(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023256
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】編地の編成方法、及び編地
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20230209BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128577
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】上道 和也
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AC05
4L002BA00
4L002DA01
4L002EA00
4L002FA02
(57)【要約】
【課題】伏目処理よりも簡易に第一編地部と第二編地部とをつなぐことができる編地の編成方法を提供する。
【解決手段】第一針床に係止される第一編地部の第一編目列と、第二針床に係止される第二編地部の第二編目列とをつなぐ編地の編成方法である。前記第一編目列を構成する複数の編目をn個のグループに分けると共に、前記第二編目列を構成する複数の編目をm個のグループに分ける工程Aと、選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを含む。前記工程Bでは、前記n個のグループから一つのグループXを選択すると共に、前記m個のグループから一つのグループYを選択し、熱融着糸を用いて、前記グループXの各編目のウエール方向に続く編目と、前記グループYの各編目のウエール方向に続く編目とを編成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一針床及び第二針床を備える横編機を用いて、
前記第一針床に係止される第一編地部の第一編目列と、前記第二針床に係止される第二編地部の第二編目列とをつなぐ編地の編成方法において、
前記第一編目列を構成する複数の編目をn個のグループに分けると共に、前記第二編目列を構成する複数の編目をm個のグループに分ける工程Aと、
工程B1と工程B2とを選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを含み、
前記工程B1では、前記n個のグループから一つのグループXを選択すると共に、前記m個のグループから一つのグループYを選択し、
前記工程B2では、熱融着糸を用いて、前記グループXの各編目のウエール方向に続く編目と、前記グループYの各編目のウエール方向に続く編目とを編成し、
前記工程Aにおけるグループ数m及びnは、同数でかつ2以上6以下である、編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程B2において編成する編目は全て裏目である請求項1に記載の、編地の編成方法。
【請求項3】
前記n個のグループのそれぞれは、n-1置きの編目からなり、
前記m個のグループのそれぞれは、m-1置きの編目からなる請求項1又は請求項2に記載の、編地の編成方法。
【請求項4】
前記工程Aの前に、前記熱融着糸を用いて、前記第一編目列のウエール方向に続く新たな第一編目列、及び前記第二編目列のウエール方向に続く新たな第二編目列の少なくとも一方を編成する工程Xを備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の、編地の編成方法。
【請求項5】
第一編地部と第二編地部の終端部同士を接合する接合部を有する編地において、
前記接合部は、前記第一編地部と前記第二編地部とは異なる複数の接合編目列によって構成され、
各接合編目列は、前記第一編地部の終端部の一部と、前記第二編地部の終端部の一部とに形成される編目からなり、
各接合編目列を構成する編糸は熱融着糸であり、
各接合編目列における渡り糸と、他の接合編目列における渡り糸とが交差状態に融着され、
各接合編目列における編目と、他の接合編目列における編目との少なくとも一部が接触状態に融着されており、
前記渡り糸は前記第一編地部と前記第二編地部とにまたがっている、編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一編地部のウエール方向の端部と第二編地部のウエール方向の端部とをつなぐ編地の編成方法、及び第一編地部と第二編地部の終端部同士を接合した編地に関する。
【背景技術】
【0002】
第一針床と第二針床とを備える横編機を用いて、第一針床に係止される第一編地部のウエール方向の端部と、第二針床に係止される第二編地部のウエール方向の端部とを接合することが行われている。例えば特許文献1には、伏目処理によって第一編地部と第二編地部とを接合する編地の編成方法が開示されている。伏目処理とは、隣接する二つの編目を重ねた重ね目を形成し、その重ね目に新たな編目を編成することを繰り返す処理である。伏目処理によって接合された接合部では編目のほつれが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伏目処理によって形成された接合部は、見栄えと伸縮性に優れる。しかし、1目ずつ編目を処理しなければならず、接合部を形成するための工程数が非常に多い。特に接合する長さが長くなると、接合部を形成するための時間が非常に長くなる。
【0005】
本発明の目的の一つは、伏目処理よりも簡易に第一編地部と第二編地部とをつなぐことができる編地の編成方法を提供することにある。本発明の目的の一つは、接合部を有しながらも生産性良く製造された編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の編地の編成方法は、
第一針床及び第二針床を備える横編機を用いて、
前記第一針床に係止される第一編地部の第一編目列と、前記第二針床に係止される第二編地部の第二編目列とをつなぐ編地の編成方法において、
前記第一編目列を構成する複数の編目をn個のグループに分けると共に、前記第二編目列を構成する複数の編目をm個のグループに分ける工程Aと、
工程B1と工程B2とを選択可能なグループがなくなるまで繰り返す工程Bとを含み、
前記工程B1では、前記n個のグループから一つのグループXを選択すると共に、前記m個のグループから一つのグループYを選択し、
前記工程B2では、熱融着糸を用いて、前記グループXの各編目のウエール方向に続く編目と、前記グループYの各編目のウエール方向に続く編目とを編成し、
前記工程Aにおけるグループ数m及びnは、同数でかつ2以上6以下である。
【0007】
上記編地の編成方法において、グループの数と、工程B1及び工程B2の繰り返し数は一致する。例えば、第一編目列と第二編目列とをそれぞれ3つのグループに分けた場合、1回目の工程B1では、第一編目列の3つのグループのうちの一つと、第二編目列の3つのグループのうちの一つを選択し、1回目の工程B2を行う。2回目の工程B1では、1回目の工程B1で選択されなかったグループからグループX及びグループYを選択し、2回目の工程B2を行う。そして、3回目の工程B1では、第一編目列の残りの一つのグループと、第二編目列の残りの一つのグループを選択し、3回目の工程B2を行う。
【0008】
第一編目列の構成する各グループの編目数、及び第二編目列を構成する編目数は同じでも良いし、異なっていても良い。例えば、12目の編目からなる第一編目列を2つのグループに分ける場合、第一グループの編目数が6目で、第二グループの編目数も6目であっても良いし、第一グループの編目数が4目で、第二グループの編目数が8目であっても良い。グループXの編目数とグループYの編目数も、同じでも良いし、異なっていても良い。
【0009】
工程Aでは、各グループの編目の配置範囲が、編幅方向に他のグループの編目の配置範囲に重複するようにグループ分けを行うことが好ましい。その結果、第一編目列及び第二編目列における各グループは、各グループにおける編幅方向に並ぶ2つの編目の間に、他のグループの編目が挟まれる箇所を有する。例えば、第一編目列が第一グループと第二グループに分けられる場合、下記例1に示されるように、第一グループの編目と第二グループの編目が編幅方向に交互に並んでいる形態が挙げられる。下記例2に示されるように、第一グループは、第一グループを構成する編目同士が隣り合う部分を含んでいても良いし、第二グループは、第二グループを構成する編目同士が隣り合う部分を含んでいても良い。下記例3に示されるように、第一グループの編目と第二グループの編目が不規則に並んでいても良い。なお、下記例1から例3における『○』は第一グループの編目、『×』は第二グループの編目である。
・例1…○×○×○×○×○×○×
・例2…○○××○○××○○××
・例3…○×○○××○○×○××
【0010】
<2>本発明の編地の編成方法の一形態として、
前記工程B2において編成する編目は全て裏目である形態が挙げられる。
【0011】
裏目は、編地部が係止される針床に対向する針床において編成される編目のことである。例えば、第一針床に係止される第一編地部の編目Aに続けて裏目を編成する場合、編目Aを第二針床に移動させた後、編目Aに連続する編目Bを編成する。この編目Bは裏目となる。
【0012】
<3>本発明の編地の編成方法の一形態として、
前記n個のグループのそれぞれは、n-1置きの編目からなり、
前記m個のグループのそれぞれは、m-1置きの編目からなる形態が挙げられる。
【0013】
上記形態<3>の具体例として、12目の編目からなる第一編目列の編目を3つのグループに分ける場合を説明する。この場合、第一グループは、第一編目列の編幅方向の一方の端部から数えて、1番目、4番目、7番目、10番目の編目によって構成される。第二グループは、2番目、5番目、8番目、11番目の編目によって構成される。第三グループは、3番目、6番目、9番目、12番目の編目によって構成される。この場合、工程B2では、グループXの各編目のウエール方向に続く編目と、グループYの各編目のウエール方向に続く編目とが交互に編成される。
【0014】
<4>本発明の編地の編成方法の一形態として、
前記工程Aの前に、前記熱融着糸を用いて、前記第一編目列のウエール方向に続く新たな第一編目列、及び前記第二編目列のウエール方向に続く新たな第二編目列の少なくとも一方を編成する工程Xを備える形態が挙げられる。
【0015】
<5>本発明の編地は、
第一編地部と第二編地部の終端部同士を接合する接合部を有する編地において、
前記接合部は、前記第一編地部と前記第二編地部とは異なる複数の接合編目列によって構成され、
各接合編目列は、前記第一編地部の終端部の一部と、前記第二編地部の終端部の一部とに形成される編目からなり、
各接合編目列を構成する編糸は熱融着糸であり、
各接合編目列における渡り糸と、他の接合編目列における渡り糸とが交差状態に融着され、
各接合編目列における編目と、他の接合編目列における編目との少なくとも一部が接触状態に融着されており、
前記渡り糸は前記第一編地部と前記第二編地部とにまたがっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の編地の編成方法によれば、伏目処理に比べて劇的に少ない工程数で第一編地部と第二編地部とをつなぐことができる。具体的には、グループの数と同じ数だけ工程B1と工程B2とを繰り返すだけで第一編地部と第二編地部とをつなぐことができる。
【0017】
本発明の編地の編成方法を実施することで、第一編地部と第二編地部との終端部同士が、熱融着糸によって構成される複数の接合編目列によってつながる。アイロンがけなどの熱処理によって熱融着糸の一部を溶かすことで、熱融着糸が接触する箇所が融着する。熱融着糸が接触する箇所とは、熱融着糸同士が接触する箇所、及び熱融着糸と非熱融着糸とが接触する箇所である。熱融着糸同士が接触する箇所としては、渡り糸同士が交差する箇所、及び隣接する編目同士が重なる箇所などが挙げられる。この融着によって、第一編地部と第二編地部とをしっかりと接合する接合部を備える本発明の編地が得られる。
【0018】
上記<2>に係る編地の編成方法によれば、第一編地部と第二編地部とを平面的につなぐことができる。この点については実施形態において詳述する。
【0019】
上記<3>に係る編地の編成方法によれば、第一編地部と第二編地部とをつなぐ熱融着糸からなる編目が規則正しく配列される。その結果、第一編地部と第二編地部との接合部がきれいに仕上がる。
【0020】
上記<4>に係る編地の編成方法によれば、熱融着糸同士が接触する接触点が増加する。その結果、接合部の強度が向上する。
【0021】
本発明の編地は、接合部を有しながらも生産性に優れる。なぜなら、接合部を構成する複数の接合編目列が、本発明の編地の編成方法によってきわめて短時間で編成されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る編地であるスカートの概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る編地の編成方法の第一編成工程図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る編地の接合部の近傍における編目の状態を示すループ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係る編地の編成方法、及び編地を図面に基づいて説明する。
【0024】
<実施形態1>
図1に示される編地9は、横編機上において横向きに編成されるロングスカートである。この編地9は、紙面左側の側端に形成される編出し部9Sと、紙面右側の側端に形成される編終り部9Eとを備える。このスカートを編成するには、まずスカートの側端となる編出し部9Sを編成する。次いで、編出し部9Sから分岐する第一編地部5と第二編地部6とを編成する。最後に、第一編地部5と第二編地部6とをつなぐことで編終り部9Eを形成する。この編終り部9Eの形成に本発明の編地の編成方法を適用する。
【0025】
図2,3は、上記編終り部9Eを形成するための具体的な編成工程を示す編成工程図である。本例において使用される横編機は4枚ベッド横編機である。4枚ベッド横編機は、下部前針床と下部後針床と上部前針床と上部後針床とを備える。以下、下部前針床、下部後針床、上部前針床、及び上部後針床をそれぞれ、FD、BD、FU、及びBUと表記する。FDとBDは互いに対向している。FDの上部に配置されるFUと、BDの上部に配置されるBUとは互いに対向している。本例においては、FD及びFUが第二針床、BD及びBUが第一針床である。
【0026】
図2,3の左欄の『S+数字』は編成工程の番号を示す。右欄には各編成工程における編目の編成状態が示されている。右欄における黒点は編針を、逆三角マークは、横編機に備わるヤーンフィーダー8を示している。ヤーンフィーダー8からは熱融着糸8Yが給糸される。直線矢印は目移しを示している。各編成工程において新たに編成された編目は太線で示されている。
【0027】
図2のS0には、BDに第一編目列1が係止され、FDに第二編目列2が係止された状態が示されている。第一編目列1は、第一編地部5(
図1)のウエール方向の端部を構成する。第二編目列2は、第二編地部6(
図1)のウエール方向の端部を構成する。第一編目列1と第二編目列2とは、図示しない二つのヤーンフィーダーによって個別に編成される。ここで、本例の編地9は総針編成によって編成される。総針編成とは、隣接する編目の間に空針が無い状態で編成を行うことを意味する。
【0028】
S1では、ヤーンフィーダー8から給糸される熱融着糸8Yを用いて、第一編目列1のウエール方向に続く新たな第一編目列10と、第二編目列2のウエール方向に続く新たな第二編目列20とを編成する(工程X)。より具体的には、ヤーンフィーダー8を右方向に移動させ、新たな第一編目列10を編成した後、ヤーンフィーダー8を左方向に移動させ、新たな第二編目列20を編成する。本例では、第一編目列1と第二編目列2とが筒状につながっている。ヤーンフィーダー8は、編目列1,2を編成したヤーンフィーダーとは異なるヤーンフィーダーである。ヤーンフィーダー8から給糸される熱融着糸8Yとしては、例えば芯部と鞘部とを備える熱融着糸8Yが挙げられる。芯部は、熱によって収縮する材料からなる編糸である。鞘部は、芯部の外周を覆う鞘状であって、芯部の融点よりも低い融点の材料からなる。その他、熱融着糸8Yは、一様な材料によって構成されたものであっても良い。熱融着糸8Yの材料は、熱処理された後であっても伸縮性を確保できる材料であることが好ましい。
【0029】
上記S1は、接合部の強度を向上させる工程であるが、必須の工程では無い。S1を行うことなく、S2から編成を開始しても良い。
【0030】
S1では、第一編目列10と第二編目列20とをそれぞれ、2つのグループに分ける(工程A)。このグループ分けは概念的なもので、横編機のコンピューター内で行われる。本例では、第一編目列10のうち、紙面左側から奇数番目の編目を第一グループ11,偶数番目の編目を第二グループ12とする。同様に、第二編目列20のうち、紙面左側から奇数番目の編目を第一グループ21、偶数番目の編目を第二グループ22とする。
【0031】
S2では、第一編目列10の第一グループ11の編目をBDからFUに移動させる。S3では、第二編目列20の第二グループ22の編目をFDからBUに移動させる。このS2及びS3は、次のS4において編成される第一接合編目列3を構成する編目を裏目にするための準備工程である。第一接合編目列3を構成する編目を表目とする場合、S2及びS3を実施する必要はない。
【0032】
S4では、第一グループ11と第二グループ12から任意のグループXを選択すると共に、第一グループ21と第二グループ22から任意のグループYを選択する(1回目の工程B1)。グループXとグループYを選択する際、グループXの編目と、グループYの編目とが編幅方向にずれていることが好ましい。本例では、グループXとして第一グループ11を、グループYとして第二グループ22を選択する。
【0033】
S4では更に、熱融着糸8Yを用いて、グループXの編目とグループYの編目とに交互に編目を編成する(1回目の工程B2)。本例では、ヤーンフィーダー8を右方向に移動させ、第一グループ11の編目と第二グループ22の編目とに交互に編目を編成する。このS4において編成された複数の編目は編幅方向につながっている。この複数の編目は、第一編地部5と第二編地部6とをつなぐ第一接合編目列3を構成する。さらに熱融着糸8Yを用いて、第一接合編目列3のウエール方向に続けて新たな第一接合編目列3を編成しても良い。その他、熱融着糸8Yを用いて、第一接合編目列3のウエール方向に続けて筒状編目列を編成しても良い。新たな第一接合編目列3や筒状編目列を編成することで、後述する接合部7の強度を向上させることができる。この場合、熱融着糸8Yとして細い熱融着糸8Yを利用すれば、接合部7の強度を確保しつつ、接合部7が厚くなることを抑制できる。
【0034】
S5では、第一接合編目列3を構成する編目のうち、FUに係止される編目をBDに移動させる。
図3のS6では、第一接合編目列3の残りの編目をBUからFDに移動させる。
【0035】
S7では、第二編目列20(
図2のS1参照)の第一グループ21の編目をFDからBUに移動させる。S8では、第一編目列10(
図2のS1参照)の第二グループ12の編目をBDからFUに移動させる。このS7及びS8は、次のS9において編成される第二接合編目列4を構成する編目を裏目にするための準備工程であって、必須の構成ではない。
【0036】
S9では、S4において選択されたグループ以外からグループX及びグループYを選択する(2回目の工程B1)。本例では、第一編地部5の第二グループ12と、第二編地部6の第一グループ21とを選択する。
【0037】
S9では更に、熱融着糸8Yを用いて、グループXの編目とグループYの編目とに交互に編目を編成する(2回目の工程B2)。本例では、ヤーンフィーダー8を左方向に移動させ、第二グループ12の編目と第一グループ21の編目とに交互に編目を編成する。このS9において編成された複数の編目は、第一編地部5と第二編地部6とをつなぐ第二接合編目列4を構成する。S4と同様に、さらに熱融着糸8Yを用いて新たな第二接合編目列4や筒状編目列を編成しても良い。
【0038】
S10では、第二接合編目列4を構成する編目のうち、BUに係止される編目をFDに移動させる。S11では、第二接合編目列4の残りの編目をFUからBDに移動させる。以上の工程によって、第一編地部5と第二編地部6とが、第一接合編目列3及び第二接合編目列4とによってつながった状態になる。第一接合編目列3及び第二接合編目列4とで接合部7が形成される。S11に示されるように、第一接合編目列3の第一渡り糸30と、第二接合編目列4の第二渡り糸40とが、FDとBDとの間の位置で交差している。渡り糸30,40は、接合編目列3,4のうち、FDとBDとにまたがる部分である。
【0039】
S11以降は、例えば抜き糸を用いた袋編みなどを実施することで、両接合編目列3,4の編目の形状を維持させた状態で編地9を針床から外す。抜き糸は、後で外される編糸であって、非熱融着糸によって構成される。
【0040】
本例の編地の編成方法によれば、
図1に示す編地9の編終り部9Eの編幅方向の長さがどれほど長くなろうとも編成工程数が増加することはない。一方、従来の編地の編成方法のように伏目処理によって編終り部9Eを形成する場合、編終り部9Eの長さが長くなるほど編成工程数は増加する。編終り部9Eの長さによっては、本例の編地の編成方法と従来の編地の編成方法とで、編地9の編成開始から編成終了までの時間に倍以上の差ができ得る。
【0041】
本例の編地の編成方法によって編成された編地9における接合部7近傍の編目の状態を
図4のループ図に基づいて説明する。
図4では、熱融着糸8Y(
図2,3参照)によって編成された部分を太線によって示す。
図4に示されるように、紙面上側に配置される第一編地部5と、紙面下側に配置される第二編地部6とが接合部7によってつながっている。本例では、熱融着糸8Yによって編成された新たな第一編目列10と新たな第二編目列20とをそれぞれ、第一編地部5と第二編地部6の一部とみなす。第一編地部5の編目の向きと、第二編地部6の編目の向きとは互いに逆向きとなっている。接合部7には、伏目処理における接合部のように、重ね目や、重ね目のウエール方向に連続する編目が存在しない。
【0042】
本例の接合部7は、第一接合編目列3と第二接合編目列4とで構成されている。第一接合編目列3と第二接合編目列4とはそれぞれ、第一編地部5の編目と第二編地部6の編目とに交互に形成されている。従って、第一接合編目列3は複数の第一渡り糸30を含む。第一渡り糸30は、第一接合編目列3のうち、第一編地部5と第二編地部6とにまたがる部分を指す。同様に、第二接合編目列4は複数の第二渡り糸40を含む。第二渡り糸40は、第二接合編目列4のうち、第一編地部5と第二編地部6とにまたがる部分を指す。第一渡り糸30と第二渡り糸40とは、両接合編目列3,4の境界の位置で交差している。
図4では説明の便宜上、接合編目列3,4における編幅方向に隣接する二つの編目同士が互いに離れた状態で示されている。また、突き合わされた第一接合編目列3の編目と第二接合編目列4の編目とが互いに離れた状態で示されている。編目とその編目に隣接する渡り糸30,40とが互いに離れた状態で示されている。実際の編地9では、接合編目列3,4の各編目が収縮するので、隣接する二つの編目からなる組のうち、少なくとも一部の組、場合によっては全ての組において二つの編目同士が接触している。また、編目と渡り糸30,40からなる組のうち、少なくとも一部の組、場合によっては全ての組において編目と渡り糸30,40とが接触している。
【0043】
本例の編地9は、アイロンなどによってきれいにセットされる。アイロンの熱によって熱融着糸8Yの一部が溶けて、接合部7の編目同士、及び編目と渡り糸30,40が融着する。その結果、接合部7を構成する熱融着糸8Yが動き難くなり、接合部7を構成する編目のほつれが抑制される。ここで、抜き糸は、熱処理前に取り除かれても良いし、熱処理後に取り除かれても良い。水に溶ける抜き糸であれば、編地9を出荷する前の洗濯時に抜き糸は溶解して編地9から取り除かれる。
【0044】
接合部7における代表的な融着点を白抜き矢印によって示す。第一編目列10と第二編目列20と第一接合編目列3と第二接合編目列4は熱融着糸8Yによって構成されている。そのため、第一編目列10の編目と第一接合編目列3の編目との接触部が融着し、第一編目列10の編目と第二接合編目列4の編目との接触部が融着している。同様に、第二編目列20の編目と第一接合編目列3の編目との接触部が融着し、第二編目列20の編目と第二接合編目列4の編目との接触部が融着している。
【0045】
第一渡り糸30と第二渡り糸40とが交差している箇所では、第一渡り糸30と第二渡り糸40とが接触している。従って、交差箇所において第一渡り糸30と第二渡り糸40とが融着している。第一渡り糸30と第二渡り糸40との交差は、実際の編地9を引っ張ったときに容易に確認できる。また、両渡り糸30,40の収縮によって、突き合わされた状態になっている第一接合編目列3の編目と第二接合編目列4の編目とが接触している。従って、これらの編目も融着している。また、編地9の収縮によって第一接合編目列3の編目と第一渡り糸30又は第二渡り糸40とが接触する箇所、及び第二接合編目列4の編目と第一渡り糸30又は第二渡り糸40とが接触する箇所も融着している。編目と渡り糸30,40とが融着すると、編目と渡り糸30,40とで挟まれる編目列10,20の編目が動き難くなる。更に、編地9の収縮によって編幅方向に隣接する編目同士も融着している場合がある。接触している編目の全てが必ずしも融着されていなくても良い。熱融着糸8Yの伸縮性が高ければ、隣接する編目同士の接触箇所が増加し、接合部7の強度が増す。
【0046】
本例では、接合編目列3,4を構成する全ての編目が、紙面手前側から奥側に向かって旧編目から引き出される裏目となっている。編目は通常、旧編目から引き出される方向にカールする傾向にある。例えば、第一編目列1の編目から紙面手前側に引き出される新たな第一編目列10の表目は、紙面手前側にカールし易い。仮に、接合編目列3,4を構成する全ての編目が表目であれば、第一接合編目列3の編目と、第二接合編目列4の編目とが紙面手前側にカールした状態で融着される。この場合、接合部7の感触や見栄えが損なわるおそれがある。一方、本例のように、接合編目列3,4を構成する全ての編目が裏目であれば、それらの裏目が第一編地部5と第二編地部6とが紙面手前側にカールすることを抑制する。その結果、第一編地部5と第二編地部6とが平面的につながれ、接合部7の感触や見栄えが損なわれ難い。ここで、接合編目列3,4を構成する全ての編目が裏目でなくても良い。例えば、第一接合編目列3を構成する全ての編目、及び第二接合編目列4を構成する全ての編目のそれぞれ50%以上の編目が裏目であれば、第一編地部5と第二編地部6とが平面的につながれる。裏目の比率は高いほど好ましい。裏目の比率は、例えば70%以上、更には90%以上である。
【0047】
上述した融着状態を備える接合部7は所定の伸縮性を備える。なぜなら、接合部7において第一編地部5と第二編地部6との間にまたがる第一渡り糸30と第二渡り糸40が、編地9の編幅方向の動きを許容するからである。熱融着糸8Yの伸縮性が高ければ、接合部9の伸縮性がより向上する。
【0048】
<その他の実施形態>
本発明の編地の編成方法に使用される横編機は2枚ベッド横編機でも良い。その場合、第一編目列1及び第二編目列2は針抜き状態とすることが好ましい。針抜き状態とは、隣接する二つの編目の間に空針が配置された状態のことである。
【0049】
第一編目列10と第二編目列20のグループ数は3以上であっても良い。グループ数が多くなるほど、接合部7における熱融着糸8Yの接触点が増加するので、接合部7の強度が増す。一方で、グループ数が多くなると、接合部7が厚くなり過ぎたり、接合部7の伸縮性が損なわれたりするおそれがある。従って、グループ数は6を上限とする。
【0050】
本発明の編地の編成方法は、ニットウェアの肩ラインにおいて、前身頃と後身頃とを接合することに利用することもできる。また、本発明の編地の編成方法は、筒状編地の終端部のほつれ止めに利用することもできる。例えば、衿の終端部のほつれ止めを行う例を簡単に説明する。衿を編成する途中に、衿のウエール方向の途中から分岐する分岐編地部を編成する。分岐編地部は1コース分あれば良い。次いで衿を最後まで編成する。この場合、衿と分岐編地部の一方を第一編地部、他方を第二編地部とみなし、本発明の編地の編成方法によって衿の終端部と分岐編地部とを熱融着糸によって接合する。アイロンなどによって熱融着糸を融着させることで、衿の終端部のほつれ止めが完了する。その他、主編地部の途中で分岐編地部を編成し、主編地部と分岐編地部とを本発明の編地の編成方法によって接合する場合、例えばパンツのベルト通しを容易に形成することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 第一編目列
10 新たな第一編目列、11 第一グループ、12 第二グループ
2 第二編目列
20 新たな第二編目列、21 第一グループ、22 第二グループ
3 第一接合編目列、30 第一渡り糸
4 第二接合編目列、40 第二渡り糸
5 第一編地部
6 第二編地部
7 接合部
8 ヤーンフィーダー、8Y 熱融着糸
9 編地、9E 編終り部、9S 編出し部