(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022591
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】インクライン装置
(51)【国際特許分類】
B66C 9/14 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
B66C9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127539
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】上田 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 大介
(72)【発明者】
【氏名】金子 真治
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 善英
【テーマコード(参考)】
3F203
【Fターム(参考)】
3F203AA10
3F203BA01
3F203CC04
3F203DA10
3F203EC11
(57)【要約】
【課題】作業空間が狭められることがなく、十分な作業性が確保されるインクライン装置を提供する。
【解決手段】傾斜面に敷設されたレール部材13上にこれに沿って傾斜方向へ移動可能に配設された作業台車2と、レール部材13の長手方向へ所定の間隔で複数設けられた係止部131と、一端が作業台車2に結合され、他端が係止部131の一つに着脱可能に係止されて、その伸長ないし収縮に伴って作業台車2をレール部材13に沿って移動させる駆動シリンダ部材24とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面に敷設されたレール部材上にこれに沿って傾斜方向へ移動可能に配設された作業台車と、前記レール部材の長手方向へ所定の間隔で複数設けられた係止部と、一端が前記作業台車に結合され、他端が前記係止部の一つに着脱可能に係止されて、その伸長ないし収縮に伴って前記作業台車を前記レール部材に沿って移動させる駆動シリンダ部材とを備えるインクライン装置。
【請求項2】
前記作業台車より下方の前記レール部材上にこれに沿って傾斜方向へ移動可能に搬送台車を配設し、前記作業台車にはその幅方向左右位置にそれぞれシーブを設けるとともに前記作業台車の幅方向中央を支点に揺動可能なバランスアームを設け、巻上げ装置から至った一対のワイヤロープが前記作業台車の左右の前記各シーブにそれぞれ懸架された後、前記搬送台車に設けたシーブを経由して前記作業台車に戻されて、当該ワイヤロープが懸架された前記シーブとは幅方向左右の反対側に位置する、前記バランスアームの端部にそれぞれ結合されている請求項1に記載のインクライン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクライン装置に関し、特に水力発電所の水圧鉄管の取替作業等に好適に使用できるインクライン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクライン装置は、台面が水平になるように底面を傾斜させた作業台車を斜面に沿って移動可能に設けて、作業台車上に設置したクレーン等によって斜面上に構造物を構築する等の用途に使用されている。この場合の作業台車の移動駆動は例えば特許文献1に示されるように、斜面上に設けたラック軌道に作業台車側のピニオンを噛合させるものや、特許文献2に示されるように滑車掛けしたワイヤロープの一端を作業台車に結合して、ワイヤロープをウインチで巻き上げて作業台車を斜面上で移動させるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-36693
【特許文献2】特開平11-158842
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水圧鉄管の取替作業等でその直上に作業台車を配置するような構造では、当該作業台車の駆動を従来のようなラック・ピニオンやワイヤロープを使用して行うと、ラックフレームやワイヤロープによって作業台車上に設けたクレーン等の作業空間が狭められる結果、作業性が損なわれるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、作業空間が狭められることがなく、十分な作業性が確保されるインクライン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、傾斜面に敷設されたレール部材(13)上にこれに沿って傾斜方向へ移動可能に配設された作業台車(2)と、前記レール部材(13)の長手方向へ所定の間隔で複数設けられた係止部(131)と、一端が前記作業台車(2)に結合され、他端が前記係止部(131)の一つに着脱可能に係止されて、その伸長ないし収縮に伴って前記作業台車(2)を前記レール部材(13)に沿って移動させる駆動シリンダ部材(24)とを備える。
【0007】
本第1発明によれば、駆動シリンダ部材の他端を係止部の一つに係止し、当該駆動シリンダ部材の伸長ないし収縮を行うことによって作業台車を移動させることができる。したがって、従来のようにラックフレームやワイヤロープによって作業台車上に設けたクレーン等の作業空間が狭められることがないため、作業性が良好に保たれる。また、作業台車の移動の間、および移動後も駆動シリンダ部材が係止部に係止されているから、重量物の吊り下げ作業等をする場合にも作業台車を確実に位置決めすることができる。
【0008】
本第2発明では、前記作業台車(2)より下方の前記レール部材(13)上にこれに沿って傾斜方向へ移動可能に搬送台車(3)を配設し、前記作業台車(2)にはその幅方向左右位置にそれぞれシーブ(41,42)を設けるとともに前記作業台車(2)の幅方向中央を支点(471)に揺動可能なバランスアーム(47)を設け、巻上げ装置(5)から至った一対のワイヤロープ(51,52)が前記作業台車(2)の左右の前記各シーブ(41,42)にそれぞれ懸架された後、前記搬送台車(3)に設けたシーブ(43,44)を経由して前記作業台車(2)に戻されて、当該ワイヤロープ(51,52)が懸架された前記シーブ(41,42)とは幅方向左右の反対側に位置する、前記バランスアーム(47)の端部(472,473)にそれぞれ結合されている。
【0009】
本第2発明によれば、一対のワイヤロープの巻き上げ装置による繰り出し時あるいは巻き上げ時に両ワイヤロープの繰り出し量や巻き上げ量が不平衡になった場合にも、その分バランスアームが傾くだけで、その支点は作業台車の幅方向中央に位置しているから当該作業台車に捩れ力が作用することがない。
【0010】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明のインクライン装置によれば、作業空間が狭められることがなく、十分な作業性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】作業台車の前端部の拡大図で、
図1のA部の拡大図である。
【
図6】作業台車と搬送台車の連結構造を示す平面図である。
【
図9】制御盤やセンサ等の配置を示すインクライン装置の部分側面図で、作業台車と搬送台車が離間した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本実施形態では、インクライン装置を水力発電所の水圧鉄管の取替作業に使用した場合について説明する。
図1はインクライン装置の全体側面図であり、
図2はその全体平面図である。傾斜する三本の水圧鉄管P1~P3の間の隙間に同高の左右の脚部11,12を位置させ(
図3参照)、中央の水圧鉄管P2上で両脚部11,12が連結された架台1が設置されており、左右の脚部11,12上にそれぞれ、水圧鉄管P1~P3に沿って傾斜して長手方向へ延びるレール部材13が設けられている。
【0015】
インクライン装置は台上にジブクレーン21を載設した作業台車2と、その下方に位置し、台上に所定長さに切り離された水圧鉄管P4等を載置して搬送する搬送台車3を備えている。作業台車2は側面視で略直角三角形をなす(
図1)とともに平面視は略四角形をなし(
図2)、傾斜する底梁22に設けた車輪23を介してレール部材13上に載置されている(
図3)。そして、略水平の台上に、
図1に示すように、腕(ジブ)211を側方へ長く伸ばしたジブクレーン21が搭載されている。旋回するジブ211の先端に設けた吊り具212(
図1)によって所定長さの水圧鉄管P4等を吊り上げ移動させることができる。
【0016】
ここで、
図4には作業台車2の前端部(
図1のA部)の拡大図を示す。
図4において、作業台車2の前端両側(一方のみ示す)には駆動シリンダ部材としての油圧シリンダ24の基端が上下方向へ回動可能に結合されている。油圧シリンダ24のロッド241の先端は、レール部材13に長手方向へ一定間隔で多数設けた係止部としての係止穴131に、手動又は自動で挿入着脱可能なピン242によって結合されている。
【0017】
油圧シリンダ24のロッド241を伸長させてこの状態でロッド先端を適当な係止穴131にピン結合し、その後、ロッド241を収縮させることによって作業台車2全体を引き寄せて斜め上方へ移動させることができる。ピン結合の解消、ロッド241の伸長、再度のピン結合、ロッド241の収縮の行程を繰り返すことによって作業台車2をレール部材13に沿って尺取り的に斜め上方へ移動させることができる。なお、ピン結合の解消、ロッド241の収縮、再度のピン結合、ロッド241の伸長の行程を繰り返すことで、作業台車2をレール部材13に沿って尺取り的に斜め下方へ移動させることもできる。
【0018】
図4において、一対の前側車輪23を保持するステー231の後端には上下方向へ回動可能にアーム状の逸走防止部材25が結合されている。逸走防止部材25の先端には下方の架台1に向けて三角形の係止爪251が形成されており、一方、逸走防止部材25の先端背後には、作業台車2の底梁22に設けた操作シリンダ252のロッド先端が結合されて、ロッドを伸長させることによって逸走防止部材25が下方へ回動させられて(
図4の鎖線の状態から実線の状態)その係止爪251が架台1の一部に係合して作業台車2の逸走(下落)が防止される。
【0019】
作業台車2の前端にはジャッキ部材26の一端が結合してあり、ジャッキ部材26の先端を適当な係止穴131にピン結合しておくことによっても作業台車2の逸走を防止することができる。前述した油圧シリンダ24のロッド241先端のピン結合を解消する場合には、逸走防止部材25の先端係止爪251を係合状態にし、併せてジャッキ部材26の先端を係止穴131にピン結合して、作業台車2の逸走(落下)を確実に防止しておく。なお、ジャッキ部材26は必ずしも設ける必要はない。
【0020】
搬送台車3は作業台車2と同じく側面視で略直角三角形をなすとともに(
図1)平面視は略四角形をなし(
図2)、傾斜する底梁31に設けた車輪32を介してレール部材13上に載置されている(
図5)。搬送台車3の略水平の台上には所定長さに切り離された水圧鉄管P4等を載置することができる。このような搬送台車3には、作業台車2に設けたのと同様のアーム状逸走防止部材33が前側車輪32を保持するステーの後端に設けられ(
図9参照)、併せて底梁31の中間位置には、レール部材13に沿って設置されたプレートを両側から挟むような非常用ブレーキ34が設けられている(
図9、
図5参照)。
【0021】
このような搬送台車3は、作業台車2の底梁22下面に台車幅方向の左右位置に設けた一対のシーブ41,42(
図2)と、搬送台車3の底梁31前端に台車幅方向の左右位置に設けた一対のシーブ43,44との間に架け渡した一対のワイヤロープ51,52によって作業台車2に、これに対して遠近移動可能に連結されている。その連結構造を
図6で詳述する。
【0022】
作業台車2の一対のシーブ41,42は台車幅方向の中央線?1に対して左右対称位置にそれぞれ設けられており、これらシーブ41,42の間に、平面視で二等辺三角形のバランスアーム47が設けられている。バランスアーム47はその中央の支点471を中心に作業台車2の底梁22(
図1)に沿った面内で揺動可能であり、上記支点471は中央線?1上に位置している。搬送台車3の一対のシーブ43,44は台車幅方向の中央線?2に対して左右対称位置で上記シーブ41,42よりも内側にそれぞれ設けられており、中央線?2は上記中央線?1と一致している。ここで、シーブ43,44は、互いに独立に回転可能な同径の滑車体を上下(
図6の紙面垂直方向)に重ねて構成されている。
【0023】
詳細を後述する巻上げ装置としてのウインチ5(
図7参照)から至った一対のワイヤロープ51,52がそれぞれガイド511,521を経て左右のレール部材13に平行に作業台車2へ延び、それぞれシーブ41,42に懸架された後、それぞれ搬送台車3の方向へ折り返す。搬送台車3へ折り返された一方のワイヤロープ51は左右のシーブ43,44の上側滑車体に掛け渡されて再び作業台車2方向へ戻り、当該ワイヤロープ51が懸架されたシーブ41とは幅方向左右の反対側に位置する、バランスアーム47の一端部472に荷重センサ45を介して結合されている。また、搬送台車3へ折り返された他方のワイヤロープ52は左右のシーブ43,44の下側滑車体(図示せず)に掛け渡されて再び作業台車2の方向へ戻り、当該ワイヤロープ52が懸架されたシーブ42とは幅方向左右の反対側に位置する、バランスアーム47の他端部473に荷重センサ46を介して結合されている。
【0024】
図7にはウインチ5を一方から見た斜視図を示し、
図8にはこれを他方から見た斜視図を示す。ウインチ5には前後一対の同径のドラム53,54が設けられており、上記一対のワイヤロープ51,52はそれぞれ各ドラム53,54に逆向きに巻かれて引き出されている。両ドラム53,54は各一端に固定されたフランジギア531,541が互いに噛合しており、一方のドラム54の回転軸が減速機55を介して駆動モータ56に連結されている。駆動モータ56によってドラム54を正転(
図7の矢印)させるとドラム53は逆転して、各ドラム53,54からワイヤロープ51,5が同量繰り出される。駆動モータ56でドラム54を逆転、ドラム53を正転させるとワイヤロープ51,52はいずれも同量巻き上げられる。ドラム54には非常用の油圧ブレーキ57が付設されている。なお、なお、両ドラム53,54のフランジギア531,541の間にさらにギアを噛ませれば、両ドラム53,54を同方向へ回転させることが可能である。
【0025】
図6において、一対のワイヤロープ51,52が繰り出されると、搬送台車3はその自重で傾斜するレール部材13に沿って作業台車2から離間するように下降する。反対にワイヤロープ51,52が巻き上げられると、搬送台車3はその自重に抗して傾斜するレール部材13に沿って作業台車2に接近するように上昇する。
【0026】
一対のワイヤロープ51,52の繰り出し時あるいは巻き上げ時に何らかの理由で両ワイヤロープ51,52の繰り出し量や巻き上げ量が不平衡になった場合にはその分バランスアーム47は傾くが、その支点471は作業台車2の中央にあるから作業台車2に捩れ力が作用することはない。ワイヤロープ51,52の一方が何らかの原因で切れた場合でも、バランスアーム47は中心線に沿った姿勢へ旋回するからこの場合も作業台車2に捩れ力は作用しない。
【0027】
図9には制御盤やセンサ等の配置を示す。作業台車2の台上前端には作業台車制御盤61が設けられており、ここで油圧シリンダ24や逸走防止部材25の作動を制御して作業台車2の移動を行う。油圧シリンダ24や逸走防止部材25の作動はそれぞれ監視用テレビ62,63によって監視されている。
【0028】
作業台車2の台上後端にはウインチ制御盤64が設けられており、ここで、ウインチ5の各ドラム53,54の正逆転を制御して搬送台車3の昇降移動を行う。ここで、作業台車2にはその後端からレール部材13に沿って所定距離で追従するように、上限停止用光電センサ65と上限減速用光電センサ66がそれぞれ設けられており、また、レール部材13の下端部には下限停止用光電センサ67と下限減速用光電センサ68がそれぞれ設けられている。これら光電センサ65~68と搬送台車3の底梁31の両端下面にそれぞれ設けた反射板311,312によって、搬送台車3の昇降作動時に、移動台車2に対してあるいはレール下端に対して過度に接近することが防止される。
【0029】
ワイヤロープ51,52に設けられた荷重センサ45,46で過度な荷重が検出された場合には、搬送台車3の積載量が過多としてウインチ5の作動が停止される。一方、荷重センサ45,46で検出される荷重が過少あるいはゼロになった場合には、ワイヤロープ51,52に緩みが発生しあるいはロープ切断があったものとして、この場合もウインチ5の作動が停止される。なお、搬送台車3の後側車輪32には速度検出エンコーダが付設されており、検出速度が過大になった場合には、両ワイヤロープ51,52の切断等によって搬送台車3が落下し始めたとして非常用ブレーキ34を作動させる。なお、非常用ブレーキ34は電源オフで作動するようになっている。
【0030】
搬送台車3の台上前端には搬送台車制御盤69が設けられており、ここで逸走防止部材33や非常用ブレーキ34の操作を行うことができる。
【0031】
(その他の実施形態)
上記実施形態では水力発電所の水圧鉄管の取替作業に本発明のインクライン装置を使用した場合について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限られるものではない。
【0032】
上記実施形態において、係止孔131はレール部材13に直接形成する必要はなく、レール部材13に沿ってその長手方向へ所定間隔で他部材に形成しても良い。また、必ずしもピン242を着脱する係止孔131とする必要はなく、他の係止構造を使用することができる。
【0033】
搬送台車3のシーブ43,44は必ずしも左右に一対設ける必要はなく、中央に一つとしても良い。
【0034】
上記実施形態では作業台車を油圧シリンダによって尺取り的に移動させるようにしたが、作業台車との間に敷設したワイヤロープで移動させられる搬送台車と組み合わせて使用する場合には、作業台車の移動駆動構造は特に限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1…架台、13…レール部材、131…係止部、2…作業台車、24…油圧シリンダ(駆動シリンダ部材)、3…搬送台車、41,42…シーブ、43,44…シーブ、47…バランスアーム、471…支点、472,473…端部、5…ウインチ(巻上げ装置)、51,52…ワイヤロープ。