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特開2023-22690交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022690
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20230208BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20230208BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20230208BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
H02P21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127701
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA01
5H505HA08
5H505HB02
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
5H505MM19
(57)【要約】
【課題】交流電動機の位置センサ付き制御において位置センサの偏芯や信号ノイズの影響による角度誤差に起因したトルク振動を抑制する交流電動機の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】ベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置として、交流電動機の回転位置情報とベクトル制御を行う際に用いる制御位相との位相差を演算して第1の位相差を出力する位相差演算部と、第1の位相差から特定の周波数成分をフィルタ処理により減衰した第2の位相差を出力するフィルタ部と、第2の位相差に基づいて交流電動機の回転速度および制御位相を演算する速度および位相演算部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置であって、
前記交流電動機の回転位置情報と前記ベクトル制御を行う際に用いる制御位相との位相差を演算して第1の位相差を出力する位相差演算部と、
前記第1の位相差から特定の周波数成分をフィルタ処理により減衰した第2の位相差を出力するフィルタ部と、
前記第2の位相差に基づいて前記交流電動機の回転速度および前記制御位相を演算する速度および位相演算部と
を備える交流電動機の駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記フィルタ部は、ノッチフィルタ処理を行い、ノッチ周波数、当該ノッチ周波数における減衰ゲインおよびノッチ幅に関与する減衰比、に基づいて、前記特定の周波数成分を減衰する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の交流電動機の駆動制御装置において、
前記フィルタ部は、前記ノッチ周波数を前記交流電動機の回転速度に基づいて設定する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の交流電動機の駆動制御装置において、
前記フィルタ部は、前記ノッチ周波数を前記交流電動機を含む前記駆動制御装置の機械共振周波数に基づいて設定する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記フィルタ部は、一次遅れフィルタ処理を行う
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記フィルタ部は、前記一次遅れフィルタ処理の時定数を、前記交流電動機の回転速度に基づいて変更する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記位相差演算部は、前記回転位置情報と前記制御位相との位相差を演算し更にフィードフォワード補償した当該位相差を前記第1の位相差として出力する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記交流電動機の回転速度に応じて前記第1の位相差または前記第2の位相差を切り換える位相差切換え部を備え、
前記速度および位相演算部は、前記第1の位相差または前記第2の位相差に基づいて前記交流電動機の回転速度および前記制御位相を演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項9】
請求項2から4のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記フィルタ部は、前記交流電動機を流れる2軸電流の少なくとも一つの軸電流の振動成分の周波数に基づいて、前記ノッチ周波数を設定する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項10】
請求項2から4のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置であって、
前記フィルタ部は、前記交流電動機の回転速度、前記交流電動機のトルク指令、前記交流電動機の検出電流および前記駆動制御装置の演算周期の少なくとも一つに基づいて、前記減衰ゲインを設定する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御装置を搭載する鉄道車両。
【請求項12】
電力変換装置により駆動される交流電動機をベクトル制御する交流電動機の駆動制御方法であって、
前記交流電動機の回転位置情報と前記ベクトル制御する際に用いる制御位相との位相差を演算して第1の位相差を出力し、
前記第1の位相差から特定の周波数成分をフィルタ処理して減衰させた第2の位相差を出力し、
前記第2の位相差に基づいて前記交流電動機の回転速度および前記制御位相を演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記フィルタ処理は、ノッチフィルタ処理であり、ノッチ周波数、当該ノッチ周波数における減衰ゲインおよびノッチ幅に関与する減衰比、に基づいて、前記特定の周波数成分を減衰させる
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項14】
請求項12に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記フィルタ処理は、一次遅れフィルタ処理であり、当該一次遅れフィルタ処理の時定数を、前記交流電動機の回転速度に基づいて変更する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記第1の位相差を、前記回転位置情報と前記制御位相との位相差を演算し更にフィードフォワード補償して出力する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【請求項16】
請求項12から14のいずれか1項に記載の交流電動機の駆動制御方法であって、
前記交流電動機の回転速度に応じて前記第1の位相差または前記第2の位相差を切り換え、
前記第1の位相差または前記第2の位相差に基づいて前記交流電動機の回転速度および前記制御位相を演算する
ことを特徴とする交流電動機の駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法に関し、電気鉄道車両、電気自動車、産業用インバータ、風力発電システムおよびディーゼル発電機システム等に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギー化や環境負荷低減の要求の高まりから、交流電動機の駆動制御装置は、家電製品、産業機器、インフラなど幅広い用途にその普及が進んでいる。
交流電動機の駆動制御方法の一つとして、交流電動機の回転子位置を検出する角度センサを利用したものがある。この角度センサとしては、レゾルバや磁気センサなどがあり、特に、レゾルバは電磁誘導を利用して機械角度を電気的信号に変換する角度センサであり、工作機械やロボットの角度検出用センサとして一般に普及するようになった。また、最近では、耐環境性に優れているなどの特徴を持つことから、自動車用永久磁石同期電動機の角度検出用センサとして適用が進んでいる。
【0003】
しかしながら、レゾルバを用いて交流電動機を制御する場合、レゾルバからの出力電圧信号に偏芯による直流オフセット誤差やゲインアンバランスによる振幅誤差、伝送遅延や出力側巻線の製造誤差などがある場合、それらに起因した角度誤差が生じ、交流電動機の駆動制御装置に交流電動機の駆動周波数の1倍または2倍の振動成分が発生することが知られている。そのため、交流電動機が高速回転時ほど、駆動周波数に比例したトルクや速度の振動現象が発生し、交流電動機の駆動制御装置を構成する機器類が破損する恐れがある。したがって、レゾルバのセンサノイズ等に起因した角度信号の誤差による振動現象を抑制する必要がある。
【0004】
一般に、レゾルバなどの角度センサの角度誤差による速度やトルクの振動を抑制する制御方法に関しては、角度センサの出力信号に基づいて算出された交流電動機の速度検出値に振動成分を低減するフィルタを挿入する手法や、交流電動機の速度フィードバックや電流フィードバックの制御ループ内に振動成分を低減するフィルタを挿入する手法がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、角度センサの検出角度に基づいて演算して得た交流電動機の電気角周波数に対して、遮断したい周波数のノッチフィルタ処理をかけることで、角度センサの誤差の影響を低減する技術が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-136218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の技術は、角度センサの検出角度の時間変化から交流電動機の電気角周波数を演算し、その電気角周波数演算値に比例した周波数成分を遮断するノッチフィルタ処理をかけることで、角度センサの角度誤差に起因した交流電動機の駆動制御装置のトルク振動や速度振動を低減するものである。
【0008】
また、ノッチフィルタの遮断周波数を電気角周波数の演算結果に応じて可変にすることで、回転数指令と機械角回転数とが一致していない過渡状態でも、角度誤差による速度演算値の振動成分を低減することができる。
【0009】
しかし、角度センサの検出角度に基づく交流電動機の電気角度に生じる角度誤差を除去できていないため、交流電動機のトルク制御や速度制御が振動することになる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記の課題に鑑み、角度センサのセンサノイズの影響による角度誤差に起因した交流電動機のトルク振動を抑制する交流電動機の駆動制御装置および駆動制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の交流電動機の駆動制御装置の一つは、ベクトル制御を用いて電力変換器により駆動される交流電動機の駆動制御装置であって、交流電動機の回転位置情報とベクトル制御を行う際に用いる制御位相との位相差を演算して第1の位相差を出力する位相差演算部と、第1の位相差から特定の周波数成分をフィルタ処理により減衰した第2の位相差を出力するフィルタ部と、第2の位相差に基づいて交流電動機の回転速度および制御位相を演算する速度および位相演算部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベクトル制御に対する角度センサのセンサノイズによる角度誤差の影響を低減することにより、交流電動機のトルク振動を抑制し、制御安定性の高い交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図2】本発明による交流電動機の制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。
図3】実施例1に係る位相・速度演算部の構成例を表すブロック図である。
図4】実施例1に係る位相差演算部の構成例を表すブロック図である。
図5】実施例1に係る比例・積分制御部の構成例を表すブロック図である。
図6】本発明の実施例2に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図7】実施例2に係る位相・速度演算部の構成例を表すブロック図である。
図8】実施例2に係る位相差演算部の構成例を表すブロック図である。
図9】実施例2に係る位相差FF補償部の構成例を表すブロック図である。
図10】本発明の実施例3に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図11】実施例3に係る位相・速度演算部の構成例を表すブロック図である。
図12】本発明の実施例4に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図13】実施例4に係る位相・速度演算部の構成例を表すブロック図である。
図14】本発明の実施例5に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。
図15】実施例5に係る位相・速度演算部の構成例を表すブロック図である。
図16】本発明の実施例6として、実施例1~5のいずれかを用いた交流電動機の駆動制御装置を搭載する鉄道車両の一部の概略構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として、実施例1から6について詳細に説明する。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、重複した説明を省略する。以下で説明する実施例および変形例は、矛盾しない範囲で、その一部または全部を組み合わせてもよい。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。図1では、制御対象である交流電動機103、交流電動機103を駆動する電力変換器102、電力変換器102を制御する制御器101、交流電動機103のトルク指令Tm*を発生する指令発生器105、交流電動機103に流れる電流を検出する相電流検出部121および交流電動機103の回転子位置を検出する回転位置検出部124、を備える。
【0016】
交流電動機103は、電力変換器102から出力される交流電力により制御される電動機である。なお、本発明の各実施例では、交流電動機の一種として、永久磁石同期電動機を例に発明内容を説明するが、この電動機に限定されるものではなく、本発明は他のすべての交流電動機に適用可能である。また、本発明の各実施例では交流電動機を例にしているが、交流発電機を制御対象としても交流電動機の場合と同様の効果が得られる。
【0017】
電力変換器102は、電力変換器102に直流電力を供給する入力端子123aと123b、6個のスイッチング素子Sup~Swnで構成される主回路部132、主回路部132を直接駆動するゲート・ドライバ133、電力変換器102の過電流保護用に取り付けた直流抵抗器134および平滑用コンデンサ131を備える。また、電力変換器102は、入力端子123aと123bとから供給される直流電力を、制御器101が生成したゲート指令信号に基づいて交流電力に変換し、変換した交流電力を交流電動機103に供給する。
【0018】
相電流検出部121は、電力変換器102から永久磁石同期機103に流れる交流電流iuおよびiwを検出する。この相電流検出部121は、例えばホール素子を用いた電流センサにより実現される。なお、図1に示す相電流検出部121は、2相検出による交流電流検出の構成としているが、3相検出としてもよい。また、相電流センサを用いず、電力変換器102の過電流保護用に取り付けられた直流抵抗器134を流れる電流値から推定される交流電流値を用いてもよい。
【0019】
回転位置検出部124は、交流電動機103の回転子位置(回転角度)に応じた角度信号φを出力する。この回転位置検出部124は、例えばレゾルバやエンコーダ、磁気センサなどにより実現される。
【0020】
位相・速度演算部110は、検出された回転子位置に応じた角度信号φから、交流電動機103の回転速度の電気角周波数ωreおよびベクトル制御のための電流検出値のdq座標変換や電圧指令値のUVW座標変換で用いる制御位相θdcを算出する。
【0021】
指令発生器105は、制御器101の上位に位置する制御器で、交流電動機へのトルク指令Tm*を発生する。
【0022】
制御器101は、指令発生器105からのトルク指令Tm*に基づき、交流電動機103の発生トルクを制御する。この制御器としては、例えば、交流電動機103に流れる電流を制御する場合には電流制御器が、あるいは、回転速度や位置を制御する場合には速度制御器や位置制御器が、用いられる。実施例1では、トルクの制御を行うことを目的とするトルク制御器として動作しているが、上位の制御器として速度制御器や位置制御器を用いた構成としてもよい。
【0023】
制御器101の構成としては、位相・速度演算部110、電流指令演算部111、ベクトル制御部112、電流検出部113、dq座標変換部114、極座標変換部115、UVW座標変換部116およびPWM信号制御器117を備える。
【0024】
また、制御器101は、回転位置検出部124からの交流電動機103の回転子位置(回転角度)に応じた角度信号φと、交流電動機103を流れる交流電流iuおよびiwの検出値である交流電流検出値IuおよびIwと、指令発生器105からのトルク指令Tm*とに基づいた電流制御系と位相制御系の演算結果から、電力変換器102のスイッチング素子を駆動するためのゲート指令信号を生成し、電力変換器102のゲート・ドライバ133に供給する。
【0025】
図2は、本発明による交流電動機103の制御において使用される座標系と記号の定義を示す図である。ここで、交流電動機103としては、上述のとおり、永久磁石同期電動機を例に説明する。
【0026】
図2では、a軸とb軸で定義されるab軸座標系は、永久磁石同期電動機103aの固定子巻線の位相を表す固定子座標系である。a軸は、一般的に永久磁石同期電動機103aのu相巻線位相が基準にとられる。
【0027】
d軸とq軸で定義されるdq軸座標系は、永久磁石同期電動機103aの回転子の磁極位置を表す回転座標系であり、永久磁石同期電動機103aの回転子磁極位置と同期して回転する。永久磁石同期機の場合、d軸は、一般的に回転子に取り付けられた永久磁石による磁極のN極方向が基準にとられるため、磁極軸とも呼ばれる。
【0028】
dc軸とqc軸で定義されるdc-qc軸座標系は、ベクトル制御のための制御位相、すなわち制御器101がd軸およびq軸方向として制御している座標系であり、制御軸とも呼ばれる。
【0029】
また、z軸は、回転位置検出部124が出力する永久磁石同期電動機103aの回転子位置(回転角度)に応じた角度信号φの位相を表す回転座標系である。
なお、各座標系において組み合わされる座標軸同士は、いずれも互いに直交している。
【0030】
上記の各座標系において、図2に示すように、a軸を基準としたd軸、dc軸およびz軸の各軸の位相を、θd、θdcおよびφとそれぞれ表す。また、d軸に対するdc軸の偏差をΔθerr、z軸に対するdc軸の偏差をΔθcと表す。
【0031】
ここで、回転位置検出部124が出力する永久磁石同期電動機103aの回転子位置(回転角度)に応じた角度信号φを用いてベクトル制御を実施する場合、d軸とz軸が一致していればdq軸座標系とdc-qc軸座標系は一致することになり、d軸に対するdc軸の偏差Δθerrは零となる。
【0032】
ただし、回転位置検出部124が出力する永久磁石同期電動機103aの回転子位置(回転角度)に応じた角度信号φに、センサノイズ等による角度誤差があった場合は、d軸に対するdc軸の偏差Δθerrが生じることになる。
【0033】
以下、図1に示す制御器101の構成について詳しく説明する。
位相・速度演算部110は、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φに基づいて、回転速度の電気角周波数ωreと、ベクトル制御を行うdc-qc軸座標系の制御位相θdcとを演算して出力する。
【0034】
電流指令演算部111は、位相・速度演算部110から出力される永久磁石同期電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreと、平滑用コンデンサ131の電圧検出値Ecfと、指令発生器105から出力されるトルク指令Tm*とに基づいて、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*を演算して出力する。なお、電流指令値Idc*およびIqc*の演算は、例えば、トルク指令Tm*と、電圧検出値Ecfと、インバータ周波数ω1とに対して、最適なd軸およびq軸の電流指令値を、予め試験や解析から求めた値を参照テーブル、関数式、近似式、設計式また、理論式として用いて求めればよい。
【0035】
ベクトル制御部112は、dq座標変換部114が出力したdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcと、電流指令演算部111が出力したdc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*とを一致させるべく、それぞれ電流制御を行う。この電流制御の結果と、永久磁石同期電動機103aの回転速度の電気角周波数ωreとに基づいて、回転座標系であるdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*が演算され、出力される。
【0036】
ベクトル制御部112において、dc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*は、dc-qc軸座標系上の電流指令値Idc*およびIqc*と、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreと、電動機定数R1、Ld、LqおよびKe(逆起電力定数)とを用いて、例えば、以下の式(1)にて演算されるものとする。
【数1】
なお、式(1)において、R1*、Ld*、Lq*およびKe*は、それぞれ電動機定数の制御設定値を表している。
【0037】
電流検出部113は、相電流検出部121が検出した永久磁石同期電動機103aに流れる交流電流iuおよびiwから三相電流検出値Iu、IvおよびIwを演算し、dq座標変換部114に出力する。
【0038】
dq座標変換部114は、電流検出部113が出力した三相電流検出値Iu、IvおよびIwを、回転位置検出部124が出力する永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φに基づいて位相・速度演算部110で演算した制御位相θdcを用いて、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcに変換して出力する。
【0039】
極座標変換部115は、ベクトル制御部112が出力したdc-qc軸上の電圧指令Vdc*およびVqc*に基づいて、電圧振幅指令V1*および電圧位相指令δに変換して出力する。
【0040】
UVW座標変換部116は、極座標変換部115が出力した電圧振幅指令V1*および電圧位相指令δと、位相・速度演算部110が出力した制御位相θdcとに基づいて三相交流電圧指令Vu*、Vv*およびVw*に変換し、PWM信号制御器117に出力する。
【0041】
PWM制御器117は、任意のキャリア周波数fcと平滑用コンデンサ131の電圧検出値Ecfとに基づいて三角波キャリアを生成し、その三角波キャリアと三相交流電圧指令Vu*、Vv*およびVw*に基づく変調波との大小比較を行い、パルス幅変調を実施する。このパルス幅変調の演算結果にて生成されたゲート指令信号によって、電力変換器102のスイッチング素子をオン/オフ制御する。
【0042】
次に、実施例1の特徴部分である位相・速度演算部110について詳しく説明する。
図3は、実施例1に係る位相・速度演算部110の構成例を表すブロック図である。
図3に示す位相・速度演算部110は、位相差演算部201、比例・積分制御部202、制御位相演算部203およびフィルタ処理部204を備える。
【0043】
位相・速度演算部110は、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φに基づいて、ベクトル制御のための永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよびdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。
【0044】
図4は、実施例1に係る位相差演算部201の構成例を表すブロック図である。
図4に示す位相差演算部201は、±π処理部301、±π処理部302および加減算器801を備える。
【0045】
位相差演算部201は、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φと、制御位相演算部203から出力される制御位相θdcとに基づいて、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’を演算して出力する。なお、本発明の各実施例では、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φは、-π~+π(-180度~+180度)で変化する角度情報を有するものとする。
【0046】
±π処理部301は、制御位相演算部203から出力される制御位相θdcを、-π~+πの大きさに換算処理し、±π処理部302は、角度信号φからこの換算処理した制御位相θdcを減算した位相差Δθcを、-π~+πの大きさに換算処理する。角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθcを±π換算処理したΔθc’は、例えば、以下の式(2)にて演算されるものとする。
【数2】
【0047】
位相差演算部201から出力される、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’は、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθcを-π~+π(-180度~+180度)の大きさに換算処理したものとする。
【0048】
図5は、実施例1に係る比例・積分制御部202の構成例を表すブロック図である。
図5に示す比例・積分制御部202は、比例器401、比例器402、積分器403および加算器802を備える。
【0049】
比例・積分制御部202は、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’に基づいて、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreを演算して出力する。
【0050】
ここで、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreは、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’を0に制御するため、比例演算結果と比例積分演算結果とを加算したものとする。ベクトル制御で用いる永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreは、例えば、以下の式(3)にて演算される。
【数3】
【0051】
ここで、比例器401の比例ゲインKp-pllおよび比例器402の積分ゲインKi-pllは、例えば、以下の式(4)にて設定されるものとする。
【数4】
なお、式(4)において、ωpll*は、位相フィードバック制御の制御応答角周波数、Npllは、比例・積分制御の折れ点比、である。ここで、比例・積分制御の折れ点比Npllは、例えば、2~10の任意の値を用いればよい。
【0052】
なお、比例・積分制御部202の比例ゲインKp-pllおよび積分ゲインKi-pllは、定数でもよいし、電流指令値、電流検出値、速度またはベクトル演算周期などの関数式として演算したものを用いてもよい。
【0053】
図3に示す制御位相演算部203は、比例・積分制御部202が出力した永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreに基づいて、ベクトル制御で用いるdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。ここで、制御位相θdcは、電気角周波数ωreを積分演算したものとする。
【0054】
図3に示すフィルタ処理部204は、位相差演算部201が出力した位相差Δθc’と、比例・積分制御部202が出力した電気角周波数ωreとに基づいて、フィルタ処理された位相差ΔθcN’を演算して出力する。
【0055】
フィルタ処理部204によってフィルタ処理された位相差ΔθcN’とは、ベクトル制御で用いる永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreや、制御位相θdに含まれる永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreに比例した周波数成分や角度誤差を低減するため、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’をフィルタ処理したものとする。
【0056】
ここで、フィルタ処理部204は、例えば、特定の周波数成分のみを低減し、それ以外の周波数成分を通過させるノッチフィルタ機能を有すればよい。なお、ノッチフィルタ処理は、例えば、以下の式(5)のノッチフィルタの伝達関数Gn(s)に基づくものとする。
【数5】
なお、式(5)において、ωnは、ノッチ周波数、Qminは、ノッチ周波数ωnにおけるゲインの値となる減衰ゲイン、ζdnは、ノッチ幅を決定するフィルタの極の減衰比である。
【0057】
実施例1では、回転位置検出部124から出力される角度信号φには、角度センサの直流オフセット誤差や振幅誤差に起因した角度誤差が含まれ、この角度誤差による交流電動機の駆動制御装置のトルク振動を抑制するために、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreをノッチ周波数ωnとするノッチフィルタを用いる。
【0058】
なお、実施例1では、ノッチフィルタ処理のノッチ周波数ωnとして、比例・積分制御部202が出力した永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreを用いたが、これに限定されない。交流電動機を含む駆動制御装置の機械共振振動を抑制したい場合には、ノッチ周波数ωnとして、この機械共振周波数を設定すればよい。
【0059】
また、上記のように、実施例1のフィルタ処理部204をノッチフィルタ処理として説明したが、一次遅れフィルタ処理を用いてもよい。例えば、位相差演算部201が出力した位相差Δθc’を、一次遅れフィルタ処理により位相差ΔθcN’として、比例・積分制御部202に出力してもよい。
ここで、一次遅れフィルタの時定数を、比例・積分制御部202が出力した電気角周波数ωreの逆数の2倍以上の値に設定することで、位相差Δθc’から電気角周波数ωreに比例した振動成分を低減することができる。
【0060】
次に、実施例1の位相・速度演算部110を用いることによって、交流電動機の駆動制御装置のトルク振動を抑制する原理について説明する。
交流電動機の駆動周波数成分に比例した角度誤差が、角度センサの検出角度信号に含まれている場合、その検出角度信号が交流電動機の回転速度に比例した交流量であるため、直接的に、その検出角度信号に対して交流電動機の駆動周波数成分を低減するフィルタ処理をかけることができない。
【0061】
そこで、実施例1では、交流電動機のベクトル制御に対して角度センサの検出角度信号を直接使用せず、角度センサの検出角度信号に同期した第二の検出角度として、ベクトル制御用の制御位相θdcを用意する。その制御位相θdcは、角度信号φと比較してフィードバック制御することで、交流電動機の加減速などの角度信号の変化に追従するようになる。
【0062】
そして、角度センサの直流オフセット誤差や振幅誤差に起因した角度信号φの角度誤差は、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθcに交流電動機の駆動周波数成分に比例した周波数成分として現れるため、その位相差Δθcをフィルタ処理することで角度誤差による振動成分を低減することができる。
【0063】
また、位相フィードバック制御ループ内の位相差Δθcにフィルタ処理を挿入し、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreの演算結果をフィルタ処理のノッチ周波数設定値にフィードバックすることで、角度誤差の振動周波数成分を低減する効果が向上する。
【0064】
このように、位相・速度演算部110が出力する永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよび制御位相θdcの演算結果は、角度センサの直流オフセット誤差や振幅誤差に起因した角度誤差の振動成分を低減したものになるため、それらを用いたベクトル制御系の振動が抑えられ、トルク振動や速度振動の発生を抑制することができる。
【0065】
以上、実施例1によれば、角度センサの検出角度とベクトル制御の制御位相との差分に振動成分を減衰するフィルタを通過させ,そのフィルタ出力値に基づき交流電動機の回転速度の電気角周波数および制御位相を演算する位相フィードバック制御系を構築する。これにより、角度センサ検出値の角度誤差による交流電動機のトルク振動を抑制し、交流電動機の駆動制御装置の制御安定性の向上を図ることができる。
【実施例0066】
実施例2では、位相・速度演算部110による交流電動機の回転速度の電気角周波数ωreおよびベクトル制御を行うdc-qc軸座標系の制御位相θdcの演算において、回転位置検出部124から出力される交流電動機103の回転子位置に応じた角度信号φと、制御位相演算部203から出力される制御位相θdcとの位相差Δθc’に対して、一次遅れフィルタを用いたフィードフォワード(FF)補償処理を追加する。
【0067】
これにより、交流電動機103の回転速度が加速または減速するときに生じる角度信号φと制御位相θdcとの位相差を補償することができ、実施例1よりも制御追従性の向上やトルク精度の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
【0068】
図6は、本発明の実施例2に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。以下、図1に示す実施例1と比較して、構成の相違部分のみを説明する。実施例2では、実施例1の位相・速度演算部110に替えて、位相・速度演算部110bを用いる。
【0069】
図7は、実施例2に係る位相・速度演算部110bの構成例を表すブロック図である。
図7に示す位相・速度演算部110bは、位相差演算部201b、比例・積分制御部202、制御位相演算部203およびフィルタ処理部204を備える。すなわち、図3に示す実施例1の位相・速度演算部110の構成において、位相差演算部201を位相差演算部201bに置き換えたものである。
【0070】
位相・速度演算部110bは、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φに基づいて、ベクトル制御のための永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよびdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。
【0071】
ここで、図7に示す位相差演算部201bの構成について詳しく説明する。
図8は、実施例2に係る位相差演算部201bの構成例を表すブロック図である。
図8に示す位相差演算部201bは、±π処理部301、±π処理部302、加減算器801および位相差FF補償部303bを備える。
【0072】
位相差演算部201bは、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φと、制御位相演算部203から出力される制御位相θdcとに基づいて、角度信号φと制御位相θdcの位相差Δθc-ff’を演算して出力する。
【0073】
次に、実施例2の特徴部分である位相差FF補償部303bについて詳しく説明する。
図9は、実施例2に係る位相差FF補償部303bの構成例を表すブロック図である。
図9に示す位相差FF補償部303bは、一次遅れフィルタ部501b、比例器502bおよび加算器802を備える。
【0074】
位相差FF補償部303bは、±π処理部302から出力される位相差Δθc’に基づいて、永久磁石同期電動機103aの回転速度の加速または減速による角度信号φと制御位相θdcとの位相差を補償した位相差Δθc-ff’を演算して出力する。
【0075】
位相差FF補償部303bにおいて、図7に示すフィルタ処理部204の入力信号である位相差Δθc-ff’は、図8に示す±π処理部302から出力される、角度信号φと制御位相θdcとの位相差Δθc’に対して、位相差Δθc-ff’を一次遅れフィルタ部501で一次遅れフィルタ処理し続いて比例器502bで比例演算した結果を加算器802で加算したものとする。例えば、以下の式(6)にて演算される。
【数6】
【0076】
ここで、一次遅れフィルタ部501bの一次遅れフィルタ時定数Tpll-ffおよび比例器502bの比例ゲインKpll-ffは、例えば、以下の式(7)にて設定されるものとする。
【数7】
なお、式(7)において、ωpll*は、位相フィードバック制御の制御応答角周波数、Npll-ffは、位相差FF補償制御の折れ点比である。位相差FF補償制御の折れ点比Npll-ffは、位相フィードバック制御との制御干渉を回避するため、例えば、2~10の任意の値を設定すればよい。
【0077】
また、交流電動機103の回転速度が加速または減速するときに生じる角度信号φと制御位相θdcとの位相差を補償する手段として、位相差FF補償部303bに替えて、比例・積分制御部202において比例演算と積分演算に、さらに二重積分演算を追加することで実現してもよい。例えば、以下の式(8)にて演算されるものとする。
【数8】
ここで、二重積分ゲインKi2-pllは、例えば、位相フィードバック制御の制御応答角周波数ωpll*に基づいて決定した値を設定すればよい。
【0078】
したがって、実施例2では、回転位置検出部124の角度信号φとベクトル制御を行う制御位相θdcとの位相差Δθc’に一次遅れフィルタを用いた位相FF補償値を加算することで、交流電動機の回転速度が加速または減速するときに生じる角度信号φと制御位相θdcとの位相差を補償することができる。これにより、実施例1よりも交流電動機の駆動制御装置の制御追従性やトルク精度の向上を図ることができる。
【実施例0079】
実施例3では、位相・速度演算部110による交流電動機の回転速度の電気角周波数ωreおよびベクトル制御を行うdc-qc軸座標系の制御位相θdcの演算において、回転位置検出部124から出力される角度信号φとベクトル制御で用いる制御位相θdcとの位相差Δθc’と、この位相差Δθc’を電気角周波数ωreに比例した周波数成分や角度誤差を低減するためにフィルタ処理した位相差ΔθcN’とを、交流電動機の回転速度の電気角周波数ωreに応じて切り替える。
【0080】
これにより、電気角周波数ωreに基づくフィルタ処理周波数と位相フィードバック制御の制御応答角周波数が近づくことで制御が不安定化する現象を回避し、実施例1よりも制御安定性の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
【0081】
図10は、本発明の実施例3に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。図1に示す実施例1と比較して、構成の相違部分のみを説明する。実施例3では、実施例1の位相・速度演算部110に替えて、位相・速度演算部110cを用いる。
【0082】
図11は、実施例3に係る位相・速度演算部110cの構成例を表すブロック図である。
図11に示す位相・速度演算部110cは、位相差演算部201、比例・積分制御部202、制御位相演算部203、フィルタ処理部204および位相差切換部601cを備える。すなわち、図3に示す実施例1の位相・速度演算部110の構成に、位相差切換部601cを加えたものである。
【0083】
位相・速度演算部110cは、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φに基づいて、ベクトル制御のための永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよびdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。
【0084】
次に、実施例3の特徴部分である位相差切換部601cについて詳しく説明する。
位相差切換部601cは、位相差演算部201から出力される位相差Δθc’と、その位相差Δθc’をフィルタ処理部204で電気角周波数ωreに比例した周波数成分を低減した位相差ΔθcN’と、を電気角周波数ωreに応じて切り換えて比例・積分制御部202に出力する。
【0085】
位相差切換部601cは、例えば、フィルタ処理部204が電気角周波数ωreをノッチ周波数ωnとするノッチフィルタ処理を行う際、電気角周波数ωreが比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*に近い場合には、位相差演算部201から出力される位相差Δθc’を出力し、電気角周波数ωreが比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*から離れている場合には、フィルタ処理部204から出力されるフィルタ処理された位相差ΔθcN’を出力するよう切り換える。これにより、制御干渉による不安定化を回避することができる。
【0086】
より具体的には、位相差切換部601cの切換え速度の条件は、例えば、電気角周波数ωreが比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*の3倍以上大きい速度域で、フィルタ処理部204から出力されるフィルタ処理された位相差ΔθcN’を出力するような切換え設定にするとよい。
【0087】
また、交流電動機の駆動制御装置において、振動が問題となる振動周波数が位相フィードバック制御の制御応答角周波数に近い場合には、制御応答角周波数の設定値をこの問題となる振動周波数からずらすことで、振動を抑制する効果を得られるようにすればよい。
【0088】
したがって、実施例3では、位相差演算部201から出力される位相差Δθc’と、その位相差Δθc’をフィルタ処理した位相差ΔθcN’と、を電気角周波数ωreに応じて切り換えて位相フィードバック制御の比例・積分制御部202に出力することで、電気角周波数ωreに基づくフィルタ処理周波数と位相フィードバック制御の制御応答角周波数が近いことで制御が不安定化するのを回避できる。これにより、実施例1よりも交流電動機の駆動制御装置の制御安定性の向上を図ることができる。
【実施例0089】
実施例4は、位相・速度演算部110による交流電動機の回転速度の電気角周波数ωreおよびベクトル制御を行うdc-qc軸座標系の制御位相θdcの演算において、回転位置検出部124から出力される角度信号φとベクトル制御で用いる制御位相θdcとの位相差Δθc’をフィルタ処理するフィルタ周波数設定値を、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcから抽出した振動成分に基づいて決定する。
【0090】
これにより、交流電動機の駆動制御装置で発生した振動成分を抑制できるようになり、実施例1よりも振動抑制効果の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
【0091】
図12は、本発明の実施例4に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。図1に示した実施例1と比較して、構成の相違部分のみを説明する。実施例4では、実施例1の位相・速度演算部110に替えて、位相・速度演算部110dを用いる。
【0092】
図13は、実施例4に係る位相・速度演算部110dの構成例を表すブロック図である。
図13に示す位相・速度演算部110dは、位相差演算部201、比例・積分制御部202、制御位相演算部203、フィルタ処理部204および振動周波数抽出部701dを備える。すなわち、図3に示す実施例1の位相・速度演算部110の構成に、振動周波数抽出部701dを加えたものである。また、この振動周波数抽出部701dによる機能をフィルタ処理部204に組み込んでもよい。
【0093】
位相・速度演算部110dは、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φと、dq座標変換部114から出力されるdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcに基づいて、ベクトル制御のための永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよびdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。
【0094】
次に、実施例4の特徴部分である振動周波数抽出部701dについて詳しく説明する。
振動周波数抽出部701dは、dq座標変換部114から出力されるdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcの少なくとも一方から振動成分を抽出し、その振動成分が減衰するように、フィルタ処理部204のノッチフィルタ周波数ωnの設定値を決定して出力する。
【0095】
例えば、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcから振動成分を抽出し、その振動成分の内で最も振幅が大きい振動成分の振動周波数を、フィルタ処理部204のノッチフィルタ周波数ωnの設定値とすればよい。この場合、ノッチフィルタ周波数ωnは、電流検出値IdcおよびIqcの少なくとも一方から抽出した振動成分の振幅が小さくなるように、設定値が遷移していくことになる。その際、最も振幅が大きい振動周波数が複数存在する場合には、ノッチフィルタ周波数ωnの設定値の遷移条件に、各振動周波数の振幅の差に対するヒステリシスを設けて、または、各振動周波数の振幅を二乗しその総和が最小となるようにして、ノッチフィルタ周波数ωnの設定値を決定する条件を追加すればよい。
【0096】
また、振動周波数抽出部701dは、フィルタ処理部204のノッチフィルタ周波数ωnを比例・積分制御部202が出力する電気角周波数ωreを基本として、そこにdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcから抽出した振動成分が減衰するようにノッチフィルタ周波数ωnの設定値を補正する構成としてもよい。
【0097】
したがって、実施例4では、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcの少なくとも一方から抽出した振動成分に基づいて、回転位置検出部124の角度信号φとベクトル制御を行う制御位相θdcの位相差Δθc’をフィルタ処理するフィルタ周波数を決定する。これにより、交流電動機の駆動制御装置で発生した振動成分に応じた振動抑制制御を実現できるようになり、実施例1よりも交流電動機の駆動制御装置の振動抑制効果の向上を図ることができる。
【実施例0098】
実施例5では、位相・速度演算部110による交流電動機の回転速度の電気角周波数ωreおよびベクトル制御を行うdc-qc軸座標系の制御位相θdcの演算において、回転位置検出部124から出力される角度信号φとベクトル制御で用いる制御位相θdcとの位相差Δθc’をフィルタ処理するフィルタ処理部204のノッチ周波数ωn、ノッチ周波数ωnにおいてゲインの値となる減衰ゲインQminおよびノッチの幅を決定するフィルタの極の減衰比ζdnを、交流電動機の駆動制御装置の運転状態に応じて可変にする。
【0099】
これにより、制御ループのハイゲイン化による制御の不安定化を回避し、実施例1よりも制御安定性や振動抑制効果の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
【0100】
図14は、本発明の実施例5に係る交流電動機の駆動制御装置の構成例を表すブロック図である。図1に示す実施例1と比較して、構成の相違部分のみを示すと、実施例5では、実施例1の位相・速度演算部110に替えて、位相・速度演算部110eを用いる。
【0101】
図15は、実施例5に係る位相・速度演算部110eの構成例を表すブロック図である。
図15に示す位相・速度演算部110eは、位相差演算部201、比例・積分制御部202、制御位相演算部203、フィルタ処理部204およびフィルタ設定パラメータ演算部901eを備える。すなわち、図3に示す実施例1の位相・速度演算部110の構成に、フィルタ設定パラメータ演算部901eを加えたものである。また、このフィルタ設定パラメータ演算部901eによる機能をフィルタ処理部204に組み込んでもよい。
【0102】
位相・速度演算部110eは、回転位置検出部124から出力される永久磁石同期電動機103aの回転子位置に応じた角度信号φと、dq座標変換部114から出力されるdc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcと、指令発生器105から出力されるトルク指令Tm*とに基づいて、ベクトル制御のための永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよびdc-qc軸座標系の制御位相θdcを演算して出力する。
【0103】
次に、実施例5の特徴部分であるフィルタ設定パラメータ演算部901eについて詳しく説明する。
フィルタ設定パラメータ演算部901eは、例えば、永久磁石同期電動機103aの電動機定数と、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreと、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcとから、永久磁石同期電動機103aの電圧入力から電流出力までの伝達特性を導出し、その伝達特性の共振ゲインに基づいてノッチフィルタの減衰ゲインQminを演算する。なお、dc-qc軸座標系上の電流検出値Idcおよ びIqcに替えて、指令発生器105から出力されるトルク指令Tm*を用いてもよい。
【0104】
制御対象となる交流電動機の共振ゲインの大きさに応じてノッチフィルタの減衰ゲインQminを可変にすることで、角度センサの直流オフセット誤差や振幅誤差に起因した角度誤差のωre振動成分を、運転状態に依らず任意の大きさに抑制することができる。
【0105】
また、高速域では永久磁石同期電動機103aの共振ゲインは変わらないが、周波数帯域が狭まってくるため、電気角周波数ωreに応じてノッチフィルタの減衰比ζdnを増減することで、角度センサの直流オフセット誤差や振幅誤差に起因した角度誤差のωre振動成分を抑制する効果が向上する。
【0106】
なお、フィルタ設定パラメータ演算部901eは、単に、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreや、dc-qc軸座標系上の電流検出値IdcおよびIqcや、指令発生器105から出力されるトルク指令Tm*、の少なくとも一つに基づいてノッチフィルタの減衰ゲインQminを可変にしてもよい。
【0107】
さらに、フィルタ設定パラメータ演算部901eは、例えば、フィルタ処理部204やベクトル制御部112をはじめとする制御器101の演算周期および永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreに基づいて、ノッチフィルタの減衰ゲインQminを演算する。特に、高速域でフィルタ処理部204やベクトル制御部112の演算遅れの影響が大きくなる場合、ノッチフィルタの減衰ゲインQminを上げたままでは制御系が不安定化するため、減衰ゲインQminを下げる必要がある。
【0108】
また、フィルタ設定パラメータ演算部901eは、実施例3の変形例として、永久磁石同期電動機103aの電気角周波数ωreおよび比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*に応じてノッチフィルタの減衰ゲインQminを可変にすることで、制御干渉による不安定化を回避することができる。
【0109】
例えば、電気角周波数ωreが比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*に近い場合には、ノッチフィルタの減衰ゲインQminを零にし、電気角周波数ωreが比例・積分制御部202の制御応答角周波数ωpll*から離れている場合には、減衰ゲインQminを零以外の任意の値に変更すればよい。
【0110】
したがって、実施例5では、交流電動機の運転状態に応じて、フィルタ処理部204のノッチフィルタの設定パラメータであるノッチ周波数ωn、減衰ゲインQminおよび減衰比ζdnを変更する。これにより、ノッチフィルタによるωre振動成分の低減効果の最適化や制御ループのハイゲイン化による制御の不安定化を回避し、実施例1よりも制御安定性や振動抑制効果の向上が可能な交流電動機の駆動制御装置が実現できる。
【実施例0111】
本発明の実施例6は、実施例1~5のいずれかを用いた交流電動機の駆動制御装置を鉄道車両に適用したものである。
【0112】
図16は、本発明の実施例6として、実施例1~5のいずれかを用いた交流電動機の駆動制御装置を搭載する鉄道車両の一部の概略構成を表す図である。
【0113】
図16に示す鉄道車両は、交流電動機103aおよび103bが搭載された台車、並びに、交流電動機103cおよび103dが搭載された台車を有すると共に、制御器101、電力変換器102、指令発生器105および相電流検出部121を含む交流電動機の駆動制御装置を搭載している。
【0114】
実施例6に係る鉄道車両は、運転士によりマスター・コントローラを介して入力された運転指令に基づき指令発生器105が発生したトルク指令値Tm*に応じて、架線から集電装置を介して供給された電力を電力変換器102で交流電力に変換し交流電動機103に供給されることで交流電動機103を駆動する。交流電動機103は、鉄道車両の車軸と連結されており、交流電動機103により鉄道車両の走行が制御される。
【0115】
実施例6に係る鉄道車両では、交流電動機の駆動制御装置として実施例1~5のいずれかを適用することで、制御安定性および制御応答の向上を図ることができる。
【0116】
以上、本発明の各実施例について説明したが、交流電動機であれば、他の電動機であっても同様に適用することが可能である。例えば、永久磁石同期電動機、巻線型同期電動機およびリラクタンストルクによる同期機も同様である。また、発電機の制御に対しても同様に適用可能である。さらに、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0117】
101 制御器、102 電力変換器、103 交流電動機、105 指令発生器、
110 位相・速度演算部、111 電流指令演算部、112 ベクトル制御部、
113 電流検出部、114 dq座標変換部、115 極座標変換部、
116 UVW座標変換部、117 PWM信号制御器、121 相電流検出部、
123 入力端子、124 回転位置検出部、131 平滑用コンデンサ、
132 主回路部、133 ゲート・ドライバ、134 直流抵抗器、
201 位相差演算部、202 比例・積分制御部、203 制御位相演算部、
204 フィルタ処理部、301,302 ±π処理部、303b 位相差FF補償部、
401,402,502b 比例器、403 積分器、501b 一次遅れフィルタ部、
601c 位相差切換部、701d 振動周波数抽出部、801 加減算器、
802 加算器、901e フィルタ設定パラメータ演算部
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