(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022850
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】反応器及びそれを用いたアンモニア分解混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 8/02 20060101AFI20230209BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230209BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20230209BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20230209BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230209BHJP
B01J 8/04 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B01J8/02 E
B01J35/02 E
B01J35/02 G
B01J23/46 301M
B01J23/755 M
C01B3/04 B
B01J8/02 F
B01J8/04 311A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127870
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】岡島 聡
【テーマコード(参考)】
4G070
4G169
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB02
4G070CA01
4G070CA06
4G070CA25
4G070CB15
4G070CC03
4G070CC11
4G070DA30
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA15
4G169EC22X
(57)【要約】
【課題】吸熱反応を行っても温度ムラが生じにくく、圧力損失が小さく、保守作業が容易なラジアルフロー式の反応器、及びそれを用いたアンモニア分解混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る反応器は、いわゆるラジアルフロー式反応器であって、直立して配置される円筒状の反応容器と、前記反応容器の内部において化学反応を行う反応領域とを有し、前記反応領域には、通電により発熱するヒーター部と、前記ヒーター部により加熱可能に配置された触媒とを有する触媒部材が、前記反応容器の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直立して配置される円筒状の反応容器と、
前記反応容器の内部において化学反応を行う反応領域と
を有し、
前記反応領域には、通電により発熱するヒーター部と、前記ヒーター部により加熱可能に配置された触媒とを有する触媒部材が、前記反応容器の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されており、
前記反応容器は、
前記反応容器の軸方向に垂直な断面において前記反応領域より外側に形成された、前記反応容器の外部と連通している外側流路と、
前記反応容器の軸方向に垂直な断面において前記反応領域より中央側に形成された、前記反応容器の外部と連通している中央側流路と、
前記反応領域と前記外側流路を区切るとともに、流体が流通可能な外側流路壁と、
前記反応領域と前記中央側流路を区切るとともに、流体が流通可能な中央側流路壁と
を有する
反応器。
【請求項2】
前記触媒部材は、
前記ヒーター部としてのワイヤー状の電熱線と、前記電熱線の表面に配置された、前記触媒を含有する触媒層とを有する触媒担持ワイヤー
により形成されている
請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記触媒担持ワイヤーは、らせん状又はメッシュ状に捲かれている
請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
前記触媒層は、担体と、前記担体に担持された触媒とを有する
請求項2又は3に記載の反応器。
【請求項5】
前記担体は、γアルミナである
請求項4に記載の反応器。
【請求項6】
前記触媒は、ルテニウム又はニッケルである
請求項1~5のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項7】
前記反応領域には、前記触媒部材の複数が、前記反応容器の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されている
請求項1~6のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項8】
前記触媒部材の複数への通電量は、独立して制御可能である
請求項7に記載の反応器。
【請求項9】
前記外側流路壁には、前記流体が流通可能な穴又はスリットが形成されている
請求項1~8のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項10】
前記中央側流路壁には、前記流体が流通可能な穴又はスリットが形成されている
請求項1~9のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項11】
アンモニアの分解反応を行うための反応器である
請求項1~10のいずれか1項に記載の反応器。
【請求項12】
請求項11に記載の反応器を用いて、アンモニアの分解反応によるアンモニア分解混合物を製造する方法であって、
前記アンモニアを前記中央側流路から前記反応領域に導入する工程と、
前記ヒーター部に通電して前記触媒を加熱する工程と、
前記反応領域にて前記アンモニアの分解反応を行って、アンモニア分解混合物を生成させる工程と、
前記アンモニア分解混合物を前記反応領域から前記外側流路に排出する工程と
を有する
アンモニア分解混合物の製造方法。
【請求項13】
前記ヒーター部の温度は、350~700℃である
請求項11に記載のアンモニア分解混合物の製造方法。
【請求項14】
前記反応領域の圧力は、0~0.9MPaGである
請求項12又は13に記載のアンモニア分解混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解反応などに好適な反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア分解反応は、反応の進行とともに気体の分子数が増加する反応であり、反応圧力が低いほうが平衡上反応は進行する。一方、圧力が低いほど体積流量は増加し必要な反応器容積は増大するとともに、後段の分離や精製工程に必要な圧力を考慮すると、一概に低圧であればよいとは言えない。
【0003】
例えばメタノール合成反応は、逆に反応の進行とともに分子数が減少する反応であり、反応圧力が高いほうが平衡反応上有利である。この反応には、ラジアルフロー式反応器を用いることで通常の円筒型反応器に比べて低い圧力損失で、冷却管を適切に配置することで、反応器内の温度分布を最適化することで転化率の向上を図っている。
【0004】
特許文献1には、殻と冷却管で構成されるシェルアンドチューブ式熱交換器からなる反応器が記載されている。より詳細には、この反応器は、直立円筒と直立円筒の上部を閉じる外に凸の曲面をなす上部管板と直立円筒の下部を閉じる外に凸の曲面をなす下部管板からなる殻と、直立円筒の大部分の内周に面して設けられた円筒状の通気性壁であって上下端で直立円筒に結合されたものと、これと直立円筒の間の外周空間と殻外とを連通させる少なくとも1つ与えられた外周開口と直立円筒の中心に配された中心管であって上端は閉じられており、通気性円筒壁に略対応する範囲に多数の孔が与えられて通気性とされ、下端は下部管板及び後記下ヘッダカバーを貫いて殻外に下端開口で開口しているものと、上下両端が夫々上部管板と下部管板とに結合され殻外に連通して開口する多数の冷却管とを持ち、触媒は、少なくとも通気性内壁の通気性部位に対応して殻内に充填されている。
【0005】
特許文献2には、直立して配置される筒状の反応容器内に、粒状充填物の連続した充填層を収容する領域である充填領域と、反応容器の軸方向に垂直な断面において充填領域の外側と内側にそれぞれ配された、流体が軸方向に流通可能な外側流路および内側流路とを含み、充填領域と外側流路との間で流体が流通可能、かつ充填領域と内側流路との間で流体が流通可能に構成された反応器が記載されている。この反応器は、充填領域の内側の縁との間に粒状充填物が通過可能な隙間をもって充填領域を軸方向に区画する仕切り板と、外側流路における軸方向の流体の流通を遮断する閉塞部と、を含む外仕切り構造、および、充填領域の外側の縁との間に粒状充填物が通過可能な隙間をもって充填領域を軸方向に区画する仕切り板と、内側流路における軸方向の流体の流通を遮断する閉塞部と、を含む内側仕切り構造のうちの少なくとも一つの仕切り構造を含む。このような反応器は、非特許文献1に記載されるように、MRF-Z(登録商標)反応器として実用化されている。
【0006】
一方、特許文献3には、被処理流体の化学反応を促進させる触媒を用いた触媒反応システムが記載されている。この触媒反応システムでは、前記被処理流体が流れるチャンバーと、前記被処理流体と接触可能に前記チャンバー内に配される触媒部材と、前記触媒部材に電力を供給する制御装置とを含み、前記触媒部材は、前記被処理流体の流れ方向に沿って多段に配された複数の触媒体を有し、前記各触媒体は、通電により発熱するヒーター部と、前記ヒーター部の表面に配された触媒物質を担持した担体とを有し、前記制御装置は、前記各触媒体の温度を互いに独立して制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-180827号公報
【特許文献2】特開2011-206648号公報
【特許文献3】特開2015-98408号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】https://www.toyo-eng.com/jp/ja/products/petrochmical/methanol/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アンモニア分解反応においても、特許文献1~2のようなラジアルフロー式反応器を用いることで通常の円筒型反応器などの触媒充填層よりも圧力損失を低くし、入熱量を制御することで反応器内の反応を最適化することができると考えられる。さらに、メタノール合成反応とは逆に、流れを内から外に流通させることで、反応器を流通するにつれて流速が減少し、動圧が減少することで分解反応が平衡上有利に作用することも考えられる。
【0010】
しかし、特許文献1~2の反応器を用いてアンモニア分解反応を行う際には、アンモニアの分解反応が吸熱反応であることから、外部の加熱炉や熱交換器でアンモニアを加熱した上で供給する必要があった。それでも、反応器内の流体の流れによっては温度ムラが生じ、効率が低下することがあった。さらに、反応器内の流体の流れを制御できたとしても、上流側と下流側で温度差が生じることから、反応器内全体の反応温度を制御しようとすると、場所によっては過剰に加熱することとなり、触媒の劣化を早める結果となる。特許文献3の反応器であれば、反応器内の上流側と下流側で異なる温度に制御することは可能であるが、触媒層の圧力損失が大きく、さらに触媒層ごとに必要な電線や温度センサーが反応器側面に配置されることでこれらの交換等の保守作業が困難になることが予想され、特に大型化は困難と考えられた。
【0011】
そこで、本発明は、吸熱反応を行っても温度ムラが生じにくく、圧力損失が小さく、保守作業が容易なラジアルフロー式の反応器、及びそれを用いたアンモニア分解混合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、直立して配置される円筒状の反応容器と、
前記反応容器の内部において化学反応を行う反応領域と
を有し、
前記反応領域には、通電により発熱するヒーター部と、前記ヒーター部により加熱可能に配置された触媒とを有する触媒部材が、前記反応容器の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されており、
前記反応容器は、
前記反応容器の軸方向に垂直な断面において前記反応領域より外側に形成された、前記反応容器の外部と連通している外側流路と、
前記反応容器の軸方向に垂直な断面において前記反応領域より中央側に形成された、前記反応容器の外部と連通している中央側流路と、
前記反応領域と前記外側流路を区切るとともに、流体が流通可能な外側流路壁と、
前記反応領域と前記中央側流路を区切るとともに、流体が流通可能な中央側流路壁と
を有する
反応器である。
【0013】
また、本発明は、前記の反応器を用いて、アンモニアの分解反応によるアンモニア分解混合物を製造する方法であって、
前記アンモニアを前記中央側流路から導入する工程と、
前記ヒーター部に通電して前記触媒を加熱する工程と、
前記反応領域にて前記アンモニアの分解反応を行って、アンモニア分解混合物を生成させる工程と、
前記アンモニア分解混合物を前記外側流路から排出する工程と
を有する
アンモニア分解混合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸熱反応を行っても温度ムラが生じにくく、圧力損失が小さく、保守作業が容易なラジアルフロー式の反応器、及びそれを用いたアンモニア分解混合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る反応器の構成例を示す模式的縦断面図である。
【
図2】本発明に係る反応器の構成例を示す模式的横断面図である。
【
図3】外側流路壁又は中央側流路壁の表面構造を示す模式図であり、(a)では表面に穴が形成されており、(b)では表面にスリットが形成されている。
【
図4】触媒担持ワイヤーの構成例を示す模式的斜視図である。
【
図5】触媒担持ワイヤーを用いた触媒部材の構成例を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る反応器の構成例を
図1(縦断面図)及び
図2(横断面図)に示す。本発明に係る反応器1は、いわゆるラジアルフロー式反応器であって、直立して配置される少なくとも中央部が円筒状の反応容器2と、反応容器2の内部において化学反応を行う反応領域10とを有している。反応容器2の内部には、円筒状の反応容器2の軸方向に垂直な断面において、反応領域10より外側に形成された外側流路20と、反応領域10より中央側に形成された中央側流路30とが形成されている。
【0017】
反応領域10と外側流路20の境界には、外側流路壁22が配置されている。すなわち、外側流路壁22が反応領域10と外側流路20を区切っており、反応容器2の軸方向に垂直な断面において外側流路壁22の外側の領域が外側流路20となる。外側流路壁22には、例えば
図3に示すように、外側流路壁22の表裏面を貫通する、流体が流通可能な穴23又はスリット24が形成されており、反応領域10から外側流路20に、又は外側流路20から反応領域10に、流体が流通可能となっている。
【0018】
外側流路壁22は、例えば円筒状をなしており、反応容器2の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されている。例えば
図1に示すように、外側流路壁22の下部は反応容器2の下部と接続されており、外側流路壁22の上部は円盤状の上プレート12の外縁と接続されている。外側流路壁22により区切られる外側流路20は、円筒状の反応容器2内の外縁に形成されることから、「アウターシェル」又は「アウターバスケット」と呼ばれることもある。そして、外側流路壁22の外側に形成された外側流路20は、例えば
図1に示すように、反応容器2の上部に形成された外側流路用連通路21を通じて、反応容器2の外部と連通している。
【0019】
反応領域10と中央側流路30の境界には、中央側流路壁32が配置されている。すなわち、中央側流路壁32が反応領域10と中央側流路30を区切っており、反応容器2の軸方向に垂直な断面において中央側流路壁32の中央側(内側)の領域が中央側流路30となる。中央側流路壁32には、例えば
図3に示すように、中央側流路壁32の表裏面を貫通する、流体が流通可能な穴33又はスリット34が形成されており、反応領域10から中央側流路30に、又は中央側流路30から反応領域10に、流体が流通可能となっている。
【0020】
中央側流路壁32は、例えばパイプ状をなしており、反応容器2の中心軸に沿って配されている。例えば
図1に示すように、中央側流路壁32の上部は閉じられており、中央側流路壁32の下部は反応容器2を突き抜けている。中央側流路壁32により区切られる中央側流路30は、円筒状の反応容器2内の中央部にパイプ状に形成されることから、「センターパイプ」と呼ばれることもある。そして、中央側流路壁32の中央側(内側)に形成された中央側流路30は、例えば
図1に示すように、反応容器2の下部を突き抜けたパイプ状の中央側流路壁32の下端である中央側流路用連通路31を通じて、反応容器2の外部と連通している。
【0021】
以上のような反応器1であれば、反応容器2に導入された流体(反応原料)が、反応容器2の軸方向に垂直な断面において半径方向に流れることで、反応領域10において反応原料の少なくとも一部を反応させることができる。より具体的には、中央側流路用連通路31から反応容器2内に供給された流体(反応原料)は、中央側流路30を流れ、中央側流路壁32を通過して、反応領域10に導入される。そして、流体(反応原料)の少なくとも一部が反応領域10で反応した後、流体(反応混合物)は、外側流路壁22を通過して、外側流路20を流れ、外側流路用連通路21から外部に排出される。あるいは、外側流路用連通路21から反応容器2内に供給された流体(反応原料)は、外側流路20を流れ、外側流路壁22を通過して、反応領域10に導入される。そして、流体(反応原料)の少なくとも一部が反応領域10で反応した後、流体(反応混合物)は、中央側流路壁32を通過して、中央側流路30を流れ、中央側流路用連通路31から外部に排出される。
【0022】
反応領域10には、通常、反応原料を反応させる触媒が配置される。一般的なラジアルフロー式反応器では、反応領域10に粒状の触媒が充填されることが多い。しかし、例えば、吸熱反応を行う場合は、反応の進行とともに温度が下がってしまうことから、反応領域10の温度を維持する必要がある。これまでは、反応原料を導入する前に加熱炉や熱交換器で加熱する方法や、反応領域10にチューブ型の配管を通して、その配管内に熱媒体を流して反応領域10を加熱する方法が採られているが、反応領域10内に温度ムラが生じやすく、効率が低下してしまうことがあった。また、流体が反応容器2の軸方向に垂直な断面において半径方向に流れながら反応が進行することから、反応領域10の半径方向の位置によって反応原料の濃度が異なり、最適な温度が異なる場合もある。さらに、一般には加熱源として蒸気や燃焼排ガス等の熱媒体を用いるが、これらは主に化石燃料の燃焼によって発生するため二酸化炭素を排出する。電気で熱媒体を発生させることもあるが、間接的な加熱になるため効率は低い。
【0023】
そこで、本発明の反応器1の反応領域10には、通電により発熱するヒーター部により触媒を加熱することが可能な触媒部材11が、反応容器2の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されている。こうすることで、ヒーダー部に通電させることで触媒を直接加熱することができるため、反応開始や反応停止が早く、温度ムラが生じにくく、従来の触媒充填層反応器に比べて圧力損失が小さく、さらに反応に最適な温度分布を与えることができる。触媒部材11は、反応容器2の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されることから、筒状に形成されていることが好ましい。筒状の触媒部材11は、反応領域1の底に直接、又は底部に設置された底プレート13上に配置することができる。さらに、加熱源の電気を再生可能エネルギー由来の電力を用いることで、二酸化炭素発生を抑制できる。
【0024】
触媒部材11としては、通電により発熱するヒーター部と、ヒーター部により加熱可能に配置された触媒とを有するものであればよいが、例えば
図4に示すように、ヒーター部としてのワイヤー状の電熱線41と、電熱線41の表面に配置された、触媒を含有する触媒層42とを有する触媒担持ワイヤー40により形成することができる。ワイヤー状の電熱線41は、1本のワイヤーからなるものでもよく、複数本のワイヤーを束ねたものでもよい。触媒層42は、例えば、担体と、担体に担持された触媒とを有することができる。
【0025】
ヒーター部(例えば電熱線41)を構成する材料としては、通電により所定の温度に自己発熱可能な電気的特性を持つ材料が好適であり、例えば、銅、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、コバルト、バナジウム、ニオブ、クロム、チタン、アルミニウム、シリコン、モリブデン、タングステン及び鉄のグループから選択される少なくとも1種の金属又はその合金から選択される。
【0026】
担体としては、触媒を担持することが可能な材料から適宜選択すればよいが、例えば、酸化ケイ素(SiO2、シリカ)、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化チタン(TiO2、チタニア)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化セシウム(Cs2O)、酸化プラセオジウム(Pr6O11)、酸化ランタン(La2O3)、活性炭などが挙げられ、これらを含む複合材料を用いることもできる。なかでも、アルミナが好ましく、γ-アルミナが製作上より好ましい。
【0027】
担体に担持させる触媒は、反応領域10で行う反応の進行を促進する触媒を適宜選択すればよいが、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられ、これらを含む複合材料を用いることもできる。なかでも、ルテニウム又はニッケルが好ましい。
【0028】
触媒担持ワイヤー40を用いた筒状の触媒部材11は、例えば
図5に示すように、触媒担持ワイヤー40をらせん状又はメッシュ状(複数のらせん状)に捲いて全体としてドーナッツ形状とし、それを多段階に積み上げて、各々の触媒担持ワイヤー40の端部40aを接続することで、形成することができる。触媒担持ワイヤー40をらせん状又はメッシュ状に捲きながら、全体としてもらせん状又はメッシュ状に捲き上げることで、筒状の触媒部材11としてもよい。
【0029】
また、
図1及び
図2に示すように、反応領域10には、複数の触媒部材11(11a、11b、11c)が、反応容器2の軸方向に垂直な断面において同心円状に配されていてもよい。そして、その複数の触媒部材11(11a、11b、11c)への通電量を独立して制御可能とすることで、反応領域10の半径方向の位置によって、それぞれの触媒を最適な温度に制御することも可能となる。反応領域10に配置される触媒部材11の数は、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。そして、触媒部材11へ通電するための電線(不図示)や、触媒部材11の温度を検知する温度センサー(不図示)を、反応器1の底部又は頂部に集中的に配置することで、触媒部材、電線、及び温度センサーの点検や交換が容易となる。
【0030】
本発明の反応器1で行う反応としては、例えば、アンモニアの分解反応、炭化水素の水蒸気改質反応、メタノールの分解反応、有機ハイドライドの脱水素反応など、ガス相の吸熱分解反応、特に水素を製造する反応が挙げられる。なかでも、アンモニアの分解反応に好適である。これらの反応は吸熱反応であり、温度ムラの少ない加熱及び温度コントロールが非常に重要であることから、本発明の反応器1を用いることが適している。
【0031】
ここで、本発明の反応器1を用いたアンモニア分解反応(アンモニア分解混合物の製造)の実施形態について説明する。アンモニア分解反応は、ルテニウム又はニッケル触媒の存在下、以下の反応式で進行する。
2NH3→N2+3H2
この反応は吸熱反応であることから、効率よく反応を進行させるためには温度ムラの少ない加熱及び温度コントロールが非常に重要である。また、反応の進行とともに気体の分子数が増加する反応である。
【0032】
そのような観点から、本発明の反応器1を用いてアンモニアの分解反応を行うに際しては、アンモニアを中央側流路30から導入し、アンモニア分解混合物を外側流路20に排出することが好ましい。こうすることで、反応領域10の中央側から外側に向かって反応原料が移動するため、反応が進行するにつれて流速が減少し動圧が減少することで反応平衡上有利になると考えられる。
【0033】
より具体的には、まず、反応原料であるアンモニアを中央側流路用連通路31から中央側流路30に導入する。中央側流路30に導入されたアンモニアは、中央側流路30内を流れ、中央側流路30から中央側流路壁32を通過して反応領域10に導入される。反応領域10に設置された触媒部材11の触媒は、触媒部材11のヒーター部を通電することで加熱される。こうすることで、反応領域10に導入されたアンモニアの分解反応が起きて、アンモニア分解混合物が生成する。反応領域10で生成したアンモニア分解混合物は、反応領域10から外側流路壁22を通過して外側流路20に排出され、外側流路20内を流れ、外側流路用連通路21から外部に排出される。
【0034】
触媒部材11のヒーター部の温度は、アンモニアの濃度や触媒の種類等に応じて設定すればよいが、350~700℃であることが好ましく、400~650℃であることがより好ましい。反応領域10の圧力は、アンモニアの濃度や触媒の種類等に応じて設定すればよいが、0~0.9MPaGであることが好ましい。
【符号の説明】
【0035】
1 反応器
2 反応容器
10 反応領域
11 触媒部材
12 上プレート
13 底プレート
20 外側流路
21 外側流路用連通路
22 外側流路壁
23 穴
24 スリット
30 中央側流路
31 中央側流路用連通路
32 中央側流路壁
33 穴
34 スリット
40 触媒担持ワイヤー
40a 端部
41 電熱線
42 触媒層