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特開2023-23412アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023412
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20230209BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128937
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(71)【出願人】
【識別番号】597010972
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 正純
(72)【発明者】
【氏名】古田 久人
(72)【発明者】
【氏名】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】小畠 卓也
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】村松 潤
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AC07
2G047BA03
2G047BC03
2G047BC07
2G047BC11
2G047BC18
2G047EA13
2G047GG28
2G047GH13
2G047GJ28
(57)【要約】
【課題】現場で点検員が容易にアンカーボルトの劣化状態を判定できるアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムを提供する。
【解決手段】アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムは、予め作成されたアンカーボルトの劣化の程度を示す展開図に基づいて、アンカーボルトの劣化度を自動で判定する。展開図は、超音波探触子でアンカーボルトの劣化の程度を検出したデータに基づいて作成され、アンカーボルトの劣化の程度とその位置を示し、展開図は、ボルトの健全部と、ねじ山の半分深さ欠損部とが所定の色で分離され、展開図から、所定の色に応じて、その割合と発生位置とを読み取る、前処理を行い、前処理の結果に基づいてアンカーボルトの劣化度を自動で判定する(S31~S35)。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め作成されたアンカーボルトの劣化の程度を示す展開図に基づいて、アンカーボルトの劣化度を自動で判定するアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムであって、
前記展開図は、超音波探触子でアンカーボルトの劣化の程度を検出したデータに基づいて作成され、アンカーボルトの劣化の程度とその位置および大きさを示し、
前記展開図は、ボルトの健全部と、ねじ山の半分深さ欠損部およびねじ山の深さ欠損部とが所定の色で分離され、
前記展開図から、前記所定の色に応じて、その割合と発生位置とを読み取る、前処理を行い、
前処理の結果に基づいてアンカーボルトの劣化度を自動で判定する、アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム。
【請求項2】
アンカーボルトの劣化度を自動で判定するステップは、ファジィ理論を用いて行う、請求項1に記載のアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム。
【請求項3】
アンカーボルトの劣化度は、健全、注意、および危険の3段階に分離される、請求項2に記載のアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム。
【請求項4】
ファジィ理論を用いて行うアンカーボルトの劣化度を判定するステップは、第1の段階と第2の段階に分けて行われる、請求項3に記載のアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム。
【請求項5】
第1の段階は、健全および危険の劣化を判定し、第2の段階は、注意レベルの劣化を判定する、請求項4に記載のアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムに関し、特に、現場で点検員がアンカーボルトの劣化状態を判定できるアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンカーボルトの超音波探傷検査方法が、例えば、特許第6088088号公報(特許文献1)に記載されている。同公報によれば、アンカーボルト超音波探傷検査装置は、超音波探触子を用いてアンカーボルト27の腐食部を検査する。アンカーボルト超音波探傷検査装置は、アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に超音波探触子を取り付け可能な傾斜面有する探触子取り付け部と、探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具と、超音波探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定するデジタル超音波探傷器とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6088088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、超音波探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定していた。このような、従来のアンカーボルトの劣化判定システムでは、点検結果から、熟練技術者が、ねじ山欠損の程度等を判断していた。
【0005】
このような、アンカーボルトの劣化の判定方法として、点検結果からボルトの展開図を作成して、その発生位置と欠損の程度を図示することができても、アンカーボルトの状態の判定(健全、初期欠損ボルト、欠損発生ボルト、危険ボルト)は熟練技術者でしかできないという問題があった。
【0006】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、現場で点検員が容易にアンカーボルトの劣化状態を判定できるアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る、アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムは、予め作成されたアンカーボルトの劣化の程度を示す展開図に基づいて、アンカーボルトの劣化度を自動で判定する。展開図は、超音波探触子でアンカーボルトの劣化の程度を検出したデータに基づいて作成され、アンカーボルトの劣化の程度とその位置および大きさを示し、展開図は、ボルトの健全部と、ねじ山の半分深さ欠損部およびねじ山の深さ欠損部とが所定の色で分離され、展開図から、所定の色に応じて、その割合と発生位置とを読み取る、前処理を行い、前処理の結果に基づいてアンカーボルトの劣化度を自動で判定する。
【0008】
好ましくは、アンカーボルトの劣化度を自動で判定するステップは、ファジィ理論を用いて行う。
【0009】
アンカーボルトの劣化度は、健全と危険または、健全、注意、および危険といった3段階以上に分離されてもよい。
【0010】
ファジィ理論を用いて行うアンカーボルトの劣化度を判定するステップは、第1の段階と第2の段階に分けて行ってもよい。
【0011】
第1の段階は、健全および危険の劣化を判定し、第2の段階は、注意レベルの劣化を判定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、測定データと熟練技術者の判断に基づく劣化の程度とを関連付けて、測定データがあれば、その劣化の程度を自動で判断するようにした。
【0013】
その結果、現場で点検員がアンカーボルトの劣化状態を判定が可能な、アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の一実施の形態に係る劣化判定システムで使用した測定画像の一例を示す図である。
図2】システム構築に用いた画像データの概要を示す図である。
図3】白線の分離が困難なことを示す図である。
図4】膨張処理と収縮処理の考え方を示す図である。
図5】線間隔を設定する理由を説明する図である。
図6】既知の色の実測値と推定値とを示す図である。
図7】劣化判定レベルごとの各色線の割合を示す図である。
図8】ファジィ推論における概念を示す図である。
図9】ファジィ推論適用の考え方を示す図である。
図10】ファジィ判定の細分化したフローチャートである。
図11】点検不良の仕組みとその状態で計測した時に得られる画像の例を示す図である。
図12】点検不良か否かを判定するためのメンバシップ関数を示す図である。
図13】第1回目のメンバシップ関数を示す図である。
図14】第2回目のメンバシップ関数を示す図である。
図15】この発明の一実施の形態に係る劣化判定システムの前処理のフローチャートである。
図16】この発明の一実施の形態に係る劣化判定システムのファジィ判定処理のフローチャートである。
図17】上記したフローチャートが適用されるアンカーボルト劣化判定装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、今回のアンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムの作成に使用したデータについて説明する。今回使用したデータは図1に示す様なものであり、アンカーボルトの劣化判定装置の超音波探触子で測定したアンカーボルトの劣化のレベルを、その位置ごとに線で表した展開図である。横軸はアンカーボルトの円周方向の角度であり、縦軸は深さ方向の距離を示す。
【0016】
ここで、図1に示す画像は、本来、青色(健全部)と、黄色(注意レベル1)と、白色(注意レベル2)と、赤色(危険部)とを含んでいるが、ここでは、それぞれを、細線、点線、一点鎖線、および太線の4つの線で表わしている。ここで、細線は、健全部エコーのビーム路程であり、点線はねじ山半分深さ程度の欠損が進行している箇所を示し、一点鎖線は、ねじ山深さ程度の欠損が進行している箇所を示し、太線は、ねじ山深さ以上欠損が進行している箇所を示す。
【0017】
なお、ここでは、図中、細線、点線、一点鎖線、および太線の4つの線で表されているが、実際には、一点鎖線で示されている箇所は、測定結果としては、白色で表示されている。
【0018】
図1を参照して、これは、例えば、ねじの呼び径がM22のものである。そこには、このデータが、健全、注意レベル1、注意レベル2、危険、点検不良のデータのうちの、どれに対応するものであるのかが表示されている。
【0019】
図2は、このような画像データのうち、この実施の形態で用いたデータ数の概要を示す図である。図2には、M22の計測データ、M24の計測データ、M27の計測データ、M30の計測データ、およびM36の計測データごとに、健全、注意レベル1、注意レベル2、危険、点検不良のどのデータであるのかを示す表と、表の上に示されたデータ数の棒グラフと、その右側に、健全等のボルトの劣化のレベルごとの合計の集計と、それに基づいた、各レベルの内訳を表す円グラフが表示されている。
【0020】
ねじの呼び径ごとで計測範囲が異なっていたことから、これらのデータをまとめて開発を行うには一定の規則で均質化する必要があった。また画像は全体で404枚あり、これら画像を経験者による目視で、健全レベル、注意レベル1、注意レベル2、危険レベルの4段階に仕分けしていただいた結果を教師デー タとした。その結果、図2に示す様に約60%が健全レベル、約25%が注意レベル1、約10%が注意レベル2、約10%が危険レベルであった。
【0021】
次に、画像内の色数の集計について説明する。図3は、結果画像(A)と結果画像を作成するために計測波形の強度とその強度に対応する色を模式的に表した図(B)である。
【0022】
発明者らは、まず、画像内の色数を集計することを考えた。すなわち、当初は画像内の青色線、黄色線、赤色線および白色線の個数を集計することで劣化判定が可能になるのではないかと考えた。しかしながら、図3(B)のように、白色線は背景色と同色であり切り分けが難しいため白色線の数量集計が問題となった。
【0023】
まず情報処理によって白線のみを別の色に変換することを検討したが、らせん状に加工されたネジを測定しているため、測定データから得られる画像に表示される線も傾斜があり情報処理によって白線を特定することは難しいとの結論に至った。
【0024】
次に背景色を別の色に変更するという案も挙がったが、白色はエコー高さが低いことを示しているものであり、ねじ山として線で表示されている以外の白色部分も計測したデータはあるがエコーが低いため白色になっている。そのため背景色を変更したとしても今度は白線が変更した背景色と同色になるので、同じ問題が生じる。
【0025】
また、この低いエコーレベルはノイズが含まれている可能性があることから、エコーレベルが低いデータの中からねじ山のみを特定して線として表示することは難しいことが分かった。
【0026】
以上のことから白色の厳密な集計は難しいと判断し、白線を推定することで白色線の量を推定することとした。またその手法として画像処理手法である、膨張・収縮による白色線を推定する方法と、直線検出によるねじ山線検出による白色線を推定する方法の2つを検討した。
【0027】
次に、この画像処理による白色線の推定について説明する。ここでは画像処理の手法として二値化や、膨張処理や収縮処理、またはこれらを組み合わせたオープニング処理およびラベリング処理を用いて白色線の推定を試みた。
【0028】
図4に、膨張収縮の考え方を示す。図4に示すように、膨張処理においては、注目画素を白色に置き換え、収縮処理では注目画素を黒に置き換える。膨張処理または収縮処理を行うには処理回数を設定する必要があるが、ねじ山線とねじ山線の間にある白色部分を埋めるだけの回数行えば白色線と推定される部分が残ることになる。またねじ山線は傾斜しているが、ねじ山線との間隔はほぼ平行でありほぼ一定間隔であることからねじ山線とねじ山線の間隔は計算できることが分かる。
【0029】
次に、線間隔について説明する。線間隔(ピクセル単位)を適切に設定することで、膨張・収縮処理の回数を決定し、背景色の白色と線の白色を分離するために行った。すなわち、線間隔と膨張・収縮処理の回数は同義となる。図5は、線間隔を設定する理由について説明する図である。
【0030】
図5に示すように、線を抽出できるのは、膨張・収縮処理を適切に行った場合のみである(図において、右水平矢印の場合)。これに対して、膨張・収縮処理を次の線に到達する以上の回数で実施した場合(図において右斜め上向き矢印の場合)は、線の情報が消えてしまう。逆に膨張・収縮処理を次の線に到達しない回数で実施した場合(図において右斜め下向き矢印の場合)は背景色がノイズとして残ってしまう。そして適切に線間隔を指定しなかった時の結果で線エリアを囲むラベリング処理を行っても正確な線のエリア取得ができない。
【0031】
本推定手法を検証するために、色の数が定まっている赤色と黄色と青色の3色に対して適用した結果を図6に示す。この図は横軸に本推定手法で求めた各色の個数、縦軸に計測した各色の個数を示しており、この図から求めた相関係数は0.996であったことから、正のきわめて強い相関があることを示しており、この手法による白色線の推定は妥当であることが分かった。また、条件をそろえるために他の色においても同様の処理を用いて推定を実施した。
【0032】
次に、各色数の推定による劣化判定について説明する。各色の画像処理による推定によって得られた値を基にして、劣化判定のレベルごとに各画像の色がどの程度の割合で含まれているかを示した結果を図7に示す。なお、判定エリアのサイズはねじ径で異なるため判定エリアサイズで正規化を行った結果となっている。
【0033】
図7を参照して、縦軸は、各色の割合を示す図である。
【0034】
この結果より、劣化度合が進行するに従って青色以外の割合が低下し黄色や白色の割合が増加する傾向がみられるが、劣化判定のレベルごとに割合が分かれていないことから、閾値を決めて分類することは難しいと考えた。
【0035】
そこで、ファジィ推論による劣化判定について検討した。上記した劣化判定で示した閾値で分類する手法は、図8(A)に示す様なイメージであり、閾値の20歳を境にして子どもと大人が明確に分けられている。しかし、現実問題として子どもと大人の境はあいまいであり、18歳から大人という考えもあれば22歳までは子どもという考えもある。そういったあいまいさを表現する手法としてファジィ推論という考え方を考慮した。
【0036】
このファジィ推論は図8(B)に示す様に先述した子どもと大人の考え方を両方の可能性があることを許容する形で表現した考えである。そして今回の適用するにあたり考えた概念を図9に示す。この図のように横軸にカテゴリを人が判断している条件、縦軸に各カテゴリに対する一致度をとっている。
【0037】
次に、ファジィ推論の適用について説明する。ファジィ推論を適用するにあたり、専門家は画像の何について着目しているかをヒアリングしたところ、画像に対して赤色、黄色、白色の各色の量や大きさを見ているとのことであった。そこで、ひとまず点検不良以外を以下のルールを適用しファジィ推論による劣化レベル判定を試みた。
【0038】
青色線の割合大、黄色線の割合大、白色線の割合大であれば、点検不良である。
【0039】
青色線の割合大、黄色線の割合大、白色線の割合小であれば、注意レベル1である。
【0040】
青色線の割合大、黄色線の割合小、白色線の割合大であれば、点検不良である。
【0041】
青色線の割合大、黄色線の割合小、白色線の割合小であれば、注意レベル1である。
【0042】
青色線の割合小、黄色線の割合大、白色線の割合大であれば、注意レベル2である。
【0043】
青色線の割合小、黄色線の割合、白色線の割合小であれば、注意レベル2である。
【0044】
青色線の割合小、黄色線の割合小、白色線の割合大であれば、危険である。
【0045】
赤色線の割合小、黄色線の割合小、白色線の割合小であれば、健全である。
【0046】
そこで、健全が226件、注意1が94件、注意2が39件、および危険が38件の全397件のデータから、青色、黄色、白色のデータごとに、健全、注意1、注意2、および危険のそれぞれについての割合を抽出し、分析用のメンバシップ関数および判定ルールを設定して、劣化判定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記ルールに従い教師データを判定した結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2において、「目視判定結果」は熟練技術者の判定結果であり、「自動判定結果」は上記のルールにしたがった推論結果である。したがって、表2を参照して、正解率76.3%、一つ違いまでを正解とみなすと99.7%となる。ここで、正解率の算出は、例えば、目視判定結果について健全なものが225あり、自動判定結果においては、注意1の1件も含まれることから、225/226=99.6%という数値が求められる。
【0051】
ここで、精度が低い原因として、健全・危険の正解率が100%近いのに対して、注意1及び注意2はそれぞれ約40%、約15%と大きく低くなっている。このことから、メンバシップ関数および判定ルールの再検討が必要となる。
【0052】
再検討において、手作業での設定が困難であるため、最適化を導入した。最適化対象は、メンバシップ関数の頂点および判定ルールである。
【0053】
メンバシップ関数の頂点は、青色については、0-100%の101段階、黄色、白色については、0から10%の101段階とした。判定ルールは後件部の状態の4段階とした。
【0054】
従って、3つの入力値の各3つのメンバシップ関数の頂点の9個のデータ、および判定ルールの後件部27件のデータを最適化対象とし、各状態から無作為に抽出した各30件、合計120件を教師とし、それぞれのメンバシップ関数とファジィルールを用いた場合の正解率を評価値とした。
【0055】
判定結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
全体の正解率は大きく変化しないが、注意1及び注意2の精度が向上し、一方で、危険レベルの精度が大きく低下している。
【0058】
1つのファジィルールで4つの分類を行うことを目指してシステムを構築したが、判定精度の向上のために、注意と判定したものについては、もう一度別のパラメータでファジィ推論を行い、注意1と、注意2に分けることにした。
【0059】
そのためのファジィ判定の細分化したフローチャートを図10に示す。
【0060】
図10を参照して、ファジィ判定処理においては、ファジィ推論を3段階に分割する。まず、ファジィ推論1回目を行い(S11)、そこで、設置不良のものを分離し、その後、設置不良でないものについて、ファジィ推論2回目を行って(S12)、健全と危険とを分離し、その後、注意と判定されたものを、ファジィ推論3回目を行って(S13)、注意1と注意2とに分類する。
【0061】
判定結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
ここで、ファジィ推論1回目のアンカーボルト劣化判定装置の設置が正しくされなかった設置不良について説明する。設置不良などが原因で、劣化判定が行えない不正確な画像が入力される場合があるため、この様な点検不良画像と判定対象の画像とを自動で判定するファジィ理論を導入した。
【0064】
このような、点検不良かどうかを判定するファジィ推論について述べる。ここでいう点検不良とは、主に図11(A)に示す様にアンカーボルトにセンサ(探触子)を取り付ける固定ジグを適切(アンカーボルトの回転軸に対して垂直)に取り付けられていない状態をいう。センサーは適切に設置された状態の時にアンカーボルトのネジ山を走査できるように最適化されているため、この状態で測定を行うとセンサーから送信された超音波がねじ山に当たらず反射エコーが低くなることがある。なお、その180度反対側では逆に想定よりも短い距離に超音波が当たるため反射エコーは高くなる傾向がある。
【0065】
そのようにして得られた反射エコーを図にすると図11(B)のように反射エコーが小さいため白色として表示される。ここで点検不良の考えがなく劣化判定の4つの区分に当てはめると危険と判定してしまうため、ファジィ推論によって点検不良か否かを判定する仕組みを構築した。
【0066】
熟練技術者では点検不良か否かの判定に最も反射エコーが小さいことを示す白色の形と、最も反射エコーが大きいことを示す赤色の形を元に判断していることが多いとのことであったので白色と赤色の形として幅と高さに着目して構築した。
【0067】
その結果を表5に示し、その時のルールを表6、その時のメンバシップ関数を図12に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
ファジィ推論1回目の、メンバシップ関数は図13に示す通りであり、ファジィルールは表7に示す通りである。また、ファジィ推論2回目の、メンバシップ関数は図14に示す通りであり、ファジィルールは表8に示す通りである。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
以上の点を踏まえて作成した、前処理フローチャートを図15に示す。図15を参照して、まず、図1で示した、アンカーボルトの劣化のレベルを、その位置ごとに線で表した展開図を入力し、それに基づいて、図3(B)に示すような、波形部分を抽出し(S21)、前処理として各色の線を画像処理の手法を用いて強調させる(S22~S23)。これを設定回数行う。その後、オープニング処理(S25)、ラベリング処理(S26)、着目線の色等の情報を取得する処理(S27)を行って、強調されたデータから面積などといった情報の抽出を行い、これを全ての色について行う。
【0074】
ここで、オープニング処理とは、ノイズを除去するために収縮処理と膨張処理とを1回ずつ行う処理をいい、ラベリング処理とは、ブロックごとに位置や面積を特定する処理をいう。
【0075】
ここで、全色集計で得られるデータは、例えば、青色面積割合が99.971であり、黄色面積が0.066であり、白色面積が0.029であり、赤色面積が0.00であるといったデータである。
【0076】
次に、ファジィ判定処理について説明する。図16は、図10で示したファジィ判定処理における処理を説明する詳細なフローチャートである。図16を参照して、ファジィ判定処理においては、まず、前処理で得られた、上記した、青色面積割合が99.971であり、黄色面積が0.066であり、白色面積が0.029であり、赤色面積が0.00であるといったデータを入力し、ファジィ推論1段目として(S30)、劣化判定1段目を行い、点検不良か測定対象かを判定する(S31)。測定対象であれば(S31で「測定対象」)、ファジィ推論2段目を行い(S32)、劣化判定2段目の処理を行う(S33)。ここで、健全か、危険か、注意かを判断する。健全、および危険と判定されれば、処理を終了する。
【0077】
注意と判定されたもののみが、ファジィ推論3段目に行き(S34)、劣化判定2段目の処理を行い(S35)、注意1と注意2とのいずれかに判定される。
【0078】
次に、このシステムが適用される超音波探傷装置について説明する。図17は、上記したフローチャートが適用されるアンカーボルト劣化判定装置10の全体構成を示す図である。図17を参照して、アンカーボルト劣化判定装置10は、CPUを含む制御ユニット20と、制御ユニット20に接続された、超音波探触子を有する検出ユニット21と、制御ユニット20に含まれたアプリケーション22とを含み、上記で説明した、アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムは、このアプリケーションに含まれる。また、このアプリケーションは、アンカーボルトの劣化の程度を示す展開図の作成から、アンカーボルトの劣化判定までを行い、その結果を出力する。
【0079】
図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態に限定されるものではない。本発明と同一の範囲内において、または均等の範囲内において、図示した実施形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明によれば、アンカーボルトの劣化判定装置において、現場で作業員が劣化の程度を判定できるため、アンカーボルトにおける劣化度の自動判定システムとして有利に利用される。
【符号の説明】
【0081】
10 アンカーボルト劣化判定装置、20 制御ユニット、21 検出ユニット、22 アプリケーション。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17