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特開2023-23185系統安定化装置、系統安定化方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023185
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】系統安定化装置、系統安定化方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/24 20060101AFI20230209BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230209BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J13/00 301A
H02J13/00 311A
H02J13/00 311R
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128465
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】木村 操
(72)【発明者】
【氏名】石原 祐二
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AB07
5G064AC06
5G064AC08
5G064CB06
5G064CB12
5G064CB16
5G064DA02
5G066AA03
5G066AA08
5G066AB02
5G066AD01
5G066AD07
5G066AD09
5G066AE01
5G066AE03
5G066AE09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過渡安定度計算に必要な計算資源を削減する系統安定化装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】系統安定化装置は、収集した電力系統の情報に基づいて系統データを作成する系統データ作成部103、所定のルールに基づいて、電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択する基本電制機選択部104、電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成する周波数モデル作成部105、作成したモデルを用いて周波数安定性を判別する周波数安定性判別部106、該判別結果に基づいて、基本電制機選択部が選択した電源制限の対象発電機を変更する電制機対象変更部107、決定した電制機変更情報を記憶する記憶部101及び系統事故発生時に電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送する制御信号送信部108を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統事故発生時に電力系統の安定化を目的として発電機の電源制限を行う系統安定化装置であって、
収集された前記電力系統の情報に基づいて系統データを作成する系統データ作成部と、
所定のルールに基づいて、前記電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択する基本電制機選択部と、
前記電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成する周波数モデル作成部と、
前記規範周波数モデルを用いて周波数安定性を判別する周波数安定性判別部と、
前記周波数安定性判別部による判別結果に基づいて、前記基本電制機選択部が選択した前記電源制限の対象発電機を変更する電制機対象変更部と、
前記電制機対象変更部が決定した電制機変更情報を記憶する記憶部と、
系統事故発生時に前記電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送する制御信号送信部と、を備える、
系統安定化装置。
【請求項2】
前記周波数モデル作成部は、前記電力系統の安定性を維持する電源制限から所定の時間が経過した条件にて計算した過渡安定度計算結果の系統周波数の変動値と、前記規範周波数モデルの出力値との差が最小または所定値以下となるように前記規範周波数モデルを推定する、
請求項1に記載の系統安定化装置。
【請求項3】
前記周波数安定性判別部は、前記電力系統の安定性を維持する複数の電源制限の対象発電機の組合せ毎に、前記周波数モデル作成部が推定した前記規範周波数モデルのパラメータを補正して前記周波数安定性を判別する、
請求項1又は2に記載の系統安定化装置。
【請求項4】
前記電力系統の安定性を維持する電源制限から所定の時間が経過した条件にて電源脱落を模擬した過渡安定度計算を実行し、前記過渡安定度計算の結果を用いて負荷周波数特性定数を推定する負荷周波数特性定数推定部を更に備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の系統安定化装置。
【請求項5】
系統事故発生時に発電機の電源制限を行って電力系統を安定化させる系統安定化装置が、
収集された前記電力系統の情報に基づいて系統データを作成し、
所定のルールに基づいて、前記電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択し、
前記電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成し、
前記規範周波数モデルを用いて周波数安定性を判別し、
判別結果に基づいて、前記選択した前記電源制限の対象発電機を変更し、
決定された電制機変更情報を記憶し、
系統事故発生時に前記電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送する、
系統安定化方法。
【請求項6】
系統事故発生時に発電機の電源制限を行って電力系統を安定化させる系統安定化装置に、
収集された前記電力系統の情報に基づいて系統データを作成させ、
所定のルールに基づいて、前記電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択し、
前記電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成させ、
前記規範周波数モデルを用いて周波数安定性を判別させ、
判別結果に基づいて、前記選択した前記電源制限の対象発電機を変更させ、
決定された電制機変更情報を記憶させ、
系統事故発生時に前記電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、系統安定化装置、系統安定化方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の再生可能エネルギー電源(再エネ電源)の大量導入を背景として、従来と比較して同期機比率が低下し並列台数が少ない電源構成で系統が運用されている。そのような条件下で系統事故が発生し、系統安定化装置により電源制限(電制)する場合には、安定した電制量が期待できる同期機を対象とされるので、さらに同期機の並列台数が少なくなる。同期機が極端に少ない低慣性の条件で電源脱落が発生した場合には周波数が急激に低下するので、周波数が低下したことを検出する周波数低下リレー(Under Frequency Relay:UFR)の動作によって負荷遮断(Under Frequency Load Shedding:UFLS)を行なっても周波数安定性を維持できない可能性がある。
【0003】
周波数安定性を考慮した電制機選択方法に関して、特許文献1では、同期安定性維持に効果のある指標と周波数安定性維持に効果のある指標、電圧安定性維持に効果のある指標の各指標値を系統内の発電機毎に算出し、算出した各指標値に基づいて総合化した電制効果指標値を演算し、電制効果指標値が最も高い発電機を電制候補として選択する装置が提案されている。特許文献1に記載の装置を用いれば周波数安定性維持に効果がある発電機が残されやすくなる効果がある。特許文献2では、所定の瞬動予備力と運転予備力を残すように電制機を選択する系統安定化装置が提案されている。特許文献2に記載の装置を用いれば所定の予備力が残され、結果的に周波数安定性が向上する効果がある。
【0004】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載の電制機選択方法では、電源制限実施後の条件にて電源脱落が発生した場合の周波数応動を直接評価し、周波数安定性の維持が可能であることを確認することはできない。この課題を解決する最も単純な方法は、周波数安定性の維持に効果のあるすべての電制機の組合せに対して過渡安定度計算を実行することであるが、所定の演算周期で制御内容を演算する処理を繰り返し実行するオンライン事前演算型の系統安定化装置に適用する場合は、膨大な計算資源が必要となり、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4094206号公報
【特許文献2】特開2019-216510号公報
【特許文献3】特許第6223833号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電力系統安定化システム工学、横山明彦・太田宏次、電気学会、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、系統安定化装置による同期安定性維持の電制機の組み合わせを選択する際に、電源脱落等が発生した条件における周波数応動を評価して、周波数安定性が維持できない場合には周波数安定性を維持できるように電制機の組み合わせを変更することによって、過渡安定度計算に必要な計算資源を削減することができる系統安定化装置、系統安定化方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の系統安定化装置は、系統事故発生時に電力系統の安定化を目的として発電機の電源制限を行う。系統安定化装置は、系統データ作成部と、基本電制機選択部と、周波数モデル作成部と、周波数安定性判別部と、電制機対象変更部と、記憶部と、制御信号送信部と、を持つ。系統データ作成部は、収集された前記電力系統の情報に基づいて系統データを作成する。基本電制機選択部は、所定のルールに基づいて、前記電力系統の安定性を維持する電源制限の対象発電機を選択する。周波数モデル作成部は、前記電源制限から所定の時間が経過した条件にて電力系統における周波数の応動を模擬した規範周波数モデルを作成する。周波数安定性判別部は、前記規範周波数モデルを用いて周波数安定性を判別する。電制機対象変更部は、前記周波数安定性判別部による判別結果に基づいて、前記基本電制機選択部が選択した前記電源制限の対象発電機を変更する。記憶部は、前記電制機対象変更部が決定した電制機変更情報を記憶する。制御信号送信部は、系統事故発生時に前記電制機変更情報によって示される電源制限の対象発電機に対して制御信号を伝送する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態の系統安定化装置1の全体構成等を示す図。
図2】第1の実施形態の系統安定化装置1の記憶部101に保存される系統情報101Aの一例を示す図。
図3】第1の実施形態の系統安定化装置1の記憶部101に保存される系統データ101Bの一例を示す図。
図4】第1の実施形態の系統安定化装置1の記憶部101に保存される想定事故ケース情報101Cの一例を示す図。
図5】第1の実施形態の系統安定化装置1の記憶部101に保存される基本電制機情報101Dの一例を示す図。
図6】第1の実施形態の系統安定化装置1の記憶部101に保存される電制機変更情報101Fの一例を示す図。
図7】第1の実施形態の系統安定化装置1の周波数モデル作成部105、周波数安定性判別部106、電制機対象変更部107の作用を示す図。
図8】過渡安定度計算結果と規範周波数モデルによる推定結果のイメージ図。
図9】周波数偏差の最終値と電源脱落量との関係のイメージ図。
図10】規範周波数モデルのパラメータ修正前後の周波数応答モデルのイメージ図。
図11】第2の実施形態の系統安定化装置1の全体構成等を示す図。
図12】第2の実施形態の系統安定化装置1の負荷周波数特性定数推定部110の作用を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の系統安定化装置、系統安定化方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の系統安定化装置1の全体構成等を示す図である。図1において、電力系統2では、例えば、同期機21(21A(G1)、21B(G2)、21C(G3)、21D(G4)、21E(G5))と、再エネ電源22(22A(RE1)、22B(RE2)、22C(RE3)、22D(RE4)、22E(RE5))と、負荷23(23A(L1)、23B(L2))と、系統状態情報収集装置24(24A、24B、24C、24D、24E、24F)と、遮断器25(25A(CB1)、25B(CB2)、25C(CB3)、25D(CB4)、25E(CB5))とが相互に接続される。
【0012】
同期機21は、火力発電機、水力発電機、原子力発電機などの大規模電源である。再エネ電源22は、太陽光発電機や風力発電機である。なお、本明細書において、「発電機」と表記した場合は、同期機と再エネ電源の両方を指す。負荷23は、ビル、工場、一般家庭などの複数の需要家により構成される。系統状態情報収集装置24は、電力系統2の構成や状態に関する情報を電力系統2から収集して、収集した情報を、伝送系3を介して系統安定化装置1に送信する。電力系統2の構成や状態に関する情報は、例えば、遮断器25や断路器の開放・投入状態、負荷の有効電力、無効電力、同期機や再エネ電源の有効電力出力や電圧、系統事故発生を表す保護装置の動作情報などである。
【0013】
系統安定化装置1は、一以上のプロセッサを含む。系統安定化装置1は、単体のコンピュータ装置やディジタルリレー装置であってもよいし、二以上に分散化されたコンピュータ装置やディジタルリレー装置であってもよい。系統安定化装置1は、例えば、記憶部101、データ管理部102、系統データ作成部103、基本電制機選択部104、周波数モデル作成部105、周波数安定性判別部106、電制機対象変更部107、制御信号送信部108、入力部109によって構成される。
【0014】
記憶部101は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などのフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などである。データ管理部102、系統データ作成部103、基本電制機選択部104、周波数モデル作成部105、周波数安定性判別部106、電制機対象変更部107、制御信号送信部108の各々は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。また、これら各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む。)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。入力部109は、例えば、各種キー、ボタン、ダイヤルスイッチ、マウス、タッチパネルなどのうち一部または全部を含む。また、入力部109は、外部装置と電気的に接続される接続部であってもよい。
【0015】
データ管理部102は、系統状態情報収集装置24が収集した情報を伝送系3を介して取得し、記憶部101に系統情報101Aとして記録する。データ管理部102はまた、入力部109から入力された情報を記憶部101の系統情報101Aに記録する。入力部109にはキーボードやタッチパネルなどのI/O機器を接続してもよいし、あるいは、別のシステムからの情報を入力部109に入力(伝送)してもよい。
【0016】
図2は、系統情報101Aの一例を示す図である。図2に示す通り、系統情報101Aは、監視対象に対して、状態又は値などの項目が対応付けられたものである。系統情報101Aは、遮断器の開放・投入状態や、発電機の有効電力出力、線路のインピーダンスや静電容量などの情報を保存する。
【0017】
系統データ作成部103は、系統情報101Aと、系統状態情報収集装置24で収集した情報とを用いて系統データ101Bを作成する。図3は、系統データ101Bの一例を示す図である。系統データ101Bは、例えば、ノードデータNDと、ブランチデータBDとを含む。ノードデータNDは、電力系統2を構成する各ノードに対して、潮流計算のノードの種類(PQ指定、PV指定、スラックノード)、有効電力、無効電力、電圧といった情報を紐づけて記憶する。ブランチデータBDは、電力系統2の各ブランチに対して、始端ノードID、終端ノードID、インピーダンス、静電容量などの情報を紐づけて記憶する。
【0018】
系統データ101Bは、また、図3に示した以外の情報として発電機モデルのパラメータ値など、過渡安定度計算に必要な情報も保持している。系統安定化装置1は、入力部109を介してユーザによるパラメータ入力を受け付け、系統データ101Bに保持された発電機モデルのパラメータ値を変更することができる。
【0019】
図4は、想定事故ケース情報101Cの一例を示す図である。図4に示す通り、想定事故ケース情報101Cは、ケースに対して、事故箇所や事故様相などの項目が対応付けられたものである。系統安定化装置1は、入力部109を介してユーザによる想定事故ケース情報101Cの入力を受け付ける。
【0020】
基本電制機選択部104は、系統データ101Bと想定事故ケース情報101Cを用いて、基本電制機情報101Dを作成する。図5は、基本電制機情報101Dの一例を示す図である。図5に示す通り、基本電制機情報101Dは、制御順位に対して、同期安定性を維持するために必要な制御対象などの項目が対応付けられたものである。基本電制機情報101Dは、想定事故ケース情報101Cに記録されるケースごとに作成されるものである。
【0021】
負荷周波数特性定数情報101Eは、電力系統2の負荷周波数特性定数の情報を記憶している。系統安定化装置1は、入力部109を介してユーザによる負荷周波数特性定数情報101Eの入力を受け付ける。
【0022】
周波数モデル作成部105は、系統データ101B、想定事故ケース情報101C、基本電制機情報101D、負荷周波数特性定数情報101Eを用いて規範周波数モデルを作成する。
【0023】
周波数安定性判別部106は、周波数モデル作成部105が作成した規範周波数モデルを用いて、所定の電源脱落が発生した場合の周波数応動を推定し、周波数安定性が維持されるか否かを判別する。
【0024】
電制機対象変更部107は、基本電制機情報101Dに記憶されている電制機の組合せを所定のルールで変更し、電制機変更情報101Fとして記録する。図6は、電制機変更情報101Fの一例を示す図である。図6に示す通り、電制機変更情報101Fは、制御順位に対して、制御対象や変更情報などの項目が対応付けられたものである。変更情報における「除外」は、基本電制機情報101Dに記憶されている電制機を制御対象から除外することを意味し、変更情報における「追加」は、新たに制御対象として電制機を追加することを意味する。
【0025】
制御信号送信部108は、電制機変更情報101Fに記憶された電制対象の情報を制御端末装置4に伝送する。制御端末装置4は、系統状態情報収集装置24から系統事故発生の情報を受信した場合に、遮断器25を開放状態にする制御信号や再エネ電源22の出力をブロックする制御信号を伝送する。
【0026】
[第1の実施形態の作用]
次に、系統安定化装置1の基本的な作用について説明する。データ管理部102は、系統状態情報収集装置24から遮断器の開放・投入状態や、発電機の有効電力出力を収集する。データ管理部102は、また、入力部109から線路のインピーダンスや静電容量などの情報に関する入力を受け付ける。データ管理部102は、収集・入力された情報を系統情報101Aとして記録する。
【0027】
系統データ作成部103は、系統状態情報収集装置24から同期機21の電圧の情報と、負荷23の有効電力及び無効電力の情報を収集する。系統データ作成部103は、収集した情報と、系統情報101Aを用いて状態推定計算を行い、系統データ101Bを作成する。
【0028】
基本電制機選択部104は、系統事故発生時の同期安定性を維持するために必要な電制対象を選択する。電制対象の選択方法としては、例えば、想定事故ケース情報101Cの各系統事故ケースに対して電制機の優先選択順位のテーブルを事前に作成しておき、テーブルの上位から順に電制機を追加して過渡安定度計算を実行する処理を繰り返し、過渡安定度計算の結果、同期安定性を維持できる電制機の組合せを選択する方法が考えられる。過渡安定度計算は系統データ101Bと想定事故ケース情報101Cを用いて実行すれば良い。
【0029】
基本電制機選択部104は、選択した電制機の組合せを基本電制機情報101Dとして記録する。なお、基本電制機選択部104は、同期安定性を維持するための電制機を選択することに限定されず、電圧安定性維持や過負荷解消も含む電力系統の安定性を維持するための電制機を選択してもよい。
【0030】
図7は、第1の実施形態の系統安定化装置1の周波数モデル作成部105、周波数安定性判別部106、電制機対象変更部107の作用を示す図である。ステップS1からS3は周波数モデル作成部105の作用を表し、ステップS4及びS5は周波数安定性判別部106の作用を表し、ステップS6及びS7は電制機対象変更部107の作用を表す。
【0031】
まず、ステップS1において、周波数モデル作成部105は、基本電制機情報101Dを読み込む。次に、ステップS2において、周波数モデル作成部105は、基本電制機情報101Dによって指定されている電制機を電制して所定の時間が経過した条件における電力系統2を対象に、指定した量の電源脱落を模擬した過渡安定度計算を1回実行する。
【0032】
次に、ステップS3において、周波数モデル作成部105は、S2の過渡安定度計算結果のうち、周波数の応動に対して規範周波数モデルのパラメータを推定する。電源脱落後の周波数は、非特許文献1に記載のように理論的には動揺方程式に基づき応動する。ダンピング定数を0と仮定すると、動揺方程式は式(1)によって表される。式(1)において、Mは慣性定数、fは基準周波数、Δfは周波数偏差、Pは有効電力出力、Pは機械入力を表す。
【0033】
【数1】
【0034】
有効電力出力P及び機械入力Pに対して、以下の式(2)~(4)が成り立つ。ここで、PM0は機械入力の初期値、ΔPは機械入力の偏差、PL0は負荷の初期値、Kは負荷の周波数特性定数、PG0は有効電力出力の初期値、ΔPは電源脱落量を表す。
【0035】
【数2】
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
【0038】
式(2)~(4)を変形すると、以下の式(5)を得る。
【0039】
【数5】
【0040】
式(5)を式(1)に代入すると、以下の式(6)を得る。
【0041】
【数6】
【0042】
ここで、発電機の調速機を時定数Tの一次遅れで近似すると、機械入力に関する過渡特性は以下の式(7)によって表すことができる。ここで、Kは発電機の周波数特性定数を表す。
【0043】
【数7】
【0044】
式(6)と式(7)とを連立し、微分方程式を解くことにより、周波数偏差Δfは、β>0の場合、以下の式(8)によって表され、β≦0の場合、以下の式(9)によって表される。式(8)において、a=α-√β、a=α+√βと定義される。
【0045】
【数8】
【0046】
【数9】
【0047】
ここで、式(9)において、sinγは、以下の式(10)によって表される。
【0048】
【数10】
【0049】
式(9)において、ΔFは、電源脱落後の定常状態における周波数偏差に相当し、式(11)によって表される。
【0050】
【数11】
【0051】
式(10)及び式(11)におけるKは、以下の式(12)によって表される。αは式(13)によって表され、βは式(14)によって表される。Tは負荷特性による周波数変化の時定数に相当し、以下の式(15)によって表される。
【0052】
【数12】
【0053】
【数13】
【0054】
【数14】
【0055】
【数15】
【0056】
ここで、β>0の場合、式(8)の両辺をΔFによって除算することによって式(16)が得られ、β≦0の場合、式(9)の両辺をΔFによって除算することによって式(17)が得られる。
【0057】
【数16】
【0058】
【数17】
【0059】
ステップS3において、周波数モデル作成部105は、ステップS2の過渡安定度計算結果のうち、周波数偏差を定常状態における周波数偏差ΔFで除したデータと、式(16)及び式(17)による計算値との差異が小さくなるように式(16)及び式(17)のパラメータを決定する。パラメータは、例えば、非線形最小二乗法によって計算することができる。
【0060】
図8は、過渡安定度計算結果と、式(16)及び式(17)の規範周波数モデルによる推定結果のイメージ図である。図8において、横軸は時間tを示し、縦軸は規格化された周波数Δf/ΔFを示す。ステップS4において、周波数安定性判別部106は、ステップS3で推定した規範周波数モデルのパラメータのうち、発電機の周波数特性定数Kを現在の電制機の組合せに合わせて補正する。
【0061】
まず、発電機の周波数特性定数Kは、各発電機の調速機の調定率に基づいて、式(18)及び式(19)式を用いて理論的に計算することができる。この理論的に計算した発電機の周波数特性定数をK と表す。ここで、Rは発電機iの調定率、KRiは発電機iの発電機周波数特性定数、PRiは発電機iの定格有効電力出力、Nは発電機の数を表す。
【0062】
【数18】
【0063】
【数19】
【0064】
周波数安定性判別部106は、負荷周波数特性定数情報101Eから負荷周波数特性定数K を読み込み、周波数偏差の最終値ΔFと電源脱落量との関係を関数化する。図9は、周波数偏差の最終値と電源脱落量との関係のイメージ図である。図9において、横軸は電源脱落量を示し、縦軸は周波数偏差の最終値ΔFを示す。図9に示す通り、周波数偏差の最終値と電源脱落量との関係は、ガバナフリー容量(GF容量)を境界として傾きの変わる関数となる。
【0065】
この関数について、任意の脱落量におけるΔFと原点とを結ぶ直線の傾きをK'として、K'からK を差し引いた値をK'とする。K'は周波数偏差の最終値ΔFと電源脱落量との関係を線形近似した場合における発電機の周波数特性定数に相当する。基本電制機情報101Dの電制機の組合せに対してK'を計算し、この計算値をK'G,aと定義する。また任意の電制機の組合せに対してK'を計算し、この計算値をK'G,bと定義する。ステップS3で推定したKを式(20)によって補正する。
【0066】
【数20】
【0067】
ステップS4において、周波数安定性判別部106は、ステップS3で推定したK、T、Tと、式(20)で求めたK estから、現在の電制機の組み合わせに対してΔf/ΔFのモデルを作成する。図9の関数から周波数最終値ΔFを別途算出してΔf/ΔFのモデルによる推定結果に乗ずることで推定条件に対する周波数応動を得ることができる。図10は、規範周波数モデルのパラメータ修正前後の周波数応答モデルのイメージ図である。図10に示す通り、点線によって示されるパラメータ修正前の周波数応答モデルの応答に比して、一点鎖線によって示されるパラメータ修正後の周波数応答モデルの応答が改善していることが分かる。
【0068】
ステップS5において、周波数安定性判別部106は、現在の電制機の組合せに対してステップS4で推定した規範周波数モデルを用いて周波数安定性が維持されるか否かを判別する。周波数安定性判別部106は、例えば、規範周波数モデルによる推定値の最小値が所定値以上の場合には周波数安定性が維持されると判別する。あるいは、規範周波数モデルによる推定値の最小値と最終値が同等の値(差異が所定値以下)である場合は、周波数調整力に余力が無く、周波数安定性が維持されないと判別する方法も考えられる。ステップS5において周波数安定性が維持されていると判定された場合、周波数安定性判別部106は、現在の電制機の組み合わせを確定させ、処理を終了する。
【0069】
一方、ステップS5において周波数安定性が維持されていないと判定された場合、ステップS6において、電制機対象変更部107は、基本電制機情報101Dの電制順位が最後の発電機を電制機から除外し、その除外情報を電制機変更情報101Fに記録する。ステップS7において、除外した発電機と同等の同期安定性維持効果をもつ再エネ電源や、同期安定性維持効果が同程度かやや落ちるが、電制機対象変更部107は、周波数低下を抑制できる同期機を電制機に追加して、その追加情報を電制機変更情報101Fに記録する。持ち替える対象の再エネ電源や同期機は事前に優先順位を保持しておく方法が考えられる。あるいは、再エネ電源に持ち替える場合には、特許文献3の方法を用いて安定化効果が最も高い再エネ電源に持ち替える方法が考えられる。
【0070】
制御信号送信部108は、電制機変更情報101Fの情報を制御端末装置4に送信する。基本電制機選択部104、周波数モデル作成部105、周波数安定性判別部106、電制機対象変更部107、制御信号送信部108の処理は想定事故ケース情報101Cに保存した全ての想定事故ケースに対して、例えば30秒程度の周期で遂次実行する。なお、周波数モデル作成部105の処理については過渡安定度計算の実行を伴うため、計算負荷低減の観点から30秒よりも長い計算周期で実行する方法も考えられる。この場合、推定した規範周波数モデルのパラメータを記憶部101に一時的に保存しておく。
【0071】
[第1の実施形態の効果]
以上の通り説明した第1の実施形態によれば、同期機が少ない低慣性の条件にて電源脱落が発生した場合の周波数応動を直接評価し、周波数安定性の維持が可能であることを確認できるため、電制の対象となる発電機の所有者に対する電制機選択理由の説明性を明確化することができる。さらに、様々な電制機の組み合わせに対して総当たり的に過渡安定度計算を実行して評価する方法と比べて少ない過渡安定度計算の実行回数で電制機を選択でき、計算資源を削減することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態の系統安定化装置1Aの全体構成等を示す図である。第2の実施形態の系統安定化装置1Aは、第1の実施形態の系統安定化装置1の構成要素に加えて、負荷周波数特性定数推定部110を有する。負荷周波数特性定数推定部110は、系統データ101Bと想定事故ケース情報101C、基本電制機情報101Dを用いて負荷周波数特性定数を推定し、負荷周波数特性定数情報101Eに記憶する。そのほかの各部は第1の実施形態と同様の構成である。
【0073】
[第2の実施形態の作用]
第2の実施形態のうち、負荷周波数特性定数推定部110の作用について図12を用いて説明する。図12は、第2の実施形態の系統安定化装置1Aの負荷周波数特性定数推定部110の作用を示す図である。第1の実施形態では、負荷周波数特性定数情報101Eを、入力部109を介して記録した。第2の実施形態では、負荷周波数特性定数推定部110が負荷周波数特性定数情報101Eを記録する。
【0074】
ステップS101において、負荷周波数特性定数推定部110は、基本電制機情報101Dを読み込む。次に、ステップS102において、負荷周波数特性定数推定部110は、基本電制機情報101Dに記憶された発電機を電制後に所定の時間が経過した条件にて、ガバナフリー容量を超過する電源脱落を模擬した過渡安定度計算を2条件で実行する。
【0075】
次に、ステップS103において、負荷周波数特性定数推定部110は、過渡安定度計算結果から負荷周波数特性定数を算出する。周波数偏差の最終値と電源脱落量との関係は、図9のイメージ図のように、ガバナフリー容量を境界として傾きの変わる関数となり、ガバナフリー容量を超過する条件ではその傾きが負荷周波数特性定数K となる。負荷周波数特性定数推定部110は、この特徴を用いて、電源脱落量が異なる2条件の過渡安定度計算結果の周波数偏差の最終値を結ぶ直線の傾きを負荷周波数特性定数K として推定し、推定した負荷周波数特性定数K を負荷周波数特性定数情報101Eに記録する。負荷周波数特性定数推定部110の処理は任意の周期で遂次実行する。
【0076】
[第2の実施形態の効果]
以上の通り説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態に記載した効果に加えて、系統安定化装置1Aの内部処理として演算対象時刻における電力系統2の状態に追従して負荷周波数特性定数K を逐次更新するため、ユーザによる入力部109への入力項目を減少させることができる。
【0077】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、系統安定化装置による同期安定性維持の電制機の組み合わせを選択する際に、電源脱落等が発生した条件における周波数応動を評価して、周波数安定性が維持できない場合には周波数安定性を維持できるように電制機の組み合わせを変更する。これにより、過渡安定度計算に必要な計算資源を削減することができる。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1、1A…系統安定化装置、2…電力系統、3…伝送系、4…制御端末装置、21…同期機、22…再エネ電源、23…負荷、24…系統状態情報収集装置、25…遮断器、101…記憶部、102…データ管理部、103…系統データ作成部、104…基本電制機選択部、105…周波数モデル作成部、106…周波数安定性判別部、107…電制機対象変更部、108…制御信号送信部、109…入力部
図1
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図12