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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023012
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】がん治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/683 20060101AFI20230209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61K 35/618 20150101ALI20230209BHJP
【FI】
A61K31/683
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K35/618
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128152
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】庭瀬 紗明
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB16
4C087CA06
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】がん治療に有効な組成物を提供すること。
【解決手段】動物組織から抽出されたプラズマローゲンを含有することを特徴とする組成物である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん細胞のアポトーシス誘導用組成物。
【請求項2】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするマクロファージ活性化用組成物。
【請求項3】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするGPR21活性化用組成物。
【請求項4】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん組織における細胞外基質破壊用組成物。
【請求項5】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん細胞増殖抑制用組成物。
【請求項6】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん治療用組成物。
【請求項7】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項1記載のがん細胞のアポトーシス誘導用組成物。
【請求項8】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項2記載のマクロファージ活性化用組成物。
【請求項9】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項3記載のGPR21活性化用組成物。
【請求項10】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項4記載のがん組織における細胞外基質破壊用組成物。
【請求項11】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項5記載のがん細胞増殖抑制用組成物。
【請求項12】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項6記載のがん治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療に有効な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマローゲンは、神経新生の促進作用や、リポポリサッカロイド(LPS)による神経炎症の抑制作用、脳内アミロイドβ(Aβ)タンパクの蓄積の抑制作用等を有することが知られており、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、統合失調症などの脳神経病において効果があるといわれている。例えば、非特許文献1では、ホタテ由来精製プラズマローゲンを経口投与した患者において、軽度アルツハイマー病の記憶機能を改善することが報告されている。
【0003】
一方、日本におけるがん患者は、年々増加しており、日本人の2人に1人は生涯において何らかのがんにかかるといわれている。また、日本人の3人に1人はがんで死亡しているというデータがある。
医療技術等の進歩により、がん患者の生存率は上昇しているものの、さらなる効果的な治療手段が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fujino T.et al, “Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer's Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial” EBioMedicine, [17] (2017) 199-205
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、プラズマローゲンに関する種々の報告がなされているが、がんに関するプラズマローゲンの効果については詳細に検討がなされていない。
【0006】
本発明の課題は、がん治療に有効な組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、プラズマローゲンが、がん細胞のアポトーシスを誘導して、がん細胞の増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん細胞のアポトーシス誘導用組成物。
[2]プラズマローゲンを含有することを特徴とするマクロファージ活性化用組成物。
[3]プラズマローゲンを含有することを特徴とするGPR21活性化用組成物。
[4]プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん組織における細胞外基質破壊用組成物。
[5]プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん細胞増殖抑制用組成物。
[6]プラズマローゲンを含有することを特徴とするがん治療用組成物。
【0009】
[7]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[1]記載のがん細胞のアポトーシス誘導用組成物。
[8]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする[2]記載のマクロファージ活性化用組成物。
[9]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする[3]記載のGPR21活性化用組成物。
[10] 前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする[4]記載のがん組織における細胞外基質破壊用組成物。
[11]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[5]記載のがん細胞増殖抑制用組成物。
[12]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[6]記載のがん治療用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、がん細胞のアポトーシスを誘導して、がん細胞の増殖を抑制することができ、がんの治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】マウスから摘出した腫瘍の大きさを示す写真である。
図1B】マウスから摘出した腫瘍の重量を比較した図である。
図2A】マウスの腫瘍組織において誘発されたアポトーシスを示す写真である。
図2B】マウスの腫瘍組織において誘発されたアポトーシスの細胞数を比較した図である。
図3A】マウスの腫瘍組織のヘマトキシリン・エオジン染色による細胞外基質を示す写真である。
図3B】マウスの腫瘍組織において断裂した細胞外基質の相対数を比較した図である。
図4A】マウスの腫瘍組織においてGPR21遺伝子の発現を示す写真である。
図4B】マウスの腫瘍組織においてGPR21遺伝子陽性細胞の相対数を比較した図である。
図5A】マウスの腫瘍組織のCD16陽性NK細胞及びGPR21遺伝子発現の検出結果を示す図である。
図5B】CD16陽性NK細胞の相対数を比較した図である。
図6A】F4/80陽性活性型マクロファージ及びGPR21遺伝子発現の検出結果を示す図である。
図6B】F4/80陽性細胞の相対数を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組成物は、プラズマローゲンを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、がん細胞のアポトーシスを誘導し、また、NK細胞やマクロファージを活性化させることにより、がん細胞の増殖を抑制することができる。これにより、がん組織(悪性腫瘍組織)の増大抑制や、縮小化を図ることができる。また、本発明の組成物は、Gタンパク質共役受容体21(GPR21)を活性化することができ、この活性化は、がん細胞の増殖抑制に寄与していると考えられる。さらに、本発明の組成物は、浸潤がん等にみられる細胞外基質を破壊させることができる。
【0013】
したがって、本発明の組成物は、がん細胞のアポトーシス誘導用組成物、マクロファージ活性化用組成物、GPR21活性化用組成物、がん組織における細胞外基質破壊用組成物、がん細胞増殖抑制用組成物、がん転移抑制用組成物、がん治療用組成物等として用いることができる。具体的に、例えば、がん患者に対する症状の緩和や治療に用いることができる。
【0014】
プラズマローゲンは、抗酸化作用を有するリン脂質の一種で、グリセロリン脂質の一つである。グリセロール骨格のsn-1位にビニールエーテル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質に特有のサブクラスであり、多くの哺乳類の組織の細胞膜中に高濃度で確認されている。
【0015】
本発明に用いるプラズマローゲンは、一般にプラズマローゲンに分類されるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲン、イノシトール型プラズマローゲン、セリン型プラズマローゲンを挙げることができる。これらの中でも、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲンが好ましく、エタノールアミン型プラズマローゲンが特に好ましい。
【0016】
本発明のプラズマローゲンは、動物組織から抽出することができる。動物組織としては、プラズマローゲンを含むものであれば特に制限されるものではなく、貝類、ホヤ、ナマコ、サケ、サンマ、カツオなどの水産動物や、鳥類等を挙げることができる。これらの中でも、貝類、ホヤ、鳥類が好ましく、貝類が特に好ましい。用いる部位としては、食用部位(可食部位)が好ましい。これらの動物組織は、切断物であってもよいが、より効率的にプラズマローゲンを抽出できることから、粉砕物を用いることが好ましい。
【0017】
貝類としては、ホタテ類、ムールガイ、アワビ等の食用の二枚貝や巻貝を例示することができ、ホタテ類が特に好ましい。ホタテ類は、イタヤガイ科に属する食用の二枚貝であり、例えば、Mizuhopecten属、Pecten属に属するものを挙げることができる。具体的には、日本で採取されるホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)や、ヨーロッパで採取されるヨーロッパホタテ(学名:Pecten maximus(Linnaeus))等を挙げることができる。食用部位としては、貝柱、ひも等を挙げることができる。
【0018】
ホヤは、マボヤ科に属する食用の脊索動物であり、マボヤ属、アカボヤ属に属するものを挙げることができる。具体的には、マボヤ(学名:Halocynthia roretzi)や、アカボヤ(学名:Halocynthia aurantium)等を挙げることができる。食用部位としては、身の部分(筋膜体)を挙げることができる。
【0019】
鳥類は、食用の鳥類であれば特に制限されるものではなく、例えば、鶏、烏骨鶏、鴨等を挙げることができる。食用部位としては、プラズマローゲンを豊富に含むムネ肉が好ましい。
【0020】
プラズマローゲンの抽出は、水、有機溶媒、含水有機溶媒を用いて行うことができ、酵素処理を併用することが好ましい。例えば、エタノール抽出法や、ヘキサン抽出法を挙げることができ、エタノール抽出法が好ましい。
【0021】
エタノール抽出法としては、エタノール(含水エタノールを含む)を用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、特開2019-140919号公報、特開2018-130130号公報、再表2012-039472号公報、特開2010-065167号公報、特開2010-063406号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0022】
ヘキサン抽出法としては、ヘキサンを用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、再表2009-154309号公報、再表2008-146942号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0023】
本発明の組成物は、医薬品として用いることができる。また、がん治療を補助する食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などのいわゆる健康食品を含む)として用いることができる。
【0024】
本発明の組成物は、経口用であっても、注射、点滴等の非経口用であってもよいが、手軽に摂取できる点から、経口用であることが好ましい。経口用の場合、その形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固体状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル状、スティック状等を挙げることができる。これらの中でも、カプセル状の形態が好ましい。
【0025】
本発明の組成物におけるプラズマローゲンの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。その形態にもよるが、例えば、プラズマローゲンが、乾燥質量換算で、本発明の組成物全体の10-10質量%以上であることが好ましく、10-5質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の経口組成物の摂取量としては特に制限はないが、本発明の効果をより顕著に発揮させる観点から、プラズマローゲンの摂取量が、成人の1日当たり、10-6μg/日以上となるように摂取することが好ましく、1μg/日以上となるように摂取することがより好ましく、500μg/日以上となるように摂取することがさらに好ましく、1000μg/日以上となるように摂取することが特に好ましい。その上限は、例えば、20,000μg/日であり、好ましくは10,000μg/日である。
【0027】
本発明の経口組成物は、1日の摂取量が前記摂取量となるように、1つの容器に、又は例えば2~3の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0028】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の成分以外の他の成分を添加して、公知の方法によって製造することができる。本発明の成分以外の他の成分としては、例えば、ビタミン、ミネラル、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、動物性油、植物性油を挙げることができる。
【0029】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例0030】
プラズマローゲン投与によるマウスの腫瘍抑制効果について検討した。
【0031】
[プラズマローゲン]
プラズマローゲン(sPls)は、ホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)から、以下の方法にて調製したヘキサン抽出エタノールアミン型プラズマローゲン(主としてエタノールアミン型プラズマローゲンを含み、その他、コリン型プラズマローゲンを含む)を用いた。
【0032】
1. 生ホタテヒモにコクラーゼP(三菱ケミカルフーズ株式会社製)とホスホリパーゼA1(PLA1)(三菱ケミカルフーズ株式会社製)を加え混和する。
2. 次に、ヘキサン/イソプロパノールを加え、上澄みを吸引濾過する。
3. 硫酸ナトリウム水溶液を加えてよく混和する。
4. 上層をロータリーエバポレーターで乾固する。
5. 4℃に冷却したアセトンを加え混和する。
6. 3000rpm,10min,4℃で遠心する。
7. 上清を捨て、沈殿を回収する。
8. デシケータで一晩乾燥する。
【0033】
[in vivo異種腫瘍移植実験]
末梢血中の機能的なT細胞及びB細胞が欠失し、重症複合免疫不全症を呈するSCID(Severe Combined Immunodeficiency)マウスを用いて、in vivo異種腫瘍移植実験を実施した。
【0034】
8週齢のSCIDマウスに、超純水に懸濁したsPlsを、0.02mg/kg/day(sPls換算)の投与量で、6週間経口投与した。コントロールには、超純水を6週間経口投与した。sPls投与群及びコントロール群ともに5匹/群とし、全実験期間中を通してSPF(Specific pathogen free)環境下で飼育した。
【0035】
[がん細胞の移植]
10%FBS含有DEME培地で培養したがん細胞(ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞)5×10cells/mLの細胞懸濁液100μLをマトリゲル(基底膜基質、コラーゲンタイプ1)と混合し、上記sPlsまたは超純水を6週間経口投与した各マウスの背部に皮下移植した。SH-SY5Y細胞の移植4週間後に、各マウスから腫瘍を摘出し、重量及び大きさを測定した。
【0036】
図1Aに、コントロール群及びsPls投与群の各マウスから摘出した腫瘍の大きさを示す。図1Bに、切除した腫瘍の重量(mg)の平均値及びスチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0037】
図1Aに示すように、sPls投与群は、コントロール群に比べ、腫瘍の顕著な縮小が認められた。また、図1Bに示すように、sPls投与群は、コントロール群に対し、腫瘍重量の統計学的に有意な減少が認められた。したがって、プラズマローゲンを投与することにより、腫瘍細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。
【実施例0038】
実施例1で摘出した各マウスの腫瘍の組織標本を作製して、プラズマローゲンによる腫瘍細胞のアポトーシスの誘導を検討した。具体的には、以下の操作を行った。
【0039】
1.sPls投与群及びコントロール群の各マウスから摘出した腫瘍組織をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄する。
2.4%パラフォルムアルデヒドで固定する。
3.固定した腫瘍組織を凍結切片作製用包埋剤に包埋し、-80℃で凍結する。
4.Cryostat Microm HM550を用いて厚さ10μmの組織標本を作製する。
5.TUNEL法によるIn Situ細胞死検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて、組織標本中のアポトーシスによる断片化DNAをビオチン標識ヌクレオチドで標識した後TUNEL,HRP標識ストレプトアビジンを反応させて染色する。
6.細胞核はDAPIで染色する。
【0040】
図2Aに、コントロール群及びsPls投与群のマウスの腫瘍組織におけるアポトーシス細胞の局在を示す。図2Bに、コントロール群及びsPls投与群のTUNEL陽性細胞数について、スチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0041】
図2Aに示すように、sPls投与群では、コントロール群に比べ、腫瘍組織におけるTUNEL陽性細胞が多く観察された。また、図2Bに示すように、sPls投与群では、コントロール群に比べ、TUNEL陽性細胞数が統計学的に有意に増加していることが認められた。
したがって、プラズマローゲンは、がん細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍縮小作用を有することが示唆された。
【実施例0042】
がん細胞は、腫瘍間質における線維芽細胞からのI型コラーゲン産生促進・コラーゲン線維の架橋増生・細胞性フィブロネクチンの増加を引き起こし、がん細胞周囲の細胞外基質を硬く変質させる。一方、硬度を増強した細胞外基質は、メカニカルストレスとしてがん細胞に作用し、がんの増殖・浸潤、転移能の増強に関与する。
このように、がん細胞と細胞外基質の相互作用は、腫瘍の進展に深く関連していることから、sPls投与群及びコントロール群の各マウスの腫瘍組織について、プラズマローゲンによる細胞外基質の変化を検討した。具体的には、以下の操作を行った。
【0043】
1.腫瘍の組織標本をヘマトキシリンで細胞核を染色する。
2.水洗後、エオジンで細胞質を染色する。
3.エタノール系列で脱水を行い、キシレンで透徹する。
4.封入剤を滴下し、カバーガラスで封入してヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製する。
5.ヘマトキシリン・エオジン染色標本について光学顕微鏡で組織学的観察を行う。
【0044】
図3Aに、コントロール群及びsPls投与群のマウスについて、ヘマトキシリン・エオジン染色した腫瘍組織における細胞外基質を示す。また、図3Bに、同じ面積の腫瘍部位より断裂した細胞外基質を数量化し、スチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0045】
図3Aに示すように、コントロール群のマウスの腫瘍組織では、浸潤性腫瘍によく見られる細胞外基質が明瞭に観察されたが、sPls投与群のマウスの腫瘍組織では、腫瘍の退行期にみられる細胞外基質の断裂が確認された。また、図3Bに示すように、断裂した細胞外基質の相対数が、統計学的に有意に増加していることが確認された。
したがって、プラズマローゲンは、がんの転移や、がんの治療に有効であることが示唆された。
【実施例0046】
sPls投与群及びコントロール群の各マウスの腫瘍組織について、プラズマローゲン受容体であるGタンパク質共役受容体21(GPR21)の発現を検討した。具体的には、以下の操作を行った。
【0047】
一次抗体としてGPR21抗体 (Invitrogen社) を用い、二次抗体 としてFITC複合抗ウサギIgGを用いて、免疫組織化学的手法によりマウスの腫瘍組織中のGPR21陽性細胞の検出を行った。蛍光顕微鏡 (Axopskope 2,Zeiss社)によりGPR21陽性細胞を観察した。
【0048】
図4Aに、コントロール群及びsPls投与群のマウスの腫瘍組織におけるGPR21陽性細胞の局在を示す。また、図4Bに、コントロール群及びsPls投与群におけるGPR21陽性細胞相対数のスチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0049】
図4Bに示すように、sPls投与群では、コントロール群に対して腫瘍組織において統計学的に有意にGPR21発現量が増加することが確認された。
【実施例0050】
末梢血リンパ球は、T細胞、B細胞及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)の3つの細胞集団で構成され、免疫機能の中心的役割を担っている。CD16抗原の発現はNK細胞の細胞障害活性と関連しており、CD16陽性を示すNK細胞は強い細胞障害活性を示し、悪性腫瘍細胞の破壊などに必須の役割を果たしている。sPls投与群及びコントロール群の各マウスの腫瘍組織について、プラズマローゲンによる腫瘍組織におけるCD16陽性NK細胞の増加を検討した。具体的には、以下の操作を行った。
【0051】
ウサギGPR21抗体(Invitrogen社)及びラットCD16抗体(BD Pharmingen社)を用いて、免疫組織化学的手法によりマウスの腫瘍組織中のCD16陽性NK細胞の検出を行った。蛍光顕微鏡 (Axioskope 2、 Zeiss社)によりCD16陽性NK細胞を観察した。
【0052】
図5Aに、コントロール群及びsPls投与群の腫瘍組織におけるCD16陽性活性型NK細胞、GPR21陽性細胞及び両者を複合した免疫組織化学染色の結果を示す。また、図5Bに、コントロール群及びsPls投与群におけるCD16陽性細胞の相対数のスチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0053】
図5Aに示すように、sPls投与群の腫瘍組織において、CD16陽性NK細胞の増加が確認された。また、NK細胞においてsPls受容体であるGPR21が多く発現していることが認められた。
図5Bに示すように、sPls投与群では、コントロール群に対して腫瘍組織において統計学的に有意にCD16陽性NK細胞が増加していることが確認された。
【実施例0054】
sPls投与群及びコントロール群の各マウスの腫瘍組織について、プラズマローゲンによる腫瘍組織におけるF4/80陽性活性型マクロファージの増加を検討した。具体的には、以下の操作を行った。
【0055】
マウスの成熟マクロファージの主要なマーカーである抗F4/80抗体(abcam社、ab16911)を用いて、免疫組織化学的手法によりマウスの腫瘍組織中のF4/80陽性活性型マクロファージの検出を行った。蛍光顕微鏡 (Axioskope 2、 Zeiss社)によりF4/80陽性活性型マクロファージを観察した。
【0056】
図6Aに、コントロール群及びsPls投与群の各マウスの腫瘍組織におけるF4/80陽性活性型マクロファージ、GPR21陽性細胞及び両者を複合した免疫組織化学染色の結果を示す。また、図6Bに、コントロール群及びsPls投与群におけるF4/80陽性細胞の相対数のスチューデントのt検定による比較検定の結果を示す。
【0057】
図6Aに示すように、sPls投与群の腫瘍組織において、F4/80陽性活性型マクロファージが顕著に増加し、腫瘍細胞に集積していることが認められた。さらに、F4/80陽性活性型マクロファージ及びGPR21陽性細胞の共染色により、GPR21が活性型マクロファージにおいて多く発現していることが示唆された。また、図6Bに示すように、F4/80陽性活性型マクロファージを数量化すると、コントロール群に比べsPls投与群において活性型マクロファージ数が統計学的に有意に増加していることが示された。
【0058】
[配合例]
以下に示す配合により、ハードカプセル剤を製造した。
ホタテ抽出プラズマローゲン 0.5mg
シクロデキストリン 3.3mg
アミノ酸 1.2mg
パインデックス 185.0mg
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の組成物は、がん治療に有効であることから、産業上有用である。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B