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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023285
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】潤滑油用添加剤及び潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/12 20060101AFI20230209BHJP
   C07F 9/40 20060101ALN20230209BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230209BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230209BHJP
【FI】
C10M137/12
C07F9/40 A
C10N30:06
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128640
(22)【出願日】2021-08-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「超低摩擦を発揮する潤滑油添加剤としてのイオン液体の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 将平
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【テーマコード(参考)】
4H050
4H104
【Fターム(参考)】
4H050AA03
4H050AB60
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH11C
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB12
4H104EB13
4H104EB16
4H104EB20
4H104LA03
4H104PA49
(57)【要約】
【課題】潤滑油の摩擦性能や摩耗性能を向上させ得る添加剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルアニオンを含む塩からなる潤滑油用添加剤。
(式中、Rfは、炭素数1~14のパーフルオロアルキル基である。R1は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルアニオンを含む塩からなる潤滑油用添加剤。
【化1】
(式中、Rfは、炭素数1~14のパーフルオロアルキル基である。R1は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基である。)
【請求項2】
Rfが、炭素数1~14の直鎖状パーフルオロアルキル基である請求項1記載の潤滑油用添加剤。
【請求項3】
Rfが、パーフルオロエチル基、パーフルオロ-n-ブチル基、パーフルオロ-n-ヘキシル基、パーフルオロ-n-オクチル基、パーフルオロ-n-デシル基、パーフルオロ-n-ドデシル又はパーフルオロ-n-テトラデシル基である請求項2記載の潤滑油用添加剤。
【請求項4】
1が、炭素数1~4のアルキル基である請求項1~3のいずれか1項記載の潤滑油用添加剤。
【請求項5】
前記塩が、カチオンとしてリン原子含有カチオンを含むものである請求項1~4のいずれか1項記載の潤滑油用添加剤。
【請求項6】
前記塩が、カチオンとして窒素原子含有カチオンを含むものである請求項1~4のいずれか1項記載の潤滑油用添加剤。
【請求項7】
前記塩が、イオン液体である請求項1~6のいずれか1項記載の潤滑油用添加剤。
【請求項8】
基油と、請求項1~7のいずれか1項記載の潤滑油用添加剤とを含む潤滑油組成物。
【請求項9】
更に、酸化防止剤、消泡剤、抗乳化剤、乳化剤、防腐剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤、分散剤、防錆剤、腐食防止剤、着色料及び香料から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項8記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油用添加剤及び潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油の性能を向上させるため、ハロゲン含有アニオンやアルキルスルホン酸アニオン等を含むイオン液体を添加剤として使用することが報告されている(特許文献1)。しかし、イオン液体は、基油への溶解性が不十分なものが多く、このような添加剤による摩擦性能や耐摩耗性の向上は不十分であり、より摩擦性能や耐摩耗性を向上させる添加剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012-518702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、潤滑油の摩擦性能や摩耗性能を向上させ得る添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のフッ素含有リン酸エステルアニオンを含むイオン液体が、基油への高い溶解性を示し、これを潤滑油用添加剤として使用することで、潤滑油の摩擦性能や耐摩耗性を向上させることができることを知見し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記潤滑油用添加剤及び潤滑油組成物を提供する。
1.下記式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルアニオンを含む塩からなる潤滑油用添加剤。
【化1】
(式中、Rfは、炭素数1~14のパーフルオロアルキル基である。R1は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基である。)
2.Rfが、炭素数1~14の直鎖状パーフルオロアルキル基である1の潤滑油用添加剤。
3.Rfが、パーフルオロエチル基、パーフルオロ-n-ブチル基、パーフルオロ-n-ヘキシル基、パーフルオロ-n-オクチル基、パーフルオロ-n-デシル基、パーフルオロ-n-ドデシル又はパーフルオロ-n-テトラデシル基である2の潤滑油用添加剤。
4.R1が、炭素数1~4のアルキル基である1~3のいずれかの潤滑油用添加剤。
5.前塩が、カチオンとしてリン原子含有カチオンを含むものである1~4のいずれかの潤滑油用添加剤。
6.前記塩が、カチオンとして窒素原子含有カチオンを含むものである1~4のいずれかの潤滑油用添加剤。
7.前記塩が、イオン液体である1~6のいずれかの潤滑油用添加剤。
8.基油と、1~7のいずれかの潤滑油用添加剤とを含む潤滑油組成物。
9.更に、酸化防止剤、消泡剤、抗乳化剤、乳化剤、防腐剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤、分散剤、防錆剤、腐食防止剤、着色料及び香料から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む8の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑油用添加剤を潤滑油に添加することで、摩擦係数を小さくすることができ、耐摩耗性を向上させることができる。よって、機械故障の抑制や長寿命化、信頼性の向上に資することができる。また、本発明の潤滑油用添加剤は、真空中でも使用できることから、航空宇宙産業向けの潤滑油用添加剤としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】合成例1で作製したEMEP・FHP-Eの1H-NMRスペクトルである。
図2】合成例1で作製したEMEP・FHP-Eの19F-NMRスペクトルである。
図3】合成例1で作製したEMEP・FHP-EのDSCチャートである。
図4】合成例2で作製したBDDP・FHP-Eの1H-NMRスペクトルである。
図5】合成例2で作製したBDDP・FHP-Eの19F-NMRスペクトルである。
図6】合成例2で作製したBDDP・FHP-EのDSCチャートである。
図7】合成例3で作製したBHDP・FHP-Eの1H-NMRスペクトルである。
図8】合成例3で作製したBHDP・FHP-Eの19F-NMRスペクトルである。
図9】合成例3で作製したBHDP・FHP-EのDSCチャートである
図10】実施例1及び比較例1で測定した各潤滑油組成物の摩擦係数を示すグラフである。
図11】実施例1及び比較例1で測定した各潤滑油組成物の摩耗面積を示すグラフである。
図12】実施例1及び比較例1で観察した摩耗痕像である。
図13】実施例2及び比較例2で測定した各潤滑油組成物の摩擦係数を示すグラフである。
図14】実施例2及び比較例2で測定した各潤滑油組成物の摩耗面積を示すグラフである。
図15】実施例2及び比較例2で観察した摩耗痕像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[潤滑油用添加剤]
本発明の潤滑油用添加剤は、下記式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルアニオンを含む塩からなるものである。前記塩は、イオン液体であることが好ましい。なお、本発明においてイオン液体とは、イオンのみから構成される塩であって、融点が100℃以下のものをいうが、融点が50℃以下のものが好ましく、融点が25℃以下のものがより好ましい。
【化2】
【0010】
式(1)中、Rfは、炭素数1~14のパーフルオロアルキル基である。R1は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基である。
【0011】
Rfで表されるパーフルオロアルキル基は、炭素数1~14のアルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。前記炭素数1~14のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基等が挙げられる。
【0012】
Rfで表されるパーフルオロアルキル基として具体的には、前述した前記炭素数1~14のアルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであるが、これらのうち、直鎖状パーフルオロアルキル基が好ましく、パーフルオロエチル基、パーフルオロ-n-ブチル基、パーフルオロ-n-ヘキシル基、パーフルオロ-n-オクチル基、パーフルオロ-n-デシル基、パーフルオロ-n-ドデシル及びパーフルオロ-n-テトラデシル基がより好ましい。
【0013】
1で表される炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前述した炭素数1~14のアルキル基の具体例のうち、炭素数が1~8のものが挙げられる。これらのうち、R1で表されるアルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~4の直鎖状アルキル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0014】
また、R1で表される炭素数6~10の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、ナフチル基等が挙げられる。これらのうち、R1で表される芳香族炭化水素基としては、フェニル基を含む炭素数6~8の基が好ましい。
【0015】
前記塩に含まれるカチオンは、特に限定されず、1価でも多価でもよいが、1価又は2価のものが好ましく、1価のものがより好ましい。また、前記カチオンは、無機カチオンであっても、有機カチオンであってもよい。
【0016】
前記無機カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン等の金属イオンが挙げられる。
【0017】
前記有機カチオンとしては、リン原子含有カチオンや窒素原子含有カチオンが好ましく、具体的には、第4級ホスホニウムイオン、第4級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等が好ましい。
【0018】
前記リン原子含有カチオンとしては、例えば下記式(2)で表される第4級ホスホニウムイオンが好ましい。
【化3】
【0019】
式(2)中、R11は、炭素数1~20のアルキル基である。前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前述した炭素数1~14のアルキル基のほか、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等が挙げられる。
【0020】
式(2)中、R12は、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。kは、1又は2である。Rは、メチル基又はエチル基である。前記炭素数1~20のアルキル基としては、R11の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基及びエトキシエチル基が挙げられる。前記アルコキシアルキル基のうち、好ましくはメトキシメチル基又はメトキシエチル基である。
【0021】
式(2)で表される4級ホスホニウムイオンのうち、R12が-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基であるものはイオン液体を形成しやすい。R12がアルキル基の場合は、R11とR12とが異なる構造のものはイオン液体を形成しやすい。この場合、炭素数の差が1以上であることが好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。
【0022】
前記窒素原子含有カチオンとしては、例えば下記式(3)で表されるものが好ましい。
【化4】
【0023】
式(3)中、R21~R24は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~20のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、式(2)の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。R21~R24がすべてアルキル基の場合は、少なくとも1つがその他のものと異なる構造であるものはイオン液体を形成しやすい。この場合、炭素数の差が1以上あることが好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。
【0024】
また、R21~R24のいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、R21~R24のいずれか2つ及び残りの2つが、それぞれ互いに結合して窒素原子をスピロ原子とするスピロ環を形成してもよい。この場合、前記環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、アゼパン環、イミダゾリジン環、モルホリン環等が挙げられるが、ピロリジン環、モルホリン環が好ましく、ピロリジン環がより好ましい。また、前記スピロ環としては、1,1'-スピロビピロリジン環が特に好ましい。
【0025】
式(3)で表される窒素原子含有カチオンとして具体的には、下記式(3-1)又は(3-2)で表される第4級アンモニウムイオン、下記式(3-3)又は(3-4)で表されるピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【化5】
【0026】
式(3-1)~(3-4)中、R及びkは、前記と同じ。R201~R204は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。R205及びR206は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。ここで、R201~R206において、少なくとも1つがその他のものと異なる構造であるものはイオン液体を形成しやすい。この場合、炭素数の差が1以上あることが好ましい。また、R205及びR206は、互いに結合してこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよい。
【0027】
前記窒素原子含有カチオンとしては、例えば下記式(4)で表されるイミダゾリウムイオンも好ましい。
【化6】
【0028】
式(4)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~20のアルキル基及びアルコキシアルキル基としては、式(2)の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。この場合、R31とR32とが異なる基であるものは、イオン液体を形成しやすい。
【0029】
前記窒素原子含有カチオンとしては、例えば下記式(5)で表されるピリジニウムイオンも好ましい。
【化7】
【0030】
式(5)中、R41は、炭素数1~8のアルキル基又は-(CH2)k-ORで表されるアルコキシアルキル基である。R及びkは、前記と同じである。前記炭素数1~8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。前記アルコキシアルキル基としては、式(2)の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
[塩の製造方法]
前記塩は、例えば、下記スキームAに従って合成することができる。
【化8】
【0032】
式中、Yは、窒素原子又はリン原子である。Rf、R1及びR21~R24は、前記と同じであるが、R24は、炭素数1~4のアルキル基であることが前記反応においては好ましい。つまり、カチオンが式(3-2)又は(3-4)で表されるものである場合は、式(1'')で表される化合物として下記式(1''')で表されるものを使用し、式(3')で表される化合物として下記式(3-2')又は(3-4')で表されるものを使用すること好ましい。カチオンが式(4)で表されるイミダゾリウムイオン又は式(5)で表されるピリジニウムイオンである塩は、式(3')で表される化合物のかわりに、前記イミダゾリウムイオンを与え得る1-アルキルイミダゾール又はピリジンを用いて、スキームAと同様の方法で合成することができる。ここで、生成物が単一になり、精製が簡便になることから、式(1'')においてはR1とR24が、式(1''')においてはR1とR201が、同一のアルキル基であることが好ましい。なお、下記式(3-2')又は(3-4')で表される化合物は、従来公知の方法で合成することができる。
【化9】
(式中、Rf、R1、R201~R203、R及びkは、前記と同じ。)
【0033】
スキームAに示される反応において、式(1'')で表される化合物と式(3')で表される化合物との使用比率は、特に限定されず、コスト面を勘案し、1:1に近い比率で行うことが好ましいが、反応をより早く完結させ、残留原料をなくし、単離工程を簡略化するため、一方を過剰に用いて行ってもよい。その場合、除去しやすい成分を過剰に用いることが好ましい。
【0034】
スキームAに示される反応は、無溶媒で行うことが好ましいが、溶媒を使用してもよい。このとき使用可能な溶媒としては、反応の進行を妨げない溶媒であれば特に限定はなく、汎用の溶媒を適宜用いればよい。
【0035】
反応温度は、通常60~120℃程度であり、好ましくは80~100℃程度である。反応時間は、反応の進行具合に合わせ適宜定めればよく、特に限定されないが、通常数時間~十数時間で大部分は反応する。残留原料を残さない目的で、更に長時間反応させてもよい。
【0036】
出発原料である式(1'')で表される化合物は、従来公知の方法に従って合成することができ、又は市販品を使用することができる。
【0037】
前記塩は、式(1)で表されるフッ素含有リン酸エステルアニオンを含む任意の塩と、前述したカチオンを含む塩とを用いた、イオン交換樹脂を用いた中和法によっても製造することができる。例えば、カチオンが式(2)で表される4級ホスホニウムイオンである塩を合成する場合は、式(1')で表される塩と下記式(2')で表される塩とを用いて製造することができる。
【化10】
(式中、Rf、R1、R11、R12及びR21~R24は、前記と同じ。X-は、任意のアニオンである。)
【0038】
式(1')で表される塩は、前述した方法に従って合成できる。式(2')で表される塩は、従来公知の方法に従って合成することができ、又は市販品を使用することができる。
【0039】
この中和法の場合、まず式(1')で表される塩及び式(2')で表される塩を、それぞれ陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を用いて下記式で表されるフッ素含有リン酸エステル及び水酸化物に変換した後、両者を混合すればよい。
【化11】
(式中、Rf及びR1は、前記と同じ。)
【0040】
本発明においてこの中和法を適用する場合、式(2')で表される塩は、イオン交換するものならばその対イオンは特に限定されない。しかし、コスト面から、前記対イオンとしてハロゲン化物イオンが好ましく、コスト面から、塩化物イオン、臭化物イオンが特に好ましい。なお、例示した式(1')で表される塩はアンモニウム塩であり、式(2')で表される塩はホスホニウム塩であるが、カチオン種は限定されることはなく、任意のカチオンを有する塩を用いることができる。特に、式(2')で表される塩のかわりに合成したい塩のカチオンを有する塩を用いればよく、当然式(3)で表されるカチオンを有するアンモニウム塩、式(4)で表されるカチオンを有するイミダゾリウム塩、式(5)で表されるカチオンを有するピロリジニウム塩を用いることができる。
【0041】
前記中和反応におけるフッ素含有リン酸エステル及び水酸化物の使用比率は、特に限定されないが、モル比で、通常5:1~1:5程度とすることができる。コスト面を考慮すると、1:1に近い比率で行うことが好ましく、特に水層の中和点を反応終結点とするのが好ましい。反応終了後は、通常の後処理を行って目的物を得ることができる。
【0042】
前記塩のその他の製造方法として、例えば、式(1')で表される塩と、式(2')で表される塩とを用いて、イオン交換樹脂を用いてイオン交換する方法が挙げられる。
【0043】
イオン交換方法として具体的には、まず、式(1')で表される塩の水溶液を、陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通し、前記塩のカチオンを陽イオン交換樹脂に担持させ、水を通して洗浄する。次に、式(2')で表される塩を前記カラムに通し、溶出液を回収し、精製することで、目的の塩を製造することができる。ここで、前述したように、例示した式(1')で表される塩及び式(2')で表される塩のカチオン種は限定されることはなく、任意のカチオンを有する塩を用いることができる。特に、式(2')で表される塩のかわりに合成したい塩のカチオンを有する塩を用いればよい。
【0044】
前記陽イオン交換樹脂としては、一般的に使用されている陽イオン交換樹脂を用いることができるが、強酸性陽イオン交換樹脂を用いることが好ましい。これらは、市販品として入手可能である。
【0045】
また、前記塩は、前記の合成法以外でも成書(「イオン性液体-開発の最前線と未来-」、シーエムシー出版、2003年、「イオン液体II-驚異的な進歩と多彩な近未来-」、シーエムシー出版、2006年等)記載の一般的なイオン液体合成方法で合成することが可能である。例えば、式(2')で表される塩と式(1')で表される塩とを溶媒中で反応させて製造することもできる。この場合、溶媒は水、有機溶媒どちらでも構わない。生成物の単離精製のしやすさ等を勘案し、適宜選べばよい。
【0046】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、基油と、前記塩からなる潤滑油用添加剤とを含むものである。
【0047】
前記基油としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。前記基油としては、特に、鉱油、合成油及びこれらの混合物が好ましい。
【0048】
前記鉱油は、パラフィン系でもナフテン系でもよい。また、鉱油としては、アメリカ石油協会(API)グループI、II及びIIIのいずれに属するものでも使用することができるが、グループII又はIIIに属するものが好ましく、グループIIIに属するものがより好ましい。
【0049】
前記合成油としては、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素系合成油;セバシン酸ジオクチル(DOS)、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコールエステル等のエステル系合成油;ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等のエーテル系合成油;リン化合物;ケイ素化合物;ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0050】
前記基油の好ましい粘度指数は、基油の種類、用途により異なるため一概には規定できないが、例えば、APIグループI、IIに属するものであれば80~119であり、グループIIIに属するものであれば120以上であるが、これらに限定されない。また、前記基油の好ましい動粘度も、基油の種類、用途により異なるため一概には規定できないが、通常40℃において1.98~3,520mm2/sの範囲のものが好ましい。なお、粘度指数及び動粘度は、JIS K 2283に従って測定することができる。
【0051】
前記基油は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
本発明の潤滑油組成物は、前記塩からなる添加剤を含む。本発明の潤滑油組成物中、前記塩からなる添加剤の含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。前記塩からなる添加剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
前記潤滑油組成物は、前記塩以外の添加剤(以下、その他の添加剤ともいう。)を含んでもよい。その他の添加剤としては、潤滑油用添加剤として一般的に使用されている添加剤を使用することができ、例えば、酸化防止剤、消泡剤、抗乳化剤、乳化剤、防腐剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、清浄剤、分散剤、防錆剤、腐食防止剤、着色料、香料等が挙げられる。
【0054】
前記酸化防止剤としては、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、有機硫黄化合物、有機リン化合物、ジチオリン酸亜鉛、ヒンダードアミン等が挙げられる。酸化防止剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0055】
前記消泡剤としては、オルガノポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等)、ポリアクリレート誘導体等が挙げられる。消泡剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0056】
前記抗乳化剤としては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドのポリマー、エーテル系界面活性剤、エステル系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0057】
前記乳化剤としては、スルホネート等の金属塩、脂肪酸アミン塩等の界面活性剤等が挙げられる。乳化剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0058】
前記防腐剤としては、ホルムアルデヒド系放出剤、ピリジン系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。防腐剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0059】
前記粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、オレフィンコポリマー(エチレン-プロピレンコポリマー等)、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、ポリアルキルメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフトコポリマー、水素化ラジアルイソプレンポリマー等が挙げられる。粘度指数向上剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0060】
前記流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、アルキルナフタレン等のアルキル化芳香族化合物、フマル酸エステル-ビニルアセテートコポリマー、スチレン-無水マレイン酸エステルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。流動点降下剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0061】
前記油性剤としては、アルコール、長鎖脂肪酸、アルキルアミン、エステル化合物、アミド化合物等が挙げられる。油性剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0062】
前記摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、有機リン化合物等が挙げられる。摩耗防止剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0063】
前記極圧剤としては、有機硫黄化合物、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。極圧剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0064】
前記摩擦調整剤としては、オレイン酸等の長鎖脂肪酸のエステル(グリセロールモノオレート等)、長鎖アミド化合物、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン化合物等が挙げられる。摩擦調整剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0065】
前記清浄剤としては、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルフェネート、アルキルサリチレート等の中性、過塩基性金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)等が挙げられる。清浄剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0066】
前記分散剤としては、ポリブテニルコハク酸イミド等の親油性基と極性基とを有するコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン、ポリアミン等が挙げられる。分散剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0067】
前記防錆剤としては、スルホネート等の金属塩、多価アルコールのカルボン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、アルケニルコハク酸誘導体、カルボン酸塩、アミン化合物等が挙げられる。防錆剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0068】
前記腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられる。腐食防止剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0069】
前記着色料としては、油溶性着色剤等が挙げられる。着色剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0070】
前記香料としては、油溶性香料等が挙げられる。香料を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物中、0.1~10質量%が好ましい。
【0071】
その他の添加剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、その他の添加剤を複数含む場合、その合計は、潤滑油組成物中30質量%以下であることが好ましい。
【実施例0072】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0073】
[1]イオン液体の合成
[合成例1]EMEP・FHP-Eの合成
【化12】
【0074】
オートクレーブ反応容器に、特開2016-119801号公報の合成例1と同様の方法で合成したN-2-メトキシエチルピロリジン59.52質量部及びFHP-EE(ユニマテック(株)製)43.36質量部を入れ、密閉下、140℃、800rpmで16.5時間撹拌し、反応させた。反応後、反応液は2層に分離しており、上層は黄色に、下層は焦げ茶色に着色していた。洗浄液としてテトラヒドロフラン(関東化学(株)製)を用いて反応液をナスフラスコに移し、エバポレータでテトラヒドロフランを留去した。ヘキサン(関東化学(株)製)66質量部を加えて撹拌した後、静置し、2層分離した上層をデカンテーションで除去した。この操作を更に2回繰り返して下層を洗浄した。ヘキサンのかわりにテトラヒドロフラン:ヘキサン(1:3)の混合液66質量部を用いて、前記と同様の方法で下層を更に2回洗浄した。エバポレータで溶媒を留去した後、更に撹拌しながら真空ポンプ引きを行って、目的物であるEMEP・FHP-Eをオレンジ色透明液体(融点-5℃)として35.89質量部得た。EMEP・FHP-Eの1H-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図1に、19F-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図2に、DSCチャートを図3に示す。
【0075】
[合成例2]BDDP・FHP-Eの合成
【化13】
【0076】
ナスフラスコにEMEP・FHP-E9.2質量部を取り、イオン交換水50質量部を加えて撹拌し、均一な溶液にした後、トリブチルドデシルホスホニウムクロライド50質量%水溶液(日本化学工業(株)製)12.2質量部を加え、30分間撹拌した。撹拌終了後、白濁した反応液に酢酸エチル(関東化学(株)製)90質量部を加え、更に6時間撹拌した。反応液を分液ロートに移し、静置後2層分離した下層(水層)を除去し、上層(有機層)をナスフラスコに戻し、イオン交換水50質量部を加えた。この混合液にEMEP・FHP-E1.84質量部を加え、終夜撹拌した。反応液を分液ロートに移し、静置後2層分離した下層(水層)を除去し、上層にイオン交換水20質量部を加えて3回洗浄を行った。上層をエバポレータで濃縮した後、更に撹拌しながら真空ポンプ引きを行って、目的物であるBDDP・FHP-Eを薄黄色透明液体(融点-12℃)として11.74質量部得た。BDDP・FHP-Eの1H-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図4に、19F-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図5に、DSCチャートを図6に示す。
【0077】
[合成例3]BHDP・FHP-Eの合成
【化14】
【0078】
トリブチルドデシルホスホニウムクロライド50質量%水溶液をトリブチルヘキサデシルホスホニウムクロライド50質量%水溶液(日本化学工業(株)製)に代えた以外は、合成例2と同様の方法でBHDP・FHP-Eを薄黄色透明液体(融点-6℃)として収率88%で得た。BHDP・FHP-Eの1H-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図7に、19F-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図8に、DSCチャートを図9に示す。
【0079】
[2]摩擦試験-1
[実施例1、比較例1]
基油としてPAO4(Exxon Mobile社製)に、添加剤としてEMEP・FHP-E、BDDP・FHP-E又はBHDP・FHP-Eを濃度が1質量%になるように添加し、潤滑油組成物を調製した。
摩擦試験は、前記潤滑油組成物及びPAO4そのものを用い、試験機として高速高温往復動摩擦試験装置SRV4(Optimol社製)を用い、ASTM D 6425に従い、スチール球-スチール平板(鋼玉-鋼板)接触で、実施した。具体的には、試験片を試験機にセットした後、下記表1の条件に従って摩擦係数の経時変化を追跡した。前記摩擦係数の平均値をグラフ化したものを図10に示す。
また、試験前後の試験片の摩耗面積を、形状解析レーザー顕微鏡VK-X150((株)キーエンス製)によって測定した。結果を図11に示す。さらに、試験後の摩耗痕を、形状解析レーザー顕微鏡VK-X150((株)キーエンス製)を用いて観察した。摩耗痕像を図12に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[3]摩擦試験-2
[実施例2、比較例2]
基油としてYUBASE4(SKルブリカンツ社製)に、添加剤としてEMEP・FHP-E、BDDP・FHP-E又はBHDP・FHP-Eを濃度が1質量%になるように添加し、潤滑油組成物を調製した。
摩擦試験は、前記潤滑油組成物及びYUBASE4そのものを用い、試験機として高速高温往復動摩擦試験装置SRV4(Optimol社製)を用い、ASTM D 6425に従い、スチール球-スチール平板(鋼玉-鋼板)接触で実施した。具体的には、試験片を試験機にセットした後、表1の条件に従って摩擦係数の経時変化を追跡した。前記摩擦係数の平均値をグラフ化したものを図13に示す。
また、試験前後の試験片の摩耗面積を、形状解析レーザー顕微鏡VK-X150((株)キーエンス製)によって測定した。結果を図14に示す。さらに、試験後の摩耗痕を、形状解析レーザー顕微鏡VK-X150((株)キーエンス製)を用いて観察した。摩耗痕像を図15に示す。
【0082】
以上の結果より、本発明の添加剤を含む潤滑油組成物は、含まないものと比べて、摩擦係数が小さいことから摩擦性能に優れること、摩耗面積が小さく、摩擦痕の幅が細いことから耐摩耗性にも優れることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15