid2およびKqd2は、定数でもよいし、電流指令値、電流検出値、速度およびベクトル演算周期などの関数式として演算したものを用いてもよい。
また、第二のdc軸電圧指令演算部403bの比例ゲインKpd2、Kid2およびKqd2の演算において、電流制御の制御応答角周波数ωacr*は、第一の電圧ベクトル演算部201bの比例ゲインKpdおよびKqdの演算における電流制御の制御応答角周波数ωacr*と異なる設定値を用いてもよい。
なお、Φ2d*は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*に相互インダクタンスの制御設定値M*を乗算し、誘導電動機の二次時定数T2相当をフィルタ時定数とする一次遅れフィルタを通過させたものとする。
また、qc軸電圧指令演算部402の比例ゲインKpq2、Kiq2、Kdq2およびKf2は、定数でもよいし、電流指令値、電流検出値、速度およびベクトル演算周期などの関数式として演算したものを用いてもよい。
更に、第二のqc軸電圧指令演算部404bの比例ゲインKpq2、Kiq2およびKdq2の演算において、電流制御の制御応答角周波数ωacr*は、第一の電圧ベクトル演算部201bの比例ゲインKpqおよびKiqの演算における電流制御の制御応答角周波数ωacr*と異なる設定値を用いてもよい。
・交流電動機の停止・低速回転時は、dc軸およびqc軸ともに電流のフィードバック制御を比例・積分制御の構成とし、互いに電流制御の積分器出力を用いてdq軸干渉項の電圧を保証する構成とする。
これにより、モータ定数と制御設定値との誤差を補償し、電流制御の高精度化や高応答化を図ることができる。