(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023295
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】回転貫入鋼管杭、該回転貫入鋼管杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/56 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
E02D5/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128674
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592198404
【氏名又は名称】千代田工営株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】河合 真利奈
(72)【発明者】
【氏名】篠原 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】深谷 利行
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041BA21
2D041CA01
2D041CA05
2D041DB02
2D041FA14
(57)【要約】
【課題】杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設される回転貫入鋼管杭であって、支持力を十分に発揮できると共にコスト低減ができる回転貫入鋼管杭、該回転貫入鋼管杭の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る回転貫入鋼管杭1は、杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設されるものであって、杭先端近傍に設けられた略らせん状の一巻きの最下段翼3と、最下段翼3の上方に複数段で、かつ翼径の1.25~7.5倍の範囲内の一定間隔で設けられた一巻きの上段翼5とを有し、最下段翼3の外径は、上段翼5の外径より大きく、かつ杭径の1.5~3倍に設定され、上段翼5の外径は、最下段翼3の外径より小さく、かつ杭径の1.6倍以下であり、そのピッチが最下段翼3のピッチと同一に設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設される回転貫入鋼管杭であって、
杭先端近傍に設けられた略らせん状の一巻きの最下段翼と、該最下段翼の上方に複数段で、かつ翼径の1.25~7.5倍の範囲内の一定間隔で設けられた一巻きの上段翼とを有し、
前記最下段翼の外径は、前記上段翼の外径より大きく、かつ杭径の1.5~3倍に設定され、
前記上段翼の外径は、前記最下段翼の外径より小さく、かつ杭径の1.6倍以下であり、そのピッチが前記最下段翼のピッチと同一に設定されていることを特徴とする回転貫入鋼管杭。
【請求項2】
請求項1に記載の回転貫入鋼管杭の施工方法であって、
1回転当たり貫入量が最下段翼のピッチと同じになるように、杭打機から杭に与える下方向押込み力を調整しながら回転貫入することを特徴とする回転貫入鋼管杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に回転して施工する鋼管杭に関し、特に杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設される回転貫入鋼管杭及び該回転貫入鋼管杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持層が地中深く(例えば深度30m以上)に存在し、かつ中間層(例えば、地中10~20mでN値が5~30程度)が存在する場合、杭の材料費や施工費を低減するために、杭体の外周面に作用する地盤からの摩擦抵抗力で支持する機構のいわゆる摩擦杭が用いられることが多い。
【0003】
このような摩擦杭は、杭1本当たりの支持力が小さいために、鋼管によって形成するとその材料強度を十分発揮させることができず、経済性でコンクリート杭に劣ることが多い。
そこで、鋼管の外周面に多数の翼をつけて、支持力(見かけの摩擦力)を増やして鋼材の材料強度を十分に発揮させるようにしているものがある。その代表的な既存技術として、特許文献1と特許文献2に開示がある。
【0004】
特許文献1に開示された鋼管杭は、杭外周面に少なくとも1周以上螺旋状に形成された螺旋羽根を、杭外周面に断続的に多数配置したものである。
また、特許文献2に開示された鋼管杭は、一巻きの螺旋状の羽根を、断続的に設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-136823号公報
【特許文献2】特開2003-074057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の鋼管杭は、各螺旋羽根が1周以上の螺旋状に形成されたものであるため、支持力は大きくなるが、翼の材料費と取り付け費が高くならざるを得ない。
他方、特許文献2の鋼管杭の螺旋状の羽根は、1周であるため、コスト面では特許文献1よりも低減できるが、滑りを発生しやすいという問題がある。このため、特許文献1と同様の態様で実用化されているものは、設けられる羽根の径(翼径)が鋼管径の2倍程度もあり、断続的であってもコストの高い杭になっている。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設される回転貫入鋼管杭であって、支持力を十分に発揮できると共にコスト低減ができる回転貫入鋼管杭、該回転貫入鋼管杭の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る回転貫入鋼管杭は、杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設されるものであって、
杭先端近傍に設けられた略らせん状の一巻きの最下段翼と、該最下段翼の上方に複数段で、かつ翼径の1.25~7.5倍の範囲内の一定間隔で設けられた一巻きの上段翼とを有し、
前記最下段翼の外径は、前記上段翼の外径より大きく、かつ杭径の1.5~3倍に設定され、
前記上段翼の外径は、前記最下段翼の外径より小さく、かつ杭径の1.6倍以下であり、そのピッチが前記最下段翼のピッチと同一に設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
(2)本発明に係る回転貫入鋼管杭の施工方法は、上記(1)に記載の回転貫入鋼管杭の施工方法であって、
1回転当たり貫入量が最下段翼のピッチと同じになるように、杭打機から杭に与える下方向押込み力を調整しながら回転貫入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転貫入鋼管杭は、杭先端に上段翼よりも径の大きい最下段翼を有することにより、中間層に止める杭であるにもかかわらず、大きな鉛直支持力を確保できる。
また、最下段翼の上方に翼径が杭径の1.6倍以下の複数の上段翼を、その径と取付間隔を考慮して配置したことにより、大きな摩擦抵抗力を確保できるとともに、取付コストを抑えられる。
さらに、最下段翼と上段翼のピッチを同じにしたことにより、上段翼周辺の地盤の軟化を抑えることができ、確実な摩擦抵抗力を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る回転貫入鋼管杭の説明図である。
【
図2】
図1に示した回転貫入鋼管杭の作用を説明する説明図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る回転貫入鋼管杭における上段翼の翼間隔と翼径との関係の決定するための実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態に係る回転貫入鋼管杭1は、杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設されるものであって、杭先端近傍に設けられた略らせん状の一巻きの最下段翼3と、最下段翼3の上方に複数段で設けられた上段翼5とを有している。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0013】
<用途>
本実施の形態の回転貫入鋼管杭1は、上述したように、杭先端を支持層に到達させることなく中間層に配置されるように打設される、いわゆる摩擦杭である。
このような摩擦杭は、支持層の深度が深く(例えば深度30m以上)、かつ中間層(例えば、地中10~20mでN値が5~30程度)が存在する地盤に施工される。
なお、杭先端を支持層まで打設して支持層で支持をする先端支持杭は、先端を通常N値が約30以上の地層に止めるのが一般的であり、本発明の回転貫入鋼管杭1とはその用途が異なっている。
【0014】
<最下段翼>
最下段翼3は、杭先端近傍に設けられた略らせん状の一巻きの翼である。
最下段翼3の外径は、上段翼の外径より大きく、かつ杭径の1.5~3倍に設定されている。
杭先端近傍とは、杭本体部である鋼管7の先端面または先端近傍の鋼管7の外周を含む。
略らせん状の翼とは、らせん状、または形状が疑似らせん状でらせん状翼と同様にねじ込み作用を有する翼をいう。例えば、2個の半割り円環状平板を直列に繋げて1個のらせんに近い形状に構成した翼などを含む。
【0015】
最下段翼3の外径を杭径の1.5~3倍にする理由は、以下の通りである。
発明者がこれまでに経験した回転貫入杭の施工実績から、杭径の1.5倍を下回るといわゆる滑り(1回転当たり貫入量が極端に小さくなる空転現象)が生じやすくなる。また、約3倍を超えると、回転貫入時のトルクが大きくなりすぎて、杭体の許容ねじりトルクやくい打ち機の回転能力を超える。また、3倍を超えると、トルク上昇への対応として、翼の板厚を厚くする必要があり、それにより、応力集中や溶接が困難となることも挙げられる。
【0016】
<上段翼5>
上段翼5は、最下段翼3の上方に複数段で設けられた略らせん状の一巻きの翼である。
複数段の上段翼5における翼間の間隔は、翼径の1.25~7.5倍の範囲内の一定間隔に設定されている。
上段翼5の外径は、最下段翼3の外径より小さく、かつ杭径の1.6倍以下であり、そのピッチが最下段翼3のピッチと同一に設定されている。
【0017】
上段翼5は、一巻きの翼を複数段で設けており、断続的な翼となっているが、このようにした理由は取付コストを考慮したためである。
すなわち、連続的に取り付けたほうが、施工時の貫入性能や供用時の支持力が大きくなるが、取り付け費用が数倍多くかかるため、取付コストを重視したものである。
【0018】
複数段の上段翼5における翼間の間隔を、翼径の1.25~7.5倍の範囲内の一定間隔に設定した理由を
図2に基づいて説明する。
本発明による鉛直支持力は、最下段翼3下面に作用する上向きの地盤反力(ここでは、便宜的に<先端支持力>と呼ぶ)と、複数の上段翼5による支持力(ここでは便宜的に<摩擦抵抗力>と呼ぶ)の二種の支持力が合成されたものなる。
【0019】
先端支持力の大きさは、地盤の強度(硬さ)に最下段翼3の面積を掛けた値にほぼ比例するため、地盤があまり硬くない地盤に適用する本件発明においては、翼面積は大きいほうがよい。このため、最下段翼3の外径は杭径の1.5倍以上としている。
また、摩擦抵抗力は、
図2に示す個々の上段翼5の支圧抵抗力の和と、上段翼5の外径を円周とする円筒体(点線で示す)における地盤のせん断抵抗力のうち、小さいほうの値が摩擦抵抗力になる。
【0020】
支圧抵抗力の和とせん断抵抗力とのうちどちらが大きくなるかは地盤の土質や硬さにより多少変わるが、発明者の検討によって、上段翼5の翼間隔を上段翼5の翼径で除した(翼間隔/翼径)値が1.25未満になると、上段翼5の支圧抵抗力の和よりも円筒体側面のせん断抵抗力が相当小さくなることがわかった。
したがって、翼間隔/翼径は1.25以上であることが好ましい。
一方、翼間隔/翼径が7.5を超えると、層厚が限られる中間層における翼の取付個数が少なくなるため、支圧抵抗力の和は円筒側面のせん断抵抗力よりも相当小さくなる。
このことから、翼間隔/翼径を1.25~7.5に設定することでバランスがよく、大きな摩擦抵抗力を発現することができる。
なお、翼間隔/翼径は1.25以上が好ましい点については、後述の実施例で実証している。
【0021】
また、上段翼5の外径が鋼管径の1.6倍以下に設定した理由は以下の通りである。
上段翼5の断面積は径の2乗に比例して増えるため、材料費も2乗に比例して増える。他方、上段翼5による支持力は径の二乗に比例しない。そのため、複数段に設置される上段翼5の径を大きくすることは不経済になる。これらを総合的に判断すると、上段翼5の外径は鋼管径の1.6倍以下が好ましい。
【0022】
上段翼5のピッチ(上段翼5が1周して進むらせん直角方向の距離)が、最下段翼3のピッチ(最下段翼3が1周して進むらせん直角方向の距離)と同一に設定されている理由は以下の通りである。
回転貫入鋼管杭1は回転貫入時に、その1回転当たりの貫入量は、外径が大きな最下段翼3のピッチに近い値で貫入しようとする。このとき、上段翼5のピッチが最下段翼3と異なると、回転貫入鋼管杭1の回転に要するトルクをより大きくする必要がある。また、上段翼5周辺の地盤をより多く乱すため、上段翼5周辺の支持力が減少する。換言すると、上段翼5のピッチが最下段翼3と同じであれば、回転貫入鋼管杭1の回転に要するトルクが小さくなり、また、上段翼5周辺の地盤を乱すことが少なくなり、上段翼5周辺の支持力が減少する。
【0023】
以上のように構成された本実施の形態の回転貫入鋼管杭1によれば、以下の効果を奏することができる。
杭先端に径の大きい最下段翼3を配置したことにより、中間層に止める杭であるにもかかわらず、大きな鉛直支持力を確保できる。
また、最下段翼3の上方に翼径が杭径の1.6倍以下の複数の上段翼5を、その径と取付間隔を考慮して配置したことにより、大きな摩擦抵抗力を確保できるとともに、取付コストを抑えられる。
さらに、最下段翼3と上段翼5のピッチを同じにしたことにより、上段翼5周辺の地盤の軟化を抑えることができ、確実な摩擦抵抗力を確保できる。
【0024】
なお、本実施の形態に係る回転貫入鋼管杭の施工方法は、1回転当たり貫入量が最下段翼3のピッチと同じになるように、杭打機から杭に与える下方向押込み力を調整しながら回転貫入することが好ましい。この理由は以下の通りである。
【0025】
回転貫入鋼管杭1は硬い地盤の上端や土質の変化部で滑りを発生しやすい。本実施の形態の回転貫入鋼管杭1は、先端に大きな径を持つ最下段翼3を有しているため、滑りを発生しにくくしているが、それでも施工条件によっては滑り発生が避けられない。
また、本実施の形態の回転貫入鋼管杭1は、上段翼5を多数有するため、滑りが発生すると翼周辺の地盤をこね返して軟化させ、その結果摩擦抵抗力が大幅に減少して、上段翼5を取り付けている意味がなくなる。
この点、回転貫入鋼管杭1の1回転当たり貫入量が最下段翼3のピッチと同じである場合、最下段翼3が地盤を切るように入るため、地盤の乱れが最小になる。
そこで、杭打機から回転貫入鋼管杭1に伝える下方向押込み力を調整することで、1回転当たり貫入量を翼のピッチに合わせるように貫入をコントロールするとよい。
【実施例0026】
上段翼5の径と取付間隔の最適範囲を求めるために、実物と同じ比率の縮小モデルを用いた土層実験を行った。縮小モデルとして用いた試験体の杭の鋼管径は76.3mm、鋼管板厚は2.8mm、土層のN値=20として表1に示す条件で試験結果を比較した。
【0027】
【0028】
試験結果を
図3に示す。
図3の横軸は上段翼5の翼間隔を上段翼5の翼径で除した(翼間隔/翼径)値であり、縦軸は翼部の周面摩擦力係数(kN/m
2)である。
一般に翼の付いていない鋼管杭の周面摩擦力係数は、鋼管径に関わらず2(kN/m
2)が用いられることがあり、これとの比較をすることから、多段翼が付いているものにおいても周面摩擦力係数に相当するものを算出して比較することとした。具体的には、縮小モデルに荷重を負荷して支持力を計測し、その支持力を、翼径を直径とし杭長と同じ長さの円筒の表面積で除算した値を周面摩擦力係数として図中にプロットした。
【0029】
図3に示されるように、比較例1、2では周面摩擦力係数が2(kN/m
2)よりも小さいが、h/wが本発明範囲内にある発明例1、2の周面摩擦力係数は2(kN/m
2)よりも大きく、また比較例1、2よりもはるかに大きな値となっている。
このことから、翼間隔/翼径が本発明の範囲である1.25以上であれば、周面摩擦力係数を大きくできる、換言すれば支持力を大きくできることが分かる。
【0030】
なお、上記の模型実験データが実大のものに妥当していることを確認するため実大実験を行った。実大実験は、杭径318.5mm、翼径は杭径の1.5倍=477.75mm、翼間隔hは1200mm、とした。実大実験の結果は
図3の×印のプロットで示されており、模型実験データとほぼ同じ4.762kN/m
2の周面摩擦力係数が得られた。これによって、上記の模型実験が実大のものに妥当していることが実証された。