(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023415
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20230209BHJP
C14C 11/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
D06N3/00
C14C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128942
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 宗治
(72)【発明者】
【氏名】辻本 和久
【テーマコード(参考)】
4F055
4F056
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA11
4F055AA18
4F055AA27
4F055BA13
4F055CA12
4F055CA18
4F055DA08
4F055EA04
4F055EA23
4F055EA30
4F055FA20
4F055FA40
4F055GA02
4F055GA11
4F055HA17
4F056AA01
4F056CC27
4F056CC69
4F056DD04
4F056DD44
4F056EE12
4F056EE20
4F056FF07
4F056FF11
4F056FF20
4F056GG01
4F056GG02
4F056GG05
(57)【要約】
【課題】
優れた表面導通性を有することで静電気の発生が抑制され、深みのある色味を表現することが可能であって、高級感を備えた皮革を提供する。
【解決手段】
天然皮革または合成皮革の表面に、帯電防止層、反射防止層が順に積層されていることを特徴とする皮革である。前記帯電防止層が、樹脂と屈折率1.6~2.1である導電性粒子とからなることが好ましく、前記帯電防止層の厚さが50nm~1μmであることが好ましい。前記反射防止層が、樹脂と屈折率1.2~1.45である低屈折率粒子とからなることが好ましく、前記反射防止層の厚さが50nm~1μmであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然皮革または合成皮革の表面に、帯電防止層、反射防止層が順に積層されていることを特徴とする皮革。
【請求項2】
前記帯電防止層が、樹脂と屈折率1.6~2.1である導電性粒子とからなることを特徴とする請求項1に記載の皮革。
【請求項3】
前記帯電防止層の厚さが50nm~1μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革。
【請求項4】
前記反射防止層が、樹脂と屈折率1.2~1.45である低屈折率粒子とからなることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の皮革。
【請求項5】
前記反射防止層の厚さが50nm~1μmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の皮革。
【請求項6】
前記反射防止層上の表面抵抗値が1.0×106~1.0×1011Ω/□であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気の発生を抑制するとともに、深みのある色味を有する皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用内装材、建築物内装材、家具、バッグ、靴等の用途において、皮革は高級感のある素材として利用されている。合成皮革においても天然皮革に劣らぬ高級感を備えた素材が開発され、その用途を拡げてきている。
【0003】
特に人体との接触が多いシート材等の用途では、静電気が発生し難い皮革が望まれており、これまで皮革の帯電防止加工については多数の提案がされてきた。たとえば、特許文献1には導電性の表皮層および導電性の繊維基材を有し、表皮層の表面抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1012Ω以下で、繊維基材の表面抵抗値が表皮層の表面抵抗値よりも低く、かつ接地間抵抗値が1.0×106Ω以上1.0×1011Ω以下である導電性合成皮革が開示されている。表皮層に導電性を付与するための導電剤として、カーボンブラック等のカーボン系導電性材料、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、もしくはアンチモン錫酸化物等の金属系導電性材料や界面活性剤が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の導電性合成皮革においては、帯電防止性に優れ合成皮革を得ることができるが、表皮層に粒子状の導電剤を含む皮革の表面は、色が白け、濡れたような深みのある色味を表現することができない。また、皮革表面の凹凸が目立たなくなるという欠点もある。結果として見栄えが良くなく、チープな表面感になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮革は、天然皮革または合成皮革の表面に、帯電防止層と反射防止層とをこの順に積層してなることを特徴とする皮革である。
【0007】
前記帯電防止層が、樹脂と屈折率1.6~2.1である導電性粒子とからなることが好ましい。前記帯電防止層の厚さが、50nm~1μmであることが好ましい。
【0008】
前記反射防止層が、樹脂と屈折率1.2~1.45である低屈折率粒子とからなることが好ましい。前記反射防止層の厚さが、50nm~1μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた表面導通性を有しながら、深みのある色味を有し、シボが明確となり高級感のある皮革を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の皮革(天然皮革ベース)の断面構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の皮革(合成皮革ベース)の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮革は、天然皮革または合成皮革をベースとして使用する。本発明における天然皮革としては、毛皮ではなく必要に応じて脱毛処理され鞣された革が適用される。原皮の種類や鞣し方法において限定されるものではなく、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、シカ等の哺乳類、ダチョウ等の鳥類、ウミガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ワニ等の爬虫類等の原皮が用いられる。鞣し方法としては、代表的なクロム鞣しやタンニン鞣しの他、アルミニウム鞣し、ジルコニウム鞣し、チタン鞣し、第二鉄塩鞣し等の鉱物鞣剤を利用するもの、アルデヒド鞣し等の有機系鞣剤を利用するもの、更にはナフタレン系合成鞣剤、フェノール系合成鞣剤、樹脂鞣剤等の合成鞣剤を利用した鞣し、セーム皮に代表される油脂鞣し等が挙げられる。
【0012】
本発明で用いられる天然皮革に対しては、水漬け、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、垢出し、再石灰漬け、脱灰・酵解の各準備工程を経た後に、革に柔軟性や耐熱性を付与する鞣し工程が施される。更に染色、加脂等の処理が施されていてもよい。また、天然皮革の表面にアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等からなる樹脂表皮層が積層されていてもよい。
【0013】
一方、本発明における合成皮革は、繊維から成る布帛基材とその表面に形成された樹脂表皮層とからなるものが挙げられる。前記布帛基材は、織物、編物、不織布等であることができる。前記布帛基材を構成する繊維素材としては、綿、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系等の合成繊維、アセテート系等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維が挙げられる。布帛基材は一般的な条件で精練、染色等の処理が施されていてもよい。
【0014】
前記樹脂表皮層を構成する主たる成分は合成樹脂であって、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも耐久性や質感の理由でウレタン樹脂が好ましい。前記樹脂表皮層にはその他の成分として顔料、染料、シリコーン等の添加剤が含まれていてもよい。
【0015】
樹脂表皮層の厚さは特に制限されないが、20~50μmであることが好ましい。樹脂表皮層の厚さが20~50μmの範囲であれば、均一な樹脂膜を形成することができるうえに柔軟性を損なうことがない。
【0016】
前記布帛基材の一方の表面に前記樹脂表皮層を積層する方法としては、離型紙等の表面に形成された前記樹脂表皮層を、接着層を介して張り合わせる方法が挙げられる。他に、乾燥や固化により樹脂表皮層となる樹脂組成物を前記布帛基材の一方の表面に塗布した後乾燥、固化する方法等が挙げられる。
【0017】
接着層を構成する材料としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも耐久性や高級感のある質感が得られるという理由でウレタン樹脂であることが好ましい。
【0018】
前記樹脂表皮層を構成するウレタン樹脂の成分は、一般にポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂と呼ばれるものであり、分子量400~4,000の、ポリアルキレンエーテルグリコール、末端に水酸基を有するポリエステルポリオール、ポリε-カプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等を単独あるいは混合して有機ジイソシアネートと反応させて得られるものが挙げられる。これらは、必要に応じて、2個の活性水素を有する化合物(鎖延長剤)で鎖延長させることもできる。
【0019】
前記ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンプロピレンオキシド付加物、末端にエチレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール、ビニルモノマーグラフト化ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0020】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール類と、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、フタル酸、トリメリット酸等のカルボン酸類と末端がヒドロキシル酸となるように反応させて得られるものが挙げられる。
【0021】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0022】
前記有機ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5’-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族イソシアネート;等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記鎖延長剤としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、水、ピペラジン、イソホロンジアミン、エチレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等、あるいはジメチロールプロピオン酸、アミノエタンスルホン酸へのエチレンオキサイド付加物等の親水性向上を可能とするグリコール類、ジアミン類を単独あるいは混合して用いることができる。
【0024】
アクリル樹脂は多官能アクリルモノマーや多官能アクリルオリゴマーまたその両方で構成される樹脂である。
【0025】
多官能アクリルモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート類、ポリイソシナネートとヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0026】
アクリル成分に用いる多官能アクリルオリゴマーは、例えば、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレート等の一般的なオリゴマーであり、これらのオリゴマーの中で主骨格が直鎖(分岐点がゼロ)又は、主骨格の分岐点が1つの物である。
【0027】
本発明の皮革では、前記天然皮革または前記合成皮革の表面に、帯電防止層が積層されている。前記帯電防止層は、樹脂と導電性粒子とからなる。前記導電性粒子は、その屈折率が1.6~2.1であることが好ましい。導電性粒子の屈折率がこの範囲内であると、皮革のシボの明確化という効果が得られる。そのような導電性粒子の例としては、ITO(酸化インジウムスズ)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、カーボン、カーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0028】
前記導電性粒子の一次粒子径は、10nm~100nmであることが好ましい。一次粒子径がこの範囲内であれば帯電防止の付与と皮革のシボの明確化という効果が得られる。
【0029】
前記帯電防止層を構成する樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、耐久性や高級感のある質感が得られるという理由でウレタン樹脂、アクリル樹脂であることが好ましい。
【0030】
ウレタン樹脂としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートポリオール等を単独あるいは混合してポリイソシアネートと反応させて得られるものが挙げられる。これらは、必要に応じて、2個の活性水素を有する化合物(鎖延長剤)で鎖延長させることもできる。アクリル樹脂としては、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレート等が挙げられる。
【0031】
前記帯電防止層の厚さは、50nm~1μmであることが好ましい。帯電防止層の厚さがこの範囲内であれば帯電防止の付与と皮革のシボの明確化という効果が得られる。
【0032】
前記帯電防止層に含有される前記導電性粒子の含有量は、固形分比率として30~90 質量%であることが好ましい。
【0033】
前記天然皮革または合成皮革の表面に前記帯電防止層を形成する方法としては、スプレー法、スリットコーター法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等の方法が挙げられる。なかでも自由な形状でパターンニング印刷が可能であること、薄膜塗工が可能であることから、インクジェット印刷法が好ましい。
【0034】
本発明の皮革は、前記帯電防止層の表面に、更に反射防止層が積層されている。前記反射防止層は、樹脂と屈折率が1.2~1.45である低屈折率粒子とからなる。ここでいう低屈折率粒子の『低』とは、前記導電性粒子の屈折率に比べて低い屈折率を有する粒子であることを意味する。前記低屈折率粒子の屈折率がこの範囲内であると、深みのある色を表現することが可能となる。そのような低屈折率粒子の例としては、SiO2(屈折率1.40)、中空シリカ(屈折率1.25)等の無機粒子、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、屈折率1.30)等の有機粒子が挙げられる。
【0035】
前記低屈折率粒子の一次粒子径は、10nm~300nmであることが好ましい。一次粒子径がこの範囲内であれば反射防止による濃色が得られるという効果が得られる。
【0036】
前記反射防止層を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、耐久性や高級な質感が得られるという理由で、アクリル樹脂、ウレタン樹脂であることが好ましい。
【0037】
ウレタン樹脂としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートポリオール等を単独あるいは混合してポリイソシアネートと反応させて得られるものが挙げられる。これらは、必要に応じて、2個の活性水素を有する化合物(鎖延長剤)で鎖延長させることもできる。アクリル樹脂としては、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリオールアクリレート等が挙げられる。
【0038】
前記反射防止層の厚さは、50nm~1μmであることが好ましい。反射防止層の厚さがこの範囲内であれば低反射による濃色という効果が得られると同時に、得られた皮革の表面抵抗値を1.0×106~1.0×1011Ω/□とすることができる。前記反射防止層の厚さが50nm未満では深みのある色を表現することができない。前記反射防止層の厚さが1μmを超えると、得られた皮革の表面抵抗値が大きくなりすぎて表面導通性が得られない。結果として、静電気防止の効果が得られにくくなる。
【0039】
前記帯電防止層の表面に前記反射防止層を形成する方法としては、スプレー法、スリットコーター法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。前記反射防止層は全面に形成されてもよく、一部に柄や模様として形成されてもよい。更に、異なるみかけの屈折率を有する複数の反射防止層が並んで、あるいは重ねられて配置・形成されていてもよい。含有する低屈折率粒子の種類や含有量を変えることにより、異なるみかけの屈折率を有する反射防止層を形成することができる。このように自由な形状で反射防止層を形成する方法としては、インクジェット印刷法が適している。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される
【0041】
[表面抵抗値]
高抵抗率計Hiresta-UP(日東精工アナリテック株式会社製)を用いて実施例および比較例で得られた皮革の表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
[色差(ΔL*)]
積分球分光光度計Color-i5(X-Rite社製)を用いて繊維質複合材の表面、すなわち樹脂表皮層の表面を測色した。次に、実施例、比較例で得られた皮革の表面を測色した。皮革の表面とは、実施例においては反射防止層の表面、比較例においては帯電防止層の表面にあたる。光源としてD65を用いた。皮革表面の明度から繊維質複合材表面の明度を差し引いて、色差ΔL*を算出した。色差ΔL*が負の値である場合、濃色効果が得られたと判断できる。
[シボの明確化効果]
目視によってシボの明確化を評価した。繊維質複合材の表面、すなわち樹脂表皮層の表面には離型紙のエンボスパターンを写し取ったシボ(凹凸意匠)が形成されている。実施例、比較例で得られた皮革表面のシボを目視にて評価し、樹脂表皮層表面におけるシボに対して皮革表面におけるシボがより明確に視認される場合を◎、シボに変化がない場合を〇、シボが弱く視認される場合を×とする。
【0042】
[製造例1:ポリウレタン樹脂組成物a]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(クリスボンNY-328;DIC株式会社製)100質量部に対して、ジメチルホルムアミド25質量部とメチルエチルケトン25質量部を加えた。さらに、ペリレンブラック顔料(Lumogen Black FK4280;BASF社製)15質量部を加え、ポリウレタン樹脂組成物aを調製した。
【0043】
[製造例2:ポリウレタン樹脂組成物b(接着用ポリウレタン樹脂組成物)]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(TA-205;DIC株式会社製)100質量部に対して、ジメチルホルムアミド40質量部を加え、ポリウレタン樹脂組成物bを調製した。
【0044】
ポリウレタン樹脂組成物aを離型紙(PXD R-86;リンテック株式会社製)上に、乾燥後の膜厚が40μmとなるように塗布し、乾燥機にて100℃で2分間処理して、樹脂表皮層となるウレタン樹脂層Aを形成した。このウレタン樹脂層Aの屈折率は1.59であった。
【0045】
次いで、ポリウレタン樹脂組成物b(接着用ポリウレタン樹脂組成物)を、ウレタン樹脂層A上に、乾燥後の膜厚が80μmとなるように塗布し、乾燥機にて100℃で1分間処理してウレタン樹脂層B(接着層)を形成し、2層構造のウレタン樹脂層を有するウレタン樹脂積層離型材を作製した。
【0046】
次いで、前記ウレタン樹脂積層離型材のウレタン樹脂層Bの面をベース層であるポリエステルトリコット編地の一方の面に貼り合わせ、392.3kPaで4秒間プレス圧着した後離型紙を剥離し、接着層(ウレタン樹脂層B)を介してベース層に樹脂表皮層(ウレタン樹脂層A)が積層された繊維質複合材を作製した。
【0047】
[実施例1]
下記の処方1に従い調製した帯電防止層用ポリウレタン樹脂液を、上述の繊維質複合材の樹脂表皮層表面にバーコータ-(wet:4μm)にてコーティングした後、100℃で60分間乾燥し、厚さ250nmの帯電防止層を形成した。次に下記の処方2に従い調製した反射防止層用ポリウレタン樹脂液を、帯電防止層上にバーコータ-(wet:6μm)にてコーティングした後、100℃で60分間乾燥し、厚さ120nmの反射防止層を形成して本発明の皮革を得た。
【0048】
処方1(帯電防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネートジオール(ベネビオールNL2030DB、三菱ケミカル株式会社製、固形分100質量%):1質量部
・ポリイソシアネート(コロネート2770、東ソー株式会社製、固形分100質量%):0.23質量部
・熱塩基発生剤(U-CAT1102、サンノプコ株式会社製):0.01質量部
・ATO分散体(EA-D、大日本塗料株式会社製、固形分40質量%):12.4質量部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:110.4質量部
【0049】
処方2(反射防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネートジオール(ベネビオールNL2030DB、三菱ケミカル株式会社製、固形分100質量%):2質量部
・ポリイソシアネート(コロネート2770、東ソー株式会社製、固形分100質量%):0.5質量部
・熱塩基発生剤(U-CAT1102、サンノプコ株式会社製):0.01質量部
・中空シリカ分散体(スルーリア、日揮触媒化成株式会社製、固形分25質量%):2.5質量部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:95質量部
【0050】
帯電防止層に含まれる導電性粒子(ATO)は、屈折率が2.00であり、一次粒子径は30~40nm、ATO粒子の含有比率は約80質量%である。また反射防止層に含まれる低屈折率粒子は中空シリカで屈折率は1.25であり、一次粒子径は50nmである。得られた皮革の表面抵抗値は7.3×108Ω/□であった。色差は-2.4であり、シボが明確化されていることが確認できた。
【0051】
[実施例2]
処方1に替えて、下記の処方3に従い調製した帯電防止層用ポリウレタン樹脂液を用いたこと以外は実施例1と同様にして本発明の皮革を得た。
【0052】
処方3(帯電防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネートジオール(ベネビオールNL2030DB、三菱ケミカル株式会社製、固形分100質量%):1質量部
・ポリイソシアネート(コロネート2770、東ソー株式会社製、固形分100質量%):0.23質量部
・熱塩基発生剤(U-CAT1102、サンノプコ株式会社製):0.01質量部
・AZO分散体(商品名「9407 ZO」、株式会社トクシキ製、固形分30質量%):16.4質量部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:106.8質量部
【0053】
帯電防止層に含まれる導電性粒子はAZOで屈折率は1.80であり、一次粒子径は20~40nmである。AZO粒子の含有比率は約80質量%である。得られた皮革の表面抵抗値は5.6×109Ω/□であった。色差は-2.8であり、シボが明確化されていることが確認できた。
【0054】
[実施例3]
処方1に替えて、下記の処方4に従い調製した帯電防止層用ポリウレタン樹脂液を用い、バーコータ-(wet:8μm)にてコーティングして厚さ720nmの帯電防止層を形成したこと以外は実施例1と同様にして本発明の皮革を得た。
【0055】
処方4(帯電防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネートジオール(ベネビオールNL2030DB、三菱ケミカル株式会社製、固形分100質量%):4質量部
・ポリイソシアネート(コロネート2770、東ソー株式会社製、固形分100質量%):1質量部
・熱塩基発生剤(U-CAT1102、サンノプコ株式会社製):0.01質量部
・ATO分散体(商品名EA-D、大日本塗料株式会社製、固形分40質量%):12.4質量部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:110.4質量部
【0056】
帯電防止層に含まれる導電性粒子はATOで屈折率は2.00であり、一次粒子径は30~40nmである。ATO粒子の含有比率は約50質量%である。また反射防止層に含まれる低屈折率粒子は中空シリカで屈折率は1.25であり、一次粒子径は50nmである。得られた皮革の表面抵抗値は8.3×1010Ω/□であった。色差は-1.2であり、シボが明確化されていることが確認できた。
【0057】
[実施例4]
処方2に替えて、下記の処方5に従い調製した反射防止層用ポリウレタン樹脂液を、バーコータ-(wet:8μm)にてコーティングして厚さ500nmの反射防止層を形成したこと以外は実施例1と同様にして本発明の皮革を得た。
【0058】
処方5(反射防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネートジオール(ベネビオールNL2030DB、三菱ケミカル株式会社製、固形分100質量%):4質量部
・ポリイソシアネート(コロネート2770、東ソー株式会社製、固形分100質量%):1質量部
・熱塩基発生剤(U-CAT1102、サンノプコ株式会社製):0.01質量部
・中空シリカ分散体(スルーリア、日揮触媒化成株式会社製、固形分25質量%):5質量部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル:90質量部
【0059】
得られた皮革の表面抵抗値は2.4×1010Ω/□であった。色差は-3.4であり、シボが明確化されていることが確認できた。
【0060】
[実施例5]
処方2に替えて、下記の処方6に従い調製した反射防止層用ポリウレタン樹脂液を、バーコータ-(wet:4μm)にてコーティングした後、130℃で2分間乾燥し、厚さ250nmの反射防止層を形成したこと以外は実施例1と同様にして本発明の皮革を得た。
【0061】
処方6(反射防止層用ポリウレタン樹脂液)
・ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(RU-40-350、スタール・ジャパン株式会社製、固形分40質量%):113質量部
・平滑剤(HM-183、スタール・ジャパン株式会社製、固形分30質量%):3質量部
・架橋剤(XR-78-017、スタール・ジャパン株式会社製、固形分50質量%):1質量部
・PTFE水分散体(D-210C、ダイキン工業株式会社製、固形分60質量%): 26質量部
・水:857質量部
【0062】
反射防止層に含まれる低屈折率粒子はPTFEで屈折率は1.30であり、一次粒子径は200nmである。得られた皮革の表面抵抗値は4.1×109Ω/□であった。色差は-1.8であり、シボが明確化されていることが確認できた。
【0063】
[比較例1]
反射防止層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、厚さ250nmの帯電防止層のみが積層された皮革を得た。得られた皮革の表面抵抗値は6.5×108Ω/□であった。シボの明確化は確認できたが、色差が+3.4であって濃色化されておらず、深みのある色味を表現することができていなかった。
【0064】