(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023612
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】部品、部品を有する時計用ムーブメント、時計用ムーブメントを有する時計、および部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 13/02 20060101AFI20230209BHJP
G04B 15/14 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G04B13/02 Z
G04B15/14 B
G04B15/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129278
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】岸 松雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高濱▼ 未英
(72)【発明者】
【氏名】今野 嵩久
(57)【要約】
【課題】寸法精度を上げることができるとともに、二つの部品を嵌合する際、変形なく接合・一体化を行うと同時に接合材の外側へのはみ出しを抑え、部品としての機能および外観の低下を抑え、嵌合力の向上を図ることができる部品を提供する。
【解決手段】アンクル709は、軸701が挿入される軸穴部が2段の開口部を有しており、2段の開口部のうち、軸挿入側の開口部において、軸挿入方向から内部に向かって、開口が広くなる傾斜部706を有し、開口部と軸701の間に形成された空間に充填された金属からなる接合材により軸701が取り付けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料からなる所定の厚みに形成された第1の部品と前記第1の部品に嵌合される第2の部品から構成される部品であって、
前記第2の部品と嵌合する部分に前記第1の部品が二段構造の2つの開口部を有し、
前記二段構造の開口部のうち、前記第2の部品が挿入される側の第1の開口部が、前記二段構造の第2の開口部より広く、
前記二段構造の開口部に形成される、前記第1の部品と前記第2の部品の間の間隙に金属接合材からなる接合部を有する部品。
【請求項2】
前記第1の部品の前記第1の開口部が前記第2の部品が挿入される側の面から、前記第2の開口部とつくる段差部へ向けて、幅方向に離間する傾斜部を備えている請求項1に記載の部品。
【請求項3】
前記第1の部品の一部または全部がリンを含有する非晶質材料である請求項1または2に記載の部品。
【請求項4】
前記第1の部品の一部または全部がニッケル-リンからなる非晶質材料である請求項1または2に記載の部品。
【請求項5】
前記第1の部品の一部または全部がシリコンからなる請求項1または2に記載の部品。
【請求項6】
前記金属接合材がハンダ材からなる請求項1から5のいずれか一項に記載の部品。
【請求項7】
前記金属接合材がロウ材からなる請求項1から5のいずれか一項に記載の部品。
【請求項8】
前記第1の部品または前記第2の部品の少なくとも一方に、前記金属接合材に含まれる元素と拡散層を有する請求項1から7のいずれか一項に記載の部品。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の部品を有する時計用ムーブメント。
【請求項10】
請求項9に記載の時計用ムーブメントを有する時計。
【請求項11】
基板上に第1のフォトレジスト層を第1の厚みに塗布する第1の塗布工程と、
第1のフォトマスクを通して前記第1のフォトレジスト層を部分的に露光する第1の露光工程と、
前記第1のフォトレジスト層の上に第2のフォトレジスト層を第2の厚みに塗布する第2の塗布工程と、
第2のフォトマスクを通して前記第2のフォトレジスト層を部分的に露光する第2の露光工程と、
露光した前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を現像して前記基板を露出させると共に、部品の外形形状を有する開口部を備えた成形型を形成する現像工程と、
前記成形型を電鋳液に浸漬し通電して電鋳処理を行うことで、又は前記成形型を無電解めっき液に浸漬し無電解めっき処理を行うことで、前記開口部の内部に金属を析出させて前記成形型に沿って所望の厚みの金属体を成型する成形工程と、
前記金属体の厚みが前記所定の厚みとなるように厚み調整を行う厚み調整工程と、
前記第1のフォトレジスト層、前記第2のフォトレジスト層及び前記基板を除去して金属部品を得る除去工程と、を備える請求項1から4、6から8のいずれか1項に記載の部品の製造方法。
【請求項12】
シリコン基板の第1の表面上と前記第1の表面に対向する第2の表面上に第1および第2のフォトレジスト層を塗布する塗布工程と、
第1のフォトマスクを通して前記第1のフォトレジスト層を部分的に露光する第1の露光工程と、
第2のフォトマスクを通して前記第2のフォトレジスト層を部分的に露光する第2の露光工程と、
露光した前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を現像して、フォトレジスト層の一部を開口し、前記シリコン基板の一部を露出させる現像工程と、
前記シリコン基板で、前記第1の表面のうちシリコンが露出した部分をエッチングする第1のエッチング工程と、
前記シリコン基板で、前記第2の表面のうちシリコンが露出した部分をエッチングする第2のエッチング工程と、
前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を除去する除去工程と、を備える請求項1および2、5から8のいずれか1項に記載の部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品、部品を有する時計用ムーブメント、時計用ムーブメントを有する時計、および部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気による機械式腕時計の影響が問題となっているが、近年は、携帯電話、スマートフォン、タブレット等の携帯機器に搭載または充電に使用される機器に多くの磁石の搭載、または、磁気発生製品が多くなっており、同じ携帯機器である機械式腕時計は、その近くに置かれる場合が多く、その中に組み込まれた時計用ムーブメントを構成する部品がこの磁気の影響を受け、時刻表示に狂いを発生させ、酷い場合には停止することあった。
このことから、時計用ムーブメントを構成する部品、特に、時刻の精度に大きな影響を与える脱進機とよばれる構成部の磁気の影響をできる限り小さくすることが望まれている。
【0003】
この脱進機を構成する部品のうち、アンクルやガンギ歯車は、UV-LIGAと呼ばれる技術により作製される電鋳部品やシリコンのエッチング等により作製されるシリコン部品がその精度の良さから多用されてきている。
前者のUV-LIGAで作製される電鋳非磁性部品の材料としては、非晶質のニッケル-リン合金がある(たとえば、非特許文献1および2参照)。
一方、後者のシリコン部品は、磁気の影響を受けない特性(以下、非磁性と呼ぶ)から、磁気の影響を受けにくい耐磁時計用部品として、ひげゼンマイやアンクル、ガンギ等幅広く使用がなされているが、シリコンの脆さによる関係から、これらの部品と嵌合・一体化する軸部品との接続には、接着剤を用いる接着やハンダ材を用いる接合が多用されており、この嵌合部の構造等にも多くが提案されている(たとえば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Horological Journal August 2001 pp275-277
【非特許文献2】Advanced Materials Research Vols.317-319(2011)pp1635-1639
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-500386号公報
【特許文献2】特開2002-276771号公報
【特許文献3】特開2012-215183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、UV-LIGAやシリコン等により作製される部品の多くは、歯車等の薄物であり、これに回転軸となる部品が取り付けられることが多い。この場合、軸となる部品は、カナと呼ばれる歯車や鍔状の構造物が一体化されたものとなっていることが多い。これらの二つの部品は、UV-LIGA部品やシリコン部品に形成されている開口部に軸等が圧入または接着する等の方法により一体化されることになる。
【0007】
UV-LIGAでは、多くの場合、ニッケル電鋳であることから塑性変形を利用した軸の圧入が可能であるが、非磁性を有する非晶質ニッケル-リン合金等は、硬度は高いが、その脆性により軸の圧入が困難であり、圧入により破損する問題があった。
【0008】
このような脆性材料に軸を取り付ける場合、接着による固定が主に用いられる。脆性材料からなる歯車のような部品に軸を挿入する際、脆性による破壊を防ぐため、加工公差を考慮した比較的大きな間隙を必要とすることになる。この場合、接着剤の塗布量と塗布箇所を厳しく制御しないと、歯車や軸の不要部に接着剤が付着し、機能的に不具合を起こすことや、接着後の外観等に問題をきたすことがあった。
【0009】
また、溶接あるいは、これに近い接続を行う場合、高温となるので、非晶質であるニッケル-リン合金等の全体または一部が結晶化し、非磁性材料が磁性に影響を受ける磁性材料へと変化してしまうという問題や溶接部が外部から見えるため、外観上の問題があった。
また、ハンダ付による接続では、微小部に対するハンダ材の設置方法、ハンダの接合性に問題があり、とくに非晶質ニッケル-リン合金に対しては、通常のスズを主成分とするハンダ材の接合性・濡れ性は悪く、確実な接続は困難であった。さらに、接合に関わる温度と時間によっては、非晶質であるニッケル-リン合金が溶接と同様に結晶化を起こすという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、寸法精度を上げることができるとともに、嵌合する際の変形、接合剤のはみ出しを抑え、嵌合力を向上するだけでなく、外観上の不具合を抑えることができる、部品、部品を有する時計用ムーブメント、時計用ムーブメントを有する時計、および部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様に係る部品は、脆性材料からなる所定の厚みに形成された第1の部品と前記第1の部品に嵌合される第2の部品から構成される部品であって、前記第2の部品と嵌合する部分に前記第1の部品が二段構造の2つの開口部を有し、前記二段構造の開口部のうち、前記第2の部品が挿入される側の第1の開口部が、前記二段構造の第2の開口部より広く、前記二段構造の開口部に形成される、前記第1の部品と前記第2の部品の間の間隙に金属接合材からなる接合部を有する。
【0012】
第1の態様では、第1の部品の嵌合部を構成する開口部が二段構造となっており、第2の部品が挿入される側の第1の開口部が、他方の第2の開口部に対して幅方向で広くなっており、この部分で段差を形成している。第1の様態によれば、嵌合部の嵌め合い公差は、第2の開口部の形状、寸法により設定できる。
また、第1の部品と第2の部品の嵌合に用いられる金属接合材は、第1の開口部と第2の開口部により形成される段差部に、第2の部品の挿入前に、あらかじめ設置することができるので、プリフォーム形状とすることができる。
また、第1の部品と第2の部品の嵌合は、第1および第2の開口部と第2の部品との間に設けられた間隙に封入された金属接合材によりなされるので、その強度を高めることができる。
また、第1の開口部の形状を第2の開口部と異形形状とすることにより、間隙に封入された金属接合材により、その強度をさらに高めることができる。
また、第1および第2の開口部と第2の部品との間に設けられた間隙に封入された金属接合材は、第2の部品に第1の開口部より幅方向で広い歯車や鍔等を設けることにより、外部へのはみ出しや、外観上の不具合を防ぐことができる。
【0013】
第2の態様に係る部品は、前記第1の態様において、前記第1の部品の前記第1の開口部が前記第2の部品が挿入される側の面から、前記第2の開口部とつくる段差部へ向けて、幅方向に離間する傾斜部を備えている。
【0014】
第2の態様では、第1の部品に備えられた第1の開口部が、第2の部品が挿入される側、すなわち、第1の開口部より幅方向で広い面積を有する歯車や鍔を備えている側に向かって、幅方向で狭まるような傾斜を備えていることから、間隙に封入された金属接合材が外力により、第2の部品を抜けることを防ぐことになる。
また、第1の開口部の形状を第2の開口部と異形形状とすることにより、間隙に封入された金属接合材により、回転方向の強度をさらに高めることができる。
【0015】
第3の態様に係る部品は、第1態様および第2態様のいずれかの様態において、前記第1の部品の一部または全部がリンを含有する非晶質材料である。
【0016】
第3の態様では、第1の部品を構成する材料がリンを含有する非晶質物質を含んでいる。このような物質としては、ニッケル-リン合金、コバルト-リン合金、ニッケル-コバルト-リン合金等があるが、UV-LIGAにより作製することができるので、複雑形状かつ高精度、さらに非晶質であることから発揮する非磁性材料として使用することができる。
【0017】
第4の態様に係る部品は、前記第1の部品の一部または全部がニッケル-リンからなる非晶質材料である。
【0018】
第4の態様では、第1の部品を構成する材料がニッケル-リンからなる非晶質材料であることから、容易にUV-LIGAにより作製することができる。
【0019】
第5の態様に係る部品は、前記第1の部品の一部または全部がシリコンである。
【0020】
第5の態様では、第1の部品を構成する材料がシリコンにより作製されるため、フォトリソグラフィーとDeep-RIE(Reactive Ion Etching)と呼ばれるドライエッチング法により容易に高精度、微細かつ非磁性部品を作製することができる。
【0021】
第6の態様に係る部品は、前記金属接合材がハンダ材からなる部品である。
【0022】
第6の態様では、第1の部品と第2の部品の嵌合に用いられる金属接合材としてハンダ材を用いることから、第1の開口部と第2の開口部と第2の部品との間に形成される間隙に封入される際、加熱溶融することにより付与される流動性により、間隙の形状に沿って充填されるので、第1の部品と第2の部品との嵌合強度を高めることができる。
また、第1の部品と第2の部品の嵌合に用いられる金属接合材として、ハンダ材を用いるので、あらかじめ機械加工や電鋳材としてプリフォーム形状とすることができるので、第1の開口部と第2の開口部により形成される段差部に、第2の部品の挿入前に、あらかじめ設置することができるので、容易かつ高精度で金属接合部を形成することができる。
また、前記プリフォーム形状のハンダ材を第2の部品に取り付けることも可能であることから、容易かつ高精度で金属接合部を形成することができる。
【0023】
第7の態様に係る部品は、前記金属接合材がロウ材からなる部品である。
【0024】
第7の態様では、第1の部品と第2の部品の嵌合に用いられる金属接合材としてロウ材を用いることから、第1の開口部と第2の開口部と第2の部品との間に形成される間隙に封入される際、加熱溶融することにより付与される流動性により、間隙の形状に沿って充填されるので、第1の部品と第2の部品との嵌合強度を高めることができる。
また、第1の部品と第2の部品の嵌合に用いられる金属接合材として、ロウ材を用いるので、あらかじめ機械加工や電鋳材としてプリフォーム形状とすることができるので、第1の開口部と第2の開口部により形成される段差部に、第2の部品の挿入前に、あらかじめ設置することができるので、容易かつ高精度で金属接合部を形成することができる。
また、前記プリフォーム形状のロウ材を第2の部品に取り付けることも可能であることから、容易かつ高精度で金属接合部を形成することができる。
【0025】
第8の態様に係る部品は、前記第1の部品または前記第2の部品の少なくとも一方に、前記金属接合材に含まれる元素と拡散層を有する部品である。
【0026】
第8の態様では、第1の部品または第2の部品のうち、少なくとも一方で、これらを構成する元素のうち少なくとも一つが、前記金属接合材に含まれる元素と拡散層をつくるので、その嵌合強度を高めることができる。
【0027】
第9の態様に係る時計ムーブメントは、第1の態様から第8の態様までのいずれか一つの態様の部品を有する。
【0028】
第9の態様によれば、部品の嵌合力を向上することができ、低コストで衝撃に強く、耐磁性に優れた時計ムーブメントを提供することができる。
【0029】
第10の態様に係る時計は、第9の態様の時計ムーブメントを有する。
【0030】
第10の態様によれば、部品の嵌合力を向上することができ、低コストで衝撃に強い時計を提供することができる。
【0031】
第11の態様は、第1の態様から第4の様態、および第6の様態から第8の態様までのいずれか一つの態様の部品の製造方法であって、基板上に第1のフォトレジスト層を第1の厚みに塗布する第1の塗布工程と、第1のフォトマスクを通して前記第1のフォトレジスト層を部分的に露光する第1の露光工程と、前記第1のフォトレジスト層の上に第2のフォトレジスト層を第2の厚みに塗布する第2の塗布工程と、第2のフォトマスクを通して前記第2のフォトレジスト層を部分的に露光する第2の露光工程と、露光した前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を現像して前記基板を露出させると共に、前記金属部品の外形形状を有する開口部を備えた成形型を形成する現像工程と、前記成形型を電鋳液に浸漬し通電して電鋳処理を行うことで、又は前記成形型を無電解めっき液に浸漬し無電解めっき処理を行うことで、前記開口部の内部に金属を析出させて前記成形型に沿って所望の厚みの金属体を成型する成型工程と、前記金属体の厚みが前記所定の厚みとなるように厚み調整を行う厚み調整工程と、前記第1のフォトレジスト層、前記第2のフォトレジスト層及び前記基板を除去して金属部品を得る除去工程と、を備える。
【0032】
第11の態様によれば、電鋳法により、第1の開口部と第2の開口部を有するニッケル-リン等からなる第1の部品を作製することができる。
【0033】
第12の態様は、第1の態様から第2の様態および第5の様態から第8の態様までのいずれか一つの態様の部品の製造方法であって、シリコン基板の第1の表面上と前記第1の表面に対向する第2の表面上に第1および第2のフォトレジスト層を塗布する塗布工程と、第1のフォトマスクを通して前記第1のフォトレジスト層を部分的に露光する第1の露光工程と、第2のフォトマスクを通して前記第2のフォトレジスト層を部分的に露光する第2の露光工程と、露光した前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を現像して、フォトレジスト層の一部を開口し、前記シリコン基板の一部を露出させる現像工程と、前記シリコン基板で、前記第1の表面のうちシリコンが露出した部分をエッチングする第1のエッチング工程と、前記シリコン基板で、前記第2の表面のうちシリコンが露出した部分をエッチングする第2のエッチング工程と、前記第1のフォトレジスト層及び前記第2のフォトレジスト層を除去する除去工程と、を備える。
【0034】
第12の態様によれば、第1の開口部と第2の開口部を有するシリコンからなる第1の部品を作製することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、寸法精度を上げることができるとともに、嵌合する際、脆性材料を破損することなく、十分な強度を有し、外観上においても優れた部品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】(A)は、本発明の第1の実施形態であって、アンクルの形状を示す図であり、(B)は、(A)におけるA-A’における断面を示す図であり、(C)は、(A)におけるB-B’における断面を示す図である。
【
図2】(A)から(G)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体の製造方法を示す図である。
【
図3】(A)から(C)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体の製造方法を示す図である。
【
図4】(A)から(E)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体に第2の部品である軸を嵌合する工程を示す図である。
【
図5】(A)から(C)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体に第2の部品である軸を嵌合する工程を示す図である。
【
図6】(A)から(C)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体に設置される軸穴部の形状の例を示す図である。
【
図7】(A)および(B)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体と第2の部品である軸との嵌合部の形態の例を示す図である。
【
図8】(A)および(B)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体と第2の部品である軸との嵌合部の形態の例を示す図である。
【
図9】(A)および(B)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体と第2の部品である軸との嵌合部の形態の例を示す図である。
【
図10】(A)および(B)は、本発明の第1の実施形態であって、第1の部品であるアンクル体と第2の部品である軸との嵌合部の形態の例を示す図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態であって、(A)は、ガンギ車の平面形状を示す図であり、(B)はカナの断面形状を示す図である。
【
図12】(A)から(F)は、本発明の第2の実施形態のであって、第1の部品であるガンギ車の製造方法を示す図である。
【
図13】(A)および(B)は、本発明の第2の実施形態であって、第1の部品であるガンギ車に第2の部品であるカナを嵌合する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1(A)は、第1の実施形態に係るアンクルを示す図である。アンクルは、時計を構成するムーブメントのうち、脱進機と呼ばれる時計の駆動と精度に係る非常に重要な部品であると同時に精度を要求される。また、磁性による影響を受けやすい構成部品であることから、非磁性材料の使用が望まれている。
【0038】
本発明の部品であるアンクル101は、第1部品であるアンクル体102、第2部品である軸103、ルビーからなる爪石104および剣先105から構成されている。
アンクル体102は、非晶質で非磁性であるニッケルーリン合金からなりUV-LIGAにより作製される。このニッケル-リン合金は、非常に脆い材料であり、打ち込み、圧入等の機械的嵌合では、破壊、破損する材料である。
軸103は、非磁性のステンレス系材料を用い機械加工により作製される。
【0039】
図1(B)は、
図1(A)におけるA-A’部の断面を示した図である。アンクル体102の嵌合部には、内部に向かって幅方向に広がる傾斜部106を有する第1の開口部107と、内部から外に向かって幅方向に広がる第2の開口部108を有している。
軸103は、鍔109を備えており、アンクル体102の第1の開口部107を嵌合後は完全に隠す大きさを有している。
これらのアンクル体102と軸103は、第1の開口部107に封入された形態を有する接合部110により嵌合一体化された部品であるアンクル101を形成している。
接合部110は、例えば、スズに微量の銅を含有するハンダ材である。
【0040】
図1(C)は、
図1のB-B’部の断面を示した図であり、アンクル体102は、一表面から形成されている貫通しない開口表面側から内部に向かって幅方向に広がる傾斜部111を有する開口部112に充填されたハンダ材である接合部113を介して、剣先105と嵌合一体化している。
【0041】
このようなアンクル体102は、
図2および
図3に示した第1の塗布工程、第1の露光工程、第2の塗布工程、第2の露光工程、現像工程、成形工程、厚み調整工程、除去・分離工程を経て製造される。以下、これらの各工程について詳細に説明する。
【0042】
第1の塗布工程では、
図2(A)に示すように、シリコンウエハ201の一面に導電膜202を形成する。導電膜202は金、銅、クロム等の金属を用いるが、複数の膜の層構造で構成されていてもよい。また、形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等の気相めっき法による方法や無電解めっき等の湿式めっき法を採用してもよい。膜厚は、数nmから数μmの範囲であることが好ましい。
次に導電膜202上にフォトレジストを塗布することにより、
図2(B)に示す第1のフォトレジスト層203を形成する。本実施形態における第1のフォトレジスト層203の厚みは75μmとした。フォトレジストとしては、ネガタイプ、ポジタイプのいずれも適用できるが、本実施形態では、ネガタイプのフォトレジストを使用した例について述べる。
【0043】
次に第1の露光工程を行う。第1の露光工程では、図示しない第1のフォトマスクを用いて露光を行うことにより、
図2(C)に示す第1の開口部107となる露光部204を形成する。この露光部204は、図示しないフォトマスク側から入射した紫外線が第1のフォトレジスト層203により吸収されるため、深さ方向に露光量に分布が生じ、
図2(C)に示すような厚み方向にフォトレジストが硬化する露光部204が縮まる分布を有しており、未露光部205との境界部に傾斜部206を形成する。この傾斜部206の角度は、露光量により、垂直に対して、+1度(露光部が厚み方向で幅が広がる)から-5度(露光部が厚み方向で幅が狭まる)程度の範囲で制御することができる。本実施形態では、フォトレジスト内部に向かって幅が-1度の傾斜で狭まるように露光量を設定した。
【0044】
次に第2の塗布工程では、第1のフォトレジスト層203で使用したフォトレジストと同じフォトレジストを第1のフォトレジスト層203上に塗布することにより
図2(D)に示す第2のフォトレジスト層207を形成する。この第2のフォトレジスト層207は、第1のフォトレジスト層203の未露光部205と一体化し、
図2(E)に示す厚み180μmを有するフォトレジスト層208を形成する。
【0045】
次に第2の露光工程では、図示しない第2のフォトマスクを用いて露光を行うことにより
図2(F)に示した露光部209と露光部210を得る。露光部209は、嵌合部のうち第2の開口部108となるべき部分であり、露光部210は、アンクル体102の外形形状となるべき形状を有している。なお、
図1(C)に示した剣先105を嵌合するための貫通しない開口部112は、図示しない第2のフォトマスクでの露光を行わないようにすればよい。
【0046】
次に現像工程を行う。図示しない現像液に浸漬することにより現像は行われ、
図2(G)に示したような開口部211を有する成形型212が完成する。
【0047】
次に成形工程を行う。
図3は、アンクル体の作製方法のうち電鋳に関わる工程の図である。成形工程では、成形型212を図示しないニッケル-リン合金電鋳浴内に浸漬し、
図3(A)に示す成形型301内に厚み200μmのニッケルーリン合金電鋳を行うことにより電鋳体302を得る。電鋳浴は、硫酸ニッケルと亜リン酸からなるものを使用し、電鋳された合金の組成のうち、リン含有率が14wt%となるように条件設定を行った。このリン含有率が14wt%の析出物は、非晶質であると同時に磁性的には非磁性特性を示した。
【0048】
次に厚み調整工程を行う。電鋳終了後、図示しない研削装置よび研磨装置により電鋳体302の厚みおよび表面を調整することにより所望とする厚みを有する電鋳体303を得る。
【0049】
最後に、除去・分離工程を行う。厚みおよび表面を調整した電鋳体303が形成されている成形型301のうち不要部の剥離、溶解を行うことによりにニッケル-リン合金電鋳からなるアンクル体304を得る。このアンクル体304のうち、軸103が嵌合されるべき軸穴305は、二段構造の第1の開口部306と第2の開口部307で構成されており、第1の開口部306が第2の開口部に対して幅方向で広くなっている。また、第1の開口部306の側壁には、開口面側から内部に向かって広がる第1の傾斜部308を有している。即ち、第1の開口部306が軸103が挿入される側の面から、第2の開口部307とつくる段差部へ向けて、幅方向に離間する傾斜部を備えている。また、第2の開口部307は、反対面に向かって内部から外部に向かって開口が広がっている第2の傾斜部309を有している。
【0050】
次に、第1の部品であるアンクル体102に第2の部品である軸103の取り付けについて説明する。
図4は、各部品の断面により嵌合工程を示した図である。
図4(A)に示したように、第1の部品であるアンクル体401のうち、嵌合部である軸穴402は、第1の開口部403、第2の開口部404および、これら開口部により作られる底部405で構成されている。
【0051】
まず、
図4(B)に示したように、第1の開口部403と底部405を利用して、銅を0.7%含有するスズを主成分とするハンダワッシャー406を配置する。
次に、
図4(C)に示したように、鍔407を有する軸408を第1の開口部403側から軸穴402へ配置するが、この軸408の鍔407の軸穴402側には、第1の開口部403に挿入され、第2の開口部404には入らない大きさの凸部409を有している。
【0052】
次に、
図4(D)に示したように、軸408を圧入することにより、軸408をアンクル体401に固定する。この時、ハンダワッシャー406は、例えば円環状で、その内径は、真部410の外形より小さい場合においても、ハンダワッシャー406が非常に柔らかいことから、脆い材料からなるアンクル体401には何ら影響を与えずに真部410を第2の開口部404へ挿入することができる。
【0053】
最後に、
図4(E)に示したように、ハンダワッシャーの液相線温度である230℃以上に加熱・溶融することにより、ハンダワッシャー406に流動性をもたせ、第1の開口部403の形状に変形させ、かつ、軸408に設けられた凸部409の一部、または、全部を第1の開口部403内部に挿入し、接合部411を形成することにより、アンクル体401と軸408を嵌合・一体化することができる。この時、凸部409の寸法とハンダワッシャー406の寸法を適宜決定することにより、接合部411の充填量を調整することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、ハンダワッシャー406を第1の部品であるアンクル体401の第1の開口部403に挿入・配置したが、
図5に示したように、第2の部品である軸501側に配置してもよい。
また、ハンダワッシャー504を加熱・溶融することにより、第1の開口部506だけでなく、第2の開口部508と軸501との間にできる間隙部512に流出しても外観状問題が生じなければ、嵌合強度としては高まることから、好ましい状態である。
【0055】
さらに、本実施形態では、第1の開口部403および第2の開口部404の平面方向の形状は特に規定されるものではない。
この平面方向の形状の別の形態例を
図6に示す。
図6(A)は、第1の部品であるアンクル体601の断面を示した図であり、第1の開口部602、第2の開口部603と底部604を示している。
【0056】
図6(B)は、一例として、
図6(A)におけるC方向から見た第1の開口部602、第2の開口部603および底部604を拡大した図であり、円形形状を有する第1の開口部縁部605、円形形状を有する第2の開口部縁部606および底部607を示した例を表した図である。
また、
図6(C)は、別の例として、
図6(A)におけるC方向から見た第1の開口部602、第2の開口部603および底部604を拡大した図であり、第2の開口部縁部608が円形形状であるのに対して、第1の開口部縁部609が異形形状である例を示した図である。
【0057】
さらに、本実施形態の別の形態を
図7に図示する。
図7(A)に示したように、軸701に一体形成された凸部702の断面形状を鍔703の方向に向かって、狭くなる形状とする。これにより、ハンダワッシャー704を加熱・溶融し、圧入することにより、
図7(B)に示したごとく、凸部702を接合部707内部で楔のごとく働くため、軸701が抜き力に対して強度が上がることとなる。
【0058】
さらに、本実施形態では、軸103として非磁性であるステンレス材を用い、アンクル体102として、ニッケルーリン電鋳材料を使用したが、これら材料や表面にメッキ層を有するものを使用してもよい。また、ステンレス材以外の材料を用いてもよいことは言うまでもない。
【0059】
この本実施形態の別の形態を
図8に図示する。
図8(A)は、鉄系材料からなる軸801表面にハンダ濡れ性が高い無電解ニッケル-ホウ素メッキ層802、ニッケルーリンからなるアンクル体803の表面に非磁性である金メッキ層804を形成し、銅を0.7%含有するスズからなるハンダワッシャー805を配置した図であり、
図8(B)は、加熱することによりハンダワッシャー805を溶融し、軸801とアンクル体803を一体化し、ハンダ材からなる接合部806と軸801の界面部にスズとニッケルからなる拡散層807、ハンダ材からなる接合部806とアンクル体803との界面部にスズと金からなる拡散層808を形成した図を示している。
【0060】
この接合部806を有する本発明に係る部品であるアンクル809では、本発明に係る第1の部品であるアンクル体803と第2の部品である軸801の間に非常に強固な結合を有する拡散層808と808を形成する接合部806を有することから強度に優れたものが得られる。
【0061】
さらに本実施形態の別の形態例を
図9に示す。
図9(A)は、軸901のみに高いハンダ濡れ性を有するメッキ層902を形成した例であり、
図9(B)は、加熱することによりハンダワッシャー903を溶融し、軸901とアンクル体904を一体化し、ハンダ材からなる接合部906と軸901の界面部にスズとニッケルからなる拡散層905を形成した図を示している。
この場合、拡散層905は、軸901と接合部906との間に形成し、強固な接合を示す。アンクル体904には、抜き力方向に対しては傾斜部907により、強度を発揮し、平面断面構造として、円形状とは異なる異形形状、例えば
図6(C)に示した形状とすることにより、回転方向の力に対する強度を発揮することが可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態の別の形態例を
図10に示す。
図10(A)は、アンクル体1004の表面にハンダ濡れ性を有するメッキ層1002を形成した例であり、
図10(B)は、加熱することによりハンダワッシャー805を溶融し、軸801とアンクル体803を一体化した図を示している。
この場合、拡散層1005はアンクル体1004とハンダ材からなる接合部1006の界面に形成されることになるため、アンクル体1004と接合部1006の接合強度が高まることになり、軸1001側との強度を高めるために、軸1001の凸部1007の平面断面構造を円形状とは異なる形状とすることが好ましい。
【0063】
また、別の形態例を含めた本実施形態では、
図1に示すように、第1の部品であるアンクル体102と軸103の嵌合において、第1の開口部107および第2の開口部108と軸103との間隙に接合部110を設け、この接合部110を鍔109で覆うことにより、接合部110を隠すことができるので外観上問題を起こすことがない。
【0064】
以上、本発明に係る部品であるアンクルを第1の部品として、非磁性・非晶質ニッケル-リン合金電鋳からなるアンクル体、第2の部品についてステンレス材、鉄系材料による鍔付き軸について説明したが、同様な電鋳によるガンギ車、通常歯車等にカナと呼ばれる軸部品や鍔付きの軸の嵌合したものにも適用できることは言うまでもない。また、この部品を用いた時計用ムーブメントと、この時計用ムーブメントにより時計を製造することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
図11は、本発明の第2の実施形態を示すものであって、
図11(A)は、ガンギ車の平面形状を示す図であり、
図11(B)はカナの断面形状を示す図である。第1の部品であるシリコン製のガンギ車1101と第2の部品である金属製のカナ1102を示した図であり、この二つの部品は、軸穴1103を通して一体化された部品として使用される。
【0066】
図12は、シリコン製ガンギ車1101の製造工程を説明するための断面を使った図であり、工程は、塗布工程と、第1の露光工程と、第2の露光工程と、現像工程と、第1のエッチング工程と、第2のエッチング工程と、除去工程から構成されている。
【0067】
まず、塗布工程では、
図12(A)に示したシリコンウエハ1202の両面に、露光部が現像により除去される第1のポジ型フォトレジスト層1203と第2のポジ型フォトレジスト層1204を塗布する。
【0068】
次に第1の露光工程では、
図12(B)に示した、図示しない第1のフォトマスクを用いて、シリコンウエハの一面に露光部1205形成する。
次に第2の露光工程では、
図12(B)に示した、図示しない第2のフォトマスクを用いて、シリコンウエハの前記一面と対向する別の面に露光部1206と露光部1207を形成する。
【0069】
次に現像工程では、
図12(C)に示すように、図示しない現像液に基板1201を浸漬することにより、露光部1205、1206および1207部を除去する。
【0070】
次に第1のエッチング工程では、
図12(D)に示すように、いわゆるシリコンの深堀技術であるD-RIE(Deep-Reactive Ion Etching)法により、反応ガスとしてSF
6とCF
4を用いて、シリコンウエハ1202のうち、第1の表面の開口部1208のエッチングをシリコンウエハ1202の厚み中央まで行い、第1の開口部1210と外形形状部1211を形成する。この第1の開口部1210は、適切なエッチング条件を設定することによりシリコンウエハ1202内部に向かって第1の開口部1210が広がるようにすることができることから、傾斜部1212と底部1213を有した構造となる。
【0071】
次に第2のエッチング工程では、
図12(E)に示すように、第1のエッチング工程と同様に、第2の表面の開口部1209のエッチングを前記第1のエッチング工程で形成した第1の開口部1210の底部1213および外形形状部1211に至るまで行うことにより、貫通した第2の開口部1214と貫通した外形形状部1215を得る。第1の開口部1210と第2の開口部1214は、接続され貫通孔を形成することとなるが、第1の開口部1210の底部1213の一部は、底部1217として残る。また、第2の開口部1214には、第1の開口部1210とは、異なり内部に向かって狭まる傾斜部1216を有する。
【0072】
次に除去工程では、
図12(F)に示すように、図示しない剥離液に基板1201を浸漬することにより、フォトレジスト層1218の除去を行うことにより第1の部品であるシリコンからなるガンギ車1219を得る。
【0073】
次に、第1の部品であるガンギ車1101に第2の部品であるカナ1102の取り付けについて説明する。
図13は、各部品の主要部概略断面により嵌合工程を示した図である。
図13(A)に示したように、第1の部品であるシリコンからなるガンギ車1301には第1の開口部1302と第2の開口部1303が設けられているが、第1の開口部1302にはガンギ車1301の厚み方向内部に向かって広がる第1の傾斜部1304、第2の開口部1303にはガンギ車1301の厚み方向内部に向かって狭まる第2の傾斜部1305を有している。また、第1の開口部1302の底部1306には、銅0.7%を含有するスズからなるハンダワッシャー1307が配置されている。
【0074】
また、第2の部品である金属からなるカナ1308は、歯車部1309、軸部1310と軸部1310に形成された凸部1311、中心決め部1312、真部1313から構成されている。このうち、凸部1311は、歯車部1309方向に向かって狭まる傾斜を有している。
まず、カナ1308は、真部1313および中心決め部1312の一部がハンダワッシャー1307を貫通するように配置される。
【0075】
次に、
図13(B)に示すように、カナ1308をガンギ車1301へ押し込むと同時に、両者を加熱し、ハンダワッシャー1307を溶融することにより、カナ1308を完全に押し込み、その後、冷却することによりハンダを固化し、接合部1314を形成することによりカナ1308とガンギ車1301を一体化することにより、カナ1308が取り付けられたガンギ車1301を得る。
【0076】
なお、カナ1308をガンギ車1301の嵌合に際して、第1の開口部1302と第2の開口部1303が軸穴部1315を形成することになるが、軸穴部1315に対するカナ1308の位置合わせ精度は、中心決め部1312と第2の開口部1303の最も開口径が狭い部分である第1の開口部1302が作る底部1306の縁部1316との位置関係により決まるが、この縁部1316は、フォトリソグラフィーとエッチング工程に用いられるD-RIEによるエッチング加工精度によるものであり、いずれも微細加工性に優れた手段であり、機械加工で作られるカナ1308より精度として優れたものであることから、非常に高い位置だし精度を有している。
【0077】
このようにして製造されたカナ付きのガンギ車1317は、接合部1314に楔のごとく埋め込まれた凸部1311とガンギ車1317の厚み方向に広がる第1の開口部1302に埋め込まれた接合部1314が同様に楔のごとく作用するため、抜き力に対して、軸部1310は極めて高い強度をもって、ガンギ車1301に嵌合された状態となる。
また、軸部1310の平面方向の断面形状を
図6(C)に例示した形状とすれば、カナ1308の回転方向に対する強度を高めることができる。
【0078】
また、カナ1308の接合部1314に埋没する部分の一部または全部に平面方向に円形とは異なる断面形状部を形成することにより、回転方向に対する強度が向上することができる。
また、軸部1310の材料としてハンダ濡れ性が高い材料を用いる、または、表面部にハンダ濡れ性が高いメッキ層を形成する等の手段を施せば、接合部1314と軸部1310の接合強度がさらに高まるので、強度に対する信頼性の向上と、その使用範囲を広めることができる。
【0079】
本実施形態では、接合部1314となる金属接合材としてハンダを用いたが、第1の部品および第2の部品が十分に耐熱性を有する材料から構成されている場合、例えば、第1の部品としてシリコンを用い、第2の部品として、ステンレス材や高耐熱性合金を用いる場合には、ロウ材を使用することも可能である。
さらに、第1の部品にシリコンを用いる場合、シリコンが金との拡散接合が可能であることから、金からなるワッシャー等を利用し、ロウ材として使用することも本発明に含まれる。
【0080】
また、本実施形態では、第1の部品であるガンギ車1301と軸部1310の嵌合において、第1の開口部1302および第2の開口部1303とカナ1308との間隙に接合部1314を設け、この接合部1314を歯車部1309で覆うことにより、接合部1314を隠すことができるので外観上問題を起こすことがない。
【0081】
以上、本発明に係る部品としてカナを嵌合したガンギ車、第1の部品として、シリコン製ガンギ車、第2の部品についてステンレス材、鉄系材料による歯車付きカナについて説明したが、シリコンにより作製されるアンクル体、ヒゲゼンマイ、歯車等に対し、軸やカナを嵌合する場合においても本発明を適用できることは言うまでもない。
また、この部品を用いた時計用ムーブメントと、この時計用ムーブメントにより時計を製造することができる。
【符号の説明】
【0082】
101、412、510、709、809、908、1008…アンクル
102、304、401、505、601、705、803、904、1004…アンクル体
103、408、501、701、801、901、1001…軸
104…爪石
105…剣先
106、111、206、1212、1216…傾斜部
107、306、403、506、602、1210、1302…第1の開口部
108、307、404、508、603、1214、1303…第2の開口部
109、407、502、703…鍔
110、113、411、511、707、708、806、906、1006、1314…接合部
112、211、1208…開口部
201、1202…シリコンウエハ
202…導電膜
203…第1のフォトレジスト層
204、209、210、1205、1206、1207…露光部
205…未露光部
207、208、1218…フォトレジスト層
212、301…成形型
302、303…電鋳体
305、402…軸穴
308、507、706、907、1304…第1の傾斜部
309、509、1305…第2の傾斜部
405、604、607、1213、1217、1306…底部
406、504、704、805、903、1003、1307…ハンダワッシャー
409、702、1007、1107、1311…凸部
410、503、1313…真部
512…間隙部
605、609…第1の開口部縁部
606、608…第2の開口部縁部
802…ニッケル-ホウ素メッキ層
804…金メッキ層
807、808、905、1005…拡散層
902、1002…メッキ層
1101、1219、1301、1317…ガンギ車
1102、1308…カナ
1103…軸穴
1104、1313…真部
1105、1309…歯車部
1106、1312…中心決め部
1201…基板
1203…第1のポジ型フォトレジスト層
1204…第2のポジ型フォトレジスト層
1208…第1の表面の開口部
1209…第2の表面の開口部
1211、1215…外形形状部
1310…軸部
1315…軸穴部
1316…縁部