(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023182
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】排煙排熱ノズル、排煙排熱システム、消防自動車
(51)【国際特許分類】
A62B 13/00 20060101AFI20230209BHJP
B05B 1/14 20060101ALI20230209BHJP
B05B 7/04 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A62B13/00 C
B05B1/14 Z
B05B7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128461
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】松島 至俊
(72)【発明者】
【氏名】廖 赤虹
(72)【発明者】
【氏名】金川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大室 健
【テーマコード(参考)】
2E185
4F033
【Fターム(参考)】
2E185BA11
2E185CC61
4F033AA12
4F033BA02
4F033BA04
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4F033EA01
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4F033QA10
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4F033QB03X
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4F033QD02
4F033QD11
4F033QE06
4F033QF07Y
4F033QF08X
(57)【要約】
【課題】可搬性に優れると共に効率よく排煙排熱作業を行うことができる排煙排熱ノズル、排煙排熱システム、及び消防自動車を提供すること。
【解決手段】排煙排熱ノズル30は、放射により火災区画1の煙及び熱気を排出する作業に用いるノズルであって、流体として液体、又は液体と気体を混合した気液混相流を放射する複数の放射口32と、放射口32のそれぞれに通じる個別流路33とを備え、全ての個別流路33、又は少なくとも一部の個別流路33の射線33Aは、ノズルの中心軸30Aから離れる方向に中心軸30Aに対して斜めに向けられ、放射口32から流体を射線33Aに沿って放射することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射により火災区画の煙及び熱気を排出する作業に用いるノズルであって、
流体として液体、又は液体と気体を混合した気液混相流を放射する複数の放射口と、
前記放射口のそれぞれに通じる個別流路と、を備え、
全ての前記個別流路、又は少なくとも一部の前記個別流路の射線は、前記ノズルの中心軸から離れる方向に前記中心軸に対して斜めに向けられ、
前記放射口から前記流体を前記射線に沿って放射することを特徴とする排煙排熱ノズル。
【請求項2】
前記個別流路の前記射線と前記中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が直線又は多角形を成すことを特徴とする請求項1に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項3】
前記放射口が6個以上12個以下であり、前記個別流路の前記射線と前記中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が多角形を成すことを特徴とする請求項1に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項4】
前記個別流路の前記射線と前記中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が四角形を成すことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項5】
前記放射口が8個であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項6】
ガンタイプノズルが備えるノズル本体のノズル接続部に取り付け可能であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項7】
複数の前記放射口は複数の孔であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項8】
前記個別流路は断面が円形であり、
前記射線が前記中心軸に対して斜めに設けられた前記個別流路は、長さが円周方向のどの位置においても同一であることを特徴とする請求項7に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項9】
前記個別流路の長さは、前記個別流路の径の1倍以上であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の排煙排熱ノズル。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズルと、
前記排煙排熱ノズルに前記流体を供給する供給装置とを備えることを特徴とする排煙排熱システム。
【請求項11】
前記排煙排熱ノズルの放射口から放射する流体は圧縮気体を混合したものであることを特徴とする請求項10に記載の排煙排熱システム。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の排煙排熱システムを搭載していることを特徴とする消防自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射により火災区画の煙及び熱気を排出する作業に用いる排煙排熱ノズル、排煙排熱システム、及び当該排煙排熱システムを搭載した消防自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
昔ながらの木造建築は、火災時に燃え広がりが早い反面、天井や壁が燃え抜けやすいため、煙やガス、熱が火災区画(火災室)から排出されやすい構造である。一方、ビルやマンションなど近年の建物は、高気密高断熱化が進み、火災時に火災区画から別区画への延焼拡大が起こりにくい構造であるが、天井や壁等が燃え抜けにくいために煙やガス、熱が火災区画内に留まる環境が長時間継続する傾向がある。
火災区画内に煙やガス、熱が留まる環境は、消火活動に支障をきたす。例えば、視界が遮られることで要救助者を見落としたり、火点が確認できないため消火剤に無駄が生じたりする可能性がある。また、高温環境では要救助者はもちろんのこと、消防隊員も火傷のリスクに晒される。さらに、火災区画内に留まった可燃性ガスへの引火等により急激な延焼拡大も懸念される(フラッシュオーバー)。
これらのリスクを低減するために、火災区画内の排煙排熱をおこなうPPV戦術(Positive Pressure Ventilation)という手法がある。PPV戦術とは、エンジンまたは電気等で駆動するファン式排煙装置、もしくはガンタイプノズルによる拡散放水によって生じる空気の流れを用いて、火災区画の進入口等の給気口に風を送ることで、火災区画を陽圧にして火災区画内に留まった煙やガス、熱を排気口から排出し、視界の確保と延焼拡大を抑える戦術である。この戦術によって、高気密高断熱の建物火災における消火活動の安全性向上と効率化が図られている。
【0003】
ここで、特許文献1には、圧縮空気を噴射する複数の噴射ノズルで構成される噴射ノズル群と、噴射ノズル群が配置されたノズル配置部材とを主体として構成され、ノズル配置部材は、各噴射ノズルに圧縮空気を供給できるように管材で形成され、各横管部にそれぞれ複数の噴射ノズルが所定間隔で配置され、噴射ノズル群の外縁側に位置する複数の噴射ノズルの各中心を結ぶ輪郭線は、開口部の形状に適合する矩形状をなす可搬式排煙装置が開示されている。
また、特許文献2には、流体が流れる流路管と、流路管を流れる流体を噴出する噴流口と、噴流口に配置する拡散部材とを備え、拡散部材は、流体の流れ方向を変更する流れ方向変更部を有し、拡散部材の回転によって、噴流口から噴出する流体を拡散させる流体導出装置が開示されている。
また、特許文献3には、気体導入管および液体導入管を有する気液混合部と、気液混合部の先端部に接続され気液混合部で混合された空気(気体)と水(液体)を霧状の水として噴射する噴出部と、気液混合部と噴出部とを接続し途中を下側に折り曲げた剛性を有する1本の配管と、配管に設けられ操作レバーで動作されて管路を開閉する開閉弁とを備え、気体導入管と液体導入管を管継手を介して気体供給源と液体供給源からの気体ホースと液体ホースに接続し、操作レバーを操作して開閉弁を開いて、噴出部から霧状の水を火炎に噴射して消火する二流体噴霧装置が開示されている。
また、特許文献4には、給水を受けるノズル取付基体の中央部から、水を噴出する中央ノズル筒体を突設し、中央ノズル筒体の周囲においてノズル取付基体から、水を噴出する複数の周囲ノズル筒体を突設し、中央ノズル筒体および周囲ノズル筒体の側面に、外部の空気を内部に吸込む空気吸込孔を直径方向に穿設した消火用ノズル装置が開示されている。
また、特許文献5には、放水口を有するノズル本体と、該ノズル本体に接続される有底円筒状のフレームとを備え、フレームの直径方向に一対の開口部を設け、該開口部を放水口よりも大きく形成し、フレームの底壁から周壁にかけて複数のスリット状のノズル孔を設け、フレームの底壁の中央上部にコーンを設け、可燃物運搬用のベルトコンベアの上方に設置する消火用ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-200531号公報
【特許文献2】特開2019-034272号公報
【特許文献3】特開2003-144986号公報
【特許文献4】特開2009-291699号公報
【特許文献5】特開2001-309991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PPV戦術で主に用いられるファン式排煙装置の重量は、小型でも約30kg、大型では80kgほどにもなり、運搬が大変である。しかも、火災発生時にはエレベーターが使えず階段を使用せざるを得ない可能性が高いため、特に火災区画が高層階になればなるほど消防隊員の負担が著しいが、PPV戦術が多く適用される高気密高断熱の建物は高層である場合が多く、必然的に高層階でPPV戦術が取られる頻度が増えることが予想される。また、排煙排熱作業後には消火作業を行うため、排煙装置のみならず、消火ホースも火災区画まで延長する必要がある。
また、ファン式排煙装置は、機種にもよるが小型のものでも50cm立方体程度の大きさがある。消防資機材は消防自動車に積載して火災現場に運ぶが、消防自動車には様々な資機材が詰め込まれ積載スペースが限られているため、ファン式排煙装置を積載するスペースを確保することは容易でない。
また、ファン式排煙装置、及び従来のガンタイプノズルにより発生させる空気の流れは円形となるが、給気口となる開口は長方形状の玄関口や出入口、又はベランダ窓であることが多いため、発生させる空気の流れと開口の形状が合わない。この結果、左右両端の空気流れは給気口から外れて無駄が生じる。さらに、上下両端の空気流れが中央付近よりも弱いため、給気口での風圧が不均一となり逆流が生じ、給気口から火災区画に供給される送風流量が減少する。
また、特許文献1の可搬式排煙装置は、ガンタイプノズルに比べると重量及び形状が大きいため、特に火災区画が高層階の場合は持ち運ぶ消防隊員の負荷が高まる。また、消防自動車における搭載スペースもある程度必要になる。
また、特許文献2の流体導出装置は、拡散部材の回転によって流体を拡散させつつ噴射するものであり、噴出した流体を所定範囲に拡げやすいが、流体を拡散させると空気の抵抗を受けやすくなるため、流速の低下を防ぐ工夫が必要となる。
また、特許文献3~5は、消火用の装置又はノズルに関するものであり、排煙排熱作業に用いようとするものでは無い。
そこで、本発明は、可搬性に優れると共に効率よく排煙排熱作業を行うことができる排煙排熱ノズル、当該排煙排熱ノズルを備えた排煙排熱システム、及び当該排煙排熱システムを備えた消防自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の排煙排熱ノズル30は、放射により火災区画1の煙及び熱気を排出する作業に用いるノズルであって、流体として液体、又は液体と気体を混合した気液混相流を放射する複数の放射口32と、放射口32のそれぞれに通じる個別流路33とを備え、全ての個別流路33、又は少なくとも一部の個別流路33の射線33Aは、ノズルの中心軸30Aから離れる方向に中心軸30Aに対して斜めに向けられ、放射口32から流体を射線33Aに沿って放射することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の排煙排熱ノズル30において、個別流路33の射線33Aと中心軸30Aに対して垂直な平面γとの交点βを結ぶ線αが直線又は多角形を成すことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の排煙排熱ノズル30において、放射口32が6個以上12個以下であり、個別流路33の射線33Aと中心軸30Aに対して垂直な平面γとの交点βを結ぶ線αが多角形を成すことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の本発明は、請求項2又は請求項3に記載の排煙排熱ノズル30において、個別流路33の射線33Aと中心軸30Aに対して垂直な平面γとの交点βを結ぶ線αが四角形を成すことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の本発明は、請求項3又は請求項4に記載の排煙排熱ノズル30において、放射口32が8個であることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズル30において、ガンタイプノズルが備えるノズル本体40のノズル接続部44に取り付け可能であることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズル30において、複数の放射口32は複数の孔であることを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の排煙排熱ノズル30において、個別流路33は断面が円形であり、射線33Aが中心軸30Aに対して斜めに設けられた個別流路33は、長さLが円周方向のどの位置においても同一であることを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の本発明は、請求項7又は請求項8に記載の排煙排熱ノズル30において、個別流路33の長さLは、個別流路33の径Dの1倍以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項10記載の本発明の排煙排熱システムは、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の排煙排熱ノズル30と、排煙排熱ノズル30に流体を供給する供給装置20とを備えることを特徴とする。
【0016】
請求項11記載の本発明は、請求項10に記載の排煙排熱システムにおいて、排煙排熱ノズル30の放射口32から放射する流体は圧縮気体を混合したものであることを特徴とする。
【0017】
請求項12記載の本発明の消防自動車10は、請求項10又は請求項11に記載の排煙排熱システムを搭載していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可搬性に優れると共に効率よく排煙排熱作業を行うことができる排煙排熱ノズル、当該排煙排熱ノズルを備えた排煙排熱システム、及び当該排煙排熱システムを備えた消防自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例による排煙排熱ノズルを示す図
【
図3】同排煙排熱ノズルを用いた排煙排熱作業のイメージ図
【
図4】同ガンタイプノズルの形態として用いる排煙排熱ノズルを示す図
【
図6】同個別流路の長さと個別流路に沿わない流れの比率との関係を示す図
【
図8】同放射流とそれに伴う空気の流れによって縦長四角形の給気口が覆われる状態を示したイメージ図
【
図9】同実施例と比較例についての試験による陽圧(内圧)評価を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施の形態による排煙排熱ノズルは、放射により火災区画の煙及び熱気を排出する作業に用いるノズルであって、流体として液体、又は液体と気体を混合した気液混相流を放射する複数の放射口と、放射口のそれぞれに通じる個別流路とを備え、全ての個別流路、又は少なくとも一部の個別流路の射線は、ノズルの中心軸から離れる方向に中心軸に対して斜めに向けられ、放射口から流体を射線に沿って放射するものである。
本実施の形態によれば、液体又は気液混相流による放射流とそれに伴い生じる空気の流れにより火災区画を効率よく加圧し、排煙排熱を促すことができる。
【0021】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、個別流路の射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が直線又は多角形を成すものである。
本実施の形態によれば、給気口は長方形であることが多いため、射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線を直線又は多角形とすることで、放射流が部分的に給気口から外れてしまうことを効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画内に向かう流れとして、空気を火災区画内に強く押し込むことができる。
【0022】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、放射口が6個以上12個以下であり、個別流路の射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が多角形を成すものである。
本実施の形態によれば、給気口は長方形であることが多いため、射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が多角形を成すように個別流路の向きを設定することで、放射流が部分的に給気口から外れてしまうことを効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画内に向かう流れとし、また、放射口を6個以上12個以下とすることで給気口の全面を覆いやすくなり、空気を火災区画内にさらに強く押し込むことができる。
【0023】
本発明の第4の実施の形態は、第2又は第3の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、個別流路の射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線が四角形を成すものである。
本実施の形態によれば、給気口は長方形であることが多いため、射線と中心軸に対して垂直な平面との交点を結ぶ線を四角形とすることで、放射流が部分的に給気口から外れてしまうことをより一層効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画内に向かう流れとして、空気を火災区画内に強く押し込むことができる。
【0024】
本発明の第5の実施の形態は、第3又は第4の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、放射口を8個としたものである。
本実施の形態によれば、給気口の全面をより一層覆いやすくなり、空気を火災区画内にさらに強く押し込むことができる。
【0025】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれか一つの実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、ガンタイプノズルが備えるノズル本体のノズル接続部に取り付け可能としたものである。
本実施の形態によれば、消防隊員は狙った位置に向け安定して流体を放射することができる。
【0026】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6のいずれか一つの実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、複数の放射口は複数の孔としたものである。
本実施の形態によれば、放射口が先端表面から突出しないため、放射口が壁や床等に当たり破損してしまう可能性を低減できる。
【0027】
本発明の第8の実施の形態は、第7の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、個別流路は断面が円形であり、射線が中心軸に対して斜めに設けられた個別流路は、長さが円周方向のどの位置においても同一としたものである。
本実施の形態によれば、放射口から放射する流体が射線からずれることを抑制できる。
【0028】
本発明の第9の実施の形態は、第7又は第8の実施の形態による排煙排熱ノズルにおいて、個別流路の長さを、個別流路の径の1倍以上としたものである。
本実施の形態によれば、放射する流体の指向性を高めることができる。
【0029】
本発明の第10の実施の形態による排煙排熱システムは、第1から第9のいずれか一つの実施の形態による排煙排熱ノズルと、排煙排熱ノズルに流体を供給する供給装置とを備えるものである。
本実施の形態によれば、液体又は気液混相流による放射流とそれに伴い生じる空気の流れにより火災区画を効率よく加圧して排煙排熱を促す排煙排熱システムを提供することができる。
【0030】
本発明の第11の実施の形態は、第10の実施の形態による排煙排熱システムにおいて、排煙排熱ノズルの放射口から放射する流体は圧縮気体を混合したものとするものである。
本実施の形態によれば、液体のみの場合に比べて少ない液量で効果的に排煙排熱を行うことができる。
【0031】
本発明の第12の実施の形態による消防自動車は、第10又は第11の実施の形態による排煙排熱システムを搭載しているものである。
本実施の形態によれば、ファン式排煙装置を消防自動車に積載せずとも効果的な排煙排熱作業を行うことができるため、空いた部分に他の資機材等を積載することが可能となる。
【実施例0032】
以下、本発明の一実施例による排煙排熱ノズル、排煙排熱システム、及び消防自動車について説明する。
図1は本実施例による排煙排熱ノズル30を示す図であり、
図1(a)は正面側からの斜視図、
図1(b)は背面側からの斜視図、
図1(c)は側断面図、
図1(d)はA-A断面図、
図1(e)はB-B断面図、
図1(f)はC-C断面図である。
図2は排煙排熱ノズル30の内部構造を示す図であり、
図2(a)は側面図、
図2(b)は
図2(a)を軸まわりに90度回転させた側面図、
図2(c)は正面側からの斜視図、
図2(d)は正面図である。また、
図3は、排煙排熱ノズル30を用いた排煙排熱作業のイメージ図である。
図3に示すように、消防自動車10は、排煙排熱ノズル30と供給装置20を備える排煙排熱システムを搭載している。供給装置20は、ホース21、水ポンプ22、及びCAFS装置(Compressed Air Foam System)23を有し、流体を排煙排熱ノズル30に供給する。CAFS装置23は、エアコンプレッサー、薬剤タンク、及び制御器等により構成されている。排煙排熱ノズル30は、ホース21の先端に脱着自在に取り付けられる。また、ホース21の先端には、排煙排熱ノズル30以外に、従来の放水ノズル等を取り付けることもできる。
【0033】
PPV戦術など、消火作業の前に火災区画1から煙及び熱気を排出する作業を行うにあたっては、排煙排熱ノズル30をホース21の先端に取り付ける。
消防隊員は、排煙排熱ノズル30を、火災区画1の給気口(進入口)2に向け、火災区画1の外側から流体を放射する。給気口2は、例えば火災区画1の入口である。放射した流体とそれによって生じる空気の流れにより火災区画1内が加圧され、排気口3から煙及び熱を排出する。排気口3は、窓や破壊した外壁などの開口部である。流体としては、水等の液体、又は水等の液体と空気等の気体を混合した気液混相流を用いる。
ここで、
図4はガンタイプノズルの形態として用いる排煙排熱ノズル30を示す図であり、
図4(a)はノズル本体40のみの状態、
図4(b)はノズル本体40に排煙排熱ノズル30を取り付けた状態、
図4(c)はノズル本体40に従来のノズル100を取り付けた放水ノズルの一例の従来のガンタイプノズルである。
従来のガンタイプノズルは、ノズル本体40とノズル100を備え、ノズル100から消火剤を放射する。ノズル本体40には、消火剤の止水及び流量調節に用いられるバルブ部41と、消防隊員の持ち手として用いられるグリップ部42と、ホース21の先端への取付に用いられる消防ホース接続部43と、ノズル100の取付に用いられるノズル接続部44が設けられている。
排煙排熱ノズル30は、ガンタイプノズルの形態として使用することができるように、ノズル本体40のノズル接続部44に取り付け可能であることが好ましい。ガンタイプノズルの形態とすることにより、消防隊員は狙った位置に向け安定して排煙排熱ノズル30から流体を放射することができる。また、排煙排熱ノズル30をガンタイプノズルの形態としても数kg程度とファン式排煙装置に比べて軽量であり持ち運びやすいため、火災区画1が高層階であっても、従来に比べて消防隊員の負荷を軽減することができる。
また、例えば、ホース21を火災区画1の手前で二股に分岐させ、分岐した一方の先端には排煙排熱ノズル30を取り付けたノズル本体40の消防ホース接続部43を接続し、分岐した他方の先端には放水ノズル等を接続することで、ホース21を消火作業と排煙排熱作業に兼用することができるため、排煙排熱作業用のホース21を別途備える必要がなく、これにより、ファン式排煙装置を使用する場合と比較して、消防隊員の負荷軽減と、消防自動車10の搭載スペースの節約に寄与する。
【0034】
図1及び
図2に示すように、排煙排熱ノズル30は、先細りの形状、いわゆる砲弾型であるが、先端は中心軸30Aに対して垂直に切断したかのように略平面の円形となっている。排煙排熱ノズル30の後端は円形であって開口しており、内周面には消防用ノズルチップとして消防機器に接続できるねじ部31が設けられている。なお、ねじ部31は、消防ホース接続部43、もしくは消防ホース接続部43に加えてバルブ部とグリップ部の両方はまたはいずれかと一体構造として省略することもできる。
排煙排熱ノズル30には、消防自動車10から供給される流体を放射する複数の放射口32と、放射口32のそれぞれに通じる個別流路33が設けられている。全ての個別流路33の射線(中心軸線)33Aは、排煙排熱ノズル30の中心軸30Aから離れる方向に、中心軸30Aに対して斜めに向けられている。このため放射口32からは、流体が射線33Aに沿って放射される。なお、基本的に射線33Aは中心軸30Aに対して所定角度斜めを向くが、一部の放射口32の射線33Aを中心軸30Aと平行に向けることで、排煙排熱だけでなく消火にも活用できる。なお、消火に活用する場合は、全ての射線33Aが中心軸30Aと平行になるように個別流路33の向きを変えてもよい。
【0035】
図1及び
図2に示す排煙排熱ノズル30が有する放射口32は8個であり、
図1(a)に示すように、排煙排熱ノズル30の先端表面において等間隔で正円形に配列されている。
本実施例では、複数の放射口32として複数の孔を形成している。このように放射口32を孔とした場合は、放射口32が排煙排熱ノズル30の先端表面から突出しないため、放射口32が壁や床等に当たり破損してしまう可能性を低減できる。
また、各孔32は球冠状の凹(窪み)であり、径を個別流路33の径よりも大きくしている。これにより、孔32から放射される流体に所定の広がりを持たせやすくなる。
【0036】
排煙排熱ノズル30の内部に設けられている個別流路33の断面は円形である。排煙排熱ノズル30の後端から個別流路33の入口にかけては空洞となっている。
放射口32と個別流路33は1対1で対応しており、一つの放射口32に一つの個別流路33が通じている。
上述のように射線33Aが中心軸30Aに対して斜め向きとなるように、個別流路33は、中心軸30Aに対して斜めに設けられる。そのため
図1(f)に示すように、計8個の個別流路33の入口は、排煙排熱ノズル30の内部において、非等間隔で長円形に配列され、出口よりも中心軸30A寄りに位置している。これにより、各個別流路33の出口に連接した各放射口32から流体を斜め向きにストレート放射することができる。
なお、このように個別流路33を中心軸30Aに対して斜めに配置した場合、仮に放射口32たる孔の深さが均一であれば、中心軸30Aに近い部分と遠い部分とで長さLに差が生じるため、放射口32から放射する流体が射線33Aからずれてしまう可能性がある。そこで、各個別流路33は、長さLが円周方向のどの位置においても同一となるようにすることが好ましい。これにより、放射口32から放射する流体が射線33Aからずれることを抑制できる。本実施例では、各孔32において、個別流路33のうち中心軸30Aから遠い部分と連なる部分ほど深さを大きくすること、すなわち孔32の深さを円周方向の位置に応じて変えることで、長さLを円周方向のどの位置においても同一としている。具体的には
図1および
図2に示すように個別流路33の両端に、個別流路33の中心軸を通る球による球冠状の凹を設けるか、もしくは個別流路33の両端に個別流路33の中心軸に垂直な面を形成することで可能となる。
【0037】
図5は個別流路33の軸(射線33A)に沿わない流体の流れを示す図であり、
図5(a)は個別流路33の長さLが個別流路33の径Dの0.5倍の場合を示し、
図5(b)は個別流路33の長さLが個別流路33の径Dと等しい場合を示し、
図5(c)は個別流路33の長さLが個別流路33の径Dの2倍の場合を示し、
図5(d)は個別流路33の長さLが個別流路33の径Dの3倍の場合を示している。また、
図6は個別流路33の長さLと個別流路33の軸(射線33A)に沿わない流れの比率との関係を示す図である。
個別流路33の長さLが個別流路33の径Dの0.5倍、1倍、2倍、3倍の場合の個別流路33の軸に沿わない流れの比率は、それぞれ、70%、50%、30%、20%となる。
このように、個別流路33の径Dに対する個別流路33の長さLの長さ(深さ)は、放射する液体に指向性を持たせられるか否かに影響し、個別流路33の長さLが短すぎると流れに指向性を持たせる効果が薄れてしまう一方で、個別流路33の長さLが個別流路33の径Dに対して同等以上の長さを有すると、放射する流体の大部分を個別流路33の軸に沿った指向性の高い流れとすることができる。
よって、個別流路33の長さLは、個別流路33の径Dの少なくとも1倍以上とすることが好ましく、3倍以上とすることがより好ましい。
なお、本実施例では、各個別流路33の入口から出口までの長さLを、排煙排熱ノズル30の先端から後端までの長さの約20~30%としている。
【0038】
図7は排煙排熱ノズル30の射線33Aを示す図であり、
図7(a)は各個別流路33の射線33Aと垂直平面γとの交点βを示す図、
図7(b)は交点βを結ぶ仮想的な線αを示す図である。
各個別流路33の向きは、排煙排熱ノズル30から給気口2までの距離と、給気口2の形状・寸法等を考慮して設定する。例えば、給気口2の形状・寸法はマンションの玄関口等で多い縦長矩形の700mm×1900mmを想定し、排煙排熱ノズル30から給気口2までの距離は真正面に1.5mと想定する。そして、その真正面距離において水平とした排煙排熱ノズル30の中心軸30Aの高さが給気口2の中心(対角線の交点)の高さと同一となる位置を基準として、各射線33Aが給気口2の上下左右にバランスよく向くように各個別流路33の向きを振り分けて設定する。
ここで、給気口2から火災区画1に送り込む空気流量は、排煙排熱ノズル30から放射する流体の流量と、排煙排熱ノズル30から放射する流体の流れによって引き込まれる周囲の空気の流れの総流量と、その総流量をどれだけ無駄なく火災区画1内へ送り込めるかが関係する。上述したようにファン式排煙装置等により発生させる空気の流れは円形となるため、縦長矩形であることが多い給気口2の形状と合致せず無駄が大きいと共に、風圧が不均一となることで逆流が生じ送風流量が減少する。
そのため本実施例では、
図7に示すように、8個の放射口32の各射線33Aが中心軸30Aに対して垂直な平面γと交わる点である各交点βを順にぐるりと一周するように直線的に結んだ線αが、給気口2と同一又は相似の縦長四角形を成すように各個別流路33の向きを設定している。これにより、放射流が部分的に給気口2から外れてしまうことをより一層効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画1内に向かう流れとし、給気口2の全面を覆って空気を火災区画1内に強く押し込むことができる。
例として、放射本数が8本の場合は、交点βを結ぶ線αが略縦長四角形を成すように、各射線33Aを最上方左、最上方右、上方左、上方右、下方左、下方右、最下方左、最下方右にそれぞれ向ける。
また、所定の圧力で各放射口32から斜め向きの流体を放射することにより円錐状に広がる放射流が形成されるが、この円錐状の放射流は、時間経過につれて中心軸30Aを含む内側の圧力が大気圧よりも低下し、それにより放射流が内側に引き寄せられて広がり度合が放射開始直後に比べて狭まる。よって、このことを考慮し、個別流路33の各射線33Aは、給気口2の周縁に向けて設定することが好ましいところ、必ずしも給気口2の枠内に収まるように設定する必要はなく、各射線33Aが給気口の枠外となる外縁に向けられていてもよい。また、射線33Aを給気口2の縁よりも内側、すなわち枠内に向ける場合も、射線33Aを給気口2の縁よりも外側、すなわち枠外となる外縁に向ける場合も、給気口2の位置における射線33Aと平面γと交わる点(所定距離から仮想的に各射線33Aを給気口2に投影したときに現れる八つの点)である交点βが、縁から200mm以内にあることが更に好ましい。これにより、給気口2の周縁に放射流の流れによって引き込まれる周囲の空気の流れを合わせて、空気を火災区画1内により一層強く押し込むことができる。なお、給気口2の外縁に向けて射線33Aを設定した場合、各射線33Aと給気口2の位置における平面γとの交点βを結ぶ線αは、給気口2よりも寸法が大きい相似の縦長四角形を成す。
【0039】
また、
図7では放射口32が8個の場合を示しているが、放射口32が2個以上8個未満の場合、又は9個以上の場合も、射線33Aを適切に設定することで、放射流とそれに伴う空気の流れの一部が給気口2から外れることを抑制し、空気を火災区画1内に強く押し込むことができる。
放射口32が2個又は3個の場合などは、各交点βを順に直線的に結んだ線αが略直線を成すように各射線33Aの向きを設定する。また、放射口32が6個の場合などは、各交点βを順にぐるりと一周するように直線的に結んだ線αが略四角形又は略六角形等の多角形を成すように各射線33Aの向きを設定する。なお、線αにより表される多角形は、四角形、五角形、又は六角形であることが好ましく、四角形であることが最も好ましい。これにより、放射流が部分的に給気口2から外れてしまうことが抑制され、放射流によって生じる空気の流れが火災区画1内に向かう流れとなり、空気を火災区画1内に強く押し込むことができる。
例として、放射本数が2本の場合は、交点βを結ぶ線αが略鉛直線を成すよう2本の射線33Aのうちの一つを上方に向け、もう一つは下方に向ける。
また、放射本数が3本の場合は、交点βを結ぶ線αが略鉛直線を成すように、3本の射線33Aを上方、中央、下方にそれぞれ向ける。
また、放射本数が6本の場合は、交点βを結ぶ線αが略六角形を成すように、6本の射線33Aを最上方中央、左上方、右上方、左下方、右下方、最下方中央にそれぞれ向ける。
また、放射本数が12本の場合は、交点βを結ぶ線αが略四角形を成すように、12本の射線33Aを最上方左、最上方中央、最上方右、上方左、上方中央、上方右、下方左、下方中央、下方右、最下方左、最下方中央、最下方右にそれぞれ向ける。
【0040】
図8は放射流とそれに伴う空気の流れによって縦長四角形の給気口2が覆われる状態を示したイメージ図であり、
図8(a)は放射本数が8本の場合、
図8(b)は放射本数が2本の場合、
図8(c)は放射本数が3本の場合、
図8(d)は放射本数が6本の場合、
図8(e)は放射本数が12本の場合である。また、
図8(f)には、比較例として従来のガンタイプノズルを用いた場合を示している。
図8においては、各放射口32から放射された流体とそれに伴う空気の流れの給気口2における各位置を円で表している。
従来のガンタイプノズルは、放射本数が1本であり、また液体をストレートに放射するのではなく拡散するように放射するため、
図8(f)に示すように、放射流とそれに伴う空気の流れの一部は、給気口2から外れた箇所に当たってしまう。そのため無駄が多く、空気の流れも不均一となる。
また、従来のガンタイプノズルは、先端の円錐ノズル(ノズル100)から水等の消火剤を拡散的に放射し広く水粒子を分散させるため、分散した水粒子が周りの空気を巻き込み、空気の流れを作る。分散した水は、表面積が大きいため多量の空気を巻き込むことができるが、その一方、質量が小さく空気の抵抗を受けて減速しやすいので貫通力は無い。
【0041】
これに対し排煙排熱ノズル30は、上記のように交点βを結ぶ線αが四角形や六角形等の多角形、又は略直線を成すように各個別流路33の向きを設定している。これにより、放射流とそれに伴う空気の流れは、給気口2に対して
図8(a)~(e)に示すような位置となり、放射流とそれに伴う空気の流れ全体が給気口2から外れにくく、給気口2からの漏れを抑えるように給気口2の全面を空気の流れで覆うため無駄を少なくできると共に、給気口2での風圧が略均一となり逆流による空気流量の減少を抑制できる。
また、各放射口32から流体を射線33Aに沿って放射するため、水粒子が従来のガンタイプノズルほど分散せず、複数のストレートな放射流が給気口2へ向かう。ストレートな放射流は空気抵抗が比較的小さく減速しづらいため、給気口2に到達する時点でも十分な流速を保って高い貫通力を有する。この結果、放射流によって生じる流れを利用して空気を火災区画1内に強く押し込むことができる。
【0042】
図9は実施例と比較例についての試験による陽圧(内圧)評価を示す図、
図10は放射試験中の写真であり、
図10(a)は比較例2、
図10(b)は実施例1、
図10(c)は実施例2のものである。試験においては、排気口3を設けず給気口2のみを設けた閉鎖空間に対し、給気口2から1.5m離れた真正面の位置において、ノズルや排煙装置の中心軸30Aを縦長矩形の給気口2の中心(対角線の交点)に合わせて送風又は流体放射を行い、閉鎖空間の圧力が安定したときの圧力値を計測した。給気口2のサイズは、横700mm×縦1900mmである。
実施例1は、6個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた放射試験である。
図8(d)に示す放射状態となるように、それぞれの射線33Aを設定した。放射する流体は、ホース21を介して別々に送られる流量150L/minの水と流量3000L/minの圧縮空気を排煙排熱ノズル30内で混合した気液混相流とした。
実施例2は、8個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた放射試験である。
図8(a)に示す放射位置となるように、それぞれの射線33Aを設定した。放射する流体は、ホース21を介して別々に送られる流量150L/minの水と流量3000L/minの圧縮空気を排煙排熱ノズル30内で混合した気液混相流とした。
実施例3は、12個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた放射試験である。
図8(e)に示す放射位置となるように、それぞれの射線33Aを設定した。放射する流体は、ホース21を介して別々に送られる流量150L/minの水と流量3000L/minの圧縮空気を排煙排熱ノズル30内で混合した気液混相流とした。
比較例1は、一般的なファン式排煙装置を用いた送風試験である。
比較例2は、従来のガンタイプノズルを用いた放射試験である。放射本数は1本であり、
図8(f)に示す放射位置となる。放射する流体は、流量230L/minの水とした。
【0043】
試験の結果、閉鎖空間の内圧は、ファン式排煙装置を用いた比較例1では16Pa、従来のガンタイプノズルを用いた比較例2では75Pa、6個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた実施例1では55Pa、8個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた実施例2では92Pa、12個の放射口32を有する排煙排熱ノズル30を用いた実施例では85Paとなった。
この結果より、実施例1~3の排煙排熱ノズル30は、比較例1のファン式排煙装置よりも顕著に火災区画1内の圧力を高められることが分かる。これは、比較例1のファン式排煙装置は、円形の送風となるため、縦長四角形の玄関口等の給気口2の上下両端においては流れが弱まり逆流が生じやすく、放射流の左右両端は給気口2から外れて無駄が生じるが、実施例1~3の排煙排熱ノズル30は、水等の液体を放射し、かつ放射流の断面が矩形状となるように射線を設定しているため、給気口2の上下両端においても逆流が生じにくく、放射流の一部が給気口から外れることも少ないためである。
【0044】
なお、試験の結果より、比較例2のように従来のガンタイプノズルを用いた場合も、比較例1の場合よりも火災区画1内の圧力を高められることが分かる。しかし、従来のガンタイプノズルは円形の放射となるため、縦長四角形の玄関口等の給気口2の上下両端においては流れが弱くなり逆流が生じやすく、放射流の左右両端は給気口2から外れて無駄が生じる。これにより、比較例2で使用する水の流量は230L/minと、実施例1~3で使用する水の流量の約1.5倍以上となった。
また、実施例1~3は放射する流体を気液混相流とすることで水の使用量が抑えられるのに対し、比較例2は放射する流体が水のみであることも、水の使用量に差が生じる要因となる。実施例1~3(気液混相流)の場合は、圧縮空気を水と同時に放射することで、排煙排熱ノズル30から放射される際に圧縮空気が膨張し水を加速させる。また、各放射口32からストレートに放射された流体が空気の膨張に応じて適度に広がり、隣接する放射口32から放射された流体との隙間が埋まるため、放射流によって給気口2の全面を覆うことができる。これらにより、効率的に火災区画1内を加圧して陽圧排煙を短時間で完了できるため、実施例1~3における使用水量は比較例2よりも少なくなる。火災区画1が2階以上の場合、放水された水が階下に落ちて水損を起こすことがあるため、排煙排熱作業で使用する水量は少ない方がよい。また、水源確保が困難な場所であれば水量が少ないことはより好ましい。従って、実施例1~3の排煙排熱ノズル30は、使用水量が比較的少なく済む点においても、比較例2の従来のガンタイプノズルよりも優れている。よって、排煙排熱ノズル30から放射する流体は水等の液体だけとすることもできるが、圧縮空気等の気体を混合した気液混相流を放射することが好ましい。
また、ビルやマンションといった建物は廊下の幅が1.5m以下であることも多い。幅員1.5m以下の廊下にある給気口2に対して真正面から放射することは困難であり、また吹き返しを考慮した安全性の観点からも、消防隊員は給気口2に対して斜めから放射することも多いと考えられる。実施例1~3の排煙排熱ノズル30は、放射本数が複数であるため、給気口2に対する入射角を変えたとき、すなわち給気口2に対して斜めから放射したときも、比較例2の従来の放射銃のように放射本数が1本である場合に比べて、放射流のうち給気口2から外れる部分を少なくでき、これにより排煙排熱効果の低下を抑制できる。
【0045】
また、上記のように、給気口2から火災区画1内を効率よく加圧するためには、給気口2からの漏れを抑えるように給気口2の全面を空気の流れで覆い押し込む必要がある。しかし、ストレート放射の本数が比較的少ない場合、放射1本あたりの空気を押し込む力は強いが、局所的になり、給気口2の全面を覆うのが難しいこともある。一方、放射本数が比較的多くなれば給気口2の全面を覆いやすくはなるが、放射1本あたりの空気を押し込む力が弱くなる。
ここで、
図8に示すように、放射口32が2個以上あれば給気口2の全面を覆いやすくなるため、空気を強く押し込む効果を得られる。また、
図9に示すように、特に、放射口32を6個以上12個以下とすることで、その効果をより高めることができる。
よって、給気口2に設ける放射口32の数は、2個以上12個以下であることが好ましく、6個以上12個以下であることが更に好ましく、8個とすることが最も好ましい。
【0046】
また、排煙排熱ノズル30が放射する流体として気液混相流を用いる場合は、薬剤を使用せず水等の液体と圧縮空気等の気体を混合した気液混相流か、又は、水等の液体と圧縮空気等の気体に薬剤を混ぜて泡とした気液混相流が好ましい。
前者の気液混相流は、例えば、水と圧縮空気を消防自動車10から排煙排熱ノズル30へ別々の流路で供給し、気液を排煙排熱ノズル30で混合して生成する。この別々の流路は、二本のホース21を用いることで実現してもよく、一本のホース21に二つの流路を設けることにより実現してもよい。
後者の気液混相流は、例えば、消防自動車10が備えるCAFS装置23において気液と薬剤を混ぜて生成した泡を一つの流路、すなわち一本のホース21で排煙排熱ノズル30へ供給する。なお、排煙排熱作業においては、消火作業とは異なり消火区画内に泡を残存させる必要はないため、水と空気が交互に放射される現象(スラッグフロー)が起こらない程度まで薬剤濃度を減らしてもよい。
【0047】
以上説明したように、本発明の排煙排熱ノズル30は、給気口2に対して、液体又は気液混相流の流体を放射する放射口32が複数設けられており、全ての個別流路33、又は少なくとも一部の個別流路33の射線33Aは、中心軸30Aから離れる方向に中心軸30Aに対して斜めに向けられ、放射口32から流体を射線33Aに沿って放射するため、液体又は気液混相流による放射流とそれに伴う空気の流れにより火災区画1を効率よく加圧し、排煙排熱を促すことができる。
また、火災区画1に送り込む空気の流量が大きくなり排煙排熱効率が向上するため、火災区画1に充満した煙やガス、熱をファン式排煙装置を用いる場合よりも短時間で排出することができる。また、ファン式排煙装置を消防自動車10に積載せずに済むため、その空いた部分に他の資機材等を積載することが可能となる。