(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023569
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】放射性物質の除染方法、及び放射性物質の除染キット
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20230209BHJP
G21F 9/10 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
G21F9/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129198
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
(72)【発明者】
【氏名】宇智田 俊一郎
(57)【要約】
【課題】ゼオライトを用いる必要がない、新規の放射性物質の除染方法の提供。
【解決手段】放射性物質を含む水と、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、を混合することにより、第1混合液を得る工程(A)と、前記第1混合液と、カルシウム塩と、を混合することにより、前記他の塩由来の成分が固溶しており、かつ、前記放射性物質を取り込んでいるケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生成させて、前記沈殿と、前記水と、を含む第2混合液を得る工程(B)と、を有し、前記放射性物質が放射性ストロンチウムであり、前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない、放射性物質の除染方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質の除染方法であって、
前記除染方法は、前記放射性物質を含む水と、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、を混合することにより、第1混合液を得る工程(A)と、
前記第1混合液と、カルシウム塩と、を混合することにより、前記他の塩由来の成分が固溶しており、かつ、前記放射性物質を取り込んでいるケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生成させて、前記沈殿と、前記水と、を含む第2混合液を得る工程(B)と、を有し、
前記放射性物質が放射性ストロンチウムであり、
前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない、放射性物質の除染方法。
【請求項2】
前記他の塩が、リン酸三アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸一水素ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の放射性物質の除染方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、前記他の塩の使用量が、前記メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、2~140質量部である、請求項1又は2に記載の放射性物質の除染方法。
【請求項4】
前記カルシウム塩が塩化カルシウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の放射性物質の除染方法。
【請求項5】
前記工程(B)の後に、さらに、前記第2混合液から前記沈殿を分離する工程(C)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の放射性物質の除染方法。
【請求項6】
放射性物質の除染に用いるための除染キットであって、
前記除染キットは、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、カルシウム塩と、を備えており、
前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない、放射性物質の除染キット。
【請求項7】
前記放射性物質が放射性ストロンチウムである、請求項6に記載の放射性物質の除染キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質の除染方法、及び放射性物質の除染キットに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー分野において、原子力は、化石燃料の利用時とは異なり、地球温暖化物質の排出量を削減できるなど、環境保護の点で有利であると、従来言われてきた。
しかし、放射性物質は、生活環境内に漏出すると、幅広く生体に大きなダメージを与えるため、放射性物質を取り除く、いわゆる除染技術の開発も、重要なテーマとなっている。
【0003】
例えば、東日本大震災では、放射性物質の広範な漏出が大きな問題となり、その除染は、大きな負荷となっている。この場合、放射性物質を含む処理溶液が発生しており、このような処理溶液からの放射性物質の除去は、おもにゼオライトを用い、これに放射性物質を吸着させることによって行われている。
【0004】
しかし、ゼオライトによる放射性物質の吸着では、例えば、ゼオライトの種類によって放射性物質の吸着量が変化したり、濃度が低い放射性物質は吸着できないなど、除染効果が安定しないという問題点があった。
【0005】
これに対して、ゼオライトを用いない放射性物質の除染方法としては、放射性セシウムを含む水の共存下で、メタケイ酸ナトリウムとカルシウム塩を反応させることにより、ケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生じさせ、このとき、放射性セシウムをケイ酸カルシウム水和物に吸着させ、固定する除染方法が開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小嶋 芳行「高濃度汚染水用メタ珪酸ナトリウムを用いた汚染水処理技術」、2014年4月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の除染方法は、ゼオライトを用いた場合の問題点を解決できるものであり、99%程度の除去率での、除染対象物からの放射性セシウムの除去を可能とする。しかし、放射性物質の除去率は、まだ改善の余地が残されている。
【0008】
本発明は、ゼオライトを用いる必要がない、新規の放射性物質の除染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1].放射性物質の除染方法であって、前記除染方法は、前記放射性物質を含む水と、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、を混合することにより、第1混合液を得る工程(A)と、前記第1混合液と、カルシウム塩と、を混合することにより、前記他の塩由来の成分が固溶しており、かつ、前記放射性物質を取り込んでいるケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生成させて、前記沈殿と、前記水と、を含む第2混合液を得る工程(B)と、を有し、前記放射性物質が放射性ストロンチウムであり、前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない、放射性物質の除染方法。
[2].前記他の塩が、リン酸三アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸一水素ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]に記載の放射性物質の除染方法。
[3].前記工程(A)において、前記他の塩の使用量が、前記メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、2~140質量部である、[1]又は[2]に記載の放射性物質の除染方法。
【0010】
[4].前記カルシウム塩が塩化カルシウムである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の放射性物質の除染方法。
[5].前記工程(B)の後に、さらに、前記第2混合液から前記沈殿を分離する工程(C)を有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の放射性物質の除染方法。
[6].放射性物質の除染に用いるための除染キットであって、前記除染キットは、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、カルシウム塩と、を備えており、前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない、放射性物質の除染キット。
[7].前記放射性物質が放射性ストロンチウムである、[6]に記載の放射性物質の除染キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゼオライトを用いる必要がない、新規の放射性物質の除染方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<放射性物質の除染方法>>
本発明の一実施形態に係る放射性物質の除染方法は、前記放射性物質を含む水(本明細書においては、「放射性物質含有水」と称することがある)と、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩(本明細書においては、「他の塩」と略記することがある)と、を混合することにより、第1混合液を得る工程(A)と、前記第1混合液と、カルシウム塩と、を混合することにより、前記他の塩由来の成分が固溶しており、かつ、前記放射性物質を取り込んでいるケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生成させて、前記沈殿と、前記水と、を含む第2混合液を得る工程(B)と、を有し、前記放射性物質が放射性ストロンチウムであり、前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない。
【0013】
本実施形態の除染方法によれば、ゼオライトを用いずに、放射性物質の良好な除去率を達成でき、従来よりも高い放射性物質の除去率も達成可能である。例えば、ゼオライトを用いた場合には、放射性物質をゼオライトに吸着させることによって、除染対象物から放射性物質を除去可能であるが、ゼオライトの種類によって放射性物質の吸着量が変化したり、濃度が低い放射性物質は吸着できないなど、除染効果が安定しないことがある。これに対して、本実施形態の除染方法では、ゼオライトを用いないため、このような不具合を回避できる。
【0014】
上述の非特許文献1には、ゼオライトを用いない放射性物質の除染方法として、放射性セシウムを含む水の共存下で、メタケイ酸ナトリウムとカルシウム塩を反応させることにより、ケイ酸カルシウム水和物(CaSiO3・2H2O、本明細書においては「CSH」と略記することがある)の沈殿を生じさせ、このとき、放射性セシウムをケイ酸カルシウム水和物に吸着させ、固定する除染方法が開示されている。
これに対して、本実施形態の除染方法では、異なる種類のケイ酸カルシウム水和物を生成させることによって、より高い放射性物質の除去率も達成可能である。
【0015】
<工程(A)>
前記工程(A)においては、前記放射性物質含有水と、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)と、前記他の塩と、を混合することにより、第1混合液を得る。
工程(A)においては、これら以外の他の成分(本明細書においては、「他の成分(1)」と称することがある)を混合してもよい。
【0016】
[放射性物質含有水]
前記放射性物質含有水は、本実施形態における除染対象物である。
放射性物質含有水は、少なくとも、前記放射性物質及び水を含み、これら以外の成分(本明細書においては、「他の成分(2)」と称することがある)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の成分(2)は、放射性物質と、水と、メタケイ酸ナトリウムと、前記他の塩と、のいずれにも該当しない成分である。
【0017】
前記放射性物質は放射性ストロンチウムである。
前記放射性ストロンチウムとしては、例えば、ストロンチウム89(89Sr)、ストロンチウム90(90Sr)が挙げられる。
放射性物質含有水が含む放射性物質が2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0018】
放射性物質含有水が含む前記他の成分(2)は、本発明の効果を損なわない限り、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
他の成分(2)は、例えば、有機成分及び無機成分のいずれであってもよい。
【0019】
放射性物質含有水は、例えば、溶液及び分散液のいずれであってもよい。
天然由来成分を含む放射性物質含有水としては、例えば、放射性物質を含む土壌の洗浄物、放射性物質を含む海水、放射性物質を含む河川水、及び、前記洗浄物、海水又は河川水の水による希釈物等が挙げられる。
すなわち、放射性物質含有水が含む他の成分(2)としては、土壌の含有成分、海水の含有成分、河川水の含有成分等が挙げられる。
【0020】
放射性物質含有水が含む他の成分(2)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0021】
放射性物質含有水における、放射性物質含有水の総質量(質量部)に対する、放射性物質の含有量(質量部)の割合(すなわち、放射性物質含有水の放射性物質の濃度)は、0.5~25mg/Lであることが好ましく、1~20mg/Lであることがより好ましく、3~15mg/Lであることがさらに好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、放射性物質の除去率がより高くなる。
例えば、最初に入手した放射性物質含有水において、前記割合が高過ぎる場合には、前記割合が上記のいずれかの数値範囲内となるように、放射性物質含有水を水で希釈することが好ましい。
【0022】
[メタケイ酸ナトリウム]
メタケイ酸ナトリウム(本明細書においては、「SMS」と略記することがある)としては、メタケイ酸ナトリウム九水和物(Na2SiO3・9H2O)を用いてもよい。
【0023】
メタケイ酸ナトリウムは、単独で混合してもよいし、他の成分(本明細書においては、「他の成分(3)」と称することがある)との混合物の状態で混合してもよい。他の成分(3)は、メタケイ酸ナトリウムに該当しない成分である。
【0024】
メタケイ酸ナトリウムと前記他の成分(3)との混合物としては、例えば、メタケイ酸ナトリウム溶液が挙げられ、メタケイ酸ナトリウム水溶液が好ましい。すなわち、他の成分(3)としては、溶媒成分が挙げられ、水が好ましい。
【0025】
メタケイ酸ナトリウム水溶液における、メタケイ酸ナトリウム水溶液の総質量(質量部)に対する、メタケイ酸ナトリウムの含有量(質量部)の割合(すなわち、メタケイ酸ナトリウム水溶液のメタケイ酸ナトリウムの濃度)は、10~100g/Lであることが好ましく、例えば、20~85g/L、及び30~70g/Lのいずれかであってもよい。前記割合がこのような範囲であることで、放射性物質をより容易に除染できる。
【0026】
工程(A)において、メタケイ酸ナトリウムの使用量(質量部)は、放射性物質含有水の放射性物質の含有量(質量部)に対して、200~3500質量倍であることが好ましく、400~3300質量倍であることがより好ましく、例えば、400~1900質量倍であってもよいし、1900~3300質量倍であってもよい。前記使用量が前記下限値以上であることで、放射性物質の除去率がより高くなる。前記使用量が前記上限値以下であることで、メタケイ酸ナトリウムの過剰使用が抑制される。
【0027】
[他の塩]
前記他の塩は、メタケイ酸ナトリウム以外の塩であれば、特に限定されず、有機塩及び無機塩のいずれであってもよいが、無機塩であることが好ましい。
【0028】
好ましい前記他の塩としては、例えば、リン酸三アンモニウム((NH4)3PO4)、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)等のリン酸塩;リン酸一水素アンモニウム(別名:リン酸水素二アンモニウム、(NH4)2HPO4)、リン酸一水素ナトリウム(別名:リン酸水素二ナトリウム、Na2HPO4)等のリン酸一水素塩等が挙げられる。
リン酸三アンモニウムとしては、リン酸三アンモニウム三水和物((NH4)3PO4・3H2O)を用いてもよく、リン酸三ナトリウムとしては、リン酸三ナトリウム十二水和物(Na3PO4・12H2O)を用いてもよい。
これらはいずれも、安価な原料であり、放射性物質の除染をより低コストで行うことができる点で、特に有利である。
【0029】
放射性物質含有水等と混合する前記他の塩は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0030】
放射性物質の除去率がより高くなる点では、前記他の塩は、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、リン酸三アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸一水素ナトリウムからなる群より選択される1種又は2種以上であることがさらに好ましい。
【0031】
前記他の塩は、単独で混合してもよいし、他の成分(本明細書においては、「他の成分(4)」と称することがある)との混合物の状態で混合してもよい。他の成分(4)は、メタケイ酸ナトリウム以外の塩に該当しない成分である。
【0032】
前記他の塩と前記他の成分(4)との混合物としては、例えば、他の塩の溶液が挙げられ、他の塩の水溶液が好ましい。すなわち、他の成分(4)としては、溶媒成分が挙げられ、水が好ましい。
【0033】
前記他の塩の水溶液における、他の塩の水溶液の総質量(質量部)に対する、他の塩の含有量(質量部)の割合(すなわち、他の塩の水溶液の、他の塩の濃度)は、10~100g/Lであることが好ましく、例えば、20~85g/L、及び30~70g/Lのいずれかであってもよい。前記割合がこのような範囲であることで、放射性物質をより容易に除染できる。
【0034】
工程(A)において、前記他の塩の使用量は、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、2~160質量部であることが好ましく、2~140質量部であることがより好ましく、例えば、2~60質量部であってもよいし、60~140質量部であってもよい。前記使用量が前記下限値以上であることで、放射性物質の除去率がより高くなる。前記使用量が前記上限値以下であることで、前記他の塩の過剰使用が抑制される。
【0035】
[他の成分(1)]
前記他の成分(1)は、前記放射性物質含有水と、メタケイ酸ナトリウムと、前記他の塩と、のいずれにも該当しない成分であれば、特に限定されない。
【0036】
放射性物質含有水等と混合する他の成分(1)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0037】
工程(A)においては、上述のいずれかの成分の温度と、第1混合液を得るまでの、上述のいずれかの成分の混合物(本明細書においては、「第1中間混合物」と称することがある)の温度と、第1混合液の温度とは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、前記温度は、10~40℃、15~35℃、及び18~28℃のいずれかであってもよい。
【0038】
工程(A)においては、例えば、上述のいずれかの成分又は前記第1中間混合物を撹拌しながら、第1混合液を調製してもよいし、上述のいずれかの成分又は前記第1中間混合物を撹拌せずに、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌することによって、第1混合液を調製してもよい。
【0039】
工程(A)においては、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌する時間は、特に限定されないが、1~60分であることが好ましい。
【0040】
<工程(B)>
前記工程(B)においては、前記第1混合液と、カルシウム塩と、を混合することにより、前記他の塩由来の成分が固溶しており、かつ、前記放射性物質を取り込んでいるケイ酸カルシウム水和物の沈殿を生成させて、前記沈殿と、前記水と、を含む第2混合液を得る。
本明細書においては、上述の、前記他の塩由来の成分が固溶しているケイ酸カルシウム水和物を、「改良CSH」と略記することがある。
工程(B)においては、これら以外の他の成分(本明細書においては、「他の成分(5)」と称することがある)を混合してもよい。
【0041】
[カルシウム塩]
前記カルシウム塩は、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しないものであればよく、有機化合物のカルシウム塩及び無機化合物のカルシウム塩のいずれであってもよいが、無機化合物のカルシウム塩であることが好ましい。
【0042】
前記無機化合物のカルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、硫酸カルシウム(CaSO4)等が挙げられる。硝酸カルシウムは硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)であってもよく、硫酸カルシウムは硫酸カルシウム二水和物(CaSO4・2H2O、別名:二水セッコウ)であってもよい。
【0043】
第1混合液等と混合する前記カルシウム塩は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0044】
放射性物質の除去率がより高くなる点では、前記カルシウム塩は、塩化カルシウムであることが好ましい。
【0045】
前記カルシウム塩は、単独で混合してもよいし、他の成分(本明細書においては、「他の成分(6)」と称することがある)との混合物の状態で混合してもよい。他の成分(6)は、カルシウム塩に該当しない成分である。
【0046】
前記カルシウム塩と前記他の成分(6)との混合物としては、例えば、カルシウム塩溶液が挙げられ、カルシウム塩水溶液が好ましい。すなわち、他の成分(6)としては、溶媒成分が挙げられ、水が好ましい。
【0047】
前記カルシウム塩水溶液における、カルシウム塩水溶液の総質量(質量部)に対する、カルシウム塩の含有量(質量部)の割合(すなわち、カルシウム塩水溶液のカルシウム塩の濃度)は、10~100g/Lであることが好ましく、例えば、20~85g/L、及び30~70g/Lのいずれかであってもよい。前記割合がこのような範囲であることで、放射性物質をより容易に除染できる。
【0048】
工程(B)において、前記カルシウム塩の使用量は、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、20~160質量部であることが好ましく、30~140質量部であることがより好ましく、例えば、30~80質量部であってもよいし、80~140質量部であってもよい。前記使用量が前記下限値以上であることで、放射性物質の除去率がより高くなる。前記使用量が前記上限値以下であることで、カルシウム塩の過剰使用が抑制される。
【0049】
工程(B)においては、メタケイ酸ナトリウムと、前記他の塩と、前記カルシウム塩とによって、前記他の塩由来の成分が固溶しているケイ酸カルシウム水和物(改良CSH)の沈殿が生成する。この改良CSHは、放射性物質を取り込んでいる。
改良CSHに固溶している、前記他の塩由来の成分とは、水に溶解した前記他の塩から生成したアニオンであり、リン酸塩及びリン酸一水素塩の場合にはリン酸イオン(PO4
3-)である。
【0050】
例えば、リン酸塩又はリン酸一水素塩由来の成分が固溶しているケイ酸カルシウム水和物(改良CSH、リン酸固溶ケイ酸カルシウム水和物)は、下記一般式(I):
Ca(SiO3)m1(PO4)n1H2 (I)
(式中、m1及びn1は、それぞれ独立に1未満の正の数であり、ただし、m1+n1=1である。)」
で表される。
【0051】
一般式(I)中、m1は、0<m1<1の条件を満たし、n1は、0<n1<1の条件を満たし、m1及びn1は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、m1+n1=1である。
m1及びn1は、例えば、工程(A)におけるメタケイ酸ナトリウムの使用量と、リン酸塩及びリン酸一水素塩の合計使用量により、決定される。
m1は、例えば、0.6~0.9であってもよく、n1は、例えば、0.1~0.4であってもよい。
【0052】
先に説明した非特許文献1には、放射性セシウムを含む水の共存下で、メタケイ酸ナトリウムとカルシウム塩を反応させることにより、ケイ酸カルシウム水和物(CSH)の沈殿を生じさせ、このとき、放射性セシウムをCSHに吸着させ、固定することが開示されている。
これに対して、本実施形態の除染方法は、ケイ酸カルシウム水和物(CSH)において、前記他の塩由来の成分が固溶している点で、非特許文献1に記載の方法と相違する。本実施形態の除染方法は、このような改良CSHを生成させることで、放射性物質の取り込み量が増大していると推測される。例えば、改良CSHのうち、リン酸固溶ケイ酸カルシウム水和物の場合には、メタケイ酸イオン(SiO3
2-)よりも、リン酸イオン(PO4
3-)の方が、価数が大きいため、放射性物質のカチオン(例えば、Sr2+)をより取り込み易いと推測される。
また、前記他の塩が、メタケイ酸ナトリウムとカルシウム塩との反応を妨げることなく、前記他の塩自体も良好な反応性を有しているため、本実施形態の除染方法においては、改良CSHが速やかに形成され、放射性物質が速やかに取り込まれる。
【0053】
[他の成分(5)]
前記他の成分(5)は、前記第1混合液と、前記カルシウム塩と、のいずれにも該当しない成分であれば、特に限定されない。
【0054】
第1混合液等と混合する他の成分(5)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0055】
工程(B)においては、上述のいずれかの成分の温度と、第2混合液を得るまでの、上述のいずれかの成分の混合物(本明細書においては、「第2中間混合物」と称することがある)の温度と、第2混合液の温度とは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、前記温度は、10~40℃、15~35℃、及び18~28℃のいずれかであってもよい。
【0056】
工程(B)においては、例えば、上述のいずれかの成分又は前記第2中間混合物を撹拌しながら、第2混合液を調製してもよいし、上述のいずれかの成分又は前記第2中間混合物を撹拌せずに、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌することによって、第2混合液を調製してもよい。
【0057】
工程(B)においては、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌する時間は、特に限定されないが、1~60分であることが好ましい。
工程(B)においては、前記改良CSHが迅速に形成されるため、本実施形態の除染方法を、短時間で行うことが可能である。
【0058】
工程(B)で生成する改良CSHは、水への溶解性が低いため、第2混合液中では沈殿する。すなわち、除染対象物である前記放射性物質含有水に含まれていた放射性物質は、改良CSH中に取り込まれて、第2混合液中においては、溶媒成分である水から分離され、除染される。
【0059】
<他の工程>
本実施形態の除染方法は、必要に応じて、工程(A)と、工程(B)と、のいずれにも該当しない他の工程を有していてもよい。
前記他の工程は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の工程を行うタイミングは、他の工程の種類に応じて、適宜選択できる。
【0060】
[工程(C)]
例えば、本実施形態の除染方法は、前記工程(B)の後に、さらに、前記第2混合液から前記沈殿を分離する工程(C)を有していてもよい。
前記工程(C)を行うことにより、除染対象物である前記放射性物質含有水に含まれていた放射性物質は、目的物から完全に分離される。
【0061】
工程(C)において、前記沈殿は、公知の方法により、第2混合液から分離できる。
例えば、第2混合液を静置して、前記沈殿を沈降させた後、前記沈殿を含まない、第2混合液の上層部位を取り出すことにより、固液分離する方法;紙製、布製、樹脂製又は多孔質材料製の膜を用いて、第2混合液をろ過することにより、前記沈殿をろ別する方法;遠心分離によって、第2混合液を固液分離する方法等が挙げられる。
これらはいずれも、簡略化された方法であるため、放射性物質の除染をより低コストで行うことができる点で、特に有利である。
【0062】
本実施形態の除染方法により、放射性物質の除去率を、99.1%以上とすることが可能であり、例えば、99.5%以上、99.7%以上、及び99.9%以上のいずれかとすることも可能である。
放射性物質含有水中の放射性物質の量、除染後の放射性物質含有水中の放射性物質の量など、目的物中の放射性物質の量(濃度)は、例えば、ICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP-MS)、原子吸光法等によって、測定できる。
【0063】
以上の説明のように、本実施形態の除染方法によれば、低コストかつ短時間で、種々の除染対象物に対して、良好な除去率で放射性物質を除染できる。また、CSHの形成時に、カルシウム塩に加えてさらに前記他の塩を併用して改良CSHを形成することで、放射性物質の除去率が向上しており、このような前記他の塩の併用効果は、従来全く知られていない。
【0064】
<<放射性物質の除染キット>>
本発明の一実施形態に係る放射性物質の除染キットは、メタケイ酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩と、カルシウム塩と、を備えており、前記他の塩が、リン酸塩及びリン酸一水素塩からなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記カルシウム塩が、メタケイ酸塩と、リン酸塩と、リン酸一水素塩と、のいずれにも該当しない。
前記除染キットは、上述の本発明の一実施形態に係る放射性物質の除染方法で用いるのに好適である。
前記除染キットを用いることで、ゼオライトを用いずに、放射性物質の良好な除去率を達成でき、従来よりも高い放射性物質の除去率も達成可能である。
【0065】
本実施形態の除染キットにおける前記メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩、及びカルシウム塩は、それぞれ、上述の放射性物質の除染方法におけるメタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム以外の他の塩(前記他の塩)、及びカルシウム塩と同じである。
【0066】
前記除染キットが備える前記他の塩、及びカルシウム塩は、それぞれ、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0067】
前記除染キットが備える前記メタケイ酸ナトリウムの量は、除染対象物中の放射性物質の量を考慮して適宜調節でき、特に限定されない。
【0068】
前記除染キットが備える前記他の塩の量は、特に限定されない。
例えば、除染キットが備えるメタケイ酸ナトリウムの量100質量部に対する、除染キットが備える前記他の塩の量が、先に説明した、工程(A)における、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対する、前記他の塩の使用量と、同様であってもよい。
【0069】
前記除染キットが備える前記カルシウム塩の量は、特に限定されない。
例えば、除染キットが備えるメタケイ酸ナトリウムの量100質量部に対する、除染キットが備える前記カルシウム塩の量が、先に説明した、工程(B)における、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対する、前記カルシウム塩の使用量と、同様であってもよい。
【0070】
前記除染キットは、前記メタケイ酸ナトリウムと、前記他の塩と、前記カルシウム塩と、のいずれにも該当しない、他の成分(本明細書においては、「他の成分(7)」と称することがある)を備えていてもよい。
前記他の成分(7)としては、例えば、前記工程(A)で用いてもよい前記他の成分(1)、前記工程(B)で用いてもよい前記他の成分(5)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
前記除染キットが備える前記他の成分(7)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0072】
前記除染キットは、例えば、前記メタケイ酸ナトリウム、他の塩、カルシウム塩、及び必要に応じて他の成分(7)をそれぞれ、容器又は包装体中に収納した状態で備える。
前記容器及び包装体は、樹脂製又は金属製等で、目的物を密封して収納可能なもの等、公知のものであってよい。
【0073】
前記除染キットは、例えば、前記メタケイ酸ナトリウム、他の塩、カルシウム塩、及び必要に応じて他の成分(7)をそれぞれ、一纏めに保持して備えている。
例えば、前記除染キットは、これら各成分を一の収納箱内に一纏めに収納することによって、保持していてもよい。
【0074】
前記除染キットは放射性ストロンチウムの除染用であるもの(前記放射性物質が放射性ストロンチウムであること)が好ましい。
【実施例0075】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されない。
【0076】
<<放射性物質の除染>>
[実施例1]
常温下で、放射性ストロンチウムを10mg/Lの濃度で含む水(100mL)と、メタケイ酸ナトリウムを50g/Lの濃度で含む水溶液(36.9mL)と、リン酸水素二アンモニウムを50g/Lの濃度で含む水溶液(1.7mL)と、を混合することにより、第1混合液を得た(工程(A))。上述の放射性ストロンチウムの濃度は、ICP-MSにより測定した。第1混合液を得るまでの間、上述のいずれかの成分又は前記第1中間混合物を撹拌しながら、第1混合液を調製した。また、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌する時間は、10分とした。
【0077】
次いで、常温下で、この第1混合液の全量と、塩化カルシウムを50g/Lの濃度で含む水溶液(16mL)と、を混合することにより、リン酸固溶ケイ酸カルシウム水和物(改良CSH)の沈殿を生成させ、第2混合液を得た(工程(B))。第2混合液を得るまでの間、上述のいずれかの成分又は前記第2中間混合物を撹拌しながら、第2混合液を調製した。また、すべての成分を添加後に、得られたものを撹拌する時間は、10分とした。
【0078】
得られた第2混合液中の均一な上澄み部分について、ICP-MSにより、放射性ストロンチウムの濃度を測定した。そして、下記式により、放射性物質の除去率を算出した。結果を表2に示す。
[放射性物質の除去率(%)]=([放射性物質含有水の放射性物質の濃度]-[第2混合液中の均一な上澄み部分の放射性物質の濃度])/[放射性物質含有水の放射性物質の濃度]×100
【0079】
[実施例2~11、比較例1]
各成分の種類及び使用量のうち、1又は2以上を、表1~2に示すように変更した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、放射性物質を除染し、放射性物質の除去率を算出した。結果を表2に示す。
例えば、実施例2~5、7、8では、実施例1の場合と同様に、放射性物質含有水として、放射性ストロンチウムを含む水を用いたのに対し、実施例6では、放射性物質含有水として、放射性ストロンチウムを含む海水を用いた。また、実施例9では、放射性物質含有水として、3g/Lの濃度で硝酸ナトリウム含み、かつ放射性ストロンチウムを含む硝酸ナトリウム水溶液を用いた。実施例10では、放射性物質含有水として、0.5g/Lの濃度で硝酸ナトリウム含み、かつ放射性ストロンチウムを含む硝酸ナトリウム水溶液を用いた。実施例11では、放射性物質含有水として、0.25g/Lの濃度で硝酸ナトリウム含み、かつ放射性ストロンチウムを含む硝酸ナトリウム水溶液を用いた。
【0080】
[比較例2]
常温下で、放射性ストロンチウムを10mg/Lの濃度で含む水(100mL)と、ゼオライト(1g)と、を混合し、24時間撹拌することにより、混合液を得た。前記ゼオライトとしては、天然ゼオライトを用いた。
【0081】
得られた混合液中の均一な上澄み部分について、ICP-MSにより、放射性ストロンチウムの濃度を測定した。そして、上述の、第2混合液中の均一な上澄み部分の放射性物質の濃度の測定値に代えて、この測定値を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、放射性物質の除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0082】
[比較例3~4]
放射性物質含有水の放射性物質の濃度を、表1~2に示すように変更した点以外は、比較例1の場合と同じ方法で、放射性物質を除染し、放射性物質の除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
実施例1~11においては、ゼオライトを用いずに、従来法に対して、同等以上の放射性物質の除去率を達成できた。
【0086】
例えば、比較例1においては、前記他の塩を用いずに放射性ストロンチウムの除染を行っているが、実施例1~11の方が、放射性物質の除去率が高かった。
【0087】
また、例えば、比較例2~4では、ゼオライトを用いて、放射性ストロンチウムの除染を試みているが、実施例1~11の方が、放射性物質の除去率が顕著に高かった。
【0088】
実施例1~11において、工程(A)での、メタケイ酸ナトリウムの使用量は、放射性物質含有水の放射性物質の含有量に対して、500~3200質量倍であった。
また、工程(A)での、前記他の塩の使用量は、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、4.6~134質量部であった。
また、工程(B)での、前記カルシウム塩の使用量は、メタケイ酸ナトリウムの使用量100質量部に対して、43.4~130質量部であった。