(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022886
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】Pca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/06 20060101AFI20230209BHJP
E01C 11/02 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
E01D19/06
E01C11/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127943
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000112749
【氏名又は名称】フジミ工研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AH06
2D051FA17
2D051FA29
2D059GG39
2D059GG45
(57)【要約】
【課題】 橋梁用伸縮装置の新設及び補修において、施工現場の生産性向上及び品質確保を図る。
【解決手段】 道路構造物にPCa化台座50を介して取り付ける橋梁用伸縮装置であって、PCa化台座50は道路構造物へ定着させる下部台座60と、当該下部台座60の上部に着脱可能に取り付けるとともに伸縮装置本体10を載置する上部台座70とからなる。下部台座60は、伸縮装置本体10を交換する際に、道路構造物に定着した状態となる。また、上部台座70は、伸縮装置本体10を交換する際に、下部台座60から取り外した状態となる。下部台座60と上部台座70は、ワンパス型継手40により着脱する構造とすることが可能である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路構造物にPCa化台座を介して取り付ける橋梁用伸縮装置であって、
前記PCa化台座は道路構造物へ定着させる下部台座と、当該下部台座の上部に着脱可能に取り付けるとともに伸縮装置本体を載置する上部台座とからなり、
前記下部台座は、伸縮装置本体を交換する際に、道路構造物に定着した状態となり、
前記上部台座は、伸縮装置本体を交換する際に、前記下部台座から取り外した状態となる、
ことを特徴とするPca部材を用いた橋梁用伸縮装置。
【請求項2】
前記下部台座に対して前記上部台座を着脱するためのワンパス型継手を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載のPca部材を用いた橋梁用伸縮装置。
【請求項3】
道路構造物にPCa化台座を介して取り付ける橋梁用伸縮装置の施工方法であって、
前記PCa化台座は、道路構造物に定着させる下部台座と、当該下部台座の上部に着脱可能に取り付けるとともに伸縮装置本体を載置する上部台座とからなり、
道路構造物に伸縮装置本体を取り付ける際に、前記下部台座を道路構造物に定着させて、当該下部台座の上部に上部台座を取り付けるとともに、当該上部台座の上部に伸縮装置本体を取り付け、
伸縮装置本体を交換する際に、前記下部台座を道路構造物に定着させたまま、当該下部台座の上部に取り付けた上部台座及び伸縮装置本体を取り外すことにより、伸縮装置本体の交換を行う、
ことを特徴とするPca部材を用いた橋梁用伸縮装置の施工方法。
【請求項4】
前記下部台座と前記上部台座は、ワンパス型継手により着脱する、
ことを特徴とする請求項3に記載のPca部材を用いた橋梁用伸縮装置の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁用伸縮装置及びその施工方法に関するものであり、詳しくは、セパレート化されたPCa化台座を用いて、当該PCa化台座に橋梁用伸縮装置を据え付けるようにしたPca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁用伸縮装置は、車両の通行による摩耗や損傷等の影響を受けるため、適時、交換補修しなければならない。従来、橋梁用伸縮装置を交換補修する際における橋梁用伸縮装置の撤去作業では、人力によるブレーカー等を用いたハツリ作業を行っている。このハツリ作業では、ブレーカーによる騒音が発生する。また、撤去すべき部分と下部構造物との境界が不明瞭となりやすく、下部構造物を不必要に痛めてしまい、橋梁の健全性に影響を与えるおそれがあった。さらに、橋梁用伸縮装置と床版・下部構造物等とを定着するために、多数の固定用のアンカーを床版に設けて、橋梁用伸縮装置との固定に用いており、交換補修時には全てのアンカー等を切断する必要があるため、作業が煩雑となってしまう。
【0003】
従来、橋梁用伸縮装置を容易に取り付けることができるようにした技術が種々提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1に記載された技術は、取付け作業を単純化して短時間で行なえるようにした橋梁用伸縮装置に関するものである。この橋梁用伸縮装置は、対向するそれぞれの橋梁の端部に定着部を予め突設しておく。そして、定着部の上面に橋梁用伸縮装置を載置し、橋梁用伸縮装置の両端の取付け部の取付け穴及び定着部の貫通孔を上下に挿通する固定ボルトを固定ナットに螺合させて橋梁用伸縮装置を定着部に締結固定するようになっている。
【0004】
特許文献1に記載された技術では、橋梁の対向するそれぞれの端部に突設した定着部に橋梁用伸縮装置を載置して締結手段により固定することにより、橋梁用伸縮装置を取付けることができるので、補強鉄筋の配筋作業や溶接作業、後打ちコンクリートの打設作業等が不要となり作業の単純化を図ることができるとしている。
【0005】
特許文献2に記載された技術は、現場以外の工場等で製作した部材を用いて、容易に、組立て、新設、再補修を行うことができるようにした橋梁用ブロック型埋設ジョイント伸縮装置に関するものである。この橋梁用ブロック型埋設ジョイント伸縮装置は、RC床版のはつり範囲で複数に分割した埋設ジョイントを車道全域に載置する。ブロック型埋設ジョイントの長さ方向の所定幅長には、その裏面(背面)に所定寸法の溝を設定している。この溝内に薄板状の調整金具をセットすることにより、橋梁用伸縮装置を設置するようになっている。
【0006】
特許文献2に記載された橋梁用ブロック型埋設ジョイント伸縮装置によれば、現場への搬送が容易であり、設置作業において工数が削減され、短工期で補修工事や新設工事を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-315090号公報
【特許文献2】特開2017-40052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の技術では、既設の橋梁用伸縮装置を撤去する際に、ブレーカー等によるハツリ作業で既設の床版や下部構造物等に対する不必要な損傷が発生する。また、橋梁用伸縮装置の撤去作業に伴い騒音が発生するため、騒音を低減する工夫が必要である。また、橋梁用伸縮装置を床版等に固定するための固定用アンカーが多数必要であり、撤去作業時だけではなく設置作業時にも作業が煩雑となってしまう。また、補修、新設を問わず、人力施工が大勢を占めており、施工品質や耐久性は施工時の作業品質に依存するのが一般的である。さらに、熟練した作業者が高齢化しているため、作業員の確保が困難となっているのが現状である。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、橋梁用伸縮装置の新設及び補修において、施工現場の生産性向上及び品質確保を可能としたPca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。
【0011】
本発明に係る橋梁用伸縮装置及びその施工方法は、道路構造物(例えば、床版)にPCa化台座を介して取り付ける橋梁用伸縮装置及びその施工方法に関するものである。このPCa化台座は、道路構造物へ定着させる下部台座と、当該下部台座の上部に着脱可能に取り付けるとともに伸縮装置本体を載置する上部台座とからなる。
【0012】
そして、下部台座は、伸縮装置本体を交換する際に、道路構造物に定着した状態となり、上部台座は、伸縮装置本体を交換する際に、下部台座から取り外した状態となる。すなわち、道路構造物に伸縮装置本体を取り付ける際に、下部台座を道路構造物に定着させて、当該下部台座の上部に上部台座を取り付けるとともに、当該上部台座の上部に伸縮装置本体を取り付ける。また、伸縮装置本体を交換する際に、下部台座を道路構造物に定着させたまま、当該下部台座の上部に取り付けた上部台座及び伸縮装置本体を取り外すことにより、伸縮装置本体の交換を行う。
【0013】
また、上述した構成からなる橋梁用伸縮装置及びその施工方法では、下部台座に対して上部台座を着脱するためのワンパス型継手を備えることが可能である。すなわち、下部台座と上部台座は、ワンパス型継手により着脱することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法では、上下に分割したPCa化台座を用いて床版等の道路構造物に伸縮装置本体を設置する。そして、伸縮装置本体を交換する際に、下部台座を床版等の道路構造物に定着させたままで、上部台座及びその上部に設置した伸縮装置本体のみを撤去する。また、下部台座と上部台座とは、ワンパス型継手により着脱することができる。
【0015】
したがって、本発明に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置が設置されていれば、伸縮装置本体の補修作業において、ハツリ作業が不要あるいは極一部のみとなり、騒音の発生を低減することができるばかりでなく、床版等の道路構造物に与える影響が極めて小さくなる。また、橋梁用伸縮装置の新設作業や補修交換作業が容易なものとなり、施工費用を低減できる可能性があるとともに、施工品質を向上させることができる。
【0016】
このように、本発明に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置及びその施工方法によれば、橋梁用伸縮装置の新設及び補修において、施工現場の生産性向上及び品質確保が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置に用いる下部台座の模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置に用いる上部台座の模式図。
【
図3】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置に用いるワンパス型継手の模式図。
【
図4】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図5】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図6】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図7】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図8】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図9】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図10】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図11】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図。
【
図12】本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置の下部台座に設置する防水機構を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置及びその施工方法を説明する。
図1~12は本発明の実施形態に係る橋梁用伸縮装置及びその施工方法を説明するもので、
図1は下部台座の模式図(a:平面図、b:縦断面図、c:側面図)、
図2は上部台座の模式図(a:平面図、b:縦断面図、c:側面図)、
図3はワンパス型継手の模式図、
図4~11は橋梁用伸縮装置の設置手順を示す模式図、
図12は下部台座の防水機構を示す模式図(a:斜視図、b:縦断面拡大図)である。
【0019】
<橋梁用伸縮装置及びその施工方法の概要>
本発明は、橋梁用伸縮装置の施工工事において、伸縮装置本体を従来通りの施工方法で床版や道路構造物に直接設置するのではなく、伸縮装置本体を据え付けるための台座(以下、PCa化台座という)を、床版等の構造物に定着させたのちに、PCa化台座に対して、伸縮装置本体を据え付ける構造となっている。この施工方法は、特に、伸縮装置本体の交換工事において有用に適用することができるが、伸縮装置本体を新設する際にも適用することができる。
【0020】
なお、PCa化台座は、伸縮装置本体を交換する際に、騒音を低減させながら、熟練した作業者でなくとも、容易かつ迅速であって、確実に取り外す事ができるように、セパレートされた(上下に分割された)構造となっており、下部台座と上部台座とから構成されている。
【0021】
また、上部台座は、下部台座に対して着脱可能に取り付けられている。下部台座と上部台座を着脱する機構には、伸縮装置本体を交換する際に、騒音を低減するとともに、容易に着脱することができるように、シールドトンネル用セグメントに用いられるワンパス型継手を使用する。さらに、上部台座と伸縮装置本体を工場にて一体構造として制作することにより、より一層、施工を容易かつ迅速に行うことができるとともに、施工費用を低減できる可能性がある。
【0022】
<伸縮装置本体>
伸縮装置本体10は、橋梁において橋桁の温度伸縮やクリープによる収縮を拘束せず、橋梁を通過する自動車等の走行性能を損なわないように、橋桁の伸縮に追従させるための装置である。本実施形態における伸縮装置本体10は、従来より用いられている一般的な構造の装置であり、
図4に示すように、道路の延長方向(車両の進行方向)に二分割されるとともに、間隔を置いて設置された一対の基礎部11を備えている。伸縮装置本体10の本体部12は、一対の基礎部11の間に掛け渡すようにして設置されている。また、各基礎部11の内部に配筋した鉄筋63の下端部(アンカー筋)を、床版20に埋め込むことにより、各基礎部11が床版20に定着してある。また、一対の基礎部11の間には、防水機構30が設けてある。なお、伸縮装置本体10は、
図1に示す構造に限られず、上部台座70に取り付けることができれば、その構造はどのようなものであってもよい。
【0023】
<PCa化台座>
本発明は、伸縮装置本体10を設置するためのPCa(Precast Concrete)化台座に特徴がある。本実施形態のPCa化台座50は、予め工場で製作された部材であり、下部台座60と、下部台座60に対して着脱可能に取り付ける上部台座70とからなる。本実施形態では、下部台座60と上部台座70との着脱にワンパス型継手40を用いている。なお、後に詳述するが、下部台座60は床版20に固定するための機能を有する部材のことであり、床版20と一体となっている場合もある。また、上部台座70は、上部に伸縮装置本体10を取り付けるとともに、下部台座60に対して着脱可能な部材のことであり、伸縮装置本体10と一体となっている場合もある。
【0024】
<下部台座>
下部台座60は、
図1に示すように、道路の延長方向(車両の進行方向)に二分割された一対の下部台座本体61を備えている。各下部台座本体61は、互いに対向する側に端部鋼板62を設けるとともに、内部には複数の鉄筋63が配筋されており、格子状にコンクリート64が打設されている。また、格子状に打設されたコンクリート64に囲まれた空間部には、固定鉄筋65を介してワンパス型継手40の雌部材41が取り付けてある。
【0025】
図1に示す例では、下部台座60を製作する際に雌部材41の設置位置を定めているが、所定の範囲内で雌部材41の設置位置を任意に設定できる構造としてもよい。すなわち、工場で下部台座60を製作する際に、雌部材41の設置位置を固定せずに、下部台座60を設置する現場において、所定の範囲内で適宜位置に雌部材41を設置できるようにしておくことが好ましい。これにより、床版20等の配筋状態に合わせて、雌部材41を設置することができ、床版20等の鉄筋(図示せず)に損傷を与えることなく、下部台座60を容易に設置することができる。このような構造とした場合には、上部台座70においても、雌部材41の設置位置に合わせて雄部材42の設置位置を設定できるようにする必要がある。
【0026】
下部台座60は、複数のアンカー67を用いて床版20に固定する。例えば、下部台座60を床版20に設置した後、下部台座60の鉄筋63にアンカー67を溶接する。そして、下部台座60の間隙にコンクリートを打設し、あるいは、下部台座60の間隙にモルタル(無収縮系)を充填することにより、床版20に対して下部台座60を固定する(
図6、
図7参照)。また、本実施形態では、床版20に定着させる構造の下部台座60を示したが、下部台座60を床版20と一体にPCa化してもよい。すなわち、PCa化した床版20と、当該床版20と一体にPCa化した下部台座60とを、本発明で規定する下部台座60として機能させることができる。
【0027】
<防水機構>
下部台座60には、
図12に示すように、一対の下部台座本体61の間において防水を行うための防水機構30を設置することが好ましい。一対の下部台座本体61の間に掛け渡す止水材32は、固定部36と、断面略U字状となった自由部37とを有している。この止水材32により、一対の下部台座本体61の間で止水を行うことができる。
【0028】
防水機構30を取り付ける下部台座60aは、
図6に示す下部台座60とほぼ同様の構造であるため、同様の部材には同一の符号を付して説明する。防水機構30を取り付ける下部台座60aには、互いに対向する側の上部に切欠部66が設けてあり、切欠部66の底面から下部台座本体61の側面に沿って、断面略L字状の端部鋼板62aが取り付けてある。また、切欠部66に取り付けた端部鋼板62aの下面にはナット(袋ナット)31を埋め込んでおく。
【0029】
そして、一方の端部鋼板62aの上面に止水材32の一端部である固定部36を載置して、固定部36の上部から切欠部66内に支圧板33を臨ませ、支圧板33に設けたボルト挿通孔34の上部からボルト35を挿通し、ボルト35の先端部をナット(袋ナット)31にネジ付けることにより、一方の下部台座本体61に対して止水材32(固定部36)を固定する。ボルト挿通孔34は支圧板33の長さ方向に沿って複数設けてあり、このボルト挿通孔34に対向させて、下部台座本体61には複数のナット(袋ナット)31が埋め込まれている。
【0030】
同様に、他方の端部鋼板62aの上面に止水材32の他端部である固定部36を載置して、固定部36の上部から切欠部66内に支圧板33を臨ませ、支圧板33に設けたボルト挿通孔34の上部からボルト35を挿通し、ボルト35の先端部をナット(袋ナット)31にネジ付けることにより、他方の下部台座本体61に対して止水材32(固定部36)を固定する。また、止水材32は自由部37を有しているため、伸縮装置本体10の動作に追随して、橋桁の温度伸縮やクリープによる収縮を拘束することがない。
【0031】
止水材32は、ゴム、SUS等からなり、設置する際には、排水処理や端末処理等を考慮して施工する。なお、止水材32は下部台座60を床版20に固定して、伸縮装置本体10を交換する際に床版20に残置する部材であるが、経年劣化するおそれがある。したがって、伸縮装置本体10及び上部台座70を交換する際には、一対の下部台座本体61を床版20に固定した状態で、止水材32材等からなる防水機構30を交換することが好ましい。
【0032】
<上部台座>
上部台座70は、
図2に示すように、道路の延長方向(車両の進行方向)に二分割された一対の上部台座本体71を備えている。各上部台座本体71は、内部に複数の鉄筋72が配筋されるとともに、コンクリート73が打設されている。また、下部台座60に設置した雌部材41に対応する位置には、固定鉄筋74を介してワンパス型継手40の雄部材42が取り付けてある。
【0033】
図2に示す例では、上部台座70を製作する際に雄部材42の設置位置を定めているが、所定の範囲内で雄部材42の設置位置を任意に設定できる構造としてもよい。上述したように、工場で下部台座60を製作する際に、雌部材41の設置位置を固定せずに、PCa化台座50を設置する現場において、所定の範囲内で適宜位置に雌部材41を設置できるようにしておくことができる。このような構造とした場合には、上部台座70においても、雌部材41の設置位置に合わせて雄部材42の設置位置を設定できるようにする必要がある。
【0034】
また、本実施形態では、下部台座60と上部台座70とを一体化した後に、上部台座70の上部に伸縮装置本体10を取り付ける構造としているが、上部台座70を伸縮装置本体10と一体にPCa化してもよい。すなわち、PCa化した上部台座70と、当該上部台座70と一体にPCa化した伸縮装置本体10とを、本発明で規定する上部台座70として機能させることができる。
【0035】
<ワンパス型継手>
ワンパス型継手40は、下部台座60と上部台座70を着脱可能に接続するための機構の一例である。このワンパス型継手40は、下部台座60と上部台座70を着脱可能に接続するための継手で、クイックジョイントと称されることもある。このワンパス型継手40は、
図3及び
図6~11に示すように、雌部材41と雄部材42とからなる。雌部材41は、雄部材42の先端部(固定ボルト44)を押し込むための凹部43を有している。
【0036】
雌部材41の凹部43内には、雄部材42を構成する固定ボルト44の外周面に設けた雄ネジ部45をネジ付けるための雌ネジ部46が設けてある。また、図示しないが、雌ネジ部46よりも凹部43の開放端側に位置するとともに、凹部43内の軸方向に移動可能であり、雄ネジ部45を押し込むことを許容し、雄ネジ部45が押し込まれた後は雄ネジ部45に密着することにより凹部43内から雄ネジ部45が引き抜かれることを阻止する止着部材(図示せず)を設けてある。
【0037】
一方、雄部材42は、雌部材41の凹部43内に挿入するための固定ボルト44と、上部台座70に定着させるためのアンカー部47とを有している。本実施形態において、アンカー部47は、固定ボルト44を挿通するための鞘管47aと、鞘管47aの下端部から外周に向かって突出して設けたフランジ部47bとを有している。また、固定ボルト44の先端部には、雌部材41の凹部43に設けた雌ネジ部46にネジ付けるための雄ネジ部45を設けてある。なお、雄ネジ部45は、固定ボルト44の全長にわたって設けてもよく、この場合には、鞘管47aの内壁面に雌ネジ部(図示せず)を設けてもよい。
【0038】
本実施形態では、下部台座60に雌部材41を取り付け、上部台座70に雄部材42を取り付けるようになっている。そして、下部台座60の上方に上部台座70を臨ませて、雌部材41の凹部43に設けた止着部材に雄部材42の固定ボルト44の先端部を押し込み、さらに雌部材41の凹部43に設けた雌ネジ部46に固定ボルト44の雄ネジ部45をネジ付けることにより、ワンパス型継手40を用いて、下部台座60と上部台座70を連結して固定することができる。
【0039】
また、雄部材42の固定ボルト44を連結解除方向に回すことにより、雌部材41の凹部43に設けた雌ネジ部46及び止着部材(図示せず)から固定ボルト44を取り外し、ワンパス型継手40による下部台座60と上部台座70の連結状態を解除することができる。
【0040】
本実施形態では、下部台座60と上部台座70を着脱可能に固定するためにワンパス型継手40を用いている。ワンパス型継手40の構造は上述したものに限られず、下部台座60に上部台座70を固定して一体とすることができるとともに、下部台座60と上部台座70の固定を解除して両者を切り離すことができれば、どのような構造であってもよい。さらに、下部台座60と上部台座70を着脱可能に固定する機構はワンパス型継手40に限られず、下部台座60に上部台座70を固定して一体とすることができるとともに、下部台座60と上部台座70の固定を解除して両者を切り離すことができれば、どのような機構を用いてもよい。
【0041】
<橋梁用伸縮装置の施工手順>
図4~10を参照して、本発明の実施形態に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置の施工方法を説明する。
図4は既存の橋梁用伸縮装置が設置された状態を示す説明図、
図5は既存の橋梁用伸縮装置を撤去した状態を示す説明図、
図6は下部台座60を設置した状態を示す説明図、
図7は下部台座60の設置後に間詰打設(充填)工程を実施した状態を示す説明図、
図8は上部台座70を設置する工程を示す説明図、
図9~10は新たな伸縮装置本体10を設置する工程を示す説明図、
図11は伸縮装置本体10及び上部台座70を撤去する工程を示す説明図である。なお、以下の説明では、PCa化台座50を固定する対象は床版20であるが、橋梁の構造に応じて、床版20ではなく、他の道路構造物にPCa化台座50を固定してもよい。
【0042】
以下に説明する橋梁用伸縮装置の施工手順では、既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合も説明している。この点、本発明の橋梁用伸縮装置の施工方法は、既設の橋梁用伸縮装置を撤去する際に、ブレーカー等によるハツリ作業で既設の床版20や下部構造物等に対する不必要な損傷が発生することを防止するとともに、橋梁用伸縮装置の撤去作業に伴い発生する騒音を低減することを目的としている。
【0043】
しかし、既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合に、この橋梁用伸縮装置を撤去しなければ、本発明の実施形態に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置を設置することはできない。そして、本発明の実施形態に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置を設置した後には、上述した本発明の目的を達成することができる。そこで、既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合についても説明を行っており、この既存の橋梁用伸縮装置を撤去する工程は、以後、橋梁用伸縮装置(伸縮装置本体10)の交換を行うために必要な工程であるため、本発明の目的に反するものではない。
【0044】
<施工手順/既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合>
図4に示すように、既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合には、この橋梁用伸縮装置を撤去する必要がある。そこで、ブレーカー等によるハツリ作業により、既存の橋梁用伸縮装置を撤去する。ハツリ作業は、PCa化台座50及び新たな伸縮装置本体10を設置するための空間を確保するための作業である。ハツリ作業が終了すると、
図5に示すように、既存の橋梁用伸縮装置を床版20に定着させるためのアンカー筋(鉄筋13)の下部が床版20に残った状態となる。
【0045】
この状態で、
図6に示すように、ハツリ作業で形成した空間の下部に下部台座60を設置し、アンカー67を用いて下部台座60を床版20に接続する。続いて、
図7に示すように、間詰打設(充填)工程を実施し、
図8に示すように、下部台座60の上方から上部台座70を臨ませ、ワンパス型継手40(下部台座60に設けた雌部材41と上部台座70に設けた雄部材42)により、下部台座60と上部台座70を一体化して固定する。なお、
図7及び
図8において、符号68は間詰材(コンクリートやモルタル)を示す。
【0046】
その後、
図9に示すように、上部台座70の上方から新たな伸縮装置本体10を臨ませて、上部台座70に新たな伸縮装置本体10を設置する。そして、
図10に示すように、上部台座70と新たな伸縮装置本体10とを設置した空間内に後打ちコンクリート80を打設して、新たな伸縮装置本体10の設置を完了する。
【0047】
<施工手順/PCa化台座(下部台座)が設置されている場合>
図10に示すように、本発明の実施形態に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置が既に設置されている場合には、
図11に示すように、上部台座70に設けたワンパス型継手40の雄部材42と、下部台座60に設けたワンパス型継手40の雌部材41との連結を解除する。雄部材42の固定ボルト44を連結解除方向に回すことにより、雌部材41の凹部43に設けた雌ネジ部46及び止着部から固定ボルト44を取り外し、ワンパス型継手40による下部台座60と上部台座70の連結状態を解除することができる。そして、一体となった伸縮装置本体10及び上部台座70を撤去すると、
図7に示すように、床版20に固定した下部台座60が残置された状態となる。
【0048】
この状態から、
図8に示すように、ワンパス型継手40により下部台座60と上部台座70を一体化して固定する。そして、
図9に示すように、上部台座70の上方から新たな伸縮装置本体10を臨ませて、上部台座70に新たな伸縮装置本体10を設置する。さらに、
図10に示すように、上部台座70と新たな伸縮装置本体10とを設置した空間内に後打ちコンクリート80を打設して、新たな伸縮装置本体10の設置を完了する。
【0049】
<施工手順/PCa化台座を新設する場合>
橋梁施工時に本発明の実施形態に係るPca部材を用いた橋梁用伸縮装置を新たに設置する場合には、
図5に示すように、PCa化台座50及び伸縮装置本体10を設置する空間を確保しておく。なお、
図5~11は既存の橋梁用伸縮装置を撤去した状態を示しているため、アンカー筋(鉄筋13)が存在するが、橋梁施工時にPCa化台座50を新設する場合にはアンカー筋(鉄筋13)は存在しない。
【0050】
続いて、既存の橋梁用伸縮装置が存在する場合と同様にして、
図6に示すように、下部台座60を設置し、アンカー67を用いて下部台座60を床版20に固定した後に、
図7に示すように、間詰打設(充填)工程を実施し、
図8に示すように、下部台座60の上方から上部台座70を臨ませ、ワンパス型継手40(下部台座60に設けた雌部材41と上部台座70に設けた雄部材42)により、下部台座60と上部台座70を一体化して固定する。また、本実施形態に係る橋梁用伸縮装置を新設する場合には、図示したアンカー67を用いる場合の他、床版20にアンカー筋のような先付けアンカー(床版埋込アンカー)を埋め込んでおいてもよい。さらに、ワンパス型継手40の雌部材41の下部にアンカー部(図示せず)を一体に設けることにより、当該アンカー部をアンカー67の補助的要素としてもよい。
【0051】
その後、
図9に示すように、上部台座70の上方から新たな伸縮装置本体10を臨ませて、上部台座70に新たな伸縮装置本体10を設置し、
図10に示すように、上部台座70と新たな伸縮装置本体10とを設置した空間内に後打ちコンクリート80を打設して、新たな伸縮装置本体10の設置を完了する。
【0052】
<他の実施形態>
上述した施工手順の説明では、
図1及び
図2に示す下部台座60及び上部台座70からなるPCa化台座50を用いた場合を説明した。上述したように、下部台座60と上部台座70を着脱可能に連結する部材はワンパス型継手40に限られない。また、ワンパス型継手40を用いた場合には、雌部材41及び雄部材42の設置位置を調整可能とすることができる。また、下部台座60に防水機構30を設けることもできる。さらに、床版20と下部台座60とを一体にPCa化して製作してもよいし、上部台座70と伸縮装置本体10とを一体にPCa化して製作してもよい。
【0053】
このような構造のPCa化台座50を用いた場合には、上述した施工手順に準じて、適宜、施工手順を変更して、道路構造物(床版20)に対して、Pca部材を用いた橋梁用伸縮装置を取り付け、あるいは撤去することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 伸縮装置本体
11 基礎部
12 本体部
13 伸縮装置本体の鉄筋
20 床版
30 防水機構
31 ナット
32 止水材
33 支圧板
34 ボルト挿通孔
35 ボルト
36 固定部
37 自由部
40 ワンパス型継手
41 雌部材
42 雄部材
43 凹部
44 固定ボルト
45 雄ネジ部
46 雌ネジ部
47 雄部材のアンカー部
47a 鞘管
47b フランジ部
50 PCa化台座
60 下部台座
60a 防水機構を取り付ける下部台座
61 下部台座本体
62 端部鋼板
62a 防水機構を取り付ける端部鋼板
63 下部台座の鉄筋
64 コンクリート
65 固定鉄筋
66 切欠部
67 アンカー
68 間詰材
70 上部台座
71 上部台座本体
72 上部台座の鉄筋
73 コンクリート
74 固定鉄筋
80 後打ちコンクリート