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特開2023-22621不整脈アブレーション中の心筋機械特性モニタ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022621
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】不整脈アブレーション中の心筋機械特性モニタ方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20230208BHJP
   A61B 5/053 20210101ALI20230208BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61B 5/06 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B5/053
A61B5/00 101M
A61B5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127600
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 恵美悠
(72)【発明者】
【氏名】深谷 英平
(72)【発明者】
【氏名】松浦 元
(72)【発明者】
【氏名】川上 聡太
【テーマコード(参考)】
4C117
4C127
4C160
【Fターム(参考)】
4C117XB01
4C117XD24
4C117XE20
4C117XE27
4C127AA06
4C127CC10
4C127DD05
4C127LL08
4C160KK04
4C160KK12
4C160KK13
4C160KK37
4C160KK63
4C160KK70
4C160MM38
(57)【要約】
【課題】心筋カテーテルアブレーションを施行する際の、安全かつ確実にアブレーションを行うためのアブレーション条件を決定するための心筋機械特性をモニタする方法の提供。
【解決手段】不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さに関する心筋機械特性をモニタする方法であって、カテーテル先端部に設けたローカルインピーダンス測定用センサで測定したカテーテル先端と心筋との間の距離を推測するためのカテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)、及びカテーテル先端部に設けた接触圧測定用センサで測定した心筋とカテーテルとの接触状態を評価するためのカテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)の2種類のパラメータから心筋機械特性を算出することにより心筋機械特性をモニタする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さに関する心筋機械特性をモニタする方法であって、
カテーテル先端部に設けたローカルインピーダンス測定用センサで測定したカテーテル先端と心筋との間の距離を推測するためのカテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)、及びカテーテル先端部に設けた接触圧測定用センサで測定した心筋とカテーテルとの接触状態を評価するためのカテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)の2種類のパラメータから心筋機械特性を算出することにより心筋機械特性をモニタする方法。
【請求項2】
複数のポイントでLI及びCFを測定し、LI値とCF値について回帰直線を求め、その傾きをインデックスとして、心筋機械特性を算出する、請求項1記載の心筋機械特性をモニタする方法。
【請求項3】
LIを測定するための複数の電極をカテーテル先端付近に有し、さらにCFを測定するためのセンサを有する、請求項1又は2に記載の方法に用いるためのカテーテル。
【請求項4】
アブレーションカテーテルである、請求項3記載のカテーテル。
【請求項5】
不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さに関する心筋機械特性をモニタする装置であって、
(i) LIを測定するための複数の電極をカテーテル先端付近に有し、さらにCFを測定するための手段を有する、カテーテル、
(ii) (i)のカテーテルで測定したLI及びCFより心筋機械特性を算出する演算手段、及び
(iii) 演算手段が解析した心筋機械特性を表示するための表示部、
を有する装置。
【請求項6】
カテーテルがアブレーションカテーテルである、請求項5記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波カテーテルアブレーションに関し、アブレーション条件を決定するための心筋組織の機械特性のモニタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不整脈(arrhythmia)とは、心拍リズムの異常のことをいい、心房性と心室性に分類される。代表的な心房性の不整脈として心房細動が挙げられ、心房細動は不整脈の症例の約半数を占める。日本国内で約73万人(2008年)、米国内で約220万人(1991年)の患者がいる。
【0003】
心房細動は、肺静脈から発生する異常な電気興奮が主な原因として報告されており、肺静脈起源の異常興奮が左心房内へ伝達され、あるいは心筋組織内に電気的興奮のリエントリー回路(旋回回路)が形成されることにより発生する。
【0004】
心房細動の第一選択治療として、除細動、洞調律維持を目的としたリズムコントロール薬がある。しかし薬物療法は対症療法であり根治することができず、慢性心房細動の場合にはリズムコントロール薬が効果を発揮しない場合が多い。心房細動は時間が経つにつれ発作性から慢性心房細動へと移行し、心不全や脳梗塞などを引き起こす大きなリスクファクターとなる。
【0005】
薬剤治療に変わる根治療法として、高周波カテーテルアブレーション(RFCA:Radiofrequency catheter ablation)がある。高周波カテーテルアブレーションは、カテーテルを通して心筋組織に高周波を通電し、心筋組織に生じるジュール熱により、心筋組織を熱凝固壊死され、上記の異常な電気伝導を遮断する治療法である。
【0006】
高周波カテーテルアブレーションは、薬物療法との比較で優位性が実証されているが、重篤な副作用が生じることがあった。すなわち、組織内水蒸気爆発により心タンポナーデを誘発したり、肺静脈狭窄若しくは閉塞、横隔神経麻痺、食道障害、血栓形成による脳塞栓等をもたらすことがあった。
【0007】
このような、副作用を抑制するためには、高周波カテーテルアブレーションの条件を厳密に管理する必要があった。従来は、心筋カテーテルアブレーションを施行する際に、専らローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)を測定し、カテーテルと心筋の位置関係を推測していた。その目的に用いるカテーテルについての報告もあった(特許文献1参照)。また、カテーテルアブレーションを行う際に、接触圧(CF:Contact Force)を測定することにより、カテーテルと心筋組織の接触度合いを推測することができることが知られていた。
【0008】
上記の心筋組織に対するカテーテルの近接度合いやカテーテルと心筋組織の接触度合いは、それぞれ単独でアブレーション条件を決めるために用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2017-529169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来は、心筋カテーテルアブレーションを施行する際に、専らローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)を測定し、カテーテルと心筋の位置関係を推測していた。また、カテーテルアブレーションを行う際に、接触圧(CF:Contact Force)を測定することにより、カテーテルと心筋組織の接触度合いを推測することができることが知られていた。しかしながら、LI又はCFのみでは、心筋の硬さを含む心筋機械特性を十分知ることができず、依然として高周波アブレーションにより心筋に穴をあけてしまう等の副作用が発生していた。
【0011】
本発明は、心筋カテーテルアブレーションを施行する際の、安全かつ確実にアブレーションを行うためのアブレーション条件を決定するための心筋機械特性をモニタする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、心筋組織の硬さ等の機械的特性が、高周波カテーテルアブレーションにおける高周波通電による心筋組織の熱変性に影響すると考え、心筋組織の機械的特性をモニタする方法について鋭意検討を行った。
【0013】
本発明者は、カテーテル先端付近のインピーダンスであるローカルインピーダンス(LI)に加え、カテーテル先端部と心筋組織との接触圧(CF)を測定し、両者を組合わせたインデックスを用いることにより、心筋の硬さを含めた心筋機械特性を算出し、該機械特性に基づいて副作用が発生しない高周波アブレーションの適切な条件を決定することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さに関する心筋機械特性をモニタする方法であって、
カテーテル先端部に設けたローカルインピーダンス測定用センサで測定したカテーテル先端と心筋との間の距離を推測するためのカテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)、及びカテーテル先端部に設けた接触圧測定用センサで測定した心筋とカテーテルとの接触状態を評価するためのカテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)の2種類のパラメータから心筋機械特性を算出することにより心筋機械特性をモニタする方法。
[2] 複数のポイントでLI及びCFを測定し、LI値とCF値について回帰直線を求め、その傾きをインデックスとして、心筋機械特性を算出する、[1]の心筋機械特性をモニタする方法。
[3] LIを測定するための複数の電極をカテーテル先端付近に有し、さらにCFを測定するためのセンサを有する、[1]又は[2]の方法に用いるためのカテーテル。
[4] アブレーションカテーテルである、[3]のカテーテル。
[5] 不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さに関する心筋機械特性をモニタする装置であって、
(i) LIを測定するための複数の電極をカテーテル先端付近に有し、さらにCFを測定するための手段を有する、カテーテル、
(ii) (i)のカテーテルで測定したLI及びCFより心筋機械特性を算出する演算手段、及び
(iii) 演算手段が解析した心筋機械特性を表示するための表示部、
を有する装置。
[6] カテーテルがアブレーションカテーテルである、[5]の装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、ローカルインピーダンス(LI)の他に接触圧(CF)を測定し、両者を組合わせたインデックスを用いることにより、心筋の硬さを含めた心筋機械特性を算出することができるので、通電位置や通電時間等のカテーテルアブレーションの条件を最適化することができ、その結果、従来より効率的かつ安全なアブレーション治療が可能になる。
【0016】
従来技術からは、LIとCFの両方の値をどのようにして、アブレーション条件を決めるために用いるかは想到できなかった。
【0017】
本発明はこれまでの不整脈アブレーションモニタリングでは成し得なかった治療対象である心筋組織の機械特性を計測することで劇的に副作用を低減することが可能であると期待され、医学的にも重要な役割を果たすと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】カテーテルアブレーションのシステムの概要を示す図である。
図2】マイクロ電極を有するカテーテルを示す図である。
図3】アブレーションにより作製した高周波病変の大きさの測定値を示す図である。図3Aはカテーテル角度90°の結果、図3Bはカテーテル角度45°の結果、図3Cはカテーテル角度30°の結果を示す。
図4】機械的特性計測において、ブタ心筋組織を水プール中のステージ上に固定し、カテーテルを押し当てた状態を示す図である。図4Aは、position(ひずみ)=0の状態を示し、図4Bはカテーテルを押し込んだ状態(ひずみはプラス)を示す。
図5】左心室・右心室で計測した接触圧力と局所インピーダンスの関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、不整脈治療のためのカテーテルアブレーションを行う際にアブレーション条件を決定するための心筋の硬さ等に関する心筋機械特性をモニタするための方法である。本発明はさらに、該方法に用いるカテーテルであり、該カテーテルを含む装置である。ここで、「カテーテル」とは血管内に挿入し得る細管をいう。本発明のカテーテルは、カテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)を測定するためのセンサ及び心筋とカテーテルとの接触状態を評価するためにカテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)を測定するためのセンサを有している。
【0020】
本発明のカテーテルを用いて治療し得る疾患は、異常電気伝導に起因する不整脈、特に頻脈性不整脈である。このような、頻脈性不整脈として、房室回帰性頻拍(AtrioVentricular Reciprocating Tachycardia, AVRT:WPW症候群)、房室結節回帰性頻拍(AtrioVentricular Nodal Reentrant Tachycardia, AVNRT)等の発作性上室性頻拍(Paroxysmal SupraVentricular Tachycardia, PSVT)、心房粗動、心房頻拍、心房細動(AF)(以上、上室性の頻脈性不整脈)や心室頻拍等の心室性の頻脈性不整脈が挙げられる。
【0021】
カテーテルアブレーションについて
本発明のカテーテルは、心臓まで挿入して用いるカテーテルである。該カテーテルとして、心筋の機械特性をモニタするためのモニタ用カテーテルや心筋の機械特性をモニタするとともに心筋組織に対してアブレーションを行うアブレーションカテーテルが含まれる。本発明のカテーテルは、好ましくは心筋組織のアブレーションに用い得るアブレーション治療用のカテーテルである。アブレーションカテーテルは、焼灼用電極を有し、該焼灼用電極に通電することにより、アブレーションを行うことができる。
【0022】
本発明のカテーテルは、通常心臓カテーテルとして用いられているものを使用することができる。本発明のカテーテル先端は自由に屈曲する構造をとっていてもよい。このためには、例えばカテーテル中にテンションワイヤーを配設し、テンションワイヤーの牽引操作により先端部を屈曲させることができる。さらに、先端部をあらかじめ治療部位の形状に適合させるように曲げておいてもよい。本発明の装置はカテーテルを標的部位に挿入進行させるためのガイドシースやガイドワイヤーを含んでいてもよい。カテーテルのサイズは、好ましくは6~8Frである。カテーテルは、定法により、大腿動脈や上腕動脈から体内に挿入すればよい。また、大腿静脈から挿入し、右心房に到達、左心組織へはBrockenbrough法により経心房中隔的に到達する方法も一般的に行なわれている。
【0023】
アブレーションカテーテルを含む装置は、高周波電流発生装置(高周波焼灼装置)及び通電用対極板を有し、心臓中のカテーテル先端の電極と対極板との間に高周波電流を流すことで、カテーテル先端の温度を60℃程度まで上昇させることにより、組織を壊死させる。
1回当たりの通電時間は、30秒間~60秒間程度であり、数回の焼灼を行う。
カテーテルアブレーションのシステムの概要を図1に示す。
【0024】
LI測定及びCF測定のためのセンサ
LI測定用センサ
心筋の硬さに関する心筋機械特性は、カテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)及び心筋とカテーテルとの接触状態を評価するためにカテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)をパラメータとして算出することができる。
【0025】
ここで、カテーテル先端付近のローカルインピーダンス(LI:Local Impedance)とは、カテーテル先端部と心筋組織の接触によって生じる抵抗値をいう。カテーテルの先端と心筋組織の距離によりローカルインピーダンスは変化し、ローカルインピーダンスにより心筋組織に対するカテーテルの位置を推測することができる。ローカルインピーダンスは、カテーテル先端付近に設けたセンサを用いて測定することができる。従って、本発明のカテーテルは、先端付近にローカルインピーダンスを測定するためのセンサを有する。
【0026】
ローカルインピーダンス測定のためのセンサはインピーダンス測定センサといい、少なくとも1対の電極を含む複数のインピーダンス検知電極を含み、電極間の信号の変化により、インピーダンスを測定することができる。
【0027】
ローカルインピーダンス測定に用いる電極は、本発明のカテーテルの先端に設けられる。本発明のカテーテルは、少なくとも2つの電極を有している。電極は少なくとも電位測定用電極として機能する。また、本発明のカテーテルは通電用電極を有していてもよい。前記の電位測定用電極が通電用電極を兼ねていてもよいし、通電のみに用いられる通電用電極を電位測定にのみ用いられる電位測定用電極とは別個に設けてもよい。
【0028】
通電用電極は、その電極が接触している部位に電流を通すことができる電極をいい、該通電用電極は、カテーテル内部に配設されたリード線に接続され、該リード線を介して電源装置に接続される。
【0029】
電位測定用電極は、電極が接触する標的部位の電位を測定するのに用いることができる。電位測定用電極は、少なくとも2つ存在し、電位差を測定できるような位置に存在する。
【0030】
上記のように、少なくとも2つ存在するとは、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上存在することをいい、好ましくは2つ~4つである。
【0031】
例えば、カテーテル先端部の外側に複数の電極を設ければよい。この場合、これらの電極として、例えば、リング形状を有しておりカテーテル周囲をリング状に覆うリング電極を用いることができ、該リング電極が複数設けられる場合、リング電極間の距離は、10mm以内、好ましくは5mm以内程度である。また、電極の形状は上述の形状に限定されず、直線形状の線材としたり、または面形状、リボン状、円筒形状、ドーム形状等の形状とすることもできる。面形状は、平面形状も曲面形状も含む。
【0032】
電極の大きさは、例えば、カテーテルの長軸に沿った長さが、1~20mm、好ましくは3~20mm、さらに好ましくは3~17mm、さらに好ましくは6~14mm程度である。また、面積は、5~100mm2、好ましくは10~80mm2、さらに好ましくは20~70mm2程度である。
【0033】
電極の材質としては、SUS材であってもよいが、生体に悪影響を及ぼさないもの、例えば、金、銀、白金、タングステン、パラジウムまたはこれらの合金や、Ni-Ti合金、チタン合金等を使用することが好ましい。
【0034】
電位測定用電極は、リード線を介して電位測定器に接続し、2つの電極間に電流を流し、その結果生じる電圧を測定することができる。印加された電流に対する電極間の電位差の比率は、電流が伝わった箇所のインピーダンスを反映する。この際、2つの電極を用いる場合、一方の電極を対極とし、2つの電極の電位差を測定すればよい。この場合、例えば、複数の電極を間隔を空けた状態で設けてもよい。該カテーテルを電極部が心筋組織に接触するように置き、電極により電位を検出する。
【0035】
上記電極には、さらにより小さな複数の電極が含まれていてもよい。このような小さな電極をマイクロ電極又はミニ電極と呼ぶ。マイクロ電極は、例えば、カテーテルの先端部の電極の周りに円周状に配置すればよい。例えば、カテーテル先端部の電極にマイクロ電極を円周状に2つ、3つ又は4つ設ければよい。このようにマイクロ電極を設けることにより、カテーテルの方向によらず、複数のマイクロ電極の少なくとも1つは心筋組織と接触し得るので、カテーテル先端より近位側に設けた電極との間で局所的なローカルインピーダンスを測定することが可能になる。マイクロ電極の面積は、例えば、0.2~1mm2、好ましくは0.3~0.8mm2、さらに好ましくは0.4~0.7mm2程度である。
【0036】
このような、マイクロ電極を有するカテーテルの電極の位置を図2に示す。このようなカテーテルは、例えば、特表2017-529169号公報に記載されている。
【0037】
本発明のカテーテルにより測定できるローカルインピーダンスの値とカテーテル先端部と心筋組織との距離が線形性を有するので、インピーダンスの変動により、カテーテル先端部と心筋組織の距離等の位置関係がわかる。なお、ここで距離とはカテーテル先端部と心筋組織が離れており接触していない場合、マイナスとなり、接触したときに0となる、さらに、強く接触した場合、心筋組織がカテーテル先端部に押されて凹み、カテーテル先端部は接触したときの位置からより心筋組織内に移動し、距離はプラスとなる。カテーテル先端部の位置カテーテルと心筋組織が離れている場合、心筋組織にひずみは生じないが、カテーテルと心筋組織が接触している場合、心筋組織が凹みひずみが生じる。すなわち、カテーテルと心筋組織の距離すなわち位置関係から心筋組織のひずみを推測することができる。
【0038】
CF測定用センサ
カテーテル先端の接触圧(CF:Contact Force)とは、カテーテル先端が心筋組織と接触しているときの圧力をいい、接触圧により心筋とカテーテルとの接触状態を直接評価することができる。接触圧はカテーテル先端に設けた接触圧センサを用いて測定することができる。接触圧センサとしては、例えば、ピエゾ素子を用いた圧電センサやひずみゲージ式力センサ(ロードセル)を用いることができる。これらのセンサが心筋組織と接触したときに作用圧力に応じた電圧が生じるので、該電圧を測定すればよい。また、光干渉法を使用して干渉解析を行うことにより、接触圧を測定することができる。この場合、接触圧センサの周囲に等間隔で配置された3つの空洞のある円筒型センサを用いる。センサに圧力がかかると前記ギャップの幅は圧力に基づいて変化するので、ギャップを測定すればよい。ギャップは、光ファイバーを用いたファブリーペロー干渉法に基づいて測定することができる。光干渉法を利用したセンサとして、例えば、アボット社のTactiCath QuartzアブレーションシステムNで用いているセンサを用いることができる。接触圧センサはカテーテルの先端部に設けることが好ましい。接触圧センサからはカテーテル内部に配設されたリード線により電源や電位測定器に接続され、電位測定器により接触圧センサからの信号を検出することができる。
【0039】
心筋組織の機械的特性
上記のように、本発明のカテーテルは、LI測定用センサ及びCF測定用センサを含んでおり、両者を同時に測定することができる。
【0040】
LIとCFにより心筋組織の機械的特性を評価することができる。ここで、心筋組織の機械的特性とは、心筋組織の硬さ、変形のしやすさ、厚みを含む心筋の機械的構造に基づく総合的な特性をいう。
【0041】
弾性体である物体の弾性に関する法則にフックの法則がある。E=σ/εで表されるフックの法則において、Eは弾性体の強さ(弾性係数)、σはひずみ、εは応力を表す。
【0042】
フックの法則が成立する物質を線形弾性体(フック弾性体)と呼ぶ。心筋組織もひずみ及び応力が一定以下の場合、すなわち、弾性域において、フックの法則が近似として成立する線形弾性体と考えられる。
【0043】
本発明のカテーテルに含まれるLI測定センサで測定したLIは、カテーテル先端と心筋組織との距離に対応した心筋組織のひずみを反映し、CFセンサで測定したCFはカテーテルに押されることにより心筋組織内に発生する応力を反映している。
【0044】
したがって、上記のフックの法則により、CFをLIで除した値(CF/LI)は、心筋組織の機械的特性、すなわち弾性を表す。なお、CF/LIは、LIを横軸にとり、CFを縦軸にとり、測定結果をプロットした場合のグラフの傾きを表す。
【0045】
本発明においては、測定したCF(g)及びLI(Ω)からCF/LIを算出することにより、心筋組織の機械的特性をモニタすることができる。なお、LIはカテーテル先端部と心筋組織の距離を反映しているので、インピーダンスと距離との関係を定式化することにより、距離(mm)で表すこともできる。例えば、複数のポイントでLI及びCFを測定し、LI値とCF値について回帰直線を求め、その傾きをインデックスとして、心筋機械特性を算出することができる。
【0046】
CF/LIをインデックスとして、機械的特性をモニタした心筋組織が硬い組織か、又は柔らかい組織かを評価することができ、該評価の結果により、心筋アブレーションを行うときの条件を決定することができる。ここで、アブレーションの条件とは、高周波通電するときの入力の大きさ、通電時間、接触圧力、角度、回数、他臓器の温度計測等をいう。
【0047】
ただし、CF/LIの値からアブレーション条件を一義的に決定することができるわけではなく、患者の状態等により、医師が適宜判断する。従って、本発明のカテーテルを用いたモニタ方法は、アブレーション条件を決定するための補助的データを取得する方法でもある。
【0048】
なお、本発明のLI測定用センサとCF測定用センサを含むカテーテルがアブレーションのための部品を有するアブレーションカテーテルである場合、決定された条件でアブレーションを行うことができる。本発明のLI測定用センサとCF測定用センサを含むカテーテルがアブレーションのための部品を有しないモニタ用カテーテルの場合、別途アブレーションカテーテルを用いてアブレーションを行えばよい。例えば、心筋組織の機械的特性をモニタし、アブレーション条件を決定し、その後、時間をおいて、アブレーションカテーテルによりアブレーションを行えばよい。
【0049】
このように、心筋組織の機械的特性をモニタし、アブレーション条件を決定した上で、アブレーションを行うことにより、組織内水蒸気爆発により誘発される心タンポナーデ、肺静脈狭窄若しくは閉塞、横隔神経麻痺、食道障害、血栓形成による脳塞栓等の副作用を低減することができる。
【0050】
カテーテルを含む装置
本発明のカテーテルを含む装置は、LI測定用センサ及びCF測定用センサを含むカテーテルを含み、さらに、高周波発生装置、高周波伝送手段、電位測定用電極とリード線により接続された、電位測定器や通電用電極とリード線により接続された電源を備えていてもよい。さらに、カテーテルが備えているLI測定用センサで測定したLI及びCF測定用センサで測定したCFを受け取り記憶する装置、LI及びCFより心筋組織の機械的特性を演算する装置を含んでいてもよい。演算装置はLI及びCFをデータ処理するデータ処理部でもある。さらに、算出した機械的特性に関するデータを表示する表示装置を含んでいてもよい。
【0051】
カテーテルのLI測定用センサ及びCF測定用センサで測定したLI及びCFは電気信号に変換され演算装置(演算部)であるデータ処理部に送られる。データ処理部は受け取ったデータを処理して、処理データを表示部に送り、表示部でデータが表示される。データ処理部は、パーソナルコンピュータ等を用いることができ、LI及びCFを記録するメモリ、データを処理する中央演算処理装置(CPU)、中央演算処理装置における演算処理に必要な条件やパラメータを記憶し、かつ演算結果を記憶するハードディスクやフラッシュメモリ等の記憶装置を含んでいてもよい。また、表示部は、データを表示するモニタやプリンタを含んでいる。
【0052】
カテーテルアブレーションを施行する医師は、得られた機械的特性に関する情報を補助的な情報として、アブレーション条件を決定することができる。
【実施例0053】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
アブレーションカテーテルおよびローカルインピーダンス(LI)測定
遠位先端電極内に組み込まれた3つの微小電極を有する4mm open-irrigatedアブレーションカテーテル(IntellaNav MiFiOI(登録商標))を実験に使用した。このカテーテルはドーム電極と、遠位先端電極内に組み込まれた3つの微小電極とを有し、カテーテルの先端から2mmに位置する3つの等間隔の直径0.8mmの微小電極を有する。ローカルインピーダンスはローカル電位場を生成するために、微小電極と遠位先端電極との間の非刺激性交流(5.0A、14.5kHz)を駆動することによって、アブレーションカテーテルの微小電極(Intellanav MiFi OI)から測定される。結果として、3つのLIを測定し、最大LIのみを分析に使用した。アブレーションカテーテル(IntellaNav MiFiOI(登録商標))は、接触力(CF)を測定することができない。そこで、次節で述べるように、圧力電流変換器(ロードセル)を用いてCFを測定した。
【0055】
In vitro実験設定
ブタ心筋組織を、すべての実験について、切開の48時間以内に抽出した。ブタ心筋組織を水プール中のステージ上に固定した(図4)。最初のLIが90Ωになるように、水プール中で水10Lに対して塩20gを用いて生理食塩水溶液を調製した。サーモスタットシステム(Thermo-Mate BF-400、Yamato Scientific Co、Ltd、Tokyo、Japan)を用いて、水プール中の生理食塩水溶液を37℃に保った。生理食塩水溶液を、5L/分の流速で心筋組織の表面を横切って循環させて、血流をシミュレートした。カテーテルの先端を第4の電極から遠位方向に10mmの位置で支柱に固定し、支柱をロードセル(DPU-2N、Imada Co、Ltd、Toyohashi、Japan)に接続することによって、カテーテル先端への接触力(CF)を経時的に測定した。ロードセルからの電圧波形を16ビットディジタル符号器(DP850、横河電機、東京、日本)で記録した。スケールを使用して、カテーテルの先端での接触力(CF)および0~30gの範囲のロードセル電圧値を較正した。24 fpsのフレームレートを有するビデオカメラを使用して、カテーテル先端の位置を記録した。
【0056】
アブレーションプロトコル
RFシステム(Rhythmia Mapping system、Boston Scientific)を使用した。ブタ心筋左心室組織を水プール内のステージに固定した。左心室(LV)の心外膜上に高周波病変を作製した。高周波アブレーションは、30ワットの電力および30秒の持続時間で実施した。CF (0g、5g、10g、20g、および30g)およびカテーテル角度(30°、45°、および90°)を各セットで変化させた(合計120病変、それぞれn=8)。ブタ心筋組織表面に対する90°、45°、および30°のカテーテル角度を分度器で評価した。全ての病変は、最初のLI(LI上昇)、LI低下をアブレーションパラメータとして評価した。
【0057】
RF病変の作製と測定
LVの心外膜上に高周波病変を作製した後、表面病変の中央で断面を切り出し、マクロ画像を撮影した。画像解析ソフトウェア(Image J.free software)を用いて、それぞれのカテーテル角度についてのすべての病変の大きさを、最大病変幅(MW)、最大表面幅(SW)、および最大病変深さ(MD)として評価した(図3A、3B、および3C)。客観性を確保するために、2人の各人による測定病変値の平均を採用した。代表的な病変を、アブレーション処置後1時間以内にホルムアルデヒド中で約1週間固定した。
【0058】
統計解析
全ての統計解析は、JMP 14ソフトウェア(SAS Institute Inc、Cary、NC、USA)を用いて行った。データは、連続変数の平均±標準誤差(SE)として示す。病変サイズ(最大病変幅、最大表面幅、および最大病変深さ)と異なる接触角、CF、初期LI、およびLI低下との間の関係の有意性を、分散分析によって評価した。3つのカテーテル角度群(30°、45°、および90°)の間の差を、Tukey HSD試験を用いて分析した。統計学的有意水準はp<0.05とした。
【0059】
結果及び考察
図4に示すように、ブタ心筋組織に対してカテーテルを押し当て、そのときのカテーテルの変位(ひずみ)と接触圧力および局所インピーダンスを連続的に計測した。
【0060】
一般的に応力とひずみのふるまいは物体の機械特性により変化し、応力ひずみ線図から物体の弾性係数を求める方法が用いられる。局所インピーダンスはこれまでにカテーテルと心筋組織の位置関係と相関することが報告されており、局所インピーダンスからひずみを推察可能であると考えた。図5には左心室(LVepi1~3)・右心室(Rvepi1~3)で計測した接触圧力と局所インピーダンスの関係を表す。カテーテルを図4中の下向きに押し当てていったときの連続的変化をプロットした。左心室は全身に血液を送り出す役割で心臓のなかで最も厚みがあり硬い組織である。一方で右心房や左心房壁は薄い。結果ではこれらの心筋組織の機械的特性の違いが接触圧力と局所インピーダンスの近似式係数の差として捉えられることが明らかになった。これを用いることで接触圧力と局所インピーダンスの同時計測により心筋壁の術中診断が可能になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のカテーテルは、心筋組織のアブレーションに用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 アブレーションカテーテル
2 心筋組織
3 通電用対極板
4 高周波焼灼装置
5 カテーテル
6 電極
7 マイクロ電極
図1
図2
図3
図4
図5