(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023137
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】焼結体原料炭酸カルシウム、炭酸カルシウム多孔質焼結体、炭酸カルシウム緻密質焼結体ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/00 20060101AFI20230209BHJP
C04B 38/02 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C04B35/00
C04B38/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128377
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 奨大
(72)【発明者】
【氏名】鵜沼 英郎
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019JA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炭酸カルシウム焼結体の変色と、機械的強度の低下とを共に防止するための、炭酸カルシウムの焼結温度域が精密に制御された焼結体原料炭酸カルシウムを提供する。
【解決手段】純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物と、を混合してなる、焼結体原料炭酸カルシウムであって、該金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%含有している、前記焼結体原料炭酸カルシウムとその製造方法、当該焼結体原料炭酸カルシウムを用いた炭酸カルシウム緻密質焼結体、炭酸カルシウム多孔質焼結体並びにそれらの製造方法を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、
カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物と、を混合してなる、焼結体原料炭酸カルシウムであって、
該金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%含有している、前記焼結体原料炭酸カルシウム。
【請求項2】
該金属元素の化合物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭酸塩、ケイ酸塩および硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載の焼結体原料炭酸カルシウム。
【請求項3】
該金属元素の化合物を4種以下混合してなる、請求項1または2に記載の焼結体原料炭酸カルシウム。
【請求項4】
透過型電子顕微鏡観察により測定した粒子径分布における平均粒子径(D50)が0.05~0.30μmであり、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)が20μm以下であり、BET比表面積が5~25m2/グラムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結体原料炭酸カルシウム。
【請求項5】
焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法であって、
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合する工程を含む、前記焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
該金属元素の化合物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭酸塩、ケイ酸塩および硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項5に記載の焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
該金属元素の化合物を4種以下混合する、請求項5または6に記載の焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムを焼結してなる、炭酸カルシウム緻密質焼結体。
【請求項9】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合して、焼結体原料炭酸カルシウムを得、次いで
該焼結体原料炭酸カルシウムを焼結する、炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造方法。
【請求項10】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤とを含む分散液を調製し、
該分散液に発泡剤を添加して撹拌し、発泡混合物を調製し、
該発泡混合物をゲル化して、発泡混合物ゲルを調製し、
該発泡混合物ゲルを焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得る、炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項11】
該分散液は、該焼結体原料炭酸カルシウムを20体積%以上含有するように調製する、請求項10に記載の炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項12】
該発泡混合物ゲルを空気雰囲気下で脱脂焼結し、次いで二酸化炭素雰囲気下で本焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得る、請求項10または11に記載の炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項13】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物0.01~10質量%と、を混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤と、発泡剤とを含む発泡混合物ゲルを焼成してなる炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項14】
炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれ、かつ気孔率が50体積%以上である、請求項13に記載の炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項15】
炭酸カルシウムが99.9質量%以上含まれている、請求項13または14に記載の炭酸カルシウム多孔質焼結体。
【請求項16】
請求項13~15のいずれかに記載の炭酸カルシウム多孔質焼結体を含む、骨補填材。
【請求項17】
請求項1~3のいずれかに記載の焼結体原料炭酸カルシウムを含む、3Dプリンタ顔料インキ。
【請求項18】
請求項8に記載の炭酸カルシウム緻密質焼結体を含む、誘電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体原料炭酸カルシウムと炭酸カルシウム多孔質焼結体に関し、さらにそれらの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム焼結体は、人工真珠の成長核や、人工骨等の生体用途、およびフッ素やリン等の吸着を行う水質改質剤等への応用が期待されている。従来、炭酸カルシウム焼結体は、一般に、炭酸カルシウムと焼結助剤の混合物を静水圧プレスにより成形体とし、この成形体を炭酸ガス雰囲気中で焼結することにより製造されていた(特許文献1及び非特許文献1)。
炭酸カルシウム焼結体を生体用途に安全に使用するためには、炭酸カルシウム焼結体に含まれている不純物の量を低減させる必要があった。そこで不純物量を低減させた高純度炭酸カルシウムを用いて炭酸カルシウム焼結体を製造する方法が提案された(特許文献2)。
炭酸カルシウム焼結体の焼結しやすさは、原料となる炭酸カルシウムの純度に影響される。一般に、純度が高いほど低温で焼結できるため、焼結は容易になる。
一方、炭酸カルシウム焼結体を生体用途に用いるためには、形状の自由度を高めることや、機能性を向上させることが必要である。このため、炭酸カルシウムと焼結助剤の混合物に、さらに分散剤、増粘剤、ゲル化剤、発泡剤等の有機成分を添加して成形体とし、この成形体を炭酸ガス中で焼結することにより多孔質体等の種々の形状の炭酸カルシウム焼結体を得る試みが成されている。しかしながら高純度炭酸カルシウムと有機成分とを用いて焼結を行うと、炭酸カルシウムの焼結温度域と有機成分の分解温度域とが重なるため、得られる炭酸カルシウム焼結体の内部または表面に炭化した有機成分が残存し黒く変色してしまうことがある。そこで、炭酸カルシウム焼結体の変色を防止すべく高温で焼結を行うと、できあがった炭酸カルシウム焼結体の機械的強度が低下する場合があった。炭酸カルシウム焼結体の変色と、機械的強度の低下とを共に防止するためには、炭酸カルシウムの焼結温度域を精密に制御することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-254240号公報
【特許文献2】特開2017-214238号公報
【非特許文献1】都祭聡子ら、炭酸カルシウムの焼結における出発物質の影響、無機マテリアル学会学術講演会要旨集、Vol.105th、pp.46-47
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高純度炭酸カルシウムに、調整された量の金属元素の化合物を添加することにより、焼結温度域が制御された焼結体原料炭酸カルシウムを得ることを目的とする。さらに本発明は、焼結温度域が適切に制御された、本発明の焼結体原料炭酸カルシウムを用いて、焼結時に発生しうる炭酸カルシウム焼結体の変色と、機械的強度の低下とを共に防止することを目的とする。上記の目的に加え、本発明は、焼結体原料炭酸カルシウムを成形し焼成して得た、緻密質構造を有する炭酸カルシウム焼結体および、焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤と、発泡剤とを含む発泡混合物ゲルを焼成して得た、多孔質構造を有する炭酸カルシウム焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物と、を混合してなる、焼結体原料炭酸カルシウムであって、該金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%含有している、前記焼結体原料炭酸カルシウムである。
【0007】
上記の焼結体原料炭酸カルシウムにおいて、金属元素の化合物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭酸塩、ケイ酸塩および硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物であることが好ましい。また上記の焼結体原料炭酸カルシウムに含まれている該金属元素の化合物は、4種以下であることが好ましい。
【0008】
また、焼結体原料炭酸カルシウムにおいて、透過型電子顕微鏡観察により測定した粒子径分布における平均粒子径(D50)が0.05~0.30μmであり、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)が20μm以下であり、BET比表面積が5~25m2/グラムであることが好ましい。
【0009】
本発明の二の態様は、焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法であって、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合する工程を含む、焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法である。また、混合する該金属元素の化合物は4種以下であることが好ましい。
【0010】
上記の焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法において、金属元素の化合物が、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭酸塩、ケイ酸塩および硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明の第三の態様は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムを焼結してなる、炭酸カルシウム緻密質焼結体である。
【0012】
本発明の四の態様は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤とを含む分散液を調製し、該分散液に発泡剤を添加して撹拌し、発泡混合物を調製し、該発泡混合物をゲル化して、発泡混合物ゲルを調製し、該発泡混合物ゲルを焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得る、炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法である。
【0013】
上記の炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法において、分散液は、該焼結体原料炭酸カルシウムを20体積%以上含有するように調製することが好ましい。
【0014】
また、炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法において、発泡混合物ゲルを空気雰囲気下で脱脂焼結し、次いで二酸化炭素雰囲気下で本焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることが好ましい。
【0015】
本発明の五の態様は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物0.01~10質量%と、を混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤と、発泡剤とを含む発泡混合物ゲルを焼成してなる炭酸カルシウム多孔質焼結体である。
【0016】
上記の炭酸カルシウム多孔質焼結体において、炭酸カルシウムが99.7質量%以上含まれ、かつ気孔率が50体積%以上であることが好ましい。また、炭酸カルシウムが99.9質量%以上含まれていることがより好ましい。
【0017】
本発明の他の態様は、上記の炭酸カルシウム多孔質焼結体を含む骨補填材、上記の焼結体原料炭酸カルシウムを含む3Dプリンタ顔料インキ、および上記の炭酸カルシウム緻密質焼結体を含む誘電体である。
【発明の効果】
【0018】
高純度炭酸カルシウムに制御された量の金属元素の化合物を添加することにより焼結温度を制御することができる。焼結温度を制御した炭酸カルシウムを用いて、変色のない、機械的強度に優れた炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例1でそれぞれ得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体の写真である。
【
図2】
図2は、実施例2及び比較例1でそれぞれ得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体の写真である。
【
図3】
図3は、炭酸カルシウム緻密質焼結体と炭酸カルシウム多孔質焼結体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、各実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の一の実施形態は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物と、を混合してなる、焼結体原料炭酸カルシウムであって、該金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%含有している、前記焼結体原料炭酸カルシウムである。
以下の説明する全ての実施形態において、炭酸カルシウムとは、CaCO3の化学式で表されるカルシウムの塩である。炭酸カルシウムは、貝殻、石灰岩、鶏卵の殻等、自然界に多く存在するが、実施形態で用いられる炭酸カルシウムは化学的に合成された軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)である。軽質炭酸カルシウムは、たとえば、水酸化カルシウムを炭酸ガスと反応させることによって製造することができる。水酸化カルシウムは、たとえば、酸化カルシウムを水と反応させることによって製造することができる。酸化カルシウムは、石灰石原石をコークスなどと混合し焼成することによって製造することができる。この場合、焼成時に炭酸ガスが発生するので、この炭酸ガスを水酸化カルシウムの水懸濁液中に吹き込み、炭酸ガスを水酸化カルシウムと反応させることによって炭酸カルシウムを製造することができる。このほか、炭酸ナトリウムを含むスラリー(緑液)に水酸化カルシウムを反応させる苛性化反応や、アンモニアソーダ法における副生物である塩化カルシウム溶液を炭酸ナトリウムまたは炭酸アンモニウム溶液と反応させる方法、あるいは、工業用ボイラー等の燃焼炉の排ガスの炭酸化法により軽質炭酸カルシウムを得ることもできる。軽質炭酸カルシウムには、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、バテライト結晶等の結晶形があるが、特にカルサイト結晶の合成炭酸カルシウムを用いることが好ましい。また、軽質炭酸カルシウムの粒子は、球状のほか、略立方体、紡錘状、針状等の形状を有していることが好ましい。
【0022】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムを用いて得ることが好ましい。炭酸カルシウムの純度は、99.97質量%以上であるとより好ましく、99.99質量%以上であるとさらに好ましい。このような高純度の炭酸カルシウムは、たとえば、特開2012-240872号公報に開示された従来方法で製造することができる。純度の高い炭酸カルシウムを用いることによって、焼結時に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。なお、炭酸カルシウムの純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。
【0023】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、純度99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を混合してなる。実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、上記のような高純度の炭酸カルシウムに対し金属元素の化合物をあえて混合してなるものである。ここで金属元素の化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物である。高純度炭酸カルシウムに混合する金属元素の化合物の例として、酸化カルシウム、炭化カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化亜鉛、二酸化マグネシウム、二酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化ホウ素、酸化第1スズ、酸化第2スズ、酸化ガリウム(III)、酸化ランタン、酸化セリウム、炭化ケイ素、三炭化四アルミニウム、六炭化二アルミニウム、炭化亜鉛、炭化バリウム、二炭化ストロンチウム、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化亜鉛、窒化マグネシウム、窒化バリウム、窒化ストロンチウム、窒化ホウ素、窒化スズ、窒化ガリウム、窒化イットリウム、ホウ化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、二ホウ化マグネシウム、ホウ化バリウム、六ホウ化ストロンチウム、炭酸アルミニウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸スズ、酸化鉄、窒化鉄、炭酸鉄、硫化鉄、酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等を挙げることができる。これらの化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの化合物のうち、特に二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、または炭酸マグネシウムを用いることが好ましい。このような金属元素の化合物は、1種以上4種以下、好ましくは1種以上2種以下を組み合わせて用いることが好ましい。実施形態において純度99.95質量%以上の炭酸カルシウムに金属元素の化合物を混合するのは、後述するとおり、焼結時の焼結温度域の制御とそれに伴う炭酸カルシウム焼結体の外観と強度の改善のためであるが、あまり多くの金属元素の化合物を混合すると、当該金属元素の化合物同士が相互作用して悪影響を及ぼすおそれもある。そこで、混合する金属元素の化合物の種類は、4種以下、あるいは2種以下であることが好ましい。
【0024】
金属元素の化合物は、焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%となる量を、高純度炭酸カルシウムに混合することが好ましい。金属元素の化合物の量を制御することは、後述する、焼結体を得る際の焼結温度に関連するため、重要である。金属元素の化合物の量は、焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として、好ましくは0.05~5質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%である。
【0025】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、透過型電子顕微鏡観察により測定した粒子径分布における平均粒子径(D50)が0.05~0.30μmであることが好ましい。平均粒子径(D50)は、より好ましくは0.08~0.3μmの範囲内であり、さらに好ましくは0.1~0.25μmの範囲内である。このような範囲内の平均粒子径(D50)を有する焼結体原料炭酸カルシウムを用いて焼結体を製造すると、密度の高い焼結体を作製することができる。なお、透過型電子顕微鏡観察による粒子径分布は、測定対象である炭酸カルシウムを、透過型電子顕微鏡を用いて観察し、1000個以上の炭酸カルシウム粒子について測定することにより求めることができる。
【0026】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)が5μm以下であることが好ましい。90%粒子径(D90)は、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは2μm以下の範囲内である。このような範囲内の90%粒子径(D90)を有する焼結体原料炭酸カルシウムを用いて焼結体を製造すると、緻密質、多孔質を問わず、得られる焼結体のムラが少なくなる。なお、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)は、粒子にレーザビームを照射して粒子から発せられる回折光や散乱光を解析することにより得られる光強度分布パターンから測定された粒子径分布から求められる。
【0027】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、BET比表面積が5~25m2/グラムであることが好ましい。BET比表面積は、より好ましくは7~20m2/gであり、さらに好ましくは8~15m2/gの範囲内である。焼結体原料炭酸カルシウムのBET比表面積を上記の範囲内にすることにより、焼結時の焼結温度を低くすることができ、このため焼結が容易になる。なお、BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムは、たとえば、3Dプリンタ顔料インキの成分として用いることができるほか、炭酸カルシウム多孔質焼結体の原料等に利用することもできる。
【0028】
本発明の二の実施形態は、焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法であって、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合する工程を含む、焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法である。二の実施形態は、上記の一の実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムを製造する方法である。二の実施形態の製造方法で使用する炭酸カルシウムは、純度が99.95質量%以上であることが好ましい。用いる炭酸カルシウムの純度は、99.97質量%以上であるとより好ましく、99.99質量%以上であるとさらに好ましい。このような高純度の炭酸カルシウムは、たとえば、特開2012-240872号公報に開示された従来方法で製造することができる。純度の高い炭酸カルシウムを原料として用いることによって、焼結時に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。なお、炭酸カルシウムの純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。一方、二の実施形態で使用する金属元素の化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物である。高純度炭酸カルシウムに混合する金属元素の化合物の例として、酸化カルシウム、炭化カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化亜鉛、二酸化マグネシウム、二酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化ホウ素、酸化第1スズ、酸化第2スズ、酸化ガリウム(III)、酸化ランタン、酸化セリウム、炭化ケイ素、三炭化四アルミニウム、六炭化二アルミニウム、炭化亜鉛、炭化バリウム、二炭化ストロンチウム、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化亜鉛、窒化マグネシウム、窒化バリウム、窒化ストロンチウム、窒化ホウ素、窒化スズ、窒化ガリウム、窒化イットリウムホウ化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、二ホウ化マグネシウム、ホウ化バリウム、六ホウ化ストロンチウム、炭酸アルミニウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸スズ、酸化鉄、窒化鉄、炭酸鉄、硫化鉄、酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等を挙げることができる。これらの化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの化合物のうち、特に二酸化ケイ素、水酸化マグネシウム、またはケイ酸カルシウムを用いることが好ましい。このような金属元素の化合物は、1種以上4種以下、好ましくは1種以上2種以下を組み合わせて用いることが好ましい。実施形態において純度99.95質量%以上の炭酸カルシウムに金属元素の化合物を混合するのは、後述するとおり、焼結時の焼結温度域の制御とそれに伴う炭酸カルシウム焼結体の外観と強度の改善のためであるが、あまり多くの金属元素の化合物を混合すると、当該金属元素の化合物同士が相互作用して悪影響を及ぼすおそれもある。そこで、混合する金属元素の化合物の種類は、4種以下、あるいは2種以下であることが好ましい。
【0029】
上記の高純度の炭酸カルシウムに、上記の金属限度の化合物を混合して、焼結体原料炭酸カルシウムを得る。金属元素の化合物は、焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%となる量を、高純度炭酸カルシウムに混合することが好ましい。金属元素の化合物の量を制御することは、後述する焼結体を得る際の焼結温度に関連するため、重要である。金属元素の化合物の量は、焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として、好ましくは0.05~5質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%である。高純度の炭酸カルシウムと金属元素の化合物との混合は、所定の量の炭酸カルシウムと金属元素の化合物とを秤量し、固体混合機または固体撹拌機を使用して、原料の高純度の炭酸カルシウムの粒子をなるべく破壊しないように混合することが好ましい。好ましくは、ボールミルを用いて、高純度の炭酸カルシウムと金属元素の化合物とを、適宜分散媒に分散させて、湿式混合することが好ましい。
【0030】
本発明の三の実施形態は、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムに、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物を、該焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となるように混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムを焼結してなる、炭酸カルシウム緻密質焼結体である。三の実施形態は、上記の一の実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムを焼結してなる炭酸カルシウム緻密質焼結体である。実施形態において、緻密質とは、焼結体原料炭酸カルシウムの粒子径分布における平均粒子径(D50)よりも大きな孔がほとんどまたは全く存在しない概ね均一な構造のことであり、たとえば、相対密度が概ね70%以上となる構造のことを云う。相対密度は、成形体のかさ密度を、炭酸カルシウムの理論密度(2.711g/cm3)で割った値である。成形体のかさ密度は、アルキメデス法により測定することができる。三の実施形態で使用する炭酸カルシウムは、純度が99.95質量%以上であることが好ましい。用いる炭酸カルシウムの純度は、99.97質量%以上であるとより好ましく、99.99質量%以上であるとさらに好ましい。このような高純度の炭酸カルシウムは、たとえば、特開2012-240872号公報に開示された従来方法で製造することができる。純度の高い炭酸カルシウムを原料として用いることによって、焼結時に必要な焼結助剤の量を少なくすることができる。なお、炭酸カルシウムの純度の上限値は特に限定されるものではないが、一般には、99.9999質量%である。一方、三の実施形態で使用する金属元素の化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属硫酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物である。高純度炭酸カルシウムに混合する金属元素の化合物の例として、酸化カルシウム、炭化カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化亜鉛、二酸化マグネシウム、二酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化ホウ素、酸化第1スズ、酸化第2スズ、酸化ガリウム(III)、酸化ランタン、酸化セリウム、炭化ケイ素、三炭化四アルミニウム、六炭化二アルミニウム、炭化亜鉛、炭化バリウム、二炭化ストロンチウム、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化亜鉛、窒化マグネシウム、窒化バリウム、窒化ストロンチウム、窒化ホウ素、窒化スズ、窒化ガリウム、窒化イットリウム、ホウ化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、二ホウ化マグネシウム、ホウ化バリウム、六ホウ化ストロンチウム、炭酸アルミニウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸スズ、酸化鉄、窒化鉄、炭酸鉄、硫化鉄、酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等を挙げることができる。これらの化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの化合物のうち、特に二酸化ケイ素、水酸化マグネシウム、またはケイ酸カルシウムを用いることが好ましい。このような金属元素の化合物は、1種以上4種以下、好ましくは1種以上2種以下を組み合わせて用いることが好ましい。実施形態において純度99.95質量%以上の炭酸カルシウムに金属元素の化合物を混合するのは、後述するとおり、焼結時の焼結温度域の制御とそれに伴う炭酸カルシウム焼結体の外観と強度の改善のためであるが、あまり多くの金属元素の化合物を混合すると、当該金属元素の化合物同士が相互作用して悪影響を及ぼすおそれもある。そこで、混合する金属元素の化合物の種類は、4種以下、あるいは2種以下であることが好ましい。
【0031】
実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムを焼結して、炭酸カルシウム緻密質焼結体を得ることができる。焼結体原料炭酸カルシウムの焼結は、好ましくは、二酸化炭素雰囲気下で焼成することにより行う。二酸化炭素雰囲気下での焼成は、500~900℃、好ましくは700~900℃の温度で行う。焼成は、炭酸カルシウムを焼結させて、炭酸カルシウム緻密質焼結体を得るために行う。炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造は、一の実施形態である、高純度の炭酸カルシウムと金属元素の化合物とを含む焼結体原料炭酸カルシウムを原料として行う。焼結体原料炭酸カルシウムの焼成は、雰囲気気体の制御が可能な焼成炉、電気炉、ガス炉などを用いて行うことができる。焼結体原料炭酸カルシウムにレーザを照射して焼成してもよく、3Dプリンタ等を用いてレーザを照射して焼成することも可能である。実施形態の炭酸カルシウム緻密質焼結体は、それ自体をたとえば誘電体として利用することができるほか、緻密質骨補填材、建材等に利用することができる。炭酸カルシウム緻密質焼結体は、たとえば
図3の写真右に見られるような、概ね均一な構造を有している。
【0032】
本発明の四の実施形態は、炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造方法である。炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造方法は、以下の工程:純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合して、焼結体原料炭酸カルシウムを得る工程;次いで該焼結体原料炭酸カルシウムを焼成する工程を含む。四の実施形態の第1工程は、上記の二の実施形態と同様に行うことができる。二の実施形態に倣い得た焼結体原料炭酸カルシウムを焼成することにより、炭酸カルシウム緻密質焼結体を得ることができる。実施形態において、緻密質とは、ほとんどまたは全く孔の存在しない概ね均一な構造のことであり、たとえば、相対密度が概ね70%以上、好ましくは90%~100%、さらに好ましくは95%~100%となる構造のことを云う。焼結体原料炭酸カルシウムの焼成は、好ましくは、二酸化炭素雰囲気下で焼成することにより行う。二酸化炭素雰囲気下での焼成は、500~900℃、好ましくは700~900℃の温度で行う。焼成は、炭酸カルシウムを焼結させて、炭酸カルシウム緻密質焼結体を得るために行う。焼結体原料炭酸カルシウムの焼成は、雰囲気気体の制御が可能な焼成炉、電気炉、ガス炉などを用いて行うことができる。焼結体原料炭酸カルシウムにレーザを照射して焼成してもよく、3Dプリンタ等を用いてレーザを照射して焼成することも可能である。実施形態の炭酸カルシウム緻密質焼結体は、それ自体をたとえば誘電体として利用することができるほか、緻密質骨補填材、建材等に利用することができる。
【0033】
なお、本発明の焼結体は焼結前に圧縮成形を行うことが望ましく、圧縮成形は、一軸成形であることが好ましい。一軸成形による成形体を用いて、高い密度を有する炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することができる。一軸成形のほか、静水圧プレス成形、あるいはドクターブレード成形、鋳込み成形など従来から既知の成形方法により成形体を作製してもよい。成形体の相対密度は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、58%以上であることがさらに好ましい。成形体の相対密度は、成形体のかさ密度を、炭酸カルシウムの理論密度(2.711g/cm
3)で割った値である。成形体のかさ密度は、アルキメデス法により測定することができる。上記成形体の相対密度は、196.1Mpa(2000kgf/cm
2)の成形圧で、一軸プレス成形したときに得られるものであることが好ましい。上記範囲の相対密度にすることにより、より高い密度の高純度炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。実施形態の製造方法により得た炭酸カルシウム緻密質焼結体は、たとえば
図3の写真右に見られるような、概ね均一な構造を有している。なお、本実施形態は、一の実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムを用い、これを焼成することにより行うこともできる。
【0034】
本発明の五の実施形態は、炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法である。炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法は、以下の工程:純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤とを含む分散液を調製する工程;該分散液に発泡剤を添加して撹拌し、発泡混合物を調製する工程;該発泡混合物をゲル化して、発泡混合物ゲルを調製する工程;および該発泡混合物ゲルを焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得る工程を含む。実施形態において、多孔質とは、細孔、大孔を問わず、焼結体原料炭酸カルシウムの粒子径分布における平均粒子径(D50)よりも大きな複数の孔が存在する構造のことであり、たとえば気孔率が概ね10%となる構造のことを云う。多孔質焼結体に存在する孔は、独立孔であってよく、連通孔であってもよい。
【0035】
純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、焼結体原料炭酸カルシウムの質量に対して0.01~10質量%となる量の、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物とを混合してなる焼結体原料炭酸カルシウムは、上記の一の実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムであり、上記の二の実施形態の焼結体原料炭酸カルシウムの製造方法により得ることができる。焼結体原料炭酸カルシウムと、ゲル化剤と、適宜分散媒とを混合して、分散液を調製する。ゲル化剤は、焼結体原料炭酸カルシウム分散液の粘度を上昇させてゲル状にするための薬剤である。ゲル化剤として、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩等の高分子界面活性剤を用いることができる。焼結体原料炭酸カルシウムとゲル化剤とを、水などの分散媒に徐々に添加しながら、ディスパー、ミキサー、ボールミル等の攪拌力の強い装置を用いて、焼結体原料炭酸カルシウムを分散させる。焼結体原料炭酸カルシウムは、一般に、分散液中において20体積%以上、好ましくは30~70体積%となるように混合することが好ましい。ゲル化剤は、焼結体原料炭酸カルシウム100質量部に対して0~3質量部、好ましくは0.1~1質量部程度を添加することができる。
【0036】
このようにして得た焼結体原料炭酸カルシウム分散液に発泡剤を添加して撹拌し、発泡混合物を調製する。発泡剤は、焼結体原料炭酸カルシウム分散液を泡立てて、多孔質焼結体を得るために用いられる。発泡剤として、ラウリル硫酸トリエタノールアミンなどのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルポリグルコシド等を用いることが好ましい。発泡剤は、分散液中の濃度が0.01~10質量%、好ましくは0.01~1質量%程度となるように添加することができる。分散液の撹拌はハンドミキサ、ディスパー等で行うことが好ましい。撹拌を行うことで分散液の温度が上昇することがあるため、必要であれば、分散液を冷却しながら撹拌を行ってもよい。
【0037】
次いで発泡混合物をゲル化して、発泡混合物ゲルを調製する。発泡混合物のゲル化は、温度を上昇させることにより行う。発泡混合物を100℃まで、好ましくは80℃までの温度に上昇させて、発泡混合物をゲル化させることができる。
【0038】
なお、発泡混合物ゲルには、必要に応じて、賦形剤や焼結助剤を添加することもできる。賦形剤は、発泡混合物ゲル中の気泡の強度を上げ、発泡混合物ゲルの形状を安定化させることができる。賦形剤としては、デンプン、デキストリン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、ペクチン、アルギン酸類、カルボキシセルロースのナトリウム塩等を用いることができる。焼結助剤は、発泡混合物ゲルの焼成温度の調整をするために用いられる。焼結助剤は、リチウム、ナトリウム及びカリウムの内の少なくとも2種の炭酸塩を含み、かつ融点が600℃以下であるものを用いることが好ましい。焼結助剤の融点は、550℃以下であることが好ましく、530℃以下であることがより好ましく、450~520℃の範囲であることがさらに好ましい。焼結助剤の融点を上記範囲にすることにより、より低温で焼成して炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することができる。また、焼結助剤として、フッ化カリウム、フッ化リチウム及びフッ化ナトリウムの混合物を用いてもよい。このような混合物も、上記の融点の範囲を有するものであることが好ましい。このような焼結助剤として、10~60モル%のフッ化カリウム、30~60モル%のフッ化リチウム、及び0~30モル%フッ化ナトリウムの組成範囲を有する混合物を挙げることができる。このような範囲とすることにより、より低い温度で焼成し、より高い密度の炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造することができる。
【0039】
得られた発泡混合物ゲルを焼成して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。発泡混合物ゲルの焼成は、好ましくは、まず空気雰囲気下で脱脂焼結し、次いで二酸化炭素雰囲気下で本焼成することにより行う。空気雰囲気下での脱脂焼結は、炭酸カルシウムの脱炭酸が生じない温度、具体的には200~600℃、好ましくは300~550℃の範囲の温度で行うことができる。脱脂焼結は、上記の発泡剤、ゲル化剤、あるいは場合により賦形剤として用いた有機物を分解させて焼き切る(脱脂する)工程である。一方二酸化炭素雰囲気下での本焼成は、500~900℃、好ましくは700~900℃の温度で行う。本焼成は、炭酸カルシウムを焼結させて、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得るための工程である。炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造は、一の実施形態である、高純度の炭酸カルシウムと金属元素の化合物とを含む焼結体原料炭酸カルシウムを原料として行うことが好ましい。一般に、純度99.95%以上の炭酸カルシウムをそのまま焼結体原料炭酸カルシウムとして用いると、焼結温度が下がるため、焼結は容易になる傾向にある。ところが、炭酸カルシウムの焼結温度が下がり、発泡剤やゲル化剤等の有機物が分解する温度域(用いる有機物にもよるが、おおよそ500℃未満)に重なると、炭化した有機物が炭酸カルシウム多孔質焼結体の表面付近に沈着・残存し、炭酸カルシウム多孔質焼結体が着色してしまう場合がある。そこで、純度が99.95質量%以上の炭酸カルシウムと、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ホウ素、スズ、ガリウム、鉄、チタン、ジルコニウムおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上の金属元素の化合物と、を混合してなる、焼結体原料炭酸カルシウムを、炭酸カルシウム多孔質焼結体の原料とすることが好ましい。純度が99.95%以上の炭酸カルシウムに、金属元素の化合物を、焼結体原料炭酸カルシウムの質量を基準として0.01~10質量%含有するように添加すると、焼結温度が若干上昇し(添加する金属元素の化合物にもよるが、おおよそ600℃以上)、有機物の分解温度と重ならなくなる。このため、発泡混合物ゲルを焼成する際には、まず600℃までの温度で空気雰囲気下焼成を行って有機物の分解を促し(脱脂焼結)、次いで、それよりも高温下で二酸化炭素雰囲気下本焼成を行い、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得るという二段階焼成を行うことが可能となる。このような焼成により、炭化した有機物の付着のない、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。なお、発泡混合物ゲルの焼結は、雰囲気気体の制御が可能なオーブンを用いて行うことができる。発泡混合物ゲルにレーザを照射して焼結してもよく、3Dプリンタ等を用いてレーザを照射して焼結することも可能である。
【0040】
なお、発泡混合物ゲルを焼成するに先立ち、発泡混合物ゲルを凍結乾燥してもよい。発泡混合物ゲルを凍結乾燥することにより、発泡混合物ゲルの形状を容易に維持することができ、炭酸カルシウム多孔質焼結体を良好な形状で得ることができる。具体的には、発泡混合物ゲルを常圧下に-40℃以下で2時間以上予備凍結を行い、次に減圧条件下において氷晶を昇華させながら、徐々に温度を上げていくことが好ましい。減圧の条件は、20Pa以下が好ましく、10Pa以下がより好ましい。温度は、氷晶が融解をしない範囲で減圧を維持しながら徐々に高くしていくことが望ましく、一般的には-40℃~60℃の範囲で制御を行うことができる。
【0041】
なお、発泡混合物ゲルを予め成形して乾燥させた成形体を焼結すれば、所望の形状を有する炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。成形は、ドクターブレード成形、鋳込み成形など従来から既知の成形方法により成形体を作製してもよい。実施形態の製造方法により得た炭酸カルシウム多孔質焼結体は、たとえば
図3の写真左に見られるような、複数の孔の存在する構造を有している。
【0042】
五の実施形態の炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造方法により、本発明の六の実施形態である炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。炭酸カルシウム多孔質焼結体は、たとえば
図3の写真左に見られるような、複数の孔の存在する構造を有している。実施形態の炭酸カルシウム多孔質焼結体は骨補填材等の生体用途に用いることができるほか、水質浄化剤、セラミックスフィルター等にも利用することができる。
【0043】
以下、実施形態にしたがう具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0044】
<実験例1:ケイ素添加炭酸カルシウムを用いた炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造>
(炭酸カルシウム)
純度99.99質量%、透過型電子顕微鏡観察により測定した粒子径分布による平均粒子径(D50)4μm、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)15μm、BET比表面積10m2/gの炭酸カルシウム(株式会社白石中央研究所開発品)を用意した。炭酸カルシウムの純度は、以下の差分法により導出した:誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて、質量既知の試料を溶解した測定検液中の不純物の量を測定し、得られた結果の和を不純物含量として、全体から不純物含量を引いた値を純度とした。平均粒子径(D50)は、測定対象である炭酸カルシウム粒子について、透過型電子顕微鏡観察により1500個の粒子径を測定し、粒子径分布から求めた。またレーザ回折式粒度分布測定法により測定した粒子径分布における90%粒子径(D90)は、粒子にレーザビームを照射して粒子から発せられる回折光や散乱光を解析することにより得られる光強度分布パターンから測定された粒子径分布から求めた。BET比表面積は、島津製作所製のフローソーブ2200を用いて、1点法により測定した。
上記の炭酸カルシウムを用いて、以下のようにして、炭酸カルシウム緻密質焼結体を製造した。
【0045】
(炭酸カルシウム緻密質焼結体の作製)
テトラエチルオルトシリケート(以下「TEOS」と称する。)をアンモニア水で加水分解した。TEOSは二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするゾルを形成した。上記の炭酸カルシウム20gを蒸留水に分散させたスラリーを用意し、ここにゾルを添加して、湿式混合した。ゾルは、炭酸カルシウム粒子の表面にまとわりつく形で複合化した。なお、炭酸カルシウムに対するゾルの添加量は、SiO2換算で、SiO2/(SiO2+CaCO3)×100の値が各々0.02%、0.2%、0.6%、2.0%となるように計算した。
湿式混合した各スラリーを脱水乾燥し、続いて乳鉢で粉砕して、ケイ素添加炭酸カルシウム粉末を得た。別途、ゾルを添加しない(すなわちSiO2/(SiO2+CaCO3)×100の値が0%)炭酸カルシウムスラリーも用意した。得られた各粉末に少量のエタノールを添加して湿式混合し、一軸加圧と冷間静水圧加圧の可能な等方圧装置にて円柱状に成形して焼成前試料とした。焼成前試料を二酸化炭素雰囲気下900℃になるまで徐々に昇温して焼成し、焼成中の収縮挙動を熱収縮測定装置を用いて測定した。このとき焼成時の収縮挙動を評価する指標として、初期焼結の完了温度を用いた。初期焼結完了は、収縮率4%(線収縮率1.4%)に到達した点を目安とした。ケイ素含有量0%、0.02%、0.2%、0.6%、2.0%の各炭酸カルシウムについて焼結完了となった温度は、それぞれ450℃、600℃、740℃、750℃、770℃であった。
【0046】
<実験例2:マグネシウム添加炭酸カルシウムを用いた炭酸カルシウム緻密質焼結体の製造>
実験例1において、TEOSの代わりに水酸化マグネシウムを用いたこと以外は、実験例1と同様の操作を行い、マグネシウム添加炭酸カルシウムを作製した。Mg(OH)2/(Mg(OH)2+CaCO3)×100の値が0%、0.05%、0.2%となる炭酸カルシウムを得た。これらの炭酸カルシウムを用いて、実験例1と同様に円柱状の焼成前試料を作製し、ついで二酸化炭素雰囲気下900℃になるまで徐々に昇温して焼成し、焼成中の収縮挙動を熱収縮測定装置を用いて測定した。実験例1と同様、初期焼結完了は、収縮率4%(線収縮率1.4%)に到達した点を目安とした。マグネシウム含有量0%、0.05%、0.2%の各炭酸カルシウムについて焼結完了となった温度は、それぞれ450℃、480℃、610℃であった。
【0047】
上記の2つの実験例より、純度99.99質量%の高純度炭酸カルシウムは焼結温度が低く、これにケイ素化合物やマグネシウム化合物等を添加することにより焼結温度が上昇すること、ならびにこれらの化合物の添加量を制御することにより焼結温度を制御できることがわかる。そこで焼結温度を制御したケイ素添加炭酸カルシウムとマグネシウム添加炭酸カルシウムを用いて、炭酸カルシウム多孔質焼結体を製造した。
【0048】
<炭酸カルシウム多孔質焼結体の製造>
[実施例1]
適量のジルコニアボールが入ったポリエチレン瓶に純水を入れ、39体積%になるように実験例1で使用したケイ素添加炭酸カルシウム(SiO2含有量0.6質量%)を純水に添加した。次に、炭酸カルシウム100質量部に対して、賦形剤としてのポリビニルアルコールを0.8質量部、分散剤としての高分子界面活性剤(花王株式会社製、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、商品名「ポイズ520」)を2.5質量部添加した後、ポッドミルを用いて12時間湿式混合を行った。得られたスラリーに、スラリー10gあたり2mlとなるように、発泡剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル19質量%水溶液を添加して分散液とした。
ハンドミキサを用いて上記分散液を発泡し、発泡混合物を得た。得られた発泡混合物を80℃に加熱してゲル化し、発泡混合物ゲルを得た。この発泡混合物ゲルを型枠に流し込み、この状態で凍結乾燥を行った。凍結乾燥の条件は、常圧下に-40℃で12時間の予備凍結を行い、10Paの減圧下、30℃で48時間保持した。
凍結乾燥した発泡混合物ゲルを、空気雰囲気下、焼成温度(500℃)まで毎分10℃で昇温させ、昇温後10時間焼成を行った。冷却した後、二酸化炭素雰囲気下、同様の昇温速度で本焼成温度(700℃)まで昇温させ、昇温後3時間本焼成を行い焼結して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得た。表面に焦げ跡などのみられない白色の炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られた。炭酸カルシウム多孔質焼結体の気孔率は85%であった。
【0049】
[実施例2]
適量のジルコニアボールが入ったポリエチレン瓶に純水を入れ、39体積%になるように実験例2で使用したマグネシウム添加炭酸カルシウム(Mg(OH)2含有量0.2質量%)を純水に添加した。次に、炭酸カルシウム100質量部に対して、賦形剤としてのポリビニルアルコールを0.8質量部、分散剤としての高分子界面活性剤(花王株式会社製、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、商品名「ポイズ520」)を2.5質量部添加した後、ポッドミルを用いて12時間湿式混合を行った。得られたスラリーに、スラリー10gあたり2mlとなるように、発泡剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル19質量%水溶液を添加して分散液とした。
ハンドミキサを用いて上記分散液を発泡し、発泡混合物を得た。得られた発泡混合物を80℃に加熱してゲル化し、発泡混合物ゲルを得た。この発泡混合物ゲルを型枠に流し込み、この状態で凍結乾燥を行った。凍結乾燥の条件は、常圧下に-40℃で12時間の予備凍結を行い、10Paの減圧下、30℃で48時間保持した。
凍結乾燥した発泡混合物ゲルを、空気雰囲気下、焼成温度(500℃)まで毎分10℃で昇温させ、昇温後10時間焼成を行った。冷却した後、二酸化炭素雰囲気下、同様の昇温速度で本焼成温度(700℃)まで昇温させ、昇温後3時間本焼成を行い焼結して、炭酸カルシウム多孔質焼結体を得た。表面に焦げ跡などのみられない白色の炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られた。炭酸カルシウム多孔質焼結体の気孔率は85%であった。
【0050】
なお、炭酸カルシウム多孔質焼結体の気孔率は、焼結体を直方体ブロック状に切出し、ブロックの重量と見かけの体積から密度を求め、炭酸カルシウムの真密度2.711g/cm3で除し、相対密度を求め、全体から相対密度を引いた値を気孔率とした。
【0051】
[比較例1]
実施例1について、SiO2含有量0.6質量%のケイ素添加炭酸カルシウムの代わりに、SiO2含有量0質量%、すなわち純度99.99質量%高純度炭酸カルシウムを用いたこと以外は実施例1を繰り返した。表面が黒くくすんだ炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られた。
【0052】
[炭酸カルシウム多孔質焼結体の観察]
図1右は実施例1で得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体、
図1左は比較例1で得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体である。
図2右は実施例2で得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体、
図2左は比較例1で得られた炭酸カルシウム多孔質焼結体である。高純度炭酸カルシウムに金属元素の化合物を添加した本発明の焼結体原料炭酸カルシウムを用いると、白色の炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。特に、本発明の焼結体原料炭酸カルシウムを用いて脱脂焼結ならびに本焼成の2段階で焼結を行うと、
図1や
図2の右に見られるような、白色の炭酸カルシウム多孔質焼結体を得ることができる。高純度炭酸カルシウムをそのまま焼結体原料炭酸カルシウムとして用いて得た比較例1(
図1および
図2の左)の炭酸カルシウム多孔質焼結体は、有機物の分解等に起因した黒ずみ等が発生していた。