(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022671
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/40 20060101AFI20230208BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
C12P7/40
C12N9/88 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127673
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 努
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL05
4B064AD13
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】(メタ)アクリルアミドを加水分解して得られる(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることを含む、(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることを含む、(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルアミドを、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリロニトリルと、を水性媒体中で作用させて得ることを更に含む、請求項1に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【請求項3】
前記ニトリルヒドラターゼ及び前記アミダーゼの存在下、(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法である、請求項2に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【請求項4】
前記ニトリルヒドラターゼが、シュードノカルディア属の細菌に由来するニトリルヒドラターゼである、請求項2又は請求項3に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、(メタ)アクリルアミドを加水分解して得られる(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸は樹脂製造用のモノマー原料として、あるいは様々な化学品の原料として有用な化合物である。
アクリル酸の主要な製造方法の一つであるプロピレンを酸化する方法は、多くの場合に用いられている。
メタクリル酸の主要な製造方法の一つとして、アセトンシアンヒドリンから製造される硫酸メタクリルアミドを加水分解する方法が多くの場合に用いられている。また、メタクリル酸はイソブチレンのアンモ酸化によって製造されるメタクリロニトリルの加水分解による製造方法も知られている。
【0003】
近年、微生物由来の触媒を用いた方法は、(メタ)アクリルアミドの転化率及び選択率が高いことから工業的に注目を浴びている。
アミド化合物を加水分解しカルボン酸を生産する酵素として、例えば、特許文献1には、シュードノカルディア(Psuedonocardia)属由来の特定の配列を有する熱的に安定なアミダーゼが開示されている。
アクリルアミドを分解する方法として、例えば、特許文献2には、アクリルアミドを含む媒体をメチロフィラス(Methylophilus)種に属するバクテリアから得られるアミダーゼ酵素に、この酵素に適した条件下で接触させる方法が開示されている。
エチレン性不飽和アミド若しくはエチレン性不飽和カルボン酸又はこれらの塩を対応するエチレン性不飽和ニトリルから調製する方法として、例えば、特許文献3には、ディーツィア(Dietzia)属に属する微生物から得られるニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼを用いる方法が開示されている。
エチレン性不飽和カルボン酸のアンモニウム塩の製造方法として、例えば、特許文献4には、ディーツィア属に属する微生物から得られるアミダーゼを用いる方法が開示されている。
アクリロニトリルからアクリル酸への加水分解、及びメタクリロニトリルからメタクリル酸への加水分解を、高収率、かつ高特異性で高濃度にする方法として、例えば、特許文献5には、コマモナス(Comamonas)属由来のニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼ活性を有することを特徴とする触媒を用いる方法が開示されている。
不飽和ニトリル及び/又は不飽和アミドの加水分解で不飽和カルボン酸アンモニウムを製造する方法として、例えば、特許文献6には、アシネトバクター(Acinetobacter)属の微生物を用いる方法が開示されている。
アクリル酸を製造する方法として、例えば、特許文献7には、トリコスポロン(Trichosporon)属由来のアミダーゼを用いる方法が開示されている。
アクリルアミドを分解してアクリル酸を製造する方法として、例えば、特許文献8には、バリオボラックス(Variovorax)属由来のアミダーゼを用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開第2007/172933号公報
【特許文献2】欧州特許公開第EP272025A2号
【特許文献3】国際公開第2006/007957号
【特許文献4】国際公開公報2005/054455号
【特許文献5】米国特許公開第2003/0148480号公報
【特許文献6】特開2004-323606号公報
【特許文献7】中国特許公開第101768555号公報
【特許文献8】中国特許公開第102787129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~8には、微生物由来のアミダーゼを用いた(メタ)アクリル酸又はその塩を得る方法が開示されているが、特許文献1~8のいずれにもシュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを用いて(メタ)アクリルアミドから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法は開示されていない。
また、プロピレンのアンモ酸化によって製造されるアクリロニトリルを加水分解して、アクリル酸を製造する方法は大量の硫酸アンモニウムが生成することが懸念されている。 また、アセトンシアンヒドリンから製造される硫酸メタクリルアミドを加水分解する方法では大量の硫酸が必要とすることが懸念されている。
このような事情から、微生物由来の触媒として、アミダーゼを含有する菌体及び/又はその菌体処理物を用いた(メタ)アクリルアミドの加水分解反応において、より効率的に(メタ)アクリル酸又はその塩を製造することが求められている。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、(メタ)アクリルアミドを加水分解して得られる(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼと、(メタ)アクリルアミドと、を作用させることで(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本開示は以下の態様が含まれる。
<1> シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることを含む、(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
<2> 前記(メタ)アクリルアミドを、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリロニトリルと、を水性媒体中で作用させて得ることを更に含む、<1>に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
<3> 前記ニトリルヒドラターゼ及び前記アミダーゼの存在下、(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法である、<2>に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
<4> 前記ニトリルヒドラターゼが、シュードノカルディア属の細菌に由来するニトリルヒドラターゼである、<2>又は<3>に記載の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、(メタ)アクリルアミドを加水分解して得られる(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示におけるヌクレオチド配列の説明は、当該ヌクレオチド配列を保持している核酸鎖が二本鎖を形成している場合であっても一方の鎖上の配列に着目してなされる場合があるが、二本鎖のうち他方の鎖においては、そのような配列の説明はその相補的な配列へと読み替えて適用すべきである。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。 また、本開示において、「質量%」と「重量%」と「Wt%]とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
((メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法)
本開示の第1実施形態に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることを含む。
本開示の第2実施形態に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と(メタ)アクリロニトリルとを水性媒体中で作用させて得られた(メタ)アクリルアミドと、上述のシュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を水性媒体中で作用させて(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法である。
【0012】
〔第1実施形態〕
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることを含む。
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させることにより、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造することができる。
【0013】
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させること以外の工程を更に含んでいてもよい。
以下、本開示の(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法の詳細について説明する。
【0014】
<特定の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、シュードモナス属、及び、アシドフィリウム属から選ばれる少なくとも一方の細菌に由来するアミダーゼ(以下、「特定の細菌に由来するアミダーゼ」と称する場合がある。)を含有する菌体及び菌体処理物(以下、これらを単に「アミダーゼ触媒」ともいう。)を(メタ)アクリルアミドの(メタ)アクリル酸又はその塩への加水分解触媒として用いる。
シュードモナス属の細菌に由来するアミダーゼとしては、Pseudomonas putida、Pseudomonas chlororaphis等に由来するアミダーゼが挙げられる。
また、アシドフィリウム属の細菌に由来するアミダーゼとしては、Acidiphilium cryptum等に由来するアミダーゼが挙げられる。
特定の細菌に由来するアミダーゼは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、特定の細菌に由来するアミダーゼと、特定の細菌に由来しないアミダーゼと、を組み合わせて用いてもよいが、本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、特定の細菌に由来しないアミダーゼを用いないことが好ましい。
【0015】
特定の細菌に由来するアミダーゼの中でも、大腸菌等の常温で生育する宿主においてアミダーゼを発現させるのが容易であるため、高度好熱菌及び超高度好熱菌に属さない生物由来のアミダーゼであることがより好ましく、特にPseudomonas putida NBRC1266に由来するアミダーゼであることが更に好ましい。
Pseudomonas putida NBRC12668由来のアミダーゼのアミノ酸配列及びDNA配列を配列表の配列番号1、及び、2に示す。
【0016】
<<アミダーゼ変異体>>
特定の細菌に由来するアミダーゼは、例えば、Pseudomonas putida NBRC12668由来のアミダーゼのアミノ酸配列の一部が他のアミノ酸に置換されたアミダーゼも利用することができる。
例えば、Pseudomonas putida NBRC12668由来のアミダーゼのアミノ酸配列である配列番号1に記載のアミノ酸配列において、51番目のIleがThr、146番目のLeuがVal、149番目のAlaがGly、181番目のAlaがSer、186番目のLeuがIle、190番目のGlyがThr、262番目のValがAla、280番目のIleがVal、295番目のGlyがAla、317番目のValがIle、356番目のAlaがGly、379番目のMetがLeu、384番目のPheがTyr、400番目のIleがLeu、442番目のSerがAla、447番目のMetがThr、448番目のLeuがIle、469番目のValがLeu、480番目のGlyがAla、及び、498番目のAlaがSerとなるアミノ酸の置換より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸の置換を含み、かつ、アミダーゼ活性を有するアミダーゼ変異体を利用することができる。
【0017】
なお、本明細書において、アミノ酸、ペプチド、タンパク質は下記に示すIUPAC-IUB生化学命名委員会(CBN)で採用された略号を用いて表される。また、特に明示しない限り、ペプチド及びタンパク質のアミノ酸残基の配列は、左端から右端にかけてN末端からC末端となるように表される。また、特に明示しない限り、ペプチド及びタンパク質のアミノ酸残基の配列は、N末端のアミノ酸残基が1番目のアミノ酸残基になるように表される。
A=Ala=アラニン、C=Cys=システイン、
D=Asp=アスパラギン酸、E=Glu=グルタミン酸、
F=Phe=フェニルアラニン、G=Gly=グリシン、
H=His=ヒスチジン、I=Ile=イソロイシン、
K=Lys=リシン、L=Leu=ロイシン、
M=Met=メチオニン、N=Asn=アスパラギン、
P=Pro=プロリン、Q=Gln=グルタミン、
R=Arg=アルギニン、S=Ser=セリン、
T=Thr=スレオニン、V=Val=バリン、
W=Trp=トリプトファン、Y=Tyr=チロシン
【0018】
本開示に係る一実施形態におけるアミダーゼとしては、アミダーゼを産生するように形質転換された形質転換体を用いることもできる。
この形質転換体を得る方法としては、遺伝子データベースGenBankなどに登録されているアミダーゼをコードする遺伝子を発現ベクターにクローニングすることで、アミダーゼをコードするDNA及びこのDNAにハイブリダイズするDNAを得ることができる。
【0019】
クローニングする際に用いるベクターとしては、特に制限はなく、宿主微生物内で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。
【0020】
ファージとしては、例えば大腸菌(Escherichia coli)を宿主細菌とする場合には、Lambda gt10、Lambda gt11等が例示することができる。
また、プラスミドとしては、例えば、大腸菌を宿主細菌とする場合には、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもBoehringer Mannheim社製)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pBluescriptII SK+、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pET-3(Novagen社製)、pUC18(タカラバイオ(株)製)、pSTV28(タカラバイオ(株)製)、pSTV29(タカラバイオ(株)製)、pUC118(タカラバイオ(株)製)等を例示することができる。
なお、宿主と異なる菌由来の酵素を遺伝子組換え等により導入し発現させる場合、コドンユーセージ(codon usage)を宿主に合うように改変して使用した方がより好ましい。
【0021】
プロモーターとしては、宿主細胞中でアミダーゼを発現できるものであれば特に制限はされない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PHプロモーター、PSEプロモーター等の、Eschenchia coliやファージ等に由来するプロモーターをあげることができる。またtacプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。さらにバチルス属細菌中で発現させるためにNpプロモーター(特公平8-24586号公報)なども用いることができる。
【0022】
リボソーム結合配列としては、宿主細胞中でアミダーゼを発現できるものであれば特に制限はされないが、シャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6塩基~18塩基)に調節されたプラスミドを用いることが好ましい。
【0023】
転写及び翻訳を効率的に行うため、該タンパク質活性を有するタンパク質のN末端又はその一部を欠失したタンパク質と、発現ベクターのコードするタンパク質のN末端部分と、を融合させたタンパク質を発現させてもよい。
【0024】
形質転換体を培養するための培地は、当該形質転換体が増殖し得る培地であれば特に制限はない。培地としては、通常、炭素源、窒素源、その他の養分等を含む液体培地が使用される。
培地の炭素源としては、例えば、グルコース、シュクロース、デンプンなどの糖類、ソルビトール、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸などの有機酸類及びその塩類、パラフィンなどの炭化水素類、並びにこれらの混合物などが挙げられる。
培地の窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、肉エキス、酵母エキス、尿素、アミノ酸などの有機又は無機含窒素化合物、並びに、これらの混合物などが挙げられる。
また培地には、塩化マグネシウム、塩化第二鉄などの無機塩類、微量金属塩、ビタミン類などの通常の培養に用いられる栄養源を適宜添加してもよい。また、必要に応じて、形質転換体の増殖を促進する因子、培地のpH保持に有効な緩衝物質などを培地に添加してもよい。
【0025】
形質転換体の培養は、生育に適した条件下、例えば、培地のpH2~pH12、好ましくはpH4~pH10、温度5℃~50℃、より好ましくは温度20℃~50℃で行うことができる。
形質転換体の培養は、形質転換体の種類にもよるが、嫌気性又は好気性条件下の何れで行うことができるが、好気性条件下で行うことがより好ましい。
【0026】
形質転換体の培養時間は、例えば、1時間~240時間程度、好ましくは5時間~120時間程度、さらに好ましくは12時間~72時間程度である。
【0027】
培養した形質転換体は、そのまま反応に用いてもよいし、種々の処理を施してから反応に利用してもよい。この処理としては、例えば、形質転換体の破砕処理、凍結乾燥処理、抽出処理等が挙げられる。
上記抽出処理としては、超音波法、凍結融解法、リゾチーム法などの慣用の方法を利用することができる。このような処理を行うことで、形質転換体からアミダーゼを取り出すことができる。得られたアミダーゼは、未精製のまま用いてもよいし、精製してから用いてもよい。
アミダーゼの精製方法としては、例えば、培養液から遠心分離などにより分離した形質転換体を、水などで洗浄した後、pHが酵素の安定領域にある緩衝液に懸濁し、低温(3℃~18℃、好ましくは、3℃~10℃)下にフレンチプレス又は超音波等で処理して形質転換体を破砕する。そして、遠心分離等により形質転換体の破片を分離除去し、得られた形質転換体の抽出液を常法により硫酸アンモニウムで分画し、透析してアミダーゼの粗抽出液を得る。このアミダーゼの粗抽出液を、例えばセファデックスG-200などを用いたカラムクロマトグラフィーに付す方法等により高純度のアミダーゼを得ることができる。
また、界面活性剤、トルエンなどの有機溶媒によって、細胞膜の透過性を変化させた形質転換体などを用いることもできる。
また、ポリアクリルアミドゲル法などの慣用の方法により形質転換体又はアミダーゼを固定化して用いてもよい。
【0028】
<(メタ)アクリルアミド>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法に用いられる(メタ)アクリルアミドは、市販品を用いてもよいし、(メタ)アクリルアミドを合成したものを用いてもよい。
(メタ)アクリルアミドの合成方法としては、公知の合成方法を用いてもよいが、効率的に目的物が得られる観点から、微生物触媒を用いて(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリルアミドを合成する方法であることが好ましく、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリルアミドを合成する方法できることがより好ましい。
【0029】
効率的に目的物が得られる観点から、本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法に用いる(メタ)アクリルアミドは、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリロニトリルと、を水性媒体中で作用させて得られることが好ましい。
なお、(メタ)アクリルアミドの合成に用いるニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物についての詳細は後述する。
【0030】
<<水(原料水)>>
本開示に係る(メタ)アクリルアミドの製造方法に用いられる原料水は、特に限定されず、純水、蒸留水、イオン交換水等の精製水を用いることができる。
本明細書において「純水」とは、水の電気伝導率が100μS/m以下である水を意味する。
【0031】
<水性媒体>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法に用いる水性媒体としては、特に制限はなく、通常、水が用いられるが、水と水溶性有機溶媒の混合物も使用することができる。水性媒体として用いる水は特に限定されず、純水、蒸留水、イオン交換水等の精製水を用いることができる。水性媒体として用いる水の一部を原料水として反応に用いることもできる。
水と混合する水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒、
ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
水と水溶性有機溶媒を混合物して用いる場合の、水と水溶性有機溶媒の混合比はアミダーゼ触媒(すなわち、特定の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び/又はその菌体処理物)のアミダーゼ活性が良好に維持できる範囲であれば特に限定するものではないが、好ましくは水:水溶性有機溶媒の比率が体積比で100:100~100:1、より好ましくは100:50~100:1、更に好ましくは100:30~100:1である。
【0032】
<<pH調節剤>>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、(メタ)アクリルアミドの加水分解反応に際してpH調節剤を用いることもできる。pH調節剤は、反応混合物のpHをアミダーゼ触媒の活性を良好に保つための好適な範囲に調節するために用いられる。
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、必要に応じて、pH調節剤を用いてもよい。
pH調節剤は、アミダーゼを含有する菌体及び/又はその菌体処理物(アミダーゼ触媒)と(メタ)アクリルアミドとの混合物のpHを、アミダーゼ触媒の活性を良好に保つための好適な範囲に調節することができる。
【0033】
(メタ)アクリルアミドの加水分解反応に好適なpHが7よりも小さい場合には、pH調節剤として酸を用いることができる。
pH調節剤として用いる酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることができる。 無機酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、沃化水素等のハロゲン化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜沃素酸、亜沃素酸、沃素酸、過沃素酸等のハロゲン化オキソ酸、硫酸、硝酸、燐酸、硼酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、蓚酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、乳酸、安息香酸等のカルボン酸やメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。
pH調節剤として用いる酸は、気体、固体、又は、液体のいずれの状態でも用いることができるが、反応槽への供給の容易性を考慮すると、液体の状態のものを用いることが好ましい。また、気体又は固体の状態の酸は、水溶液として用いることはより好ましい。
反応槽のpH調節の制御性を考慮すると、液体の状態の酸も水溶液として用いることがより好ましい。酸を水溶液として用いる場合、酸の濃度としては、特に制限はないが、pH調節が容易な点から、好ましくは0.1wt%以上99wt%以下、より好ましくは1wt%以上90wt%以下、更に好ましくは1wt%以上50wt%以下である。
【0034】
(メタ)アクリルアミドの加水分解反応に好適なpHが7よりも大きい場合には、pH調節剤として塩基を用いることができる。
pH調節剤として用いる塩基としては、無機塩基、有機塩基のいずれも用いることができる。無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩、アンモニアが挙げられる。有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アニリン、ピリジンが挙げられる。
pH調節剤として用いる塩基は、気体、固体、又は、液体のいずれの状態でも用いることができるが、反応槽への供給の容易性を考慮すると、液体の状態のものを用いることが好ましい。気体又は固体の状態の塩基は、水溶液として用いることが好ましい。反応槽のpH調節の制御性を考慮すると、液体の状態の塩基も水溶液として用いることが好ましい。水溶液として用いる場合の塩基の濃度は、特に制限はないが、pH調節が容易な点から、好ましくは0.1wt%以上99wt%以下、より好ましくは1wt%以上90wt%以下、さらに好ましくは1wt%以上50wt%以下である。
【0035】
特定の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物(アミダーゼ触媒)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリルアミドと、を水性媒体中で作用させる方法(加水分解反応の方法)は、特に制限はないが、例えば、(1)~(3)の方法等が挙げられる。
(1)アミダーゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリルアミド及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤を反応槽に一度に全量仕込んでから反応を行う方法(回分反応)。
(2)アミダーゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリルアミド及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤の一部を反応槽に仕込んだ後、連続的又は間欠的に残りのアミダーゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリルアミド及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤を供給して反応を行う方法(半回分反応)。
(3)アミダーゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリルアミド及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤の連続的又は間欠的な供給と、反応液{アミダーゼ触媒、未反応原料、水性媒体、pH調節剤及び生成した(メタ)アクリル酸又はその塩等を含む。}の連続的又は間欠的な取り出しを行いながら、反応槽内の反応液を全量取り出すことなく連続的に反応を行う方法(連続反応)。
【0036】
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、アミダーゼ触媒の使用形態として、好ましくは懸濁床であり、例えば、アミダーゼ触媒の懸濁液を調製し、懸濁液を反応槽に供給すればよい。
【0037】
反応槽内の液温である反応槽温度は、アミダーゼ触媒の耐熱性にもよるが、通常0℃~50℃に設定され、好ましくは10℃~40℃に設定される。反応槽温度が上記範囲にあると、アミダーゼ触媒の活性を良好に維持できる点で好ましい。
【0038】
反応槽内の圧力としては、一般的には常圧下で行われるが、(メタ)アクリルアミドの溶解度を高めるために加圧下で行うこともできる。加圧条件としては、例えば、0.01MPa以上1MPa以下が好ましい。
【0039】
反応槽内のpHは、アミダーゼ触媒の活性を良好に保つための好適な範囲であれば特に限定されないが、好ましくはpH5~pH10の範囲にある。pHが上記範囲にあると、アミダーゼ触媒の活性を良好に維持できる点で好ましい。
【0040】
〔第二実施形態〕
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と(メタ)アクリロニトリルとを水性媒体中で作用させて得られた(メタ)アクリルアミドと、上述の特定の細菌に由来するアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を水性媒体中で作用させて(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法であることが好ましい。
また、本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法は、上記ニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼの存在下、(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法であってもよい。
具体的には、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種と上述のアミダーゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを混合し、この混合液を(メタ)アクリロニトリルに添加して、(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法が挙げられる。
【0041】
<ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び/又はその菌体処理物>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法において、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及び菌体処理物からなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、これらを単に「ニトリルヒドラターゼ触媒」ともいう。)を(メタ)アクリロニトリルの(メタ)アクリルアミドへの水和触媒として用いてもよい。
【0042】
本明細書において、ニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物のニトリル基に作用し、ニトリル基を水和してアミド基とする酵素を示す。
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法で用いるニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリロニトリルを効率的に水和できればよく、微生物、植物、かび、動物、昆虫等に由来するニトリルヒドラターゼであってもよい。
【0043】
ニトリルヒドラターゼを生産する微生物としては、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、バクテリディウム(Bacteridium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属等に属する微生物が挙げられる。
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法で用いるニトリルヒドラターゼとしては、シュードモナス属又はシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼが好ましく、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼがより好ましい。
【0044】
シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを含有する菌体としては、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生し、かつ、ニトリル化合物及びアミド化合物を含む水溶液中でニトリルヒドラターゼ活性を保持している菌体であれば特に限定されない。
シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを含有する菌体は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、これら菌体よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で高発現させた形質転換体、及び、組換えDNA技術を用いて該ニトリルヒドラターゼの構成アミノ酸の一個又は二個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アミド化合物に対する耐性やニトリル化合物に対する耐性、温度耐性を更に向上させた変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体等は、アミド化合物の生産性が向上している点から好ましい。
なお、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、とくに大腸菌に限定されるものではなく枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の菌株も含まれる。その様なものの例として、MT-10822〔本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター)に受託番号FERMBP-5785として、特許手続き上の菌体の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。〕が挙げられる。
【0046】
シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼのクローニングする際に用いるベクターは、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を含有するものであり、ベクターにシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を連結することにより得ることができる。
ベクターとしては、特に限定されるものではなく、例えばpET-21a(+)、pKK223-3、pUC19、pBluescriptKS(+)及びpBR322等に代表される市販の発現プラスミドに、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子を組み込むことにより、該ニトリルヒドラターゼの発現プラスミドを構築することができる。また、形質転換に使用する宿主生物としては、ベクターが安定、かつ自己増殖可能で、さらに外来のDNAの形質が発現できるものであればよく、例えば大腸菌が好例として挙げられるが、大腸菌だけに限らず枯草菌、酵母等に導入することにより、ニトリルヒドラターゼの産生能を有する形質転換体を得ることができる。
【0047】
上述のようなシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生する菌体は、公知の方法により、適宜培養し増殖させ、ニトリルヒドラターゼを産生させてもよい。
シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生する菌体の培養に使用される培地としては炭素源、窒素源、無機塩類及びその他の栄養素を適量含有する培地であれば合成培地又は天然培地のいずれも使用可能である。
例えば、LB培地、M9培地等の通常の液体培地に、菌体を植菌した後、適当な培養温度(一般的には20℃~50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい。)で培養させることにより調製できる。培養は前記培養成分を含有する液体培地中で振とう培養、通気撹拌培養、連続培養、流加培養等の通常の培養方法を用いて行うことができる。
形質転換体の培養温度としては、15℃~37℃が好ましい。
培養条件は、特に限定されるものではなく、培養の種類、培養方法により適宜選択すればよく、菌株が生育しニトリルヒドラターゼを産生することができればよい。
【0048】
上述のシュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生する菌体は、ニトリル化合物と反応させるために、遠心等による集菌、破砕し菌体破砕物を作製する等、さまざまな処理を行ってもよく、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生する菌体処理物は、これらのなんらかの処理を施した菌体を指す。
菌体処理物にはニトリルヒドラターゼを産生する菌体を破砕し、菌体破砕物から不溶物を除去することにより取り出された状態のニトリルヒドラターゼを含まれ、本明細書では、この様にして取り出された状態のニトリルヒドラターゼを遊離ニトリルヒドラターゼと称する場合がある。また、遊離ニトリルヒドラターゼは、菌体及び/又はその菌体破砕物由来の不溶物を含有するものではない。
破砕される菌体の形態としては、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼを産生する菌体を含む限り特に限定はされず、例えば、該菌体を含む培養液そのもの、その培養液を遠心分離して分離又は回収された集菌体、さらにこの集菌体を生理食塩水等で洗浄したもの等が挙げられる。
ニトリルヒドラターゼを産生する菌体からニトリルヒドラターゼを取り出す方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、特許第5430659号公報に記載の方法を用いることができる。
【0049】
<<シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼ>>
シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼは、野生型シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼ(以下、単に、「野生型ニトリルヒドラターゼ」と称する場合がある。)であってもよいし、変異型シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼ(以下、単に、「変異型ニトリルヒドラターゼ」ともいう場合がある。)であってもよい。
変異型ニトリルヒドラターゼは、ニトリルヒドラターゼを構成するアミノ酸の一つ又は二つ以上に対して、他のアミノ酸で置換、欠失、削除又は挿入されたニトリルヒドラターゼであり、後述する組換えDNA技術を用いて作製することができる。
(メタ)アクリル酸又はその塩の生産性を向上させる点から、シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼは、変異型シュードノカルディア属由来のニトリルヒドラターゼ(変異型ニトリルヒドラターゼ)であることが好ましい。
【0050】
〔変異型ニトリルヒドラターゼ〕
(メタ)アクリル酸又はその塩の生産性を向上させる点から、変異型ニトリルヒドラターゼとしては、配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するαサブユニットと、配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するβサブユニットとを有するシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼにおいて、下記のアミノ酸置換位置(1L)~(37L)からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸残基に置換された変異型ニトリルヒドラターゼであることが好ましい。
【0051】
配列番号3で表されるアミノ酸配列とは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列である。
配列番号4で表されるアミノ酸配列とは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列である。
配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するαサブユニットとは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラに由来するニトリルヒドラターゼが有するαサブユニット(野生型αサブユニット)と比較した場合、野生型αサブユニットのアミノ酸配列と90%以上一致しているアミノ酸配列を有するαサブユニットであることを意味している。
同様に配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するβサブユニットとは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラに由来するニトリルヒドラターゼが有するβサブユニット(野生型βサブユニット)と比較した場合、野生型βサブユニットのアミノ酸配列と90%以上一致しているアミノ酸配列を有するβサブユニットであることを意味している。
【0052】
また、変異型ニトリルヒドラターゼは、αサブユニットとβサブユニットが会合した2量体がその基本構造単位となっており、その2量体が更に会合して4量体を形成する。αサブユニットのN末端から111番目のアミノ酸残基であるシステイン残基がシステインスルフィン酸(Cys-SOOH)に、N末端から113番目のアミノ酸残基であるシステイン残基がシステインスルフェン酸(Cys-SOH)にそれぞれ翻訳後修飾を受け、この修飾アミノ酸残基を介してαサブユニットのポリペプチド鎖とコバルト原子が結合し、活性中心を形成するものである。
【0053】
変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩の生産性を向上させる点から、シュードノカルディア・サーモフィラに由来するニトリルヒドラターゼであることが好ましい。
本開示において、シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼとは、配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと配列番号4のアミノ酸配列を有するβサブユニットを有する野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼだけでなく、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼに対して、当業者が野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼの改変配列であると認識できる程度に、改変を加えた改変ニトリルヒドラターゼをも含む概念である。
シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼの概念に含まれる改変ニトリルヒドラターゼには、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼに対して、(i)1つ以上のアミノ酸残基における別のアミノ酸残基への置換、(ii)アミノ酸残基置換(1A)~(37A)以外の1つ以上のアミノ酸残基の欠損、(iii)アミノ酸残基の挿入、(iv)αサブユニットのアミノ酸配列のN末端及びC末端のうち一方若しくは両方へのアミノ酸残基の付加、(v)βサブユニットのアミノ酸配列のN末端及びC末端のうち一方若しくは両方へのアミノ酸残基の付加、からなる群から選択される1つ以上の改変を加えた改変ニトリルヒドラターゼも含まれる。
なお、後述で詳述するが、変異型ニトリルヒドラターゼが含むアミノ酸残基置換を導入する際に、改変ニトリルヒドラターゼを用いて変異型ニトリルヒドラターゼを作製してもよい。
【0054】
-改変ニトリルヒドラターゼ-
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、置換されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~20であり、あるいは1~15であり、あるいは1~10であり、あるいは1~8であり、あるいは1~7であり、あるいは1~6であり、あるいは1~5であり、あるいは1~4であり、あるいは1~3であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。置換されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、置換されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~20であり、あるいは1~15であり、あるいは1~10であり、あるいは1~8であり、あるいは1~7であり、あるいは1~6であり、あるいは1~5であり、あるいは1~4であり、あるいは1~3であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。置換されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0055】
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、欠失されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。欠失されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、欠失されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。欠失されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0056】
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、挿入されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。挿入されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、挿入されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。挿入されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0057】
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、例えば、1~20であり、あるいは1~14であり、あるいは1~8であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。末端付加がある場合などは、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、例えば、1~20であり、あるいは1~14であり、あるいは1~8であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。末端付加がある場合などは、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、0であってもよい。
【0058】
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
末端付加アミノ酸残基は、例えば分泌シグナル配列であってもよい。末端付加アミノ酸残基はN末端のみに、C末端のみに、あるいはN末端及びC末端の両方に存在してもよい。
【0059】
改変ニトリルヒドラターゼと野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼとの類似性は、配列同一性によっても表現できる。
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号3で表される野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列との間で、例えば70%以上の配列同一性を有し、あるいは80%以上の配列同一性を有し、あるいは85%以上の配列同一性を有し、あるいは90%以上の配列同一性を有し、あるいは95%以上の配列同一性を有し、あるいは96%以上の配列同一性を有し、あるいは97%以上の配列同一性を有し、あるいは98%以上の配列同一性を有し、あるいは99%以上の配列同一性を有する。
【0060】
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号4で表される野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列との間で、例えば70%以上の配列同一性を有し、あるいは80%以上の配列同一性を有し、あるいは85%以上の配列同一性を有し、あるいは90%以上の配列同一性を有し、あるいは95%以上の配列同一性を有し、あるいは96%以上の配列同一性を有し、あるいは97%以上の配列同一性を有し、あるいは98%以上の配列同一性を有し、あるいは99%以上の配列同一性を有する。
【0061】
なお、配列同士のアラインメントは、ClustalW(1.83)で行うことができ、初期パラメータ(ギャップオープンペナルティ:10、ギャップエクステンションペナルティ:0.05を含む)を使用して行うことができる。
【0062】
改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列を野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列とアラインメントした場合、改変ニトリルヒドラターゼの改変の様式によっては、アラインメントの上で対応するアミノ酸残基同士であっても、上記のように規定されたサブユニットのN末端からの距離が異なることがある。
本開示においては、このような場合、改変ニトリルヒドラターゼについて、サブユニットのN末端からX番目のアミノ酸残基とは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼの当該サブユニットのN末端からX番目のアミノ酸残基とアラインメント上対応するアミノ酸残基を指す。
例えば、本開示における「αサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基」、「αサブユニットのN末端から40番目のAsp残基」あるいは「αサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基であるAsp残基」とは、改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列上においては、αサブユニットのN末端から40番目以外の位置に位置することがありうる。
例えば、改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から41番目のアミノ酸残基(必ずしもAspでなくてもよい)が、アミノ酸残基の挿入の結果、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基であるAsp残基に対応することがありうる。このような場合、本開示中の説明における「αサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基」、「αサブユニットのN末端から40番目のAsp残基」又は「αサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基であるAsp残基」とは、改変ニトリルヒドラターゼ中のαサブユニットのN末端から41番目のアミノ酸残基を指す。
【0063】
<<アミノ酸置換位置(1L)~(37L)>>
変異型ニトリルヒドラターゼは、アミノ酸置換位置(1L)~(37L)からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置(以下、「特定アミノ酸置換位置」ともいう。)で他のアミノ酸残基に置換された変異型ニトリルヒドラターゼであることが好ましい。
変異型ニトリルヒドラターゼにおいて、αサブユニット及びβサブユニットのいずれか一方が、特定アミノ酸置換位置で他のアミノ酸残基に置換されていてもよいし、αサブユニット及びβサブユニットの両方が、特定アミノ酸置換位置で他のアミノ酸残基に置換されていてもよい。
【0064】
(1L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から13番目、
(2L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から27番目、
(3L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から36番目、
(4L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から40番目、
(5L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から43番目、
(6L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から71番目、
(7L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から92番目、
(8L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から94番目、
(9L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から148番目、
(10L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から197番目、
(11L)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から204番目、
(12L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から4番目、
(13L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から10番目、
(14L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から24番目、
(15L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から32番目、
(16L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から37番目、
(17L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から41番目、
(18L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から46番目、
(19L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から48番目、
(20L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から51番目、
(21L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から72番目、
(22L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から79番目、
(23L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から96番目、
(24L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から107番目、
(25L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から110番目、
(26L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から118番目、
(27L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から127番目、
(28L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から146番目、
(29L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から160番目、
(30L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から186番目、
(31L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から205番目、
(32L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から206番目、
(33L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から215番目、
(34L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から217番目、
(35L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から226番目、
(36L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から230番目、
(37L)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から231番目。
【0065】
〔〔他のアミノ酸置換位置〕〕
変異型ニトリルヒドラターゼは、上記特定アミノ酸置換位置に加えて、特定アミノ酸置換位置以外の位置(以下、「他の置換位置」)で他のアミノ酸に置換されていてもよい。
他の置換位置としては、特に制限はないが、例えば、αサブユニットにおいて配列番号3のN末端から6番目、19番目、48番目、126番目、188番目等が挙げられる。
また、他の置換位置としては、例えば、βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から8番目、33番目、40番目、47番目、61番目、108番目、112番目、168番目、176番目、200番目、212番目、218番目等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造できる観点から、変異型ニトリルヒドラターゼは、特定アミノ酸置換位置、及び、他の置換位置で他のアミノ酸に置換されていることが好ましい。
他の位置としては、αサブユニットにおいて配列番号3のN末端から6番目、19番目、48番目及び126番目、並びに、βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から108番目、176番目及び212番目からなる群から選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸に置換されていることがより好ましい。
【0066】
変異型ニトリルヒドラターゼにおいて、特定アミノ酸置換位置及び他の置換位置で他のアミノ酸残基に置換される数は、特に制限されず、1~20、1~15、1~10、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、又は、1であってもよい。
(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造できる観点から、他のアミノ酸残基に置換される数としては、1~20であることが好ましく、2~15であることがより好ましく、3~12であることが更に好ましい。
【0067】
<<アミノ酸残基置換(1A)~(37A)>>
変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩が効率的に得られる観点から、上記置換(すなわち、特定アミノ酸置換位置における置換)が、下記の(1A)~(37A)からなる群から選ばれる少なくとも1つ置換(以下、「特定アミノ酸残基置換」)を含むことが好ましい。
なお、本明細書において、アルファベット3文字は、特に断りのない場合には、アミノ酸残基を表している。例えば、「Ile」とはイソロイシン残基を表している。
【0068】
(1A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から13番目に対応するアミノ酸残基IleからLeuへの置換、
(2A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から27番目に対応するアミノ酸残基MetからIleへの置換、
(3A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から36番目に対応するアミノ酸残基ThrからMet基への置換、
(4A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から40番目に対応するアミノ酸残基AspからAsnへの置換、
(5A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から43番目に対応するアミノ酸残基AlaからValへの置換、
(6A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から71番目に対応するアミノ酸残基ArgからHis基への置換、
(7A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から92番目に対応するアミノ酸残基AspからGluへの置換、
(8A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から94番目に対応するアミノ酸残基MetからIleへの置換、
(9A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から148番目に対応するアミノ酸残基GlyからAspへの置換、
(10A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から197番目に対応するアミノ酸残基GlyからCysへの置換、
(11A)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から204番目に対応するアミノ酸残基ValからArgへの置換、
(12A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から4番目に対応するアミノ酸残基ValからMetへの置換、
(13A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から10番目に対応するアミノ酸残基ThrからAspへの置換、
(14A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から24番目に対応するアミノ酸残基ValからIleへの置換、
(15A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から32番目に対応するアミノ酸残基ValからGlyへの置換、
(16A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から37番目に対応するアミノ酸残基PheからLeuへの置換、
(17A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から41番目に対応するアミノ酸残基PheからIleへの置換、
(18A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から46番目に対応するアミノ酸残基MetからLysへの置換、
(19A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から48番目に対応するアミノ酸残基LeuからValへの置換、
(20A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から51番目に対応するアミノ酸残基PheからAlaへの置換、
(21A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から72番目に対応するアミノ酸残基TrpからPheへの置換、
(22A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から79番目に対応するアミノ酸残基HisからAsnへの置換、
(23A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から96番目に対応するアミノ酸残基GlnからArgへの置換、
(24A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から107番目に対応するアミノ酸残基ProからMetへの置換、
(25A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から110番目に対応するアミノ酸残基GluからAsnへの置換、
(26A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から118番目に対応するアミノ酸残基PheからAlaへの置換、
(27A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から127番目に対応するアミノ酸残基LeuからAlaへの置換、
(28A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から146番目に対応するアミノ酸残基ArgからGlyへの置換、
(29A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から160番目に対応するアミノ酸残基ArgからLeuへの置換、
(30A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から186番目に対応するアミノ酸残基LeuからGluへの置換、
(31A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から205番目に対応するアミノ酸残基GlyからValへの置換、
(32A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から206番目に対応するアミノ酸残基ProからLeu又はGlnへの置換、
(33A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から215番目に対応するアミノ酸残基TyrからAsnへの置換、
(34A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から217番目に対応するアミノ酸残基AspからGlyへの置換、
(35A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から226番目に対応するアミノ酸残基ValからIleへの置換、
(36A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から230番目に対応するアミノ酸残基AlaからGluへの置換、
(37A)βサブユニットにおいて、配列番号4のN末端から231番目に対応するアミノ酸残基AlaからValへの置換。
【0069】
また、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩が効率的に得られる観点から、特定アミノ酸残基置換に加えて、下記の(1B)~(18B)からなる群(以下、「アミノ酸残基置換群B」ともいう)から選ばれる少なくとも1つの置換を含むことが好ましい。
(1B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から6番目に対応するアミノ酸LeuからThr又はAlaへの置換、
(2B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から19番目に対応するアミノ酸AlaからValへの置換、
(3B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から36番目に対応するアミノ酸ThrからTrp、Ser、Gly又はAlaへの置換、
(4B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から48番に対応するアミノ酸AsnからGlnへの置換、
(5B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から126番目に対応するアミノ酸PheからTyrへの置換、
(6B)αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から188番目に対応するアミノ酸ThrからGlyへの置換
(7B)βサブユットにおける配列番号4のN末端置換から8番目に対応するアミノ酸GlyからAlaへの置換、
(8B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から33番目に対応するアミノ酸AlaからVal又はMetへの置換、
(9B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から40番目に対応するアミノ酸ThrからIle、Val又はLeuへの置換、
(10B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から61番目に対応するアミノ酸AlaからVal、Gly、Trp、Ser、Leu又はThrへの置換、
(11B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から108番目に対応するアミノ酸GluからAsp又はArgへの置換、
(12B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から112番目に対応するアミノ酸LysからVal又はIleへの置換
(13B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から150番目に対応するアミノ酸残基からAlaをAsn又はSerに置換
(14B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から168番目に対応するアミノ酸ThrからGluへの置換
(15B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から176番目に対応するアミノ酸TyrからAla、Thr、Met又はCysへの置換、
(16B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から200番目に対応するアミノ酸AlaからGluへの置換、
(17B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から212番目に対応するアミノ酸SerからTyrへの置換、
(18B)βサブユニットにおける配列番号4のN末端置換から218番目に対応するアミノ酸CysからMet又はSerへの置換。
【0070】
また、変異型ニトリルヒドラターゼは、本開示の効果が奏される範囲において、(メタ)アクリル酸又はその塩が効率的に得られる観点から、特定アミノ酸残基置換、上記(1B)~(18B)の置換以外の置換(以下、「他のアミノ酸残基置換」)を含んでいてもよい。
【0071】
変異型ニトリルヒドラターゼは、特定アミノ酸残基置換、及び、上記(1B)~(18B)の置換の合計数は、特に制限されず、例えば、1~20であってもよいし、1であってもよい。
(メタ)アクリル酸又はその塩が効率的に得られる観点から、1~20であることが好ましく、1~15、1~10、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、又は、1であってもよい。
【0072】
<<アミノ酸残基置換の導入方法>>
変異型ニトリルヒドラターゼにおいて、特定アミノ酸置換位置に特定アミノ酸残基置換を導入する方法としては、公知公用の導入方法を用いることができる。
例えば、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼに特定アミノ酸残基置換を導入してもよいし、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼに改変を加えたニトリルヒドラターゼ(以下、「改変ニトリルヒドラターゼ」ともいう。)に特定アミノ酸残基置換を導入してもよい。
【0073】
-野生型ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列の例-
野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼにおいて、配列番号3の先頭に位置するMet残基が、αサブユニットのアミノ酸配列のN末端から1番目のアミノ酸残基であり、例えば、αサブユニットのアミノ酸配列のN末端から40番目のアミノ酸残基はAsp残基であり、αサブユニットのアミノ酸配列のN末端から43番目のアミノ酸残基はAla残基である。
また、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼにおいては、配列番号4の先頭に位置するMet残基がβサブユニットのアミノ酸配列のN末端から1番目のアミノ酸残基であり、βサブユニットのアミノ酸配列のN末端から205番目のアミノ酸残基はGly残基であり、βサブユニットのアミノ酸配列のN末端から206番目のアミノ酸残基はPro残基であり、βサブユニットのアミノ酸配列のN末端から215番目のアミノ酸残基はTyr残基である。
【0074】
特定アミノ酸置換位置(1L)~(37L)の少なくとも1つの位置に、他のアミノ酸残基(好ましくは、アミノ酸残基置換(1A)~(37A))を置換させる際に、使用することができる改変ニトリルヒドラターゼの配列は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)が提供するGenBankに登録されているニトリルヒドラターゼの配列、又は、公知文献に記載のニトリルヒドラターゼの配列から選んで使用することができる。
【0075】
特定アミノ酸置換位置(1L)~(37L)の少なくとも1つの位置に、他のアミノ酸残基(好ましくは、アミノ酸残基置換(1A)~(37A))を置換させる際に、使用することができる改変ニトリルヒドラターゼは、(1B)~(18B)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む改変ニトリルヒドラターゼであってもよい。
【0076】
<ニトリルヒドラターゼの第1実施形態>
変異型ニトリルヒドラターゼに係る第1の実施形態としては、効率的に(メタ)アクリル酸又はその塩が得られる観点から、(4L)、(5L)、及び、(31L)~(33L)からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸残基に置換されていることが好ましく、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含むことが好ましく、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び、(3B)のアミノ酸残基置換を含むことが更に好ましい。
【0077】
第1の実施形態において、例えば、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、(31A)~(33A)のうち1つ以上を上記の野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ又は改変ニトリルヒドラターゼに導入して、変異型ニトリルヒドラターゼを得ることができる。
【0078】
なお、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を導入する際に、使用することができる改変ニトリルヒドラターゼは、αサブユニットのN末端から36番目のアミノ酸残基(野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列におけるN末端から36番目のThr残基にアラインメント上対応するアミノ酸残基)がTrp残基に置換されたもの(以降では、アミノ酸残基置換(3Bf)ともいう)であってもよい。
(メタ)アクリル酸又はその塩が効率的に得られる観点から、変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換と、アミノ酸残基置換(3Bf)とを含むことが好ましい。
【0079】
変異型ニトリルヒドラターゼが、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換を含む場合、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のうち1つ以上の導入対象として使用することができる改変ニトリルヒドラターゼは、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列と比較した場合に、上記アミノ酸残基置換群Bから選択される1つ以上のアミノ酸残基置換を含むものであってもよく、アミノ酸残基置換(3Bf)を有していてもよいし、(1A)、(2A)、(6A)~(30A)、及び、(34A)~(37A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を有していてもよい。上記アミノ酸残基置換は2つ以上を組み合わせて含まれていてもよい。そうした組み合わせの例も国際公開第2010/055666号には多数記載されている。また、改変ニトリルヒドラターゼは、もちろん、ニトリルヒドラターゼ活性を有するべきである。
【0080】
例えば、3つを組み合わせて含んでいる場合は、
αサブユニットにおけるThr36Ser及びAsp92Glu並びにβサブユニットにおけるAla33Valの組み合わせ、
αサブユニットにおけるMet94Ile並びにβサブユニットにおけるAla61Gly及びAla150Asnの組み合わせ、
βサブユニットにおけるVal4Met、Tyr176Ala及びAsp217Valの組み合わせ
βサブユニットにおけるAla33Met、His79Asn及びTyr176Thrの組み合わせ、
βサブユニットにおけるThr40Val、Cys218Met及びVal226Ileの組み合わせ、
などが例として挙げられる。
なお、本明細書において、例えば、「αサブユニットにおけるThr36Ser」とは、αサブユニットのN末端から36番目のアミノ酸残基(野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列におけるN末端から36番目のThr残基にアラインメント上対応するアミノ酸残基)がSer残基に置換されたものを意味している。
【0081】
また、例えば8つを組み合わせて含んでいる場合は、
αサブユニットにおけるIle13Leu、Ala19Val、Arg71His及びPhe126Tyr並びにβサブユニットにおけるPhe37Leu、Gln96Arg、Glu108Asp及びAla200Gluの組み合わせ(国際公開2010/055666号:形質転換体番号59)、
αサブユニットにおけるLeu6Thr、Met27Ile、Thr36Met及びPhe126Tyr並びにβサブユニットにおけるThr10Asp、Pro107Met、Phe118Val及びAla200Gluの組み合わせ(国際公開2010/055666号:形質転換体番号68)、
αサブユニットにおけるLeu6Thr、Thr36Met及びPhe126Tyr並びにβサブユニットにおけるThr10Asp、Phe118Val、Ala200Glu、Pro206Leu及びAla230Gluの組み合わせ(国際公開2010/055666号:形質転換体番号92)、
αサブユニットにおけるLeu6Thr、Ala19Val及びPhe126Tyr並びにβサブユニットにおけるLeu48Val、His79Asn、Glu108Arg、Ser212Tyr及びAla230Gluの組み合わせ(国際公開2010/055666号:形質転換体番号85)、
αサブユニットにおけるThr36Met、Gly148Asp及びVal204Arg並びにβサブユニットにおけるPhe41Ile、Phe51Val、Glu108Asp、Pro206Leu及びAla230Gluの組み合わせ(国際公開2010/055666号:形質転換体番号93)、
が例として挙げられる。
【0082】
また、第1の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼが、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換を含む場合、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を導入できる改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列は、野生型シュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列と比較して、(1A)、(2A)、(6A)~(30A)、及び、(35A)~(37A)、並びに、アミノ酸残基置換群B及びアミノ酸残基置換(3Bf)以外のアミノ酸残基置換を含んでいてもよい。
第1の実施形態において、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換の導入は、このような、アミノ酸残基置換群Bのうち1つ以上のアミノ酸残基置換及び/又はアミノ酸残基置換(3Bf)に加えて、あるいはアミノ酸残基置換群Bへの置換もアミノ酸残基置換(3Bf)への置換も無しに、アミノ酸残基置換群B及びアミノ酸残基置換(3Bf)以外のアミノ酸残基置換を含む改変ニトリルヒドラターゼに対しても、効率的に(メタ)アクリル酸又はその塩を製造することができる。
【0083】
第1の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び(3Bf)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、表1で示す2つのアミノ酸残基置換の組み合わせを含んでいてもよい。変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0084】
【0085】
変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び(3Bf)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、表2で示す3つのアミノ酸残基置換の組み合わせを含んでいてもよい。変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0086】
【0087】
変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び(3Bf)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、表3で示す4つのアミノ酸残基置換の組み合わせを含んでいてもよい。変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0088】
【0089】
変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び(3Bf)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、表4で示す5つのアミノ酸残基置換の組み合わせを含んでいてもよい。変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0090】
【0091】
変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、(31A)~(33A)及び(3Bf)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、全て(表5で示す6つのアミノ酸残基置換)の組み合わせを含んでいてもよい。変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0092】
【0093】
(4A)、(5A)、及び(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を導入することができる改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列は、国際公開第2010/055666号等で作製された改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列又はこれに類似する配列であってもよい。このため、第1の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、例えば、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、及び(31A)~(33A)のうち少なくとも1つを、以下のニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のいずれかに導入したもの(以下、変異型ニトリルヒドラターゼBともいう)であってもよい。
【0094】
下記(2)~(46)のニトリルヒドラターゼは、国際公開第2010/055666号においてその活性が実施例において確認されたニトリルヒドラターゼであり、また、下記(1)のニトリルヒドラターゼは野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼである。
また、下記配列番号16~73は、国際公開第2018/124247号における配列表に記載の配列番号である。
【0095】
(1) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号4のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(2) 配列番号16のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号33のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(3) 配列番号17のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号33のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(4) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号34のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(5) 配列番号19のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号34のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(6) 配列番号20のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号35のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(7) 配列番号20のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号36のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(8) 配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号37のアミノ酸配列 を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(9)配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号38のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(10) 配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号39のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(11) 配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号40のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(12) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号41のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(13) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号42のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(14) 配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号43のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(15) 配列番号22のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号44のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(16) 配列番号23のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号45のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(17) 配列番号24のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号46のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(18) 配列番号25のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号47のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(19) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号48のアミ
ノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(20) 配列番号23のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号49のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(21) 配列番号16のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号50のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(22) 配列番号26のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号51のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(23) 配列番号27のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号52のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(24) 配列番号28のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号53のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(25) 配列番号17のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号54のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(26) 配列番号29のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号55のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(27) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号56のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(28) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号57のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(29) 配列番号30のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号58のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(30) 配列番号29のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号59のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(31) 配列番号31のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号60のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(32) 配列番号18のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号61のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(33) 配列番号32のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号62のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(34) 配列番号30のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号63のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(35) 配列番号30のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号64のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(36) 配列番号30のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号65のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(37) 配列番号25のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号54のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(38) 配列番号30のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号66のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(39) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号67のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(40) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号68のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(41) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号69のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(42) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号70のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(43) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号71のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(44) 配列番号21のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号72のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(45) 配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと、配列番号73のアミノ酸配列を有するβサブユニットと、を有するニトリルヒドラターゼ、
(46) 上記(1)~(45)のニトリルヒドラターゼのうちいずれか1つにおけるαサブユニットのN末端から36番目のアミノ酸残基をTrp残基とした、ニトリルヒドラターゼ、
(47) 上記(1)~(46)のニトリルヒドラターゼのうちいずれか1つである特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるαサブユニットバリアントと、(1)~(46)のニトリルヒドラターゼのうちいずれか1つである特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるβサブユニットバリアントと、を有する改変ニトリルヒドラターゼ。
【0096】
なお、上記のニトリルヒドラターゼ(2)~(45)は、配列番号3のアミノ酸配列を有するαサブユニットと配列番号4のアミノ酸配列を有するβサブユニットとを有するニトリルヒドラターゼ(1)(野生型ニトリルヒドラターゼ)と比較すると以下表6~表12に記載のアミノ酸残基において相違しており、国際公開第2010/055666号に形質転換体番号と共に記載されている。
以下の表において、変異箇所の欄の数字は、該当するサブユニットのアミノ酸配列のN末端からの位置を表している。また、形質転換体番号とは、国際公開第2010/055666号において付されている番号である。
また、表6~表12に記載の配列番号は、国際公開第2018/124247号における配列表に記載の配列番号である。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
上記ニトリルヒドラターゼ(47)において、ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のうちいずれか1つである特定のニトリルヒドラターゼが有するαサブユニットに対する配列同一性は、80%以上でもよく、あるいは85%以上でもよく、あるいは90%以上でもよく、あるいは95%以上でもよく、あるいは96%以上でもよく、あるいは97%以上でもよく、あるいは98%以上でもよく、あるいは99%以上でもよい。同様に、上記(34)おいて、ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のうちいずれか1つである特定のニトリルヒドラターゼが有するβサブユニットに対する配列同一性は、80%以上でもよく、あるいは85%以上でもよく、あるいは90%以上でもよく、あるいは95%以上でもよく、あるいは96%以上でもよく、あるいは97%以上でもよく、あるいは98%以上でもよく、あるいは99%以上でもよい。
また、αサブユニットバリアントとは、上記で規定された配列同一性を満たすが、特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットとは異なるアミノ酸配列を有するαサブユニットのことをいう。βサブユニットバリアントとは、上記で規定された配列同一性を満たすが、特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットとは異なるアミノ酸配列を有するβサブユニットのことをいう。
【0105】
ニトリルヒドラターゼ(2)~(46)も、改変ニトリルヒドラターゼの1つとして、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、及び(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換の導入に使用することができる。
また、このニトリルヒドラターゼ(2)~(33)のアミノ酸配列に類似するアミノ酸配列を有する他の改変ニトリルヒドラターゼも、アミノ酸残基置換(4A)、(5A)、及び(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換の導入に使用することができる。
このため、改変ニトリルヒドラターゼと野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼとの間のアミノ酸配列の差異について説明した事項(配列改変の程度や例についての説明を含む)は、「野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ」を上記いずれかのニトリルヒドラターゼ(1)~(46)と読み替えてそのまま適用できる。また、改変ニトリルヒドラターゼは、もちろん、ニトリルヒドラターゼ活性を有するべきである。
【0106】
例えば、上記変異型ニトリルヒドラターゼBが含みうるアミノ酸残基置換及びその組み合わせ、並びに、ニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から36番目のアミノ酸残基については、変異型ニトリルヒドラターゼBは表1に記載のアミノ酸残基の組み合わせa~o、表2に記載のアミノ酸残基の組み合わせp~ai、表3に記載のアミノ酸残基の組み合わせaj~ax、表4に記載のアミノ酸残基の組み合わせay~bd、及び表5に記載のアミノ酸残基の組み合わせbeからなる群から選択されるアミノ酸残基の組み合わせを含んでいてもよい。つまり、上記ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のアミノ酸配列に対して、このようなアミノ酸残基置換の組み合わせを導入しうる。
【0107】
また、例えば、上記ニトリルヒドラターゼ(47)は、上記ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のいずれかに対して、(i)1つ以上のアミノ酸残基における別のアミノ酸残基への置換、(ii)上記(a)~(e)以外の1つ以上のアミノ酸残基の欠失、(iii)アミノ酸残基の挿入、(iv)αサブユニットのアミノ酸配列のN末端及びC末端のうち一方若しくは両方へのアミノ酸残基の付加、(v)βサブユニットのアミノ酸配列のN末端及びC末端のうち一方若しくは両方へのアミノ酸残基の付加、からなる群から選択される1つ以上の改変を加えた改変ニトリルヒドラターゼであってもよい。
【0108】
ニトリルヒドラターゼ(47)のαサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのαサブユニットを基準とした場合に置換されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~20であり、あるいは1~15であり、あるいは1~10であり、あるいは1~8であり、あるいは1~7であり、あるいは1~6であり、あるいは1~5であり、あるいは1~4であり、あるいは1~3であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。置換されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
ニトリルヒドラターゼ(47)のβサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのβサブユニットを基準とした場合に置換されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~20であり、あるいは1~15であり、あるいは1~10であり、あるいは1~8であり、あるいは1~7であり、あるいは1~6であり、あるいは1~5であり、あるいは1~4であり、あるいは1~3であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。置換されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0109】
ニトリルヒドラターゼ(47)のαサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのαサブユニットを基準とした場合に欠失されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。欠失されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
ニトリルヒドラターゼ(47)のβサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのβサブユニットを基準とした場合に欠失されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。欠失されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0110】
ニトリルヒドラターゼ(47)のαサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのαサブユニットを基準とした場合に挿入されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。挿入されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
ニトリルヒドラターゼ(47)のβサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのβサブユニットを基準とした場合に挿入されたアミノ酸残基の数は、例えば、1~10であり、あるいは1~7であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。挿入されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0111】
ニトリルヒドラターゼ(47)のαサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのαサブユニットを基準とした場合に置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、例えば、1~20であり、あるいは1~14であり、あるいは1~8であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。末端付加がある場合などは、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、0であってもよい。
ニトリルヒドラターゼ(47)を改変した改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのβサブユニットを基準とした場合に置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、例えば、1~20であり、あるいは1~14であり、あるいは1~8であり、あるいは1~4であり、あるいは1~2であり、あるいは1である。末端付加がある場合などは、置換、欠失又は挿入されたアミノ酸残基の総数は、0であってもよい。
【0112】
ニトリルヒドラターゼ(47)のαサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのαサブユニットを基準とした場合に末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
ニトリルヒドラターゼ(47)のβサブユニットにおいて、上記(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのβサブユニットを基準とした場合に末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0113】
ニトリルヒドラターゼ(47)は、(1)~(46)のいずれかのニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列と比較した場合に、上記アミノ酸残基置換群Bから選択される1つ以上のアミノ酸残基置換を含むものであってもよい。上記アミノ酸残基置換は2つ以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0114】
上記において(47)のα及び/又はβサブユニットバリアントは、特定のニトリルヒドラターゼのα及び/又はβサブユニットのアミノ酸配列と比較してのアミノ酸の挿入やアミノ酸残基の欠失は有さず、アミノ酸残基の置換又は末端付加のみを有するものであってもよい。(47)のα及び/又はβサブユニットバリアント中におけるアミノ酸残基の位置については、前述と同様に、特定のニトリルヒドラターゼのα及び/又はβサブユニット中の指定されたアミノ酸残基とアラインメント上対応する位置を意味する。
【0115】
第1の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、
上記ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のいずれかある特定のニトリルヒドラターゼに対して、又は
特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットに対して70%以上の配列同一性を有する改変αサブユニット及び特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットに対して70%以上の配列同一性を有する改変βサブユニットを有するが特定のニトリルヒドラターゼ自体ではない改変ニトリルヒドラターゼに対して、
以下のアミノ酸残基置換のうち少なくとも1つを導入したもの(以下変異型ニトリルヒドラターゼCともいう)であってもよい:
特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から40番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基のAsnへの置換、
特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から43番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基のValへの置換、
特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端から205番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基のValへの置換、
特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端から206番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基のGlnへの置換、
特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端から215番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基のAsnへの置換。
【0116】
上記説明において、導入前のニトリルヒドラターゼが、改変ニトリルヒドラターゼである場合、「特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基」とは、改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列を特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列に対してアラインメントしたときに、特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列のN末端からA番目のアミノ酸残基と対応する改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットのアミノ酸配列上のアミノ酸残基を指す。
同様に、「特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基」とは、改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列を特定ニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列に対してアラインメントしたときに、特定ニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列のN末端からA番目のアミノ酸残基と対応する改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットのアミノ酸配列上のアミノ酸残基を指す。
また、導入前のニトリルヒドラターゼが特定のニトリルヒドラターゼである場合、「特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基」とは、特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基を指し、「特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基」とは、特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットのN末端からA番目のアミノ酸残基を指す。
【0117】
上記改変ニトリルヒドラターゼにおいて、そのαサブユニットの、特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットに対する配列同一性は、80%以上でもよく、あるいは85%以上でもよく、あるいは90%以上でもよく、あるいは95%以上でもよく、あるいは96%以上でもよく、あるいは97%以上でもよく、あるいは98%以上でもよく、あるいは99%以上でもよい。同様に、そのβサブユニットの、上記特定のニトリルヒドラターゼのβサブユニットに対する配列同一性は、80%以上でもよく、あるいは85%以上でもよく、あるいは90%以上でもよく、あるいは95%以上でもよく、あるいは96%以上でもよく、あるいは97%以上でもよく、あるいは98%以上でもよく、あるいは99%以上でもよい。
改変ニトリルヒドラターゼと野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼとの間のアミノ酸配列の差異について説明した事項(配列改変の程度や例についての説明を含む)は、「野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ」を特定のニトリルヒドラターゼと読み替えてそのまま適用できる。上記において改変ニトリルヒドラターゼのα及び/又はβサブユニットのアミノ酸配列は、特定のニトリルヒドラターゼのα及び/又はβサブユニットのアミノ酸配列と比較してのアミノ酸の挿入やアミノ酸残基の欠失は有さず、アミノ酸残基の置換又は末端付加のみを有するものであってもよい。また、改変ニトリルヒドラターゼは、もちろん、ニトリルヒドラターゼ活性を有するべきである。
【0118】
上記変異型ニトリルヒドラターゼCが含みうるアミノ酸残基置換及びその組み合わせ、並びに特定のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から36番目に対応するアミノ酸残基については、変異型ニトリルヒドラターゼCは表1に記載のアミノ酸残基の組み合わせa~o、表2に記載のアミノ酸残基の組み合わせp~ai、表3に記載のアミノ酸残基の組み合わせaj~ax、表4に記載のアミノ酸残基の組み合わせay~bd、及び表5に記載のアミノ酸残基の組み合わせbeからなる群から選択されるアミノ酸残基の組み合わせを含んでいてもよい。つまり、特定のニトリルヒドラターゼ又は改変ニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列に対して、このようなアミノ酸残基置換の組み合わせを導入しうる。
【0119】
また、例えば、改変ニトリルヒドラターゼは、ニトリルヒドラターゼ(1)~(46)のいずれかが有するアミノ酸配列と比較した場合に、上記アミノ酸残基置換群Bから選択される1つ以上のアミノ酸残基置換を含むものであってもよい。上記アミノ酸残基置換は2つ以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0120】
なお、以上で説明した改変ニトリルヒドラターゼは、上記で特定されたαサブユニット又はそのN末端若しくはC末端若しくはその両方に付加配列を加えたポリペプチドと、上記で特定されたβサブユニット又はそのN末端若しくはC末端若しくはその両方に付加配列を加えたポリペプチドと、を有するニトリルヒドラターゼであってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのαサブユニットにおいて、末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
改変ニトリルヒドラターゼのβサブユニットにおいて、末端付加されたアミノ酸残基の数は、例えば、一末端あたり1~60であり、あるいは1~40であり、あるいは1~20であり、あるいは1~10であり、あるいは1~5であり、あるいは1~3であり、あるいは1である。付加されたアミノ酸残基の数は0であってもよい。
【0121】
第1の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼが、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を含む場合、変異型ニトリルヒドラターゼは、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換を1つだけ含んでいてもよいし、2つ以上含んでいてもよい。
例えば、2つの組み合わせの場合、(4A)と(5A)の組み合わせ、(4A)と(31A)の組み合わせ、(4A)と(32A)の組み合わせ、(4A)と(33A)の組み合わせ、(5A)と(31A)の組み合わせ、(5A)と(32A)の組み合わせ、(5A)と(33A)の組み合わせ、(31A)と(32A)の組み合わせ、(31A)と(33A)の組み合わせ、(32A)と(33A)の組み合わせ、及び(32A)と(3Bf)の組み合わせが挙げられる。
【0122】
3つの組み合わせの場合、例えば、(4A)、(5A)及び(31A)の組み合わせ、(4A)、(5A)及び(32A)の組み合わせ、(4A)、(5A)及び(33A)の組み合わせ、(4A)、(31A)及び(32A)の組み合わせ、(4A)、(31A)及び(33A)の組み合わせ、(4A)、(32A)及び(33A)の組み合わせ、(5A)、(31A)及び(32A)の組み合わせ、(5A)、(31A)及び(33A)の組み合わせ、(5A)、(32A)及び(33A)の組み合わせ、並びに(31A)、(32A)及び(33A)の組み合わせが挙げられる。
4つの組み合わせの場合、例えば、(4A)、(5A)、(31A)及び(32A)の組み合わせ、(4A)、(5A)、(31A)及び(33A)の組み合わせ、(4A)、(5A)、(32A)及び(33A)の組み合わせ、(4A)、(31A)、(32A)及び(33A)の組み合わせ、及び(5A)、(31A)、(32A)及び(33A)の組み合わせが挙げられる。
もちろん、(4A)~(33A)は5つ組み合わせて置換しても構わない。
【0123】
そして、上述したとおり、(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換のうち少なくとも1つを導入する対象となる改変ニトリルヒドラターゼは、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ又は上述の(i)~(v)の特定配列に対してアミノ酸の置換等の改変を含むものであってもよい。このため、変異型ニトリルヒドラターゼも、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ又は上述の(i)~(v)の特定配列と比較して、上記(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換に加えて、上記(4A)、(5A)、及び、(31A)~(33A)のアミノ酸残基置換以外の位置のアミノ酸残基置換を含んでいてもかまわない。このように他のアミノ酸残基置換を含む変異型ニトリルヒドラターゼであっても、立体構造上特定の位置に位置する特定アミノ酸残基置換による効果は得ることができる。
【0124】
<ニトリルヒドラターゼの第2実施形態>
第2の実施形態として、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に得られる観点から、(1L)、(2L)、(7L)、(8L)、(10L)、(12L)、(14L)、(22L)~(25L)、(32L)、及び、(35L)~(37L)からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸残基に置換されていることが好ましく、(1A)、(2A)、(7A)、(8A)、(10A)、(12A)、(14A)、(22A)~(25A)、(32A)、及び、(35A)~(37A)からなる群より選ばれる少なくとも1つアミノ酸残基置換を含むことがより好ましい。
第2実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼが、(1L)、(2L)、(7L)、(8L)、(10L)、(12L)、(14L)、(22L)~(25L)、(32L)、及び、(35L)~(37L)からなる群より選ばれる少なくとも1つアミノ酸残基置換を含む場合、これらのアミノ酸残基置換に加えて、上述のアミノ酸残基置換群Bから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基を更に含んでいてもよい。
【0125】
また、第2の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に製造する観点から、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から36番目に対応するアミノ酸残基Thrが置換されたアミノ酸置換残基を更に含んでいてもよい。
【0126】
第2の実施形態において、アミノ酸残基置換の例として、たとえば、表13~表17記載のアミノ酸残基置換が挙げられるが、変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
また、表13~表17に記載の配列番号は、国際公開第2010/055666号における配列表に記載の配列番号である。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
<ニトリルヒドラターゼの第3実施形態>
第3の実施形態として、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に得られる観点から、(6L)、(9L)、(11L)、(13L)、(15L)~(21L)、(26L)~(30L)及び(34L)からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸残基に置換されていることが好ましい。
上記第3の実施形態の置換位置に加えて、αサブユニットにおいて、配列番号3のN末端から、6番目、19番目、38番目、77番目、90番目、102番目、106番目、126番目、130番目、142番目、146番目、187番目、194番目及び203番目、並びに、βサブユニットにおいて配列番号4のN末端から20番目、21番目からなる群から選ばれる少なくとも1つの位置で他のアミノ酸残基に置換されていてもよい。
【0133】
また、第3の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に得られる観点から、(6A)、(9A)、(11A)、(13A)、(16A)、(17A)~(20A)、(26A)、(27A)、(29A)及び(30A)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基置換を含むことが好ましい。
【0134】
また、第3の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼは、(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に得られる観点から、(6A)、(9A)、(11A)、(13A)、(16A)、(17A)~(20A)、(26A)、(27A)、(29A)及び(30A)からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基置換に加えて、アミノ酸残基置換群Bを更に含んでいてもよいし、(1B)~(3B)、(5B)、(11B)、(15B)及び(16B)からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基置換を更に含んでいてもよい。
【0135】
第3の実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼが(6A)、(9A)、(11A)、(13A)、(15A)~(21A)、(26A)~(30A)及び(34A)からなる群より選ばれる少なくとも1つアミノ酸残基置換を含む場合、アミノ酸残基置換の例として、たとえば、下記表18及び表19に記載のアミノ酸残基置換が挙げられるが、変異型ニトリルヒドラターゼがこれらのアミノ酸残基置換の組み合わせに限定されないことはいうまでもない。
【0136】
【0137】
【0138】
変異型ニトリルヒドラターゼは、一般的に、上記のとおり規定されたαサブユニット2つと、上記のとおり規定されたβサブユニット2つとが会合して、機能するものである。
【0139】
野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼを形質転換体内で大量に発現できるプラスミド及び同プラスミドにより形質転換された細胞株としては、MT-10822(受託番号FERM BP-5785として茨城県つくば市東1-1-1 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成8年2月7日より寄託されている)を使用することができる。
また、改変ニトリルヒドラターゼは、通常の遺伝子操作技術を用いて得ることができる。タンパク質の立体構造は、一般に、アミノ酸配列の相同性が高い場合、該タンパク質を含む菌株の種属によらず、類似の構造を有する蓋然性が高いとされているため、アミノ酸残基置換(1A)~(37A)のうち1つ以上の導入により得られる効果は、改変ニトリルヒドラターゼを含め、上記で規定されたシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼ一般に対して発揮される。
【0140】
〔変異型ニトリルヒドラターゼの製造方法〕
変異型ニトリルヒドラターゼの製造方法は、形質転換体を培地中で培養すること、及び、培養された形質転換体及び培地のうち少なくとも一方から、変異型ニトリルヒドラターゼを回収することを含むことが好ましい。
【0141】
変異型ニトリルヒドラターゼは、以下の手法で製造することができる。
例えば、変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAを含む発現ベクターを用意し、この発現ベクターにより任意の宿主細胞を形質転換して形質転換体又は細胞株を取得し、ついで、形質転換体又は細胞株を培養して変異型ニトリルヒドラターゼを産生することができる。
発現ベクターの作製方法としては、例えば、国際公開第2018/124247号の段落0111~0131に記載の方法を利用することができる。
【0142】
ここで、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列と、配列番号6に示されるヌクレオチド配列とからなる。なお、配列番号5に示されるヌクレオチド配列は、配列番号3に示される野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのアミノ酸配列に対応し、配列番号6に示される野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのヌクレオチド配列は、配列番号4からなるアミノ酸配列に対応する。
変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAは、少なくとも、配列番号5で示されるヌクレオチド配列又は配列番号6で示されるヌクレオチド配列における、上記(1A)~(37A)のアミノ酸残基置換位置に対応するコドン(計5箇所)のうち1つ以上に下記のようなヌクレオチド置換を有しており、その他の位置においても改変ニトリルヒドラターゼに対応するヌクレオチド置換を有している。
【0143】
変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAとしては、例えば、国際公開第2018/124247号の段落0105~0110の記載されたDNAを使用することができる。
【0144】
また、第2実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAとしては、国際公開第2010/055666号の段落0038~0046に記載の塩基配列を使用することができる。
【0145】
第3実施形態において、変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAとしては、具体的には、例えば、野生型のシュードノカルディア・サーモフィラ由来のニトリルヒドラターゼのαサブユニットのN末端から36番目のアミノ酸残基であるTyr残基をMetに置換した変異体を作製する場合、配列番号3で示されるヌクレオチド配列の5’末端から106~108番目のヌクレオチドであるACGをATGに置換したDNAを使用すればよい。
以下、第3実施形態における変異型ニトリルヒドラターゼをコードするDNAの具体例を下記の表20及び表21に記載する。
表20及び表21に記載のDNAをコードする後述の発現ベクターを使用して変異型ニトリルヒドラターゼを作製することができる。
表20及び表21中、「5’末端からの位置」とは、配列番号3又は4で示されるヌクレオチド配列の5’末端から数えた場合のヌクレオチドの位置である。例えば、配列番号3における「5’末端からの位置」が「106~108」とは、配列番号3で示されるヌクレオチド配列の5’末端から106~108番目のヌクレオチドを意味している。
【0146】
【0147】
【0148】
-形質転換体の作製方法-
形質転換体は、公知の方法により作製することができる。例えば、変異型ニトリルヒドラターゼをコードするヌクレオチド配列と、必要に応じて上述の他の領域とを含む発現ベクターを構築し、発現ベクターを所望の宿主細胞に形質転換する方法等が挙げられる。具体的には、Sambrook,J.,et.al.,”Molecular Cloning A Laboratory Manual, 3rd Edition”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,(2001)等に記載されている分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用することができる。
【0149】
形質転換体は、宿主細胞に発現ベクターを組み込むだけではなく、必要に応じて宿主細胞での使用頻度の低いコドンを、使用頻度の高いコドンにするように、サイレント変異を導入すること等を併せて行い作製することもできる。
これにより、発現ベクターに組み込んだ変異型ニトリルヒドラターゼ由来のタンパク質の生産量を増加させることができる可能性がある。
【0150】
サイレント変異の導入に関し、宿主細胞でのコドン使用頻度に合わせて発現ベクター上にある該ニトリルヒドラターゼ遺伝子及び該ニトリルヒドラターゼ遺伝子を細胞外に分泌させるためのシグナル配列のコドンを調整する方法であれば、サイレント変異導入の手法、変異点、変更するヌクレオチドの種類等は特に制限されない。
【0151】
<<形質転換体の培養方法>>
発現ベクターで形質転換して得られた形質転換体の培養の条件は、形質転換前の宿主細胞の培養条件と同様であり、公知の条件を用いることができる。
培地としては、炭素源、窒素源、無機物及びその他の栄養素を適量含有する培地ならば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用可能である。
培地成分としては、培地に使用される公知の成分を用いることができる。例えば、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、NZアミン及びジャガイモ等の有機栄養源、グルコース、マルトース、しょ糖、デンプン及び有機酸等の炭素源、硫酸アンモニウム、尿素及び塩化アンモニウム等の窒素源、リン酸塩、マグネシウム、カリウム及び鉄等の無機栄養源、ビタミン類を適宜組み合わせて使用できる。
なお、選択マーカーを含む発現ベクターにより形質転換した形質転換体の培養においては、例えば、選択マーカーが薬剤耐性である場合には、それに対応する薬剤を含む培地を使用し、選択マーカーが栄養要求性である場合には、それに対応する栄養素を含まない培地を使用すればよい。
培地のpHは、pH4~pH8の範囲で適宜選択することができる。
形質転換体の培養方法としては、形質転換体を含有する液体培地の、振とう培養、通気撹拌培養、連続培養、流加培養などの通常の培養方法を用いて行なうことができる。
培養条件は、形質転換体、培地、及び、培養方法の種類により適宜選択すればよく、形質転換体が生育し、変異型ニトリルヒドラターゼを産生できる条件であれば特に制限はない。
培養温度は、好ましくは20℃~45℃、更に好ましくは24℃~37℃で好気的に培養を行う。
培養期間は1日間~7日間の範囲で目的の変異型ニトリルヒドラターゼ活性を有するタンパク質の含量が最大になるまで培養すればよい。
【0152】
-変異型ニトリルヒドラターゼ回収工程-
変異型ニトリルヒドラターゼの製造方法は、培養された形質転換体及び培養後の培地のうち少なくともいずれか一方から、変異型ニトリルヒドラターゼを回収する工程を含むことが好ましい。
【0153】
形質転換した形質転換体を培養した後、変異型ニトリルヒドラターゼを回収する方法は、この分野で慣用されている方法を使用することができる。
形質転換体外に変異型ニトリルヒドラターゼが分泌される場合は、形質転換体の培養物を遠心分離、ろ過等を行うことで変異型ニトリルヒドラターゼを含む粗酵素液を容易に得ることができる。
また、変異型ニトリルヒドラターゼが形質転換体内に蓄積される場合には、培養した形質転換体を遠心分離等により回収した後、回収した形質転換体を緩衝液に懸濁し、この懸濁液をリゾチーム処理、凍結融解、超音波破砕等の公知の方法に従い形質転換体の細胞膜を破壊することにより、変異型ニトリルヒドラターゼを含む粗酵素液を回収すればよい。
【0154】
回収した変異型ニトリルヒドラターゼを含む粗酵素液を、更に、限外ろ過法などにより濃縮し、防腐剤等を加えて濃縮した変異型ニトリルヒドラターゼ(濃縮酵素)として利用することが可能である。また、変異型ニトリルヒドラターゼを濃縮した後、スプレードライ法等によって変異型ニトリルヒドラターゼの粉末(粉末酵素)としてもよい。
回収された変異型ニトリルヒドラターゼを含む粗酵素液について、分離精製を必要とする場合は、例えば、硫酸アンモニウム等による塩析、アルコール等による有機溶媒沈殿法、透析及び限外ろ過等による膜分離法、又はイオン交換体クロマトグラフィー、逆相高速クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの公知のクロマト分離法を適宜組み合わせて分離精製を行うことができる。
【0155】
<水(原料水)>
(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリルアミドへの水和反応に用いられる原料水は、上述の(メタ)アクリルアミドから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法に用いられる原料水と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0156】
<水性媒体>
(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリルアミドへの水和反応に用いられる水性媒体は、上述の(メタ)アクリルアミドから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法に用いられる水性媒体と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0157】
<pH調節剤>
(メタ)アクリロニトリルから(メタ)アクリルアミドへの水和反応に用いられるpH調節剤は、上述の(メタ)アクリルアミドから(メタ)アクリル酸又はその塩を製造する方法に用いられるpH調節剤と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0158】
ニトリルヒドラターゼを含有する菌体及びその菌体処理物(ニトリルヒドラターゼ触媒)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(メタ)アクリロニトリルと、を水性媒体中で作用させる方法(水和反応の方法)は、特に制限はないが、例えば、(1)~(3)の方法等が挙げられる。
(1)ニトリルヒドラターゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリロニトリル及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤を反応槽に一度に全量仕込んでから反応を行う方法(回分反応)。
(2)ニトリルヒドラターゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリロニトリル及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤の一部を反応槽に仕込んだ後、連続的又は間欠的に残りのニトリルヒドラターゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリロニトリル及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤を供給して反応を行う方法(半回分反応)。
(3)ニトリルヒドラターゼ触媒、反応原料{(メタ)アクリロニトリル及び原料水}、水性媒体及びpH調節剤の連続的又は間欠的な供給と、反応液{ニトリルヒドラターゼ触媒、未反応原料、水性媒体、pH調節剤及び生成した(メタ)アクリルアミド等を含む。}の連続的又は間欠的な取り出しを行いながら、反応槽内の反応液を全量取り出すことなく連続的に反応を行う方法(連続反応)。
【0159】
(メタ)アクリロニトリルを(メタ)アクリルアミドへの変換する反応(以下、「水和反応」ともいう場合がある)において、水和反応は、触媒の存在下で行われることが好ましい。ニトリルヒドラターゼ触媒の使用形態として、好ましくは懸濁床であり、例えば、ニトリルヒドラターゼ触媒の懸濁液を調製し、懸濁液を反応槽に供給すればよい。
【0160】
反応槽内の液温である反応槽温度は、ニトリルヒドラターゼ触媒の耐熱性にもよるが、通常0~50℃に設定され、好ましくは10~40℃に設定される。反応槽温度が前記範囲にあると、ニトリルヒドラターゼ触媒の活性を良好に維持できる点で好ましい。
【0161】
反応は、一般的には常圧下で行われるが、(メタ)アクリロニトリルの溶解度を高めるために加圧下で行うこともできる。
【0162】
反応槽内のpHは、ニトリルヒドラターゼ触媒の活性を良好に保つための好適な範囲であれば特に限定されないが、好ましくはpH5~pH10の範囲にある。pHが前記範囲にあると、ニトリルヒドラターゼ触媒の活性を良好に維持できる点で好ましい。
【0163】
本実施形態において、(メタ)アクリロニトリルを(メタ)アクリルアミドに変換する反応(水和反応)、及び、(メタ)アクリルアミドを(メタ)アクリル酸又はその塩に変換する反応(以下、「加水分解反応」とも称する場合がある)は、別々に行う方法であってもよいし、水和反応と加水分解反応を同時に行う方法、又は、水和反応終了後、(メタ)アクリルアミドを単離及び精製して加水分解反応を行う方法などであってもよい。
【0164】
また、例えば、(メタ)アクリロニトリルと、ニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼと、を同時に添加して、ワンポットで(メタ)アクリル酸又はその塩を製造してもよい。ここでいう「ワンポット」とは、いくつかの反応を同一反応容器で行うことを意味し、具体的には水和反応及び加水分解反応を同一反応容器で行うことを意味する。
【0165】
(メタ)アクリロニトリルは、酵素の種類によっては触媒毒になることもある。そのため(メタ)アクリロニトリルに対する安定性の高い酵素を用いることは、反応収率が向上することや酵素使用量を削減できることから工業的に製造するためには有利である。
(メタ)アクリロニトリルに対して安定性の高いニトリルヒドラターゼ、及び、アミダーゼを使用することで水和反応と加水分解反応とを同時に行うことができる。
(メタ)アクリロニトリルに対して安定性の高いニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼとして、シュードノカルディア属の細菌に由来するニトリルヒドラターゼ、及び、本開示に係る(メタ)アクリル酸及びその塩の製造方法に用いる特定の細菌に由来するアミダーゼが挙げられる。
また、(メタ)アクリロニトリルの触媒毒を回避する点から、水和反応を完結させた後、次いで加水分解反応を実施してもよい。(メタ)アクリロニトリルの触媒毒を回避する点から水和反応が完全に完結してからアミダーゼを添加してもよいし、又は、水和反応において(メタ)アクリロニトリルが加水分解反応を阻害しない程度まで低減してから、アミダーゼを添加して加水分解反応を行ってもよい。
加水分解反応に用いるアミダーゼとしては、上述のアミダーゼが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0166】
<(メタ)アクリル酸又はその塩>
本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法により得られる(メタ)アクリル酸又はその塩は、用いる原料によって適宜設定することができる。
また、本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法により得られる(メタ)アクリル酸塩は、反応液を上記pH調節剤を用いて塩基性にすることによって、所望の(メタ)アクリル酸塩を得ることができる。
得られる(メタ)アクリル酸塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩であってもよい。
アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、又はカリウム塩等が挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、又はバリウム塩が挙げられる。
【実施例0167】
次に本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
<1.アミダーゼ生産菌の構築>
(1)Pseudomonas putida NBRC12668のアミダーゼ生産菌
特開平8-266277号公報に記載のプラスミドpBAN-7の塩基配列を解析し、該プラスミドが有する塩基配列を元に、配列表の配列番号7及び8のプライマーを設計した。シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida) NBRC12668の染色体DNAを鋳型としPCRを行い、アミダーゼ遺伝子を増幅させた。増幅した遺伝子をEcoRI及びHindIIIで消化した。同様に制限酵素で消化したpUC18(タカラバイオ(株)製)を、ライゲーションハイ(東洋紡(株)製)を用いて連結し、コンピテントハイDH5α(東洋紡(株)製)に導入してPseudomonas putidaNBRC12668のアミダーゼ生産菌を作製した。
以下、作製した菌を「Ppu-アミダーゼ生産菌」と表記する。
【0168】
(2)Pseudomonas chlororaphis B23のアミダーゼ生産菌
NCIBM(米国立生物工学情報センター)に登録されているPseudomonas chlororaphis B23のアミダーゼ遺伝子情報(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/216850)にもとづいてDNAを合成した。DNAの合成はNucleic Acids Res. 2004 Jul 1;32(Web Server issue):W176-80.の方法に従って行った。合成したDNAを鋳型として配列表の配列番号11及び12のプライマーでアミダーゼ遺伝子にSD配列を付加したDNAを増幅し、制限酵素EcoRI及びHindIIIで消化した。同様にライゲーションハイ(東洋紡(株)製)を用いて制限酵素で消化したpUC18(タカラバイオ(株)製)を連結し、コンピテントハイDH5α(東洋紡(株)製)に導入してPseudomonas chlororaphis B23のアミダーゼ生産菌を作製した。
以下、作製した菌を「Pch-アミダーゼ生産菌」と表記する。
【0169】
(3)Acidphilium cryptum JF-5のアミダーゼ生産菌
NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門)からNBRC-14242を購入した。NBRC-14242をNBRCの培地番号234で培養しDNeasy Blood & Tissue Kit(株式会社キアゲン)を用いて染色体DNAを得た。NCIBM(米国立生物工学情報センター)に登録されているアミダーゼ遺伝子情報(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/148259021、GI:148259263)にもとづいて配列表の配列番号15及び16をプライマーとし、NBRC-14242を培養して得られた染色体DNAを鋳型としてアミダーゼ遺伝子を増幅した。増幅したアミダーゼ遺伝子をEcoRIとHindIIIで消化した。同様にライゲーションハイ(東洋紡(株))を用いて制限酵素で消化したpUC18(タカラバイオ(株)製)を連結し、コンピテントハイDH5α(東洋紡(株)製)に導入してアミダーゼ生産菌を作製した。
以下、作製した菌を「Acr-アミダーゼ生産菌」と表記する。
【0170】
(4)Polaromonas sp.JS666のアミダーゼ生産菌
ATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関)からPolaromonas sp. JS666の染色体DNAであるATCC-BAA-500D-5を購入した。NCIBM(米国立生物工学情報センター)に登録されているPolaromonas sp.JS666のアミダーゼ遺伝子情報(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/91785913、GeneID:4010994)にもとづいて配列表の配列番号13及び14をプライマーとし、ATCC-BAA-500D-5を鋳型としてアミダーゼ遺伝子を増幅した。増幅したアミダーゼ遺伝子をEcoRIとHindIIIで消化した。同様に制限酵素で消化したpUC18(タカラバイオ(株)製)をライゲーションハイ(東洋紡(株)製)を用いて連結し、コンピテントハイDH5α(東洋紡(株)製)に導入してアミダーゼ生産菌を作製した。
以下、作製した菌を「Psp-アミダーゼ生産菌」と表記する。
なお、Psp-アミダーゼ生産菌は、特定の細菌に由来しないアミダーゼを生産する菌である。
【0171】
<2.アミダーゼ生産菌の培養>
500mLのバッフル付き三角フラスコに100mLのLB液体培地を調製し、121℃かつ20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が100μg/mLとなるようにアンピシリンを添加した後、作製したアミダーゼ生産菌をそれぞれ一白菌耳植菌し、30℃かつ130rpm(revolution per minute)にて約20時間培養した。遠心分離(5000G(49,000m/s2)×15分)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、5mLの生理食塩水に該菌体を再懸濁し菌体懸濁液をそれぞれ得た。菌体懸濁液は、冷凍庫にて凍結し、解凍して使用した。
【0172】
<3-1.Pseudonocardia thermophila JCM3095・ニトリルヒドラターゼ生産菌の構築と培養>
500mLのバッフル付き三角フラスコに40μg/mLの硫酸第二鉄・七水和物及び10μg/mLの塩化コバルト・二水和物を含む100mLのLB液体培地を調製し、121℃かつ20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が100μg/mLとなるようにアンピシリンを添加した後、寄託微生物MT-10822(FERM BP-5785、茨城県つくば市東1-1-1 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成8年2月7日より寄託されている)を一白菌耳植菌し、37℃かつ130rpmにて約20時間培養した。遠心分離(5000G×15分)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、5mLの生理食塩水に該菌体を再懸濁し菌体懸濁液を得た。菌体懸濁液は、冷凍庫にて凍結し、解凍して使用した。本菌を「Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌」と表記する。
【0173】
<3-2.Pseudomonas putida NBRC12668・ニトリルヒドラターゼ生産菌の構築と培養>
上記の1.アミダーゼ生産菌の構築(1)Pseudomonas putida NBRC12668のアミダーゼ生産菌で用いた染色体DNAを鋳型として、配列表の配列番号17及び配列表の配列番号18をプライマーとしてPCRを行い、ニトリルヒドラターゼ遺伝子を増幅した。増幅したニトリルヒドラターゼ遺伝子をEcoRIとHindIIIで消化した。同様に制限酵素で消化したpUC18(タカラバイオ(株)製)を、ライゲーションハイ(東洋紡(株)製)を用いて連結し、コンピテントハイDH5α(東洋紡(株)製)に導入してPseudomonas putidaNBRC12668のニトリルヒドラターゼ生産菌を作製した。
以下、作製した菌を「Ppu-ニトリルヒドラターゼ生産菌」と表記する。
500mLのバッフル付き三角フラスコに40μg/mLの硫酸第二鉄・七水和物を含む100mLのLB液体培地を調製し、121℃かつ20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が100μg/mLとなるようにアンピシリンを添加した後、上記で作製したPpu-ニトリルヒドラターゼ生産菌を一白菌耳植菌し、37℃かつ130rpmにて約20時間培養した。
上記培養液を遠心分離(5000G×15分)により菌体のみを分離し、続いて、5mLの生理食塩水に分離した菌体を再懸濁し、菌体懸濁液を得た。菌体懸濁液は、冷凍庫にて凍結し、解凍して使用した。
【0174】
[実施例1]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0wt%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、30℃におけるpH(以下、単に「pH」と称する場合がある。)を8.0となるように調節した。この懸濁液にアクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。アクリロニトリルを添加した10時間後に、以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリロニトリルからアクリルアミドへの転化率が99%以上であることが確認されたが、アクリル酸の生成は見られなかった。
次いで、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10wt%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。懸濁液添加10時間後に以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0175】
ここで分析条件は以下のとおりであった。
・HPLC分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC-10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長250nm、カラム温度40℃)
分離カラム :SCR-101H (株式会社島津製作所製)
溶離液 :7%(容積基準)-アセトニトリル水溶液
【0176】
[実施例2]
実施例1において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Pch-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例1と同様にして加水分解反応を行った。
加水分解反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0177】
[実施例3]
実施例1において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Acr-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例1と同様にして加水分解反応を行った。
加水分解反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0178】
[比較例1]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。アクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリロニトリルからアクリルアミドへの転化率が99%以上、アクリル酸の生成は見られなかった。
次いで、特定の細菌に由来するアミダーゼではないPsp-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が32質量%であり、アクリルアミドからアクリル酸への転化率が68%であった。
【0179】
[実施例4]
Ppu-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。アクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドへの転化率が99%以上、アクリル酸の生成は見られなかった。次いで、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0180】
[実施例5]
実施例4において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Pch-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例4と同様にして加水分解反応を行った。
反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0181】
[実施例6]
実施例4において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Acr-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例4と同様にして加水分解反応を行った。
反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0182】
[実施例7]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。メタクリロニトリル27gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。10時間後に以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、メタクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。メタクリロニトリルからメタクリルアミドへの転化率が99%以上、メタアクリル酸の生成は見られなかった。
次いで、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。10時間後に以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、メタアクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。メタクリルアミドからメタクリル酸への転化率が99%以上であった。
ここで分析条件は以下のとおりであった。
・HPLC分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC-10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長250nm、カラム温度40℃)
分離カラム :SCR-101H (株式会社島津製作所製)
溶離液 :7%(容積基準)-アセトニトリル水溶液
【0183】
[比較例2]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。メタクリロニトリル27gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、メタクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。メタクリロニトリルからメタクリルアミドへの転化率が99%以上、メタアクリル酸の生成は見られなかった。
次いで、Psp-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、メタアクリルアミド濃度が54質量%であり、メタアクリルアミドからメタクリル酸への転化率が46%であった。
【0184】
[実施例8]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。ここにPpu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加してpH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。アクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで反応を進行させた。20時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度及びアクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリロニトリルからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0185】
[実施例9]
Ppu-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。ここにPpu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加してpH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。
アクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで反応を進行させた。20時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度及びアクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリロニトリルからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0186】
[実施例10]
Ppu-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。ここにPpu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加してpH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。メタクリロニトリル27gを添加し、30℃にて撹拌することで反応を進行させた。20時間後にHPLCにて分析を行ったところ、メタクリロニトリル濃度及びメタクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。メタクリロニトリルからメタクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0187】
[比較例3]
Pth-ニトリルヒドラターゼ生産菌を含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0質量%の懸濁液100gを得た。ここにPsp-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加してpH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。アクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで反応を進行させた。20時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミド濃度が62質量%であり、アクリロニトリルからアクリル酸への転化率が38%であった。
【0188】
[実施例11]-変異型アミダーゼによる反応(1)-
Pseudomonas putida NBRC12668由来のアミダーゼのDNA配列である、配列表の配列番号2をコードする遺伝子を含むpUC18を鋳型として、配列表の配列番号19及び20のプライマーを用い、クイックチェンジ法で配列表の配列番号1のアミノ酸配列において51番目のIleがThrに変換された変異体をコードする遺伝子を作成した。クイックチェンジ法はStratagene社のプロトコルに従った。前記操作により作成したプラスミドを用いて大腸菌DH5α細胞の形質転換を行った。
実施例1で用いたアミダーゼ生産菌の培養方法と同様にして変異型アミダーゼ生産菌を得た。
実施例1においてPpu-アミダーゼ生産菌の代わりに、得られた変異型アミダーゼを用いた以外は実施例1と同様にして加水分解反応を行った。HPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0189】
[実施例12~31]-変異型アミダーゼによる反応(2)-
配列表の配列番号2をコードする遺伝子を含むpUC18を鋳型として、表22に示す配列番号のプライマーを用い、クイックチェンジ法で配列表の配列番号1のアミノ酸配列において表22に示すようにアミノ酸変換された変異体をコードする遺伝子を作製した。その他は実施例11と同様に行った。いずれの変異型アミダーゼにおいてもアクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0190】
【0191】
[実施例32]
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製1>
国際公開第2004/56990号の実施例73に記載の方法に従いNo.113クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
なお、変異箇所及び置換されたアミノ酸残基の種類は、下記の表23~表27に示すとおりである。
上記方法で得られた変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を純水で希釈し、湿菌体濃度1.0wt%の懸濁液100gを得た。pH調節剤として0.1M-NaOH水溶液を用い、pHを8.0となるように調節した。この懸濁液にアクリロニトリル65gを添加し、30℃にて撹拌することで水和反応を進行させた。アクリロニトリルを添加した10時間後に、上記の実施例1におけるHPLCと同様の条件にてのHPLC分析を行ったところ、アクリロニトリル濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。
アクリロニトリルからアクリルアミドへの転化率が99%以上であることが確認されたが、アクリル酸の生成は見られなかった。
次いで、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10wt%の懸濁液10gを添加して30℃にて撹拌することで加水分解反応を進行させた。懸濁液添加10時間後に以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0192】
[実施例33]
実施例32において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Pch-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例32と同様にして加水分解反応を行った。
加水分解反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0193】
[実施例34]
実施例32において、Ppu-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加する代わりに、Acr-アミダーゼ生産菌を純水で希釈した湿菌体濃度10質量%の懸濁液10gを添加した以外は、実施例32と同様にして加水分解反応を行った。
加水分解反応開始から10時間後にHPLCにて分析を行ったところ、アクリルアミド濃度が検出限界以下(10質量ppm以下)となった。アクリルアミドからアクリル酸への転化率が99%以上であった。
【0194】
[実施例35~60]
下記の変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製2~27に従い、変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体及びその遊離ニトリルヒドラターゼを調製した。
微生物菌体の調製2~27で用いた変異型ニトリルヒドラターゼの変異箇所及び置換されたアミノ酸残基の種類は下記の表23~表25に示した。
【0195】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製2>
国際公開第2004/56990号の実施例74に記載の方法に従いNo.114クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0196】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製3>
国際公開第2004/56990号の実施例75に記載の方法に従いNo.115クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0197】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製4>
国際公開第2004/56990号の実施例76に記載の方法に従いNo.116クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0198】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製5>
国際公開第2004/56990号の実施例77に記載の方法に従いNo.117クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0199】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製6>
国際公開第2004/56990号の実施例78に記載の方法に従いNo.118クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0200】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製7>
国際公開第2004/56990号の実施例79に記載の方法に従いNo.119クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0201】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製8>
国際公開第2004/56990号の実施例80に記載の方法に従いNo.120クローン菌体を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0202】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製9>
国際公開第2010/55660号の実施例2に記載の方法に従いアミノ置換体5(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0203】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製10>
国際公開第2010/55660号の実施例6に記載の方法に従いアミノ置換体12(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0204】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製11>
国際公開第2010/55660号の実施例14に記載の方法に従いアミノ置換体33(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0205】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製12>
国際公開第2010/55660号の実施例19に記載の方法に従いアミノ置換体41(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0206】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製13>
国際公開第2010/55660号の実施例21に記載の方法に従いアミノ置換体45(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0207】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製14>
国際公開第2010/55660号の実施例29に記載の方法に従いアミノ置換体58(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0208】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製15>
国際公開第2010/55660号の実施例30に記載の方法に従いアミノ置換体59(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0209】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製16>
国際公開第2010/55660号の実施例31に記載の方法に従いアミノ置換体60(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0210】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製17>
国際公開第2010/55660号の実施例46に記載の方法に従いアミノ置換体85(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0211】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製18>
国際公開第2010/55660号の実施例52に記載の方法に従いアミノ置換体93(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0212】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製19>
国際公開第2010/55660号の実施例60に記載の方法に従いアミノ置換体104(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0213】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製20>
国際公開第2010/55660号の実施例65に記載の方法に従いアミノ置換体111(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0214】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製21>
国際公開第2010/55660号の実施例71に記載の方法に従いアミノ置換体117(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0215】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製22>
国際公開第2018/124247号の実施例19に記載の方法に従い形質転換体21(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0216】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製23>
国際公開第2018/124247号の実施例20に記載の方法に従い形質転換体23(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0217】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製24>
国際公開第2018/124247号の実施例21に記載の方法に従い形質転換体23(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0218】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製25>
国際公開第2018/124247号の実施例24に記載の方法に従い形質転換体26(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0219】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製26>
国際公開第2018/124247号の実施例26に記載の方法に従い形質転換体28(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0220】
<変異型ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体の調製27>
国際公開第2018/124247号の実施例28に記載の方法に従い形質転換体30(クローン菌体)を取得し、同文献の実施例1に記載の方法で培養して変異型ニトリルヒドラターゼを含有する湿菌体を得た。
【0221】
上記微生物菌体の調製2~27で調製した湿菌体を含有する懸濁液をそれぞれ用いた以外は、実施例32と同様の方法により、アクリル酸を製造した。
微生物菌体の調製2~27で調製した湿菌体を含有する懸濁液のいずれを用いた場合でも、アクリロニトリルからアクリルアミドへの転化率は99%以上であり、アクリル酸の生成は見られなかった。
【0222】
【0223】
【0224】
【0225】
表23~表25中、例えば、変異箇所における「α6」とは、配列番号1で示されるαサブユニットに対応するアミノ酸配列のN末端から6番目が置換されていることを意味している。また、例えば、置換後のアミノ酸残基における「Thr」とは、配列番号1で示されるαサブユニットに対応するアミノ酸配列のN末端から6番目に対応するアミノ酸残基が、「Thr」に置換されたことを意味している。
また、同様に、例えば、「β10」とは、配列番号2で示されるβサブユニットに対応するアミノ酸配列のN末端から10番目が置換されていることを意味している。また、例えば置換後のアミノ酸残基における「Asp」とは、配列番号2で示されるβサブユニットに対応するアミノ酸配列のN末端から10番目に対応するアミノ酸残基が、「Asp」に置換されていることを意味している。
【0226】
以上の結果から、実施例1~実施例60の本開示に係る(メタ)アクリル酸又はその塩の製造方法によれば、(メタ)アクリルアミドを加水分解して得られる(メタ)アクリル酸又はその塩を効率的に得られることが分かる。