(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022578
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】漆布および漆紙
(51)【国際特許分類】
B32B 9/02 20060101AFI20230208BHJP
A45C 1/02 20060101ALI20230208BHJP
A45C 3/00 20060101ALI20230208BHJP
A45C 5/00 20060101ALI20230208BHJP
A45C 7/00 20060101ALI20230208BHJP
A45C 11/34 20060101ALI20230208BHJP
A45B 13/00 20060101ALI20230208BHJP
A45B 27/00 20060101ALI20230208BHJP
A43B 1/06 20060101ALI20230208BHJP
A43B 3/10 20060101ALI20230208BHJP
A47G 23/00 20060101ALI20230208BHJP
B42D 1/00 20060101ALI20230208BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B32B9/02
A45C1/02 Z
A45C3/00 Z
A45C5/00 Z
A45C7/00 Z
A45C11/34 Z
A45B13/00
A45B27/00 A
A45B27/00 B
A43B1/06
A43B3/10 Z
A47G23/00 B
B42D1/00 Z
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127518
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】521342474
【氏名又は名称】木元 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】木元 秀一
【テーマコード(参考)】
3B045
3B104
3B115
3E086
4F050
4F100
【Fターム(参考)】
3B045FC08
3B045FC10
3B104FA01
3B104ZB00
3B104ZC00
3B115DA29
3E086AB01
3E086AD02
3E086AD13
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA24
3E086BB35
3E086BB71
3E086BB81
3E086CA33
3E086DA08
4F050AA22
4F050LA09
4F100AJ02C
4F100AJ11B
4F100AK52B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG10A
4F100DG11A
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100GB71
(57)【要約】
【課題】柔軟性ないし可塑性が保持された新たな漆布および漆紙、またはそれを含む製品を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明として、例えば、布または紙の表面に漆が塗布されてなる漆布または漆紙であって、当該布または紙の層と漆の層とが蝋、パラフィン、またはシリコーンの層を介して積層されていることを特徴とする漆布または漆紙を挙げることができる。
本発明に係る漆布または漆紙、およびそれを含む製品は、当該製品そのものまたはその内容物、例えば、公文書、写真、美術品、電化製品などを保護するのに有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布または紙の表面に漆が塗布されてなる漆布または漆紙であって、当該布または紙の層と漆の層とが蝋、パラフィン、またはシリコーンの層を介して積層されていることを特徴とする、漆布または漆紙。
【請求項2】
請求項1の漆布または漆紙を含む、製品。
【請求項3】
製品が、カバン、バッグ、ポーチ、帽子、衣服、手袋、靴、スリッパ、財布、風呂敷、ホルダー、カード入れ、テーブルクロス、マット、カーテン、レース、エプロン、筆箱、もしくはペンケース;または封筒、はがき、便箋、一筆箋、カード、色紙、ファイル、バインダー、ノート、メモ帳、手帳、日記帳、書籍、雑誌、新聞、広告紙、ブックカバー、包装紙、箱、カレンダー、アルバム、フォトフレーム、扇子、うちわ、和傘、もしくは簡易式雨具である、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
公文書、写真、美術品、または電化製品を保護するための、請求項1に記載の漆布もしくは漆紙、または請求項2もしくは3に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆素材の技術分野に属する。本発明は、漆が塗布された布および紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
漆は、ウルシ科ウルシ属の落葉高木であるウルシ(学名:Toxicodendron vernicifluum)から採取された樹液であって、天然樹脂塗料または接着剤として利用されている。
漆は一旦硬化すると、酸・アルカリ、アルコールや油に強くなり、また、腐敗防止や防虫効果などもあることから、これらの効果を期待して食器や家具などに適用されている。和紙のような紙に対しても、古くから適用されており、漆を塗ることで強度を付与したり、独特の風合いを持った和紙に改質したりされてきた。和紙に漆を塗る方法としては、例えば、刷毛塗りや漆を含ませた布で拭き塗りする方法、漆を和紙表面に直接吹きつけるスプレー法などが知られている。
【0003】
また、特許文献1には、和紙の優れた風合いを損ねることなく、所望する絵図や文様などを鮮明に浮き上がらせ、装飾材や壁紙など広範な分野に活用できる漆和紙が開示されている。かかる漆和紙は、和紙の表面に、所望する絵図や文様を印刷してなる印刷面を有し、かつ該印刷面の上に漆処理してなる漆層を有しているところに特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
漆は、例えば、防腐、防水、防虫、帯電防止などに優れる。このような優れた効果を有する漆を布や紙などに適用すると、漆の硬化により当該布や紙も硬くなり、柔軟性ないし可塑性が乏しくなる。そうすると、漆の効果が得られても、布や紙にとって必ずしも好ましくない場合がある。
本発明は、柔軟性ないし可塑性が保持された新たな漆布および漆紙、またはそれを含む製品を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、布または紙といった基材の上に漆を適用するに先立ち、布または紙の上に蝋、パラフィンなどをまず適用し、その後漆を適用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]布または紙の表面に漆が塗布されてなる漆布または漆紙であって、当該布または紙の層と漆の層とが蝋、パラフィン、またはシリコーンの層を介して積層されていることを特徴とする、漆布または漆紙。
[2]上記[1]の漆布または漆紙を含む、製品。
[3]製品が、カバン、バッグ、ポーチ、帽子、衣服、手袋、靴、スリッパ、財布、風呂敷、ホルダー、カード入れ、テーブルクロス、マット、カーテン、レース、エプロン、筆箱、もしくはペンケース;または封筒、はがき、便箋、一筆箋、カード、色紙、ファイル、バインダー、ノート、メモ帳、手帳、日記帳、書籍、雑誌、新聞、広告紙、ブックカバー、包装紙、箱、カレンダー、アルバム、フォトフレーム、扇子、うちわ、和傘、もしくは簡易式雨具である、上記[2]に記載の製品。
[4]公文書、写真、美術品、または電化製品を保護するための、上記[1]に記載の漆布もしくは漆紙、または上記[2]もしくは[3]に記載の製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、防腐、防水、防虫、帯電防止といった効果を有する漆が塗布された漆布または漆紙や、当該漆布または漆紙を含む製品を提供することができる。また、本発明に係る漆布または漆紙に内包された物を、菌、カビ、虫、水、帯電などから保護することができる。
さらに、本発明に係る漆布および漆紙は、後述の試験結果から明らかな通り、摩耗や屈曲に強いことから、丈夫であり、長時間の使用に耐えうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る漆布または漆紙の積層構造を示す部分断面図である。左図は、布または紙の片方の面に漆の層を有する場合、右図は、布または紙の両方の面に漆の層を有する場合を、それぞれ示す。
【
図2】屈曲試験の結果を示す写真である。左写真(a)は、たて方向に6万回繰り返し屈曲した後の試験片の表面状態を、右写真(b)は、よこ方向に同様に繰り返し屈曲した後の試験片の表面状態を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
1 本発明に係る漆布または漆紙について
本発明に係る漆布または漆紙(以下、「本発明漆布紙」という。また、本発明に係る漆布を「本発明漆布」ともいい、本発明に係る漆紙を「本発明漆紙」ともいう。)は、布または紙の表面に漆が塗布されてなる漆布または漆紙であって、当該布または紙の層と漆の層とが蝋、パラフィン、またはシリコーン(以下、これらを「中間素材」ともいう。)の層を介して積層されていることを特徴とする。
【0011】
本発明漆布紙に係る「漆」は、ウルシオール、ラッコール、チチオールなどを主成分とする漆樹から採取された樹液ないし天然樹脂であって、食器や家具、道具、楽器などに塗料や接着剤として使用されるものであれば特に制限されない。この中、ウルシオールを主成分とする漆が好ましい。また、当該漆は、生漆であっても、精製漆(透漆)や黒漆、色漆、油分(例えば、天然の乾性油やロジン、松脂)を加えた漆などであってもよい。当該漆は、酸化鉄、ベンガラ、石黄、藍、酸化チタンなどの顔料ないし着色剤などの添加物を含んでいてもよい。また、当該漆は、ラックカイガラムシを原料とするラックであってもよい。
【0012】
本発明漆布紙に係る「布」は、織物に限らず、繊維質のものであれば特に制限されない。例えば、麻(リネン、ラミー、ヘンプ、ジュート等)、(木)綿、葛などの植物繊維;絹、羊毛(ウール)、アルパカ、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤなどの動物繊維;レーヨン、キュプラ、ポリノジック、再生ポリエステルなどの再生繊維;アセテート、トリアセテート、プロミックスなどの半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの合成繊維;またはガラス繊維、金属繊維などの無機繊維を原糸として織られたものや、不織布、フェルト、メリヤス、レースを挙げることができる。この中、(木)綿、麻、葛などの植物繊維で織られた布が好ましく、綿、麻で織られた布がより好ましい。また、ここでいう「布」には、綿糸や麻糸等の「糸」(原糸そのもの)も含まれる。
【0013】
本発明漆布紙に係る「紙」は、洋紙であっても、和紙であってもよい。機能紙、一般紙も挙げることができる。洋紙としては、例えば、上質紙、中質紙、塗工紙、アート紙、コート紙、軽量コート紙、インディアペーパー、色上質紙、ファンシーペーパー、新聞巻取紙を挙げることができる。また、印刷用紙(上級、中級、下級)、包装用紙(未晒、晒)、加工原紙、段ボール原紙等の板紙なども挙げることができる。和紙としては、例えば、麻、コウゾ(楮)、ミツマタ(三椏)、ガンピ(雁皮)、マユミ(檀)、クジン(苦参)、フキ、マニラ麻、クワ(桑)などの天然植物繊維からなる紙を挙げることができる。手漉きで抄造したものでも、機械漉きでロール上に巻き取ったものでもよい。
【0014】
本発明漆布紙に係る中間素材は、天然由来のものでも、合成されたものでも、加工・変性されたものでもよい。具体的には、天然由来の蝋として、例えば、蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋、イボタ蝋、羊毛蝋などの動物由来の蝋;カルナバ蝋、木蝋、米糠蝋、サトウキビ蝋、パーム蝋、カンデリラ蝋、ハゼ蝋、ウルシ蝋などの植物由来の蝋;パラフィン蝋、マイクロクリスタリン蝋などの石油由来の蝋;モンタン蝋、オゾケライトなどの鉱物由来の蝋を、合成された蝋として、例えば、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、油脂系合成ワックス、水素化ワックスなどを、加工・変性された蝋として、例えば、酸化ワックス、配合ワックス、変性モンタンワックスなどを挙げることができる。この中、動植物由来の蝋やパラフィンが好ましく、中でも、蜜蝋、カルナバ蝋、パラフィンがより好ましい。
【0015】
本発明漆布紙を含む製品としては、布または紙を用いて製造されるものであれば特に制限されず、布または紙で作製された、または布または紙を含む、生活用品、家庭用品、日用品、文房具、事務用品が挙げられる。具体的には、布製品としては、例えば、カバン、バッグ、ポーチ、帽子、衣服、手袋、靴、スリッパ、財布、風呂敷、ホルダー、カード入れ、テーブルクロス、マット、カーテン、レース、エプロン、筆箱、ペンケースを挙げることができる。紙製品としては、例えば、封筒、はがき、便箋、一筆箋、カード、色紙、ファイル、バインダー、ノート、メモ帳、手帳、日記帳、書籍、雑誌、新聞、広告紙、ブックカバー、包装紙、箱、カレンダー、アルバム、フォトフレーム、扇子、うちわ、和傘、簡易式雨具を挙げることができる。
【0016】
本発明漆布紙および本発明漆布紙を含む製品は、漆の層の上に、当該漆層を保護するなどの目的で、更に適当な樹脂層を有することができる。かかる樹脂層の樹脂は、天然樹脂でも、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂でもよい。
【0017】
2 本発明漆布紙および本発明漆布紙を含む製品の製造方法
本発明漆布紙は、例えば、次のような工程を経て製造することができる。
まず、漆を適用するための所望の布素材(布片)または紙素材(紙片)を用意する。用意した布素材または紙素材の片面ないし両面の中、後で漆を適用する部分に、中間素材を適量塗布する。かかる塗布は、常法により行うことができ、例えば、刷毛塗り、スプレー塗布、静電塗布、ロール塗り、シルクスクリーンといった塗布方法を挙げることができる。
【0018】
次に、中間素材を塗布した部分に、上から漆を適量塗布し、積層する。かかる漆の塗布も上記中間素材の場合と同様にして行うことができる。そして、漆を乾燥させることにより、布または紙の片面または両面に中間素材の層が積層され、その上に漆の層が積層された本発明漆布紙(片)を製造することができる(
図1参照)。
【0019】
本発明漆布紙を含む製品の製造は、まず、上記のようにして本発明漆布紙の布片または紙片をまず製造し、その後所望の製品に加工して製造することができる。また、まず漆を適用したい所望の製品(完成品)を用意し、当該製品において、後で漆を適用する部分に、中間素材を適量塗布し、次に、中間素材を塗布した部分に、上から漆を適量塗布し積層し、乾燥することにより、本発明漆布紙を含む製品を製造することもできる。
【0020】
なお、漆の層は、必要に応じて、適当な樹脂などで常法によりコーティングないし積層される。
【0021】
3 本発明漆布紙の特徴
本発明漆布紙は、布および紙のしなやかさを保持しながら、防腐、防水、防虫、帯電防止といった漆の効果を併せ持つ。それ故、対象物を本発明漆布紙で包み込むことができ、その対象物を菌やカビ、虫、水、帯電などから保護することができる。
本発明漆布紙を含む製品(例えば、カバン、バッグ、封筒、はがきなど)は、当該製品としての柔軟性や機能を保持しながら、当該製品やその製品に包含される物は、菌やカビ、虫、水、帯電などから保護される。
【0022】
従って、本発明漆布紙および本発明漆布紙を含む製品は、当該製品そのものまたはその内容物、例えば、公文書、写真、美術品、電化製品(パソコン、カメラ、スマートフォン等)を保護するのに適する。
【実施例0023】
以下に実施例を掲げて本発明を説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
約10cm四方の普通紙の両面に、蜜蝋を刷毛で塗布し、その片面の上に赤色の色漆を刷毛で塗布し、もう一方の面の上に浅葱色の色漆を刷毛で塗布し、乾燥して、本発明漆紙を調製した。
【0025】
[実施例2]
洋形6号の封筒の全面に、パラフィンを刷毛で塗布し、その上に赤色の色漆を刷毛で塗布し、乾燥して、本発明漆紙からなる封筒を調製した。
【0026】
[実施例3]
約30cm四方の綿布の両面に、パラフィンを刷毛で塗布し、その上に赤色の色漆を刷毛で塗布し、乾燥して、本発明漆布を調製した。
【0027】
[試験例1]
実施例3で調製した本発明漆布について、その各種性能を試験した。試験項目と試験条件は、表1に示す通りである。
【0028】
【0029】
当該試験結果を表2と
図2に示す。
図2は、耐屈曲性試験において、6万回繰り返し屈曲した後の試験片の表面状態を、デジタルマイクロスコープで撮影した写真である。左写真図(a)は、たて方向に屈曲した場合の結果を、右写真図は、よこ方向に屈曲した場合の結果を、それぞれ表す。
【0030】
【0031】
試験に供した本発明漆布紙は、摩耗試験において、3万回以上の摩擦に耐えるものであり、また、6万回に及ぶ縦横の屈曲にも耐え、屈曲前と殆ど変わらなかった。これら試験結果から、本発明漆布紙は、優れた撥水性、防湿性、耐久性などを有することが明らかである。