IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジモリ産業株式会社の特許一覧

特開2023-23021防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法
<>
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図1
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図2
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図3
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図4
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図5
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図6
  • 特開-防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023021
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】防水シート継ぎ目の溶着管理装置及び管理方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20230209BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
E21D11/38 A
G01N25/72 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128167
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭吾
【テーマコード(参考)】
2D155
2G040
【Fターム(参考)】
2D155HA07
2D155HA08
2D155LA02
2G040AA07
2G040BA16
2G040BA26
2G040CA01
2G040CB05
2G040CB09
2G040CB11
2G040DA05
2G040DA12
2G040DA22
2G040HA06
2G040HA08
2G040HA16
(57)【要約】
【課題】トンネル等の防水対象構造物に張設される防水シートの継ぎ目において溶着不良が起きた場合、それが溶着機の動作不良に起因していないかどうかを検証可能とし、かつ動作不良に起因する溶着不良箇所の特定を容易化する。
【解決手段】溶着機10を防水シート2の継ぎ目2cに沿って移動させながら、前記溶着機10によって継ぎ目2cの溶着を行う。溶着管理装置30の出力取得部31によって、溶着機10の溶着温度を含む出力情報を経時的に取得して記憶部35,45に記憶させる。作成部41によって、前記記憶された出力情報から防水シート2の継ぎ目2cの各位置対応値における溶着温度を表す表示データ47を作成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水対象構造物に張設される防水シートの継ぎ目の溶着機による溶着状態を管理する装置であって、
前記継ぎ目に沿って移動されながら前記継ぎ目を溶着中の前記溶着機の溶着温度を含む出力情報を経時的に取得する出力取得部と、
前記出力情報を記憶する記憶部と、
前記記憶された出力情報から防水シートの継ぎ目の各位置対応値における溶着温度を表す表示データを作成する作成部と
を備えたことを特徴とする防水シート継ぎ目の溶着管理装置。
【請求項2】
前記各位置対応値が、溶着開始からの経過時間であり、
前記作成部が、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データを作成することを特徴とする請求項1に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理装置。
【請求項3】
前記継ぎ目の溶着開始位置から溶着終了位置までの長さと、溶着開始時から溶着終了時までの時間と、前記溶着開始時から前記出力情報の取得時までの経過時間とから、前記取得時の前記溶着機の位置を推定する位置推定部を、更に備え、
前記作成部が、前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することを特徴とする請求項1に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理装置。
【請求項4】
前記出力取得部が、前記溶着温度を取得する温度取得部と、前記溶着機の速度情報を取得する速度取得部とを含み、
前記速度情報から前記出力情報を取得時の前記溶着機の位置を推定する位置推定部を、更に備え、
前記作成部が、前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することを特徴とする請求項1に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理装置。
【請求項5】
外気温を測定する外気温度計と、
前記外気温度計の測定値に基づいて、前記溶着機における溶着の基準温度を自動設定する温度設定手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の溶着管理装置。
【請求項6】
前記溶着機における溶着の基準温度と前記溶着温度との温度差が所定以上になったとき警報を発する発報手段を、さらに備えたことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の溶着管理装置。
【請求項7】
防水対象構造物に張設される防水シートの継ぎ目の溶着機による溶着状態を管理する方法であって、
前記溶着機を前記継ぎ目に沿って移動させながら、前記溶着機によって前記継ぎ目を溶着する工程と、
前記溶着中の前記溶着機の溶着温度を含む出力情報を経時的に取得する工程と、
前記出力情報を記憶部に記憶させる工程と、
前記記憶された出力情報から防水シートの継ぎ目の各位置対応値における溶着温度を表す表示データを作成する工程と
を備えたことを特徴とする防水シート継ぎ目の溶着管理方法。
【請求項8】
前記各位置対応値が、溶着開始からの経過時間であり、
前記作成工程では、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データを作成することを特徴とする請求項7に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理方法。
【請求項9】
前記継ぎ目の溶着開始位置から溶着終了位置までの長さと、溶着開始時から溶着終了時までの時間と、前記溶着開始時から前記出力情報の取得時までの経過時間とから、前記取得時の前記溶着機の位置を推定し、
前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することを特徴とする請求項7に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理方法。
【請求項10】
前記出力情報として前記溶着機の速度情報を取得し、前記速度情報から前記出力情報を取得時の前記溶着機の位置を推定し、
前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することを特徴とする請求項7に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理方法。
【請求項11】
溶着開始時から溶着終了時までの前記溶着機の前記速度情報に基づく移動距離の計算値と、溶着開始位置から溶着終了位置までの実際の距離とに基づいて、前記推定した位置を補正することを特徴とする請求項10に記載の防水シート継ぎ目の溶着管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等の防水対象構造物に張設される防水シートの施工管理装置及び方法に関し、特に、隣接する防水シートどうしの継ぎ目の溶着施工を管理する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネルにおいては、覆工背面に複数の防水シートからなる防水工が施されている。各防水シートは、長手方向をトンネルの上半アーチ部の周方向へ沿わせ、短手方向をトンネル軸方向へ沿わせて張設される。複数の防水シートが、トンネル軸方向へ並べられる。隣接する防水シートの対向する端部どうしの継ぎ目が、溶着機によって溶着される(特許文献1等参照)。
予め施工前に溶着の基準温度(目標温度)が設定される。基準温度は、外気温に応じて、例えば夏は360℃程度、冬は380℃程度である。設定は作業者が手動で行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-113801号公報
【特許文献2】特開2021-096101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防水シートの継ぎ目処理の際、溶着不良が起きることがある。その要因としては、溶着機の当て方が適切でないとか溶着機の温度設定が間違っている等の人為的ミスのほか、溶着機による実際の溶着温度(出力温度)が基準温度に達していない等の溶着機の動作不良も考え得る。しかし、通常、溶着機の溶着温度は基準温度になるよう制御されているものと考えられており、実際の溶着温度データを取得していない為、施工不良が溶着機の動作不良に起因したものなのかは不明である。また、溶着不良の有無を点検する場合、継ぎ目の全長にわたって目視検査したり加圧リーク試験をしたりする必要があり、煩雑である。
本発明は、かかる事情に鑑み、防水シートの継ぎ目において溶着不良が起きた場合、それが溶着機の動作不良に起因していないかどうかを検証可能とし、かつ動作不良に起因する溶着不良箇所の特定を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明装置は、防水対象構造物に張設される防水シートの継ぎ目の溶着機による溶着状態を管理する、防水シートの溶着管理装置であって、
前記継ぎ目に沿って移動されながら前記継ぎ目を溶着中の前記溶着機の溶着温度を含む出力情報を経時的に取得する出力取得部と、
前記出力情報を記憶する記憶部と、
前記記憶された出力情報から防水シートの継ぎ目の各位置対応値における溶着温度を表す表示データを作成する作成部と
を備えたことを特徴とする。
これによって、表示データを確認することで、溶着機の出力と施工状態との関連性を検証でき、溶着温度に起因する施工不良箇所を見つけやすくなる。
【0006】
前記各位置対応値が、溶着開始からの経過時間であってもよい。前記作成部が、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データを作成することが好ましい。
通常、溶着中の溶着機は、継ぎ目に沿ってなるべく一定の速度で移動される。したがって、溶着開始からの経過時間は、溶着開始からの溶着機の移動距離と略比例し、溶着機の位置を示す情報となり得る。よって、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データから、継ぎ目の各位置における溶着温度を確認することができる。
【0007】
前記溶着管理装置が、前記継ぎ目の溶着開始位置から溶着終了位置までの長さと、溶着開始時から溶着終了時までの時間と、前記溶着開始時から前記出力情報の取得時までの経過時間とから、前記取得時の前記溶着機の位置を推定する位置推定部を、更に備えていることが好ましい。
前記作成部が、前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することが好ましい。これによって、継ぎ目の各位置と溶着温度との関係を直接的に表示できる。
前記継ぎ目の溶着開始位置から溶着終了位置までの長さは既知であるか、測定可能である。溶着開始時から溶着終了時までの時間は、前記出力取得部によって出力情報の一部として取得される。前記取得時における溶着機の溶着開始位置からの移動距離と、溶着開始位置から溶着終了位置までの長さとの比は、溶着開始時から前記取得時までの経過時間と、溶着開始時から溶着終了時までの時間との比と等しい。したがって、溶着開始位置から溶着終了位置までの長さと、溶着開始時から溶着終了時までの時間と、溶着開始時から前記取得時までの経過時間とによって、前記取得時における溶着機の移動距離、ひいては前記取得時における溶着機の位置を算出できる。これによって、継ぎ目の各位置における溶着温度の表示データが得られる。
【0008】
前記出力取得部が、前記溶着温度を取得する温度取得部と、前記溶着機の速度情報を取得する速度取得部とを含み、
前記速度情報から前記出力情報を取得時の前記溶着機の位置を推定する位置推定部を、更に備え、
前記作成部が、前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することが好ましい。
例えば、前記速度情報と溶着開始時からの経過時間との積、又は速度情報の時間積分から、ある時刻における溶着機の位置(溶着開始位置からの移動距離)が求まる。
【0009】
前記溶着管理装置が、外気温を測定する外気温度計と、前記外気温度計の測定値に基づいて、前記溶着機における溶着の基準温度を自動設定する温度設定手段を更に備えていることが好ましい。これによって、外気温に応じた溶着の基準温度の人為的な入力ミスを回避できる。
【0010】
前記溶着管理装置が、前記溶着機における溶着の基準温度と前記溶着温度との温度差が所定以上になったとき警報を発する発報手段を、さらに備えていることが好ましい。これによって、溶着機に起因する溶着不良が起きる可能性を溶着作業中の作業者に注意喚起できる。
【0011】
本発明方法は、防水対象構造物に張設される防水シートの継ぎ目の溶着機による溶着状態を管理する方法であって、
前記溶着機を前記継ぎ目に沿って移動させながら、前記溶着機によって前記継ぎ目を溶着する工程と、
前記溶着中の前記溶着機の溶着温度を含む出力情報を経時的に取得する工程と、
前記出力情報を記憶部に記憶させる工程と、
前記記憶された出力情報から防水シートの継ぎ目の各位置対応値における溶着温度を表す表示データを作成する工程と
を備えたことを特徴とする。
前記表示データによって、溶着機の出力と施工状態との関連性を検証でき、溶着作業の品質を管理することができる。
【0012】
前記各位置対応値が、溶着開始からの経過時間であり、前記作成工程では、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データを作成することが好ましい。
前記経過時間から溶着機の位置を推定でき、前記経過時間に対する溶着温度を表す表示データから、継ぎ目の各位置における溶着温度を確認できる。
【0013】
前記継ぎ目の溶着開始位置から溶着終了位置までの長さと、溶着開始時から溶着終了時までの時間と、前記溶着開始時から前記出力情報の取得時までの経過時間とから、前記取得時の前記溶着機の位置を推定し、
前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することが好ましい。
これによって、継ぎ目の各位置における溶着温度の表示データが得られ、溶着不良箇所と溶着温度との関係等の検証がしやすくなる。
【0014】
前記出力情報として前記溶着機の速度情報を取得し、前記速度情報から前記出力情報を取得時の前記溶着機の位置を推定し、
前記推定した位置を前記各位置対応値として前記表示データを作成することが好ましい。これによって、溶着機の速度が変動した場合でも、溶着機の位置を正確に推定できる。
【0015】
溶着開始時から溶着終了時までの前記溶着機の前記速度情報に基づく移動距離の計算値と、溶着開始位置から溶着終了位置までの実際の距離とに基づいて、前記推定した位置を補正することが好ましい。これによって、速度情報の誤差を修正でき、位置推定の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、防水シートの継ぎ目において溶着不良が起きた場合、それが溶着機による実際の溶着温度が基準温度に達していないことに起因していないかどうか検証することができる。かつ、そのような動作不良に起因する溶着不良箇所を容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る防水シート継ぎ目溶着管理装置を含む防水シート継ぎ目溶着システムによる防水シートの継ぎ目溶着方法の実施状況を示すトンネルの斜視図である。
図2図2は、前記防水シート継ぎ目溶着管理システムの概略構成を示す回路図である。
図3図3は、前記管理装置の表示部による表示データの一例を示すグラフである。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係る表示データの一例を示すグラフである。
図5図5は、本発明の第3実施形態に係る表示データの一例を示すグラフである。
図6図6は、本発明の第4実施形態に係る防水シート継ぎ目溶着管理装置を含む防水シート継ぎ目溶着システムの概略構成を示す回路図である。
図7図7は、本発明の第5実施形態に係る防水シート継ぎ目溶着管理装置を含む防水シート継ぎ目溶着システムの概略構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(図1図3)>
図1に示すように、山岳トンネル1においては、一次覆工1aと二次覆工1bとの間に複数の防水シート2からなる防水工が施されている。各防水シート2は、長手方向をトンネル1の上半アーチ部の周方向へ沿わせ、短手方向をトンネル軸方向へ沿わせて張設される。複数の防水シート2は、トンネル軸方向へ並べられる。隣接する2つの防水シート2の対向する端部どうしの継ぎ目2cが溶着されている。
【0019】
図1に示すように、前記溶着は、防水シート継ぎ目溶着システム3によって施工されている。図2に示すように、防水シート継ぎ目溶着システム3は、溶着機10と、防水シート継ぎ目溶着管理装置30とを備えている。溶着機10は、溶着作動ユニット11と、溶着制御回路20を含む。
【0020】
図2に示すように、溶着作動ユニット11は、対向する一対のローラー12と、ヒーター13を有している。一対のローラー12によって、溶着対象の2つの防水シート2の端部どうしが挟み付けられて重ね合わされている。各ローラー12は、図示しないトルク伝達機構を介してモーター14に接続されている。モーター14の駆動によって、一対のローラー12が互いに同期して、かつ互いに逆方向へ回転駆動される。これによって、溶着機10が、トンネル周方向に沿う継ぎ目2cの延び方向へ移動される。移動速度は、モーター14の出力回転数と相関する。
【0021】
溶着機10の移動方向(図2の白抜き矢印方向)におけるローラー12の直近前方(図2において右側)にヒーター13が設けられている。
なお、ヒーター13がローラー12の下流側に配置されていてもよい。
【0022】
ヒーター13には熱電対15(溶着温度計)が内蔵されている。(図2においては、図示の都合上、熱電対15をヒーター13の外側に配置する。)熱電対15によってヒーター13による溶着温度が検出される。
【0023】
図2に示すように、溶着作動ユニット11に溶着制御回路20が接続されている。溶着制御回路20は、温度調節部21と、速度制御部22と、ヒーター駆動部23と、モーター駆動部24を含む。温度調節部21の入力端子に熱電対15の検出温度フィードバック線15cが接続されている。温度調節部21には、温度設定部25が設けられている。温度設定部25によって、ヒーター13による溶着の基準温度(目標温度)が設定される。温度設定部25は、タッチパネルモニターによって構成されているが、ダイヤル、温度昇降ボタンその他のつまみによって構成されていてもよい。温度調節部21の出力端子の1つにヒーター駆動部23が接続されている。ヒーター駆動部23は、ヒーター13に付属して設けられており、ヒーター13のオンオフ又は出力の増減を行なう。
温度調節部21は、熱電対15による検出温度に基づいて、ヒーター駆動部23を操作することで、ヒーター13の出力温度(溶着温度)が基準温度になるよう、フィードバック制御を行う。
【0024】
速度制御部22には、速度設定部26が設けられている。速度設定部26によって、ローラー12の回転速度ひいては溶着機10の移動速度が設定される。速度設定部26は、ダイヤルによって構成されているが、速度昇降ボタン等のその他のつまみや、タッチパネルモニターによって構成されていてもよい。
【0025】
速度制御部22の出力端子にモーター駆動部24が接続されている。速度制御部22は、速度設定部26によって設定された速度に対応するモーター出力になるよう、モーター駆動部24を制御する。
モーター駆動部24は、モーター14に付属して設けられており、速度制御部22の制御によってモーター14を駆動する。
【0026】
図2に示すように、溶着機10に防水シート継ぎ目溶着管理装置30が接続されている。防水シート継ぎ目溶着管理装置30は、管理部39と、処理部40を備えている。管理部39は、CPU31と、電源回路32と、信号変換部33と、記憶部35と、警報ブザー37と、通信部36を含む。
【0027】
温度調節部21の出力端子の1つに温度信号変換部33が接続されている。
【0028】
信号変換部33は、CPU31に接続されている。CPU31は、所定のプログラムに基づいて、防水シート2の継ぎ目2cの溶着状態を管理するための所定の処理を行う。CPU31に記憶部35及び警報ブザー37が接続されている。記憶部35には、前記プログラムや設定データ等が記憶されている。
【0029】
さらに、CPU31には、通信部36を介してコンピューター40が無線接続又は有線接続されている。通信部36は、インターネットなどの公衆通信回線網を含んでいてもよい。コンピューター40は、スマートフォンによって構成されているが、これに限らず、タブレット、ノートパソコン、デスクトップパソコン、クラウドコンピューティング等によって構成されていてもよい。コンピューター40は、CPU41と、記憶部45と、ディスプレイ46(表示部)を含む。
【0030】
防水シート2の継ぎ目2cの溶着状態は、管理装置30によって、次のようにして管理される。
<溶着工程>
溶着の際は、溶着機10のヒーター13が稼働されるとともに、一対のローラ-12が互いに同期して回転される。これによって、溶着対象の継ぎ目2cを構成する2つの防水シート2の端部が、加熱されたうえで一対のローラー12間に導入されて溶着される。併行して、図1の白抜き円弧矢印線に示すように、溶着機10が、トンネルアーチの周方向に沿って、継ぎ目2cの一端部2pから他端部2qへ設定速度で移動される。
【0031】
<出力情報取得工程>
溶着工程中、ヒーター13の出力温度(溶着温度)が熱電対15によって連続的又は短時間置きに検出される。該溶着温度の検出信号は、温度調節部21によるフィードバック制御に供されるとともに、温度調節部21から管理装置30へ出力される。管理装置30において、前記検出信号は、信号変換部33によってデジタル変換され、溶着温度情報としてCPU31に入力される。CPU31は、受け取った溶着温度情報を、受け取った時間とともに、記憶部35に記憶させる。これら溶着温度及び時間の情報は、溶着機10の出力情報を構成する。CPU31は、溶着温度を経時的に取得する温度取得部として機能し、ひいては出力情報を経時的に取得する出力取得部として機能する。
【0032】
<記憶工程>
溶着機10の経時的な出力情報は、記憶部35に記憶される。
さらに、出力情報は、通信部36を介して、コンピューター40に送信されて記憶部45にも記憶される。
【0033】
<監視工程>
併行して、CPU31は、取得した溶着温度と、溶着の基準温度との温度差を監視する。溶着の基準温度は、予め設定入力されて、記憶部35に記憶されている。
前記温度差が、一定以上になったときは、CPU31から警報ブザー37へ発報指令が出力され、警報ブザー37から警報が出される。これによって、溶着機10に起因する溶着不良等の溶着異常を溶着作業中の作業者に報知して、対処を促すことができる。
発報手段として、警報ブザー37に代えて、又は警報ブザー37に加えて、パトランプなどの発光器を用いてもよい。
【0034】
トンネル軸方向に新たな防水シート2を継ぎ足すたびに、継ぎ目2cの溶着を行ない、継ぎ目2cごとに溶着機10の出力情報の取得を行ない、継ぎ目2cごとの出力情報が記憶部35,45に記憶される。トンネルの坑口からの距離のデータによって、トンネル軸方向に離れた複数の継ぎ目2cのうち、どの継ぎ目2cの出力情報であるかを区別してもよい。坑口側から数えて何番目の継ぎ目2cであるかによって、どの継ぎ目2cの出力情報であるかを区別してもよい。
【0035】
<作成工程>
溶着工程中あるいは作業終了後、コンピューター40のCPU41は、管理者又は作業者の表示指令に応じて、記憶部45に格納された特定の継ぎ目2cの出力情報を読み出す。そして、該出力情報から前記特定の継ぎ目2cの各位置対応値における溶着温度を表す表示データ47を作成して、ディスプレイ46に表示する。CPU41は、表示データ47を作成する作成部を構成している。
図3に示すように、表示データ47は、例えば溶着開始時からの経過時間を横軸とし、溶着温度を縦軸とするグラフである。溶着開始時からの経過時間は、前記特定の継ぎ目2cの延び方向の各位置と対応する各位置対応値である。すなわち、溶着工程中の溶着機10は、継ぎ目2cに沿って、速度設定部26によって設定した速度で略等速移動される。したがって、溶着開始からの経過時間は、溶着開始からの溶着機の移動距離L10図1)と略正比例し、出力情報の取得時に溶着機10が継ぎ目2c上のどこに位置していたかを示す情報となり得る。つまり、表示データ47の横軸の起点pは、継ぎ目2cの溶着開始位置2p(図1)と対応する。表示データ47の横軸の中間点は、継ぎ目2cの延び方向の中間位置と対応する。表示データ47の横軸の終点qは、継ぎ目2cの溶着終了位置2q(図1)と対応する。なお、出力情報を取得した時刻そのものを横軸にしてもよい。時刻そのものも、実質的に、溶着開始時からの経過時間を表していると言える。
【0036】
<検証工程>
管理者又は作業者は、ディスプレイ46の表示データ47から、継ぎ目2cの各位置における溶着温度を確認することができる。さらに、表示データ47と実際の継ぎ目2cの溶着不良箇所とを照らし合わせることで、溶着不良が溶着機10の動作不良に起因していないかどうかを検証することができる。
【0037】
図3のグラフの通り、通常、溶着温度(溶着機10の出力)は基準温度とほぼ同じである。グラフ上、溶着温度が基準温度から大きく外れている異変箇所aがあった場合、継ぎ目2cにおける、その異変箇所aの横軸座標taと対応する位置では、溶着機10に起因する溶着不良等の施工不良の可能性がある。したがって、前記対応する位置を重点的に点検することで施工不良を見つけやすくなり、溶着状況の管理を効率化できる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(図4)>
図4に示すように、第2実施形態においては、表示データ47Bの横軸が、溶着開始位置からの距離(推定位置)に設定されている。
表示データ47Bの作成工程において、CPU41(図2参照)は、指定された継ぎ目2cの出力情報を読み出すとともに、該出力情報が取得された継ぎ目2c上の位置を推定する。具体的には、次式(1)にしたがって、各出力情報が取得された地点の、溶着開始位置2pからの距離L10を求める。
10=(L2c/t2c)×t10 (1)
距離L10は、継ぎ目2c上の位置を表す各位置対応値である。L2cは、継ぎ目2cの全長L2cすなわち溶着開始位置2pから溶着終了位置2qまでの長さである。継ぎ目2cの全長L2cは、トンネルアーチの周長と等しく、既知であり、予め記憶部45に記憶させておく。なお、既知でない場合は、予め測定して記憶部45に記憶させておく。t2cは、溶着開始時から溶着終了時までの時間である。t10は、溶着開始時から各溶着温度情報の取得時までの経過時間である。
【0039】
CPU41は、式(1)の演算によって得られた距離L10を横軸目盛りとして、表示データ47Bを作成して、ディスプレイ表示する。これによって、管理者又は作業者は、グラフ表示された溶着温度が継ぎ目2cのどの位置のデータであるかを容易に判断することができる。グラフ上で溶着温度の異変箇所bがあった場合、その異変箇所bの横軸座標Lbを読み取ることによって、異変箇所bが継ぎ目2cのどの位置と対応するかを容易に判断することができる。
【0040】
<第3実施形態(図5)>
図5に示すように、第3実施形態においては、表示データ47Cの横軸が二重目盛りになっている。目盛りの1つは、溶着開始時からの経過時間であり、もう1つの目盛りは、溶着開始位置からの距離である。これら経過時間及び距離は、継ぎ目2c上の位置を表す各位置対応値である。
【0041】
<第4実施形態(図6)>
図6に示すように、第4実施形態に係る防水シート継ぎ目溶着システム3Bにおいては、防水シート継ぎ目溶着管理装置30の管理部39に制御信号変換部34が設けられている。速度制御部22からモーター駆動部24への制御信号線が分岐して、制御信号変換部34に接続されている。制御信号変換部34は、CPU31に接続されている。
【0042】
<溶着速度取得工程>
継ぎ目2cの溶着時には、溶着温度情報に加えて溶着機10の速度情報が、出力情報として、経時的に取得される。
すなわち、速度制御部22からモーター駆動部24へ制御信号が出力されて、モーター14が駆動されることで、ローラー12が回転され、溶着機10が継ぎ目2cに沿って移動される。これと同時に、速度制御部22からの制御信号は、管理装置30へも出力される。管理装置30において、前記制御信号は、信号変換器34によってデジタル変換されたうえで、CPU31に入力される。この制御信号は、モーター14の出力ひいてはローラー12の回転速度と対応し、溶着機20のリアルタイムの速度情報に相当する。このとき、CPU31は、溶着機20の速度情報を取得する速度取得部として機能する。
【0043】
<位置推定工程>
さらに、CPU31は、取得した溶着機10の速度情報から、各温度検出時(出力情報の取得時)における溶着機10の継手2c上の位置を推定する。すなわち、前記速度情報と溶着開始時からの経過時間との積、又は速度情報の時間積分から、ある時刻tにおける溶着機10の位置情報すなわち溶着開始位置からの溶着機10の移動距離L10が求まる。このとき、CPU31は、位置推定部として機能する。経時的な溶着温度情報と位置情報の組合せによって、継ぎ目2cの各位置における溶着温度が求まる。
速度設定部26による設定速度を速度情報として、該設定速度と溶着開始時からの経過時間との積から溶着機10の位置L10を推定してもよい。
【0044】
<補正工程>
好ましくは、溶着開始位置から溶着終了位置までの溶着機10の移動距離計算値L10qと、溶着開始位置から溶着終了位置までの継ぎ目2cの実際の長さL2cとに基づいて、各温度検出時における位置情報L10を補正する。具体的には、溶着終了位置までの移動距離計算値L10qと、継ぎ目2cの実際の長さL2cから、補正係数α=(L2c/L10q)を求める。該補正係数αを位置情報L10に乗じ、補正後の位置情報L’10=α・L10を求める。これによって、溶着機10の速度測定の誤差ひいては位置推定の誤差を修正して、精度を高めることができる。補正後の位置情報L’10は、継ぎ目2c上の位置を表す各位置対応値である。
【0045】
<記憶工程>
溶着機10の経時的な出力情報及び位置情報は、記憶部35に記憶される。
さらに、出力情報及び位置情報は、通信部36を介して、コンピューター40に送信されて記憶部45にも記憶される。
【0046】
<作成工程>
溶着作業中あるいは作業終了後、コンピューター40のCPU41は、管理者等の表示指令に応じて、記憶部45に格納された特定の継ぎ目2cの溶着温度情報及び位置情報を読み出し、該継ぎ目2cの各位置における溶着温度を表す表示データを作成して、ディスプレイ46に表示する。この表示データは、例えば図4と同様のグラフであるが、溶着機10の速度情報を加味し、更に補正を加えることによって、精度の高い表示データを得ることができる。溶着機10の速度が変動する場合でも、溶着機10の位置を正確に把握でき、継ぎ目2c上の各位置における溶着温度を正確に表示することができる。
【0047】
<第5実施形態(図7)>
図7に示すように、本発明の第5実施形態に係る防水シート継ぎ目溶着システム3Cにおいては、外気温度計50が設けられている。外気温度計50によって、外気温が測定される。測定された外気温情報は、信号変換部33によってデジタル変換されてCPU31に入力される。CPU31は、外気温測定値に基づいて、溶着の基準温度を求める。例えば、外気温が夏季相当の温度であるときは、溶着の基準温度を360℃程度とする。外気温が冬季相当の温度であるときは、溶着の基準温度を380℃とする。
【0048】
更にCPU31は、信号変換部33を介して温度設定部25に指令を出し、温度設定部25における基準温度を自動設定する。これによって、溶着の基準温度の人為的な入力ミスを回避できる。
【0049】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、防水対象構造物は、トンネルに限らず、貯水池の底部、産業廃棄物処分場の敷地面などであってもよい。
速度情報として、ローラー12の回転速度を取得してもよい。速度情報取得部として、ローラー12の回転速度センサを設けてもよい。
溶着機10に速度センサを設け、該速度センサの検知信号を速度情報として用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば山岳トンネルの防水工に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 トンネル(防水対象構造物)
1a 一次覆工
1b 二次覆工
2 防水シート
2c 継ぎ目
3,3B~3C 防水シート溶着システム
10 溶着機
11 溶着作動ユニット
12 ローラー
13 ヒーター
14 モーター
15 熱電対(溶着温度計)
20 溶着制御回路
21 温度調節部
22 速度制御部
23 ヒーター駆動部
24 モーター駆動部
25 温度設定部
26 速度設定部
30 溶着管理装置
31 CPU
32 電源回路
33 温度信号変換部
34 速度制御信号変換部
35 記憶部
36 通信部
37 警報ブザー
39 管理部
40 コンピューター(処理部)
41 CPU
45 記憶部
46 表示部
47 表示データ
50 外気温度計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7