(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023140
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】自走式草刈機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/64 20060101AFI20230209BHJP
A01D 34/66 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A01D34/64 H
A01D34/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128385
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】397008775
【氏名又は名称】有限会社曽田農機設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】曽田 清
【テーマコード(参考)】
2B083
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA06
2B083CA03
2B083CA09
2B083CA28
2B083DA03
2B083GA01
(57)【要約】
【課題】自走式草刈機の小型化,軽量化及び低コスト化を図り、後進刈取りができる草刈機を提供する。
【解決手段】この発明の草刈機は、左右一対のクローラ24を備えた走行部2と、前端に刈取部3を取付け、上記走行部2と刈取部3の駆動用電源と制御部7を搭載し、前記左右の走行部2,2間に支持される本体フレーム4とを備えた自走式草刈機であって、刈取部3の左右幅が上記走行部2,2の内側の左右幅内に納まり且つ該刈取部3の後端が側面視で前記クローラ24の前端部間に挿入されるとともに刈取部の前端側がクローラ24の前端より突出する配置としている。
さらに、左右の走行部2の走行フレーム21に、クローラ24を駆動するモーターユニット26を各別に取付け、刈取部3を駆動する刈取りモータ9を本体フレーム4に取付けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のクローラを備えた走行部と、前端に刈取部を取付け、上記走行部と刈取部の駆動用電源と制御部を搭載し、前記左右の走行部間に支持される本体フレームとを備えた自走式草刈機であって、刈取部の左右幅が上記走行部の内側の左右幅内に納まり且つ該刈取部の後端が側面視で前記クローラの前端部間に挿入されるとともに刈取部の前端側がクローラの前端より突出する配置とした自走式草刈機。
【請求項2】
左右の走行部の走行フレームに、クローラを駆動するモーターユニットを各別に取付け、刈取部を駆動する刈取りモーターを本体フレームに取付けた請求項1に記載の自走式草刈機。
【請求項3】
上記モーターユニットと刈取りモーターの回転を正転と逆転に切換える切換装置を設けた請求項2に記載の自走式草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は平地の他、主として法面等の傾斜地の雑草の刈取りに適した自走式草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来平地や法面等の傾斜平面用の草刈機として、走行部にクローラを採用し、左右の走行部間に電源や走行・刈取りの制御部を搭載した本体フレームを架設し、この本体フレームに地面に沿って回転するロータリーカッターを下向きに軸支した刈取部を設けた装置として特許文献1に示す自走式の草刈機が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の草刈機は、左右のクローラ間の機体フレームに走行及び刈取り駆動用のアクチュエータ(モーター)やバッテリー,制御部等を取付け、前方にクローラ外幅より広い幅の刈取り部を昇降揺動可能に取付けている。このため刈取走行時の接地性能やグリップ性能,機体の安定性や刈取幅の確保の面で優位性を備えている。
【0005】
しかし、幅広の刈取部全体をクローラの前方に突設しているため機体長が長く且つ刈取部が幅広であって全体として大型化し、左右幅の狭い草地では方向転換ができない場合が多く、さらに例えば30°~45°の斜度の大きい法面等では前後の方向転換自体が転倒の危険があるため不可能である。
【0006】
このように方向転換ができない草地では往復走行を繰り返しながら刈取りを行う必要があり、仮に後進時に刈取りを行おうとすると、左右又は左右いずれかのクローラで踏み付けた状態の草又は踏み付け直後の倒伏した草を刈取るため、刈残しが避けられない。このため前後往復しながら前進刈取りのみの非効率な刈取作業とならざるを得ないという課題がある。その他高重量化やコスト高になるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の草刈機は第1に、左右一対のクローラ24を備えた走行部2と、前端に刈取部3を取付け、上記走行部2と刈取部3の駆動用電源と制御部7を搭載し、前記左右の走行部2,2間に支持される本体フレーム4とを備えた自走式草刈機であって、刈取部3の左右幅が上記走行部2,2の内側の左右幅内に納まり且つ該刈取部3の後端が側面視で前記クローラ24の前端部間に挿入されるとともに刈取部の前端側がクローラ24の前端より突出する配置としたことを特徴としている。
【0008】
第2に、左右の走行部2の走行フレーム21に、クローラ24を駆動するモーターユニット26を各別に取付け、刈取部3を駆動する刈取りモーター9を本体フレーム4に取付けたことを特徴としている。
【0009】
第3に、上記モーターユニット26と刈取りモーター9の回転を正転と逆転に切換える切換装置を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成されるこの発明の草刈機は、以下のような効果を奏する。
(1)クローラを備えた左右の走行部の内幅に対して刈取機の左右幅が上記内幅以下で且つ刈取部の後端部が側面視で走行部の前端部と重なり合う配置になっているので、刈取部の機体前方への突出長さを短く構成でき、草刈機全体の小型化、軽量化及び低コスト化が図れる。
また草刈機の機体長が短縮できるので、平地や緩傾斜地におけるUターン旋回,V字旋回,超信地旋回等の旋回半径も小さくなり、折返し地点での逆走姿勢を整える時間が短縮されて効率が良くなる。
【0011】
(2)刈取幅が左右のクローラの内幅内に設定されているため、クローラによる踏み付け状態又は踏み付け直後の草の刈取りを行うことなく後進刈取りが可能であり、斜度が大きく又は刈地幅が小さく方向転換が出来ない刈地での方向転換を伴わず刈残しを生じない草刈りが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】草刈機の走行部を外した状態の全体斜視図である。
【
図4】草刈機の走行部を外した状態の全体平面図である。
【
図6】草刈機の後進刈取時の取込範囲を示す背面図である。
【
図7】(A)は草刈機に使用される刈取部の側面図、(B)は図(A)におけるA-A断面図である。
【
図8】本発明の草刈機の遠隔操作に用いるリモートコントローラーの一例を示す操作面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1~8は本発明の草刈機の1実施形態を示し、草刈機は本体部1の左右両側に前後方向に回動駆動する走行部2を備え、本体部1の前方には左右の走行部2,2の内幅間に収まる幅の刈取部3が突設されて取付けられている。
【0014】
本体部1は前後方向の長方形(正方形も可)枠からなる本体フレーム4上に、後端側から走行部2と刈取部3のそれぞれの駆動用電源となる2基の充電式バッテリー6a,6bと、該バッテリー6a,6b間に配置されたCPUと送受信装置を備え、各種センサー類(いずれも図示しない)と接続された制御部7が順次搭載されている。
【0015】
また本体フレーム4の前端側には、回動可能に左右方向に軸支されたサポート軸8を介して、刈取部3を正転及び逆転駆動する刈取りモーター9がサポート軸8と一体回動(揺動)するように前傾状態で左右の略中央に取付けられている。上記モーター9の前方にはT字形に組付形成された伝動ケース11(縦ケース),12(横ケース)が前傾して突設されており、先端の横ケース12の左右両端に正面視コ字形を形成して下向きに突設された左右の駆動ケース13には、それぞれ刈取地面に沿って回転して刈取作業を行うロータリーカッター14が取付けられている。
【0016】
上記サポート軸8は本体フレーム4の両側に上向きに突設したブラケット(軸受部)16に回動可能に軸支されており、その一方の軸端には上記サポート軸8を回動操作することにより、モーター9及び伝動ケース11を揺動させ、ロータリーカッター14により草の刈高さを調節するための調節レバー17が、後方上向き傾斜姿勢で取付けられている。
【0017】
上記調節レバー17の先端には上下方向の回動プレート18が一体的に付設されて前記サポート軸8と一体回動するように連結されており、調節レバー17の揺動によりモーター9及び伝動ケース11,12が揺動し、刈取部3が昇降して刈高さが調節される機構となっている。
【0018】
さらに調節レバー17の後端にはグリップレバー19が揺動可能に軸支されており、このグリップ操作により、調節レバー17内でグリップレバー19と連結したワイヤ(図示せず)を介して前記可動プレート18と本体フレーム4側に取付けられた固定プレート20との間に設けた図示しない複数段の係脱部のいずれかを選択し、調節レバー17の傾斜角度(刈取部3の刈高さ)がセットされる。
【0019】
この高さ調節は手動により草刈作業前に予めセットされる例を示したが、後述するように刈地表面の凹凸その他の刈取り条件に応じて、センサーやステッピングモータ等(いずれも図示しない)を用いて制御部7により自動制御させることも可能である。
【0020】
左右の走行部2は、前後方向のプレート状の走行フレーム21の前後端に軸支された駆動輪22と従動輪23に対し、クローラ24が外装されており、各走行フレーム21の内側には、駆動輪22と接続された正転及び逆転駆動可能なモーターユニット26が取付けられ、走行用バッテリー6aを電源として前後方向切換可能に走行駆動される。上記モーターユニット26は、各走行フレーム21の外側に取付けることもできる。
【0021】
上記走行フレーム21と本体フレーム4との間には、両者を着脱可能に且つ左右方向の取付幅調節セット可能に接合して取付けるジョイント部27が設けられている。図示する例では、ジョイント部27は走行フレーム21と本体フレーム4の前寄りの位置に設けられ、走行フレーム21側から内向きに突出する平行な2本のパイプ材からなる差込み杆27aと、本体フレーム4側において該差込み杆27aを挿脱可能に嵌合挿入するパイプ状の受け杆27bとを備えている。
【0022】
さらに受け杆27bの側の側端には、差込まれた差込杆27aを所定位置でセットするセットボルト28b、差込杆27a側には上記セット位置を規定する複数段のセット溝28aがそれぞれ設けられ、いずれのセット溝28aを選択してセットするかにより、クローラ幅(クローラの接地幅)が決められる。
【0023】
上記のようにクローラ幅を広くすることにより、例えば傾斜地をクロス方向に走行する際の機体の転倒防止を図ることができ、狭くすることにより例えば刈地の畝幅その他の条件に適合させるクローラ幅を得ることができる。このクローラ幅調節は、ジョイント部27にステッピングモータとラックピニオン機構等(図示せず)を介設してリモート操作又は傾斜角度に応じた自動調節をさせることも可能である。
【0024】
尚、この例では既述の刈高さ調節機構との干渉を避けるために、調節レバー17側(正面視左側)のジョイント部27は、
図3,
図4に示すように反対側のジョイント部27に対し、後方にずらされてセットバックして取付けられている。
【0025】
刈取部3の刈取駆動用のモーター9とロータリーカッター14は、
図7に示す伝動系を構成しており、平面視T字形に組付けられた伝動ケースの縦ケース11と横ケース12と、該横ケース12の両端に正面視コ字形に組付けられた駆動ケース13内には、それぞれモーター9により伝動駆動される伝動軸が軸支され、傘歯車等からなるベベルギヤを介してロータリーカッター14が回転駆動される在来の機構を採用している。
【0026】
左右のロータリーカッター14は、図示するように上面側の円板状のベースプレート14aと、下向きのドーム状のガードケース14bとの間に、両者の外周方向に放射状に突出する刈刃14cが伝動軸端に取付けられ、その回転によって刈取りが行われる。また左右のロータリーカッター14の刈刃14cは、回転時に干渉し合うことなく且つ回転軌跡が平面視で重なり合うことにより、刈残しが生じない構成となっている。
【0027】
ロータリーカッター14上面側と左右の外側を覆うカッターカバー29が各駆動ケース13の下端側に取付けられ、さらに刈取部3全体を覆う刈取部カバー31が、伝動ケース12,13側に着脱可能に取付けられており、
図3に示すように本体部1にも本体部1全体を覆う本体部カバー32が着脱可能に取付けられる。
【0028】
図8は本発明の草刈機の遠隔操作用のリモートコントローラ36の1例を示す操作面の平面図で、ボックス状の本体部37は図示しない電源と制御用チップを内蔵しており、その操作面側にはメインスイッチ38,前後進(正逆転)切換操作部39,ロータリーカッター14の正逆転切換スイッチ40,左右方向の旋回操作部41,速度調整部42,停止位置で左右いずれかに旋回して方向転換を行う超信地旋回操作部43,音声報知用のスピーカー44,草刈機の作動状態や故障,作業条件等の必要事項を表示するモニター画面46,その他の必要事項を表示するパイロットランプ47,草刈機側の制御部7との通信の送受信を行う起伏収納タイプのアンテナ48等の必要最小限の機能部を装備している。
【0029】
他方、これに対応して草刈機側の制御部7は、上記リモートコントローラー36の操作信号を受信して各部の作動を制御する諸機能を備えているほか、必要各部に設置された図示しない各種のセンサー類からの検出信号(例えば刈取作動や走行作動の有無、進行方向や刈取作動の正確度、不適切な作業条件の有無等の感知信号)をリモートコントローラ36側に送信する機能を備えており、リモートコントローラ36と草刈機との間の双方向通信が可能な構成となっている。この機能は草丈やその他の障害物により、オペレーターに刈取現場が目視できない場合に、特に有効である。
【0030】
制御部7と上記通信内容には、既述のように刈取現場の作業条件を感知して刈高さや進行速度、刈取速度等を適切に選択して作動するロボット(AI)機能を持たせることも可能である。尚、。図示する試作例では、制御部7の上面に作業走行前に予め各種設定操作を行う操作盤を設置したものを示したが、ロボットタイプの草刈機ではこの操作盤は省略することもできる。
【0031】
ちなみに本発明の草刈機は小型化と軽量化及び操作の容易性を目的に開発されたものであるが、図示する実施形態のものでは前後長967,最小左右幅754,高さ499(mm)で、総重量79kgまで実現でき、数種類の在来の同型機の最小値に対し、前後長さと左右幅でそれぞれ65%,93%の寸法比を得ることができ、同重量比では64%に軽量化できた。
【0032】
上記に示した本発明の草刈機によれば、前進走行時の刈取りの他モーターユニット26内のモーター(図示しない)と刈取りモーター9を共に逆転させて、後進走行時においても刈取作業が可能であり、この場合でも、前進走行時と同様に左右のクローラ24の内幅内(クローラ24を最小幅に設定した場合は略内幅に等しい刈幅)で刈取作業が可能である。
【0033】
この時の草刈機内への草の取込み範囲(スペース)Sは、
図6に示すように、機体背面側に形成される左右のクローラ24,24及びモーターユニット26,26の内側面間と本体フレーム4の最低地上高H
1位置の底面及びモーターユニット26の最低地上高H
2位置の底面と刈地面(グランドライン)GLとで囲まれた凸型の空間として形成される。
【0034】
上記草刈機によれば、機体の前後進時共に、刈取部3の左右幅に応じた刈幅で刈取りが可能で、前進時には刈刃14cを正転駆動させ、後進時には逆転駆動させて、共に刈取った草を左右の刈刃14c間に掻き込んで、機体中心の後方に排出させながら刈取りを行うことができる。
【0035】
また30°以上の急傾斜の刈地では、機体の旋回をせず転倒防止を行い、前後往復動させながら刈刃14cの正逆転の切換を行って刈取りすることにより、刈残しを最小限にして刈取りができ、さらにクローラ幅を拡幅調節することにより、接地幅を拡げて横転を防止できる。
【0036】
本発明の草刈機による刈取り終端での後進ターンや後進刈取時の刈取りでは、前進刈取時に左右いずれかの側のクローラ24で一度踏み付けた倒伏状態のものを後進刈取時にロータリーカッター24の刈刃24cで刈取るので、この時の刈取り状態につき以下念のため詳述する。
【0037】
発明者等の刈取実験によれば、草刈機の前進走行時にクローラ24によって踏み付けられた草(少なくとも草丈のあるもの)は、踏み付けによって一旦地面に沿って倒伏するが、その通過後は若干の時間経過により起立方向に一定角度復元起立し、後進刈取時にはこの復元起立したものを、先端側から刈刃24cにより掬い上げる状態で引き起こしながら刈取る状態となるため、前進刈取時の刈残しは殆ど生じないことが確認できた。
【0038】
また、クローラ24による踏み付けられない
図6に示す掻込みスペースS内を通過する草は凸状形の空間の最低地上高H
1,H
2下にあるため草刈機の前進通過によって前傾するものはあるものの倒伏する草はなく、後進刈取りを妨げることはなく且つ刈残しを生じることはないことも確認されている。
【0039】
尚、本発明の草刈機による刈取り終端での後進ターンによる刈残しを生じさせないための刈取りは、刈地の傾斜度が、例えば30°~45°等のように急傾斜で斜面でのUターンや信地旋回、超信地旋回等による方向転換が困難な刈地での草刈りに特に適しているが、刈地の条件によっては作業中に刈地への機体の侵入方向と前後の向きを変更して前後進の向きを変更すること等によって、刈残しを生じさせない草刈りが可能となる。
【0040】
また平地や緩傾斜地においては、例えばUターン,信地旋回や超信地旋回等によるターン等の自由な方向転換が可能なので、必ずしも上記のような後進ターンを採用する必要はない。
【符号の説明】
【0041】
1 本体部
2 走行部
3 刈取部
4 本体部
6a,6b 電源(バッテリー)
7 制御部
8 サポート軸
9 刈取りモーター
11,12,13 伝動ケース
14 ロータリーカッター
14c 刈刃
17 調節レバー
21 走行フレーム
22 駆動輪
24 クローラ
26 モーターユニット
27 ジョイント部