(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023648
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】トンネル覆工方法及び覆工構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230209BHJP
E21D 11/08 20060101ALI20230209BHJP
E21D 11/18 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
E21D11/10 A
E21D11/08
E21D11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129347
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰文
(72)【発明者】
【氏名】夏目 岳洋
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155CA01
2D155DA02
2D155GB01
2D155GC00
2D155KB03
2D155KB08
(57)【要約】
【課題】現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版を効率よく構築することのできるトンネル覆工方法及び覆工構造を提供する。
【解決手段】プレキャスト版11の外周面にプレキャスト版11に沿って湾曲する外面板12をプレキャスト版11の外周面と所定間隔をおいて予め取り付けておき、外面板12の取り付けられたプレキャスト版11を現場でアーチ状に設置した後、外面板12とプレキャスト版11との間にコンクリート15を打設するとともに、外面板12を覆工版10の外周面に残置することにより、外面板12とプレキャスト版11とがコンクリート15とともに一体となった覆工版10を構築するようにしたので、現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版10を効率よく構築することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル周方向に沿って湾曲する複数のプレキャスト版をトンネルの周方向及び軸方向に配列してアーチ状の覆工版を構築するトンネル覆工方法において、
前記プレキャスト版の外周面にプレキャスト版に沿って湾曲する外面板をプレキャスト版の外周面と所定間隔をおいて予め取り付けておき、
外面板が取り付けられたプレキャスト版を現場でアーチ状に設置した後、
プレキャスト版と外面板との間にコンクリートを打設するとともに、
外面板を覆工版の外周面に残置することにより、
プレキャスト版と外面板とがコンクリートとともに一体となった覆工版を構築する
ことを特徴とするトンネル覆工方法。
【請求項2】
トンネル径方向に延びる複数の連結部材によって外面板とプレキャスト版とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結する
ことを特徴とする請求項1記載のトンネル覆工方法。
【請求項3】
水平方向に延びる複数の連結部材によって外面板とプレキャスト版とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結する
ことを特徴とする請求項1または2記載のトンネル覆工方法。
【請求項4】
トンネル周方向に沿って湾曲する複数のプレキャスト版をトンネルの周方向及び軸方向に配列して構築されるアーチ状の覆工版を備えたトンネル覆工構造において、
前記プレキャスト版に沿って湾曲するように形成され、プレキャスト版の外周面にプレキャスト版の外周面と所定間隔をおいて取り付けられた外面板を備え、
外面板が取り付けられたプレキャスト版を現場でアーチ状に設置するとともに、プレキャスト版と外面板との間にコンクリートを打設して外面板を残置することにより、プレキャスト版と外面板とがコンクリートとともに一体となった覆工版が構築されている
ことを特徴とするトンネル覆工構造。
【請求項5】
トンネル径方向に延びるように形成され、外面板とプレキャスト版とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結する複数の連結部材を備えた
ことを特徴とする請求項4記載のトンネル覆工構造。
【請求項6】
水平方向に延びるように形成され、外面板とプレキャスト版とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結する複数の連結部材を備えた
ことを特徴とする請求項4または5記載のトンネル覆工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル坑口部に構築される覆工版の施工に用いるトンネル覆工方法及び覆工構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トンネルの施工においては、掘削したトンネルの内周面に吹付けコンクリートによって一次覆工を形成した後、一次覆工に沿って型枠を設置し、型枠にコンクリートを打設することにより二次覆工を構築する施工方法が一般的である。しかしながら、このような工法では型枠の設置及び撤去等に多くの工数を要する。
【0003】
また、他の覆工方法として、予め工場等で製作したプレキャスト版を用いて覆工版を構築するようにした工法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この工法では、現場に搬入したプレキャスト版をエレクター等の架設装置を用いてトンネル周方向及び軸方向に設置することにより覆工版を構築することができるので、覆工コンクリートを現場で打設する必要がなく、効率よく覆工版を構築することができることから、多くのトンネルの施工に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、山岳部の地中に設置されるトンネル一般部では、トンネル周辺の地山がそれ自体でトンネルを支えるように作用する、いわゆるグランドアーチが形成されるが、トンネルの出入り口に位置する坑口部では、土被りが十分に確保されないことから、トンネル一般部よりも剛性の高い構造が必要となる。このため、従来では、坑口部のトンネル底部に両側壁部の基礎を結合するインバートを設置するとともに、両側壁部に亘って鉄筋入りの覆工版を構築するようにしている。
【0006】
しかしながら、鉄筋入りの覆工版を構築するためには、型枠を用いて現場でコンクリートを打設する必要があり、型枠の設置及び撤去による工期の長期化を来すという問題点があった。
【0007】
また、坑口部の覆工版にプレキャスト版を用いれば、型枠を用いたコンクリートの現場打設が不要となるが、坑口部にはトンネル一般部よりも剛性の高い覆工版が必要となるため、プレキャスト版自体の厚さ寸法及び重量がトンネル一般部用のプレキャスト版よりも大きくなり、現場への輸送、搬入及び設置が大掛かりになるという問題点があった。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版を効率よく構築することのできるトンネル覆工方法及び覆工構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、トンネル周方向に沿って湾曲する複数のプレキャスト版をトンネルの周方向及び軸方向に配列してアーチ状の覆工版を構築するトンネル覆工方法において、前記プレキャスト版の外周面にプレキャスト版に沿って湾曲する外面板をプレキャスト版の外周面と所定間隔をおいて予め取り付けておき、外面板が取り付けられたプレキャスト版を現場でアーチ状に設置した後、プレキャスト版と外面板との間にコンクリートを打設するとともに、外面板を覆工版の外周面に残置することにより、プレキャスト版と外面板とがコンクリートとともに一体となった覆工版を構築するようにしている。
【0010】
また、本発明は前記目的を達成するために、トンネル周方向に沿って湾曲する複数のプレキャスト版をトンネルの周方向及び軸方向に配列して構築されるアーチ状の覆工版を備えたトンネル覆工構造において、前記プレキャスト版に沿って湾曲するように形成され、プレキャスト版の外周面にプレキャスト版の外周面と所定間隔をおいて取り付けられた外面板を備え、外面板が取り付けられたプレキャスト版を現場でアーチ状に設置するとともに、プレキャスト版と外面板との間にコンクリートを打設して外面板を残置することにより、プレキャスト版と外面板とがコンクリートとともに一体となった覆工版を構築するようにしている。
【0011】
これにより、外面板が予め取り付けられたプレキャスト版が現場に搬入され、プレキャスト版と外面板との間にコンクリートを打設して外面板を残置することにより、プレキャスト版と外面板とがコンクリートとともに一体となった覆工版が構築されることから、現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版が構築される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版を効率よく構築することができるので、工期の短縮を図ることができ、例えばトンネル坑口部に構築される覆工版の施工に極めて有利である。即ち、プレキャスト版及び外面板をコンクリートの打設前の状態で現場に搬入することができるので、現場に搬入されるプレキャスト版及び外面板の重量を軽くすることができるとともに、その設置作業もエレクター等の架設装置を用いて効率よく行うことができ。また、外面板が予め取り付けられたプレキャスト版が現場に搬入されるので、現場でのプレキャスト版及び外面板の設置作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態を示すトンネルの覆工版の一部断面正面図
【
図3】コンクリート打設前の状態を示す覆工版の斜視図
【
図4】コンクリート打設前の状態を示す覆工版の部分正面図
【
図5】コンクリート打設前の状態を示す覆工版の部分正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図8は本発明の一実施形態を示すもので、トンネル坑口部に構築される覆工版の施工に用いるトンネル覆工方法及び覆工構造を示すものである。
【0015】
同図に示すトンネル1は、例えば山岳部のトンネルの出入り口に位置する坑口部に設けられるもので、そのトンネル底部には、側壁部2の基礎が基盤面3の上に設置され、各側壁部2に亘って円弧状の覆工版10が構築される。
【0016】
覆工版10は、トンネル周方向に延びる複数のプレキャスト版11と、プレキャスト版11の外周面側に配置される複数の外面板12と、プレキャスト版11と外面板12とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結する複数の第1及び第2の連結部材13,14と、プレキャスト版11と外面板12との間に打設されるコンクリート15とからなる。
【0017】
プレキャスト版11は、工場等で製造される板状のコンクリートからなり、トンネル周方向に沿う円弧状をなすように形成されている。プレキャスト版11は、トンネル周方向複数に分割(例えば2分割)されており、それぞれの分割部分に対応するトンネル周方向の長さを有するように形成されている。
【0018】
外面板12は、円弧状の金属板からなり、プレキャスト版11の外周面に沿う円弧状をなすように形成されている。外面板12はプレキャスト版11と同様、トンネル周方向複数に分割されており、それぞれの分割部分に対応するトンネル周方向の長さを有するように形成されている。一方の外面板12のトンネル周方向一端部には、トンネル周方向に隣り合う他方の外面板12との接合部12aが設けられており、接合部12aは他方の外面板12の外面の一部と重なり合うように段差状に形成されている。
【0019】
各第1の連結部材13は、設置状態でトンネル径方向に延びる棒状の部材からなり、外面板12とプレキャスト版11との間に互いにトンネル周方向に間隔をおいて配置されている。各第1の連結部材13の一端はプレキャスト版11に固定され、その他端は外面板12に固定されている。
【0020】
各第2の連結部材14は、設置状態で水平方向に延びる棒状の部材からなり、外面板12とプレキャスト版11との間に互いにトンネル周方向に間隔をおいて配置されている。各第2の連結部材14の一端はプレキャスト版11に固定され、その他端は外面板12に固定されている。
【0021】
ここで、本実施形態による覆工版10の構築方法について説明する。
【0022】
まず、
図6に示すように、坑口部となるトンネルの底部に側壁部2を基盤面3の上に構築する。この後、工場等で予め外面板12が取り付けられたプレキャスト版11を現場に搬入し、
図7に示すように左右一方の側壁部2側に一方のプレキャスト版11を設置した後、
図8に示すように他方の側壁部2側に他方のプレキャスト版11を設置することにより、プレキャスト版11及び外面板12を各側壁部2に亘ってアーチ状に設置する。その際、エレクター等の架設装置を用い、外面板12が取り付けられたプレキャスト版11を設置する。また、互いに隣り合うプレキャスト版11の外面板12同士は接合部12aによって接合される。この場合、互いに隣り合う一方の外面板12の接合部12aは、例えばボルト締めや溶接等によって他方の外面板12に固定される。この場合、プレキャスト版11と外面板12との間にトンネル周方向に延びる補強用の鉄筋を配筋するようにしてもよい。
【0023】
次に、各側壁部2に亘ってアーチ状に設置されるプレキャスト版11及び外面板12を、
図3に示すようにトンネル軸方向に順次配列して設置した後、プレキャスト版11と外面板12との間にコンクリート15を打設して外面板12を残置することにより、
図1及び
図2に示すように外面板12とプレキャスト版11とがコンクリート15とともに一体となった覆工版10を構築する。
【0024】
その際、プレキャスト版11と外面板12はトンネル径方向に延びる第2の連結部材14によって互いに連結されていることから、外面板12は第1の連結部材13によってプレキャスト版11との間にトンネル周方向に均一な間隔をおいて保持される。また、コンクリート15の打設は、トンネル頂部に設けた投入口(図示せず)からコンクリートを投入することにより行われるが、プレキャスト版11と外面板12は水平方向に延びる第2の連結部材14によって互いに連結されていることから、コンクリートの圧力が第2の連結部材14によってプレキャスト版11と外面板12に均等に加わる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、プレキャスト版11の外周面にプレキャスト版11に沿って湾曲する外面板12をプレキャスト版11の外周面と所定間隔をおいて予め取り付けておき、外面板12の取り付けられたプレキャスト版11を現場でアーチ状に設置した後、外面板12とプレキャスト版11との間にコンクリート15を打設するとともに、外面板12を覆工版10の外周面に残置することにより、外面板12とプレキャスト版11とがコンクリート15とともに一体となった覆工版10を構築するようにしたので、現場での型枠の設置及び撤去を必要とすることなく剛性の高い覆工版10を効率よく構築することができる。
【0026】
この場合、プレキャスト版11及び外面板12をコンクリート15の打設前の状態で現場に搬入することができるので、現場に搬入されるプレキャスト版11及び外面板12の重量を軽くすることができるとともに、その設置作業もトンネル一般部と同様にエレクター等の架設装置を用いて効率よく行うことができ、工期の短縮を図ることができる。
【0027】
更に、外面板12が予め取り付けられたプレキャスト版11が現場に搬入されるので、現場でのプレキャスト版11及び外面板12の設置作業を容易に行うことができ、より一層の工期の短縮を図ることができる。
【0028】
また、トンネル径方向に延びる複数の第1の連結部材13によって外面板12とプレキャスト版11とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結するようにしたので、外面板12をプレキャスト版11との間にトンネル周方向に均一な間隔をおいて保持することができ、外面板12とプレキャスト版11との間に厚さの均一なコンクリート15を容易に形成することができる。
【0029】
更に、水平方向に延びる複数の第2の連結部材14によって外面板12とプレキャスト版11とを互いにトンネル径方向に間隔をおいて連結するようにしたので、コンクリート打設の際、コンクリートの圧力が第2の連結部材14によってプレキャスト版11と外面板12に均等に加わるようにすることができ、打設コンクリートの圧力による外面板12の変形を防止することができる。
【0030】
尚、前記実施形態では、本発明を山岳トンネルの坑口部に用いるようにしたものを示したが、例えば開削工法による他のトンネルの覆工にも本発明を適用することができる。
【0031】
また、前記実施形態は本発明の一実施例であり、本発明は前記実施形態に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0032】
1…トンネル、10…覆工版、11…プレキャスト版、12…外面板、13…第1の連結部材、14…第2の連結部材、15…コンクリート。