(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022881
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】計測装置及び、計測方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20230209BHJP
G01L 5/1627 20200101ALI20230209BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01L5/00 A
G01L5/1627
G01L1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127936
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】畑 浩二
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA06
2F051AB09
2F051DA03
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で、地盤や岩盤の応力を効率的に計測する。
【解決手段】複数のロードセル20を含むセンサ部11Aと、センサ部11Aを挿入するための挿入ロッド16と、複数のロードセル20によって検出される応力値に基づいて主応力を演算する応力演算部30とを備えており、複数のロードセル20は、互いに異なる任意の6方向の応力値を検出するように配置されており、応力演算部30は、複数のロードセル20によって検出される6方向の応力値に基づいて、主応力を演算する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤又は岩盤に削孔した孔に挿入されるとともに、前記孔の表面に固定される複数のロードセルを含むセンサ部と、
前記センサ部を前記孔に挿入して前記複数のロードセルを前記孔の表面に固定するための挿入ロッドと、
前記複数のロードセルによって検出される応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤の内部の主応力を演算する応力演算部と、を備えており、
前記複数のロードセルは、互いに異なる任意の6方向の応力値を検出するように配置されており、前記応力演算部は、前記複数のロードセルによって検出される前記6方向の応力値に基づいて、前記主応力を演算する
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記複数のロードセルは、
互いに直交する3軸をX軸、Y軸及び、Z軸と仮定し、X軸,Y軸,Z軸に沿った正方向をそれぞれ+X軸方向,+Y軸方向,+Z軸方向とし、X軸,Y軸,Z軸に沿った負方向をそれぞれ-X軸方向,-Y軸方向,-Z軸方向としたとき、
YZ面に垂直な+X軸方向又は-X軸方向の応力値を検出する第1ロードセルと、
ZX面に垂直な+Y軸方向又は-Y軸方向の応力値を検出する第2ロードセルと、
XY面に垂直な+Z軸方向又は-Z軸方向の応力値を検出する第3ロードセルと、
XY面を前記3軸の交点からX軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第4ロードセルと、
ZX面を前記3軸の交点からZ軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第5ロードセルと、
YZ面を前記3軸の交点からY軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第6ロードセルと、を有する
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記孔の孔底に半球孔を削孔するための半球状ビットをさらに備えており、
前記センサ部は、
前記挿入ロッドの先端に取り付けられるとともに、前記半球状ビットよりも小径の半球状又は球状の球殻を有しており、
前記球殻の球中心が前記3軸の交点と一致するように、前記複数のロードセルを前記球殻の表面に配置しており、
前記挿入ロッドによって前記球殻を前記半球孔に挿入することにより、前記複数のロードセルが前記半球孔の表面にそれぞれ固定される
請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記センサ部は、
前記挿入ロッドの先端に取り付けられる主ロッドと、
前記主ロッドの先端を前記3軸の交点とし、前記交点から+X軸方向又は-X軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第1ロードセルが取り付けられる第1支持ロッドと、
前記交点から+Y軸方向又は-Y軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第2ロードセルが取り付けられる第2支持ロッドと、
前記交点から+Z軸方向又は-Z軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第3ロードセルが取り付けられる第3支持ロッドと、
XY面を前記交点からX軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第4ロードセルが取り付けられる第4支持ロッドと、
ZX面を前記交点からZ軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第5ロードセルが取り付けられる第5支持ロッドと、
YZ面を前記交点からY軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第6ロードセルが取り付けられる第6支持ロッドと、を有する
請求項2に記載の計測装置。
【請求項5】
前記複数のロードセルが、圧縮引張型のロードセルである
請求項1から4の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記センサ部の周囲の地盤又は岩盤をオーバーコアリングするための円筒状ビットをさらに備えており、
前記演算部は、前記円筒状ビットによりオーバーコアリングを行った際に前記複数のロードセルが検出する応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤に発生する初期応力を演算する
請求項1から5の何れか一項に記載の計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載の計測装置を用いた初期応力の計測方法であって、
削孔装置を用いて地盤又は岩盤に前記孔を削孔する工程と、
前記挿入ロッドを用いて前記センサ部を前記孔に挿入して前記複数のロードセルを前記孔の表面に固定する工程と、
前記センサ部を設置した前記孔の周囲の地盤又は岩盤を、前記円筒状ビットを用いてオーバーコアリングする工程と、
前記オーバーコアリングを行った際に前記複数のロードセルが検出する応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤に発生する初期応力を演算する工程と、を有する
ことを特徴とする計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測装置及び、計測方法に関し、特に、地盤や岩盤の初期地圧(初期応力)の計測に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事等において、岩盤に空洞を構築するにあたっては、空洞形成に伴う周辺岩盤への影響を評価する必要がある。空洞形成による影響の評価は、例えば、岩盤の変位や初期応力などを計測することにより行われる。初期応力を計測する従来技術としては、円錐孔底ひずみ法や水圧破砕法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
円錐孔底ひずみ法は、まず、計測対象の地盤等に削孔装置を用いて挿入孔を削孔し、該挿入孔の孔底に円錐ビットを用いて円錐孔を加工する。円錐孔を加工したならば、ボアホールカメラを用いて孔底観察を行い、亀裂等が発見されなければ、円錐孔の孔底面を研磨して清掃する。円錐孔を清掃したならば、表面に複数のひずみゲージを備えるストレインセルを円錐孔の孔底面に接着剤等で固定する。接着剤が硬化したならば、ストレインセルの周囲の岩盤をオーバーコアリングして解放ひずみを測定する。解放ひずみを測定したならば、コアを回収し、室内試験(一軸繰返し載荷重試験)によりヤング率及びポアソン比を測定する。室内試験の測定値を用い、計測対象の地盤や岩盤が等方均質の線形弾性体であると仮定し、境界要素法や有限要素法などの数値解析に基づいてひずみ感度係数を求める。そして、求めたひずみ感度係数及び、解放ひずみの測定値から最小二乗法により初期応力を算出する。
【0004】
一方、水圧破砕法は、計測対象の地盤等に削孔装置を用いてボーリング孔を削孔する。ボーリング孔を削孔したならば、ボーリング孔の所定区間をパッカーで塞栓する。パッカーで塞栓した区間に高圧ポンプを用いて水圧を与えることにより亀裂を発生させるとともに、水圧と亀裂との関係に基づいて初期応力を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-069937号公報
【特許文献2】特開平10-220160公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記円錐孔底ひずみ法では、ひずみゲージを円錐孔の孔底面に固定して解放ひずみを測定することから、ひずみゲージを固定した範囲における地盤や岩盤の変形が測定対象となる。このため、微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を大きく受けやすく、ボアホールカメラを用いた孔底観察により亀裂の有無を入念に確認する必要がある。また、オーバーコアリング後は、コアを回収して室内試験を実施することにより、ポアソン比及びヤング率を測定する必要もある。このため、測定や室内試験に多くの工数が必要となり、初期応力を求めるまでに多大な労力や手間、時間が掛かるといった課題がある。
【0007】
また、上記円錐孔底ひずみ法では、計測対象の地盤や岩盤を等方均質の線形弾性体と仮定し、測定値の逆解析から初期応力を求めている。一方、地盤や岩盤には、これらを構成する鉱物の偏在や微小な亀裂など、多くの異方性や不均質性、さらには、非弾性的な変形挙動などの要素が含まれている。このため、等方均質の線形弾性体を前提とした逆解析に基づく算出手法では、解放ひずみなどの測定結果によっては初期応力の算出精度を十分に担保できない場合もある。
【0008】
一方、水圧破砕法は、ボーリング孔の直交面内での初期応力成分を評価することはできるが、ボーリング孔の孔軸方向の初期応力成分を評価することができない。このため、角度を変えて複数本のボーリング孔を削孔しなければならず、計測にコストや労力が掛かるといった課題がある。また、水圧破砕法では、パッカーや高圧ポンプ等が必要となり、装置全体が大掛かりなものになるといった課題もある。
【0009】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、地盤や岩盤の応力を効率的に計測することができる計測装置及び計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の計測装置は、
地盤又は岩盤に削孔した孔に挿入されるとともに、前記孔の表面に固定される複数のロードセルを含むセンサ部と、
前記センサ部を前記孔に挿入して前記複数のロードセルを前記孔の表面に固定するための挿入ロッドと、
前記複数のロードセルによって検出される応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤の内部の主応力を演算する応力演算部と、を備えており、
前記複数のロードセルは、互いに異なる任意の6方向の応力値を検出するように配置されており、前記応力演算部は、前記複数のロードセルによって検出される前記6方向の応力値に基づいて、前記主応力を演算することを特徴とする。
【0011】
本開示の計測装置の他の態様において、
前記複数のロードセルは、
互いに直交する3軸をX軸、Y軸及び、Z軸と仮定し、X軸,Y軸,Z軸に沿った正方向をそれぞれ+X軸方向,+Y軸方向,+Z軸方向とし、X軸,Y軸,Z軸に沿った負方向をそれぞれ-X軸方向,-Y軸方向,-Z軸方向としたとき、
YZ面に垂直な+X軸方向又は-X軸方向の応力値を検出する第1ロードセルと、
ZX面に垂直な+Y軸方向又は-Y軸方向の応力値を検出する第2ロードセルと、
XY面に垂直な+Z軸方向又は-Z軸方向の応力値を検出する第3ロードセルと、
XY面を前記3軸の交点からX軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第4ロードセルと、
ZX面を前記3軸の交点からZ軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第5ロードセルと、
YZ面を前記3軸の交点からY軸に対して+45度又は-135度の角度で延びる方向の応力値を検出する第6ロードセルと、を有することが好ましい。
【0012】
本開示の計測装置の他の態様は、
前記孔の孔底に半球孔を削孔するための半球状ビットをさらに備えており、
前記センサ部は、
前記挿入ロッドの先端に取り付けられるとともに、前記半球状ビットよりも小径の半球状又は球状の球殻を有しており、
前記球殻の球中心が前記3軸の交点と一致するように、前記複数のロードセルを前記球殻の表面に配置しており、
前記挿入ロッドによって前記球殻を前記半球孔に挿入することにより、前記複数のロードセルが前記半球孔の表面にそれぞれ固定されることが好ましい。
【0013】
本開示の計測装置の他の態様において、
前記センサ部は、
前記挿入ロッドの先端に取り付けられる主ロッドと、
前記主ロッドの先端を前記3軸の交点とし、前記交点から+X軸方向又は-X軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第1ロードセルが取り付けられる第1支持ロッドと、
前記交点から+Y軸方向又は-Y軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第2ロードセルが取り付けられる第2支持ロッドと、
前記交点から+Z軸方向又は-Z軸方向に延びるとともに、その先端部に前記第3ロードセルが取り付けられる第3支持ロッドと、
XY面を前記交点からX軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第4ロードセルが取り付けられる第4支持ロッドと、
ZX面を前記交点からZ軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第5ロードセルが取り付けられる第5支持ロッドと、
YZ面を前記交点からY軸に対して+45度又は-135度の角度で延びるとともに、その先端部に前記第6ロードセルが取り付けられる第6支持ロッドと、を有することが好ましい。
【0014】
本開示の計測装置の他の態様において、
前記複数のロードセルが、圧縮引張型のロードセルであることが好ましい。
【0015】
本開示の計測装置の他の態様は、
前記センサ部の周囲の地盤又は岩盤をオーバーコアリングするための円筒状ビットをさらに備えており、
前記演算部は、前記円筒状ビットによりオーバーコアリングを行った際に前記複数のロードセルが検出する応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤に発生する初期応力を演算することが好ましい。
【0016】
本開示の計測方法は、前記円筒状ビットを備える前記計測装置を用いた初期応力の計測方法であって、
削孔装置を用いて地盤又は岩盤に前記孔を削孔する工程と、
前記挿入ロッドを用いて前記センサ部を前記孔に挿入して前記複数のロードセルを前記孔の表面に固定する工程と、
前記センサ部を設置した前記孔の周囲の地盤又は岩盤を、前記円筒状ビットを用いてオーバーコアリングする工程と、
前記オーバーコアリングを行った際に前記複数のロードセルが検出する応力値に基づいて、前記地盤又は前記岩盤に発生する初期応力を演算する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本開示の計測装置及び、計測方法によれば、簡素な構成で、地盤や岩盤の応力を効率的に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第一実施形態に係る計測装置を示す模式的な全体構成図である。
【
図2】第一実施形態に係る計測装置のセンサ部を示す模式的な斜視図である。
【
図3】第一実施形態に係るセンサ部の一部を示す模式的な断面図である。
【
図4】第一実施形態に係るセンサ部の設置例を説明する模式図である。
【
図5】第一実施形態に係るセンサ部の他の設置例を説明する模式図である。
【
図6】初期応力を計測する現場の例を模式的に示した図である。
【
図7】第一実施形態の計測装置を用いた初期応力の計測方法を説明するフロー図である。
【
図8】
図7の一部の工程を説明するための模式図である。
【
図9】第一実施形態に係る計測方法の他の一例を説明する模式図である。
【
図10】第二実施形態に係る計測装置を示す模式的な全体構成図である。
【
図11】第二実施形態に係る計測装置のセンサ部を示す模式的な斜視図である。
【
図12】第二実施形態の計測装置を用いた初期応力の計測方法を説明するフロー図である。
【
図14】本実施形態に係る計測装置の挿入ロッドに設けられたガイド機構を示す模式的な斜視図である。
【
図15】他の実施形態に係る計測装置の演算手順において、任意の面上の応力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る計測装置及び計測方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0020】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係る計測装置10Aを示す模式的な全体構成図である。
【0021】
(全体構成)
図1に示すように、第一実施形態の計測装置10Aは、センサ部11Aと、地盤又は岩盤に削孔した挿入孔にセンサ部11Aを挿入するための挿入ロッド16と、挿入孔の孔底にセンサ部11Aを設置する半球孔を削孔するための半球状ビット17と、センサ部11Aの周囲の地盤又は岩盤をオーバーコアリングするための円筒状ビット18と、センサ部11Aから入力される電気信号に基づいて3方向の主応力(σ
1,σ
2,σ
3)を演算する演算処理装置30とを備えている
【0022】
センサ部11Aは、複数個のロードセル、具体的には6個のロードセル20
X,20
Y,20
Z,20
XY45,20
ZX45,20
YZ45を所定方向に配置して構成されている。これらロードセル20
X,20
Y,20
Z,20
XY45,20
ZX45,20
YZ45の配置位置の詳細については
図2に基づいて後述する。なお、以下の説明において、ロードセル20
X,20
Y,20
Z,20
XY45,20
ZX45,20
YZ45は、これらを纏めて単に「ロードセル20」と称する場合もある。
【0023】
ロードセル20は、挿入孔の孔径(例えば、86~100mm)よりも小さい小型の引張圧縮型ロードセルである。ロードセル20は、ケース21内に、何れも不図示の起歪体及び、該起歪体に貼り付けられたひずみゲージを収容して構成されている。ケース21の外側には、起歪体に連結されたロードボタン22が配されており、このロードボタン22に力が作用すると起歪体が変形するようになっている。ロードセル20は、起歪体の変形量に比例してひずみゲージの電気抵抗が変化することにより、起歪体の変形量に比例した電気信号を演算処理装置30に出力する。
【0024】
挿入ロッド16は、長尺状の略円筒状に形成されており、その先端部にはセンサ部11Aが着脱自在に取り付けられる。この挿入ロッド16は、後述する準備工程にて、センサ部11Aを挿入孔に挿入して半球孔の表面に固定する際に用いられる。挿入ロッド16の軸方長さは特に制限されないが、センサ部11Aを半球孔に到達させることができる長さで形成することが好ましい。挿入ロッド16を形成する材料も特に制限されないが、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム合金等で形成することができる。
【0025】
本実施形態において、挿入ロッド16には、挿入ロッド16の軸心を挿入孔の孔軸心と略一致させることにより、センサ部11Aを半球孔に容易に設置できるようにするガイド機構16A(
図14参照)が設けられている。ガイド機構16Aは、好ましくは、挿入ロッド16の軸方向に所定の間隔をおいて2個設けられている。ガイド機構16Aは、弾性変形可能な複数(図示例では3個)の板部材16Bを備えており、各板部材16Bは、挿入ロッド16から径方向外側に向けて略円弧状に凸となるように湾曲して取り付けられている。各板部材16Bは、挿入ロッド16の軸方向視で、挿入ロッド16の外周面に好ましくは周方向に等ピッチ(120度ピッチ)で配置されている。
【0026】
挿入ロッド16を挿入孔に挿入すると、各板部材16Bが挿入孔の壁面に接して弾性変形し、挿入ロッド16に対して径方向内側に向けた反力を付与することにより、挿入ロッド16を挿入孔の略中心に容易に保持できるようになっている。また、各板部材16Bが挿入孔の壁面に摺接しながら挿入ロッド16を支持することで、壁面の凹凸や挿入孔内に残存する小石等に阻害されることなく、挿入ロッド16を挿入孔に容易に挿入できるようになっている。
【0027】
なお、各板部材16Bの個数は、図示例の3個に限定されず、例えば、4個としてもよい。4個の場合は、各板部材16Bを周方向に90度ピッチで配置すればよい。また、ガイド機構16Aの個数も図示例の2個に限定されず、挿入ロッド16の長さに応じて、3個以上としてもよい。
【0028】
半球状ビット17は、削孔装置の削孔ロッドに取り付けられる。半球状ビット17の外径は、円筒状ビット18の内径よりも小径に形成されている。また、半球状ビット17の内径は、センサ部11Aの外径よりも大径に形成されている。この半球状ビット17は、後述する準備工程にて、挿入孔の孔底に半球孔を削孔する際に用いられる。
【0029】
円筒状ビット18は、ドリルジャンボやボーリング装置などの削孔装置の削孔ロッドに取り付けられる。円筒状ビット18の外径は、削孔装置によって削孔する挿入孔に容易に挿入できるよう、該挿入孔の内径よりも小径に形成されている。また、円筒状ビット18の内径は、オーバーコアリングを実施する際にセンサ部11Aと干渉しないよう、該センサ部11Aの外径よりも大径に形成されている。この円筒状ビット18は、後述する測定工程にて、センサ部11Aの周囲の岩盤や地盤をオーバーコアリングする際に用いられる。
【0030】
演算処理装置30は、CPUなどの処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力用のインターフェイス、補助記憶装置などを備えており、パーソナルコンピュータやサーバ等の情報処理装置によって構成されている。演算処理装置30は、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行することにより、6方向応力値取得部31及び、主応力演算部32を備える装置として機能する。また、演算処理装置30には、ディスプレイなどの表示部40、キーボードやマウスなどの入力部50がそれぞれ接続されている。
【0031】
6方向応力値取得部31は、6個のロードセル20からそれぞれ入力される電気信号に基づいて、地盤や岩盤の内部に発生する6方向の応力値を取得する。ここで、6方向とは、互いに直交する3軸をX軸、Y軸及び、Z軸と仮定した場合に、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、XY面を中心Oから+45度の角度で延びる+XY45度方向、ZX面を中心Oから+45度の角度で延びる+ZX45度方向、YZ面を中心Oから+45度の角度で延びる+YZ45度方向、の計6方向である。以下、これら6方向の応力値をそれぞれσX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45と呼ぶ。6方向応力値取得部31によって取得される6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45は、主応力演算部32に送信される。
【0032】
主応力演算部32は、6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて、地盤や岩盤の内部に発生する主応力σ1,σ2,σ3を演算する。ここで、3次元応力状態において、独立な応力成分は、垂直応力σX,σY,σZ及び、応力の不変量J1,J2,J3となる。不変量J1,J2,J3は、それぞれ不変量式(J1=σX+σY+σZ,J2=-(σYσZ+σZσX+σXσY)+τYZ
2+τZX
2+τXY
2,J3=σXσYσZ-σXτYZ
2-σYτZX
2-σZτXY
2+2τYZτZXτXY)で表される。また、不変量式中のせん断応力τXY,τZX,τYZは、XY面、ZX面及び、YZ面におけるモールの応力円を用いることより、6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を用いた式(τXY=1/2・(2σXY45-(σX+σY)),τZX=1/2・(2σZX45-(σX+σZ)),τYZ=1/2・(2σYZ45-(σY+σZ)))にそれぞれ置き換えることができる。
【0033】
主応力演算部32は、まず、6方向応力値取得部31から送信される6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいてせん断応力τXY,τZX,τYZを算出するとともに、算出したせん断応力τXY,τZX,τYZ及び、垂直応力値σX,σY,σZを上述の不変量式に代入することにより、不変量J1,J2,J3を算出する。そして、算出した不変量J1,J2,J3に基づいて、主応力を求める方程式(σ3-J1σ2-J2σ-J3=0)を解くことにより、3方向の主応力σ1,σ2,σ3を演算する。主応力演算部32によって演算される主応力σ1,σ2,σ3は、入力部50の操作に応じて表示部40に表示、あるいは、不図示の印刷機などからレポートとして出力される。
【0034】
(センサ部)
図2は、第一実施形態に係る計測装置のセンサ部11Aを示す模式的な斜視図である。
【0035】
図2に示すように、第一実施形態のセンサ部11Aは、複数のロードセル20を取り付ける略半球状の球殻12を有する。球殻12は、その球中心Oを挿入ロッド16の先端部に接続されている。球殻12の球径は、先述の半球状ビット17(
図1参照)の球径よりも小径に形成されている。なお、球殻12の形状は、半球状に限定されず、球状に形成することもできる。
【0036】
球殻12の球面には、複数のロードセル20がロードボタン22を球面よりも外側に突出させた状態で配置されており、半球状ビット17(
図1参照)により削孔した半球孔内に球殻12を挿入すると、各ロードセル20のロードボタン22が半球孔の内面と接触するようになっている。
【0037】
本実施形態において、各ロードセル20は、3軸(X軸,Y軸,Z軸)の交点が球殻12の球中心Oと一致し、且つ、Z軸が挿入ロッド16の軸線方向と一致するように、球殻12に配置されている。
【0038】
具体的には、第3ロードセル20Zは、球殻12の球面のうち、挿入ロッド16の軸線の延長線(Z軸)が球殻12と交差する部分に設けられている。第1ロードセル20Xは、球殻12の球面のうち、X軸が球殻12と交差する部分に設けられている。第2ロードセル20Yは、球殻12の球面のうち、Y軸が球殻12と交差する部分に設けられている。
【0039】
第4ロードセルXY45は、球殻12の球面のうち、第1ロードセル20Xと第2ロードセル20Yとの中間部分、すなわち、XY面をX軸に対して+45度の角度で延びる+XY45線が球殻12と交差する部分に設けられている。第5ロードセル20ZX45は、球殻12の球面のうち、第1ロードセル20Xと第3ロードセル20Zとの中間部分、すなわち、ZX面をZ軸に対して+45度の角度で延びる+ZX45線が球殻12と交差する部分に設けられている。第6ロードセルYZ45は、球殻12の球面のうち、第2ロードセル20Yと第3ロードセル20Zとの中間部分、すなわち、YZ面をY軸に対して+45度の角度で延びる+YZ45線が球殻12と交差する部分に設けられている。
【0040】
このように、計6個のロードセル20のうち、3個のロードセル20X,20Y,20Zを互いに直交する3軸方向に配置し、残り3個のロードセル20XY45,20ZX45,20YZ45を各軸X,Y,Z間の45度方向に配置することにより、地盤又は岩盤の内部に作用する6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を効果的に検出できるようになる。
【0041】
各ロードセル20は、ロードボタン22の受圧面に対して鉛直方向に作用する応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を、受圧面に作用する荷重として検出できるため、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を効果的に低減することが可能となる。すなわち、センサ部11Aを設置する半球孔の周囲の地盤や岩盤に微小な亀裂などが存在していても、これらの影響を受けることなく3方向の主応力σ1,σ2,σ3を演算することが可能となる。
【0042】
ここで、各ロードセル20の球殻12への取り付けは、例えば、
図3に示すように、球殻12に貫通孔12Bを穿設すると共に、ロードセンサ20のケース21の側面に周方向に延びる円環状の凹溝24を設け、貫通孔12Bの周縁を凹溝24と係合させることにより取り付けてもよい。或いは、各ロードセル20を球殻12にボルトナットなどで固定してもよい。
【0043】
また、
図4に示すように、挿入孔hの底部に削孔した半球孔h2の表面に各ロードセル20のロードボタン22を接着剤等で固定する際は、ロードボタン22と半球孔h2の表面との間に接触用の治具25を介装してもよい。治具25は地盤や岩盤からの応力がロードボタン22に減衰することなく伝達するよう、高強度の材料で形成することが好ましい。なお、
図4中の符号27は、反力を得るためのスペーサを示している。
【0044】
また、センサ部11Aを設置する孔は、半球孔h2に限定されず、
図5に示すような、孔底が略平坦状の小径孔h3に設置することもできる。この場合、3個のロードセル20
X,20
Yは、小径孔h3の側壁面に容易に接触し、且つ、1個のロードセル20
Zは、小径孔h3の孔底面に容易に接触するが、残り2個のロードセル20
ZX45,20
YZ45は、小径孔h3の側壁面との間に隙間を隔てて対向した状態となる。これらの隙間を埋めるべく、治具25に替えて、断面略台形状の治具26を用いればよい。治具26は、下底側の一対の内角θ1,θ2のうち、ロードセル20
ZX45,20
YZ45側の内角θ1を90度、小径孔h3側の内角θ2を45度で形成すればよい。
【0045】
また、詳細な図示は省略するが、各ロードセル20は、測定の目的等に応じて略球状の球殻を用いることで、-Z軸方向を除き、反対方向に配置することも可能である。具体的には、第1ロードセル20Xを-X軸方向に配置してもよく、或いは、第2ロードセル20Yを-Y軸方向に配置してもよい。また、第4ロードセルXY45は、XY面をX軸に対して-135度の角度で延びる方向に配置してもよく、第5ロードセルZX45は、ZX面をZ軸に対して-135度の角度で延びる方向に配置してもよく、第6ロードセルYZ45は、YZ面をY軸に対して-135度の角度で延びる方向に配置してもよい。
【0046】
(計測方法)
次に、第一実施形態の計測装置10Aを用いた初期応力の計測方法について説明する。
【0047】
図6は、初期応力を計測する現場を模式的に示した図である。
図6(A)は、山岳トンネル工事で周辺地山の初期応力を計測する一例である。山岳トンネル工事においては、不図示のドリルジャンボ等の削孔装置を用い、複数の挿入孔hを、切羽70から前方に向けて削孔してもよく、或いは、トンネルの側壁71から径方向外側に向けて複数の挿入孔hを放射状に削孔してもよい。半球状ビット17や円筒状ビット18(何れも
図1参照)は、削孔装置の削孔ロッド(図示せず)に装着すればよい。
【0048】
図6(B)は、地盤に鉛直方向の挿入孔hを削孔して地盤の初期応力を計測する一例である。地表には、削孔装置としてのボーリング装置80が設置されている。ボーリング装置80は、先端にビット81が設けられた削孔ロッド82、削孔ロッド82を昇降させるシリンダや削孔ロッド82を回転させる動力源を含む駆動ユニット83、削孔ロッド82の上端に設けられたスイベル84などを備えている。スイベル84には、ホース85が接続されており、ホース85には削孔水を圧送するポンプPや、削孔水を貯留するタンクTが接続されている。半球状ビット17や円筒状ビット18(何れも
図1参照)は、ボーリング装置80の削孔ロッド82に装着すればよい。
【0049】
図7は、第一実施形態の計測装置10Aを用いた初期応力の計測方法を説明するフロー図であり、
図8は、
図7の一部の工程を説明するための模式図である。なお、以下に説明する計測方法は、
図6(A)又は
図6(B)の何れの現場でも同じ手順となる。
【0050】
ステップS100では、削孔装置を用いて地盤又は岩盤に挿入孔hを削孔する(
図8(A)参照)。挿入孔hを削孔したならば、ステップS110では、削孔装置の削孔ロッドに半球状ビット17を取り付けて、挿入孔hの孔底に半球孔h2を削孔する(
図8(B)参照)。半球孔h2を削孔したならば、好ましくは、半球孔h2の表面を研磨又は清掃する。なお、表面の研磨は、半球孔h2の表面状態に応じて省略することも可能である。また、センサ部11Aにロードセル20を用いる本実施形態では、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を受けにくいため、円錐孔底ひずみ法で必要とされる孔底観察は省略することができる。
【0051】
ステップS120では、挿入ロッド16にセンサ部11Aを取り付けて挿入孔h内に挿入し、センサ部11Aを半球孔h2に設置する(
図8(C)参照)。この際、各ロードセル20のロードボタン22は、好ましくは、治具25を用い、半球孔h2の表面に接着剤などで固定される。以上のステップS100~S120が準備工程となる。
【0052】
接着剤が硬化したならば、計測工程へと移行する。ステップS130では、削孔装置の削孔ロッドに円筒状ビット18を取り付けて、センサ部11A周囲の岩盤を削孔するオーバーコアリングを実施する(
図8(D)参照)。
【0053】
オーバーコアリングを実施したならば、ステップS140では、オーバーコアリングを行った際に各ロードセル20が検出した6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて、初期応力としての主応力σ1,σ2,σ3を演算して計測を終了する。本実施形態において、主応力σ1,σ2,σ3は、6個のロードセル20により検出される6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて算出するため、ポアソン比やヤング率を求める必要はない。このため、円錐孔底ひずみ法で必要とされるコア回収による室内試験を省略することができる。
【0054】
なお、上述の計測方法では、ステップS110にて、挿入孔hの孔底に半球孔h2を削孔する例を説明したが、ステップS110にて、
図5に示したような、挿入孔hの孔底から、該挿入孔hよりも小径の小径孔h3を削孔し、該小径孔h3にセンサ部11Aを設置するようにしてもよい。この場合、オーバーコアリングは、
図5中に破線で示すように、挿入孔hと小径孔h3との間の段付き部Sで行うことにより、オーバーコアリングを効率よく実施することが可能となる。
【0055】
また、
図9(A)に示すように、挿入孔hの孔底に該挿入孔よりも小径の小径孔h3を削孔したのち、
図9(B)に示すように、小径孔h3の孔底にセンサ部11Aを設置するための半球孔h2を削孔してもよい。この場合も、オーバーコアリングは、
図9(B)中に破線で示すように、挿入孔hと小径孔h3との間の段付き部Sで行えばよい。
【0056】
以上詳述した第一実施形態によれば、センサ部11Aは半球状の球殻12を備えており、球殻12には6個のロードセル20が6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を検出できるように配置されている。このようなセンサ部11Aを半球孔h2に設置して、センサ部11Aの周囲をオーバーコアリングすることにより、各ロードセル20で直接的に検出した6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて初期応力σ1,σ2,σ3を高精度、且つ、容易に演算できるように構成されている。
【0057】
すなわち、地盤や岩盤を等方均質の線形弾性体と仮定して、測定値の逆解析から初期応力を算出する円錐孔底ひずみ法に比べ、初期応力σ1,σ2,σ3の算出精度を確実に担保することが可能になる。また、コア回収による室内試験も省力することができ、初期応力σ1,σ2,σ3を求めるまでの労力や時間を大幅に削減することも可能になる。
【0058】
また、センサ部11Aの各ロードセル20は、ロードボタン22の受圧面に対して鉛直方向に作用する応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を、受圧面に作用する荷重として検出できるため、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を大きく受けることなく、初期応力σ1,σ2,σ3を求めることができる。
【0059】
すなわち、円錐孔底ひずみ法で必要とされるボアホールカメラによる孔底観察を省略することができ、初期応力σ1,σ2,σ3を求めるまでの時間やコストを大幅に削減することも可能になる。
【0060】
また、6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を検出することで、孔軸方向に垂直な方向の応力成分のみならず、孔軸方向の応力成分も評価することができる。すなわち、水圧破砕法のように角度を変えて複数本のボーリング孔を削孔する必要がなくなり、水圧破砕法に比べ計測に掛かるコストや労力を大幅に削減することができる。また、パッカーや高圧ポンプ等も不要なため、水圧破砕法に比べ装置全体の簡素化を図ることも可能となる。
【0061】
[第二実施形態]
次に、
図10~
図13に基づいて、第二実施形態に係る計測装置10B及び、該計測装置10Bを用いた初期応力の計測方法を説明する。
【0062】
図10に示すように、第二実施形態の計測装置10Bは、センサ部11Bと、センサ部11Bを挿入孔の内部に挿入するための挿入ロッド16と、センサ部11Bの周囲の地盤又は岩盤をオーバーコアリングするための円筒状ビット18と、小径孔を削孔するための小径ビット19と、センサ部11Bから入力される電気信号に基づいて3方向の主応力(σ
1,σ
2,σ
3)を演算する演算処理装置30とを備えている。
【0063】
なお、第一実施形態と同一の構成については同一の符号を付してあり、それらの機能も同一である。このため、挿入ロッド16、円筒状ビット18及び、演算処理装置30についての詳細な説明は省略する。
【0064】
小径ビット19は、削孔装置の削孔ビットで削孔される挿入孔の孔径よりも小径、且つ、センサ部11Bの外径よりも僅かに大径の円筒状に形成されている。この小径ビット19は、後述する準備工程にて、挿入孔の孔底から、該挿入孔よりも小径の小径孔を削孔する際に用いられる。
【0065】
(センサ部)
図11は、第二実施形態に係る計測装置のセンサ部11Bを示す模式的な斜視図である。
【0066】
図11に示すように、第二実施形態のセンサ部11Bは、挿入ロッド16の先端部に取り付けられる主ロッド13と、主ロッド13から放射状に延びる複数本の支持ロッド14A~14Fとを備えている。
【0067】
主ロッド13は、挿入ロッド16の先端部に取り付けられており、該挿入ロッド16の軸方向に延びている。本実施形態において、複数本の支持ロッド14A~14Fのうち、第3支持ロッド14Cは、主ロッド13の先端部Oから、該主ロッド13の軸方向(Z軸方向)に延びており、その先端部には第3ロードセル20Zが取り付けられている。なお、主ロッド13及び、第3支持ロッド14Cは別体に形成されているが、これらを一本のロッドとして形成してもよい。
【0068】
第1支持ロッド14A、第2支持ロッド14B及び、第3支持ロッド14Cは、主ロッド13の先端部Oを交点として互いに直交する。第1支持ロッド14Aは、主ロッド13の先端部OからX軸方向に延びており、第2支持ロッド14Bは、主ロッド13の先端部OからY軸方向に延びている。第1支持ロッド14Aの先端部には、第1ロードセル20Xが取り付けられ、第2支持ロッド14Bの先端部には、第2ロードセル20Yが取り付けられている。
【0069】
第4支持ロッド14Dは、主ロッド13の先端部OからXY面をX軸に対して+45度の角度で延びる+XY45度方向に延設されている。第4支持ロッド14Dの先端部には、第4ロードセルXY45が取り付けられている。なお、第4支持ロッド14Dは、XY面をX軸に対して-135度の角度で延びる方向に設けることもできる。
【0070】
第5支持ロッド14Eは、主ロッド13の先端部OからZX面をZ軸に対して-135度の角度で延びる-ZX45度方向に延設されている。第5支持ロッド14Eの先端部には、第5ロードセルZX45が取り付けられている。なお、第5支持ロッド14Eは、ZX面をZ軸に対して+45度の角度で延びる方向に設けることもできる。
【0071】
第6支持ロッド14Fは、主ロッド13の先端部OからYZ面をY軸に対して-135度の角度で延びる-ZY45度方向に延設されている。第6支持ロッド14Fの先端部には、第6ロードセルYZ45が取り付けられている。なお、第6支持ロッド14Fは、YZ面をY軸に対して+45度の角度で延びる方向に設けることもできる。
【0072】
このように、計6個のロードセンサ20のうち、3個のロードセル20X,20Y,20Zを互いに直交する3軸方向に配置し、残り3個のロードセル20XY45,20ZX45,20YZ45をXYZ面において各軸X,Y,Zに対して+45/-135度方向に配置することにより、地盤又は岩盤の内部に作用する6方向の応力σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を効果的に検出できるようになる。各ロードセル20は、第一実施形態と同様、ロードボタン22の受圧面に対して鉛直方向に作用する応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を、受圧面に作用する荷重として検出できるため、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を効果的に低減することが可能となる。
【0073】
(計測方法)
図12は、第二実施形態の計測装置10Bを用いた初期応力の計測方法を説明するフロー図であり、
図13は、
図12の一部の工程を説明するための模式図である。
【0074】
ステップS200では、削孔装置を用いて地盤又は岩盤に挿入孔hを削孔する(
図13(A)参照)。挿入孔hを削孔したならば、ステップS110では、削孔装置の削孔ロッドに小径ビット19を取り付けて、挿入孔hの孔底から、該挿入孔hよりも小径の小径孔h3を削孔する(
図13(B)参照)。小径孔h3を削孔したならば、好ましくは、小径孔h3の側壁面及び底壁面を研磨又は清掃する。なお、壁面の研磨は、小径孔h3の壁面状態に応じて省略することも可能である。また、センサ部11Bにロードセル20を用いる本実施形態では、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を受けにくいため、円錐孔底ひずみ法で必要とされる孔底観察は省略することができる。
【0075】
ステップS220では、挿入ロッド16にセンサ部11Bを取り付けて挿入孔h内に挿入し、センサ部11Bを小径孔h3に設置する(
図13(C)参照)。この際、各ロードセル20のロードボタン22は、好ましくは、治具25,26を用い、小径孔h3の壁面に接着剤などで固定される。以上のステップS200~S220が準備工程となる。
【0076】
接着剤が硬化したならば、計測工程へと移行する。ステップS230では、削孔装置の削孔ロッドに円筒状ビット18を取り付けて、挿入孔hと小径孔h3との段付き部からセンサ部11B周囲の岩盤を削孔するオーバーコアリングを実施する(
図13(D)参照)。
【0077】
オーバーコアリングを実施したならば、ステップS240では、オーバーコアリングを行った際に各ロードセル20が検出した6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて、初期応力としての主応力σ1,σ2,σ3を演算して計測を終了する。本実施形態においても、第一実施形態と同様、主応力σ1,σ2,σ3は、6個のロードセル20により検出される6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて算出するため、ポアソン比やヤング率を求める必要はない。このため、円錐孔底ひずみ法で必要とされるコア回収による室内試験を省略することができる。
【0078】
以上詳述した第二実施形態によれば、センサ部11Bは、主ロッド13の先端部Oから3軸X,Y,Z方向に延びる3本の支持ロッド14A~Cと、先端部OからXYZ面を各軸X,Y,Zに対して+45/-135度方向に延びる3本の支持ロッド14D~Fとを備えており、これら支持ロッド14A~Fの先端部に取り付けた6個のロードセル20が6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を検出できるように配置されている。このようなセンサ部11Bを小径孔h3に設置して、センサ部11Bの周囲をオーバーコアリングすることにより、各ロードセル20で直接的に検出した6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45に基づいて初期応力σ1,σ2,σ3を高精度、且つ、容易に演算できるように構成されている。
【0079】
すなわち、地盤や岩盤を等方均質の線形弾性体と仮定して、測定値の逆解析から初期応力を算出する円錐孔底ひずみ法に比べ、初期応力σ1,σ2,σ3の算出精度を確実に担保することが可能になる。
【0080】
また、センサ部11Bの各ロードセル20は、ロードボタン22の受圧面に対して鉛直方向に作用する応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を、受圧面に作用する荷重として検出できるため、地盤や岩盤の微小な亀裂などの局所的な不均質性の影響を大きく受けることなく、初期応力σ1,σ2,σ3を求めることができる。
【0081】
すなわち、円錐孔底ひずみ法で必要とされるボアホールカメラによる孔底観察を省略することができ、初期応力σ1,σ2,σ3を求めるまでの労力や手間、時間、コストを大幅に削減することも可能になる。
【0082】
また、6方向の応力値σX,σY,σZ,σXY45,σZX45,σYZ45を検出することで、孔軸方向に垂直な方向の応力成分のみならず、孔軸方向の応力成分も評価することができる。すなわち、水圧破砕法のように角度を変えて複数本のボーリング孔を削孔する必要がなくなり、水圧破砕法に比べ計測に掛かるコストや労力を大幅に削減することができる。また、パッカーや高圧ポンプ等も不要なため、水圧破砕法に比べ装置全体の簡素化を図ることも可能となる。
【0083】
また、6個のロードセル20を6本の支持ロッド14A~Fによって支持する構造としたことで、各ロードセル20を半球状の球殻に配置するよりも、各ロードセル20の配置方向の自由度を高めることが可能となる。
【0084】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0085】
例えば、上記第一及び、第二実施形態において、演算処理装置30は、オーバーコアリングを実施した際の6方向の応力値σ
X,σ
Y,σ
Z,σ
XY45,σ
ZX45,σ
YZ45に基づいて初期応力σ
1,σ
2,σ
3を算出するものとしたが、各センサ部11A,11Bを残置することにより、応力の長期変動をモニタリングするように構成してもよい。この場合は、
図7に示すステップS120及び、
図12に示すステップS220にて、グラウト材を注入することにより、センサ部11A,11Bを埋設固定してもよい。
【0086】
また、上記第一及び、第二実施形態において、センサ部11A,11Bは、電気式のロードセル20を用いるものとしたが、光ファイバー式ひずみゲージを用いて応力を検出するように構成することもできる。光ファイバー式ひずみゲージを用いれば、応力の長期変動モニタリングにより好適に対応することが可能となる。
【0087】
また、上記第一及び、第二実施形態において、第3ロードセル20Zが配置されるZ軸方向は、挿入ロッド16の軸方向と一致するものとして説明したが、Z軸が挿入ロッド16の軸方向に対して所定の角度で傾斜するように構成することもできる。
【0088】
また、上記第一及び、第二実施形態において、各ロードセル20は、任意の異なる6方向に配置することも可能である。以下、各ロードセル20を任意の6方向に配置した場合の具体的な演算手順を説明する。
【0089】
測定対象とする地盤や岩盤の3軸応力状態を垂直応力σX,σY,σZ及び、せん断応力τXY,τZX,τYZとし、方向余弦(li,mi,ni:i=1~6)で表される任意の平面πiに対して垂直な軸をξ軸とする。また、平面πiに対する垂直応力をσiξとする(但し、li
2+mi
2+ni
2=1であり、垂直応力σiξは引張方向を正、圧縮方向を負とする)。
【0090】
任意の6つの平面π
iは6個のロードセル20のそれぞれの受圧面(ロードボタン22)に相当するから、その圧縮引張応力測定値が垂直応力σ
iξとなる。
図15に示すように、平面π
iに作用する合応力p
iを直角座標方向に分解したときの各応力成分をp
ix,p
iy,p
izとする。平面π
iが、対象地盤・岩盤内の1点Oを頂点とする微小な直方体部分と交わってできた三角形ABCの面積をΔとして、微小三角錘OABCに作用する力のつり合いを考えると、X軸方向は、p
ixΔ=σ
X△OBC+τ
XY△OAC+τ
ZX△OAB(ただし、△OBCは三角形OBCの面積を表す。他も同様)、すなわち、p
ixΔ=σ
X(l
iΔ)+τ
XY(m
iΔ)+τ
ZX(n
iΔ)となる。Y軸及び、Z軸方向も同様であり、これらを整理すると、p
ix,p
iy,p
izは、以下の数式(1.1~1.3)で表すことができる。
【0091】
pix=liσX+miτXY+niτZX ・・・(1.1)
piy=liτXY+miσY+niτYZ ・・・(1.2)
piz=liτZX+miτYZ+niσZ ・・・(1.3)
【0092】
平面πi上の応力ベクトルpiと、方向余弦(li,mi,ni)の内積は、応力ベクトルpiの平面πiに対する法線方向(ξ軸方向)の成分であるから、ξ軸方向の成分と、XYZ軸方向の応力成分の関係は以下の数式(2)で表すことができる。
【0093】
σiξ=lipix+mipiy+nipiz ・・・(2)
【0094】
数式(2)に数式(1.1~1.3)を代入すると、応力の座標変換式に対応する以下の数式(3)を得ることができる。
【0095】
σiξ=li
2σX+mi
2σY+ni
2σZ
+2(limiτXY+miniτYZ+niliτZX) ・・・(3)
【0096】
6個のロードセル30の受圧面の方向(ξ軸方向)が設定値として既知であり、且つ、これらロードセル20で検出される圧縮引張応力測定値が既知、すなわち、平面πiの方向余弦(li,mi,ni)及び、垂直応力σiξが何れも既知であることから、数式(3)は、6個の未知数(σX,σY,σZ,τXY,τZX,τYZ)に関する連立一次方程式とみなすことができる。この数式(3)の解を求めることにより、測定対象とする地盤又は岩盤の3次元応力状態(σ1,σ2,σ3)を求めることができる。
【符号の説明】
【0097】
10A,10B…計測装置,11A,11B…センサ部,12…球殻,13…主ロッド,14A~14F…支持ロッド,16…挿入ロッド,17…半球状ビット,18…円筒状ビット,19…小径ビット,20…ロードセル,21…ケース,22…ロードボタン,25,26…治具,30…演算処理装置,31…6方向応力値取得部,32…主応力演算部