IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スーパーナノデザインの特許一覧

特開2023-22752正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法
<>
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図1
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図2
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図3
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図4
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図5
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図6
  • 特開-正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022752
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230208BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230208BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230208BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230208BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230208BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230208BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230208BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230208BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230208BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/62 Z
H01M10/0569
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127792
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE08
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029EJ12
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ10
5H029HJ13
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA23
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】露出面の状態をよりいっそう厳密に制御した、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子を提供する。
【解決手段】本発明に係る微粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物であり、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾され、平均粒子径が1μm以下である。疎水性基を構成する炭素数は、6以下であることが好ましい。表面で有機修飾する分子の被覆割合が前記微粒子の表面積に対して1%以上10%以下であることが好ましい。また、Hall法で解析される格子ひずみが0.5%以下であることが好ましい。微粒子は、正極活物質、正極及び非水電解質二次電池に応用できる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾され、平均粒子径が1μm以下である、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子。
【請求項2】
前記疎水性基を構成する炭素数が18以下である、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
表面で有機修飾する分子の被覆割合が前記微粒子の表面積に対して1%以上10%以下である、請求項1又は2に記載の微粒子。
【請求項4】
Hall法で解析される一次微結晶粒子の格子ひずみが0.5%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の微粒子。
【請求項5】
層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能な端面の面積/それ以外の面の面積との比が0.5以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の微粒子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の微粒子を含む非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
集電体と、正極合剤の層として前記集電体上に形成される正極合剤層とを有し、
前記正極合剤は、請求項5に記載の正極活物質と、バインダとを含有する、非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
請求項7に記載の正極と、負極と、非水電解質が有機溶媒に溶解された電解液と、を備える非水電解質二次電池。
【請求項9】
超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾され、平均粒子径が1μm以下である、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子を得る微粒子化工程を含む、微粒子の製造方法。
【請求項10】
有機修飾法により、層状化合物のリチウムイオンが出入りする端面を広くさせる、請求項9に記載の微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子化工程が酸化剤の共存下で行われる、請求項9又は10に記載の微粒子の製造方法。
【請求項12】
50℃以上200℃以下である前記水系溶媒の反応場で、前記微粒子を構成する構成化学元素と有機修飾剤とから有機金属錯体を合成する前処理工程をさらに含み、
前記微粒子化工程は、前記有機金属錯体と前記有機修飾剤とから前記微粒子を得る工程を含む、請求項9から11のいずれか1項に記載の微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記微粒子化工程は、前記微粒子を構成する構成化学元素を化学量論的割合とは異なる割合で含み、pHが8以上である前記反応場において有機修飾剤の存在下で連続反応器を用いて合成する工程を含む、請求項9から12のいずれか1項に記載の微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質微粒子、正極及び二次電池並びに正極活物質微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、充放電可能な二次電池として、軽量で高容量化を行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、アルカリ金属イオンに代表される非水電解質を用いた非水電解質二次電池が広く用いられる。
【0003】
アルカリ金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、及びフランシウムイオンが知られている。これらの中でも、軽量性及び高エネルギー密度性に特に優れることから、リチウムイオンを非水電解質としたリチウムイオン二次電池が広く用いられる。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極は、リチウムイオンを取り込み及び放出することが可能な正極活物質を含む。リチウムイオン二次電池は、当初、携帯電話、ノートパソコンのようなポータブル機器用の小型電池に用いられてきた。その際、充放電サイクルに優れることから、正極活物質としてLiCoO(リチウムコバルト複合酸化物)が広く知られている。
【0005】
ところで、コバルトは希少金属の一つであり、高価である。そのため、ハイブリッド自動車や電気自動車をはじめとした大型電池への利用については、コスト面及び資源量の面での課題がある。これらの課題に加え、発火等の課題もないことから、主に大型電池向けの正極活物質として、リチウム鉄リン酸塩をはじめとしたリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物が提案されている。
【0006】
しかし、LiCoOと比較すると電池容量に課題はあり、資源面、コスト面を勘案した新材料の開発が求められている。例えば、超臨界水熱合成技術を活用して正極活物質LiNi1/3Co1/3Mn1/3をバッチ式で合成すること、及びこの正極活物質がLiCoOに比べて優れた電気化学性能を有することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jae-Wook Lee et al., Synthesis of LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 cathode materials by using a supercritical water method in a batch reactor, Electrochimica Acta 55 (2010) 3015-3021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
正極活物質は、金属箔や金属薄板に例示される集電体の表面に塗布して用いられる。集電体に塗布された正極活物質の露出面がエネルギー的に不安定な活性面になるようにし、当該露出面の面積を広くすることができれば、電池性能のさらなる向上に繋がり得る。
【0009】
より詳しく説明する。これまで実用化されている電気自動車用の大型電池では、充電時間が急速充電によっても30分かかる。充電時間が5分間に短縮されれば、ガソリンスタンドでのガソリン給油にかかる時間とほぼ変わらない。そうすると、コンビニエンスストアや、スーパーマーケット等に設けられた充電スタンドでストレスなく充電することが可能となり、電気自動車の利用の急速な拡大が進むと予想される。
【0010】
これまで知られている塗布型プロセスによる電池製造法では、正極、電解質、負極を積層しているが、充電速度はこれらの界面積により決まる。薄膜化は進められているが、膜厚は正極負極材料の粒子径の約10倍以上としなければならない。現在の急速充電30分間の限界はこの塗布厚さの限界といってもよい。5分間充電を達成させるためには、膜厚を1/6にする必要がある。粒子径を小さくして塗布できればよいが、ただ微細化するだけでは粒子凝集が生じてしまうため、粒子凝集の抑制が課題となる。
【0011】
また、3Dプリンタ技術を活用し、集電体の表面に正極活物質微粒子を噴射できれば、例えば櫛型といった複雑形状の集電体への正極活物質微粒子の塗布が可能となり得る。そうすれば、界面積を6倍にすることも可能となり得、結果として電池性能のさらなる向上が期待され得る。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、露出面の状態をよりいっそう厳密に制御した、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、超臨界水熱合成技術を活用してリチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の表面を有機修飾剤で有機修飾することにより、エネルギー的に不安定な活性面を表面に露出させることと、微細化された単結晶を得ることで金属箔等の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を提供でき得ることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0014】
第1の特徴に係る発明は、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾され、平均粒子径が1μm以下である、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子を提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明によると、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾されたナノサイズのリチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物が得られる。これは、超臨界水熱合成技術を活用してリチウム遷移金属複合酸化物等の表面を有機修飾剤で有機修飾することによって初めて得られる。これにより、エネルギー的に不安定な活性面を表面に露出させることと、微細化された単結晶を得ることで集電体の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を提供できる。
【0016】
また、3Dプリンタ技術を活用し、集電体の表面に正極活物質微粒子を噴射することも可能であり、そうすると集電体の複雑形状化を図り得る。これにより、集電体表面への微粒子の塗布量を増やすことができるため、活性面の露出面積をより広くすることができ、結果として電池性能のさらなる向上が期待され得る。
【0017】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記疎水性基を構成する炭素数が18以下である微粒子を提供する。
【0018】
第2の特徴に係る発明によると、疎水基が短鎖であるため、正極合剤を構成するバインダに微粒子を加えたとき、適度に相分離した構造化が生じ、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0019】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、表面で有機修飾する分子の被覆割合が前記微粒子の表面積に対して1%以上10%以下である微粒子を提供する。
【0020】
第3の特徴に係る発明によると、表面で有機修飾する分子の被覆割合が1%以上であるため、微粒子の露出面の状態がより厳密に制御され、集電体の表面に塗布した場合の露出面積をより広くすることができる。そして、当該被覆割合が10%以下であるため、微粒子を非水電解質二次電池用正極の構成材料として用いたときに電解液がある程度有機修飾基の中に入り込むことができる。
【0021】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれか特徴に係る発明であって、Hall法で解析される一次微結晶粒子の格子ひずみが0.5%以下である微粒子を提供する。
【0022】
第4の特徴に係る発明によると、歪、欠陥を低減した完全結晶性の微粒子が得られるため、結果としてより優れた電池性能を有し得る正極活物質を提供できる。
【0023】
第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれか特徴に係る発明であって、層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能な端面の面積/それ以外の面の面積との比が0.5以上である微粒子を提供する。
【0024】
第5の特徴に係る発明によると、層状化合物の結晶性が高いことから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムイオンが層状化合物の端面から入りやすく、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0025】
特に、表面が疎水性基により有機修飾されている。有機修飾を行う場合、有機修飾は活性の高い層状化合物端面に配位しやすく、その面の成長を抑制する。すなわち層状化合物は厚さ方向に成長し、結果としてリチウムイオンの出入りする端面の面積を広げることとなる。これはリチウムイオン移動測度を増大させ、出力を上げることにつながる。さらには粒子内のリチウムイオン拡散距離を短くするため、短時間での充放電を可能とする。
【0026】
第6の特徴に係る発明は、第1から第5のいずれかの特徴に係る発明における微粒子を含む非水電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【0027】
第7の特徴に係る発明は、集電体と、正極合剤の層として前記集電体上に形成される正極合剤層とを有し、前記正極合剤は、第6の特徴に係る発明における微粒子と、バインダとを含有する、非水電解質二次電池用正極を提供する。
【0028】
第8の特徴に係る発明は、第7の特徴に係る発明における正極と、負極と、非水電解質が有機溶媒に溶解された電解液とを備える、非水電解質二次電池を提供する。
【0029】
第6から第8の特徴に係る発明によると、エネルギー的に不安定な活性面を集電体の表面に広く露出させることの可能な正極活物質、正極及び電池を提供できる。
【0030】
第9の特徴に係る発明は、超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾され、平均粒子径が1μm以下である、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属リン酸塩の微粒子を得る微粒子化工程を含む、微粒子の製造方法を提供する。
【0031】
第10の特徴に係る発明は、第9の特徴に係る発明であって、有機修飾法により、層状化合物のリチウムイオンが出入りする端面を広くさせる、微粒子の製造方法を提供する。
【0032】
第9及び第10の特徴に係る発明によると、層状化合物の結晶性が高いことから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムイオンが層状化合物の端面から入りやすく、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0033】
特に、表面が疎水性基により有機修飾されている。有機修飾を行う場合、有機修飾は活性の高い層状化合物端面に配位しやすく、その面の成長を抑制する。すなわち層状化合物は厚さ方向に成長し、結果としてリチウムイオンの出入りする端面の面積を広げることとなる。これはリチウムイオン移動測度を増大させ、出力を上げることにつながる。さらには粒子内のリチウムイオン拡散距離を短くするため、短時間での充放電を可能とする。
【0034】
第11の特徴に係る発明は、第9又は第10の特徴に係る発明であって、前記微粒子化工程が酸化剤の共存下で行われる、微粒子の製造方法を提供する。
【0035】
第11の特徴に係る発明によると、微粒子表面が親水性を有することから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムが自由に動き得る。そのため、電気容量及びサイクル特性に代表される電池性能に優れた正極活物質を提供し得る。
【0036】
第12の特徴に係る発明は、第9から第11のいずれかの特徴に係る発明であって、50℃以上200℃以下である前記水系溶媒の反応場で、前記微粒子を構成する構成化学元素と有機修飾剤とから有機金属錯体を合成する前処理工程をさらに含み、前記微粒子化工程は、前記有機金属錯体と前記有機修飾剤とから前記微粒子を得る工程を含む方法を提供する。
【0037】
第12の特徴に係る発明によると、前処理工程と微粒子化工程との複数段階に分け、多段構成としているため、前処理工程での錯体形成条件と微粒子化工程での合成条件とをそれぞれ独立して最適化して制御できる。
【0038】
第13の特徴に係る発明は、第9から第12のいずれかの特徴に係る発明であって、前記微粒子化工程が前記微粒子を構成する構成化学元素を化学量論的割合とは異なる割合で含み、pHが8以上である前記反応場において有機修飾剤の存在下で連続反応器を用いて合成する工程を含む方法を提供する。
【0039】
第13の特徴に係る発明によると、エネルギー的に不安定な活性面を表面に露出させることと、微細化された単結晶を得ることで集電体の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を、水熱合成技術を用いて連続製造できるため、高品質な正極活物質を安定して大量供給でき得る。
【発明の効果】
【0040】
本発明によると、露出面の状態をよりいっそう厳密に制御した、リチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属リン酸塩の微粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、有機修飾に利用される典型的な反応器を示す。
図2図2は、本発明の有機修飾に利用される代表的な反応系装置の構成を示す。
図3図3(A)は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のXRDパターンである。図3(B)は、非特許文献1に記載されたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のXRDパターンである。
図4図4は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のSEM画像である。
図5図5は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のEDX分析結果である。
図6図6は、本試験例で得られた、有機修飾後のNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のXRDパターンである。
図7図7は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のIRパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0043】
<微粒子>
本実施形態に記載の微粒子は、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾されたリチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属リン酸塩である。
【0044】
〔リチウム遷移金属複合酸化物〕
リチウム遷移金属複合酸化物の種類は特に限定されるものでなく、層状岩塩構造、岩塩構造、スピネル構造、オリビン構造、ペロブスカイト構造等、種々の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を採用することができる。中でも、二次電池の正極活物質としては層状岩塩構造又はスピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0045】
[層状岩塩構造のリチウム遷移金属複合酸化物]
例えば、層状岩塩構造のリチウム遷移金属複合酸化物の具体例として、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
【0046】
ここで、上述した各種の複合酸化物は、名称中に含まれる金属元素が主要金属元素ではあるが、それら主要金属元素以外の金属元素を含み得る。例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物の場合、Li、Ni、Co、Mnが主要構成金属元素であるが、これら以外の遷移金属元素、典型金属元素等を1種または2種以上含む酸化物を包含し得る。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。なお、このことは上述したリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物以外のリチウム金属複合酸化物についでも同様である。
【0047】
例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物としては、以下の式(1):
Li1+xNiCoMn(1-y-z)α2-ββ (1)
で表される化合物が挙げられる。
【0048】
式(1)中、0≦x≦0.7、0.1<y<0.9、0.1<z<0.4、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5であり得る。Mは、Zr,Mo,W,Mg,Ca,Na,Fe,Cr,Zn,Si,Sn,Alのうちから選択される1種または2種以上の元素であり得る。また、Aは、F,Cl,Brのうちから選択される1種または2種以上の元素であり得る。エネルギー密度および熱安定性の観点から、yおよびzはそれぞれ、0.3≦y≦0.5、0.20≦z<0.4を満たすことが好ましい。
【0049】
[スピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物]
リチウム遷移金属複合酸化物は、スピネル構造であってもよい。スピネル構造の複合酸化物としては、例えば、以下の式(2):
Li1+xMn2-y (2)
で表される化合物が挙げられる。
【0050】
式(2)中、Mは、Niであるか、あるいは、Ni、および、Al、Mg、Co、Fe、Znから選ばれる一種以上の金属元素であり得る。また、xおよびyはそれぞれ、0≦x<1、0≦y<2を満たすことが好ましい。
【0051】
〔リチウム遷移金属ポリアニオン系化合物〕
リチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の種類は特に限定されるものでなく、LiMPO、LiMVO、LiMSiO(Mは、Niであるか、あるいは、Ni、および、Al、Mg、Co、Fe、Znから選ばれる一種以上の金属元素)等の一般式で表されるような化合物が挙げられる。
【0052】
中でも、オリビン型の結晶構造を有することが好ましく、例えば、LiFePO、LiMnPO、LiMn0.5Fe0.5PO、LiMn0.8Fe0.2PO、LiMn0.2Fe0.8PO、LiCoPO、LiNiPO等が挙げられる。
【0053】
〔単結晶性であること〕
微粒子は、Liイオンの出入り速度がもっとも高い面を露出することが望ましいが、本手法によれば、最も不安定な活性面をも露出させることが可能となる。最活性面は金属酸化物微粒子の種類によって異なるが、熱力学的に最も不安定な面であり、その情報は材料データベース等から容易に入手できる。
【0054】
充放電によりLiの出入りが生じると、粒子の膨張収縮が生じる。多結晶粒子の場合それにより粒子破砕・溶解等が生じ、電池容量の低下が生じる。単結晶であればそれが生じないため、充放電にともなう電池容量劣化が生じにくいことが分かっている。
【0055】
水熱合成場は、大きな単結晶を育成の場として用いられている。微小粒子連続合成場として超臨界水熱合成を用いているが、生成する粒子は、単結晶になりやすい合成場である。
【0056】
一般に、有機修飾は最も表面エネルギーの高い、活性の高い面に修飾される。Liイオン電池正極材料の場合、層状構造化合物の層の端である。その結果として、層に水平方向の成長が抑制され、厚さ方向に成長が進む。Liイオンの層状化合物からの出入りは層の端面からであり、これによりLiイオンの拡散長を短くしつつ、出入りする断面積を増大させることができる。
【0057】
Liイオン電池正極材料の成型加工は塗布型プロセスが用いられることが多く、微粒子ではなく、μm~サブμmサイズの凝集粒子が用いられることが多い。凝集体粒子は、Liの出入りとともに体積の膨張修飾が生じ、それにより崩壊が生じ、電池容量の低下が生じる。より大きな単結晶はその抑制が期待されるが、Liのイオン拡散速度(充放電速度)が問題となる場合がある。しかし、層状化合物のc軸を成長させつつ、層断面積を増大させた結晶では、その両方の課題を解決できる。
【0058】
高い結晶性は、電子回折法、電子顕微鏡写真の解析、エックス線回折、熱重量分析等により確認できる。例えば、電子回折では、単結晶であれば回折干渉像としてドットがえられ、多結晶ではリング、そしてアモルファスではハローが得られる。電子顕微鏡写真では、単結晶であれば結晶面がしっかり出ており、粒子の上からさらに結晶が現れるような形状であれば、多結晶である。多結晶の一次粒子が小さく多くの粒子が凝集して二次粒子をつくっている場合球状になる。アモルファスであれば必ず球状である。エックス線回折では単結晶であればシャープなピークが得られる。Sherreの式を利用してX線のピークの1/2高さの幅から結晶子サイズを評価できる。該評価により得られた結晶子サイズが電子顕微鏡像から評価される粒子径と同一であれば、単結晶と評価される。熱重量分析では、熱天秤により、乾燥不活性ガス中で加熱すると、100℃付近で吸着していた水分の蒸発による重量減少が、また、さらに250℃程度までで粒子内からの脱水による重量減少がみられる。有機物質を含む場合には、250~400℃においてさらに大きな重量減少が観察される。本発明の技術で得られた粒子の場合、400℃まで昇温しても、結晶内部からの脱水による重量減少は最大10%以下であり、低温で合成された粒子の場合と大きく異なる。かくして、本実施形態にしたがって得られる微粒子の特徴としては、高い結晶性、例えば、X線回折でシャープなピークを有している、電子線回折でドットあるいはリングが観察される、熱重量分析で結晶水の脱水が乾粒子あたり10%以下、及び/又は電子顕微鏡写真で一次粒子が結晶面を持っている等が挙げられる。
【0059】
微粒子においては粒子径に関連して、表面エネルギーと重力、電場等の外部エネルギーとが拮抗する、すなわち、遠心力や重力沈降、電気泳動等で粒子を分離したり、分散操作を行う場合、粒子径が数100nmサイズ以下となると大きな外場力を与えないと分散しない。50nm以下となると、表面エネルギーの影響がさらに大きくなり、表面性状を制御したり、溶媒の物性を制御する等をしないと、外場エネルギーだけでは極めて困難となる。本実施形態の技術ではこの問題を解決可能である。
【0060】
特に粒子の大きさを10nm以下とすると、量子状態の重なりがなくなり、また表面の電子状態の影響がバルク物性にも大きく影響する。そのため、バルクの粒子と全く異なる物性が得られること、すなわち量子サイズ効果(久保効果)が現れることがわかってきた。10nm程度以下のサイズの粒子では、特に全く異なる物質とも考えることができるが、本実施形態に記載の技術では好適に該微細な微粒子を有機修飾可能である。
【0061】
〔表面が疎水性基により有機修飾されていること〕
微粒子の表面は、疎水性基により有機修飾されていることが好ましい。本実施形態において、表面が疎水性基により有機修飾された微粒子は、超臨界水熱合成技術を活用してリチウム遷移金属複合酸化物等の表面を有機修飾剤で有機修飾することによって得られる。これにより、微細化された単結晶を得ることで集電体の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を提供できる。
【0062】
また、3Dプリンタ技術を活用し、集電体の表面に正極活物質微粒子を噴射することも可能であり、そうすると集電体の複雑形状化を図り得る。これにより、集電体表面への微粒子の塗布量を増やすことができるため、活性面の露出面積をより広くすることができ、結果として電池性能のさらなる向上が期待され得る。
【0063】
疎水性基の種類は特に限定されないが、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基等が挙げられる。置換基としては、例えば、カルボキシ基、シアノ基,ニトロ基、ハロゲン、エステル基、アミド基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基、-O-、-NH-、-S-等が挙げられる。
【0064】
疎水性基を構成する炭素数は、特に限定されないが、18以下であることが好ましい。疎水基が短鎖であると、正極合剤を構成するバインダに微粒子を加えたとき、適度に相分離した構造化が生じ、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0065】
中でも、芳香族を官能基として持ち、連結炭化水素が2程度であることを考慮すると、疎水性基を構成する炭素数は、9以下であることがより好ましい。
【0066】
表面で有機修飾する分子の被覆割合は特に限定されないが、被覆割合の下限は、微粒子の表面積に対して1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。微粒子の表面が有機修飾されているため、微粒子の露出面の状態がより厳密に制御され、集電体の表面に塗布した場合の露出面積をより広くすることができる。
【0067】
また、表面で有機修飾する分子の被覆割合は特に限定されないが、被覆割合の上限は、微粒子の表面積に対して10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましい。微粒子の表面が過度に有機修飾されていないため、微粒子を非水電解質二次電池用正極の構成材料として用いたときに電解液がある程度有機修飾基の中に入り込むことができる。
【0068】
有機修飾は、Liイオンの出入り、そして電子の導電性を阻害することにつながる。その意味で、Liイオンの出入りを促進しうる官能基、電子導電性の付与も重要となる。その場合、二重結合等、共役系の分子を用いることも可能である。超臨界法によれば、任意の分子を有機修飾させることが可能となる。
【0069】
本実施形態に記載の発明では、有機修飾法により、層状化合物のリチウムイオンが出入りする端面を広くさせる。中でも、層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能な端面の面積/それ以外の面(層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能でない面)の面積の比、すなわち、層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能な端面の面積を、それ以外の面(層状化合物におけるリチウムイオンが出入り可能でない面)の面積で除した値が0.5以上であることが好ましい。
【0070】
層状化合物の結晶性が高いことから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムイオンが層状化合物の端面から入りやすく、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0071】
特に、表面が疎水性基により有機修飾されている。有機修飾を行う場合、有機修飾は活性の高い層状化合物端面に配位しやすく、その面の成長を抑制する。すなわち層状化合物は厚さ方向に成長し、結果としてリチウムイオンの出入りする端面の面積を広げることとなる。これはリチウムイオン移動測度を増大させ、出力を上げることにつながる。さらには粒子内のリチウムイオン拡散距離を短くするため、短時間での充放電を可能とする。
【0072】
さらには、有機修飾基を、塗布、構造形成後、有機修飾を除去することが望まれる場合もある。修飾基の結合温度は合成時の有機修飾反応温度にほぼ依存する。塗布プロセスにより電池を成型加工した後、加焼処理により有機分子を粒子表面から脱離させることも可能である。
【0073】
〔平均一次粒子径〕
微粒子の平均一次粒子径の上限は、特に限定されないが、反応物質との暴露表面積(接触可能性)の最大化、また格子歪による空孔易形成性の観点から、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、50nm以下であることがよりさらに好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。
【0074】
微粒子の平均一次粒子径の下限も特に限定されない。一般には、微粒子は、圧粉成型によって二次粒子化され、二次粒子を、サイクリックオペレーション用の充填層リアクターで用いられるか、あるいは循環流動層粒子として用いられる。
【0075】
本実施形態において、微粒子の平均一次粒子径は、TEM(透過型電子顕微鏡)により粒子の画像を撮像し、そのTEM像を画像解析・画像計測ソフトウェアにより解析して求めた値であるものとする。その際、粒子径分布が広い場合には、視野内に入った粒子が全粒子を代表しているか否かに注意を払う必要がある。
【0076】
〔比表面積〕
微粒子の比表面積は、反応活性の観点から、5m/g以上かつ1000m/g以下であってよく、より一般的には10m/g以上かつ500m/g以下であってよく、典型的には20m/g以上かつ400m/g以下であってよく、好ましくは30m/g以上かつ300m/g以下であってよい。
【0077】
〔格子ひずみ〕
微細化と露出面制御により歪が大きくなると、酸素空孔を生じやすくなる。そのため、格子ひずみは小さい方が好ましく、Hall法で解析される一次微結晶粒子の格子ひずみは、0.5%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。本実施形態によると、格子ひずみが小さく、歪、欠陥を低減した完全結晶性の微粒子が得られるため、結果としてより優れた電池性能を有し得る正極活物質を提供できる。
【0078】
〔微粒子の製造方法〕
[微粒子化工程]
本実施形態に係る方法は、超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で、単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾されたリチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属ポリアニオン系化合物の微粒子を得る微粒子化工程を含む。この手法により、従来の液相法、気相法と比較して、極めて高い過飽和度を得ることができ、それによって、粒子の微細化すなわち、単位体積(重量)当たりの比表面積を極めて大きくすることができる。その結果、エネルギー的に不安定な活性面を表面に露出させることと、微細化された単結晶を得ることで集電体の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を提供できる。
【0079】
また、3Dプリンタ技術を活用し、集電体の表面に正極活物質微粒子を噴射することも可能であり、そうすると集電体の複雑形状化を図り得る。これにより、集電体表面への微粒子の塗布量を増やすことができるため、活性面の露出面積をより広くすることができ、結果として電池性能のさらなる向上が期待され得る。
【0080】
(反応場)
微粒子、特に微粒子の表面を有機修飾する場合には、高温高圧の条件を達成できる装置であれば特に限定されず、当該分野で当業者に広く知られている装置から選択して使用できるが、例えば、回分式装置、流通式装置のいずれをも使用できる。代表的なリアクターとしては、図1で示されるようなものが挙げられ、図2のような系を構成してよいが、必要に応じて適宜適切な反応装置を構成できる。
【0081】
本発明の反応において用いられる水は、超臨界水(SCW)であってもよいし、臨界前の水であってもよい。臨界前の水は、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水を含む。また、臨界前の水は、亜臨界水と称される状態の水を含む。臨界前の水である場合、液体状態の水(液相)、あるいは液相を主相として包含していることが好ましい。このような水熱条件下では、比較的重質な炭化水素と共に単一相を形成する能力を有し、また臨界点近傍では温度圧力によって溶媒効果(誘電率、水和構造形成にともなう反応平衡・速度に与える影響)を大幅に制御できる。
【0082】
本発明による「水熱条件」は、以下の反応温度を有する水共存条件として定義される。ここでの「水熱条件」は、上述のとおり、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水が共存する条件を含む。
【0083】
特に限定されるものではないが、反応温度の下限は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることが特に好ましい。
【0084】
また、反応温度の上限は、1000℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましく、450℃以下であることが特に好ましい。
【0085】
本発明の反応圧力は、特に限定されるものではないが、大気圧以上であり、50MPa以下であってよい。反応圧力は、より好ましくは5MPa以上であり、40MPa以下であってよい。
【0086】
また、本発明の反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば1分以上48時間以内であってよく、より一般的には5分以上24時間以内であってよく、より典型的には10分以上12時間以内であってよい。
【0087】
(反応機構)
水中では、一般に金属酸化物(リン酸化物をはじめとするポリアニオン系化合物を含む)の表面には水酸基が存在する。これは、以下の反応平衡によるものである。
MO+HO=M(OH) (1)
【0088】
一般に、本反応は発熱であり、高温側では平衡は左側にシフトする。また、用いた表面修飾剤による反応は、以下の通りであり、脱水反応によるものである。
【0089】
左向きの反応(逆反応)は、アルコキシド等の加水分解でよく知られる反応であり、室温付近でも水の添加により容易に生じる反応である。この逆反応は、一般に発熱反応であるから高温側では抑制され、右向きの反応がより有利となる。これは(1)式の金属水酸化物の脱水反応の温度依存性と同様である。
【0090】
また、右向きの反応(脱水)は、反応原系と比較して生成物の極性が低いため、生成物の水中での安定性は、溶媒の極性が低いほど有利となる。水の誘電率は、高温ほど低く、350℃以下では誘電率は15以下に、特に臨界点近傍以上では誘電率は1-10程度と急激に低くなる。このため、通常の温度効果以上に脱水反応が加速されることとなる。
【0091】
M(OH)+RCOOH=M(OCOR)+HO=MR+HO+CO
M(OH)+RCHO=M(OH)CR+HO=MC=R+2HO,MCR+2HO,MR+H+CO (これらの式を(2) とする)
【0092】
アミンによる水酸基の攻撃は、室温付近では強力な酸の共存下やClによる置換を介して進行することが知られているが、高温高圧水中ではOHとの交換が生じている。有機物質については、ヘキサンアミドとヘキサノール間でカルボン酸を触媒してヘキサノールのアミノ化が進行することは確認しているが、類似の反応が進行しているものと推察される。
【0093】
一般に、加水分解反応を利用して生成させた微粒子は、水酸化物であり、高温ほど酸化物側に平衡がシフトする。分子配列状態は、高温ほどランダムなアモルファス状態から整列した結晶状態へとシフトする。本実施形態に記載の技術を利用すれば、高い結晶性の微粒子であって有機修飾されたものを得ることが可能である。
【0094】
微粒子においては粒子径に関連して、表面エネルギーと重力、電場等の外部エネルギーとが拮抗する、すなわち、遠心力や重力沈降、電気泳動等で粒子を分離したり、分散操作を行う場合、粒子径が数100nmサイズ以下となると大きな外場力を与えないと分散しない。50nm以下となると、表面エネルギーの影響がさらに大きくなり、表面性状を制御したり、溶媒の物性を制御する等をしないと、外場エネルギーだけでは極めて困難となる。本実施形態の技術ではこの問題を解決可能である。
【0095】
特に粒子の大きさを10nm以下とすると、量子状態の重なりがなくなり、また表面の電子状態の影響がバルク物性にも大きく影響する。そのため、バルクの粒子と全く異なる物性が得られること、すなわち量子サイズ効果(久保効果)が現れることがわかってきた。10nm程度以下のサイズの粒子では、特に全く異なる物質とも考えることができるが、本実施形態に記載の技術では好適に該微細な微粒子を有機修飾可能である。
【0096】
(条件の設定方法)
((反応平衡))
有機修飾の生じる反応条件については、金属種、修飾剤により異なるが、以下のように整理される。
【0097】
(1)式の平衡が右側にあり、(2)式の平衡が右側にある場合に、反応が進行する。それぞれの平衡が金属種、修飾剤により異なるために、最適な反応条件が異なる。温度を上げると、(2)式の平衡は、右にシフトし、特に350℃以上では急激に進行側にシフトするが、その一方で(1)式の平衡は左にシフトする。反応条件については(1)式及び(2)式のDBを参考にする。
【0098】
塩基や酸を共存させれば、金属酸化物の表面官能基をOHとすることが可能であるから、その条件下で修飾剤との脱水反応を進行させることが可能である。その場合、酸の存在下で脱水反応が生じやすいから、高温で若干の酸を共存させることで反応を進行させることができる。
【0099】
((相平衡))
比較的短鎖の炭化水素のアルコール、アルデヒド、カルボン酸、アミンであれば水に可溶であるので、例えば、メタノールによる金属酸化物の表面修飾等は可能である。しかし、より長鎖の炭化水素の場合には、水相と相分離するため、上記の反応平衡が進行側であったとしても、実際には水相にある金属酸化物と有機修飾剤は反応しない場合もある。すなわち、親油基の導入は比較的容易であるが、C3以上の長鎖の炭化水素を対象とする場合には、相挙動を考慮する必要がある。
【0100】
炭化水素と水との相挙動については、すでに報告があり、それを参考とすることができる。一般に気液の臨界軌跡以上であれば、任意の割合で均一相を形成するから、そのような温度圧力条件を設定することで、良好な反応条件を設定できる。
【0101】
また、最適な反応温度をより低温としたい場合には、水と有機物とを均一相とするための第3成分を共存させることも可能である。例えば、ヘキサノールと水との共存領域は、水と低温においても均一相を形成するエタノールやエチレングリコールの共存により、より低温で形成させうることは公知である。それを利用して、金属酸化物と有機物質との反応を行わせることができる。ただし、この場合、第3成分による表面修飾反応が生じないように、第3成分の選択が重要となる。
以上、本手法によって、初めて、水中での長鎖の有機修飾が可能となる。
【0102】
[有機修飾:水熱合成中でのin-situ表面修飾]
上述のように(1)式の金属酸化物表面の水酸基生成と、(2)式以下の有機修飾反応の温度依存性は、逆方向にある。そのため、特に(1)式の反応が左側、すなわち脱水側にある場合、修飾反応を生じさせるために、酸の共存等、反応条件の設定が極めて重要となるし、困難な場合もある。
【0103】
それに対し、水熱合成in-situ表面修飾は、それを可能とする方法である。
【0104】
水熱合成は、下記の反応経路で進行する。
Al(NO+3HO=Al(OH)+3HNO
nAl(OH)=nAlO(OH)+nH
nAlO(OH)=n/2Al+n/2H
【0105】
こうした反応経路で進行することは、他の金属種及び硫酸塩、塩酸塩等を用いた場合も同様である。さらに水熱合成は例えば、図2に示すような装置を使用してそれを高温高圧の水を反応場として行うと、より粒子径の微細な粒子とすることができるから、in-situ表面修飾技法ではより微細な有機修飾粒子を得ることが可能である。また温度や圧力を調節することで、粒子のサイズをコントロールできる。
【0106】
ここに示したように、最終的に脱水反応により表面から水酸基が脱水反応によって脱離したとしても、反応前駆体として生成物、あるいはその表面に多くの水酸基が生成する。この反応場に有機修飾剤が共存していれば、水酸基が存在する条件で反応を行わせることが可能である。また、反応場には、脱水反応を進行させるための触媒でもある酸が共存するため、修飾反応は加速される。これにより、酸化物に対して行うことができなかった表面修飾を行うことが可能となる。
【0107】
本実施形態に記載の技術では、前駆体を一旦合成し、それを加水分解等により金属酸化物、金属水酸化物を合成する等という高温場を達成して酸化物への平衡を前提としたものでなく,さらにラジカル重合基質といった,例えば、酸化性物質、温度、光等に感受性のものを使用することなく、微粒子の表面を有機修飾できる。したがって、金属粒子や酸化還元状態の異なる粒子の有機修飾もできる。
【0108】
本実施形態では、水と有機物質とが均一相を形成するような相状態を使い、しかも、無機-有機複合物質合成を試みるものであり、数nmから50nm以下のサイズの、高結晶性の金属、金属酸化物微粒子を合成しつつ、その表面を有機分子で修飾する。
【0109】
超臨界等の反応場で有機分子をキャッピングさせながら反応させることで金属酸化物のさらなる微粒子化を図ることができる。また、親水性表面を有する金属酸化物微粒子を炭化水素といった有機基等の疎水性基でその表面を有機修飾することで、水性媒質から回収したりすることが困難な粒子を簡単に且つ確実に有機性の媒質側に移行させて分離・回収することができる。そして、この有機修飾により、結晶の露出面が制御された微粒子を、その形状を変化させることなく回収できる。また、光触媒デバイスの製造は塗布型プロセスで行われることから、溶媒との親和性が高く、高濃度で微粒子を分散させつつ、低粘性を発現させることが可能となる。
【0110】
有機修飾剤としては、微粒子の表面に炭化水素を強結合せしめることのできるものであれば特には限定されず、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野を含めて微粒子の応用が期待されている分野で広く知られている有機物質から選択することができる。該有機修飾剤としては、例えば、エーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属-C-の結合、金属-C=の結合及び金属-(C=O)-の結合等の強結合を形成することを許容するものが挙げられる。該炭化水素としては、その炭素数は特に限定されないが、18以下であることが好ましい。疎水基が短鎖であると、正極合剤を構成するバインダに微粒子を加えたとき、適度に相分離した構造化が生じ、リチウムイオン及び電子の受け渡しが円滑に進み得る結果、より高い電池容量特性が得られ、また、充放電に伴う劣化抑制が期待される。
【0111】
中でも、芳香族を官能基として持ち、連結炭化水素が2程度であることを考慮すると、疎水性基を構成する炭素数は、9以下であることがより好ましい。
【0112】
有機修飾剤は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよいし、環状であってもよい。また、有機修飾剤は、置換されていてもよいし、非置換のものであってもよい。該置換基としては、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野等で広く知られた官能基の中から選択されたものであってよく、該置換基は1又はそれ以上が存在していてもよいし、複数の場合互いは同じでも異なっていてもよい。
【0113】
有機修飾剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、アミド類、オキシム類、ホスゲン、エナミン類、アミノ酸類、ペプチド類、糖類等が挙げられる。
【0114】
代表的な修飾剤としては、例えば、ペンタノール、ペンタナール、ペンタン酸、ペンタンアミド、ペンタンチオール、ヘキサノール、ヘキサナール、ヘキサン酸、ヘキサンアミド、ヘキサンチオール、ヘプタノール、ヘプタナール、ヘプタン酸、ヘプタンアミド、ヘプタンチオール、オクタノール、オクタナール、オクタン酸、オクタンアミド、オクタンチオール、デカノール、デカナール、デカン酸、デカンアミド、デカンチオール等が挙げられる。
【0115】
上記炭化水素基としては,置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基等が挙げられる。置換基としては、例えば、カルボキシ基、シアノ基,ニトロ基、ハロゲン、エステル基、アミド基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基、-O-、-NH-、-S-等が挙げられる。
【0116】
(酸化剤の共存下であること)
必須ではないが、微粒子化工程は、酸化剤の共存下で行われることが好ましい。
【0117】
微粒子表面が有機修飾されていると、粒子が疎水的になる。炭素表面が酸化されてOH基を有していたとしても、高温熱水処理では、OH基が抜け、疎水的になる。
【0118】
微粒子化工程を酸化剤の共存下で行うことで、微粒子表面が親水性を有することから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムが自由に動き得る。そのため、電気容量及びサイクル特性に代表される電池性能に優れた正極活物質を提供し得る。
【0119】
酸化剤の種類は特に限定されるものでなく、過酸化水素、過マンガン酸リチウム、過マンガン酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、次亜塩素酸ナトリウム、酸素ガス、硝酸、及び硫酸等が挙げられる。
【0120】
(連続製造)
微粒子化工程は、微粒子を構成する構成化学元素を化学量論的割合とは異なる割合で含み、pHが8以上の反応場において有機修飾剤の存在下で連続反応器を用いて合成する工程を含むことが好ましい。これにより、エネルギー的に不安定な活性面を表面に露出させることと、微細化された単結晶を得ることで集電体の表面に塗布した場合に露出面の面積を広くすることとを可能にした正極活物質を、水熱合成技術を用いて連続製造できるため、高品質な正極活物質を安定して大量供給でき得る。
【0121】
連続製造する際、反応場での流体のレイノルズ数は、3,000以上であることが好ましく、4,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。これにより、水系溶媒に対して原料を過飽和の状態で溶解できるため、得られる正極活物質微結晶粒子の平均粒子径を小さくすることができるとともに、粒子径分布をより狭くすることができる。
【0122】
一般に、古典的な均一核発生成長機構では、濃度を高くすると、過飽和度が高くなり、微粒子が生成しやすい。ところが、非古典的核発生理論によれば、初期液滴核が生成後、それらの合体凝集により液滴核の成長が生じるため、濃度増大にともない生成粒子径が大きくなる。Liイオン電池材料では、塗布成型工程での使いやすさを考えると、μm~サブμmが望ましいことが多い。単結晶を生成させつつ、短時間でサイズを大きくする方法として、この機構を用いることができる。結晶化速度よりも速い速度で液滴核、あるいは未成熟微結晶の合体が生じれば、単結晶性の高い微粒子を回収できる。濃度が高いため、生産性も高くなる。それを達成するために、均一混合場の形成が有効であり、その意味でもRe数3,000以上であることが好ましい。
【0123】
[前処理工程]
必須ではないが、微粒子化工程に先立ち、50℃以上200℃以下である水系溶媒の反応場で、微粒子を構成する構成化学元素と有機修飾剤とから有機金属錯体を合成する前処理工程を行い、上述した微粒子化工程では、前処理工程で得た有機金属錯体と有機修飾剤とから微粒子を得ることが好ましい。
【0124】
前処理工程での反応温度の下限は、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。反応温度が低すぎると、有機金属錯体を適切に合成できないため、好ましくない。
【0125】
前処理工程での反応温度の上限は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。反応温度が高すぎると、有機金属錯体を合成する過程を得ることなく上述した微粒子化工程を行うこととなり、微粒子表面への有機修飾の効率が劣るため、好ましくない。
【0126】
水系溶媒の種類は、微粒子化工程で用いる水系溶媒と同じで構わない。
【0127】
前処理工程と微粒子化工程との複数段階に分け、多段構成にすることで、前処理工程での錯体形成条件と微粒子化工程での合成条件とをそれぞれ独立して最適化して制御できる。
【0128】
[表面が有機修飾された微粒子の回収]
親水性表面を有する微粒子を炭化水素といった有機基等の疎水性基でその表面を有機修飾することで、水性媒質から回収したりすることが困難な粒子を簡単に且つ確実に有機性の媒質側に移行させて分離・回収することができる。そして、この有機修飾により、結晶の露出面が制御された微粒子を、その形状を変化させることなく回収できる。
【0129】
本実施形態に記載の方法は、金属酸化物等の表面を有機修飾した後、凍結乾燥または超臨界処理を行ってから、有機修飾された炭素材料を回収することが好ましい。亜臨界水または超臨界水を用いて有機修飾を行った場合には、有機修飾後の炭素材料は疎水化されているため、自動的に水から相分離する。このため、若干の有機溶媒を添加することにより、良好に回収することができる。しかし、有機修飾の際に有機溶媒を使用した場合には、溶媒を乾燥除去する必要があり、その乾燥工程でキャピラリー力が働き、炭素材料が凝集してしまう。そこで、凍結乾燥または超臨界処理を行うことにより、そのキャピラリー力を抑制して凝集を防ぐことができ、有機修飾された炭素材料を高効率で回収することができる。特に、超臨界二酸化炭素乾燥を行うことにより、有機溶媒の完全回収も可能となり、その再利用も可能となる。また、利用されなかった修飾剤との分離も可能となる。
【0130】
<正極活物質>
本実施形態に記載の微粒子、すなわち単結晶性であり、表面が疎水性基により有機修飾されたリチウム遷移金属複合酸化物及び/又はリチウム遷移金属リン酸塩の微粒子は、非水電解質二次電池用正極活物質として使用できる。
【0131】
正極活物質は、当該微粒子のほか、正極活物質として汎用されている他の粒子との混合物であってもよい。他の粒子は、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な化合物であればよく、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、及びマンガン酸リチウム(LiMnO)等が挙げられる。
【0132】
<非水電解質二次電池用正極>
本実施形態において、非水電解質二次電池用正極(以下、単に「正極」ともいう。)は、集電体と、正極合剤の層として集電体上に形成される正極合剤層とを有する。
【0133】
〔集電体〕
集電体は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅等から選択される金属箔又は金属薄板を用いることができる。中でも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。導電性の板材は、リチウムと金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0134】
集電体は、主元素以外に炭素や硫黄を含んでいることが好ましい。集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。
【0135】
炭素や硫黄の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100ppm以下であることが好ましい。これは、より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0136】
〔正極合剤層〕
正極合剤層は、正極合剤の層として集電体上に形成される。そして、正極合剤は、上述した正極活物質と、バインダとを含有する。
【0137】
[バインダ]
バインダとしては、熱可塑性樹脂が用いられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、イソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、及びポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0138】
バインダは、それぞれの物性によって、水に分散、若しくは溶解したもの、又は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤に溶解したものがある。これらの中でも、密着性に優れることから、主骨格がポリアクリロニトリル、ポリイミド、又はポリアミドイミドであるバインダが好ましい。
【0139】
正極合剤層に含まれるバインダの含有比率の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。バインダの含有比率が所定の閾値以上であることで、密着性が良好で、充放電時の膨張及び収縮によって正極が破壊されることが抑制される傾向にある。
【0140】
正極合剤層に含まれるバインダの含有比率の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。バインダの含有比率が所定の閾値以下であることで、密着性が良好で、充放電時の膨張及び収縮によって正極が破壊されることが抑制される傾向にある。また、電極抵抗が大きくなることを抑制できる傾向にある。
【0141】
[増粘剤]
必須ではないが、正極合剤層は、粘度を調整するための増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等を含有してもよい。
【0142】
[導電助剤]
また、必須ではないが、正極合剤層は、導電助剤を含有してもよい。導電助剤の種類は特に限定されないが、カーボンブラック、アセチレンブラック、導電性を示す酸化物及び導電性を示す窒化物が挙げられる。これらの導電助剤は1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0143】
導電助剤の含有率は、正極合剤層に対して0.1質量%~20質量%であることが好ましい。
【0144】
[溶剤]
バインダの混合に使用する溶剤としては、特に制限はないが、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等が用いられる。
【0145】
〔正極の製造方法〕
正極電極は、正極合剤層形成用の塗布液を集電体の少なくとも一方の面に付与(塗布)し、次いで溶媒を乾燥除去し、必要に応じて加圧処理して作製することができる。
【0146】
塗布方法は特に限定されない。塗布方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等公知の方法が挙げられる。付与(塗布)後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による加圧処理を行うことが好ましい。
【0147】
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された塗布液と集電体との一体化は、例えば、ロールによる一体化、プレスによる一体化及びこれらの組み合わせによる一体化により行うことができる。
【0148】
有機修飾基を、塗布、構造形成後、有機修飾を除去することが望まれる場合もある。修飾基の結合温度は合成時の有機修飾反応温度にほぼ依存する。塗布プロセスにより電池を成型加工した後、か焼処理により有機分子を粒子表面から脱離させることも可能である。
【0149】
<非水電解質二次電池>
本実施形態に記載の非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」とも称する。)は、上述した正極と、負極と、非水電解質とを備える。二次電池は、必要に応じてセパレータをさらに備えていてもよい。
【0150】
〔負極〕
負極は、正極と同様にして、集電体表面上に正極合剤層を形成することで得ることができる。
【0151】
[集電体]
負極における集電体には、正極で説明した集電体と同様のものを用いることができる。
【0152】
[負極合剤層]
負極合剤層に含まれる負極材料は、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な化合物であればよく、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ等のリチウム等の金属と化合することのできる物質、SiO(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物等の非晶質の化合物が挙げられる。
【0153】
なお、負極合剤層には導電助剤が含まれても良い。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、導電性を示す酸化物及び導電性を示す窒化物が挙げられる。これらの導電助剤は1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0154】
[負極の製造方法]
負極は、上述した負極材料と、ポリフッ化ビニリデン等のバインダと、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等の溶剤とを混合して正極塗布液を調製し、この正極塗布液をアルミニウム箔等の集電体の少なくとも一方の面に付与(塗布)し、次いで溶媒を乾燥除去し、必要に応じて加圧処理して作製することができる。
【0155】
〔非水電解質〕
リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、非水電解質として、有機溶剤に電解質を溶解させた溶液を用いることにより、非水系リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0156】
非水電解質としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiClF、LiAsF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiCl、LiI等が挙げられる。
【0157】
有機溶剤としては、非水電解質を溶解できればよく、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン及び2-メチルテトラヒドロフランが挙げられる。
【0158】
〔セパレータ〕
【0159】
セパレータは、公知の各種セパレータを用いることができる。セパレータの具体例としては、紙製セパレータ、ポリプロピレン製セパレータ、ポリエチレン製セパレータ、ガラス繊維製セパレータ等が挙げられる。
【0160】
〔二次電池の製造方法〕
リチウムイオン二次電池の製造方法としては、例えば、まず正極と負極の2つの電極を、セパレータを介して捲回する。得られたスパイラル状の捲回群を電池缶に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池缶底に溶接する。得られた電池缶に電解液を注入し、更に予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池缶の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉することによって電池を得る。
【0161】
リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されず、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池等のリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【実施例0162】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0163】
<<試験例>>
<NCM111リチウム遷移金属複合酸化物の合成>
5ccの管型オートクレーブ(Tube Bomb Reactor)を用いて実験を行った。LiOH・HOを0.25mmol、Ni(NO・6HOを0.0825mmol、Co(NO・6HOを0.0825mmol、Mn(NO・6HOを0.0825mmol、KOHを0.5mmolを、純水1mlとともに反応管に仕込んだ。あらかじめ、400℃に設定した加熱炉に反応管を入れて加熱させた。純水と仮定した時の圧力は、39MPaである。昇温には、1.5分を要した。10分間反応させた。反応管を冷水に投入することで反応を停止させた。生成物の回収は、水洗浄とクロロホルム洗浄を2回繰り返して行った。
【0164】
図3(A)は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のX線回折パターン(XRDパターン)であり、図3(B)は、非特許文献1に記載されたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のXRDパターンである。本試験例で得られた物質のピーク位置は、非特許文献1に記載された物質のピーク位置と概ね一致しており、本試験例によってNCM111リチウム遷移金属複合酸化物が得られたといえる。
【0165】
図4は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像を示す。図4から、本試験例で得られた物質が球状であり、物質の平均粒子径が数十nmであることが分かる。
【0166】
図5は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のエネルギー分散型X線分析(EDX分析)結果を示す。この結果から、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるニッケル、コバルト及びマンガンの割合が約1:1:1であることが分かる。
【0167】
<NCM111リチウム遷移金属複合酸化物微粒子の高温高圧水中での有機修飾>
上記管型オートクレーブを用いて実験を行った。先の合成で得たNCM111リチウム遷移金属複合酸化物10mgを、純水1ml、オレイン酸20μlとともに反応管に仕込んだ。予め300℃に設定した加熱炉に反応管を入れて加熱させた。純水と仮定したときの圧力は、39MPaである。昇温には、1.5分を要した。10分間反応させた。反応管を冷水に投入することで反応を停止させた。生成物の回収は、水洗浄とクロロホルム洗浄を2回繰り返して行った。
【0168】
図6は、本試験例で得られた、有機修飾後のNCM111リチウム遷移金属複合酸化物のXRDパターンである。本試験例で得られた有機修飾後の物質のピーク位置は、図3(A)に示した有機修飾前の物質のピーク位置と概ね一致しており、有機修飾後においても有機修飾前の構造を維持しているといえる。
【0169】
図7は、本試験例で得られたNCM111リチウム遷移金属複合酸化物の赤外分光法(IR)による測定結果である。有機修飾後には、有機修飾前では見られなかったC-H結合のピークがある。これにより、NCM111リチウム遷移金属複合酸化物の表面がオレイン酸によって修飾されたことが分かる。
【0170】
上記試験例のほか、KOH0.5mmolをH0.07mmolに置き換えて、上記試験例と同様の手法にてNCM111リチウム遷移金属複合酸化物を合成した。当該複合酸化物は、上記試験例と同様の結果が得られるとともに、上記試験例に加えてより高い親水性が得られた。微粒子化工程を酸化剤の共存下で行うことで、微粒子表面が親水性を有することから、微粒子を非水電解質二次電池用正極活物質として用いる際、リチウムが自由に動き得る。そのため、電気容量及びサイクル特性に代表される電池性能により優れた正極活物質を提供し得る。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7