(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023344
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】監視装置
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20230209BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B61B1/02
G01H3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128786
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(72)【発明者】
【氏名】新井 涼平
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 英明
(72)【発明者】
【氏名】金森 崇
【テーマコード(参考)】
2G064
3D101
【Fターム(参考)】
2G064AA12
2G064AB13
2G064AB22
2G064CC13
2G064CC43
3D101AA03
3D101AA06
3D101AA12
3D101AA26
3D101AA32
3D101AB15
3D101AB20
(57)【要約】
【課題】設置環境に起因する外乱ノイズによって判定精度が低下することを抑制した監視装置を提供すること。
【解決手段】監視装置30,130は、ホーム10と線路RLとを遮断するホーム柵本体43の筐体29内と筐体29外とにおける音響情報を検出する検出装置30aと、音響情報からホーム柵本体43を構成するモータ22その他の機器の動作状態に関する動作情報を抽出し動作状態を監視する処理装置99とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駅ホームと線路とを遮断するホーム柵本体の筐体内と前記筐体外とにおける音響情報を検出する検出装置と、
前記音響情報から前記ホーム柵本体を構成する機器の動作状態に関する動作情報を抽出し前記動作状態を監視する処理装置と
を備える監視装置。
【請求項2】
前記処理装置は、前記筐体内における音響情報から前記筐体外における音響情報の影響を除去することによって、前記ホーム柵本体を構成する前記機器に起因する内因情報を取得する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記処理装置は、前記筐体内における音響情報から前記筐体外における音響情報を所定の係数で差し引く差分抽出によって前記内因情報を得る、請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記内因情報を前記機器の標準の音響パターンと比較する、請求項2及び3のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記検出装置は、前記筐体外に向けて配置される外マイクと、前記筐体内に配置される内マイクとを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項6】
前記検出装置は、前記ホーム柵本体を駆動する駆動機器からの音声又は振動を検出する、請求項1~5のいずれか一項に記載の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーム柵を構成する機器の動作状態を監視する監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホームドアの状態診断システムであって、駆動機構によってホームドアが開閉されたときに、この駆動機構の音を含む振動情報を取得し、この振動情報をもとに保守の要否を判定するものが公知となっている(特許文献1)。
【0003】
上記システムで処理される振動情報は、ホームドアの駆動機構の動作状態に関する情報を含むが、ホームドアが設置された環境にも影響されやすく、環境に起因する外乱ノイズによって、保守の要否についての判定精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、設置環境に起因する外乱ノイズによって判定精度が低下することを抑制した監視装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る監視装置は、駅ホームと線路とを遮断するホーム柵本体の筐体内と筐体外とにおける音響情報を検出する検出装置と、音響情報からホーム柵本体を構成する機器の動作状態に関する動作情報を抽出し動作状態を監視する処理装置とを備える。
【0007】
上記監視装置では、処理装置が筐体内外における音響情報からホーム柵本体を構成する機器の動作状態に関する動作情報を抽出し動作状態を監視するので、筐体内の音響情報から筐体外の音響情報の影響を減殺した情報を得ることができ、ホーム柵本体を構成する機器以外に起因する外乱ノイズを低減して判定精度を向上させることができる。
【0008】
本発明の具体的な側面によれば、上記監視装置において、処理装置は、筐体内における音響情報から筐体外における音響情報の影響を除去することによって、ホーム柵本体を構成する機器に起因する内因情報を取得する。この場合、内因情報は、筐体外における音響情報の影響を抑えたものとなり、ホーム柵本体を構成する機器の動作情報を反映する確度を高めたものであり、保守に関する判定の信頼性を高めることができる。
【0009】
本発明の別の側面によれば、処理装置は、筐体内における音響情報から筐体外における音響情報を所定の係数で差し引く差分抽出によって内因情報を得る。この場合、簡単な手法によって信頼性を高めた内因情報の抽出が可能になる。
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、処理装置は、内因情報を機器の標準の音響パターンと比較する。この場合、内因情報について異常の発生や原因を特定することが容易になる。なお、音響パターンは、フーリエ変換したデータも含む。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、検出装置は、筐体外に向けて配置される外マイクと、筐体内に配置される内マイクとを含む。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、検出装置は、ホーム柵本体を駆動する駆動機器からの音声又は振動を検出する。駆動機器は、機械機構や電動部分を意味し、これらの部分で劣化や損傷が生じる可能性があるが、かかる劣化や損傷を音声や振動の側面から判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ホームドア装置及びその監視装置を説明する概念図である。
【
図2】(A)~(D)は、内因情報の抽出方法を説明する概念図である。
【
図3】ホームドアシステムの構成を説明するブロック図である。
【
図4】(A)は、監視装置を説明するブロック図であり、(B)は、監視サーバを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る監視装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、ホームドア装置及びその監視装置を説明する概念図である。ホームドア装置40は、駅のホーム10及びその上方空間と線路RL及びその上方空間とを遮断するものである。ホームドア装置40は、可動式ホーム柵とも呼ばれ、ホーム10の所定域をカバーするように一列に並べられた所定台数のホームドア要素41によって構成されている。各ホームドア要素41は、ホーム10の床に固定されたドア筐体装置41aと、当該ドア筐体装置41a内に収容され出し入れ自在に設けられた開閉自在のドア部材41bとからなっている。
図1の例では、各ホームドア要素41において、一対のドア部材41bがドア筐体装置41aの端部開口部から出て当該ドア部材41bが乗降通路を閉じた状態にあり、これにより全体としてホーム10の縁に沿って延びる一連のホーム柵が形成される。
【0016】
ドア筐体装置41aは、基本的な要素として、筐体29中に、ガイド機構21とモータ22と伝達機構23とホームドア制御装置28とを有する。ガイド機構21は、ガイドレール21aの他に、不図示のローラ、調整治具等を含む機械部品で構成され、ドア部材41bの滑らかな横移動、つまりドア部材41bの開閉を可能にする。モータ22は、ドア部材41bを移動させる駆動力を発生する。伝達機構23は、ベルト23aやプーリ23bの他に、不図示の連結具等を含む機械部品で構成され、モータ22の駆動力をドア部材41bに伝達する。ホームドア制御装置28は、コンピュータである主機制御基板28aを含み、ドア部材41bの動作状態を制御する。ホームドア制御装置28は、ドア部材41bの位置を確認しつつモータに駆動力を与える駆動回路(不図示)を有する。また、ホームドア制御装置28は、後述ずる管理制御装置(
図3参照)と通信する機能を有し、管理制御装置の管理下で他のホームドア要素41と同期した動作を行う。
【0017】
ドア筐体装置41aの構成要素であるガイド機構21、モータ22、伝達機構23、ホームドア制御装置28、及び筐体29と、ドア部材41bとを合わせて、ホーム柵本体43と呼ぶ。つまり、ガイド機構21、モータ22、伝達機構23、ホームドア制御装置28、ドア部材41b等は、ホーム柵本体43を構成する駆動機器である。
【0018】
ドア筐体装置41aには、追加的な要素として、監視装置30が組み込まれている。監視装置30は、音声センサ31、振動センサ34、温度センサ35、予兆監視基板37等を含む。
【0019】
音声センサ31は、複数のマイク32a,32b,32cと、予兆監視基板37の制御下で動作する音響処理回路33とを有する検出装置30aである。第1及び第2マイク32a,32bは、筐体29中に配置されて、筐体29内における音響情報を検出する。第1及び第2マイク32a,32bは、内マイク32iとも呼ぶ。内マイク32iのうち、第1マイク32aは、モータ22の近傍に配置されて、モータ22の動作音を検出し、第2マイク32bは、伝達機構23又はガイド機構21の近傍に配置されて、伝達機構23又はガイド機構21の動作音を検出する。第3マイク32cは、筐体29の外側上部に取り付けられて、筐体29外における音響情報を検出する。第3マイク32cは、外マイク32oとも呼ぶ。音響処理回路33は、複数のマイク32a,32b,32cから取得した音響情報をマイク32a,32b,32cの設置個所と関連付けて予兆監視基板37に出力する。マイク32a,32b,32cの個数や設置個所は、図示のものに限らず、ホームドア要素41の設置状況に応じて適宜変更することができる。
【0020】
振動センサ34は、加速度検出素子、駆動回路等を含む検出装置30aであり、予兆監視基板37の制御下で動作する。振動センサ34は、ドア部材41b、ガイド機構21、モータ22、伝達機構23等の可動部に起因する振動情報を検出し、検出した振動情報を予兆監視基板37に出力する。なお、振動センサ34は、筐体29中の一か所に配置されるものである必要はなく、例えば筐体29中の複数個所に加速度検出素子を配置して局所的な振動情報を抽出するものであってもよい。
【0021】
温度センサ35は、温度検出素子、駆動回路等を含む検出装置30aであり、予兆監視基板37の制御下で動作する。温度センサ35は、モータ22、ホームドア制御装置28、予兆監視基板37等の発熱源に起因する温度上昇を含む温度情報を検出し、検出した温度情報を予兆監視基板37に出力する。図示を省略しているが、筐体29は、モータ22、ホームドア制御装置28等を動作させるための電源を内蔵し、これも発熱源となる。なお、温度センサ35は、筐体29中の一か所に配置されるものである必要はなく、例えば筐体29中の複数個所に温度検出素子を配置して局所的な温度情報を抽出するものであってもよい。
【0022】
以上では、ドア筐体装置41aに音声センサ31、振動センサ34、及び温度センサ35を組み込む具体例を説明したが、これら以外の物理的現象を抽出する各種センサをドア筐体装置41aに組み込むことができる。
【0023】
予兆監視基板37は、音声センサ31によって取得した音響情報をそのまま或いは適宜の加工を施して、ホームドア要素41のID情報等を含む付帯情報とともに上位機種である監視サーバ61に送信する。予兆監視基板37は、振動センサ34及び温度センサ35によって取得した振動情報及び温度情報をそのまま或いは適宜の加工を施して、ホームドア要素41のID情報等を含む付帯情報とともに上位機種である監視サーバ61に送信する。予兆監視基板37が監視サーバ61に対して音響情報、振動情報、及び温度情報を送信するタイミングは、定期的であっても不定期であってもよい。音響情報、振動情報、及び温度情報については、例えば所定レベルを超えた場合、或いは所定の予兆状態又は異常状態を示す場合にのみ、予兆監視基板37から監視サーバ61に出力することができる。予兆状態を示す情報は、確実な異常状態に至らないが、通常の動作状態において発生しないような音響情報等である。
【0024】
予兆監視基板37は、ホームドア制御装置28と通信可能に接続され、ホームドア制御装置28からホームドア要素41の動作状況に関する情報を受け取る。ホームドア要素41の動作状況に関する情報には、モータ22への駆動電流、回転数等といった駆動情報が含まれる。かかる駆動情報は、予兆監視基板37が音声センサ31、振動センサ34、温度センサ35等を介して情報を取得するタイミング管理に用いることができ、音声センサ31、振動センサ34、温度センサ35等からの出力信号の処理や判定に際して補助的に活用することもできる。
【0025】
監視サーバ61は、監視スタッフが利用するコンピュータであり、多数のホームドア要素41の動作状況を予兆や異常といった観点で一括して監視している。監視サーバ61は、デジタル通信システムCSを介して各ホームドア要素41に設けた監視装置30と通信することによって各ホームドア要素41から動作データを受け取ることができる。デジタル通信システムCSは、各ホームドア要素41に設けられたホームドア制御装置28と通信し、多数のホームドア要素41を一括管理する既設の管理システム(不図示)とは別系となっている。これにより、監視装置30がホームドア制御装置28の動作と干渉して影響を与えることを回避することができる。
【0026】
監視サーバ61と多数のホームドア要素41との間には、中継装置62を介在させることができる。さらに、特定のホームドア要素41にHUB48を組み込み、HUB48を介して、多数の監視装置30を中継装置62に対して通信可能に接続することができる。監視サーバ61は、監視装置30からホームドア要素41の動作状況に関する出力信号を受け取って、(a)ホームドア要素41について異常やその予兆があるか否を判定することができ、或いは(b)監視装置30からの出力信号に対してデータ解析を含む信号処理や加工処理を実行することができる。このような場合、監視サーバ61が、監視装置30と協働してホームドア要素41の異常やその予兆を検出する監視処理装置161として機能するので、監視装置30と監視処理装置161とを合わせて監視装置130と呼ぶ。
【0027】
予兆状態又は異常状態を示す情報は、例えば音響情報については、ホームドア要素41の各部から発生する異音を含む。異音の態様として、例えば(1)モータ22のモータ音に関しては、モータ22の可動部品のキズ等に起因して回転速度の変化で音質が変わる場合、異物の接触等によって断続的で規則的に音が発生する場合、金属的な大きな衝突音、金属間のかじる音が生じる場合、不規則に生じるきしみ音、うなり音が生じる場合等を想定している。また、異音の態様として、(2)伝達機構23のうちベルト23aについては、ベルト23aの鳴き、ベルト23aの劣化による異音、ベルト23aの張力の低下による異音等を想定している。異音の態様として、(3)伝達機構23のうちプーリ23bについては、プーリ23bの緩み、プーリ23bの変形によるガタガタ異音等を想定している。異音の態様として、(4)ガイド機構21のうちガイドレール21aについては、ガイドレール21aの摩耗、ガイドレール21aの変形によるガタガタ異音等を想定している。異音の態様として、(5)筐体29については、カバービスの緩みや外れによる異音等を想定している。異音の態様として、(6)電源については、コイル鳴きとも呼ばれる高周波音等を想定している。
【0028】
予兆監視基板37は、音響情報を監視サーバ61に出力する前に、第1マイク32aによって取得した筐体29内における音響情報から、第3マイク32cによって取得した筐体29外における音響情報の影響を除去する信号処理を行うことができる。また、予兆監視基板37は、第2マイク32bによって取得した筐体29内における音響情報から、第3マイク32cによって取得した筐体29外における音響情報の影響を除去する信号処理を行うことができる。この場合、予兆監視基板37は、ホーム柵本体43を構成する機器、具体的にはガイド機構21、モータ22、伝達機構23、ホームドア制御装置28、筐体29、ドア部材41b等に起因する内因情報を取得し、かかる内因情報を動作データとして、監視サーバ61に提供する。なお、上記内因情報については、予兆監視基板37での信号処理によって取得せず、監視サーバ61での信号処理によって取得してもよい。
【0029】
予兆監視基板37が音響情報等に対して信号処理を行う場合、予兆監視基板37と監視サーバ61とが処理装置99として機能し、予兆監視基板37が音響情報等に対して信号処理を行わない場合、監視サーバ61が単独で処理装置99として機能する。処理装置99は、音響情報等からホーム柵本体43を構成する機器の動作状態に関する動作情報を抽出し動作状態を監視するものである。
【0030】
図2(A)~2(D)は、内因情報の取得方法を説明する概念図である。
図2(A)は、第1マイク32aによって取得した筐体29内における音響信号であり、
図2(B)は、第3マイク32cによって取得した筐体29外における音響信号である。
図2(C)は、第3マイク32cによって取得した音響信号を正負反転させたものである。
図2(D)は、
図2(A)に示す音響信号と
図2(C)に示す反転音響信号とを加算して得られた信号を示し、信号強度が殆どゼロレベルに近いものとなっている。
図2(B)は、筐体29外における音響情報を示し、例えば駅の場内アナウンス、乗客の会話、乗客が筐体29と接触する音等に相当する。
図2(A)は、筐体29内における音響情報を示し、本来は、ガイド機構21、モータ22、伝達機構23、ホームドア制御装置28、筐体29、ドア部材41b等の動作に起因する内因性の音響情報であるが、
図2(B)に示すように外因性の音響情報が大きい場合、
図2(B)の影響を受けて
図2(B)の影響が支配的なものとなっている。このような場合、
図2(A)示す音響信号をそのまま用いると、正常であるにも関わらず異常であると判定されたり、異常であるにも関わらず正常であると判定されたりするといった不都合が生じかねない。そこで、
図2(A)に示す音響信号から
図2(B)に示す音響信号を減算すること、すなわち差分抽出を行うことにより、誤検出の発生を抑制することができる。以上のような差分抽出に際して、
図2(A)に示す音響信号から
図2(B)に示す音響信号に所定の係数を掛けて減算することもできる。つまり、筐体29内における音響情報から筐体29外における音響情報を所定の係数で差し引く差分抽出によって、内因情報を得ることができる。係数を適宜設定することにより、筐体29外からの音源の内マイク32i(マイク32a,32b)への影響と、筐体29外からの音源の外マイク32o(マイク32c)への影響とに差がある場合であっても、内マイク32iが取得した音響情報から外マイク32oが取得した外乱ノイズをマイク32a,32b単位の適切なレベルで相殺することができ、正確な内因情報を得ることができる。
【0031】
内因情報については、監視サーバ61又は予兆監視基板37において、音声分析を行うことにより、異常や予兆の種類や程度の判別が可能になる。監視サーバ61は、音声分析により、内因情報に対応する信号波形から異常や予兆に対応する特徴的な波形を抽出する。例えば上述したモータ音に関して音声分析を行うことにより、(1a)可動部品のキズ等に起因して回転速度の変化で音質が変わる場合、(1b)異物の接触等によって断続的で規則的に音が発生する場合、(1c)金属的な大きな衝突音、金属間のかじる音が生じる場合、(1d)不規則に生じるきしみ音、うなり音が生じる場合のいずれに該当するかの区別が可能になる。音声分析に際して、監視サーバ61は、内因情報を機器の標準の音響パターンと比較することができる。標準の音響パターンは、出荷時の正常な動作状態において検出される動作音に相当するものである。具体的には、例えばモータ音に関して音声分析を行う場合、監視サーバ61は、第1マイク32aによって得た音響信号から、第3マイク32cによって得た音響信号に所定の係数を乗算したものを減算し、得られた差分データをモータ22が正常時に発生する標準の音響パターンと比較する。このように、得られた動作データつまり差分データを標準の音響パターンと比較することにより、第1マイク32a等によって得た内因情報について、異常の種類や程度を判断することができ、異常の発生や原因を特定することが容易になる。得られた動作データを標準の音響パターンと比較する際には、高速フーリエ変換(FFT)を用いることができる。この際、変換後のスペクトル分布において、検出対象に適合する周波数帯域のフィルタリングを行うことで、異常や予兆の種類の特定をより正確なものとすることができる。内因情報の音声分析については、ディープラーニングの手法を用いることもできる。
【0032】
図3は、ホームドア装置40、監視装置30等を含むホームドアシステム100の構成を説明するブロック図である。
【0033】
ホームドアシステム100は、
図1に示したホームドア装置40、中継装置62、及び監視サーバ61の他に、管理制御装置3と複数の操作盤4とを備える。ホームドア装置40は、n台のホームドア要素41-1,41-2,…,41-nを備える。ホームドアシステム100は、1つの事業所Pに属する監視装置30及び中継装置62を、通信回線6経由で監視サーバ61へ接続しているが、2以上の事業所Pに属する監視装置30及び中継装置62を、通信回線6経由で監視サーバ61へ接続してもよい。
【0034】
操作盤4は、乗務員又は駅係員等から、ホームドア装置40に対して動作を指示する操作を受付ける装置である。操作盤4は、管理制御装置3の管理下で動作する。ホームドア装置40、管理制御装置3、及び操作盤4は、例えばデイジーチェーンを可能にする通信線L1によって相互に接続され、相互に通信可能になっている。
【0035】
中継装置62は、n台のホームドア要素41-1,41-2,…,41-nに組み込まれたn台の監視装置30と有線又は無線により接続され、通信可能になっている。図示の例では、中継装置62と、n台の監視装置30とは、通信線L2により中継装置62を中心とする星型に接続されている。中継装置62は、監視装置30から動作データを受け取り、かかる動作データを通信回線6を介して監視サーバ61に送信する。
【0036】
通信回線6は、中継装置62と監視サーバ61とを通信可能に接続する。通信回線6は、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、又はこれらの組合せであってもよい。また、通信回線6は、公衆交換電話網(PSTN:Public Switched Telephone Networks)やサービス統合デジタル網(ISDN:Integrated Services Digital Network)等を含むものでもよい。
【0037】
図4(A)は、監視装置30の構成を説明するブロック図である。監視装置30は、各ホームドア要素41に組み込まれるものであり、予兆監視基板37として、プロセッサ37a、メモリ37b、インタフェース37c、及びセンサ制御部37fを有する。これらの要素は、バス37qを介して、互いに通信可能に接続されている。プロセッサ37aは、具体的にはCPU(Central Processing Unit)であり、メモリ37bに記憶されているプログラムを読出して実行することにより監視装置30の各部を制御する。メモリ37bは、プロセッサ37aに読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶装置である。インタフェース37cは、通信線L2を経由して、監視装置30を中継装置62に対して通信可能に接続する。プロセッサ37aは、このインタフェース37cを介して、中継装置62或いは監視サーバ61に動作データを送信する。
【0038】
センサ制御部37fは、n台のセンサ36-1,36-2,36-3,…に接続され、センサ36-1,36-2,36-3,…をそれぞれ制御する。ここで、センサ36-1は、音声センサ31に相当し、センサ36-2は、振動センサ34に相当し、センサ36-3は、温度センサ35に相当する。センサ制御部37fは、ホーム柵本体43側の機器、例えば主機制御基板28aと通信可能に接続されるものであってもよい。
【0039】
図4(B)は、監視サーバ61の構成を説明するブロック図である。監視サーバ61は、プロセッサ61a、メモリ61b、及びインタフェース61cを有する。これらの要素は、バス61qを介して、互いに通信可能に接続されている。プロセッサ61aは、具体的にはCPUであり、メモリ61bに記憶されているプログラムを読出して実行する。メモリ61bは、プロセッサ61aに読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶装置である。インタフェース61cは、通信回線6を経由して、監視サーバ61を中継装置62に対して通信可能に接続する。プロセッサ61aは、このインタフェース37cを介して、中継装置62或いは監視装置30から動作データを受信する。
【0040】
メモリ61bには、動作管理データベース71が保管されている。動作管理データベース71は、監視装置30のセンサ36-1,36-2,36-3,…で測定された計測値やこれに処理が施された動作データを、プロセッサ61aの管理下で、中継装置62を介して監視装置30から受け取って記憶する。
【0041】
図5は、動作管理データベース71に保管されるデータの一例を説明する図である。動作管理データベース71は、事業所リスト71a、ホームドア要素リスト71b、センサリスト71c、及び動作データ表71dを含む。事業所リスト71aは、監視サーバ61に動作データを送信する監視装置30が組み込まれたホームドア装置40が設置された事業所を列挙するリストであり、事業所を識別する事業所IDが記憶されている。ホームドア要素リスト71bは、事業所リスト71aに記録された事業所IDごとに設けられ、対応する事業所に設置されたホームドア装置40及びホームドア要素41を列挙するリストであり、ホームドア要素41を識別するドア要素IDを記憶する。センサリスト71cは、ホームドア要素リスト71bに記録されたドア要素IDごとに設けられ、対応するホームドア要素41の監視装置30を構成するセンサ36-1,…を列挙するリストであり、センサ36-1,…を識別するセンサIDを記憶する。
【0042】
センサリスト71cは、センサIDに対応付けて、そのセンサIDに対応するセンサ36-1,…の設置情報、及び閾値を記憶する。設置情報は、センサ36-1,…が設置された位置や設置の状態、壁体、支柱等の周囲の物体との配置等に関する情報を含む。閾値は、対応するセンサ36-1,…で測定される動作データを故障の予兆又は異常と判断する場合の基準であり、例えば、上限、下限、判定範囲等を意味する。
【0043】
動作データ表71dは、センサリスト71cに挙げられたセンサIDごとに設けられ、そのセンサIDに対応するセンサ36-1,…により測定された動作データ(元の動作データに解析処理を施したものを含む)と、その動作データが測定された測定時刻とが記録される。動作データ表71dには、動作データが故障の予兆又は異常を示す場合、その予兆又は異常の状態種別が記録され、その予兆又は異常の程度(レベル)も記録される。ここで、予兆又は異常の状態種別は、動作データが例えば音声センサ31のうち第1マイク32aから取得されたものである場合、モータ22の故障の予兆や異常がどのようなタイプであるかを示すものであり、回転速度の変化に伴う音質変化、断続的で規則的な異常音、金属的な大きな衝突音、金属間のかじる音合、不規則なきしみ音等の種別を意味し、このような状態識別は、波形解析等によって可能になる。
【0044】
上記実施形態の監視装置30,130では、処理装置99が筐体29内外における音響情報からホーム柵本体43を構成する機器(ガイド機構21、モータ22、伝達機構23、ホームドア制御装置28、ドア部材41b等)の動作状態に関する動作情報を抽出し動作状態を監視するので、筐体29内の音響情報から筐体29外の音響情報の影響を減殺した情報を得ることができ、ホーム柵本体43を構成する機器以外に起因する外乱ノイズを低減して判定精度を向上させることができ、保守部品の予防交換が可能になる。
【0045】
以上で説明した実施形態は、例示であり、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0046】
例えば、第1マイク32aは、各ホームドア要素41に設けられるものである必要はなく、複数のホームドア要素41に共通のマイクに代替することができる。この場合、共通の第1マイク32aは、筐体29に付帯させるものである必要はなく、ホーム10の適所に設置することができる。また、単一のモータ22の動作を検出する目的で複数のマイクを設置し、複数のマイクからの音声信号を統計的に処理することができる。
【0047】
マイク32a~32cによって取得される音響信号は、可聴域の音波に限らず非可聴域の音波を含むものであってもよい。さらに、マイク32a~32cによって取得される音響信号は、音波として検出される振動のようなものを含む。この場合、音響処理回路33は、機器の振動情報を収集し処理するものとなり、監視サーバ61その他の処理装置99が、上記振動情報から機器の動作状態に関する情報を抽出することになる。
【符号の説明】
【0048】
3…管理制御装置、 4…操作盤、 6…通信回線、 10…ホーム、 21…ガイド機構、 22…モータ、 23…伝達機構、 28…ホームドア制御装置、 28a…主機制御基板、 29…筐体、 30,130…監視装置、 30a…検出装置、 31…音声センサ、 32a,32b,32c…マイク、 32i…内マイク、 32o…外マイク、 33…音響処理回路、 34…振動センサ、 35…温度センサ、 37…予兆監視基板、 37a…プロセッサ、 37f…センサ制御部、 40…ホームドア装置、 41…ホームドア要素、 41a…ドア筐体装置、 41b…ドア部材、 43…ホーム柵本体、 61…監視サーバ、 61a…プロセッサ、 62…中継装置、 71…動作管理データベース、 71c…センサリスト、 71d…動作データ表、 99…処理装置、 100…ホームドアシステム、 161…監視処理装置、 CS…デジタル通信システム、 L1,L2…通信線