(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023575
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ウイルス用の吸着材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20230209BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20230209BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B01J20/12 A
B01J20/12 B
B01J20/12 C
B01J20/10 D
A61L9/014
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129215
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】503169998
【氏名又は名称】株式会社セピオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】杉田 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 多美夫
(72)【発明者】
【氏名】下川 健二
【テーマコード(参考)】
4C180
4G066
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CC04
4C180CC13
4C180EA26X
4C180EA29X
4C180EA35X
4C180EB15X
4C180EB18X
4G066AA22B
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4G066AB10D
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4G066AB15D
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4G066BA07
4G066BA22
4G066BA36
4G066CA01
4G066CA43
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】ウイルス用の新規な吸着材を提供する。
【解決手段】アミノ基を有する添着材料を含む親水性多孔質無機材料を備えている、ウイルス用の吸着材を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する添着材料を含む親水性多孔質無機材料を備えている、ウイルス用の吸着材。
【請求項2】
上記ウイルスは、エアロゾルに含まれるものである、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
上記親水性多孔質無機材料は、セピオライト、活性白土、シリカゲル、パルゴスカイト、または、これらの混合物である、請求項1または2に記載の吸着材。
【請求項4】
上記アミノ基を有する添着材料は、硫酸アルミニウムヒドラジン、硫酸マグネシウムヒドラジン、燐酸ヒドラジン、有機アミノ化合物、または、これらの混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項5】
上記親水性多孔質無機材料は、潤滑剤または二酸化マンガンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項6】
上記親水性多孔質無機材料は、ハニカム構造を有するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項7】
上記吸着材は、非焼成物であって、かつ、乾燥物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス用の吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスの感染は、感染者に由来する微細なエアロゾル(例えば、感染者の吐く息、唾等)を非感染者が吸引、または、経口摂取することによって起きる。また、ウイルスの感染は、衣類、家具、または、食器等に付着した、ウイルスを含むエアロゾルまたはミストに、非感染者が触れることによっても起こる。このように、ウイルスは環境中に広く拡散しており、ウイルスの感染を防ぐためには、環境中に広く拡散しているウイルスを効率よく不活性化させる必要がある。
【0003】
ウイルスを不活性化させる方法として、オゾンを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。高濃度のオゾンは、物に付着したウイルスのみならず、空気中に漂うエアロゾルに含まれるウイルスをも、不活性化させることができる。しかしながら、オゾンは人体に有害であるので、人が活動している環境内でオゾンを使用することはできない。
【0004】
ウイルスを不活性化させる方法として、紫外線を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。紫外線は、紫外線が照射される箇所に存在するウイルスを不活性化させることができる一方、紫外線が照射されない箇所に存在するウイルスを不活性化させることができない。また、紫外線は人体に有害であるので、人が活動している環境内で紫外線を使用することはできない。
【0005】
ウイルスを不活性化させる方法として、アルコールを用いる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。アルコール(特に、高濃度アルコール)は、主に手の表面に付着しているウイルスの不活性化に活用され、接触感染を防ぐ手段として活用されている。しかしながら、アルコールは容易に気化して人体または環境に影響を与え得るので、人が活動している環境内で多量のアルコールを使用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-238392号公報
【特許文献2】特開2000-107269号公報
【特許文献3】特開2019-194164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の方法では、多くの人が活動する環境であって、感染リスクが最も高い環境の中に存在するウイルス(例えば、空気中のウイルス)を、人々の活動を妨げることなく、不活性化させるのは困難であった。それ故に、ウイルス用の新規な吸着材の開発が求められている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウイルス用の新規な吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、以下のとおりである。
【0010】
〔1〕アミノ基を有する添着材料を含む親水性多孔質無機材料を備えている、ウイルス用の吸着材。
【0011】
〔2〕上記ウイルスは、エアロゾルに含まれるものである、〔1〕に記載の吸着材。
【0012】
〔3〕上記親水性多孔質無機材料は、セピオライト、活性白土、シリカゲル、パルゴスカイト、または、これらの混合物である、〔1〕または〔2〕に記載の吸着材。
【0013】
〔4〕上記アミノ基を有する添着材料は、硫酸アルミニウムヒドラジン、硫酸マグネシウムヒドラジン、燐酸ヒドラジン、有機アミノ化合物、または、これらの混合物である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の吸着材。
【0014】
〔5〕上記親水性多孔質無機材料は、潤滑剤または二酸化マンガンを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の吸着材。
【0015】
〔6〕上記親水性多孔質無機材料は、ハニカム構造を有するものである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の吸着材。
【0016】
〔7〕上記吸着材は、非焼成物であって、かつ、乾燥物である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の吸着材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、ウイルス用の吸着材を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、実施例1で作製したハニカム状吸着材を用いたエタノール吸着性能評価試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0020】
〔1.本発明の技術的思想〕
ウイルスおよび生物にとって、水は、生命を維持するために必要不可欠である。それ故に当然のことながら、ウイルスおよび生物は、水が多く存在する環境下にて生活をしている。
【0021】
ウイルスの表面には、ヒドロキシル基(-OH)に代表される、水に対して親和性が高い極性基が多く存在する。そのため、当該極性基(例えば、ヒドロキシル基)により大気中の水分が集められ、当該水によって、ウイルスの周囲に水膜が形成されるとともに、エアロゾルまたはミスト等が形成される。
【0022】
具体的には、ウイルスの粒子径は、0.1μm程度であるが、1μm~10μm程度の粒子径のエアロゾルが形成される。ウイルスを含むエアロゾルは、空気中で長時間漂うことが可能である。エアロゾルの形成に伴い、ウイルスの構成成分(例えば、蛋白質、脂質)が水膜に覆われるため、空気中の酸素による構成成分の酸化が防止され、ウイルスは活性を維持しながら、人から人へ感染し続ける。
【0023】
ウイルスが大気中の水分を集める能力は、ウイルスの種類によって異なると考えられる。夏から冬にかけて、大気中の湿度は、大きく変動する(例えば、約10%~約90%)。例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)では、夏であっても、冬であっても、感染動向に明確な差異は認められない。このことは、新型コロナウイルスは、大気中の水分を集める能力が高いことを示唆している。
【0024】
上記を踏まえ、本発明者は、ウイルスの表面を覆う水膜を取り除くことにより、ウイルスの構成成分が空気中の酸素により酸化され、その結果、当該構成成分の活性を失わせることができる、と考えた。
【0025】
更に、本発明者は、単にウイルスの表面の水膜を除去したとしても、ウイルスの表面に存在する極性基(例えば、ヒドロキシル基)がウイルスを保護していることから、空気中の酸素によるウイルスの構成成分の酸化および不活性化には時間を要するとの独自の仮説の下、ウイルスの構成成分を迅速に酸化および不活性化させるためには、ウイルスの周囲から水膜を除去するだけでなく、ウイルスの表面の極性基(例えば、ヒドロキシル基)の層を傷つけ、空気中の酸素がウイルス内部の構成成分を酸化しやすい条件を整える必要がある、と考えた。
【0026】
つまり、本発明者は、ウイルスの表面の極性基(例えば、ヒドロキシル基)による水分子保持力は強力であるため、ウイルスの周囲から水膜を除去するためには、まず、極性基(例えば、ヒドロキシル基)による水分子保持力を上回る吸水力を有する吸着材にウイルスを付着させることが第一段階として重要である、と考えた。
【0027】
更に、本発明者は、第二段階では、化学反応を活用することにより極性基(例えば、ヒドロキシル基)を破壊することが第二段階として重要である、と考えた。
【0028】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、上述した第一段階および第二段階を経て、ウイルスを不活性化させるものである。より具体的に、本発明の一実施形態に係る吸着材は、主として親水性多孔質無機材料によって第一段階を行い、次いで、主として添着材料によって第二段階を行うものである。
【0029】
〔2.吸着材〕
本明細書において、「本発明の一実施形態に係る吸着材」を「本吸着材」と称する場合もある。本明細書において、「本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法」を「本製造方法」と称する場合もある。
【0030】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、アミノ基を有する添着材料を含む親水性多孔質無機材料を備えている、ウイルス用の吸着材である。本発明の一実施形態に係る吸着材は、アミノ基を有する添着材料が添着されてなる親水性多孔質無機材料を備えている、ウイルス用の吸着材であってもよい。当該構成であれば、吸着材によってウイルスを捕捉し、当該ウイルスを不活性化させることができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態に係る吸着材は、一般的に吸着が困難なアルデヒド(例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド)に対しても吸着性能を有する。すなわち、アミノ基を有する添着材料を含む本吸着材はハニカム形状に加工しても、その効力を失わずアルデヒドを除去することができる。この場合、本発明の一実施形態に係る吸着材では、親水性多孔質無機材料に二酸化マンガンを含んでも良い。
【0032】
上記ウイルスは、エアロゾルに含まれるウイルスであることが好ましい。本吸着材は、エアロゾルを形成する水膜をより容易に除去することが可能であるため、本吸着材によってウイルスを捕捉し、当該ウイルスをより容易に不活性化させることができる。
【0033】
本発明の一実施形態において、ウイルスは、例えば、新型コロナウイルス(COVID-19)等の各種コロナウイルス、各種インフルエンザウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトライノウイルス、または、アデノウイルスであり得る。
【0034】
本発明の一実施形態において、エアロゾルとは、気体中に固体または液体の微粒子が分散して浮遊しているものを意図する。より具体的に、エアロゾルとは、物質の周囲が水膜で覆われていることにより、当該物質と水膜との複合体が空気中に浮遊しているものを意図する。
【0035】
上記親水性多孔質無機材料は、ウイルスを吸着して捕捉する作用を有し、吸着材表面に存在する官能基(アミノ基)は、ウイルスを不活性化させる作用を有する。なお、上記官能基は、親水性多孔質無機材料に含まれる(親水性多孔質無機材料に添着される)添着材料に由来する。
【0036】
吸着材によるウイルスを不活性化させる作用は、吸着材の表面にウイルスを吸着した後に起こる作用であり、不活性化させたいウイルスを吸着材表面に効率良く吸着して捕捉できる、吸着材の機能的な構造が重要なポイントの一つとなる。
【0037】
上記構造を構成する素材は、処理対象となるウイルスを吸着材に付着させる、多孔質で比表面積の大きな素材であることが好ましい。すなわち、上記構造は、数mm程度の大きさの空間を形成するマクロな構造のみならず、吸着材の表面の、数μm~数Å程度の大きさのミクロな構造をも意味する。ウイルスの吸着材として実用に供する場合は、吸着材の単位体積当たりの表面積が大きく、吸着材が通気性の良い構造体(例えば、ハニカム構造)として形成することが好ましく、かつ、耐久性が高い構造体として形成することが好ましい。
【0038】
(2-1.親水性多孔質無機材料)
本発明の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料は、アミノ基を有する添着材料を含む、親水性、および、多孔質性を兼ね備えた、無機材料である。本発明の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料は、アミノ基を有する添着材料が添着されてなる、親水性、および、多孔質性を兼ね備えた、無機材料であってもよい。
【0039】
本願の一実施形態において親水性とは、水との相互作用および親和性が大きい性質を意図する。より具体的に、本願の一実施形態において親水性とは、極性基(例えば、ヒドロキシル基)を有するウイルスの周囲に存在する水分子を剥ぎ取る吸水力を有する材料のことを言う。例えば、本願の一実施形態において親水性の無機材料は、50mm×50mm×50mmのサイズの無機材料内を100ppm以下、50ppm以下、または、10ppm以下の水分(または、エタノール)を含む気体を通過させた後、当該気体に含まれる水分が0ppmになる無機材料であり得る。
【0040】
本願の一実施形態において多孔質の無機材料が有する孔の形状および数は、限定されない。また、上記孔は、無機材料を貫通する孔であってもよいし、無機材料を貫通しない孔であってもよい。
【0041】
本願の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料としては、特に限定されず、例えば、セピオライト、活性白土、シリカゲル、パルゴスカイト、または、これらの混合物を挙げることができる。
【0042】
上記親水性多孔質無機材料の中では、主成分として鎖状珪酸マグネシウムを有するものが好ましく、特にセピオライトが好ましい。セピオライトには乾燥固結性があるため、セピオライトを用いることにより、添着材料の機能を良好に維持した状態でハニカム構造体を成形できるという利点を有する。また、当該構成により、吸着材は、優れた成形性、および、ウイルスへの高い吸着性を示し、かつ、吸着材の表面の官能基の活性を長期間にわたって維持できるという効果を奏する。また、セピオライトは、難燃性であり、再生処理により繰り返し使用が可能であるため、使い捨ての活性炭に比べ、ランニングコストが安いという利点もある。さらに、添着材料による吸着は、化学吸着による吸着であるため、物理吸着を用いる活性炭に比べ、目的物(ウイルス)が離れにくく、40Å以下の小分子も捕捉可能であること、大きな分子に関しても化学的に分解し吸着可能であるという利点を有する。
【0043】
上述したように、本願の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料は、様々な材料の混合物、例えば、鎖状珪酸マグネシウムを主成分として含む親水性多孔質無機材料A(例えば、セピオライト)と、鎖状珪酸マグネシウムを主成分として含まない親水性多孔質無機材料B(例えば、活性白土、シリカゲル)との混合物であってもよい。
【0044】
本願の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料Aの含有量は、多い方が好ましく、例えば、親水性多孔質無機材料100重量%あたり、親水性多孔質無機材料Aを10重量%~100重量%含むことが好ましく、20重量%~100重量%含むことがより好ましく、30重量%~100重量%含むことがさらに好ましい。
【0045】
また、本願の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料Bの含有量は、例えば、親水性多孔質無機材料100重量%あたり、親水性多孔質無機材料Bを10重量%~70重量%含むことが好ましく、20重量%~65重量%含むことがより好ましく、30重量%~60重量%含むことがさらに好ましい。当該構成によれば、(i)単体使用時において乾燥時の収縮率が大きいというセピオライトの特性が抑えられ、乾燥時でも収縮率を抑制できる、(ii)金型と親水性多孔質無機材料との摩擦が小さくなることにより、押出成形が容易となる、(iii)親水性多孔質無機材料の粒子間の隙間が十分に確保され、ウイルスを含む気体が、親水性多孔質無機材料の内部に拡散しやすくなる、という利点を有する。
【0046】
(2-2.添着材料)
本発明の一実施形態に係る吸着材は、親水性多孔質無機材料を備え、当該親水性多孔質無機材料は、アミノ基を有する添着材料を含んでいる。本発明の一実施形態に係る吸着材は、親水性多孔質無機材料を備え、当該親水性多孔質無機材料は、アミノ基を有する、溶液状の添着材料を含ませた後、添着材料の溶媒(例えば、水、アルコールなど)を乾燥除去させたもの(換言すれば、添着材料の固形分を含んでいるもの)であってもよい。
【0047】
上記アミノ基を有する添着材料は、硫酸アルミニウムヒドラジン、硫酸マグネシウムヒドラジン、燐酸ヒドラジン、有機アミノ化合物、または、これらの混合物であることが好ましい。これらの化合物は、ウイルスの表面のヒドロキシル基と良好に化学反応を起こす一方で、アミノ基の活性が弱いことから、長期間にわたり活性を維持可能であるという利点を有する。
【0048】
ウイルスの表面の極性基(例えば、ヒドロキシル基)と反応する官能基であっても、空気中に存在する分子や物質と簡単に反応するものは、使用可能な寿命が短く実用的ではない。空気中に放置しても、半年から数年はウイルスの表面の極性基(例えば、ヒドロキシル基)と化学反応を起こすだけの活性を維持できる官能基が必要である。上述した添着材料は、このような性質を好適に備えた官能基を有しているものである。
【0049】
本発明の一実施形態に係る吸着材における、親水性多孔質無機材料と、添着材料の固形分との重量比は、特に限定されないが、親水性多孔質無機材料100重量部に対して、添着材料の固形分が0.1重量部~50重量部、0.1重量部~40重量部、0.1重量部~30重量部、0.1重量部~20重量部、0.1重量部~10重量部、0.1重量部~5重量部、または、0.1重量部~1重量部であってもよい。当該構成であれば、吸着材によってウイルスをより良く捕捉し、当該ウイルスをより良く不活性化させることができる。
【0050】
(2-3.その他の成分)
本発明の一実施形態に係る親水性多孔質無機材料は、潤滑剤(例えば、無機質の潤滑剤)を含むものであるのが好ましい。また、二酸化マンガンを含んでも良い。当該潤滑剤としては、例えば、カオリン(カオリナイト)、スメクタイト、イモゴライトを挙げることができる。当該潤滑剤を含むことにより、吸着材を押出成形した時の成形性を良くすることができる。
【0051】
また、親水性多孔質無機材料に対して、二酸化マンガンを添加することにより、二酸化マンガンから発生する活性酸素によって、ウイルスを不活性化することができるという利点を有する。なお、当該活性酸素は、本発明の一実施形態に係る吸着材(換言すれば、フィルター)内に留まり放出されるものではないため、ウイルスを効率良く不活性化できるとともに、活性酸素が環境に与える不要な影響を小さくすることができる。
【0052】
また、当該二酸化マンガンを含む吸着材を製造する際の温度の下限は、特に限定されないが、高い方が好ましく、100℃以上が特に好ましい。当該構成によれば、二酸化マンガンに由来する活性酸素の反応性(換言すれば、ウイルスの不活性化能)を高く引き出すことができるという利点を有する。
【0053】
(2-4.吸着材の形態)
本発明の一実施形態に係る吸着材の形状は、特に限定されないが、ハニカム状、ヌードル状、粒状、または、箔状であり得、ハニカム状であることが好ましい。当該構成であれば、吸着材によってより良くウイルスを捕捉し、当該ウイルスをより良く不活性化させることができる。
【0054】
ハニカム状とは、薄い隔壁で囲まれた多数の貫通孔を有する、蜂の巣状のことを言う。より具体的には、ハニカム状とは、蜂の巣状に、セルが多数かつ均一に分布した形状のことを言う。本願の一実施形態において、セル内部の表面に添着材料が被覆および/または担持されることにより、三次元的吸着機能が発現可能であり、かつ、ウイルスと吸着材との接触効率を高めることができる。また、当該構成によると、圧損が少ないことから設備コストの低減が図れ、成形にバインダーが不要であり、難燃性の吸着材が得られるという効果を奏する。さらに、ハニカム状の構造では、単位体積当たりの表面積(比表面積)が大きく、かつ、ハニカム状の構造を通過する気体の通気抵抗が小さいという利点がある。すなわち、ハニカム状の構造を用いることにより、当該構造中を気体が通過するために必要なエネルギーを抑制させることができることに加え、添着材料と気体とが接触する表面積を大きくすることができる。
【0055】
上記ハニカム状の構造において、セル数とは、1平方インチあたりのセルの個数cpsi(=セル/inch2)を表す。本願の一実施形態に係るセル数は、特に限定されないが、10cpsi以上であることが好ましく、50cpsi以上であることがより好ましく、100cpsi以上であることがより好ましく、150cpsi以上であることがより好ましく、200cpsi以上であることさらに好ましい。本願の一実施形態に係るセル数の上限は、特に限定されないが、1000cpsi以下、500cpsi以下、または、300cpsi以下であり得る。セルを構成する壁の厚み(以下、「壁厚」と称する。)が同一である場合、上記構成によれば、吸着材の比表面積を大きくすることができるため、吸着材によってウイルスをより良く捕捉し、当該ウイルスをより良く不活性化させることができる。
【0056】
上記ハニカム構造に係る壁厚は、特に限定されないが、1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。上記ハニカム構造に係る壁厚の下限値は、特に限定されないが、0.01mm以上、0.05mm以上、または、0.1mm以上であり得る。上記構成によれば、吸着材の強度を十分に確保できるとともに、吸着材の重量を低下させることができるという効果を奏する。
【0057】
セル数が多く、かつ壁厚が薄いことが好ましい一方で、吸着容量は素材の重量に比例するため、壁厚が薄くなりすぎるとハニカム構造の寿命は縮んでしまう。
【0058】
ここで、開口部の単位セルの大きさが小さいほど、ハニカム状の構造の比表面積は大きくできる。その一方で、開口部の単位セルの大きさが小さい場合であっても、壁厚が厚いほど、単位量の気体が通過するセルの開口面積が小さくなるため、一定の時間で単位量の気体をセル内を通過させようとすると、セルを通過する気体の風速が上がり、その結果、通気抵抗が大きくなる。そのため、開口部の単位セルの大きさが小さく、かつ壁厚の薄いハニカム状の構造を作製する必要がある。壁厚の薄いハニカム状の構造を作るという観点から、潤滑剤を添加することが好ましい。
【0059】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、非焼成物であって、かつ、乾燥物(低温の乾燥物)であることが好ましい。当該構成であれば、十分な強度を有する吸着材を、焼成工程を経ることなく、容易に作製することができる。
【0060】
〔3.吸着材の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法は、
親水性多孔質無機材料(任意で、潤滑剤を含む親水性多孔質無機材料)に添着材料を含む溶液を含浸させて、含浸物を形成する工程と、
上記含浸物を成形(例えば、押出成形)して、成形体(例えば、ハニカム状、ヌードル状、粒状、または、箔状の成形体)を形成する工程と、
上記成形体を乾燥(例えば、低温にて乾燥)させる工程と、を有する、製造方法であり得る。
【0061】
本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法は、
親水性多孔質無機材料(任意で、潤滑剤を含む親水性多孔質無機材料)を成形(例えば、押出成形)して、成形体(例えば、ハニカム状、ヌードル状、粒状、または、箔状の成形体)を形成する工程と、
上記成形体に添着材料を含む溶液を含浸させて、含浸物を形成する工程と、
上記含浸物を乾燥(例えば、低温にて乾燥)させる工程と、を有する、製造方法であり得る。
【0062】
本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法の構成に関して、上述した〔2.吸着材〕にて既に説明した構成については、ここではその説明を省略する。
【0063】
材料を成形する場合には、材料を押出成形することが好ましい。押出成形の具体例としては、ハニカム成形法、または、ヌードル成形法を挙げることができる。
【0064】
ハニカム成形法では、押出成形機のダイスにより、ハニカム構造を構成する孔の外形が円形、四角形、または、三角形など任意に選択できる。吸着材の厚みは、押し出された材料のどこで切断するかで決まる。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明の一実施形態を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
実施例および比較例で使用した原料および装置は以下のとおりである。
<多孔質無機材料>
・シリカゲル
・セピオライト
・活性白土
<アミノ基含有化合物>
・硫酸アルミニウムヒドラジン
<潤滑剤>
・カオリン
<二酸化マンガン>
・活性化二酸化マンガン
<無機バインダーゾル>
・アルミナゾル
<ウイルス>
・インフルエンザウイルス
<装置>
・パーティクルカウンター
<アミノ基を有するハニカム構造体の製造>
(実施例1)
多孔質無機材料であるシリカゲル粉末、セピオライト、および、潤滑剤であるカオリンを、シリカゲル粉末とセピオライトとカオリンの重量比が50:40:10になるように混合した。当該多孔質無機材料に対して、硫酸アルミニウムヒドラジン水溶液を含浸させて混練した。
【0067】
混練後、当該混練物を押出成形によりハニカム状に成型し、その状態で24時間自然乾燥させた。その後、ハニカム状(壁厚0.5mm、セル数160cpsi(=セル/inch2))の吸着材を得た。
【0068】
(比較例1)
硫酸アルミニウムヒドラジン水溶液を添加しないこと以外は、実施例1と同一の方法で吸着材を得た。
【0069】
<エタノール吸着性能評価試験>
実施例1で作製した吸着材のアミノ基の反応性を調査するため、吸着材に対してエタノールを含む空気を通過させることにより、エタノール吸着性能評価試験を行った。実施例1で作製したハニカム状吸着材を用いたエタノール吸着性能評価試験装置の模式図を
図1に示す。具体的には、エタノールを含む空気の入った第1の容器1に実施例1で作製したハニカム状吸着材2(50mm×50mm、厚さ50mm)を接続し、ハニカム状吸着材2を通過した気体が第2の容器4へと流れるよう、ハニカム状吸着材2と、第2の容器4との間にエアポンプ3(7L/min.)を接続した。ハニカム状吸着材を通過させる前のエタノール濃度は、20ppmに設定した。実施例1と比較例1とで作製した吸着材を使用し、エタノール濃度の低下割合を測定した結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1の結果から、ヒドロキシル基を有するエタノールが、アミノ基を有するハニカム状吸着材により良好に吸着除去されることが明らかとなった。
【0072】
<水エアロゾル捕捉試験>
実施例1で作製したハニカム状吸着材(100mm×100mm、厚さ10mmまたは50mm)に対して、ハニカム状吸着材の片側から反対側へ0.3μm以下の粒子径の水から成るエアロゾルを通過させ、ハニカム状吸着材通過前後のエアロゾル数をレーザー式のパーティクルカウンターを用いて計測した。吸着材通過前のエアロゾル数と通過後のエアロゾル数を表2に示す。10mm厚みのハニカム状吸着材では97.9%、50mm厚みのハニカム状吸着材では100%のエアロゾルを捕捉できた。
【0073】
【0074】
<インフルエンザウイルス不活性化試験>
インフルエンザウイルスに感染させた細胞を培養し、インフルエンザウイルスを含む培養液を作製した。次に、実施例1で作製した厚さ10mmのハニカム吸着材からなる試料に、インフルエンザウイルスを含む培養液から生成したエアロゾルを通過させてインフルエンザウイルスを捕捉した後、ハニカム吸着材を粉砕してインフルエンザウイルスを回収し、回収したインフルエンザウイルスを再度、培養細胞に感染させた。これによって、ハニカム吸着材によるインフルエンザウイルスの不活化率を調べた。同一の試験を3回実施した。その評価結果を表3に示す。ハニカム吸着材から回収したインフルエンザウイルスは再度培養細胞に感染することはできず、その結果、不活性化率は100%と算出された。
【0075】
本発明は、空気中にエアロゾルとして浮遊し、病気の原因となるウイルスを吸着させることができ、また、同時に不活性化させることが特徴である対ウイルス空気清浄装置に利用することができる。