IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オルガノ株式会社の特許一覧

特開2023-2284溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置
<>
  • 特開-溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002284
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/05 20170101AFI20221227BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 39/19 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 41/04 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 41/13 20170101ALI20221227BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20221227BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20221227BHJP
【FI】
B01J49/05
B01J39/05
B01J39/07
B01J39/19
B01J41/04
B01J41/05
B01J41/07
B01J41/13
B01J45/00
B01J47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103433
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
(57)【要約】
【課題】イオン交換樹脂を用いる溶液の精製装置におけるイオン交換樹脂の再生時期または交換時期を判断することができる溶液精製装置の運転管理方法を提供する。
【解決手段】被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置の運転管理方法であって、被処理溶液を通液して精製を行うためのイオン交換樹脂42が収納されている樹脂塔10の入口圧力を測定し、測定した入口圧力に基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する、溶液精製装置の運転管理方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置の運転管理方法であって、
前記被処理溶液を通液して精製を行うための前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔の入口圧力を測定し、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断することを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断することを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、前記溶液精製装置への前記被処理溶液の送液を停止することを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
前記溶液精製装置の接液部が、前記被処理溶液に対して不活性な材料によって形成またはコーティングされていることを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
前記被処理溶液は、有機酸を含むことを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
前記イオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂を含むことを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の溶液精製装置の運転管理方法であって、
前記イオン交換樹脂は、アクリル樹脂を含んで構成されていることを特徴とする溶液精製装置の運転管理方法。
【請求項8】
被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置の運転管理装置であって、
前記被処理溶液を通液して精製を行うための前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔の入口圧力を測定する圧力測定手段と、
測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段と、
を備えることを特徴とする溶液精製装置の運転管理装置。
【請求項9】
被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製方法であって、
前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔に前記被処理溶液を通液して精製を行う精製工程を含み、
前記樹脂塔の入口圧力を測定し、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断することを特徴とする溶液精製方法。
【請求項10】
被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置であって、
前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔に前記被処理溶液を通液して精製を行う精製手段と、
前記樹脂塔の入口圧力を測定する圧力測定手段と、
測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段と、
を備えることを特徴とする溶液精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂を用いて溶液を精製する溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液からの金属除去にはイオン交換樹脂が有効であり、水溶液、有機溶媒、酸溶液、アルカリ溶液等の溶液の精製等に広く用いられている。
【0003】
アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂を用いた酸溶液の精製や、キレート樹脂を用いた酸の回収が知られている。
【0004】
酸溶液の精製として、無機酸、有機酸、有機酸と有機溶媒との混合溶液等からの金属除去が知られている。無機酸の精製では、特に塩酸中では様々な金属が塩化物錯体として存在し、アニオン交換樹脂で除去できることが知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。その他、リン酸中の金属除去方法についても報告されている(特許文献2参照)。
【0005】
有機酸の精製でもアニオン交換樹脂を使って金属不純物が除去できることが報告されており、アニオン交換樹脂を精製対象となる有機酸形で使用する場合や(特許文献3参照)、Cl形で使用する場合(特許文献4参照)等が報告されている。特許文献5では、有機酸と有機溶媒との混合溶液から金属を、非金属形のイオン交換樹脂(H形、OH形)を用いて低減している。
【0006】
一方、水処理装置の運転管理に関して、処理水質等の分析データを使った運転管理について報告されている(特許文献6参照)。背圧に関しては、背圧をかけることによって水湿潤状態のイオン交換樹脂と非水液とが混合した際の気体の溶解度変化による気泡の発生を抑制する方法について報告されているが(特許文献7参照)、背圧の測定値を運転管理に利用する技術ではない。
【0007】
しかしながら、有機酸等の溶液の精製におけるイオン交換樹脂の体積変化による樹脂塔にかかる圧力変動について言及した報告、また、有機酸等の溶液の精製におけるイオン交換樹脂の再生時期や交換時期を判断、管理する運転管理方法についての報告は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4523321号公報
【特許文献2】特開2016-022477号公報
【特許文献3】特許第4534591号公報
【特許文献4】特開昭61-274789号公報
【特許文献5】特許第6772132号公報
【特許文献6】国際特許出願公開第2017/022113号パンフレット
【特許文献7】特許第5739687号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ダイヤイオン:DIAION イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル[II],三菱化成工業(株),pp.95-97,第87-89図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、イオン交換樹脂を用いる溶液の精製装置におけるイオン交換樹脂の再生時期または交換時期を判断することができる溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置の運転管理方法であって、前記被処理溶液を通液して精製を行うための前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔の入口圧力を測定し、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する、溶液精製装置の運転管理方法である。
【0012】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断してもよい。
【0013】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、前記溶液精製装置への前記被処理溶液の送液を停止してもよい。
【0014】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、前記溶液精製装置の接液部が、前記被処理溶液に対して不活性な材料によって形成またはコーティングされていてもよい。
【0015】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、前記被処理溶液は、有機酸を含んでもよい。
【0016】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、前記イオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂を含んでもよい。
【0017】
前記溶液精製装置の運転管理方法において、前記イオン交換樹脂は、アクリル樹脂を含んで構成されていてもよい。
【0018】
本発明は、被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置の運転管理装置であって、前記被処理溶液を通液して精製を行うための前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔の入口圧力を測定する圧力測定手段と、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段と、を備える、溶液精製装置の運転管理装置である。
【0019】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、前記判断手段は、測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断してもよい。
【0020】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、測定した前記入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、前記溶液精製装置への前記被処理溶液の送液を停止する制御手段をさらに備えてもよい。
【0021】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、前記溶液精製装置の接液部が、前記被処理溶液に対して不活性な材料によって形成またはコーティングされていてもよい。
【0022】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、前記被処理溶液は、有機酸を含んでもよい。
【0023】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、前記イオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂を含んでもよい。
【0024】
前記溶液精製装置の運転管理装置において、前記イオン交換樹脂は、アクリル樹脂を含んで構成されていてもよい。
【0025】
本発明は、被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製方法であって、前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔に前記被処理溶液を通液して精製を行う精製工程を含み、前記樹脂塔の入口圧力を測定し、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する、溶液精製方法である。
【0026】
本発明は、被処理溶液の精製を行うためのイオン交換樹脂を用いる溶液精製装置であって、前記イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔に前記被処理溶液を通液して精製を行う精製手段と、前記樹脂塔の入口圧力を測定する圧力測定手段と、測定した前記入口圧力に基づいて、前記イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段と、を備える、溶液精製装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって、イオン交換樹脂を用いる溶液の精製装置におけるイオン交換樹脂の再生時期または交換時期を判断することができる溶液精製装置の運転管理方法、運転管理装置、溶液精製方法、および溶液精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る溶液精製装置の運転管理装置を備える、溶液の精製装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施形態に係る溶液精製装置の運転管理装置を備える、溶液の精製装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0031】
図1の溶液の精製装置1は、被処理溶液の精製を行うための、例えば被処理溶液中の金属不純物を低減するための、イオン交換樹脂を用いる溶液精製装置であって、被処理溶液を通液して精製を行う精製手段として、イオン交換樹脂42が収納されている樹脂塔10と;樹脂塔10の入口圧力を測定する圧力測定手段として、圧力計26と、測定した入口圧力に基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段として、制御装置20と、を有する溶液精製装置の運転管理装置3と;を備える。精製装置1は、被処理溶液を貯留する被処理溶液タンク12と、処理液を貯留する処理液タンク18とを備えてもよい。精製装置1は、さらに、前処理液を貯留する前処理液タンク14と、排液を貯留する排液タンク16とを備えてもよい。
【0032】
精製装置1において、被処理溶液タンク12の出口と樹脂塔10の例えば上部の被処理溶液入口とは、ポンプ22を介して、配管30により接続され、樹脂塔10の例えば下部の処理液出口と処理液タンク18の入口とは、配管36により接続されている。配管30におけるポンプ22の下流側には、樹脂塔10の入口圧力を測定するための圧力計26が設置されている。
【0033】
圧力計26と制御装置20は、それぞれ有線または無線の電気的接続等によって接続されている。ポンプ22と制御装置20は、有線または無線の電気的接続等によって接続されていてもよい。
【0034】
前処理液タンク14の出口と樹脂塔10の例えば上部の前処理液入口とは、ポンプ24を介して、配管32により接続され、樹脂塔10の例えば下部の排液出口と排液タンク16の入口とは、配管38により接続されている。
【0035】
樹脂塔10の例えば上部の洗浄水入口には、配管34が接続され、樹脂塔10の例えば下部の洗浄排水出口には、配管40が接続されている。配管40には、洗浄排水の比抵抗または導電率を測定する比抵抗/導電率測定手段として、比抵抗計(導電率計)46が設置されていてもよい。
【0036】
被処理溶液タンク12内には、精製対象の被処理溶液が貯留されている。前処理液タンク14内には、前処理液が貯留されている。
【0037】
樹脂塔10は、収納室を有して構成され、収納室は、例えばフッ素系樹脂等の樹脂材料等によって構成され、被処理溶液を内部に供給するための入口と外部に排出するために出口とを有している。収納室の内部には、目板/メッシュ44の上にイオン交換樹脂42が収納、充填されている。樹脂塔10は、入口から供給された被処理溶液がイオン交換樹脂42を通過、接触して出口から外部に排出されるようになっており、それによって被処理溶液の精製が行われるようになっている。
【0038】
精製装置1においてポンプ22が駆動されると、被処理溶液タンク12内の被処理溶液が配管30を通して樹脂塔10の入口に向けて供給される。精製に必要な被処理溶液の流量に応じてポンプ22を配管経路内に複数設けてもよい。
【0039】
入口から被処理溶液が供給され、被処理溶液がイオン交換樹脂42を例えば下降流で通過(通液)して出口から排出されることによって、イオン交換樹脂42に精製対象の被処理溶液を接触させて精製が行われる(精製工程)。入口を樹脂塔10の収納室下部に設け、上向流で収納室内に被処理溶液もしくは被処理溶液と同等の組成、または被処理溶液を用いて速やかに置換できる溶液で満たし、樹脂内部の気泡を収納室外へ押し出した後 、下降流で通過(通液)して出口から排出されることによって、イオン交換樹脂42に精製対象の被処理溶液を接触させて精製してもよい。出口から排出された処理液は、配管36を通して必要に応じて処理液タンク18に貯留される。目標水分まで下がる前の処理液や下記の前処理液と被処理溶液の混合液等は、配管38を通して必要に応じて排液タンク16に貯留されてもよい。
【0040】
この精製処理(含有金属不純物低減処理)によって、被処理溶液(例えば、各金属元素含有量が200μg/L以下)中の含有金属不純物量は、例えば、20μg/L以下とされる。これにより、含有金属不純物量が少ない高品質の処理液を得ることができる。
【0041】
水との親和性が低い被処理溶液を用いる場合は、被処理溶液よりも水との親和性が高い前処理液を用いてもよい。精製装置1においてポンプ24が駆動されると、前処理液タンク14内の前処理液が配管32を通して樹脂塔10の入口に向けて供給される。
【0042】
入口から前処理液が供給され、前処理液がイオン交換樹脂42を例えば下降流で通過(通液)して出口から排出されることによって、イオン交換樹脂42に前処理液を接触させて前処理が行われる(前処理工程)。出口から排出された前処理排液は、配管38を通して必要に応じて排液タンク16に貯留される。
【0043】
この前処理によって、被処理溶液とイオン交換樹脂がなじみやすくなり、イオン性不純物がイオン交換樹脂内部へ拡散しやすくなる。また、水との親和性が低い被処理溶液を用いる場合は、被処理溶液よりも水との親和性が高い前処理液を用いることによって樹脂内部にわずかに残る水分を前処理液と置換しやすくなる。
【0044】
被処理溶液が非水液である場合に再度H形へ変換して使用する場合は、被処理溶液に浸漬されたイオン交換樹脂42を超純水等の洗浄水によって洗浄した後、鉱酸等でH形へ再生してもよい。例えば、洗浄水が配管34を通して樹脂塔10の洗浄水入口に向けて供給される。洗浄水入口から洗浄水が供給され、洗浄水がイオン交換樹脂42を例えば下降流で通過(通液)して洗浄水出口から排出されることによって、洗浄対象のイオン交換樹脂42に洗浄水を接触させて洗浄が行われる(洗浄工程)。洗浄工程において、樹脂塔10が洗浄手段として機能する。洗浄水出口から排出された洗浄排水は、配管40を通して排出される。
【0045】
この洗浄処理により、再度H形へ再生することができる。イオン交換樹脂42を再生せずに使い捨てで使用してもよい。
【0046】
本実施形態に係る溶液精製装置の運転管理方法および運転管理装置では、イオン交換樹脂42が収納、充填されている樹脂塔10の入口圧力を、樹脂塔10の入口圧力を測定するための圧力計26によって測定し、測定した入口圧力に基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する。例えば、制御装置20は、圧力計26によって測定された入口圧力に基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する。
【0047】
本発明者らは、有機酸等の被処理溶液中の金属不純物等をイオン交換樹脂で低減する精製工程において、精製の過程でイオン交換樹脂の官能基が再生形または溶液形から金属イオン化形に変換すると収縮し、金属イオン化形から再生形または溶液形に変換すると膨潤して、樹脂塔10の入口の圧力変動が生じることに着目した。特に、有機酸水溶液中のアニオン交換樹脂は純水中等と比べて膨潤収縮率が大きく、有機酸の精製において、Cl形やOH形から有機酸形に変換したアニオン交換樹脂が、精製の過程で金属イオン化形へ変換すると樹脂塔10の入口の圧力変動が生じる。その圧力変動を管理して、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断することができる。また、アニオン交換樹脂、特に母体がアクリル系のアニオン交換樹脂は有機酸形から金属イオン化形にイオン形が変換する際の膨潤収縮による破砕が少ない。よって、アニオン交換樹脂、特に母体がアクリル系のアニオン交換樹脂を用いる有機酸の精製工程において、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを樹脂塔10の入口と出口の圧力変動から判断、管理する方法が有効である。
【0048】
有機酸等の酸溶液中の金属不純物低減を目的とした精製において、金属不純物以外の導電性物質である酸自体の濃度が高い場合、処理液中の導電率や比抵抗でppbオーダーの金属濃度変動を管理するのは難しい。しかし、本実施形態に係る溶液精製装置の運転管理方法および運転管理装置によれば、イオン交換樹脂を用いる溶液の精製装置におけるイオン交換樹脂の再生時期または交換時期を適切に判断することができる。圧力変動であれば、有機酸等による導電率、比抵抗への影響を受けにくい。
【0049】
測定した入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断してもよい。例えば、制御装置20は、圧力計26によって測定された入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断してもよい。
【0050】
測定した入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、精製装置の樹脂塔10への被処理溶液の送液を停止してもよい。例えば、制御装置20は、圧力計26によって測定された入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、ポンプ22を制御して精製装置の樹脂塔10への被処理溶液の送液を停止してもよい。
【0051】
精製に用いるイオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂である。
【0052】
アニオン交換樹脂は、強アニオン交換樹脂、弱アニオン交換樹脂、ホウ素選択性樹脂(弱アニオン交換樹脂)、ポリアミン樹脂等が挙げられる。
【0053】
弱アニオン交換樹脂の官能基としては、例えば、一級から三級のアミノ基等が挙げられる。
【0054】
弱アニオン交換樹脂としては、例えば、IRA67(官能基:三級アミノ基)(デュポン社製)、IRA96SB(官能基:三級アミン基)(デュポン社製)、DIAION WA10(官能基:三級アミノ基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WA20(官能基:ポリアミン基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WA21J(官能基:ポリアミン基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WA30(官能基:ポリアミン基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WA30C(官能基:ポリアミン基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WA30LL(官能基:ポリアミン基)(三菱ケミカル(株)製)、SEPABEADS FPDA13(官能基:三級アミン基)(三菱ケミカル(株)製)等を用いることができる。弱アニオン交換樹脂は、必要に応じて再生処理等の前処理が行われた上で用いられてもよい。
【0055】
強アニオン交換樹脂の官能基としては、例えば、四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0056】
強アニオン交換樹脂としては、例えば、HPR4002 Cl(官能基:四級アミン基)(デュポン社製)、IRA900J Cl(官能基:四級アミノ基、三級アミノ基)(デュポン社製)、HPR4580 Cl(官能基:四級アミノ基)(デュポン社製)、IRA400J Cl(官能基:四級アミノ基、三級アミノ基)(デュポン社製)、IRA402BL Cl(官能基:四級アミノ基、三級アミノ基)(デュポン社製)、A400(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A600(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、SFA550(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A500(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A501P(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A502PS(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A503(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A520E(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A850(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、A860(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、SSTA63(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))、SSTA64(官能基:四級アミノ基)(ピュロライト(株))等を用いることができる。強アニオン交換基と弱アニオン交換基が混在するアニオン交換樹脂を用いてもよく、例えば、HPR4780 Cl(官能基:四級アミノ基、三級アミノ基)(デュポン社製)、DIAION WA55(官能基:三級、四級アミン基)(三菱ケミカル(株)製)等を用いることができる。強アニオン交換樹脂は、必要に応じて再生処理等の前処理が行われた上で用いられてもよい。
【0057】
ホウ素選択性樹脂(弱アニオン交換樹脂)としては、例えば、アンバーセップIRA743(官能基:グルカミン基)(デュポン社製)、DIAION CRB03(官能基:グルカミン基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION CRB05(官能基:グルカミン基)(三菱ケミカル(株)製)等を用いることができる。
【0058】
カチオン交換樹脂は、強カチオン交換樹脂、弱カチオン交換樹脂、およびキレート樹脂等が挙げられる。
【0059】
キレート樹脂は、金属イオンとキレート(錯体)を形成することができる官能基を有する樹脂である。この官能基としては、金属イオンとキレート(錯体)を形成することができる官能基であればよく、特に制限はないが、例えば、アミノメチルリン酸基、イミノ二酢酸基、チオール基、ポリアミン基等が挙げられる。
【0060】
キレート樹脂としては、例えば、アンバーセップIRC747UPS(キレート基:アミノメチルリン酸基)、アンバーセップIRC748(キレート基:イミノ二酢酸基)(いずれもデュポン社製)、S930/4922(キレート基:イミノジ酢酸)(ピュロライト(株))、S950(キレート基:アミノリン酸)(ピュロライト(株))等を用いることができる。キレート樹脂は、必要に応じて再生処理等の前処理が行われた上で用いられてもよい。その他、H形キレート樹脂として、オルライト(登録商標)DS-21(商品名、オルガノ(株)製)(キレート基:アミノメチルリン酸基)、オルライト(登録商標)DS-22(商品名、オルガノ(株)製)(キレート基:イミノ二酢酸基)、S920(キレート基:チオウロニウム)(ピュロライト(株))、S957(キレート基:ホスホン酸、スルホン酸)(ピュロライト(株))を用いてもよい。
【0061】
弱カチオン交換樹脂の官能基としては、例えば、カルボキシル基等が挙げられる。
【0062】
弱カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRC76(官能基:カルボン酸基)(デュポン社製)、アンバーライトFPC3500(官能基:カルボン酸基)(デュポン社製)、DIAION WK10(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WK100(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WK10S(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WK11(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)、DIAION WT01S(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)、Relite WK60L(官能基:カルボン酸基)(三菱ケミカル(株)製)等を用いることができる。弱カチオン交換樹脂は、必要に応じて再生処理等の前処理が行われた上で用いられてもよい。
【0063】
強カチオン交換樹脂の官能基としては、例えば、スルホン酸基等が挙げられる。
【0064】
強カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIR124(官能基:スルホン酸基)(デュポン社製)、アンバーライト200CT(官能基:スルホン酸基)(デュポン社製)、オルライト(登録商標)DS-1(商品名、オルガノ(株)製)(官能基:スルホン酸基)、オルライト(登録商標)DS-4(商品名、オルガノ(株)製)(官能基:スルホン酸基)等を用いることができる。強カチオン交換樹脂は、必要に応じて再生処理等の前処理が行われた上で用いられてもよい。
【0065】
金属によっては酸化物や錯体としてアニオン性を帯びる元素、アニオン性の不純物が存在するため、カチオン交換樹脂だけでは精製が不十分となる場合がある。そこで、アニオン交換樹脂を用い、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0066】
例えば、アニオン交換樹脂-カチオン交換樹脂の順の組み合わせ、カチオン交換樹脂-アニオン交換樹脂の順の組み合わせ、アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂-アニオン交換樹脂およびカチオン交換樹脂の混床の順の組み合わせ、アニオン交換樹脂およびカチオン交換樹脂の混床-アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂の順の組み合わせ等が挙げられる。
【0067】
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混床で用いてもよいし、アニオン交換樹脂→カチオン交換樹脂の順に処理してもよい。酸性溶液中でイオン交換しやすいアニオン交換樹脂を用いて先にアニオン成分を除去した後、カチオン交換樹脂を用いてカチオン成分を除去することが効果的である。両性イオンが存在すれば、先にアニオン交換樹脂で低減した方が、後段のカチオン交換樹脂への負荷が減る。また、カチオン交換樹脂は、カチオン交換基が金属不純物を捕捉するため、ポリッシャーとして後段に配置してもよい。カチオン交換樹脂の代わりにキレート樹脂を用いてもよいし、アニオン交換樹脂の後段にカチオン交換樹脂とキレート樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0068】
カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の母体は、例えば、スチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。有機酸中ではアニオン交換樹脂のイオン形が酸形および金属イオン形に変換されるため、イオン形の変換による膨潤収縮が起こり、通液と再生を繰り返すと樹脂が破砕する場合がある。膨潤収縮に強く、柔軟性がある母体であり、例えばOH形から有機酸形へ膨潤しても破砕が少ない等の点から、アニオン交換樹脂は膨潤収縮に強いアクリル樹脂を含んで構成されていてもよい。また、膨潤収縮が大きいアクリル系アニオン交換樹脂を用いることによって、圧力変動を検知しやすい。
【0069】
精製対象の被処理溶液は、イオン交換樹脂により精製される液体であり、例えば製造用液等の液体であり、半導体集積回路(IC)、液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)、撮像素子(CCD、CMOS)等の電子部品や、CD-ROM、DVD-ROM等の各種記録メディア等(これらを総称して電子工業製品という)の製造に用いられる薬液、溶解溶剤等の溶剤、電子材料等(電子材料そのものの他、電子材料の原料やそれらの溶解溶剤を含む)等が含まれる。
【0070】
薬液には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、ギ酸等の有機酸、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)等の有機アルカリ等が含まれる。
【0071】
精製対象とする酸等は、有機酸、無機酸、有機アルカリを問わないが、本実施形態に係る溶液精製装置の運転管理方法および運転管理装置は、膨潤率の大きい有機酸の精製において効果的な技術である。
【0072】
同様の差圧による管理が可能である有機アルカリも存在し、例えば、TMAH溶液、TMAC溶液中ではカチオン交換樹脂はTMA形に変換され、膨潤するため、本実施形態に係る溶液精製装置の運転管理方法および運転管理装置を好適に適用することができる。
【0073】
溶剤には、アセトン、2-ブタノン、酢酸-n-ブチル、エタノール、メタノール、2-プロパノール、トルエン、キシレン、酢酸プロピレングリコールメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリジノン、乳酸エチル、フェノール化合物、ジメチルスルホキシド、テトラヒドラフラン、γ-ブチルラクトン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等やそれらの混合物を含む有機溶剤が含まれる。
【0074】
電子材料等としては、半導体関連材料(レジスト、剥離剤、反射防止膜、層間絶縁膜塗布剤、バッファコート膜用塗布剤等)、フラットパネルディスプレイ(FPD)材料(液晶用フォトレジスト、カラーフィルタ用材料、配向膜、封止材、液晶ミクスチャ、偏光板、反射板、オーバーコート剤、スペーサ等)等が含まれる。
【0075】
金属不純物とは金属の他に金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして例えばナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)等が挙げられる。
【0076】
特にppbレベル以下の電子工業用グレードの有機酸の精製を対象とする場合、イオン交換樹脂自体を酸、アルカリ(鉱酸等の酸、NaOHやTMAH等のアルカリ溶液)を用いて十分に洗浄し、含有金属を低減してもよい。
【0077】
樹脂塔10としては、イオン交換樹脂を収納、充填し、被処理溶液を通液することができるものであればよく、特に制限はないが、圧力変動を検知しやすくするために、LVが大きくなるよう、例えば層高60cm以上の樹脂塔を使用することが好ましい。また、金属溶出が少なく、耐圧性の高い材質や構造が好ましい。
【0078】
圧力変動があるため、樹脂塔10の例えば上部にリリーフバルブ等の圧力解放手段を設け、管理圧力以上の圧力になった場合に樹脂塔10の圧力を解放してもよい。
【0079】
制御装置20は、例えば、プログラムを演算するCPU等の演算手段、プログラムや演算結果を記憶するROMおよびRAM等の記憶手段等を含んで構成されるマイクロコンピュータと電子回路等で構成される。制御装置20は、測定した入口圧力に基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段、測定した入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱したか否かに基づいて、イオン交換樹脂の再生時期および交換時期のうちの少なくとも1つを判断する判断手段、測定した入口圧力が予め設定した基準値の範囲から予め設定した時間以上逸脱した場合に、溶液の精製装置1の樹脂塔10への被処理溶液の送液を停止する制御手段として機能することができる。
【0080】
運転管理装置3は、所定の出力を行う出力手段として、出力部を備えてもよい。出力部における出力としては、イオン交換樹脂の再生時期、交換時期を示す表示や音等の視聴覚的に認知可能な警報の他に、イオン交換樹脂の再生、交換に対応するための対応方法等が表示されてもよい。出力部は、例えば、情報を表示、出力することができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示手段である表示装置や、スピーカ等の音声出力手段である音声出力装置等が挙げられる。例えば、警報の方法としては、制御盤のタッチパネル上に表示する、インターネット通信を介して運転員にメール等で通知する、スマートフォン等の小型通信機器に視聴覚的に認知可能な警報を通知する、監視室等の出力部に視聴覚的に認知可能な警報を通知する等が挙げられる。
【0081】
精製装置1が被処理溶液または処理液と接触する接液部(例えば、ポンプ22の内部流路、配管30,36の内壁、樹脂塔10の収納室の内壁等の接液部、被処理溶液タンク12および処理液タンク18の内部、圧力計26の接液部等)は、被処理溶液に対して不活性な材料によって形成またはコーティングされていてもよい。これにより、接液部は被処理溶液に対して不活性であり、接液部から被処理溶液への金属不純物溶出等の影響を低減することができる。再生時期または交換時期の判断のための圧力計等の測定機器からの金属溶出が生じると処理液質が低下する場合がある。特に、酸溶液中では圧力計等の測定機器からの金属溶出が汚染源となる場合がある。したがって、樹脂塔10の入口圧力を、金属溶出がほとんどないように接液部等が被処理溶液に対して不活性な材料で形成またはコーティングされている圧力計で測定すれば、インライン分析によって適切にイオン交換樹脂のイオン形の変化を圧力で検知し、再生時期または交換時期を判断することができる。
【0082】
接液部に用いられる、被処理溶液に対して不活性な材料としては、フッ素系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、金属溶出等の点からフッ素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PVDF(ビニリデンフロオライド樹脂)、ECTFE(エチレン-クロロトリフルオエチレン樹脂)、PCTFEP(クロロトリフルオロエチレン樹脂)、PVF(ビニルフルオライド樹脂)等が挙げられる。
【0083】
圧力計として、例えば、接液部等がフッ素系樹脂製の圧力計を用いることができる。また、例えばフッ素系樹脂等の樹脂ライニングの配管を用いることができる。これによって、金属溶出を抑えて、樹脂塔10の入口圧力を測定することができる。
【0084】
精製装置1は、樹脂塔10の後段に、処理液中に含有される不純物微粒子を除去するためのフィルタ等のろ過手段をさらに有すると、処理液中の溶出金属不純物のみならず、不純物微粒子も低減することができ、よりいっそう高純度な処理液を得ることができる。または、精製装置1の前段または樹脂塔10の前段に、処理液中に含有される不純物微粒子を除去するためのフィルタ等のろ過手段を有すると、微粒子がイオン交換樹脂母体に吸着する等の汚染を抑制することができる。特にアニオン電荷を帯びた微粒子は、アニオン交換樹脂の官能基や母体に吸着する可能性がある。樹脂塔10の前段と後段の両方に不純物微粒子を除去するためのフィルタ等のろ過手段を有することによって、前記両方の効果を得ることができる。
【実施例0085】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
[イオン交換樹脂の有機酸中の膨潤率]
(アニオン交換樹脂(アクリル系樹脂、スチレン系樹脂))
超純水中における各アニオン交換樹脂の塩化物イオン形の体積を測定した。強塩基・中塩基アニオン交換樹脂は、Cl形、弱塩基樹脂は、HCl(塩酸)形である。その後、各有機酸100gと飽和湿潤状態のアニオン交換樹脂10gをビーカー内で混合し、1時間静置した。上澄み液を捨て、超純水で数回デカンテーションした後、有機酸形の各アニオン交換樹脂の体積を測定した。Cl形またはHCl形から有機酸形への体積変化を膨潤率(%)として表した。
【0087】
下記表1に結果を示す。試験の結果、強塩基、弱塩基どちらも有機酸形の方がCl形またはHCl形よりも膨潤した。
【0088】
【表1】
【0089】
<実施例2>
[イオン交換樹脂の有機酸中の膨潤率]
(アニオン交換樹脂(アクリル系樹脂、スチレン系樹脂))
超純水中における各アニオン交換樹脂の再生形の体積を測定した。強塩基・中塩基アニオン交換樹脂は、OH形、弱塩基樹脂は、遊離塩基形である。その後、各有機酸100gと飽和湿潤状態のアニオン交換樹脂10gをビーカー内で混合し、1時間静置した。上澄み液を捨て、超純水で数回デカンテーションした後、有機酸形の各アニオン交換樹脂の体積を測定した。OHまたは遊離塩基形から有機酸形への体積変化を膨潤率(%)として表した。
【0090】
下記表2に結果を示す。スチレン樹脂を母体とするアニオン交換樹脂よりも弱塩基アクリル樹脂を母体とするアニオン交換樹脂の方が有機酸形の体積が大きかった。
【0091】
【表2】
【0092】
<実施例3>
[アニオン交換樹脂の有機酸中の背圧]
(アニオン交換樹脂(アクリル系樹脂、スチレン系樹脂))
クエン酸形樹脂を用いたクエン酸精製における通液初期(イオン交換基の多くがクエン酸形)の差圧を確認するため、アクリル系またはスチレン系アニオン交換樹脂を事前にクエン酸形に調製し、フッ素樹脂製カラムへ充填した。前記クエン酸形のアニオン交換樹脂へ30%クエン酸水溶液を2L/L―樹脂・hrから14L/L―樹脂・hrの流速で通液し、カラム入口における圧力を測定した。なお、通液停止時の背圧は0kPaであった。下記表3に結果を示す。
【0093】
スチレン系アニオン交換樹脂、アクリル系アニオン樹脂のどちらも、比較的低流量である4L/L―樹脂・hrでも背圧がかかっていることが確認できた。4L/L-樹脂・hr以上ではアクリル系アニオン樹脂はスチレン系よりも圧力が2倍以上高く、母体の違いが通液時のカラムへかかる圧力へ影響を及ぼすことを確認した。
【0094】
また、同様の方法で、クエン酸形樹脂を用いた精製における通液後期(イオン交換基の多くがクエン酸形ではない)の差圧を確認するため、前記クエン酸形樹脂へ30%クエン酸水溶液に2%NaClを溶解させた模擬液を30L/L-樹脂通液し、クエン酸形からCl形へ変換されたスチレン系およびアクリル系アニオン交換樹脂の30%クエン酸水溶液中の背圧を測定した。なお、通液停止時の背圧は0kPaであった。下記表3に結果を示す。
【0095】
スチレン系アニオン交換樹脂、アクリル系アニオン樹脂のどちらも、比較的低流量である4L/L―樹脂・hrでも背圧がかかっていることが確認できた。4L/L-樹脂・hr以上ではアクリル系アニオン樹脂はスチレン系よりも圧力が2倍以上高く、母体の違いによる通液時における圧力の影響を確認することができた。
【0096】
また通液初期と通液後期の背圧を比較すると、スチレン系アニオン交換樹脂は通液後期の方がやや高く、アクリル系アニオン交換樹脂は初期の方が高かった。母体の差で、圧力変動の傾向に差が見られた。スチレン系、アクリル系のどちらのアニオン交換樹脂も、通液初期と後期の圧力を比べると差が見られたため、イオン形の変化がカラムにかかる圧力に影響することが確認できた。
【0097】
【表3】
【0098】
このように、イオン交換樹脂が収納されている樹脂塔にかかる圧力を測定し、イオン形が変化することによる通液のときの背圧の変化を確認することができた。よって、測定した圧力に基づいて、イオン交換樹脂を用いる溶液の精製装置におけるイオン交換樹脂の再生時期または交換時期を判断することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 精製装置、3 運転管理装置、10 樹脂塔、12 被処理溶液タンク、14 前処理液タンク、16 排液タンク、18 処理液タンク、20 制御装置、22,24 ポンプ、26 圧力計、30,32,34,36,38,40 配管、42 イオン交換樹脂、44 目板/メッシュ、46 比抵抗計(導電率計)。
図1