(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023108
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20230209BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20230209BHJP
【FI】
C02F3/34 101D
C02F3/34 101C
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128331
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】井坂 和一
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 悠
【テーマコード(参考)】
4D003
4D040
【Fターム(参考)】
4D003AA05
4D003AA08
4D003AB02
4D003DA01
4D003EA14
4D003EA15
4D003EA16
4D003EA17
4D003EA19
4D003EA20
4D003EA21
4D003EA24
4D003EA28
4D003EA30
4D003FA10
4D040BB07
4D040BB42
4D040BB63
4D040BB82
4D040BB91
(57)【要約】
【課題】安定した窒素処理を行うことができる排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体を提供する。
【解決手段】アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を含む排水処理用担体12が収容された反応槽14内で、アンモニアを含む排水と排水処理用担体12とを、接触させて排水の脱窒処理を行う排水処理方法であって、反応槽14内の排水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、反応槽14内の排水、又は、反応槽14から排出された処理水のアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する排水処理方法である。また、この排水処理方法を実施する排水処理装置、および、排水処理方法に用いられる排水処理用担体である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させた排水処理用担体、又は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合した排水処理用担体が収容された反応槽内で、アンモニアを含む排水と前記排水処理用担体とを、接触させて前記排水の脱窒処理を行う排水処理方法であって、
前記反応槽内の排水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、
前記反応槽内の排水、又は、前記反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する、
排水処理方法。
【請求項2】
前記溶存酸素濃度の制御は、前記反応槽内に供給する空気の曝気風量を制御することにより行う、
請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記アンモニア濃度の制御は、前記反応槽内に供給する空気の曝気風量、及び、前記排水の処理前の原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することにより行う、
請求項1又は2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記反応槽内の排水、又は、前記反応槽から排出された処理水のpHを6.5以上8.5以下に制御する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記反応槽にかかる窒素負荷が、0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記排水の処理前の原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度をA、前記反応槽の排水又は前記反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度をB、前記反応槽の排水又は前記反応槽から排出された処理水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを、D=C/(A-B)により算出し、
制御値Dを、0.05以上0.25以下に制御する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記担体は、ポリビニルアルコールである、
請求項1から6のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項8】
アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させた排水処理用担体、又は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合した排水処理用担体が収容された反応槽と、
前記反応槽に処理前の原水を供給する原水供給管と、
前記反応槽で処理された処理水を排出する処理水排出管と、
前記反応槽内に空気を供給する空気供給手段と、
前記反応槽内の排水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段と、
前記反応槽内の排水、又は、前記処理水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定手段と、
前記溶存酸素濃度測定手段により測定された前記溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、かつ、前記アンモニア濃度測定手段により測定された前記アンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する制御手段と、を備える、
排水処理装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記溶存酸素濃度の制御を前記空気供給手段による空気の曝気風量を制御することで行う、
請求項8に記載の排水処理装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記アンモニア濃度の制御を、前記空気供給手段による空気の曝気風量、及び、前記原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することで行う、
請求項8又は9に記載の排水処理装置。
【請求項11】
前記反応槽内の排水、又は、前記処理水のpHを測定するpH測定手段と、
前記pH測定手段により測定された前記pHを6.5以上8.5以下に制御するpH制御手段と、を備える、
請求項8から10のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項12】
前記反応槽にかかる窒素負荷が、0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下である、
請求項8から11のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項13】
前記原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度をA、前記反応槽の排水又は前記反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度をB、前記反応槽の排水又は前記反応槽から排出された処理水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを、D=C/(A-B)により算出する算出部を備え、
前記制御手段は、前記制御値Dを、0.05以上0.25以下に制御する、
請求項8から12のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項14】
請求項1から7のいずれか1項に記載の排水処理方法に用いられる排水処理用担体であって、
アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を前記担体に付着させた、
排水処理用担体。
【請求項15】
請求項1から7のいずれか1項に記載の排水処理方法に用いられる排水処理用担体であって、
アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合した、
排水処理用担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体に係り、特に、アナモックス細菌を利用した排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中に含まれるアンモニアは、環境保全の観点からその除去が課題となっている。窒素処理法には、生物処理法が多く用いられており、近年、新たな窒素処理方法としてアナモックス細菌によるアナモックス反応を用いた窒素処理方法が開発されている。
【0003】
アナモックス反応は、アンモニアと亜硝酸を利用して窒素ガスへ変換するものである。そのため、原水中のアンモニアの約半量を亜硝酸に酸化し、アンモニアと生成した亜硝酸をアナモックス反応で脱窒する。アンモニアから亜硝酸への酸化は好気性細菌であるアンモニア酸化細菌で行われ、アナモックス反応は嫌気性細菌であるアナモックス細菌で行われる。そのため、アンモニアから亜硝酸への酸化とアナモックス反応とは、それぞれ別の反応槽で行われることが好ましい。
【0004】
一方、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌を、1槽(好気層)で利用できる1槽型システムが知られている(下記特許文献1参照)。1槽型システムによれば、2つの反応を1槽で行うことができるので、シンプルで維持管理を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1槽型システムにおいては、好気性細菌と嫌気性細菌の相反する生物を1つの反応槽内に保持し、活性を維持する必要がある。特に、高い処理速度を得るためには、酸素量を多く吹き込む必要があり、高い溶存酸素濃度(DO:Dissolved Oxygen)での運転が必要となるが、溶存酸素濃度が高くなると、アナモックス細菌が失活するという課題があった。
【0007】
また、反応槽中に、亜硝酸酸化細菌が増殖すると、アナモックス細菌が利用する亜硝酸を亜硝酸酸化細菌が硝酸に酸化してしまい、硝酸はアナモックス細菌により処理されないため、窒素除去率が低下するという課題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌の活性を維持し、安定した窒素処理を行うことができる排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る排水処理方法は、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させた排水処理用担体、又は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合した排水処理用担体が収容された反応槽内で、アンモニアを含む排水と排水処理用担体とを、接触させて排水の脱窒処理を行う排水処理方法であって、反応槽内の排水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、反応槽内の排水、又は、反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する。
【0010】
本発明の一形態によれば、溶存酸素濃度の制御は、反応槽内に供給する空気の曝気風量を制御することにより行うことが好ましい。
【0011】
本発明の一形態によれば、アンモニア濃度の制御は、反応槽内に供給する空気の曝気風量、及び、排水の処理前の原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することにより行うことが好ましい。
【0012】
本発明の一形態によれば、反応槽内の排水、又は、反応槽から排出された処理水のpHを6.5以上8.5以下に制御することが好ましい。
【0013】
本発明の一形態によれば、反応槽にかかる窒素負荷が、0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一形態によれば、排水の処理前の原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度をA、反応槽の排水又は反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度をB、反応槽の排水又は反応槽から排出された処理水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを、D=C/(A-B)により算出し、制御値Dを、0.05以上0.25以下に制御することが好ましい。
【0015】
本発明の一形態によれば、担体は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0016】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る排水処理装置は、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させた排水処理用担体、又は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合した排水処理用担体が収容された反応槽と、反応槽に処理前の原水を供給する原水供給管と、反応槽で処理された処理水を排出する処理水排出管と、反応槽内に空気を供給する空気供給手段と、反応槽内の排水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段と、反応槽内の排水、又は、処理水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定手段と、溶存酸素濃度測定手段により測定された溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、かつ、アンモニア濃度測定手段により測定されたアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する制御手段と、を備える。
【0017】
本発明の一形態によれば、制御手段は、溶存酸素濃度の制御を空気供給手段による空気の曝気風量を制御することで行うことが好ましい。
【0018】
本発明の一形態によれば、制御手段は、アンモニア濃度の制御を、空気供給手段による空気の曝気風量、及び、原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することで行うことが好ましい。
【0019】
本発明の一形態によれば、反応槽内の排水、又は、処理水のpHを測定するpH測定手段と、pH測定手段により測定されたpHを6.5以上8.5以下に制御するpH制御手段と、を備えることが好ましい。
【0020】
本発明の一形態によれば、反応槽にかかる窒素負荷が、0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の一形態によれば、原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度をA、反応槽の排水又は反応槽から排出された処理水のアンモニア濃度をB、反応槽の排水又は反応槽から排出された処理水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを、D=C/(A-B)により算出する算出部を備え、制御手段は、制御値Dを、0.05以上0.25以下に制御することが好ましい。
【0022】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る排水処理用担体は、上記記載の排水処理方法に用いられる排水処理用担体であって、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させている。
【0023】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る排水処理用担体は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合している。
【発明の効果】
【0024】
本発明の排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体によれば、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌の活性を維持することができるとともに、亜硝酸酸化細菌の増殖を抑え、安定した脱窒処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態の排水処理装置の概念図である。
【
図2】第2実施形態の排水処理装置の概念図である。
【
図3】アナモックス細菌付着担体の製造に用いられた実験装置を示す図である。
【
図4】アンモニア酸化細菌付着担体の製造に用いられた実験装置を示す図である。
【
図9】実験例2の窒素負荷(NLR)と窒素処理速度(NCR)の経時変化を示す図である。
【
図11】実験例2のFAとΔNO
3/ΔNH
4の変化を示す図である。
【
図14】実験例3の窒素負荷(NLR)と窒素処理速度(NCR)の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って、本発明に係る排水処理方法、排水処理装置及び排水処理用担体について説明する。なお、本明細書において、「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0027】
<第1実施形態>
[排水処理装置]
図1は、第1実施形態の排水処理装置10の概念図である。排水処理装置10は、排水処理用担体12が収容された反応槽14と、反応槽14に処理前の原水を供給する原水供給管16と、反応槽14で処理された処理水を排出する処理水排出管18と、反応槽14に空気を供給する空気供給手段として機能する散気板20及びブロア22とを有する。また、排水処理装置10は、反応槽14内の排水の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段24と、反応槽14内の排水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定手段26と、溶存酸素濃度測定手段24により測定された溶存酸素濃度及びアンモニア濃度測定手段26により測定されたアンモニア濃度を所定の範囲内に制御する制御手段28と、を有する。
【0028】
反応槽14は、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌が付着した排水処理用担体12を、アンモニアを含む排水と接触させて脱窒処理を行う槽である。反応槽14に、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌が付着した排水処理用担体12を含むことで、反応槽14は、排水中に含まれるアンモニアの硝化反応、及び、アナモックス反応を1槽で行うことができる1槽型システム用いられる反応槽として使用することができる。反応槽14の形状及び大きさは特に限定されず、排水の処理量等に応じて適宜選択される。反応槽14内には、撹拌機30が設けられ、撹拌機30がモーター32により回転することで、反応槽14内の排水及び排水処理用担体12が撹拌される。
【0029】
原水供給管16は、反応槽14内に供給される排水の処理前の原水が供給される管路である。原水供給管16は原水が貯留された原水槽(不図示)に接続されており、原水槽から反応槽14に原水を供給する。原水供給管16はバルブ34を有し、バルブ34により原水の流入速度を制御する。また、処理水排出管18は、反応槽14内で処理された処理水を排出する管路である。
【0030】
反応槽14内の底部には、反応槽14内に空気を散気するための散気板20が配置される。散気板20にはブロア22が接続され、ブロア22から圧縮空気が散気板20に供給される。これにより、排水処理用担体12のアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌に空気が供給されると共に、散気される空気により排水処理用担体12が反応槽14内で流動し、排水と排水処理用担体12が接触する。したがって、排水中の窒素が生物学的に処理され、脱窒処理が行われる。
【0031】
溶存酸素濃度測定手段24としては、隔膜式DO計、及び、蛍光式DO計などを用いることができるが、特に限定されない。
【0032】
アンモニア濃度測定手段26としては、アンモニアイオン電極、及び、自動アンモニア測定装置などを用いることができるが、特に限定されない。また、
図1においては、アンモニア濃度測定手段26が反応槽14内に設けられ、排水のアンモニア濃度を測定しているが、アンモニア濃度測定手段26を処理水排出管18に設け、処理水のアンモニア濃度を測定してもよい。反応槽14中の排水は、連続的に脱窒処理が行われているため、原水の流入量に対して反応槽14中に多くの排水を有する。そのため、反応槽14中の排水のアンモニア濃度と処理水のアンモニア濃度の差はほとんど見られない。したがって、処理水のアンモニア濃度を測定しても排水のアンモニア濃度を測定した場合と実質的に変わらず制御することができる。
【0033】
制御手段28は、溶存酸素濃度測定手段24により測定された溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御する。溶存酸素濃度の制御は、反応槽14内に空気を供給するブロア22を制御し、空気の曝気風量を制御することで行うことができる。反応槽14内には、好気性細菌であるアンモニア酸化細菌と、嫌気性細菌であるアナモックス細菌と、が存在するため、両方の活性を維持するため、反応槽14内の溶存酸素濃度を制御することが重要である。溶存酸素濃度を上記範囲とすることで、硝化反応を進めるとともに、アナモックス細菌が失活することを防止することができる。
【0034】
また、制御手段28は、アンモニア濃度測定手段26により測定されたアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する。アンモニア濃度を制御することで、亜硝酸酸化細菌の反応槽内の増殖を抑制することができる。亜硝酸酸化細菌による、亜硝酸を硝酸に酸化する活性は、アンモニア濃度を所定の濃度以上とすることで阻害することができる。反応槽14内の排水のアンモニア濃度は、30mg/L以上400mg/L以下に制御することが好ましく、50mg/L以上300mg/L以下に制御することがより好ましい。
【0035】
アンモニア濃度の制御は、ブロア22を制御し、空気の曝気風量、または、バルブ34を制御し、反応槽14内に供給する原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することにより行うことができる。
【0036】
さらに、排水処理装置10は、反応槽14内の排水のpHを測定するpH測定手段36と、pH測定手段36により測定されたpHを所定の範囲内に制御するpH制御手段38と、を備える。アナモックス細菌は、アルカリ性が高いと失活してしまうため、pHを制御することが好ましい。反応槽14内の排水のpHは、6.5以上8.5以下に制御することが好ましい。pHを8.5以下とすることで、アナモックス細菌が失活することを防止することができる。一方、pHが低くてもアナモックス細菌の活性が低下するため、pHを6.5以上の条件とすることが好ましい。排水のpHは、7.0以上8.0以下に制御することがより好ましく、7.5に制御することがさらに好ましい。なお、pHの7.5の制御は、厳密に7.5に制御する必要はなく、7.5近傍に調整することができればよく、例えば、7.5から±0.2の範囲であればよい。
【0037】
pHの制御は、薬品タンク40に備えられた塩酸(HCl)及び水酸化ナトリウム(NaOH)等の薬剤を添加することにより制御することができる。なお、反応槽14内には、硝化反応によりpHが低くなる傾向にあるので、水酸化ナトリウム(NaOH)等の薬剤を添加することにより、pHを高くすることが好ましい。
【0038】
pHの測定は、上記のアンモニア濃度の測定と同様に、反応槽14内の排水のpHを測定する代わりに、処理水のpHを測定してもよい。
【0039】
本実施形態の排水処理装置においては、反応槽14内の窒素負荷を0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下の範囲で行うことが好ましい。さらに好ましくは、1.0kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下の範囲であり、より好ましくは1.0kg-N/m3/day以上2.5kg-N/m3/day以下の範囲である。窒素負荷が高くなると、アンモニア酸化細菌によりアンモニアを酸化させるため、空気の曝気風量を上げる必要がある。空気の曝気風量を上げると、反応槽14内の酸素濃度が高くなるため、アナモックス細菌の活性が落ちる可能性がある。上記の排水中の溶存酸素濃度及びアンモニア濃度に制御することで、窒素負荷が従来より高い反応条件においても、窒素処理率が低下することなく脱窒処理を行うことができる。
【0040】
[排水処理用担体]
次に、本発明の排水処理装置に用いられる排水処理用担体12について説明する。排水処理用担体12は、1槽型システムのアナモックス反応に用いられる排水処理用担体12である。排水処理用担体12は、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させることで製造することができる。また、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体、及び、アナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着担体を混合させることで製造することができる。
【0041】
≪アンモニア酸化細菌≫
アンモニア酸化細菌は、アンモニア酸化活性のある活性汚泥を用いて担体に付着させることができる。活性汚泥としては、例えば、下水処理場から採取した活性汚泥を利用することができる。担体へのアンモニア酸化細菌の付着方法は、特に限定されない。
【0042】
≪アナモックス細菌≫
アナモックス細菌は、アンモニアと亜硝酸を利用してアナモックス反応をすることができる集積汚泥を用いることが好ましく、この集積汚泥を用いて担体に付着させることができる。担体へのアナモックス細菌の付着方法は、特に限定されない。
【0043】
≪担体≫
担体としては、例えば、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリエチレングリコール、アクリルアミド等のゲル担体や、セルロース、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリウレタン等のプラスチック担体や、活性炭、珪藻土、ゼオライト等の無機担体等が挙げられる。担体の形態は、例えば、球、円筒、円柱、立方体、直方体等の適宜の形状に成型した浮遊担体を用いる流動床、スポンジ状、不織布状、中空糸状等とした担体濾材をハニカム状、波形状、格子状、繊維状、菊花状等に配列した固定床のいずれでもよい。流動床については、浮遊担体の大きさは、1mm以上10mm以下の範囲が好ましく、その充填率は、培養槽容量に対して10体積%以上40体積%以下の範囲が好ましい。一方、固定床については、その充填率は、培養槽容量に対して見かけ上の占有容積で10体積%以上50体積%以下の範囲が好ましく、その空隙率は、80%以上であることが好ましい。
【0044】
本発明で用いられる担体として、表面から内部に連通する孔(連通孔)を有することが好ましい。ここで、孔が連通しているとは、孔が各々独立に存在しているのではなく、孔同士が相互に連通していることをいう。連通孔は、電子顕微鏡を用いて担体を観察することにより確認することができる。
【0045】
連通孔の孔径は、細菌のみが担体内部に棲息できる孔径であることが好ましい。担体の表面付近の孔径が0.1~100μmであることが好ましい。孔径が0.1μm未満の場合、細菌が担体内部に進入できないことがある。表面付近の孔径は0.5μm以上であることがより好ましい。一方、表面付近の孔径が100μmを超える場合、細菌以外の大きな生物が侵入し、硝化速度及び脱窒速度が低下するおそれがある。孔径は50μm以下であることがより好ましい。なお、連通孔の孔径は、電子顕微鏡を用いた観察などの方法により測定することができる。
【0046】
本発明で用いられる担体の種類は特に限定されない。細菌との親和性が高く、細菌棲息性に優れている点から、担体が高分子ゲル担体であることが好ましく、ポリビニルアルコールゲル担体(PVAゲル担体)であることがより好ましい。PVAゲル担体は、多くの細菌を付着させることができるため、短い水理学的滞留時間(Hydraulic Retention Time:HRT)で安定的な処理が可能となる。中でも、連通孔を有するPVAゲル担体が好適に採用される。
【0047】
PVAゲル担体は、スポンジなどの発泡体と異なり、外力が加わり変形したとしても容易には水分が放出されず細菌の棲息に適した環境を提供することができる。PVAゲル担体の含水率は70質量%以上であることが好ましい。含水率は80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。一方、含水率が98質量%を超える場合には、PVAゲル担体の強度が低下するおそれがある。含水率は96質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
担体の球相当径は、1~10mmであることが好ましい。球相当径が小さい場合、反応槽に担体の流出を防ぐためのスクリーンを設置した場合に、スクリーンの網目を小さくしなければならず、目詰まりを起こすおそれがある。球相当径は2mm以上であることがより好ましい。一方、球相当径が10mmを超える場合、担体の流動性が低下するおそれがある。球相当径は6mm以下であることがより好ましい。ここで、球相当径とは粒子の体積と等しい体積を有する球の直径である。
【0049】
担体の形状は、特に限定されるものではなく、立方体、直方体、円柱状、球状、マカロニ状などの任意の形状をとることができる。これらの中でも、細菌との接触効率を考えると球状が好ましい。
【0050】
担体の比重は水よりわずかに大きく、反応槽から流失しない程度に、当該反応槽の中で揺動させることができる比重であることが好ましい。本発明の処理方法において、比重が水よりわずかに大きい担体を用いることにより、担体を流出させることなくより安定的に排水を処理することができる。かかる観点から、担体の比重は、1.001以上であることが好ましく、1.005以上であることがより好ましい。一方、比重は、1.2以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましく、1.05以下であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明におけるPVAゲル担体は、細菌の保持量を増大させることができると共に、繰り返し使用における耐久性を確保することができる観点から、アセタール化されたPVAゲル担体であってもよい。
【0052】
[排水処理方法]
次に、第1実施形態の排水処理方法について説明する。第1実施形態の排水処理方法は、例えば、
図1に記載の排水処理装置10を用いて行うことができ、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を担体に付着させた排水処理用担体12、又は、アンモニア酸化細菌を担体に付着させたアンモニア酸化細菌付着担体及びアナモックス細菌を担体に付着させたアナモックス細菌付着体を混合した排水処理用担体12が収容された反応槽14内で、アンモニアを含む排水と排水処理用担体12とを、接触ささせて排水の脱膣処理を行う。すなわち、1つの反応槽14内に担体に付着したアンモニア酸化細菌とアナモックス細菌を含むことで、アンモニア酸化細菌による排水中のアンモニアの亜硝酸への酸化と、アナモックス細菌によるアンモニアと亜硝酸の脱窒を1つの反応槽内で行うことができる。
【0053】
そして、本実施形態においては、反応槽14内の排水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御する。また、反応槽14内の排水、又は、反応槽14から排出された処理水のアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する。
【0054】
本実施形態の排水処理方法においては、反応槽14内に好気性細菌であるアンモニア酸化細菌と、嫌気性細菌であるアナモックス細菌と、が、存在するため、両方の活性を維持するため、反応槽内の溶存酸素濃度を制御することが重要である。溶存酸素濃度を上記範囲とすることで、硝化反応を進めるとともに、アナモックス細菌が失活することを防止することができる。
【0055】
溶存酸素濃度の制御は、反応槽14内に空気を供給するブロア22の空気の曝気風量を制御することで行うことができる。
【0056】
また、アンモニア濃度を制御することで、亜硝酸酸化細菌の反応槽14内の増殖を抑制することができる。亜硝酸酸化細菌による、亜硝酸を硝酸に酸化する活性は、アンモニア濃度を所定の濃度以上とすることで阻害することができる。反応槽14内の排水、又は、反応槽14から排出された処理水のアンモニア濃度は、10mg/L以上500mg/L以下に制御し、好ましくは30mg/L以上400mg/L以下、より好ましくは50mg/L以上300mg/L以下である。
【0057】
アンモニア濃度の制御は、反応槽14内に空気を供給するブロア22の空気の曝気風量、または、バルブ34により反応槽14内に供給する処理前の原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することにより行うことができる。
【0058】
さらに、反応槽14内の排水、又は、反応槽14から排出された処理水のpHを6.5以上8.5以下に制御することが好ましく、より好ましくは7.0以上8.0以下、さらに好ましくは、7.5に制御する。なお、pHの7.5の制御は、厳密に7.5に制御する必要はなく、7.5近傍に調整することができればよく、例えば、7.5から±0.2の範囲であればよい。
【0059】
アナモックス細菌は、アルカリ性が高いと失活してしまうため、pHを制御することが好ましい。pHを8.5以下とすることで、アナモックス細菌が失活することを防止することができる。一方、pHが低くてもアナモックス細菌の活性が低下するため、pHを6.5以上の条件とすることが好ましい。反応槽内には、硝化反応によりpHが低くなる傾向にあるので、水酸化ナトリウム(NaOH)等の薬剤を添加することにより、pHを高くすることが好ましい。また、pHが高い場合は、塩酸(HCl)等の薬剤を添加することにより、pHを低くすることが好ましい。
【0060】
また、アンモニア(アンモニウムイオン)は、中性では、NH4
+として排水中に存在するが、アルカリ性になると遊離して、NH3となり、亜硝酸酸化細菌に対して毒性を与える。そのため、反応槽内の排水、又は、処理水中に亜硝酸酸化細菌が増えすぎないようにNH3の濃度を制御することが好ましい。NH3の濃度は、アンモニアの濃度、及び、pHを調整することで行うことができる。NH3の濃度は、例えば、以下のFAの式から計算することができる。
【0061】
【0062】
FAの濃度は、1.0mg/L以上とすることが好ましい。FAの濃度を、1.0mg/L以上とすることで、亜硝酸酸化細菌の増殖を抑制することができる。亜硝酸酸化細菌が増えると、反応槽中でアンモニア酸化細菌によりアンモニアから酸化された亜硝酸が硝酸に硝化される。したがって、アナモックス反応の原料となる亜硝酸が減少し、脱窒処理されない硝酸が増加するため、窒素処理率が低下する。硝化酸化細菌の増殖を抑制するため、FAの濃度を制御し、1.0mg/L以上とすることが好ましい。
【0063】
本実施形態の排水処理方法においては、反応槽14内の窒素負荷を0.5kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下の範囲で行うことが好ましい。さらに好ましくは、1.0kg-N/m3/day以上3.0kg-N/m3/day以下の範囲であり、より好ましくは1.0kg-N/m3/day以上2.5kg-N/m3/day以下の範囲である。窒素負荷が高くなると、アンモニア酸化細菌によりアンモニアを酸化させるため、空気の曝風気量を上げる必要がある。空気の曝気風量を上げると、反応槽14内の酸素濃度が高くなるため、アナモックス細菌の活性が落ちる可能性がある。上記の排水中の溶存酸素濃度及びアンモニア濃度に制御することで、窒素負荷が従来より高い反応条件においても、窒素処理率が低下することなく脱窒処理を行うことができる。
【0064】
第1実施形態の排水処理装置10及び排水処理方法によれば、排水の溶存酸素濃度、及び、排水又は処理水のアンモニア濃度を所定の範囲内とすることで、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌の活性を維持することができ、安定した脱窒処理を行うことができる。
【0065】
<第2実施形態>
[排水処理装置]
図2は、第2実施形態の排水処理装置110の概念図である。なお、
図2において、
図1に示した第1実施形態の排水処理装置10と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略し、第2実施形態の特徴的部分を中心に説明する。
【0066】
図2に示す第2実施形態の排水処理装置110は、
図1に示した第1実施形態の排水処理装置10と比較して、原水のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度測定手段142が、原水供給管16に設けられ、反応槽14内の排水の硝酸濃度を測定する硝酸濃度測定手段144が、反応槽14に設けられている点が異なっている。また、原水のアンモニア濃度、アンモニア濃度、排水の硝酸濃度から、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを算出する算出部146を備え、制御手段28が制御値Dを所定の範囲内に制御する機能を有する点が異なっている。
【0067】
アンモニア濃度測定手段142としては、反応槽14に設けられたアンモニア濃度測定手段26と同様の装置を用いることができる。
【0068】
硝酸濃度測定手段144としては、硝酸イオン電極、及び、自動硝酸分析装置などを用いることができるが、特に限定されない。
【0069】
算出部146は、アンモニア濃度測定手段142により測定された原水のアンモニア濃度、アンモニア濃度測定手段26により測定された排水のアンモニア濃度、及び、硝酸濃度測定手段144により測定された排水の硝酸濃度からアンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを算出する。硝酸(NO3)は、アナモックス反応からも生成するため、アンモニアの処理量に対してNO3の生成量を比較することで、亜硝酸酸化細菌による亜硝酸から硝酸への硝化反応が進んでいることを確認することができる。
【0070】
アンモニアの処理量に対するNO3の生成量の比である制御値Dは、原水のアンモニア濃度をA、反応槽14の排水のアンモニア濃度をB、反応槽14の排水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量(A-B)でNO3の生成量(C)を割ることで算出することができ、D=C/(A-B)で算出することができる。この制御値Dが0.05以上0.25以下となるように、制御手段28が、ブロア22を制御し、空気の曝気風量、または、バルブ34を制御し、反応槽14内に供給する原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御する。また、制御値Dは、0.08以上0.20以下とすることがより好ましい。制御値Dの値を上記範囲内とすることで、反応槽内で生成するNO3の量のうち、アナモックス反応により生成するNO3が多くを占め、亜硝酸酸化細菌よるNO3の生成を抑え、亜硝酸酸化細菌の活性を抑えていることが確認できる。また、制御値Dが低いと、NO3の量が少なく、アナモックス反応が進んでいないことが確認できる。
【0071】
なお、
図2においては、原水供給管16に設けられたアンモニア濃度測定手段142により原水のアンモニア濃度を測定しているが、アンモニア濃度測定手段142に代わり、全窒素濃度測定手段を設け、原水の全窒素濃度を測定し、全窒素濃度をAとし、制御値Dを求めても良い。全窒素濃度測定手段としては、全窒素自動分析計などを用いることができるが、特に限定されない。原水中の窒素成分は、ほとんどがアンモニア成分であるため、全窒素濃度とアンモニア濃度が近い値となるため、原水の全窒素濃度を用いて制御値Dを算出してもよい。
【0072】
また、排水のアンモニア濃度は、処理水のアンモニア濃度としてもよく、排水の硝酸濃度は、処理水の硝酸濃度としてもよい。
【0073】
[排水処理方法]
次に、第2実施形態の排水処理方法について説明する。第2実施形態の排水処理方法は、例えば、
図2に記載の排水処理装置110を用いて行うことができる。第2実施形態の排水処理方法は、第1実施形態の排水処理方法と比較して、アンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを所定の範囲内に制御する点が異なっている。第1実施形態の排水処理方法と共通する部分はその詳細な説明を省略し、第2実施形態の特徴部分を中心に説明する。
【0074】
第2実施形態の排水処理方法についても、第1実施形態の排水処理方法と同様に、1つの反応槽14内に担体に付着したアンモニア酸化細菌とアナモックス細菌を含むことで、アンモニア酸化細菌による排水中のアンモニアの亜硝酸への酸化と、アナモックス細菌によるアンモニアと亜硝酸の脱窒を1つの反応槽内で行う。そして、反応槽14内の排水の溶存酸素濃度を0.5mg/L以上4.0mg/L以下に制御し、かつ、反応槽14内の排水、又は、反応槽14内から排出された処理水のアンモニア濃度を10mg/L以上500mg/L以下に制御する。
【0075】
さらに、第2実施形態の排水処理方法は、原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度、排水又は処理水のアンモニア濃度、及び、排水又は処理水の硝酸濃度からアンモニアの処理量に対する生成した硝酸の比である制御値Dを算出する。制御値Dは、原水のアンモニア濃度又は全窒素濃度をA、反応槽14の排水又は反応槽14から排出された処理水のアンモニア濃度をB、反応槽14の排水又は反応槽14から排出された処理水の硝酸濃度をCとした場合、アンモニアの処理量(A-B)でNO3の生成量(C)を割ることで算出することができ、D=C/(A-B)で算出する。そして、制御値Dを0.05以上0.25以下となるように制御する。制御値Dの制御は、ブロア22を制御し、空気の曝気風量、または、バルブ34を制御し、反応槽14内に供給する原水の流入速度の少なくともいずれか一方を制御することにより行うことができる。制御値Dは、0.08以上0.20以下とすることがより好ましい。
【0076】
硝酸(NO3)は、アナモックス反応からも生成するため、アンモニアの処理量に対してNO3の生成量を比較することで、亜硝酸酸化細菌による亜硝酸から硝酸への硝化反応が進んでいることを確認することができる。制御値Dの値を上記範囲内とすることで、反応槽内で生成するNO3の量のうち、をアナモックス反応により生成するNO3が多くを占め、亜硝酸酸化細菌によるNO3の生成を抑え、亜硝酸酸化細菌の活性を抑えていることが確認できる。また、制御値Dが低いと、NO3の量が少なく、アナモックス反応が進んでいないことが確認できる。亜硝酸酸化細菌による亜硝酸の硝化が進むと、アナモックス反応の原料となる亜硝酸が減少するとともに、処理水中に硝酸として残るため、窒素処理率が低下するため好ましくない。
【0077】
第2実施形態の排水処理装置110及び排水処理方法によれば、排水の溶存酸素濃度、及び、排水又は処理水のアンモニア濃度を所定の範囲内とすることで、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌の活性を維持することができ、安定した脱窒処理を行うことができる。また、亜硝酸酸化細菌による亜硝酸から硝酸の生成量を減らすことができるので、窒素処置率が低下することを防止することができる。
【実施例0078】
以下に実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0079】
〔アナモックス細菌付着担体の製造〕
排水処理用担体として用いられるアナモックス細菌付着担体を製造した。
図3は、アナモックス細菌付着担体の製造に用いられた実験装置200を示す図である。反応槽202の有効容積は1.44Lであり、担体204を担体充填率20%となるように充填した。反応槽202は、ウォータージャケット206で水温30℃となるように調整した。反応槽202内のpHは、pHセンサー218により測定され、pHコントローラー(不図示)によりポンプ(不図示)を制御し、0.2N塩酸溶液を用いて、pH7.6に調整した。反応槽202は、原水を供給する原水供給管208、処理された処理水を排出する排出管210、0.2N塩酸溶液を供給する酸性溶液供給管212、及び、N
2ガスを供給するガス供給管214を備える。また、反応槽202内の処理水及び担体204を撹拌させるための撹拌器216を備える。撹拌器216としては、マグネチックスターラー(アズワン、VPS-160S)及び撹拌子を用いた。窒素負荷は、6.0kg/m
3/dayに設定した。リアクター条件を表1に示す。
【0080】
【0081】
{供試担体}
担体204は、ポリビニルアルコール(PVA)系のビーズ状のゲル担体を使用した。また、担体204は、あらかじめ前馴養によりアナモックス細菌を付着させた後、反応槽202内に充填した。
【0082】
{供試排水}
アナモックス細菌付着担体の製造に使用した合成排水の組成を表2に示す。また、微量成分1、2を表3、表4の組成通りに秤量し、水道水で溶かして調整した。微量成分1、2は合成排水1L当たり1mL添加した。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
上記リアクター、及び、供試排水を用いて、アナモックス細菌をPVA担体に付着させ、十分な活性を有するアナモックス細菌付着担体を製造し、1槽型システムに使用した。
【0087】
〔アンモニア酸化細菌付着担体の製造〕
排水処理用担体として用いられるアンモニア酸化細菌付着担体を製造した。
図4は、アンモニア酸化細菌付着担体の製造に用いられた実験装置300を示す図である。反応槽302の有効容積は、1.44Lであり、担体304を担体充填率10%となるように充填した。反応槽302は、ウォータージャケット306で水温30℃となるように調整した。反応槽302内のpHは、pHセンサー318により測定され、pHコントローラー(不図示)によりポンプ(不図示)を制御し、2.0N水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を用いて、pH7.6に調整した。反応槽302は、原水を供給する原水供給管308、処理された処理水を排出する排出管310、2.0水酸化ナトリウム溶液を供給するアルカリ性溶液供給管312を備える。また、反応槽302内を好気状態にするためにブロア(不図示)に接続され空気を供給する空気供給管320、及び、担体の流動性を保つため撹拌に用いられるN
2ガスを供給するN
2ガス供給管314を備える。なお、担体の撹拌はスターラーにより行ってもよい。窒素負荷は、1.0kg/m
3/dayに設定した。リアクター条件を表5に示す。
【0088】
【0089】
{供試担体}
担体304は、ポリビニルアルコール(PVA)系のビーズ状のゲル担体を使用した。装置運転開始時に、下水処理場から採取した活性汚泥をSS濃度が2000mg/Lになるように添加した。
【0090】
{供試排水}
アンモニア酸化細菌付着担体の製造に使用した合成排水の組成を表6に示す。また、微量成分1、2を表3、表4の組成通りに秤量し、水道水で溶かして調整した。微量成分1、2は合成排水1L当たり1mL添加した。
【0091】
【0092】
上記リアクター、及び、供試排水を用いて、アンモニア酸化細菌をPVA担体に付着させ、十分な活性を有するアンモニア酸化細菌付着担体を製造し、1槽型システムに使用した。
【0093】
〔実験例1:立ち上げ試験〕
装置は、
図4に示すような外側にウォータージャケットを有するアクリル製の実験装置を使用した。反応槽内を好気状態にするためブロワーで曝気をした。また、同時に担体の流動性を保つためにN
2ガスまたはスターラーによって撹拌した。
【0094】
リアクター条件を表7に示す。反応槽の有効容積は、1.44Lであり、担体充填率はアナモックス細菌付着担体を7.5%、アンモニア酸化細菌付着担体を10%とした。pHはpHコントローラーを用い、7.6に制御した。反応槽内の温度は、ウォータージャケットで30℃に維持した、窒素負荷は、リアクター当たり1.0~3.0kg/m3/dayに設定した。
【0095】
【0096】
1槽型アナモックス反応装置の性能評価における実験例1の水質データを
図5に示す。また、窒素処理率を
図6に示す。なお、
図5中の「Inf.NH
4
+」は原水のアンモニア濃度、「Eff.NO
2
-」は処理水の亜硝酸濃度、「Eff.NH
4
+」は処理水のアンモニア濃度、「Eff.NO
3
-」処理水の硝酸濃度を示す。以下、同様である。
【0097】
装置立ち上げ時のDO濃度は、曝気風量を調整することで、0.5~2.0mg/Lに制御した。装置運転開始時(0日目)は、アナモックス細菌の酸素阻害を考慮してDO濃度を0.6mg/Lに設定した。さらに、NO2
-阻害を防ぐために、槽内の水は水道水にし、原水ポンプを停止した。その後、1日目より原水の供給を開始した。この時、NO2
-の蓄積による阻害を起こさないように流入のNH4
+は500mg/Lに設定した。また、この時のHRT(Hydraulic retention time:水理学的滞留時間)は24hに設定し、窒素負荷1.0kg/m3/dayに設定した。
【0098】
8日目までは処理水のNH4
+が50mg/L程度になるように、曝気風量を増やし、硝化性能を上昇させた。そして、9日目に曝気風量2.0L/minの時に、処理水のNH4
+-Nは53mg/Lになり、15日目まで処理水のNH4
+-Nは低い値を示し、高い窒素処理性能を示した。その後、15日目より目標条件である流入のNH4
+-Nは1000mg/Lm、窒素負荷1.0kg/m3/dayになるようにNH4
+とHRTを変更し設定した。変更初期である17日目では、処理水のNH4
+は29.7mg/Lとなり低い値を示した。その後25日目まで安定した処理性能を維持し、立ち上げ完了とした。
【0099】
立ち上げ期間の窒素処理率は、
図6に示すように、最大窒素処理率は86%を示し、平均で76.8%であった。なお、窒素処理率は、(1)流入のアンモニア性窒素Inf.NH
4
+と亜硝酸性窒素Inf.NO
2
-と硝酸性窒素Inf.NO
3
-の和から(2)理水中のアンモニア性窒素Eff.NH
4
+と亜硝酸性窒素Eff.NO
2
-と硝酸性窒素Eff.NO
3
-の和を引いたものを、(1)で割り、100分率で表したものである。具体的には、次の式で求めた。
【0100】
【0101】
〔実験例2:高窒素負荷試験〕
実験例1の試験を継続し、窒素負荷を変更することで、高窒素負荷試験を行った。1槽型アナモックス反応装置の性能評価における実験例2の水質データを
図7、8に示す。また、
図9は、窒素負荷(NLR)と窒素処理速度(NCR)の経時変化を示す図である。
図8に示すように、85日目まではDO濃度を、曝気風量を調整することで、1.5~2.0mg/Lに制御した。
【0102】
運転開始60日目から73日目までは、窒素負荷1.0kg/m3/dayの条件で行った。この時の平均Eff.NH4
+、平均Eff.NO3
-は、それぞれ25mg/L、3.1mg/Lであり、高い処理能力を示した。
【0103】
しかしながら、70日目から処理水のNH4
+がほとんどなくなり、亜硝酸酸化細菌の活性が上がり、NO3
-の上昇が確認された。そのため、73日目に窒素負荷を2.0kg/m3/dayに上昇させることで、反応槽内のNH4
+を増加させ、亜硝酸酸化細菌の活性を抑えることにした。
【0104】
(亜硝酸酸化細菌の酸化活性の検知)
NO3
-の上昇が見られたため、このNO3
-の上昇が、アナモックス反応により生成したものか、亜硝酸酸化細菌の活性の上昇によるものか検知した。これは、アンモニアの処理量ΔNH4、すなわち原水(流入)のNH4から処理水のNH4を引いた値と、生成したNO3(ΔNO3)の比(制御値D)を比較することで行った。
【0105】
ΔNO
3/ΔNH
4を追加した図を
図10に示す。
図10に示すように、67日目においては、ΔNO
3/ΔNH
4=0.17であったが、処理水中のアンモニアが10mg/L以下となったため、その後71日目に急激にΔNO
3/ΔNH
4=0.31まで上昇した。そこで、原水の流入量を上昇させて反応槽内のアンモニア濃度を上昇させたところ、73日目には、アンモニア濃度394mg/Lまで上昇すると、74日目には、ΔNO
3/ΔNH
4=017に回復した。
【0106】
図11は、FAとΔNO
3/ΔNH
4の変化を示す図である。FAが1.0mg/L以上あるときは、ΔNO
3/ΔNH
4は、0.2以下であったが、70日目以降、FAが1.0mg/Lを下回るとΔNO
3/ΔNH
4の値が急激に上昇した。また、73日目以降、FA濃度を上昇させると、ΔNO
3/ΔNH
4の値が急激に下がっていることが確認できる。
【0107】
したがって、アンモニア濃度とpHを調整することで、FA濃度の調整が可能であるため、FAを1.0mg/L以上を維持するように運転することで、ΔNO3/ΔNH4の値の上昇を抑制することができ、亜硝酸酸化細菌の活性を抑制できていることが確認できた。
【0108】
〔実験例3:超高負荷試験〕
実験例1及び実験例2の試験を継続し、窒素負荷を変更することで、超高負荷試験を行った。1槽型アナモックス反応装置の性能評価における実験例3の水質データを
図12に示す。また、
図13は、窒素処理率の経時変化を示す図であり、
図14は、窒素負荷(NLR)と窒素処理速度(NCR)の経時変化を示す図である。なお、運転開始60日目から90日目までは、実験例2と共通するデータである。
【0109】
運転開始60日目から67日目までのDO濃度は、1.7mg/Lであり、良好な処理性能が得られていた。その後、窒素負荷の上昇に伴い、曝気量を上昇させ、反応槽内のDO濃度は、2~2.5mg/Lで維持すると良好な処理性能が得られた。ところが、98日目以降にDO濃度が3.0mg/Lを超えると、処理速度は上昇するものの若干Eff.NO3
-が上昇し、窒素処理率の低下が見られた。
【0110】
窒素負荷を2.5kg/m3/dayに上げたところ、変更初期からEff.NO3
-の上昇が確認された。これは、曝気風量が多すぎたためであると言える。そのため、窒素負荷を上げることにより反応槽内のNH4
+を増加させ、亜硝酸酸化細菌の活性を抑えた。窒素負荷が2.5kg/m3/dayの時の平均Eff.NH4
+、平均Eff.NO3
-は、それぞれ76mg/L、7.8mg/Lであった。
【0111】
窒素負荷が3.0kg/m3/dayの時は、硝化活性を上げるため曝気風量を段階的に上昇させ、最終的に14L/minまで上げたが、ある地点より硝化性能の上昇は確認できなかった。これは、微生物への酸素供給の限界によるものだと言える。したがって、この条件では、平均Eff.NH4
+、平均Eff.NO3
-は、それぞれ176mg/L、8.4mg/Lであった。
10…排水処理装置、12…排水処理用担体、14…反応槽、16…原水供給管、18…処理水排出管、20…散気板、22…ブロア、24…溶存酸素濃度測定手段、26…アンモニア濃度測定手段、28…制御手段、30…撹拌機、32…モーター、34…バルブ、36…pH測定手段、38…pH制御手段、40…薬品タンク、110…排水処理装置、142…アンモニア濃度測定手段、144…硝酸濃度測定手段、146…算出部、200…実験装置、202…反応槽、204…担体、206…ウォータージャケット、208…原水供給管、210…排出管、212…酸性溶液供給管、214…ガス供給管、216…撹拌器、218…センサー、300…実験装置、302…反応槽、304…担体、306…ウォータージャケット、308…原水供給管、310…排出管、312…アルカリ性溶液供給管、314…N2ガス供給管、318…pHセンサー、320…空気供給管