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特開2023-22662化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022662
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/36 20060101AFI20230208BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C07C323/36 CSP
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127657
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達弥
(72)【発明者】
【氏名】福島 健
(72)【発明者】
【氏名】小野里 磨優
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 康人
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006TA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酵素反応後に十分な蛍光を発することができ、複雑な2段階反応を用いることなく、1段階反応でD-アミノ酸酸化酵素又はL-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法の提供。
【解決手段】(S)-2-アミノ-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸、及び(R)-2-アミノ-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸のいずれかで表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを含むことを特徴とするアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、並びに該測定用試薬を用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する酵素活性測定方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)及び(2)のいずれかで表されることを特徴とする化合物:
【化1】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
【請求項2】
下記構造式(1)で表される化合物、下記構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを含むことを特徴とするアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬:
【化2】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
【請求項3】
下記構造式(1)で表される化合物、下記構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することを含むことを特徴とするアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法:
【化3】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
【請求項4】
酵素活性が高いアミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性の測定に好適な化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アミノ酸酸化酵素(以下、「DAO」と称することがある。)及びL-アミノ酸酸化酵素(以下、「LAO」と称することがある。)は共に重要な酵素である。DAOは、統合失調症や筋委縮性側索硬化症(ALS)などとの関連が示唆され、DAO阻害剤がそれらの治療薬として開発されている。LAOは、ヘビ毒LAOが、がん細胞選択的に細胞死を引き起こすことから、LAOを用いた新たな抗がん療法が研究されている。そのため、DAO及びLAOの活性研究や酵素活性阻害剤探索に用いることができるプローブ分子が強く求められている。
【0003】
従来、これらの酵素活性の測定には、2段階反応による方法が用いられてきた。1段階目の反応として、D-アミノ酸又はL-アミノ酸を前記酵素と反応させる。2段階目の反応は、1段階目の反応で生じた過酸化水素を、ペルオキシダーゼ及び発色又は発蛍光基質と反応させる。これにより生じた発色又は蛍光を用いてDAOやLAOの酵素活性を測定することができる。
しかしながら、この方法は煩雑であり、また、ペルオキシダーゼを用いる酵素反応を伴うために、ペルオキシダーゼの活性を阻害する物質やペルオキシダーゼにより分解してしまう化合物の場合には、LAOやDAOに対する阻害活性を評価することができず、新たな酵素活性阻害剤のスクリーニングができないという問題がある。また、ペルオキシダーゼは細胞内に移行しないため、細胞内での酵素活性イメージング研究への展開ができないという問題もある。
【0004】
これまでに、キヌレニン(以下、「KYN」と称することがある。)を用いることで、LAOやDAOとの反応により蛍光物質であるキヌレン酸が生成することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。前記報告によれば、1段階の酵素反応でLAOやDAOの酵素活性を測定し得る(下記式参照)。
【化1】
【0005】
しかしながら、前記キヌレン酸は弱蛍光であるために、亜鉛イオンを添加し、強蛍光の錯体形成反応が必要である。また、亜鉛イオンを添加し、錯体を形成させ、強蛍光とすることはできるものの、細胞内の亜鉛は蛍光錯体の形成に十分な濃度ではなく、2段階反応の場合と同様に、細胞内での酵素活性イメージング研究への展開への障害がある。
【0006】
したがって、酵素反応後に十分な蛍光を発することができ、複雑な2段階反応を用いることなく、1段階反応でLAO又はDAOの酵素活性を評価することができるプローブ分子の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Song ZY, Ogaya T, Ishii K, Ichiba H, Iizuka H, Fukushima T. J Health Sci 2010; 56, 341-346.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、酵素反応後に十分な蛍光を発することができ、複雑な2段階反応を用いることなく、1段階反応でD-アミノ酸酸化酵素又はL-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、構造式(1)で表される化合物又は構造式(2)で表される化合物を用いると、D-アミノ酸酸化酵素又はL-アミノ酸酸化酵素との1段階の酵素反応により、これらの酵素の活性を十分な蛍光強度で検出することができることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)及び(2)のいずれかで表されることを特徴とする化合物である。
【化2】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
<2> 下記構造式(1)で表される化合物、下記構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを含むことを特徴とするアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬である。
【化3】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
<3> 下記構造式(1)で表される化合物、下記構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することを含むことを特徴とするアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法である。
【化4】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
<4> 酵素活性が高いアミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる前記<3>に記載の方法である。
<5> アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる前記<3>に記載の方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、酵素反応後に十分な蛍光を発することができ、複雑な2段階反応を用いることなく、1段階反応でD-アミノ酸酸化酵素又はL-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、試験例1の各キヌレン酸エチルエステルの極大励起蛍光波長における蛍光強度の結果を示す図である。
図2A図2Aは、試験例2におけるDAOの活性測定の結果を示す図である。
図2B図2Bは、試験例2におけるLAOの活性測定の結果を示す図である。
図2C図2Cは、励起蛍光スペクトルの一例を示す図である。
図2D図2Dは、試験例2におけるLC-UV、LC-MSの測定結果を示す図-1である。
図2E図2Eは、試験例2におけるLC-UV、LC-MSの測定結果を示す図-2である。
図3A図3Aは、試験例3のDAOの活性測定の結果を示す図である。
図3B図3Bは、試験例3のLAOの活性測定の結果を示す図である。
図3C図3Cは、試験例3における蛍光測定に用いた上清の状態を示す図である。
図4A図4Aは、試験例4においてMPCを用いた場合の結果を示す図である。
図4B図4Bは、試験例4においてCBIOを用いた場合の結果を示す図である。
図4C図4Cは、試験例4においてβCl-L-Alaを用いた場合の結果を示す図である。
図4D図4Dは、試験例4においてAnthを用いた場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(化合物)
本発明の化合物は、下記構造式(1)で表される化合物(以下、「MeS-D-KYN」、「5-MeS-D-KYN」と称することがある。)又は下記構造式(2)で表される化合物(以下、「MeS-L-KYN」、「5-MeS-L-KYN」と称することがある。)である。なお、前記各化合物は、単に蛍光プローブと称することもある。
【化5】
上記構造式(1)及び(2)中、「Me」はメチル基を表す。
【0014】
前記構造式(1)又は構造式(2)で表される化合物の製造方法としては、特に制限はなく、公知の化学合成方法を適宜選択することができ、例えば、後述する〔実施例〕の項目に記載の方法などで製造することができる。
なお、後述する〔実施例〕の項目に記載の方法は一例である。また、化学合成における反応温度や反応時間などの反応条件や、用いる化合物及びその使用量、溶媒、精製方法などは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
得られた化合物が、前記構造式(1)又は構造式(2)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができる。前記分析方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、紫外分光法、赤外分光法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、元素分析法等の分析方法などが挙げられる。前記分析方法は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記各分析方法による測定値には、多少の誤差が生じることがあるが、当業者であれば、化合物が前記構造式(1)又は構造式(2)で表される構造を有することは容易に同定することが可能である。
【0016】
前記構造式(1)又は構造式(2)で表される化合物の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定するための酵素活性測定用試薬として好適に用いることができる。
【0017】
(アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬)
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬は、本発明の構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0018】
<構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれか>
前記構造式(1)で表される化合物及び構造式(2)で表される化合物は、上記した本発明の構造式(1)で表される化合物及び構造式(2)で表される化合物である。
前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬は、前記化合物のうち、前記構造式(1)で表される化合物のみを含む態様であってもよいし、前記構造式(2)で表される化合物のみを含む態様であってもよいし、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の両者を含む態様(構造式(1)で表される化合物及び構造式(2)で表される化合物の組合せ)であってもよい。
前記構造式(1)又は(2)で表される化合物の前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬における合計量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬は、前記構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかのみからなるものであってもよい。
【0019】
後述する〔実施例〕の項目に記載したように、前記構造式(1)で表される化合物は、D-アミノ酸酸化酵素(EC番号:1.4.3.3)の活性を測定することができ、前記構造式(2)で表される化合物は、L-アミノ酸酸化酵素(EC番号:1.4.3.2)の活性を測定することができる。
前記DAO及びLAOの由来の種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記DAO及びLAOは天然物から取得したものであってもよいし、生合成等により合成したものであってもよい。
【0020】
前記構造式(1)で表される化合物はD-アミノ酸酸化酵素と反応することにより、前記構造式(2)で表される化合物はL-アミノ酸酸化酵素と反応することにより、蛍光を発する化合物が生成される。前記蛍光を測定することにより、各酵素の活性を評価することができる。
【0021】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記構造式(1)及び(2)のいずれかで表される化合物を溶解させるための溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)などが挙げられる。
前記その他の成分の前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬における量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬は、前記構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかと、必要に応じて前記その他の成分とを同一の容器内に含む態様であってもよいし、別々の容器に分け、使用時に混合する態様であってもよい。
【0023】
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬によれば、複雑な2段階反応を用いることなく、迅速かつ簡易にアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することができる。また、D-アミノ酸酸化酵素及びL-アミノ酸酸化酵素の活性を選択的に測定することができる。また、酵素反応により生じる蛍光波長は可視領域にあるため、蛍光イメージング研究にも適用可能である。
【0024】
(アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法)
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法は、測定工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0025】
<測定工程>
前記測定工程は、本発明の構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかを用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する工程である。
【0026】
前記測定工程では、本発明の構造式(1)で表される化合物、構造式(2)で表される化合物、及びこれらの化合物の組合せのいずれかをアミノ酸酸化酵素と反応させる。
【0027】
前記反応における反応液の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、D-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する場合には、D-アミノ酸酸化酵素、フラビンアデニンジヌクレオチド、牛血清アルブミン、グルタチオン、及び前記構造式(1)で表される化合物を含む反応液とすることができる。
また、L-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する場合には、L-アミノ酸酸化酵素、牛血清アルブミン、グルタチオン、及び前記構造式(2)で表される化合物を含む反応液とすることができる。
前記反応液における各成分の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
前記反応液の反応条件としては、特に制限はなく、アミノ酸酸化酵素の酵素活性などに応じて適宜選択することができ、例えば、37℃、60分間などが挙げられる。
【0029】
前記反応後の反応液の蛍光を測定することにより、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することができる。前記蛍光の測定は、公知の装置を用い、励起波長364nm、蛍光波長450nmにて行うことができる。
【0030】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法は、公知の他の方法と組み合わせて行うこともできる。
【0032】
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法によれば、複雑な2段階反応を用いることなく、迅速かつ簡易にアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することができる。また、D-アミノ酸酸化酵素及びL-アミノ酸酸化酵素の活性を選択的に測定することができる。また、酵素反応により生じる蛍光波長は可視領域にあるため、蛍光イメージング研究にも適用可能である。
【0033】
本発明のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法は、例えば、酵素活性が高いアミノ酸酸化酵素のスクリーニング、アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングなどにおいて好適に用いることができる。
【0034】
前記酵素活性が高いアミノ酸酸化酵素のスクリーニングとしては、例えば、抗がん療法などに利用できる活性が高いL-アミノ酸酸化酵素のスクリーニングなどが挙げられる。
上記スクリーニングは、活性を測定したいL-アミノ酸酸化酵素を上記した反応液に含有させて反応を行うことにより、実施することができる。
前記活性を測定したいL-アミノ酸酸化酵素は、天然物由来のものであってもよいし、生合成等により合成したものであってもよい。
【0035】
前記アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングとしては、例えば、統合失調症やALSなどの治療薬に利用できる阻害活性が高い物質(以下、「候補物質」と称することがある。)のスクリーニングなどが挙げられる。
上記スクリーニングは、前記候補物質を上記した反応液に含有させて反応を行うことにより、実施することができる。
前記候補物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然物由来のものであってもよいし、化学合成や生合成等により合成したものであってもよい。
【実施例0036】
以下に本発明の試験例及び製造例を説明するが、本発明は、これらの試験例及び製造例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(試験例1:強蛍光キヌレン酸誘導体の探索)
より強い蛍光を発するキヌレン酸誘導体の探索を行った。
【0038】
<キヌレン酸誘導体の合成>
下記化学式1で表される置換アニリンを出発物質として、下記化学式2で表されるキヌレン酸誘導体(キヌレン酸エチルエステル誘導体)を合成した。
【化6】
【0039】
具体的には、置換アニリン(化学式1)とアセチレンジカルボン酸ジエチルをメタノールに溶解し、80℃で4時間還流した。反応後、反応溶媒を留去し、ジフェニルエーテル20mLに再溶解し、さらに220℃で4時間加熱した。反応液を室温まで冷却するとキヌレン酸誘導体(化学式2)が析出した。析出した固体を濾過し、n-ヘキサンで洗浄し、真空乾燥した。
【0040】
前記合成した化学式2で表されるキヌレン酸誘導体は、下記の化学式2a~2hで表される化合物である。下記に、原料である置換アニリンと併せて合成したキヌレン酸誘導体の同定データを示す。
【0041】
<化学式2a:Ethyl 4-hydroxyquinoline-2-carboxylate>
【化7】
原料の置換アニリン : アニリン(R=H)
化学式2aの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 12.03(s, 1H, OH), 8.07(dd, J=8.1, 1.3Hz, 1H, ArH), 7.93(d, J=8.5 Hz, 1H, ArH), 7.72-7.68(m, 1H, ArH), 7.38-7.34(m, 1H, ArH), 6.63(s, 1H, ArH), 4.41(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 1.36(t, J=7.1Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 218.0725 (calcd. 218.0738)
【0042】
<化学式2b:Ethyl 6-acetyl-4-hydroxyquinoline-2-carboxylate>
【化8】
原料の置換アニリン : 4-アミノアセトフェノン(R=COCH
化学式2bの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 12.29(s, 1H, OH), 8.63(d, J=2.1Hz, 1H, ArH), 8.19(dd, J=8.8, 2.1Hz, 1H, ArH), 8.00(d, J=8.8Hz, 1H, ArH), 6.70(d, J=1.7Hz, 1H, ArH), 4.42 (q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 2.64(s, 3H, COCH), 1.36(t, J=7.1Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 260.0856 (calcd. 260.0845)
【0043】
<化学式2c:Ethyl 4-hydroxy-6-methylquinoline-2-carboxylate>
【化9】
原料の置換アニリン : p-トルイジン(R=CH
化学式2cの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 11.98(s, 1H, OH), 7.86-7.83(m, 2H, ArH), 7.54(dd, J=8.6, 1.7Hz, 1H, ArH), 6.59(s, 1H, ArH), 4.40(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 2.40(s, 3H, CH), 1.35(t, J=7.2Hz, 3H, OCHCH)),
m/z [M+H] 232.1042 (calcd. 232.0895)
【0044】
<化学式2d:Ethyl 4-hydroxy-6-fluoroquinoline-2-carboxylate>
【化10】
原料の置換アニリン : 4-フルオロアニリン(R=F)
化学式2dの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 12.25(s, 1H, OH), 8.02(dd, J=9.2, 4.8Hz, 1H, ArH), 7.71(dd, J=9.3, 2.8Hz, 1H, ArH), 7.66-7.61(m, 1H, ArH), 4.41(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 1.35(t, J=7.1Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 236.0648 (calcd. 236.0645)
【0045】
<化学式2e:Ethyl 6-(dimethylamino)-4-hydroxyquinoline-2-carboxylate>
【化11】
原料の置換アニリン : N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン(R=N(CH
化学式2eの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 11.92(s, 1H, OH), 7.84(d, J=9.2Hz, 1H, ArH), 7.35(d, J=8.8Hz, 1H, ArH), 7.13(s, 1H, ArH), 6.52(s, 1H, ArH), 4.42-4.36(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 2.97(s, 6H, N(CH), 1.35(t, J=7.1Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 261.1200 (calcd. 261.1161)
【0046】
<化学式2f:Ethyl 4-hydroxy-6,7-dimethoxyquinoline-2-carboxylate>
【化12】
原料の置換アニリン : 3,4-ジメトキシアニリン(R=3,4-OCH
化学式2fの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 7.43(s, 1H, Ar-H), 7.40(s, 1H, Ar-H), 6.66(s, 1H, Ar-H), 4.38(q, J=7.1Hz, 2H, CHCH), 3.85(s, 3H, OCH), 3.84(s, 3H, OCH), 1.35(t, J=7.1Hz, 3H, CHCH),
m/z [M+H] 278.1100 (calcd. 278.1023)
【0047】
<化学式2g:Ethyl 4-hydroxy-6-methoxyquinoline-2-carboxylate>
【化13】
原料の置換アニリン : 4-メトキシアニリン(R=OCH
化学式2gの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 12.08(s, 1H, OH), 7.90(d, J=9.2Hz, 1H, ArH), 7.46(d, J=3.0Hz, 1H, ArH), 7.36(dd, J=9.2, 3.0Hz, 1H, ArH), 6.60(d, J=1.8Hz, 1H, ArH), 4.41(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 3.83(s, 3H, OCH), 1.35(t, J=7.1 Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 248.1200 (calcd. 248.0917)
【0048】
<化学式2h:Ethyl 4-hydroxy-6-(methylthio)quinoline-2-carboxylate>
【化14】
原料の置換アニリン : 4-メチルチオアニリン(R=SCH
化学式2hの化合物の同定データ :
1H-NMR(400MHz, DMSO-D6) δ 12.10(s, 1H, OH), 7.89(d, J=8.9Hz, 1H, ArH), 7.82(d, J=2.3Hz, 1H, ArH), 7.62(dd, J=8.8, 2.4Hz, 1H, ArH), 6.63(d, J=1.7Hz, 1H, ArH), 4.41(q, J=7.1Hz, 2H, OCHCH), 2.53(s, 3H, SCH), 1.35(t, J=7.2Hz, 3H, OCHCH),
m/z [M+H] 264.0800 (calcd. 264.0689)
【0049】
上記化学式2a~2hで表される化合物を50μMのメタノール溶液として、F-7000形日立分光蛍光光度計を用い、図1に示した各化合物(キヌレン酸エチルエステル)の極大励起波長における蛍光スペクトル及び極大蛍光波長における励起スペクトルを取得した。各キヌレン酸エチルエステルの極大励起蛍光波長における蛍光強度の結果を図1に示す。
図1に示したように、キヌレン酸誘導体の蛍光強度は様々であること、化学式2hで表される化合物が最も強い蛍光強度を示すことが確認された。
【0050】
(製造例1)
試験例1において、最も強い蛍光を示した化学式2hで表されるキヌレン酸誘導体の前駆体となる本発明の構造式(1)で表される化合物(5-MeS-D-KYN)又は構造式(2)で表される化合物(5-MeS-L-KYN)を下記のようにして合成した。
【0051】
【化15】
p-メチルチオアニリン(5.12mmol)-トルエン(5mL)溶液に、三塩化ホウ素ジクロロメタン溶液(ca. 1M, 5mL)を加えた。続いて、無水塩化アルミニウム(6.84mmol)、クロロアセトニトリル(1mL)を加え、一晩加熱還流した。室温に冷却した反応液に1M 塩酸(50mL)を加え、さらに1時間還流した。反応液を分液ロートへ移し、生成物をクロロホルム(50mL×2)へ抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン(1:9)]で精製し、1-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-クロロエタン-1-オンを黄色油状物として得た(1.09mmol、18.7%)。
1-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-クロロエタン-1-オンの同定データは、下記のとおりであった。
m/z [M+H] 216.02339 (calcd. 216.02499),
1H-NMR(400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.68(d, J=2.1Hz, 1H, Ar-H), 7.37(dd, J=8.7, 2.1Hz, 1H, Ar-H), 6.67(d, J=8.7Hz, 1H, Ar-H), 6.34(brs, 2H, NH), 4.68(s, 2H, CH), 2.43 (s, 3H, SCH
【0052】
【化16】
1-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-クロロエタン-1-オン(1.09mmol)、アセトアミドマロン酸ジエチル(1.12mmol)を乾燥ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解し、そこへナトリウムエトキシド(1.21mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。反応液を酢酸エチル(100mL)で希釈し、分液ロートへ移し、続いて水(50mL×2)で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン(1:1)]で精製し、2-アセトアミド-2-(2-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-オキソエチル)マロン酸ジエチルを褐色油状物として得た(0.482mmol、44%)。
2-アセトアミド-2-(2-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-オキソエチル)マロン酸ジエチルの同定データは、下記のとおりであった。
m/z [M+H] 397.14954 (calcd. 397.14333),
1H-NMR(400MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.81(d, J=2.1Hz, 1H, AcNH), 7.33(dd, J=8.6, 2.2Hz, 1H, Ar-H), 7.09(s, 1H, Ar-H), 6.61(d, J=8.5Hz, 1H, Ar-H), 6.25(s, 2H, Ar-NH), 4.32-4.24(m, 4H, CHCH), 4.23-4.21(m, 2H, COCH), 2.43(s, 3H, SCH), 2.01(d, J=2.5Hz, 1H, α-CH), 1.99(s, 3H, Ac-H3), 1.27-1.23(m, 6H, CHCH
【0053】
【化17】
2-アセトアミド-2-(2-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-2-オキソエチル)マロン酸ジエチル(0.482mmol)をエタノール(99.5, 10mL)へ溶解し、そこへ2M 水酸化カリウム水溶液(10mL)を加え、3時間加熱還流した。反応液に氷酢酸(4mL)を加えさらに0.5時間還流した。反応液を酢酸エチル(100mL)で希釈し、分液ロートへ移し、続いて水(50mL)で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒留去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー[シリカゲル、クロロホルム/メタノール(7:3)]で精製し、2-アセトアミド-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸を黄色~褐色油状物として得た(0.303mmol、63%)。
2-アセトアミド-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸の同定データは、下記のとおりであった。
m/z [M+H] 297.08603 (calcd. 297.09090),
1H-NMR (400MHz, METHANOL-D4) δ 7.70(d, J=2.1Hz, 1H, Ar-H), 7.24(dd, J=8.7, 2.1Hz, 1H, Ar-H), 6.66(d, J=8.7Hz, 1H, Ar-H), 4.81(m, 1H, α-CH), 3.57-3.39(m, 2H, COCH), 2.33(s, 3H, SCH), 1.92(d, J=4.8Hz, 3H, Ac-H3)
【0054】
【化18】
2-アセトアミド-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸(0.303mmol)を50mM リン酸緩衝液(pH7.4、20mL)に溶解し、そこへ触媒量の塩化コバルト(III)、D-アミノアシラーゼを加えて、37℃、40時間撹拌した。反応液を濃縮しカラムクロマトグラフィー[ODSカラム、0.2%酢酸-アセトニトリル/水(1:9)混液]で精製し、(S)-2-アセトアミド-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸を含むフラクション、及び5-MeS-D-KYNを微黄色固体として得た(0.0709mmol、23%)。
5-MeS-D-KYNの同定データは、下記のとおりであった。
m/z [M+H] 255.98409 (calcd. 255.08034),
1H-NMR(400MHz, METHANOL-D4) δ 7.76(d, J=2.1Hz, 1H, Ar-H), 7.32(dd, J=8.7, 2.1Hz, 1H, Ar-H), 6.74(d, J=8.7Hz, 1H, Ar-H), 3.98(dd, J=9.2, 2.5Hz, 1H, CH), 3.68(d, J=2.7Hz, 1H, COCH), 3.51(m, 1H, COCH), 2.39(s, 3H, SCH
【0055】
【化19】
(S)-2-アセトアミド-4-(2-アミノ-5-(メチルチオ)フェニル)-4-オキソブタン酸を含むフラクションを濃縮し、50mM リン酸緩衝液(pH7.4、20mL)に再溶解した。そこへ触媒量の塩化コバルト(III)、Aspergillus melleus由来Acylase Iを加えて、45℃、40時間撹拌した。反応液を濃縮しカラムクロマトグラフィー[ODSカラム、0.2%酢酸-アセトニトリル/水(1:9)混液]で精製し、5-MeS-L-KYNを微黄色固体として得た(0.0787mmol、26%)。
5-MeS-L-KYNの同定データは、下記のとおりであった。
m/z [M+H] 255.98409 (calcd. 255.08034),
1H-NMR(400MHz, METHANOL-D4) δ 7.76(d, J=2.1Hz, 1H, Ar-H), 7.32(dd, J=8.5, 2.5Hz, 1H, Ar-H), 6.74(d, J=8.7Hz, 1H, Ar-H), 3.98(d, J=6.2Hz, 1H, CH), 3.71(d, J=18.1Hz, 1H, COCH), 3.54-3.49(m, 1H, COCH), 2.39 (s, 3H, SCH
【0056】
(試験例2:DAO及びLAOの活性測定)
製造例1で製造した本発明の化合物を用いて、D-又はL-アミノ酸酸化酵素の活性を測定した。
【0057】
<DAOの活性測定>
0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)370μLに、200μM フラビンアデニンジヌクレオチド水溶液50μL、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、各濃度に調製したDAO溶液(ブタ腎由来、溶媒;0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)、0.064、0.16、0.32、0.64、1.6、3.2、又は6.4U/mL)20μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-D-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
【0058】
結果を図2Aに示す。図2Aに示したように、DAOの活性と、蛍光強度との間には、高い直線関係が見られた(y=183.82x-29.921、R=0.9972)。
【0059】
<LAOの活性測定>
0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)390μLに、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、各濃度に調製したLAO溶液(ニシダイヤガラガラヘビ由来、溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)、0.46、2.3、4.6、11.5、23、又は46mU/mL)20μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-L-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
【0060】
結果を図2Bに示す。図2Bに示したように、LAOの活性と、蛍光強度との間には、高い直線関係が見られた(y=20.974x+6.7469、R=0.9995)。
【0061】
また、図2Cに、励起蛍光スペクトルの一例を示す。MeS-KYNはDAO又はLAOによって青色蛍光(λ蛍光 450nm)を発するキヌレン酸に変化したことが確認された。
【化20】
【0062】
上記した酵素反応後、蛍光測定を行った後の試料をLC-UV、LC-MS(陽イオンエレクトロスプレーイオン化)で測定した。測定条件は、下記のとおりである。
LCMS装置 : JEOL JMS-100LP “AccuTOF” LC-plus, Agilent 1200 HPLC system
カラム : XBridge C18(2.1×50mm、3.5μm)
流速 : 0.3mL/min
カラム温度 : 40℃
移動相A : 0.05% HCOH in H
移動相B : 0.05% HCOH in CHOH
送液プログラム : 移動相B=3%(0-2分)、3-100%(2-15分)、100%(15分-)
【0063】
結果を図2D及び2Eに示す。図2D及び2Eに示したように、酵素反応により蛍光体が生成したことが確認された。
【0064】
以上の結果から、本発明の化合物によれば、DAO又はLAOの酵素活性の蛍光測定が可能であることが示された。
【0065】
(試験例3:LAO、DAOの選択性)
製造例1で製造した本発明の化合物のD-又はL-アミノ酸酸化酵素に対する選択性を調べた。
【0066】
<DAOの活性測定>
0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)370μLに、200μM フラビンアデニンジヌクレオチド水溶液50μL、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、DAO溶液(ブタ腎由来、溶媒;0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)、6.4U/mL)20μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-D-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))又は10mM MeS-L-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
【0067】
<LAOの活性測定>
0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)390μLに、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、各濃度に調製したLAO溶液(ニシダイヤガラガラヘビ由来、溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)、46mU/mL)20μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-D-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))又は10mM MeS-L-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
【0068】
結果を図3A~3Cに示す。図3A~3C中、(A)はDAOの活性測定においてMeS-D-KYNを用いた場合の結果を示し、(B)はDAOの活性測定においてMeS-L-KYNを用いた場合の結果を示し、(C)LAOの活性測定においてMeS-D-KYNを用いた場合の結果を示し、(D)はLAOの活性測定においてMeS-L-KYNを用いた場合の結果を示す。
【0069】
図3A~3Cに示したように、DAOに対してはMeS-D-KYNを添加した場合にのみ、LAOに対してはMeS-L-KYNを添加した場合にのみ青色蛍光が生じた。そのため、本発明の化合物は、DAOとLAOとを明確に判別できることが確認された。
【0070】
(試験例4:スクリーニングへの応用)
製造例1で製造した本発明の化合物がDAO又はLAOの酵素活性阻害剤のスクリーニングに応用できるかを検討した。
【0071】
<DAO活性阻害物質を用いた検討>
0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)370μLに、200μM フラビンアデニンジヌクレオチド水溶液50μL、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、DAO溶液(ブタ腎由来、溶媒;0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)、6.4U/mL)20μL、DAO活性阻害物質のDMSO溶液(溶液濃度;10、1.0、0.1mM(酵素反応時;200、20、2μM))1μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-D-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))又は10mM MeS-L-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
なお、使用したDAO活性阻害物質は、5-methyl-1H-pyrazole-3-carboxylic acid(MPC)又は6-chlorobenzo[d]isoxazol-3-ol(CBIO)である。
【化21】
【0072】
MPCを用いた場合の結果を図4A、CBIOを用いた場合の結果を図4Bに示す。
【0073】
<LAO活性阻害物質を用いた検討>
0.1M Tris-Hcl緩衝液(pH8.3)390μLに、20mg/mL 牛血清アルブミン水溶液20μL、1mM グルタチオン水溶液20μL、LAO溶液(ニシダイヤガラガラヘビ由来、溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3)、46mU/mL)20μL、LAO活性阻害物質のDMSO溶液(溶液濃度;10、1.0、0.1mM(酵素反応時;200、20、2μM))1μLを混合し、37℃、20分間インキュベートした。次いで、10mM MeS-L-KYN溶液(溶媒;0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3))20μLを添加して、37℃、60分間インキュベートした。その後、メタノール1.5mL加え除タンパクした上清を蛍光測定した(励起波長:364nm、蛍光波長:450nm)。
なお、使用したLAO活性阻害物質は、βクロロ-L-アラニン(βCl-L-Ala)又はアントラニル酸(Anth)である。
【化22】
【0074】
βCl-L-Alaを用いた場合の結果を図4C、Anthを用いた場合の結果を図4Dに示す。
【0075】
図4A~4Dに示したように、本発明の化合物を用いることで、酵素活性阻害剤の添加量に応じた酵素活性の低下を検出することができた。したがって、本発明の化合物は、スクリーニングへの応用も可能であることが示された。

図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D