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特開2023-22846試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022846
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230209BHJP
   G01N 1/42 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N1/42
G01N1/28 F
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019211101
(22)【出願日】2019-11-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年10月23日、日本高圧力学会主催、第60回高圧討論会にて発表。 令和1年11月21日、イオン液体研究会主催、第10回イオン液体討論会にて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100130719
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 卓
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(71)【出願人】
【識別番号】000134970
【氏名又は名称】株式会社ニチレイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100130719
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 卓
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 大史
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA24
2G052AA28
2G052AD32
2G052AD52
2G052DA25
2G052EB08
2G052EC01
2G052GA35
2G052JA03
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】 氷晶の生成を抑制する試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法を提供すること。
【解決手段】 空洞部と、空洞部の1つの面が開口した開口部とを有する第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bからなる試料作製装置10の内部の空間に、被観察物および水を入れて、空間に充填する工程と、第1の収容部材11aの開口部と、第2の収容部材11bの開口部とを合わせて固定する工程と、試料作製装置10を冷却する工程と、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを分離して、冷却する工程によって凍結した被観察物を割断する工程とを含む。
【選択図】 図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部と、前記空洞部の1つの面が開口した開口部とを有する第1の部材および第2の部材からなる試料作製装置の内部の空間に、被観察物および水を入れて、前記空間に充填する工程と、
前記第1の部材の開口部と、前記第2の部材の開口部とを合わせて固定する工程と、
前記試料作製装置を冷却する工程と、
前記第1の部材および前記第2の部材を分離して、前記冷却する工程によって凍結した前記被観察物を割断する工程と
を含む、試料作製方法。
【請求項2】
前記充填する工程は、水中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
前記割断する工程は、前記第1の部材と前記第2の部材とが連結した部分を折ることで、前記第1の部材および前記第2の部材を分離することを特徴とする、請求項1または2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
空洞部と、前記空洞部の1つの面が開口した開口部とを有する第1の収容部および第2の収容部と、
前記第1の収容部と前記第2の収容部とを固定する固定部と
を具備し、
前記第1の収容部の開口部と、前記第2の収容部の開口部とを合わせて、前記固定部によって固定して形成される空間を有する、
凍結加圧装置。
【請求項5】
前記空洞部は、前記開口部に向かって狭くなることを特徴とする、請求項4に記載の凍結加圧装置。
【請求項6】
前記第1の収容部および前記第2の収容部は、それぞれが前記固定部と一体として構成されることを特徴とする、請求項4または5に記載の凍結加圧装置。
【請求項7】
前記第2の収容部は、開口部の反対側に開いたテーパ部を有し、前記テーパ部に対応する形状を具備するネジによって、前記第1の収容部と前記第2の収容部とを固定することを特徴とする、請求項4または5に記載の凍結加圧装置。
【請求項8】
前記第1の収容部の開口部と、前記第2の収容部の開口部との間にガスケットを挿入して、前記固定部によって固定することを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の凍結加圧装置。
【請求項9】
前記ガスケットの材料が銅であることを特徴とする、請求項8に記載の凍結加圧装置。
【請求項10】
前記ガスケットは、印加された圧力に応じて着色されることを特徴とする、請求項8に記載の凍結加圧装置。
【請求項11】
空洞部と、前記空洞部の1つの面が開口した開口部とを有する第1の部材および第2の部材からなる試料作製装置の内部の空間に、被観察物および水を入れて、前記空間に充填する工程と、
前記第1の部材の開口部と、前記第2の部材の開口部とを合わせて固定する工程と、
前記試料作製装置を冷却する工程と、
前記第1の部材および前記第2の部材を分離して、前記冷却する工程によって凍結した前記被観察物を割断する工程と、
前記割断する工程によって割断された前記被観察物の割断面を観察する工程と
を含む、観察方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、植物、微小生物、細胞などといった水分含有量の多い物質を被観察物として顕微鏡で観察する場合において、当該被観察物を凍結させて、切断することで、観察用の試料を作製する、凍結割断試料作製技術が知られている(例えば、特許文献1など)。
【0003】
しかしながら、被観察物に含まれる水分が凍結する際に氷晶が生成され、被観察物が破壊されるため、適切な観察ができないという問題があった。このような被観察物の破壊を抑制するため、有機溶媒などによって氷晶の生成を抑制する方法なども提案されているが、有機溶媒が被観察物に影響を及ぼすことがあり、やはり適切な観察には向かなかった。
【0004】
この点につき、非特許文献1や特許文献2などには、氷晶の生成を抑制する凍結技術が開示されている。ここで、非特許文献1に開示されている走査型電子顕微鏡(SEM)での観察用の試料を作製する方法について、図10を以て説明する。図10は、従来技術における観察用試料の作製の概略を示す図である。
【0005】
非特許文献1に記載されている従来技術では、図10(a)に示すような平板型試料作製装置50を用いて、凍結割断試料を作製する。従来技術における平板型試料作製装置50は、図10(b)に示すように、2つの平板型収容部材51a,51bに分割可能に構成される。平板型収容部材51a,51bは、上部が開放された窪みを有し、2つを連結することで、図10(a)のような試料作製領域が形成される。
【0006】
図10(c)~(e)は、凍結割断試料作製方法の各工程を示している。まず、図10(c)のように、平板型試料作製装置50の窪み部分に被観察物と水を入れて、窪み部分を水で満たす。このとき、観察対象となる部位が、平板型収容部材51a,51bの境界に配置されるように、被観察物を配置する。
【0007】
その後、図10(d)に示すように、平板型試料作製装置50を冷却し、被観察物や水を凍結させる。平板型試料作製装置50を冷却する方法としては、冷却した金属ブロックを平板型試料作製装置50に当接させる方法が挙げられる。このとき、平板型試料作製装置50内の水は、外側の部分から凍結し、未凍結の水と被観察物とを内包しながらさらに冷却が進む。したがって、水や被観察物の水分が凍結する際に、体積の膨張が押さえ付けられ、氷晶の生成が抑制される。
【0008】
平板型試料作製装置50の内容物を凍結させたあと、図10(e)に示すように、平板型収容部材51a,51bを分割する。平板型収容部材51a,51bは、窪み部分のうち、他方の平板型収容部材51と連結する箇所が細くなっていることから、平板型収容部材51を分割する際に被観察物が割断しやすい構造となっている。このようにして割断された被観察物は、真空乾燥後、オスミウムでコーティングされ、顕微鏡観察用の試料となる。
【0009】
図10を以て説明した従来技術のように、凍結時に加圧することで氷晶の生成を抑制した試料を作製することができる。しかしながら、非特許文献1などの従来技術においては、冷却速度が10K/sの急速な冷却が必要であり、また、1mm以下(0.06ミリリットル程度)の小さな被観察物でしか、試料を作製することができなかった。
【0010】
そのため、氷晶の生成を抑制する凍結割断試料作製技術において、さらなる利便性の向上が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、氷晶の生成を抑制する試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明によれば、
空洞部と、前記空洞部の1つの面が開口した開口部とを有する第1の部材および第2の部材からなる試料作製装置の内部の空間に、被観察物および水を入れて、前記空間に充填する工程と、
前記第1の部材の開口部と、前記第2の部材の開口部とを合わせて固定する工程と、
前記試料作製装置を冷却する工程と、
前記第1の部材および前記第2の部材を分離して、前記冷却する工程によって凍結した前記被観察物を割断する工程と
を含む、試料作製方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、氷晶の生成を抑制する試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の試料作製装置の構造を示す斜視図。
図2】本実施形態の試料作製装置を構成する収容部材の構造を示す図。
図3】本実施形態の試料作製装置を構成する固定部材の構造を示す図。
図4】本実施形態における観察用試料の作製を説明する図。
図5】本実施形態において作製された試料のSEM画像およびその比較例。
図6】本実施形態の試料作製装置を構成する収容部材の第1の変形例を示す図。
図7】本実施形態の試料作製装置を構成する収容部材の第2の変形例を示す図。
図8】本実施形態の試料作製装置を構成する収容部材の第3の変形例および固定部材の変形例を示す図。
図9】本実施形態の試料作製装置を構成する収容部材の第3の変形例および固定部材の変形例を示す図。
図10】従来技術における観察用試料の作製の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、実施形態をもって説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜その説明を省略するものとする。
【0016】
また、以下に説明する実施形態では、微小生物を被観察物として、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するための試料を作製する場合を例示しているが、特に実施形態を限定するものではない。したがって、微小生物以外にも、食品、植物、細胞、ゲル状物などを被観察物としてもよく、さらにその応用として、化学、製薬などの分野において適用してもよい。また、観察装置についても、SEM以外の装置であってもよい。
【0017】
図1は、本実施形態の試料作製装置10の構造を示す斜視図である。本実施形態の試料作製装置10は、収容部と固定部から構成され、図1に示すように、被観察物および水を収容する第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bと、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを固定する固定部材12およびネジ13とを具備する。なお、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを組み合わせることで、密閉された空間を形成することができる。また、図1では、固定のためのネジ13は、六角穴付きボルトが例として図示されているが、特に実施形態を限定するものではない。以下に説明する実施形態では、試料作製装置10に収容された被観察物および水をまとめて「内容物」として参照する場合がある。
【0018】
図1に示した試料作製装置10を冷却し、収容した内容物を凍結させ、割断することで、氷晶の生成を抑制した顕微鏡観察用の試料を作製することができる。以下に、図1に示した本実施形態の試料作製装置10を構成する各部について、図2および図3を以て説明する。図2は、本実施形態の試料作製装置10を構成する収容部材11の構造を示す図であり、図3は、本実施形態の試料作製装置10を構成する固定部材12の構造を示す図である。
【0019】
まず、図2の収容部材11について説明する。図2(a)は、収容部材11の投影図を示している。図2(a)上段は、収容部材11の上面図を示し、図2(a)下段は、収容部材11を図2(a)上段のA-A’線で切断した断面図を示している。また、図2(b)左図は、収容部材11の斜視図を示し、図2(b)右図は、収容部材11を切断した断面の斜視図を示している。
【0020】
図2の各図に示すように、収容部材11は、被観察物などを収容する空洞部と、空洞部の1面が開口した開口部とを具備した構造である。また、収容部材11の空洞部には、図2に示すように、収容した被観察物の位置を固定しやすくするための窪みを設けてもよい。
【0021】
本実施委形態の試料作製装置10は、2つの収容部材11a,11bの開口部を合わせて固定することで、各収容部材11a,11bの空洞部が連結し、被観察物および水を収容するための1つの閉じた空間(以下、単に「空間」として参照する)が形成される。この空間は、内容物で内部が充填され、密閉されているため、凍結時における内容物の膨張が収容部材11の内壁によって押さえ付けられ、内容物を加圧することができる。これによって、被観察物の氷晶の生成を抑制することができる。
【0022】
なお、本実施形態の試料作製装置10を構成する第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bの形状は、必ずしも同一でなくてもよく、それぞれ異なる形状で構成されてもよい。
【0023】
また、収容部材11の空洞部の大きさは、内容物を充分に凍結できる程度であれば特に限定されないが、一例として開口部の直径を8mm程度、深さを4mm程度とすることで、特許文献2や非特許文献1などの従来技術に比べて、格段に大きな被観察物であっても試料を作製することができる。
【0024】
次に、図3の固定部材12について説明する。図3(a)は、固定部材12の投影図を示している。また、図3(b)は、固定部材12の斜視図を示している。
【0025】
図3の各図に示すように、本実施形態の固定部材12は、枠型形状の部材であり、上部に貫通したネジ穴が設けられている。本実施形態の試料作製装置10は、固定部材12の枠内に、開口部を合わせた2つの収容部材11a,11bを収め、ネジ13で締めることで、各収容部材11a,11bを密閉して固定することができる(図1参照)。
【0026】
なお、固定部材12の形状は、図3に示すような枠型形状に限定されない。すなわち、固定部材12は、開口部を合わせた2つの収容部材11a,11bを、ネジ13を占めることによって上方および下方から押さえ付けられる構造であればよく、例えば、「コの字」形状の固定部材12であってもよい。
【0027】
また、説明する実施形態に係る試料作製装置10を構成する各部材は、構造がシンプルであるため、製造時における加工が容易であり、製造コストの面でも優れる。
【0028】
以上、図1~3に示した構造の試料作製装置10によって、氷晶の生成を抑制した試料を作製することができる。次に、本実施形態の試料作製装置10による凍結割断試料の作製について、図4を以て説明する。図4は、本実施形態における観察用試料の作製を説明する図である。本実施形態における試料の作製は、図4(a)~(c)の順序で行われる。
【0029】
まず、図4(a)に示すように、投入工程および固定工程を行う。すなわち、投入工程では、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bに、被観察物および水を入れ、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bの空洞部を内容物で充填する。なお、試料に不純物が混入するのを防ぐため、充填される水は、純水または超純水とすることが好ましい(説明する実施形態における「水」の用語は、純水および超純水をも含むものとする)。
【0030】
投入工程の後、固定工程では、第1の収容部材11aの開口部と、第2の収容部材11bの開口部とを合わせて、固定部材12の内部に収め、ネジ13で締めつけることで、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを固定する。これによって、図1に示したような形態の試料作製装置10が構成される。
【0031】
なお、好ましい実施形態では、図4(a)に示す投入工程および固定工程は、水中で行うこととしてもよい。これによって、試料作製装置10の密閉された空間に空気が入らず、空間内部が水で充填されるため、膨張による加圧を効果的に行うことができる。
【0032】
また、密閉された空間の気密性を向上させるために、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを固定する際に、各収容部材11の間には、ガスケットを挿入してもよい。ガスケットの材料には、特に制限はないが、例えば感圧紙や銅などとすることができる。印加された圧力に応じて着色される感圧紙(例えば、富士フィルム社製「プレスケール(登録商標)」など)をガスケットに用いることで、固定工程において第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bが適当な圧力で固定されていることを視覚的に把握することができる。また、銅製のガスケットを挿入することで、後述する冷却工程における熱伝導を向上でき、効率的な冷却を行うことができる。特に銅製のガスケットを挿入した場合には、感圧紙を用いた場合に比べて、氷晶の生成がより効果的に抑制されていることが確認された。
【0033】
投入工程および固定工程のあと、図4(b)に示すように冷却工程を行い、試料作製装置10の内容物を凍結させる。図4(b)は、試料作製装置10の第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを拡大した断面図である。図4(b)に示すように、試料作製装置10の密閉された空間は、内容物で充填され、内部が満たされている。したがって、試料作製装置10が冷却されて、内容物が凍結されると、凍結に伴う内容物の膨張によって、内部が加圧される。これによって、氷晶の生成を抑制することができる。
【0034】
なお、冷却工程における試料作製装置10を冷却する方法は、特に限定されず、種々の方法を採用することができる。冷却方法の一例として、試料作製装置10を液体窒素に浸漬する方法が挙げられるが、液体窒素以外の冷却材料を用いてもよい。
【0035】
冷却工程によって内容物を凍結させたあと、図4(c)に示す割断工程を行う。割断工程では、試料作製装置10の固定を外し、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを分離する。また、凍結によって膨張した氷は、収容部の内壁に押さえられているため、割断工程では、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを把持し、連結部分を折るようにして分離させることで、凍結した被観察物が割断され、割断面を露出させることができる。なお、各収容部材11を分離しやするするために、連結部分に刃を入れ、氷に切れ目を入れてから割断してもよい。割断工程によって露出した割断面は、顕微鏡観察における観察面となる。その後、被測定物を真空乾燥させ、オスミウムコーティングを行うことで、SEM観察用試料として完成し、SEMによる観察を行うことができる。
【0036】
図4において説明した各工程によって、水分を含む被観察物であっても、氷晶の生成によるダメージを抑制して観察用試料を作製することができる。また、図10に示した従来技術などでは、1mm以下(0.06ミリリットル程度)の小さな被観察物の試料しか作製できなかったが、本実施形態の試料作製では、0.4ミリリットル以上の比較的大きな被観察物であっても観察用試料を作製することができる。さらに、本実施形態における試料作製の冷却工程では、図10に示した従来技術などよりも遅い冷却速度であっても、氷晶の生成を抑制することができる。
【0037】
図5は、本実施形態において作製された試料のSEM画像およびその比較例である。図5における試料は、2%寒天ゲルを被観察物として凍結し割断したものである。図5(A)および(a-1)~(a-3)は、2%寒天ゲルを本実施形態の方法で凍結し、割断して作製された試料を、SEMで観察した画像である。また、図5(B)および(b-1)~(b-3)は、本実施形態との比較例であり、2%寒天ゲルを液体窒素に浸漬させ、SEMで観察した画像である。
【0038】
まず、図5(A)および(a-1)~(a-3)について説明する。図5(A)は、本実施形態の方法によって作製された試料全体のSEM画像である。また、図5(a-1)~(a-3)は、それぞれ図5(A)中の1~3の位置を拡大したSEM画像である。図5(a-1)は、試料の外側近傍のSEM画像であり、わずかに寒天の網目構造がダメージを受けていることが観察された。図5(a-2)は、試料表面から1mm程度内側の部分のSEM画像であり、寒天特有の良好な網目構造が観察された。また、図5(a-3)は、試料の中央付近のSEM画像であり、寒天特有の良好な網目構造が観察された。すなわち、本実施形態の方法によって作製された試料のいずれの部位においても、寒天に特有の網目構造が観察され、特に、図5(a-2)および(a-3)では、良好な網目構造が観察されたことから、本実施形態の方法によって、凍結時における氷晶の生成が抑制されていることが確認された。
【0039】
次に、図5(B)および(b-1)~(b-3)について説明する。図5(B)は、2%寒天ゲルを液体窒素に浸漬させることで作製された試料のSEM画像である。また、図5(b-1)~(b-3)は、それぞれ図5(B)中の1~3の位置を拡大したSEM画像であり、図5(b-1)は、試料の外側近傍を、図5(b-2)は、試料表面から1mm程度内側の部分を、図5(a-3)は、試料の中央付近を、それぞれ示している。図5(b-1)、(b-2)に示すように、2%寒天ゲルを液体窒素に浸漬させて作製した試料の外周に近い部位は、氷晶の生成による被観察物へのダメージが確認された。また、図5(b-3)に示すように、試料の中央付近では、寒天の網目構造がみられるが、網目が比較的大きいことから、氷晶の生成が認められ、被観察物へのダメージが確認された。
【0040】
図5に示したように、本実施形態の方法で作製した試料は、寒天特有の網目構造が確認され、氷晶の生成が抑制されていることを確認した。したがって、本実施形態の方法によって、水分の含有量が多い被観察物であっても、氷晶の生成を抑制して試料を作製できたことが確認できた。
【0041】
ここまでに説明した実施形態では、図2に例示した形状の収容部材11で以て説明した。しかしながら、収容部材11の形状は、図2に示したものに限定されず、例えば、以下に示す各変形例のような形状であってもよい。
【0042】
まず、第1の変形例について説明する。図6は、本実施形態の試料作製装置10を構成する収容部材11の第1の変形例を示す図である。図6(a)は、収容部材11の第1の変形例の上面投影図および側面断面の投影図であり、図6(b)は、斜視図および断面斜視図である。図6に示すように、第1の変形例における収容部材11は、空洞部が開口部に向かって狭くなる形状である。このような形状とすることで、第1の収容部材11aの開口部と、第2の収容部材11bの開口部とが連結する面積が小さくなることから、各収容部材11を分離しやすくでき、割断工程を容易に行うことができる。
【0043】
次に、第2の変形例について説明する。図7は、本実施形態の試料作製装置10を構成する収容部材11の第2の変形例を示す図である。図7(a)は、収容部材11の第2の変形例の上面投影図および側面断面の投影図であり、図7(b)は、第2の変形例に係る収容部材11によって構成される試料作製装置10の斜視図である。図7に示す第2の変形例に係る収容部材11は、本実施形態の収容部と固定部とを一体として構成された形状である。
【0044】
図7(a)に示すように、第2の変形例の収容部材11は、図2などで説明した空洞部および開口部を備え、さらに、開口部の開口面にフランジ部を具備する。フランジ部には、同一円周上に等配された穴が設けられている。フランジ部は、固定部材12に相当する機能を有し、固定工程においてネジ留めされることで、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bを固定することができる。なお、フランジ部の穴の位置や数は、図7に示したものに限定されず、任意とすることができる。また、フランジ部の穴は、タッピング処理されたネジ穴であってもよい。
【0045】
第2の変形例に係る収容部材11は、図7(b)左図のように組み合わせることで、試料作製装置10を構成する。すなわち、フランジ部付きの収容部材11を、第1の収容部材11aおよび第2の収容部材11bとして、開口部およびフランジ部の穴を合わせ、ネジ13およびナット13aで固定する。これによって、図7(b)右図のような形態の試料作製装置10とすることができる。第2の変形例に係る収容部材11を用いることで、固定部材12が不要な試料作製装置10とすることができる。
【0046】
次に第3の変形例について説明する。図8および図9は、本実施形態の試料作製装置10を構成する収容部材11の第3の変形例および固定部材12の変形例を示す図である。
【0047】
収容部材11の第3の変形例は、図8(a)および(b)に示すように、台1の収容部材11aと第2の収容部材11bとで異なる形状である。すなわち、第1の収容部材11aは、図2に示した収容部材11と同様の形状である。なお、第1の収容部材11aには、図8(a)に示すように、後述するようにピン14を挿入するための穴を設けることが好ましい。また、第2の収容部材11bは、図8(b)に示すように、図2に示した収容部材11にテーパ状の穴が設けられており、開口部からテーパ部まで貫通した形状である。なお、固定部材12は、図8(c)に示すように、図3に示したものと同様の形状であるが、図8(a)に示した収容部材11aのピン挿入穴に対応する穴が設けられていてもよい。
【0048】
上述した各収容部材11および固定部材12を用いた試料作製装置10は、図9(a)に示すように構成される。図9(a)は、図8に示した各部材を用いた試料作製装置10における、投入工程・固定工程を示している。ここで、収容部材11および固定部材12を固定するためのネジは、図9(a)に示すように、先端にテーパ形状を有するネジ13’(以下、「テーパ付きネジ13’」として参照する)を用いる。テーパ付きネジ13’は、先端部のテーパ形状が第2の収容部材11bのテーパ部に対応する形状であり、固定工程において、テーパ付きネジ13’のテーパ部と、第2の収容部材11bのテーパ部分とが密着する。
【0049】
図9(b)は、試料作製装置10の断面図である。なお、図9(b)では、被観察物や水などが省略して図示されている点に留意されたい。図9(b)に示すように、テーパ付きネジ13’を用いることによって、収容部材11aおよび11bを固定するとともに、空間を密閉することができ、冷却工程における加圧を可能とする。また、第1の収容部材11aと、固定部材12とにピン14を挿入することで、各部材のズレを防止することができる。
【0050】
図8および図9に示した形態の試料作製装置10を用いることによって、各工程の作業性を向上することができる。
【0051】
以上に説明した本発明の実施形態によれば、氷晶の生成を抑制する試料作製方法、凍結加圧装置および観察方法を提供することができる。また、本実施形態は、簡易な構成で以て氷晶の生成を抑制できることから、コスト低減にも寄与し得る。さらに、従来技術よりも格段に大きな試料を作製することができる。
【0052】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。また、説明した実施形態に係る試料作製装置は、観察用試料を作製するための用途に供されるものに限定されず、水の凍結によって内容物を加圧するため装置などであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…試料作製装置、
11…収容部材、
12…固定部材、
13…ネジ、
13’…テーパ付きネジ、
13a…ナット、
14…ピン、
50…平板型試料作製装置、
51…平板型収容部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2013-253957号公報
【特許文献2】特開2014-25732号公報
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】太田裕彦 et al. (2011):冷却水を使用した新しいSEM試料作製用凍結乾燥法.医学生物学電子顕微鏡技術学会誌,25(1):9-13.
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