(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022882
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/26 20060101AFI20230209BHJP
F16D 43/02 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
F16D43/26 Z
F16D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127937
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 永生
【テーマコード(参考)】
3J068
【Fターム(参考)】
3J068AA01
3J068AA02
3J068BA01
3J068BB10
3J068GA02
3J068GA11
3J068GA19
(57)【要約】
【課題】入力部材および係合子の形状精度を過度に高くする必要がなく、かつ、組立作業の作業性を確保することができるとともに、入力部材のがたつきを抑えることができる構造を実現する。
【解決手段】押圧面が被押圧面に接触し、かつ、第2方向に関して、入力側係合部7を入力側被係合部14の中央位置に位置させた状態において、入力側係合部7の外周面のうち、入力部材2に回転トルクが入力された場合に入力側被係合部14の内面と接触する部分Pと入力部材2の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lと、第1方向とのなす角度αを、10°以上80.41°以下とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に被押圧面を有する被押圧部材と、
前記被押圧面の径方向内側に配置された少なくとも1個の入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置された入力部材と、
前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置された出力部材と、
前記被押圧面に対向する少なくとも1個の押圧面、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部、および、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部を有し、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置された係合子と、
を備え、
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面から離れる方向に変位し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面に近づく方向に変位し、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させるものであり、
前記押圧面が前記被押圧面に接触し、かつ、前記第1方向と前記入力部材の回転中心との両方に直交する第2方向に関して、前記入力側係合部を前記入力側被係合部の中央位置に位置させた状態において、前記入力側係合部のうち、前記入力部材に回転トルクが入力された場合に前記入力側被係合部と接触する部分と前記入力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線と、前記第1方向とのなす角度αが、10°以上80.41°以下である、
逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記角度αが、10°以上70.53°以下である、
請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記押圧面が前記被押圧面に接触し、かつ、前記第2方向に関して、前記入力側係合部を前記入力側被係合部の中央位置に位置させた状態で、径方向に関して前記入力側係合部よりも内側で、かつ、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との間に前記第1方向に関する隙間が存在する、
請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記入力側係合部の径方向内側面が、平坦面により構成されており、かつ、前記入力側被係合部の径方向内側面が、平坦面により構成されている、
請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記入力側被係合部が、前記係合子の軸方向側面に開口する孔により構成されている、
請求項1~4のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記係合子を1対備え、かつ、前記入力部材が、前記入力側係合部を1対有する、
請求項1~5のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する、逆入力遮断クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
逆入力遮断クラッチは、駆動源などの入力側機構に接続される入力部材と、減速機構などの出力側機構に接続される出力部材とを備えており、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する機能を有する。
【0003】
逆入力遮断クラッチは、出力部材に逆入力される回転トルクを遮断する機構の相違により、ロック式とフリー式に大別される。ロック式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材の回転を防止する機構を備えている。一方、フリー式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが入力された際に、出力部材を空転させる機構を備えている。ロック式の逆入力遮断クラッチとフリー式の逆入力遮断クラッチとのいずれを使用するかについては、逆入力遮断クラッチを組み込む装置の使用用途などによって適宜決定される。
【0004】
特開2002-174320号公報、特開2007-232095号公報、および、特開2004-084918号公報などには、ロック式の逆入力遮断クラッチが記載されている。特開2002-174320号公報に記載された逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、コイルばねのねじれによって生じる直径の変化を利用して、コイルばねの内側に配置した部材を締め付けることにより、出力部材の回転を防止する機構を備えている。これに対し、特開2007-232095号公報、および、特開2004-084918号公報に記載された逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、内方部材と外方部材との間のくさび形空間に配置された転動体を、くさび形空間のうち径方向に関する幅の狭い側に移動させて、内方部材と外方部材との間で突っ張らせることにより、出力部材の回転を防止する機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-174320号公報
【特許文献2】特開2007-232095号公報
【特許文献3】特開2004-084918号公報
【特許文献4】国際公開2019/026794号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2002-174320号公報に記載された逆入力遮断クラッチは、コイルばねのねじれによって生じる直径の変化を利用するため、コイルばねの軸方向寸法を長く確保する必要がある。このため、逆入力遮断クラッチの軸方向寸法が大きくなる、といった問題がある。特開2007-232095号公報、および、特開2004-084918号公報に記載された逆入力遮断クラッチは、転動体を多数使用するため、部品点数が嵩む、といった問題がある。
【0007】
これに対し、国際公開2019/026794号には、入力部材と、出力部材と、被押圧面を有する被押圧部材と、係合子とを備える逆入力遮断クラッチが記載されている。この逆入力遮断クラッチでは、入力部材に回転トルクが入力されると、該入力部材との係合に基づいて係合子が被押圧面から遠ざかる方向に移動して出力部材と係合し、該出力部材に回転トルクが伝達されるのに対し、出力部材に回転トルクが逆入力されると、該出力部材との係合に基づいて係合子が被押圧面に近づく方向に移動して、係合子と被押圧部材とが摩擦係合される。
【0008】
国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチでは、入力部材または出力部材の回転によって制御される係合子の径方向移動に基づき、入力部材に入力される回転トルクを出力部材に伝達する非ロック状態と、出力部材に逆入力される回転トルクを完全に遮断して入力部材に伝達しないロック状態またはその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する半ロック状態とを切り替えることができる。このため、国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチによれば、装置全体の軸方向寸法を短く抑えることができる。
【0009】
ここで、国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチでは、各部の寸法関係について、出力部材に回転トルクが逆入力されることによって係合子が被押圧面に接触した位置において、係合子と入力部材との間に、係合子が出力部材との係合に基づいて被押圧面に向けて押圧されることを許容する隙間(被押圧面に対する係合子の遠近動方向である第1方向に関する隙間)が存在するように構成すること以上は、特段規制されていない。ただし、国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチでは、入力部材および係合子の形状精度を過度に高くしないようにするため、並びに、組立作業の作業性を確保するために、入力部材と係合子とをある程度緩く組み合わせられるように、各部の寸法を規制する必要がある。この場合、入力部材と係合子との係合部に、第1方向に関する隙間が形成される。国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチでは、入力部材と係合子との間の第1方向に関する隙間を何ら制限していないため、該第1方向に関する隙間に起因して、入力部材のがたつきが大きくなってしまう可能性がある。
【0010】
入力部材に生じるがたつきは、逆入力遮断クラッチの用途によっては問題にならない場合もある。しかしながら、例えば、入力部材を電動モータに接続し、かつ、出力部材をボールねじ装置のねじ軸に接続し、逆入力遮断クラッチをナットに固定したステージの位置調整やタイヤの舵角調整などの用途に使用する場合、電動モータから入力部材に回転トルクが入力されると、入力部材のがたつきに起因して、ステージの位置やタイヤの舵角が所望の位置からずれたり、異音が発生したりするなどの問題が生じる可能性がある。
【0011】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、入力部材および係合子の形状精度を過度に高くする必要がなく、かつ、組立作業の作業性を確保することができるとともに、入力部材のがたつきを抑えることができる、逆入力遮断クラッチの構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチは、被押圧部材と、入力部材と、出力部材と、係合子とを備える。
【0013】
前記被押圧部材は、内周面に被押圧面を有する。
【0014】
前記入力部材は、前記被押圧面の径方向内側に配置された少なくとも1個の入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0015】
前記出力部材は、前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている。
【0016】
前記係合子は、前記被押圧面に対向する少なくとも1個の押圧面、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部、および、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部を有し、前記被押圧面に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている。
【0017】
また、前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面から離れる方向に変位し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記第1方向に関して前記被押圧面に近づく方向に変位し、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させる。
【0018】
特に本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチでは、前記押圧面が前記被押圧面に接触し、かつ、前記第1方向と前記入力部材の回転中心との両方に直交する第2方向に関して、前記入力側係合部を前記入力側被係合部の中央位置に位置させた状態において、前記入力側係合部のうち、前記入力部材に回転トルクが入力された場合に前記入力側被係合部と接触する部分と前記入力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線と、前記第1方向とのなす角度αを、10°以上80.41°以下、好ましくは10°以上70.53°以下、より好ましくは50°以上70.53°以下とする。
【0019】
本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチでは、前記押圧面が前記被押圧面に接触し、かつ、前記第2方向に関して、前記入力側係合部を前記入力側被係合部の中央位置に位置させた状態で、径方向に関して前記入力側係合部よりも内側で、かつ、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との間に、前記第1方向に関する隙間を存在させることができる。
【0020】
本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチでは、前記入力側係合部の径方向内側面を、平坦面により構成することができ、かつ、前記入力側被係合部の径方向内側面を、平坦面により構成することができる。
【0021】
本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチでは、前記入力側被係合部を、前記係合子の軸方向側面に開口する孔により構成することができる。
【0022】
本発明の一態様にかかる逆入力遮断クラッチは、前記係合子を1対備えることができ、かつ、前記入力部材が、前記入力側係合部を1対有することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の逆入力遮断クラッチによれば、入力部材および係合子の形状精度を過度に高くする必要がなく、かつ、組立作業の作業性を確保することができるとともに、入力部材のがたつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチを軸方向から見た端面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチの斜視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチから入力部材を取り出してその一部を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチから出力部材を取り出してその一部を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチに関して、入力部材に回転トルクが入力された状態を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチに関して、出力部材に回転トルクが逆入力された状態を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の1例に係る逆入力遮断クラッチに関して、入力側係合部と入力側被係合部との関係を説明するための図である。
【
図9】
図9は、仮想直線Lと第1方向とのなす角度αと、入力部材の回転角度βとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、仮想直線Lと第1方向とのなす角度αの上限値の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態の1例について、
図1~
図9を用いて説明する。なお、軸方向、径方向および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向および周方向をいう。本例において、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向および周方向は、入力部材2の軸方向、径方向および周方向と一致し、かつ、出力部材3の軸方向、径方向および周方向と一致する。
【0026】
[逆入力遮断クラッチの構造の説明]
本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2と、出力部材3と、被押圧部材4と、1対の係合子5とを備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2に入力される回転トルクを出力部材3に伝達するのに対し、出力部材3に逆入力される回転トルクは完全に遮断して入力部材2に伝達しないかまたはその一部のみを入力部材2に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0027】
入力部材2は、電動モータなどの入力側機構に接続され、回転トルクが入力される。入力部材2は、
図3に示すように、入力軸部6と、1対の入力側係合部7とを有する。
【0028】
入力軸部6は、段付円柱状で、その基端部が前記入力側機構の出力部にトルク伝達可能に接続されるか、または、前記入力側機構の出力部と一体に設けられている。
【0029】
1対の入力側係合部7は、略楕円柱状で、入力軸部6の先端面の直径方向反対側2個所位置から軸方向に伸長した凸部により構成されている。1対の入力側係合部7は、入力部材2の直径方向に互いに離隔している。このため、それぞれの入力側係合部7は、入力軸部6の先端面のうちで回転中心Oから径方向外方に外れた部分に配置されている。また、それぞれの入力側係合部7は、周方向に関して対称な形状を有する。
【0030】
本例では、それぞれの入力側係合部7の径方向内側面7aは、互いに平行な平坦面により構成されている。なお、それぞれの入力側係合部7の径方向外側面7bは、入力軸部6の先端部の外周面と同じ円筒面状の輪郭形状を有する。
【0031】
出力部材3は、減速機構などの出力側機構に接続され、回転トルクを出力する。出力部材3は、入力部材2と同軸に配置されており、
図4に示すように、出力軸部8と、出力側係合部9とを有する。
【0032】
出力軸部8は、円柱状で、その先端部が前記出力側機構の入力部にトルク伝達可能に接続されるか、または、前記出力側機構の入力部と一体に設けられている。
【0033】
出力側係合部9は、カム機能を有する。すなわち、出力部材3の回転中心Oから出力側係合部9の外周面までの距離は、周方向に関して一定でない。本例では、出力側係合部9は、略長円柱状で、出力軸部8の基端面の中央部から軸方向に伸長している。すなわち、出力側係合部9の外周面は、互いに平行な1対の平坦面9aと、1対の円弧状の凸曲面9bとから構成されている。このため、出力部材3の回転中心Oから出力側係合部9の外周面までの距離は、円周方向にわたり一定でない。また、出力側係合部9は、出力部材3の回転中心Oを通り、かつ、1対の平坦面9aに直交する仮想平面に対して面対称であるとともに、出力部材3の回転中心Oを通り、かつ、1対の平坦面9aに平行な仮想平面に対して面対称である。このような出力側係合部9は、1対の入力側係合部7同士の間部分に配置される。
【0034】
被押圧部材4は、
図2に示すように、薄肉円環状に構成されており、例えばハウジングなどの図示しない他の部材に固定されるか、または、他の部材と一体に設けられることにより、その回転が拘束されている。被押圧部材4は、入力部材2および出力部材3と同軸に、かつ、入力部材2および出力部材3よりも径方向外側に配置されている。具体的には、1対の入力側係合部7および出力側係合部9が、逆入力遮断クラッチ1の組立状態で、被押圧部材4の径方向内側に配置されている。被押圧部材4は、その内周面に円筒面状の凹面である被押圧面10を有する。
【0035】
1対の係合子5は、略半円形板状に構成されており、被押圧部材4の径方向内側に配置されている。それぞれの係合子5は、径方向外側面に、被押圧面10に対向する押圧面11を有する。また、それぞれの係合子5は、径方向内側面の幅方向中央部に、出力側被係合部12を有し、かつ、径方向内側面の幅方向両側部分に、1対の平坦面部13を有する。さらに、それぞれの係合子5は、幅方向中央位置の径方向中間部に、入力側被係合部14を有する。
【0036】
なお、係合子5に関して径方向とは、
図1に矢印Aで示した平坦面部13に対して直角な方向をいい、
図1に矢印Bで示した平坦面部13に対して平行な方向を、係合子5に関する幅方向という。本例では、係合子5に関する径方向が、係合子5の押圧面11の被押圧面10に対する遠近方向であって、第1方向に相当し、係合子5に関する幅方向が、第1方向と入力部材2の回転中心Oとの両方に直交する第2方向に相当する。
【0037】
本例では、それぞれの係合子5は、幅方向に関して対称な形状を有する。
【0038】
押圧面11は、係合子5の径方向外側面の周方向1箇所位置に備えられている。ただし、本発明を実施する場合、押圧面を、係合子の径方向外側面のうち、周方向に離隔した2箇所位置に備えることもできる。押圧面11は、被押圧面10の曲率半径以下の曲率半径を有する。また、押圧面11は、係合子5のその他の部分に比べて摩擦係数の大きい表面性状を有する。押圧面11は、係合子5の表面によって直接構成しても良いし、係合子5に貼着や接着などにより固定した摩擦材によって構成しても良い。
【0039】
出力側被係合部12は、係合子5の径方向内側面の幅方向中央部から径方向外側に向けて凹んだ略矩形の凹部により構成されている。出力側被係合部12は、その内側に出力側係合部9の短軸方向(1対の平坦面9aに直交する方向)の先半部をがたつきなく配置できる大きさおよび形状を有している。すなわち、出力側被係合部12は、その開口幅が、出力側係合部9の長軸方向(1対の平坦面9aに平行な方向)に関する寸法とほぼ同じであり(同じか、あるいは、わずかに大きく)、その径方向深さが、出力側係合部9の短軸方向に関する寸法の1/2よりも少しだけ小さくなっている。具体的には、出力側被係合部12は、1対の平坦面部13と平行な底面12aと、径方向内側に向かうほど互いに離れる方向に向かう湾曲する部分円筒面状の側面12bとを有する。
【0040】
入力側被係合部14は、係合子5の幅方向中央位置の径方向中間部を軸方向に貫通する貫通孔により構成されている。ただし、本発明を実施する場合、入力側被係合部を、係合子の軸方向一方側の側面にのみ開口する有底孔により構成することもできる。あるいは、入力側被係合部を、係合子の径方向外側面に開口する切り欠きにより構成することもできる。入力側被係合部14は、入力側係合部7を緩く挿入できる大きさを有する。したがって、入力側被係合部14の内側に入力側係合部7を挿入した状態で、入力側係合部7と入力側被係合部14の内面との間には、係合子5の幅方向および径方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力側係合部7は、入力側被係合部14(係合子5)に対し、入力部材2の回転方向に関する変位が可能であり、入力側被係合部14は、入力側係合部7に対し、係合子5の径方向の変位が可能である。本例では、入力側被係合部14は、径方向内側面(径方向外側を向いた面)に、1対の平坦面部13と平行な平坦面14aを有する。
【0041】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、1対の係合子5の押圧面11を径方向に関して互いに反対側に向け、かつ、1対の係合子5の径方向内側面を互いに対向させた状態で、1対の係合子5を被押圧部材4の径方向内側に配置する。また、軸方向一方側に配置した入力部材2の1対の入力側係合部7を、1対の係合子5の入力側被係合部14に軸方向に挿入し、かつ、軸方向他方側に配置した出力部材3の出力側係合部9を、1対の出力側被係合部12同士の間に軸方向に挿入する。すなわち、1対の係合子5は、それぞれの出力側被係合部12により、出力側係合部9を径方向外側から挟むように配置される。
【0042】
なお、1対の係合子5を被押圧部材4の径方向内側に配置した状態で、被押圧面10と押圧面11との間部分、および、平坦面部13同士の間部分の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧部材4の内径寸法と係合子5の径方向寸法が規制されている。また、本例では、入力側係合部7の軸方向寸法、出力側係合部9の軸方向寸法、被押圧部材4の軸方向寸法、および、係合子5の軸方向寸法をそれぞれほぼ同じとしている。
【0043】
(逆入力遮断クラッチの動作説明)
本例の逆入力遮断クラッチ1の動作について説明する。
【0044】
まず、入力部材2に入力側機構から回転トルクが入力された場合を説明する。
【0045】
入力部材2に回転トルクが入力されると、
図5に示すように、入力側被係合部14の内側で、入力側係合部7が入力部材2の回転方向(
図5の例では時計方向)に回転する。すると、入力側係合部7の径方向内側面7aが入力側被係合部14の平坦面14aを径方向内方に向けて押圧し、1対の係合子5を、被押圧面10から離れる方向それぞれ移動させる。つまり、1対の係合子5を、入力部材2との係合に基づき、互いに近づく方向である径方向内側に向けて(
図5の上側に位置する係合子5を下側に向けて、
図5の下側に位置する係合子5を上側に向けて)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子5の径方向内側面が互いに近づく方向に移動し、1対の出力側被係合部12が出力部材3の出力側係合部9を径方向両側から挟持する。すなわち、出力部材3を、出力側係合部9の平坦面9aが係合子5の1対の平坦面部13と平行になるように回転させつつ、出力側係合部9と1対の出力側被係合部12とをがたつきなく係合させる。この結果、入力部材2に入力された回転トルクは、1対の係合子5を介して、出力部材3に伝達され、出力部材3から出力される。本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2に回転トルクが入力されると、入力部材2の回転方向に関係なく、1対の係合子5を、被押圧面10から離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、入力部材2に入力された回転トルクが、1対の係合子5を介して、出力部材3に伝達される。
【0046】
次に、出力部材3に出力側機構から回転トルクが逆入力された場合を説明する。
【0047】
出力部材3に回転トルクが逆入力されると、
図6に示すように、出力側係合部9が、1対の出力側被係合部12同士の内側で、出力部材3の回転方向(
図6の例では時計方向)に回転する。すると、出力側係合部9の外周面のうち、平坦面9aと凸曲面9bとの接続部(角部)が出力側被係合部12の底面12aを径方向外方に向けて押圧し、1対の係合子5を、被押圧面10に近づく方向にそれぞれ移動させる。つまり、1対の係合子5を、出力部材3との係合に基づき、互いに離れる方向である径方向外側に向けて(
図6の上側に位置する係合子5を上側に向けて、
図6の下側に位置する係合子5を下側に向けて)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子5のそれぞれの押圧面11を、被押圧面10に対して摩擦係合させる。
【0048】
この結果、出力部材3に逆入力された回転トルクが完全に遮断されて入力部材2に伝達されないか、または、出力部材3に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材2に伝達され残部が遮断される。出力部材3に逆入力された回転トルクを完全に遮断して入力部材2に伝達されないようにするには、押圧面11が被押圧面10に対して摺動(相対回転)しないように、1対の係合子5を出力側係合部9と被押圧部材4との間で突っ張らせ、出力部材3をロックする。これに対し、出力部材3に逆入力された回転トルクのうちの一部のみが入力部材2に伝達され残部が遮断されるようにするには、押圧面11が被押圧面10に対して摺動するように、1対の係合子5を出力側係合部9と被押圧部材4との間で突っ張らせ、出力部材3を半ロックする。
【0049】
本例の逆入力遮断クラッチ1では、以上の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。特に、係合子5の押圧面11が被押圧面10に接触した位置関係において、入力側係合部7の径方向内側面7aと入力側被係合部14の内面との間に、出力側係合部9の角部が出力側被係合部12の底面12aを押圧することに基づいて押圧面11を被押圧面10に向けてさらに押し付けることを許容する隙間が存在するようにしている。これにより、出力部材3に回転トルクが逆入力されたときに、係合子5の径方向外側への移動が入力側係合部7によって阻止されることを防止し、かつ、押圧面11が被押圧面10に接触した後も、押圧面11と被押圧面10との接触部に作用する面圧が、出力部材3に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにすることで、出力部材3のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
【0050】
なお、被押圧面10の内径寸法などにもよるが、押圧面11を被押圧面10に接触させた状態において、入力部材2の回転中心Oを中心とし、かつ、入力側係合部7の外周面のうちで入力部材2に回転トルクが入力された場合に入力側被係合部14の内面と接触する部分Pを通る仮想円Cの半径Rは、例えば4mm以上300mm以下、好ましくは5mm以上200mm以下とすることができる。また、係合子5の形状誤差や組立作業の作業性を考慮すると、押圧面11を被押圧面10に接触させ、かつ、第2方向に関して、入力側係合部7を入力側被係合部14の中央位置に位置させた状態での、入力側係合部7の径方向内側面7aと入力側被係合部14の平坦面14aとの間隔Gは、例えば0.0451R以下、好ましくは0.0189R以下、より好ましくは0.00666R以下とすることができる。
【0051】
さらに、本例の逆入力遮断クラッチ1では、押圧面11を被押圧面10に接触させ、かつ、第2方向に関して、入力側係合部7を入力側被係合部14の中央位置に位置させた状態において、入力側係合部7の外周面のうち、入力部材2に回転トルクが入力された場合に入力側被係合部14の内面と接触する部分Pと入力部材2の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lと、第1方向とのなす角度αを、10°以上80.41°以下、好ましくは10°以上70.53°以下、より好ましくは50°以上70.53°以下としている。これにより、入力部材2のがたつきを抑えている。
【0052】
ここで、
図10(A)に示すように、出力側係合部9の短軸方向の厚さを2xとした場合、逆入力遮断クラッチ1の徒な大型化を防止しつつ、係合子5の強度を確保するためには、入力側被係合部14の平坦面14aと出力側被係合部12の底面12aとの間の距離はxだけ確保する必要があり、入力部材2の回転中心Oとする入力側被係合部14の外接円の半径は、最大で12xである。この場合、入力側被係合部14の外周縁の周方向端部と回転中心Oとを結ぶ仮想直線L’と、第1方向とのなす角度θは、80.41°である。したがって、前記角度αの上限値は、80.41°となる。
【0053】
なお、
図10(B)に示すように、入力部材2の回転中心Oとする入力側被係合部14の外接円の半径6xとした場合、入力側被係合部14の外周縁の周方向端部と回転中心Oとを結ぶ仮想直線L’と、第1方向とのなす角度θは、70.53°である。
【0054】
本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチと同様に、軸方向寸法を短くでき、かつ、部品点数を抑えることができる。
【0055】
本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2および出力部材3のそれぞれの回転を、係合子5の径方向移動に変換する。そして、このように入力部材2および出力部材3の回転を係合子5の径方向移動に変換することで、係合子5を、該係合子5の径方向内側に位置する出力部材3に係合させたり、あるいは、係合子5を、該係合子5の径方向外側に位置する被押圧部材4に押し付けるようにしている。このように、本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2および出力部材3のそれぞれの回転によって制御される係合子5の径方向移動に基づき、入力部材2から出力部材3に回転トルクが伝達可能になる出力部材3のロック解除状態または半ロック解除状態と、出力部材3の回転が防止または抑制される出力部材3のロックまたは半ロック状態とを切り替えることができるため、逆入力遮断クラッチ1の装置全体の軸方向寸法を短くできる。
【0056】
しかも、係合子5に、入力部材2に入力された回転トルクを出力部材3に伝達する機能と、出力部材3をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせている。このため、逆入力遮断クラッチ1の部品点数を抑えることができ、かつ、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とをそれぞれ別の部材に持たせる場合に比べて、動作を安定させることができる。たとえば、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とを別の部材に持たせる場合、ロック解除または半ロック解除のタイミングと回転トルクの伝達開始のタイミングとがずれる可能性がある。この場合、ロック解除または半ロック解除から回転トルクの伝達開始までの間に出力部材に回転トルクが逆入力されると、出力部材が再びロックまたは半ロックされてしまう。本例では、係合子5に、回転トルクを出力部材3に伝達する機能と、出力部材3をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせているため、このような不都合が生じることを防止できる。
【0057】
また、入力部材2から係合子5に作用する力の向きと、出力部材3から係合子5に作用する力の向きとを逆向きにしているため、両方の力の大小関係を規制することで、係合子5の移動方向を制御できる。このため、出力部材3のロックまたは半ロック状態とロック解除状態または半ロック解除状態の切り替え動作を安定して確実に行うことができる。したがって、特開2007-232095号公報、および、特開2004-084918号公報に記載された従来構造の逆入力遮断クラッチのように、くさび形空間の径方向に関する幅の狭い部分に転動体が噛み込まれたままとなり、ロックが解除されなくなる、といった不都合が生じることを防止できる。
【0058】
さらに本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、入力部材2のがたつきを抑えつつ、押圧面11を被押圧面10に接触させ、かつ、第2方向に関して、入力側係合部7を入力側被係合部14の中央位置に位置させた状態での、入力側係合部7の径方向内側面7aと入力側被係合部14の平坦面14aとの間隔Gを確保することができる。このため、入力部材2の入力側係合部7および係合子5の入力側被係合部14の形状精度を過度に高くする必要がなく、かつ、組立作業の作業性を確保することができる。
【0059】
すなわち、
図9に示すように、押圧面11を被押圧面10に接触させ、かつ、第2方向に関して、入力側係合部7を入力側被係合部14の中央位置に位置させた状態から、入力側係合部7と入力側被係合部14とが接触するまでの入力部材2の回転角度βは、前記仮想直線Lと第1方向とのなす角度αを大きくするほど小さくなる。本例では、前記仮想直線Lと第1方向とのなす角度αを10°以上80.41°以下とすることで、前記回転角度βを小さく抑えつつ、前記間隔Gを確保している。
【0060】
例えば、前記回転角度βを10°とした場合でも、前記角度αを10°以上とすることで、前記間隔Gを0.0451R以上確保することができる。また、前記回転角度βを5°とした場合、前記角度αを10°以上とすることで、前記間隔Gを0.0189R以上確保することができる。さらに、前記回転角度βを2°とした場合、前記角度αを10°以上とすることで、前記間隔Gを0.00666R以上確保することができる。
【0061】
前記角度αが80.41°よりも大きいと、係合子5のうち、入力側被係合部14と出力側被係合部12との間に存在する部分の径方向厚さが小さくなり、十分な強度を確保しにくくなる。また、
図9から明らかなとおり、前記回転角度βがある程度小さくなると、前記角度αを大きくしても前記回転角度βはあまり小さくならない。一方、前記角度αが10°よりも小さいと、入力部材2のがたつきを十分に抑えられなくなる可能性がある。
【0062】
なお、逆入力遮断クラッチ1の各部の寸法は、入力部材2に入力されるトルクの大きさおよび出力部材3に逆入力されるトルクの大きさなどに応じて、ロック解除状態または半ロック解除状態と、ロックまたは半ロック状態とを円滑に切り替えることができ、かつ、各部材の強度を確保できるように規制される。
【0063】
例えば、出力側係合部9の短軸方向の厚さを2xとした場合、入力側被係合部14の平坦面14aと出力側被係合部12の底面12aとの間の距離yは、xの1倍以上5倍以下、好ましくは1倍以上2倍以下、最も好ましくはxと等しく(y=x)することができる。前記仮想円Cの半径Rは、xの3倍以上12倍以下、好ましくは4倍以上6倍以下とすることができる。
【0064】
また、被押圧面10の内径寸法dは、xの8倍以上32倍以下、好ましくは10倍以上16倍以下とすることができる。出力側被係合部12の長軸方向の幅Wは、xの1倍以上15倍以下、好ましくは2倍以上8倍以下とすることができる。
【0065】
なお、本発明の逆入力遮断クラッチを実施する場合、係合子の数を、1個または3個以上とすることもできる。
【0066】
また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子の材質は、特に限定されない。たとえば、これらの材質としては、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属のほか、必要に応じて強化繊維を混入した合成樹脂などでも良い。また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のそれぞれで、同じ材質にしても良いし、異なる材質にしても良い。
【0067】
また、出力部材に回転トルクが逆入力した場合に、出力部材がロックまたは半ロックする条件さえ満たせば、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子が相互に接触する部分に、潤滑剤を介在させることもできる。このために、たとえば、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のうちの少なくとも1つを含油メタル製とすることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 逆入力遮断クラッチ
2 入力部材
3 出力部材
4 被押圧部材
5 係合子
6 入力軸部
7 入力側係合部
7a 径方向内側面
7b 径方向外側面
8 出力軸部
9 出力側係合部
9a 平坦面
9b 凸曲面
10 被押圧面
11 押圧面
12 出力側被係合部
12a 底面
12b 側面
13 平坦面部
14 入力側被係合部
14a 平坦面