(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022723
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】排水処理装置及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20230101AFI20230208BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20230208BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20230208BHJP
【FI】
C02F3/28 A
C02F3/28 Z
B01D61/00 500
C02F1/44 F
C02F1/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127748
(22)【出願日】2021-08-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国土交通省、水管理、国土保全局「FO膜を用いた超省エネ型下水処理システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】591078996
【氏名又は名称】一般財団法人造水促進センター
(71)【出願人】
【識別番号】500354528
【氏名又は名称】日本水工設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松林 未理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 光春
(72)【発明者】
【氏名】安井 英斉
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】大熊 那夫紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 志野歩
(72)【発明者】
【氏名】河内 隆秀
(72)【発明者】
【氏名】寺地 裕康
【テーマコード(参考)】
4D006
4D040
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006HA01
4D006HA41
4D006HA61
4D006KA03
4D006KA33
4D006KA72
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4D006KE30R
4D006MA01
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4D006MC29
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4D006PA02
4D006PB08
4D006PC62
4D040AA12
4D040AA13
4D040AA14
4D040AA61
(57)【要約】
【課題】膜のファウリングを抑制しながら排水の嫌気性処理及び燃料化を安定して行うことが可能な排水処理装置及び排水処理方法を提供する。
【解決手段】半透膜を備え、半透膜を介して、排水を排水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜手段3と、正浸透膜手段3へ流入する流入水に殺菌剤を供給する殺菌剤供給手段4と、濃縮水を貯留する濃縮水貯留手段5と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る嫌気性処理手段6と、嫌気性処理手段6の嫌気性処理液を濃縮水貯留手段5へ循環させる循環手段AL1とを備える排水処理装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜を備え、前記半透膜を介して、排水を前記排水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜手段と、
前記正浸透膜手段へ流入する流入水に殺菌剤を供給する殺菌剤供給手段と、
前記濃縮水を貯留する濃縮水貯留手段と、
前記濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る嫌気性処理手段と、
前記嫌気性処理手段の嫌気性処理液を前記濃縮水貯留手段へ循環させる循環手段と
を備える排水処理装置。
【請求項2】
前記排水の少なくとも一部を前記濃縮水貯留手段又は前記嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な排水供給手段を更に備える請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記排水中の沈殿性有機物を固液分離する第1の固液分離手段と、
前記第1の固液分離手段で得られる分離汚泥を、前記濃縮水貯留手段又は前記嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な第1の汚泥供給手段と
を更に備える請求項1又は2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記排水、又は、前記排水中の沈殿性有機物を固液分離する第1の固液分離手段で得られる分離液を固液分離する第2の固液分離手段と、
前記第2の固液分離手段で得られる分離汚泥を、前記濃縮水貯留手段又は前記嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な第2の汚泥供給手段と
を更に備える請求項1~3のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記嫌気性処理液が、前記殺菌剤の還元反応を促進させるための触媒を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記嫌気性処理液が、-500mV~-200mVの酸化還元電位(銀-塩化銀電極基準)を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記濃縮水の酸化還元電位を測定する測定手段と、
前記測定手段の測定結果に基づいて前記嫌気性処理液の循環処理を制御する制御手段と
を更に備える請求項1~6のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項8】
前記正浸透膜手段の膜洗浄液を前記濃縮水貯留手段へ供給する洗浄液供給手段と、
前記膜洗浄液の前記濃縮水貯留手段への供給に基づいて前記嫌気性処理液の循環処理を制御する制御手段と
を備える請求項1~7のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記嫌気性処理手段が、
前記分離汚泥を前記嫌気性処理して消化汚泥を得る第1の嫌気性処理槽と、
前記濃縮水を前記嫌気性処理して消化処理水を得る第2の嫌気性処理槽と、
を備え、
前記循環手段が、
前記消化汚泥を前記濃縮水貯留手段へ循環させる第1の循環手段と、
前記消化処理水を前記濃縮水貯留手段へ循環させる第2の循環手段と、
を備える請求項3~8のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項10】
排水に殺菌剤を供給する工程と、
前記殺菌剤を含む流入水を前記流入水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜処理を行う工程と、
前記濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る工程と、
前記嫌気性処理で得られる嫌気性処理液を、前記濃縮水を貯留する貯留槽内に循環させる工程と
を有する排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置及び排水処理方法に関し、特に、下水又は産業排水などの有機性排水を処理する排水処理装置及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理の技術分野においては、正浸透膜(FO膜:Forward Osmosis Membrane)を用いて、海水の淡水化、下水又は工場排水の浄化などを行う水処理装置が知られている。FO膜法は浸透プロセスの一種であり、半透膜を挟んで、濃い溶液の側から薄い溶液の側に水を流す現象を利用することで、塩水の淡水化や、病原体や有害物質を含む水の浄化を行う。
【0003】
特開2012-223723号公報(特許文献1)には、前処理の凝集沈殿として、凝集剤の注入装置及び固形物分離装置と、半透膜処理装置としてのFO膜とを備え、海水に含まれるファウリング成分の量に応じて、FO膜のファウリングを低減するように、前処理を制御して淡水化することが開示されている。
【0004】
特開2014-61486号公報(特許文献2)には、下水、し尿、工場排水を被処理水とし、正浸透膜手段を用いて、被処理水から直接、濃縮水を得る例が開示されており、その濃縮水を反応槽で散気処理する構成が開示されている。
【0005】
特許第6727056号公報(特許文献3)には、下水又は排水などの有機性排水を正浸透膜処理するとともに、エネルギー回収をすることが可能な排水処理装置及び排水処理方法の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-223723号公報
【特許文献2】特開2014-61486号公報
【特許文献3】特許第6727056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、膜のファウリングを抑制することはできるが、海水淡水化を目的とした技術であり、被処理水からエネルギーを回収することについては記載も示唆もされていない。
【0008】
特許文献2に記載された技術は、被処理水を直接、FO膜に導入して被処理水を濃縮するため、被処理水に含まれる有機固形物や溶解性有機物によって早期にFO膜表面にバイオファウリングが発生する。
【0009】
特許文献3に記載された技術は、有機性排水に殺菌剤を供給することで、膜のファウリングを抑制でき、正浸透膜処理の濃縮水に排水又は分離汚泥を供給することで、濃縮水から得られるメタンガスの回収効率を高めることができる。しかしながら、特許文献3に記載された発明では、排水又は分離汚泥中の有機物の一部が、濃縮水中に残存する殺菌剤の分解に用いられることにより、メタンガスとして回収される有機物量が減少する場合がある。また、排水又は分離汚泥を用いて濃縮水中の殺菌剤成分を十分に還元するためには、一定の反応時間が必要であるが、十分な反応時間が確保できないと、濃縮水中の殺菌剤が嫌気性消化槽内へ流入し、嫌気性処理の安定性が低下するという課題もある。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、膜のファウリングを抑制しながら排水の嫌気性処理及び燃料化を安定して行うことが可能な排水処理装置及び排水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討したところ、排水に殺菌剤を混合して正浸透膜処理を行い、正浸透膜処理で得られる濃縮水の嫌気性処理を行う前に、特定の処理を行うことが有効であることを見出した。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は一側面において、半透膜を備え、半透膜を介して、排水を排水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜手段と、正浸透膜手段へ流入する流入水に殺菌剤を供給する殺菌剤供給手段と、濃縮水を貯留する濃縮水貯留手段と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る嫌気性処理手段と、嫌気性処理手段の嫌気性処理液を濃縮水貯留手段へ循環させる循環手段とを備える排水処理装置である。
【0013】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は一実施態様において、排水の少なくとも一部を前記濃縮水貯留手段又は前記嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な排水供給手段を更に備える。
【0014】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は別の一実施態様において、排水中の沈殿性有機物を固液分離する第1の固液分離手段と、第1の固液分離手段で得られる分離汚泥を、濃縮水貯留手段又は嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な第1の汚泥供給手段とを更に備える。
【0015】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、排水、又は、排水中の沈殿性有機物を固液分離する第1の固液分離手段で得られる分離液を固液分離する第2の固液分離手段と、第2の固液分離手段で得られる分離汚泥を、濃縮水貯留手段又は嫌気性処理手段の少なくともいずれかへ供給可能な第2の汚泥供給手段とを更に備える。
【0016】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、嫌気性処理液が、殺菌剤の還元反応を促進させるための触媒を含む。
【0017】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、嫌気性処理液が、-500mV~-200mVの酸化還元電位(銀-塩化銀電極基準)を有する。
【0018】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、濃縮水の酸化還元電位を測定する測定手段と、測定手段の測定結果に基づいて嫌気性処理液の循環処理を制御する制御手段とを更に備える。
【0019】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、正浸透膜手段の膜洗浄液を濃縮水貯留手段へ供給する洗浄液供給手段と、膜洗浄液の濃縮水貯留手段への供給に基づいて嫌気性処理液の循環処理を制御する制御手段とを備える。
【0020】
本発明の実施の形態に係る排水処理装置は更に別の一実施態様において、嫌気性処理手段が、分離汚泥を嫌気性処理して消化汚泥を得る第1の嫌気性処理槽と、濃縮水を嫌気性処理して消化処理水を得る第2の嫌気性処理槽と、を備え、循環手段が、消化汚泥を濃縮水貯留手段へ循環させる第1の循環手段と、消化処理水を濃縮水貯留手段へ循環させる第2の循環手段と、を備える。
【0021】
なお、本発明では、本実施形態に係る嫌気性処理によって得られる処理物を嫌気性処理液という。嫌気性処理液には、例えば、固液分離後の濃縮汚泥を嫌気性処理して得られるいわゆる消化汚泥、あるいは、主に溶解性成分が大部分を占める排水(例えば本発明における濃縮水等)を嫌気性処理して得られる、いわゆる消化処理水を含む。
【0022】
本発明の実施の形態は別の一側面において、排水に殺菌剤を供給する工程と、殺菌剤を含む流入水を流入水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜処理を行う工程と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る工程と、嫌気性処理で得られる嫌気性処理液を、濃縮水を貯留する貯留槽内に循環させる工程とを有する排水処理方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、膜のファウリングを抑制しながら嫌気性処理及び燃料化を安定して行うことが可能な排水処理装置及び排水処理方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る排水処理装置の一例を表す概略図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置の一例を表す概略図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置の一例を表す概略図である。
【
図4】本発明の第4の実施の形態に係る排水処理装置の一例を表す概略図である。
【
図5】本発明の第5の実施の形態に係る排水処理装置の一例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の第1~第5の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は、各構成の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0026】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る排水処理装置は、
図1に示すように、正浸透膜手段(以下「FO膜手段」ともいう)3と、正浸透膜手段3へ流入する流入水に殺菌剤を供給する殺菌剤供給手段4と、濃縮水を貯留する濃縮水貯留手段5と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る嫌気性処理手段6と、嫌気性処理手段6で得られる嫌気性処理液を濃縮水貯留手段5へ循環させる循環手段AL1とを備える。
【0027】
排水の種類は特に限定されないが、少なくとも溶解性有機物又は濁質などの汚染物を含む有機性排水が好適に用いられる。具体的には、下水、下水の一次処理水、下水の二次処理水、し尿、畜産排水、各種製造排水などが、本実施形態に係る排水として好適に利用できる。
【0028】
排水の水質は、以下に限定されるものではないが、例えば、生物化学的酸素要求量(BOD)が10~1000mg/L、化学的酸素要求量(CODcr)が20~3000mg/L、浮遊物質(SS)が20~3000mg/L程度である。
【0029】
正浸透膜手段3は、半透膜(FO膜)を備え、半透膜を介して、正浸透膜手段3へ流入する流入水を、流入水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る装置であれば、特に限定されない。
図1において、FO膜の一次側には、流入水である排水(原水)が供給される。FO膜の二次側には、流入水よりも高浸透圧の駆動液(ドロー溶液)が供給される。正浸透膜手段3を用いることにより、逆浸透膜(RO)装置などに比べて、装置内の加圧のための大型ポンプを使用する必要がなくなるため、動力を削減でき小型化できる。
【0030】
正浸透膜手段3へ流入する流入水が、FO膜を介して駆動液と接触することにより、濃縮水と処理水とが得られる。処理水は、正浸透膜手段3の外部へ放出可能である。濃縮水は、濃縮水供給ラインCLを介して、濃縮水貯留手段5へ送られる。正浸透膜手段3内へ供給される駆動液としては、海水、海水淡水化処理施設の濃縮水(ブライン)、浸出水処理施設から排出される高塩濃度排水などが好ましい。
【0031】
図1の嫌気性処理手段6で行われる嫌気性処理を司る微生物の活性維持には、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、タングステン、マンガン、モリブデン、セレン、ホウ素などの微量の重金属の存在が重要である。通常、排水にはこれら金属は殆ど含まれない。本実施形態によれば、重金属を微量に含む海水、海水淡水化処理施設の濃縮水(ブライン)、浸出水処理施設から排出される高塩濃度排水等を駆動液として利用し、駆動液側の重金属を濃度差による物質の拡散現象によって一次側へ流入させて、濃縮水側へ流入させる。これにより、濃縮水中の重金属を、嫌気性処理の栄養源として利用できるため、嫌気性消化反応をより安定的に行うことができる。なお、駆動液の一部を一次側に添加することも可能である。
【0032】
嫌気性処理手段6において、濃縮水をより効率良くエネルギー化(メタンガス化)するためには、下記(1)式及び(2)式で定義されるFO膜の溶質リーク率が、0.0001~0.1になるように、FO膜の種類及び運転条件を設定することが好ましい。
溶質リーク率=(濃縮水塩分濃度÷濃縮率-原排水中塩分濃度)÷駆動液塩分濃度 ・・・(1)
濃縮率=原排水流量÷濃縮水流量 ・・・(2)
【0033】
FO膜の種類は特に限定されず、種々の膜を使用できる。中でも、駆動液の塩が、二次側から一次側へ一部流入するタイプの膜を使用することが好ましい。例えば、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ビニルなどの様々な材料が使用される。FO膜の形状も特に限定されず、平膜、スパイラル膜、中空紙膜など任意の形状の膜が利用できる。
【0034】
殺菌剤供給手段4から供給される殺菌剤としては、後述する嫌気性処理液と反応可能な殺菌剤であることが好ましく、例えば、スライムコントロール剤が好適に用いられる。スライムコントロール剤としては、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素性スライムコントロール剤、過酸化水素などの酸化性スライムコントロール剤、或いは5-クロロ-メチル-イソチアゾリン3-オン(MIT)、ハロシアノアセトアミド化合物などの有機性スライムコントロール剤を使用することができる。
【0035】
中でも、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素性スライムコントロール剤は、有利残留塩素のその強い酸化力によってFO膜材質を劣化させる場合があるが、アンモニアが存在する排水中では、アンモニアと反応してクロラミンを生成する。このクロラミンは、有利残留塩素に比べて、穏やかな酸化力を持つため、膜材質の酸化劣化を抑制しながらファウリングを効果的に抑制することができる。
【0036】
殺菌剤の添加量は、多すぎると、後段の嫌気性処理手段6における濃縮水の嫌気性処理に悪影響を及ぼす場合があり、少なすぎると膜のファウリング抑制効果が有利に得られない場合がある。正浸透膜手段3へ供給される分離液中の殺菌剤は、例えば0.1~100mg/Lとなるように添加することが好ましく、より好ましくは0.5~50mg/L程度である。
【0037】
殺菌剤の添加量は、正浸透膜手段3へ供給される流入水の成分変動などに応じて制御することが好ましい。例えば、正浸透膜の膜間差圧を計測する差圧計(図示せず)を、正浸透膜手段3内へ配置し、膜間差圧の値、或いは差圧計の検出結果から計算される膜の透過流速の値が所定の値(既定値)以下となった場合に、殺菌剤の添加量を増やすような制御信号を殺菌剤供給手段4へ送出可能な制御手段8を利用することにより、殺菌剤の添加量を連続的又は間欠的に制御することができる。これにより、排水の水質変動が生じた場合であっても、膜のファウリングをより長期間抑制することが可能になる。また、制御手段8は、正浸透膜手段3が備える正浸透膜モジュールの入口圧と濃縮水圧力を測定し、その差圧(圧力損失)に応じて、殺菌剤の添加量を増やすような制御信号を殺菌剤供給手段4に送出することもできる。
【0038】
殺菌剤供給手段4から供給される殺菌剤は、正浸透膜手段3内から濃縮水が排出される出口までは、膜の殺菌効果を保持し、正浸透膜手段3から排出された後はその殺菌効果が保持されないことが、濃縮水から効率良くエネルギー回収する上では最も好ましい。一方で、正浸透膜のファウリングをより適切に抑制する観点からは、正浸透膜手段3へ供給される流入水には、殺菌剤を十分に添加させることが好ましい。そのため、正浸透膜手段3から得られる濃縮水中に、殺菌剤の成分が残存する場合がある。
【0039】
本実施形態では、濃縮水貯留手段5において、殺菌剤の効果を失活させる程度に、正浸透膜手段3で得られる濃縮水を一定期間貯留することができる。例えば、濃縮水貯留手段5に貯留された濃縮水を大気中で静置するか、或いは濃縮水貯留手段5内に散気手段(図示せず)を設け、散気して濃縮水を撹拌することによって、殺菌剤を分解させ、殺菌剤の効果を失わせることが可能である。
【0040】
濃縮水貯留手段5は、例えば、濃縮水を一定期間貯留するための貯留槽を備える。濃縮水貯留手段5には、排水(原水)に含まれる有機物を濃縮水貯留手段5又は嫌気性処理手段6の少なくともいずれかへ供給可能な排水供給手段10が接続されていてもよい。排水供給手段10は、排水の少なくとも一部を濃縮水貯留手段5へ供給するための供給ラインOL1と、排水の少なくとも一部を嫌気性処理手段6へ供給するための供給ラインSL1とを備える。
【0041】
供給ラインOL1を介して、排水の少なくとも一部を濃縮水貯留手段5へ供給することにより、排水中に含まれる有機物を利用した濃縮水中の殺菌剤の分解効果を得ることができる。供給ラインSL1を介して、排水の少なくとも一部を嫌気性処理手段6へ供給することにより、嫌気性処理手段6へ流入する有機物量を増大でき、嫌気性処理によって発生する燃料化ガスの発生量を増大できる。
【0042】
供給ラインOL1を介した濃縮水貯留手段5への排水の供給は省略してもよい。排水を、濃縮水貯留手段5へ供給する代わりに、供給ラインSL1を介して嫌気性処理手段6へ供給することにより、嫌気性処理手段6に流入する有機物量を増大させてエネルギー回収効率を向上できる。
【0043】
供給ラインOL1を介して排水の少なくとも一部を濃縮水貯留手段5へ供給する場合は、濃縮水貯留手段5へ流入させる排水中の有機物量が、濃縮水に含まれる有効殺菌量の0.1~10倍程度(重量比)となるように、その供給量を調整することが好ましい。ここで、有効殺菌量とは、殺菌剤量(重量)に作用する流入液中の有機物量(重量)で定義される。例えば、残留塩素が0.5mg/Lであれば、有効殺菌量として0.05~5mg/Lの有機物量が必要である。このようにして、排水に含まれる有機物を、濃縮水と混合することで、貯留時間を短縮することができるため、濃縮水貯留手段5の貯留槽の容積を小さくすることができる。
【0044】
一方、供給ラインOL1を介して排水中に含まれる有機物を濃縮水貯留手段5へ供給すると、嫌気性処理手段6で燃料化ガスとして回収できる有機物が減少する場合がある。また、濃縮水貯留手段5において排水中の有機物を用いて濃縮水中の殺菌剤を十分に還元するには、一定の滞留時間が必要であり、排水と濃縮水との混合により還元反応を進めるための貯留槽の容量も、過大になる場合がある。さらに、原水量の変動により、濃縮水貯留手段5に対する濃縮水及び排水の流入量が大きくなった際に、十分な反応時間が確保できなくなる結果、殺菌剤がその効果を失う前に嫌気性処理手段6へ流入し、嫌気性処理の安定性を阻害する問題もある。
【0045】
第1の実施の形態に係る排水処理装置によれば、嫌気性処理手段6の嫌気性処理液を濃縮水貯留手段5へ循環させる循環手段AL1を備える。嫌気性処理液に含まれる難分解性有機物は、濃縮水中の殺菌剤に対して還元剤として働く。また、嫌気性処理液に含まれる硫化鉄、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、リン酸アルミニウム(AlPO4)、リン酸鉄(II)(Fe3(PO4)2)、リン酸水素カルシウム水和物(CaHPO4・2H2O)は、濃縮水中に残存する殺菌剤の還元反応を促進させる触媒として働く。したがって、嫌気性処理液を、循環手段AL1を介して濃縮水貯留手段5へ循環させることにより、滞留時間の調整や排水等を利用する場合に比べて、濃縮水中の殺菌剤をより速やかに分解することができ、装置も小型化できる。
【0046】
供給ラインOL1を介して供給される排水は、典型的には、酸化還元電位(ORP:銀-塩化銀電極基準)が50mV~-250mV程度である。しかしながら、排水は、気候変動等により水質変動の影響も受けやすいため、ORPの変動も大きくなる場合がある。一方、嫌気性処理手段6で得られる嫌気性処理液は、酸化還元電位が、-500mV~-200mV程度であり、供給ラインOL1を介して供給される排水に比べてORPが低く、還元力が高い。さらに嫌気性処理手段6において得られる嫌気性処理液は、嫌気性処理槽内の滞留時間によるが、一般的にはHRTが20~30日と長いため、水質変動が生じやすい排水に比べて、ORPの変動も生じにくい。
【0047】
第1の実施の形態によれば、循環手段AL1を介して、嫌気性処理液を濃縮水貯留手段5へ循環させることにより、排水を供給する場合に比べて少ない供給量で、より早期かつ確実に濃縮水中の殺菌剤を還元できる。その結果、嫌気性処理液の循環液の量も少なくでき、循環に必要なポンプ及び貯留に必要な貯留槽の容量も小さくでき、殺菌剤を分解させるための反応時間も短くすることができる。嫌気性処理液は排水に比べてORPの変動も小さいため、濃縮水貯留手段5へ排水を供給するよりもより安定的な処理が行える。
【0048】
嫌気性処理の循環処理においては、処理液の循環量を増やすほど、殺菌剤の分解時間は短時間で済み、循環量を少なくするほど循環ポンプの動力等を削減することができる。循環量は、排水処理装置が備える循環ポンプの能力及び槽の容量に基づいて決定することができる。具体的には、供給嫌気性処理液の循環処理においては、嫌気性処理液は、濃縮水に対して体積比で0.01~0.25倍程度の範囲で供給することが好適であり、0.05~0.1倍程度が最適である。嫌気性処理液に含まれる難分解性有機物および触媒成分を、殺菌剤が残存する濃縮水に混合することで、濃縮水貯留手段5の貯留時間は数十分以内、より典型的には20分以内、更には10分以内、より更には5分程度の貯留で済むようになる。これにより、濃縮水貯留手段5の容積も小さくできる。殺菌効果をより早期に得る消失させるためには、例えば、殺菌剤1mg/Lに対して嫌気性処理液中のCODが20~100mg/L、より好ましくは30~60mg/L程度濃縮水貯留手段5へ確実に供給されるように、その循環量を調整することが好ましい。更には、濃縮水貯留手段5へ濃縮水供給ラインCLを介して供給される濃縮水の供給量と循環手段AL1を介して濃縮水貯留手段5へ循環される嫌気性処理液の供給量の比は、250:1~150:1となるようにその循環量を調整することが好ましい。
【0049】
嫌気性処理液には、必ずしも上述の難分解性有機物及び触媒が含まれていなくてもよい。嫌気性処理液は、一般的に、酸化還元電位が排水等に比べて低く、排水等に比べて還元効果が高いため、酸化還元電位が高い排水を利用するよりも、より効率的に濃縮水中の殺菌剤を分解できるからである。嫌気性処理液は、必ずしも
図1の排水処理装置内で発生する嫌気性処理液を利用する必要はなく、
図1の排水処理装置の外部から運び込まれる嫌気性処理液を、循環手段AL1を介して濃縮水貯留手段5へ供給してもよい。
【0050】
嫌気性処理液と反応する殺菌剤は、酸化力を有し、酸化剤として機能するものが多い。本実施形態では、嫌気性処理液が還元力を有するため、還元剤としての機能を有する殺菌剤に対して嫌気性処理液を混合することで、より高い効果が得られる。
【0051】
嫌気性処理手段6としては、濃縮水貯留手段5から供給される濃縮水と供給ラインSL1を介して供給される排水の少なくとも一部を、微生物を利用した嫌気性処理により分解し、メタンガス又は炭酸ガス等の燃料化ガスに変換可能な装置であればよい。
【0052】
嫌気性処理において、嫌気性菌を安定的に維持するためには、温度管理とpH管理が極めて重要である。例えば、嫌気性処理手段6における嫌気性処理としては、嫌気性処理槽内の至適pHを6.5~7.5とし、30~35℃を至適温度とする中温処理、又は嫌気性処理槽内の至適pHを6.5~7.5とし、50~55℃を至適温度とした高温処理を行うことができる。
【0053】
嫌気性処理手段6の後段には、嫌気性処理手段6で処理された嫌気性処理液を固液分離する固液分離手段7を備える。固液分離手段7で得られた処理水は放流される。固液分離手段7で分離された分離汚泥は、乾燥或いは炭化して燃料汚泥などにエネルギー変換することができる。
【0054】
(排水処理方法)
図1に示す排水処理装置を用いて、第1の実施の形態に係る排水処理を行うことができる。即ち、第1の実施の形態に係る排水処理方法は、排水に殺菌剤を供給する工程と、殺菌剤を含む流入水(排水)を、流入水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜処理を行う工程と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る工程と、嫌気性処理で得られる嫌気性処理液を、濃縮水を貯留する貯留槽内に循環させる工程とを少なくとも有する。
【0055】
第1の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、正浸透膜手段3に流入する流入水に半透膜の殺菌を行うために、殺菌剤供給手段4から殺菌剤が供給され、循環手段AL1を介して嫌気性処理手段6の嫌気性処理液が濃縮水貯留手段5へ循環される。これにより、濃縮水中に残存する殺菌剤を、短い滞留時間且つ小型の貯留槽で還元処理することができる。このようにして、濃縮水貯留手段5に流入する濃縮水から、より確実に殺菌剤を除去できるため、嫌気性処理手段6に使用される嫌気性菌を嫌気性処理槽内で安定的に維持することができ、燃料化ガスを安定して得ることができる。
【0056】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る排水処理装置は、
図2に示すように、正浸透膜手段3と濃縮水貯留手段5との間に接続され、正浸透膜手段3の膜洗浄液を濃縮水貯留手段5へ供給する洗浄液供給手段BLと、膜洗浄液の濃縮水貯留手段5への供給に基づいて、嫌気性処理液の循環処理を制御する制御手段8とを備える。他は、第1の実施の形態に係る排水処理装置と実質的に同様であるので説明を省略する。
【0057】
濃縮水貯留手段5には、濃縮水貯留手段5の貯留槽内の濃縮水の酸化還元電位を測定するための測定手段51が設けられている。測定手段51としては特に限定されず、市販のORP計等が利用できる。制御手段8は、測定手段51からのORP値の測定結果の出力を受けて、嫌気性処理液の循環処理を制御する。
【0058】
FO膜の洗浄方法として、駆動液側から浸透逆流で洗浄液を流入させるバックウォッシュ法(逆洗法)が知られている。以下に限定されるものではないが、例えば、洗浄液を約1~30分バックウォッシュすることで、FO膜内部に蓄積した有機物等のファウラント(汚れ成分)を除去し、透過流速を回復させることが可能である。
【0059】
バックウォッシュ排水(膜洗浄液ともいう)は、高濃度の有機物と殺菌剤とを含むため、バックウォッシュ排水を放流する際には、放流のための前処理を行う必要がある。第2の実施の形態に係る排水処理装置によれば、バックウォッシュ排水を濃縮水貯留手段5へ供給する洗浄液供給手段BLを備える。そのため、バックウォッシュ排水の放流のための前処理を行う必要がなくなり、排水処理全体の処理効率が向上する。
【0060】
また、バックウォッシュ排水中には有機物を多く含むため、バックウォッシュ排水を濃縮水へ加えて、この濃縮水を嫌気性処理手段6で嫌気性処理することにより、エネルギー回収のための有機物量も増大できる。
【0061】
バックウォッシュ排水を濃縮水貯留手段5に投入する場合、高濃度の排水が短時間に濃縮水貯留手段5に流入することになる。第2の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法では、バックウォッシュ排水の濃縮水貯留手段5への流入のタイミングにあわせて、嫌気性処理液の循環処理を制御する。これにより、バックウォッシュ排水に含まれる殺菌剤を速やかに除去でき、バックウォッシュ排水に含まれる有機物からメタンを回収することも可能になる。
【0062】
バックウォッシュ排水のORPは、以下に限定されないが、例えば、ORPが-100mV~0mV程度である。測定手段51が、濃縮水貯留手段5内の溶液のORP値を測定し、ORP値の変化を検知することで、バックウォッシュ排水の供給タイミングが確認できる。制御手段8は、このバックウォッシュ排水の供給タイミングに合わせて、循環手段AL1による嫌気性処理液の循環量を制御する。例えば、バックウォッシュ排水の供給により、濃縮水貯留手段5内の濃縮水のORPが、予め定められた基準値を超えたとき、制御手段8は、嫌気性処理液の循環を開始するか、或いは循環量を増大するように、循環手段AL1が備えるポンプ、弁等を制御することができる。
【0063】
第2の実施の形態に係る排水処理方法は、
図2に示す排水処理装置を用いて実施することができる。即ち、第2の実施の形態に係る排水処理方法は、排水に殺菌剤を供給する工程と、殺菌剤を含む流入水(排水)を、流入水よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る正浸透膜処理を行う工程と、濃縮水を嫌気性処理して燃料化ガスを得る工程と、嫌気性処理で得られる嫌気性処理液を、濃縮水を貯留する貯留槽内に循環させる工程と、正浸透膜手段3の膜洗浄液を洗浄液供給手段BLを介して濃縮水貯留手段5へ供給する工程と、膜洗浄液の濃縮水貯留手段5への供給に基づいて、嫌気性処理液の循環処理を制御する工程とを有する。
【0064】
第2の実施の形態に係る排水処理装置及びこれを用いた排水処理方法によれば、正浸透膜手段3のバックウォッシュ排水の処理を、濃縮水貯留手段5で行うことができる。また、濃縮水にバックウォッシュ排水を加えるため、嫌気性処理手段6に流入する流入水中の有機物量が増大し、エネルギー回収効率が向上する。
【0065】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法は、殺菌剤供給手段4の前段に配置され、排水中の沈殿性有機物を固液分離し、分離汚泥と分離液とを得る第1の固液分離手段1と、第1の汚泥供給手段11とを更に備える。他は、第2の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法と同様である。
【0066】
第1の固液分離手段1としては、例えば、最初沈殿池などが好適に利用される。固液分離の具体的手段は特に限定されるものではなく、重力沈降分離、遠心分離、浮上分離、凝集分離、膜分離等の任意の手段が利用可能である。第1の固液分離手段1で得られる分離液は、正浸透膜手段3への流入水として、正浸透膜手段3へ送られる。第1の固液分離手段1は、水理学的滞留時間(HRT)を0.5~2.0時間、より好ましくは1.0~2.0とすることができる。これにより、排水に含まれる有機物を効率的にエネルギー回収のために利用される分離汚泥側へと移行させることができる。
【0067】
第1の固液分離手段1には、第1の固液分離手段1で得られる分離汚泥を、濃縮水貯留手段5又は嫌気性処理手段6へ供給可能な第1の汚泥供給手段11が接続されている。第1の汚泥供給手段11は、分離汚泥を濃縮水貯留手段5へ供給するための供給ラインOL2と、分離汚泥を嫌気性処理手段6へ供給するための供給ラインSL2とを備える。
【0068】
供給ラインOL2を介して、分離汚泥を濃縮水貯留手段5へ供給することにより、分離汚泥に含まれる有機物を用いた濃縮水中の殺菌剤の分解効果を早めることができる。供給ラインSL2を介して、分離汚泥を嫌気性処理手段6へ供給することにより、嫌気性処理手段6へ流入する有機物量を増大できるため、嫌気性処理によって発生する燃料化ガスの発生量を増大できる。燃料化ガスの回収効率を高める上では、供給ラインOL2は省略してもよい。
【0069】
供給ラインOL2を介して分離汚泥を濃縮水貯留手段5へ供給する場合は、濃縮水貯留手段5へ流入させる分離汚泥中の有機物量が、濃縮水に含まれる有効殺菌量の0.1~10倍程度(重量比)となるように、その供給量を調整することが好ましい。
【0070】
第3の実施の形態に係る排水処理方法は、
図3に示す排水処理装置を用いて実施することができる。まず、第1の固液分離手段1において、原水である排水中の沈殿性有機物を固液分離し、分離汚泥と分離液とを得る。次に、第1の固液分離手段1で得られた分離液に、殺菌剤供給手段4から殺菌剤を供給し、半透膜を備える正浸透膜手段3に供給する。正浸透膜手段3では、半透膜を介して分離液を分離液よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る。第1の固液分離手段1で得られた分離汚泥は供給ラインSL2を介して嫌気性処理手段6へ供給できる。その後の処理工程は第2の実施の形態に係る排水処理方法と実質的に同様とすることができるので、記載を省略する。
【0071】
第3の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、第1の固液分離手段1を備えることにより、排水中に含まれる有機物を効率的に分離汚泥側へ移行させ、分離汚泥に含まれる有機物を嫌気性処理手段6で効率的に燃料化することができる。また、正浸透膜手段3の前段に、第1の固液分離手段1が配置されることにより、正浸透膜手段3に流入する流入水中の有機物量を減らすことができるため、半透膜へ付着する有機物量をより少なくすることができ、膜のファウリングを抑制しながら長期間安定した排水処理を行うことができる。
【0072】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態に係る排水処理装置は、
図4に示すように、排水又は第1の固液分離手段1の分離液を固液分離する第2の固液分離手段2と、第2の固液分離手段2で得られる分離汚泥を、濃縮水貯留手段5又は嫌気性処理手段6へ供給可能な第2の汚泥供給手段13を更に備える。他は、第3の実施の形態に係る排水処理装置と同様である。
【0073】
第2の固液分離手段2としては、流入水中の有機物を固液分離する装置であれば特に限定されない。例えば、凝集沈殿装置、凝集砂ろ過装置、凝集膜ろ過装置、砂ろ過或いは膜ろ過装置等が第2の固液分離手段2としてあげられる。中でも、凝集剤を加えて短時間で凝集沈殿処理を行うことが可能な高速凝集沈殿装置を、第2の固液分離手段2として用いることにより、流入水の滞留時間を一般的に1時間以内とすることができるため、非常に短時間の処理が可能になる。
【0074】
第1の固液分離手段1の分離液には、第1の固液分離手段1で除去しきれない微細な有機性固形物及び溶解性有機物が残存している。そのため、第2の固液分離手段2で固液分離を更に行うことにより、正浸透膜手段3へ流入する流入水中の有機物濃度を低減できるため、正浸透膜手段3において有機物を基質とする微生物の増殖を抑制し、膜のファウリングをより長期間抑制することができる。また、第3の実施の形態に比べて、殺菌剤の供給量を少なくできるため、殺菌剤供給手段4をコンパクト化できる。
【0075】
図4に示す例において、第2の固液分離手段2は、第1の固液分離手段1からの分離液に凝集剤を添加する第1の反応槽21と、第1の反応槽21から流出する分離液に凝集助剤を添加する第2の反応槽22と、第2の反応槽22から流出する分離液を固液分離する凝集沈殿槽23とを備える。
図4の例では、2つの反応槽21、22を備える例を示しているが、反応槽21、22の個数は特に限定されず、例えば単一の反応槽としてもよい。
【0076】
凝集剤としては、一般に使用されている有機凝結剤が利用できる。有機凝結剤は、従来の無機凝集剤と比較して主成分が有機物であり、嫌気性消化によって分解可能である。有機凝結剤としては、例えば、縮合系ポリアミン、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダリン、ポリビニルピリジン、ジアリルアミン塩・二酸化硫黄共重合体、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩・二酸化硫黄共重合体、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、ポリジメチルジアリルアンモニウム塩・ジアリルアミン塩酸塩誘導体共重合体、アリルアミン塩重合体などが挙げられる。
【0077】
縮合系ポリアミンの具体例としては、アルキレンジクロライドとアルキレンポリアミンとの縮合物、アニリンとホルマリンの縮合物、アルキレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合物、アンモニアとエピクロルヒドリンとの縮合物などが挙げられる。エピクロルヒドリンと縮合するアルキレンジアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、ジブチルアミンなどが挙げられる。有機凝結剤は、分子量の比較的小さな高分子(分子量の代表値として、4000を超え150万以下)、被処理水中のコロイド粒子や、SSを小さなフロックにすることができる。これら有機凝結剤の注入量は、原水の水質にもよるが、1~1000mg/Lの範囲である。
【0078】
有機凝結剤の代わりに無機凝集剤を単独で使用してもよい。よりフロックを強固にして固液分離性を高めるために、有機凝結剤と無機凝集剤とを併用することもできる。一般に、無機凝集剤としては、既に使用されている鉄系又はアルミニウム系無機凝集剤が使用できる。具体的には、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)、塩化第二鉄及びこれらの混合物が挙げられる。これら無機凝集剤の注入量は、原水の水質にもよるが、1~1000mg/Lの範囲である。
【0079】
凝集助剤としては、高分子凝集剤として、通常、ポリ(メタ)アクリルアミド、その加水分解物、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドとアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド共重合体等のノニオン性、アニオン性、カチオン性又は両性高分子凝集剤を使用することができる。高分子凝集剤の添加量は、通常、排水量に対して0.5~5mg/L程度がよい。凝集沈殿槽23の固液分離方法としては、沈殿、加圧浮上、膜など任意の固液分離方法を利用することができる。
【0080】
凝集沈殿槽23には、凝集沈殿槽23で固液分離された分離汚泥を濃縮水貯留手段5又は嫌気性処理手段6へ供給可能な第2の汚泥供給手段13が接続されている。第2の汚泥供給手段13は、凝集沈殿槽23で得られる分離汚泥を濃縮水貯留手段5へ供給するための供給ラインOL3と、分離汚泥を嫌気性処理手段6へ供給するための供給ラインSL3とを備える。
【0081】
供給ラインOL3を介して、分離汚泥を濃縮水貯留手段5へ供給することにより、分離汚泥に含まれる有機物を用いた濃縮水中の殺菌剤の分解効果を早めることができる。供給ラインSL3を介して、分離汚泥を嫌気性処理手段6へ供給することにより、嫌気性処理手段6へ流入する有機物量を増大できるため、嫌気性処理によって発生する燃料化ガスの発生量を増大できる。
【0082】
最初沈殿池などの第1の固液分離手段1において自然に沈降する固形分に比べ、第1の固液分離手段1で得られる分離液中に浮遊しているSSに含まれる微生物は、高い生物活性を有する。この高い活性は、溶液の酸化還元電位を効果的に上げて溶液を還元的な雰囲気にする。
【0083】
第4の実施の形態に係る排水処理装置によれば、第2の固液分離手段2を配置することにより、第1の固液分離手段1で分離された分離液中の有機物を更に凝集沈殿させて、正浸透膜手段3へ供給される微生物量を低減させることができる。なお、第2の固液分離手段2に膜ろ過装置を用いる場合には、第2の固液分離手段2の前段、或いは、第2の固液分離手段2の任意の箇所で殺菌剤を添加してもよい。
【0084】
また、第4の実施の形態に係る排水処理装置によれば、凝集沈殿槽23で得られた分離汚泥の少なくとも一部を、供給ラインOL3を介して濃縮水貯留手段5へ供給することにより、濃縮水中に残存する殺菌剤の分解を早めることができる。これにより、殺菌剤により嫌気性処理手段6内の嫌気性菌を死滅させることなく、安定的にエネルギー回収を行うことができる。
【0085】
第4の実施の形態に係る排水処理方法は、
図4に示す排水処理装置を用いて実施することができる。まず、第1の固液分離手段1において、原水である排水中の沈殿性有機物を固液分離し、分離汚泥と分離液とを得る。次に、第1の固液分離手段1で得られた分離液を、第2の固液分離手段2において凝集剤を加えて固液分離する。更に、凝集剤を加えて固液分離した後の分離液に対し、殺菌剤供給手段4から殺菌剤を供給し、半透膜を備える正浸透膜手段3に供給する。正浸透膜手段3では、半透膜を介して分離液を分離液よりも高浸透圧の駆動液と接触させることにより、濃縮水と処理水とを得る。第2の固液分離手段2で得られた分離汚泥は供給ラインSL3を介して嫌気性処理手段6へ供給できる。その後の処理工程は第1の実施の形態に係る排水処理方法と実質的に同様とすることができるので、記載を省略する。
【0086】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係る排水処理装置は、
図5に示すように、嫌気性処理手段6が、第1の嫌気性処理槽61と、第2の嫌気性処理槽62を備える点が、
図4に示す排水処理装置と異なる。他は、
図4に示す排水処理装置と実質的に同様であるので、記載を省略する。
【0087】
第1の固液分離手段1又は第2の固液分離手段2で得られる分離汚泥と、正浸透膜手段3で得られる濃縮水とは、水分濃度や有機物濃度がそれぞれ異なるため、嫌気性処理槽内での最適滞留時間が異なる。そのため、第1の固液分離手段1及び第2の固液分離手段2で生じる分離汚泥については、第1の嫌気性処理槽61で処理し、濃縮水については第2の嫌気性処理槽62で処理するように、それぞれ個別に処理することが効率面からは好ましい。そして、第1の嫌気性処理槽61で得られる消化汚泥を第1の循環手段AL11を介して濃縮水貯留手段5へ循環させ、第2の嫌気性処理槽62で得られる消化処理水を第2の循環手段AL12を介して濃縮水貯留手段5へ循環させることで、消化汚泥又は消化処理水を有効に利用することができる。
【0088】
第1の嫌気性処理槽61では嫌気性消化処理を行うことができる。嫌気性消化槽内では、約55℃、或いは約25℃を保つように加温される。嫌気性消化槽内では、酸発酵菌、メタン発酵菌の働きにより、汚泥がメタンガス、二酸化炭素、硫化水素等のガス、水溶性の窒素、リンなどに分解される。発生したメタンガスは回収することで、エネルギー利用可能である。分離汚泥は易分解性でメタン発酵しやすいため、メタンガスの発生量を増加させることができる。汚泥の滞留時間は10~40日程度であり、汚泥の分解性能に応じて任意の時間をとることができる。
【0089】
第2の嫌気性処理槽62には、生物処理装置を用いることができる。生物処理装置としては、嫌気性固定床法、嫌気性流動床法、上向流汚泥床法(UASB法、EGSB法)などの高負荷嫌気性処理方法を採用した装置があるが、いずれの装置であってもよい。第2の嫌気性処理槽62は、酸発酵とメタン発酵を一槽で行う一槽式であってもよいし、酸発酵とメタン発酵を別々の反応槽で行う二槽式であってもよい。嫌気性菌を維持するためには、温度管理とpH管理が極めて重要である。例えば、第2の嫌気性処理槽62内やメタン発酵の原水(濃縮水及び濃縮汚泥)、処理水等の温度、pHを検出して、その値をフィードバック又はフィードフォワードして各制御を行いながら運転することが好ましい。第2の嫌気性処理槽62へ流入する流入水の滞留時間は、有機物濃度によって異なるが、有機物濃度が高い場合には、処理水等を循環して濃度を低下させてから処理することが好ましく、一般的に処理時間は0.1~10時間程度である。
【0090】
第1の嫌気性処理槽61で得られた処理物は固液分離手段71で固液分離され、処理水が外部へ放流される。第2の嫌気性処理槽62で得られた処理物は固液分離手段7で固液分離され、処理水が外部へ放流される。
【0091】
第5の実施の形態に係る排水処理装置によれば、嫌気性処理液と濃縮水に対して別々の装置を用いて嫌気性消化を行うことができるため、最適滞留時間でより効率良くメタン発酵処理を進めることができる。
【0092】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例0093】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は、本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0094】
図3に示す排水の正浸透膜処理で得られた濃縮水と、嫌気性消化槽の嫌気性処理液との添加比率を変えて、5分、10分、30分後におけるクロラミン(有効塩素)の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
嫌気性処理液を添加しない場合は、クロラミン濃度の減少がほとんど見られなかったが、嫌気性処理液を1割添加した場合は、5分でクロラミン濃度が1mg/L以下にまで低下した。嫌気性処理液の比率を上げるにつれて、クロラミン濃度が迅速に低下した。嫌気性処理液を濃縮水へ混合することで、殺菌成分であるクロラミンを早期に効率的に分解処理できることがわかる。
【0097】
殺菌剤として塩素性スライムコントロール剤が添加されることで、アンモニアと遊離残留塩素の反応によってクロラミンが発生し、その殺菌効果により正浸透膜のファウリングが抑制される。濃縮水中に残存するクロラミンは、嫌気性処理液を濃縮水貯留手段へ循環させて濃縮水と嫌気性処理液とを混合することで、濃縮水中に残留するクロラミンを還元により迅速に分解できるため、嫌気性消化槽へのクロラミンの流入が抑制される。これにより、膜のファウリングを抑制しながら、効率良くエネルギーを回収することが可能な排水処理装置及び排水処理方法が提供できる。