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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023660
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】架橋エラストマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/26 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
C08C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129376
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】河田 碧
(72)【発明者】
【氏名】堀川 泰郎
(72)【発明者】
【氏名】宮野 真理
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02Q
4J100AS02P
4J100BA51H
4J100BA87H
4J100CA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA53
4J100HA61
4J100HC54
4J100HE17
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】脱架橋を容易に行うことが可能な架橋エラストマーを提供する。
【解決手段】ジエン系エラストマーを架橋させてなる架橋エラストマーであって、前記ジエン系エラストマーは、ビニル結合量が30質量%以下であり、重量平均分子量が1000以上であり、前記架橋エラストマーの架橋部位に、所定の一般式(1)で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有する、ことを特徴とする、架橋エラストマーである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系エラストマーを架橋させてなる架橋エラストマーであって、
前記ジエン系エラストマーは、ビニル結合量が30質量%以下であり、重量平均分子量が1000以上であり、
前記架橋エラストマーの架橋部位に、下記一般式(1):
【化1】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基である]で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有する、ことを特徴とする、架橋エラストマー。
【請求項2】
前記ジボロン酸エステル骨格単位の割合が17質量%以下である、請求項1に記載の架橋エラストマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の架橋エラストマーの製造方法であって、
ラジカル開始剤の存在下で、前記ジエン系エラストマーを、下記一般式(2):
【化2】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基であり、Y及びYは、それぞれ独立して単結合又は2価の炭化水素基である]で表されるジボロン酸エステル化合物を用いて架橋させる、ことを特徴とする、架橋エラストマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋エラストマー及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、タイヤ等の加硫ゴム(架橋ゴム)については、環境問題や省資源化の観点から、使用後にリサイクルすることが推し進められている。加硫ゴムのリサイクル技術としては、加硫ゴムを脱硫する方法が従来公知であるが、脱硫反応は、非常に高い温度を必要とするため、エネルギー効率が悪いという欠点がある。
【0003】
そこで、加硫ゴムを脱硫以外の方法で分解する技術も検討されてきている。例えば、特許文献1は、脂質過酸化反応により加硫ゴムを分解し、アルカリを添加したアルコール中で脂質を除去してゴム分を回収する、加硫ゴムの分解回収方法を開示している。この方法によれば、分解反応温度が低くエネルギー効率に優れ、分解速度も速く、さらにリサイクル回収の容易な分解生成物が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-153272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の特許文献1の技術は、加硫ゴムを広く分解対象物とするものであり、加硫(硫黄架橋)以外の方法で架橋させたゴム(架橋エラストマー)については、何ら検討されていない。
【0006】
また、架橋エラストマー自体に着目して、容易に脱架橋ができ、ひいては再架橋を生じさせることができる(いわゆる可逆架橋性を有する)架橋エラストマーを開発することは、材料の更なる有効利用や汎用性の観点からも非常に有用である。
【0007】
そこで、本発明は、脱架橋を容易に行うことが可能な架橋エラストマーを提供することを課題とする。
また、本発明は、上述した架橋エラストマーを容易に製造することが可能な、架橋エラストマーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の架橋エラストマーが、脱架橋を容易に行うことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明の架橋エラストマーは、ジエン系エラストマーを架橋させてなる架橋エラストマーであって、
前記ジエン系エラストマーは、ビニル結合量が30質量%以下であり、重量平均分子量が1000以上であり、
前記架橋エラストマーの架橋部位に、下記一般式(1):
【化1】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基である]で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有する、ことを特徴とする。
かかる本発明の架橋エラストマーは、脱架橋を容易に行うことが可能である。
【0010】
本発明の架橋エラストマーは、前記ジボロン酸エステル骨格単位の割合が17質量%以下であることが好ましい。この場合、この場合、架橋エラストマーに十分なエラストマー性を保持することができる。
【0011】
本発明の架橋エラストマーの製造方法は、上述した架橋エラストマーの製造方法であって、
ラジカル開始剤の存在下で、前記ジエン系エラストマーを、下記一般式(2):
【化2】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基であり、Y及びYは、それぞれ独立して単結合又は2価の炭化水素基である]で表されるジボロン酸エステル化合物を用いて架橋させる、ことを特徴とする。
かかる製造方法は、上述した架橋エラストマーを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脱架橋を容易に行うことが可能な架橋エラストマーを提供することができる。
また、本発明によれば、上述した架橋エラストマーを容易に製造することが可能な、架橋エラストマーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0014】
(架橋エラストマー)
本発明の一実施形態の架橋エラストマー(以下、「本実施形態の架橋エラストマー」と称することがある。)は、ジエン系エラストマーを架橋させてなる架橋エラストマーであって、
前記ジエン系エラストマーは、ビニル結合量が30質量%以下であり、重量平均分子量が1000以上であり、
前記架橋エラストマーの架橋部位に、下記一般式(1):
【化3】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基である]で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有する、ことを特徴とする。
【0015】
上述したジボロン酸エステル骨格単位を介した架橋は、一般的な加硫ゴムのような硫黄による結合ではないため、所定の方法により、容易に結合を解くことができる。また、本実施形態の架橋エラストマーは、後述する製造方法により、容易に製造することが可能である。
更に、本実施形態の架橋エラストマーは、脱架橋させた後も更に再架橋させることができるので、種々のゴム物品への汎用も期待できる。
【0016】
なお、本実施形態の架橋エラストマーにおいては、それの製造時に配合することにより、カーボンブラック等の充填剤が分散されていてもよい。上記充填剤が架橋エラストマー中に分散している場合、架橋エラストマー100質量部に対する充填剤の配合量は、10質量部以上とすることができ、また、100質量部以下とすることができる。
【0017】
本実施形態の架橋エラストマーは、それの製造時に所定の加硫系を配合することにより、上述したジボロン酸エステル骨格単位を有する架橋とともに、硫黄架橋が併存していてもよい。
【0018】
<ジエン系エラストマー>
本実施形態の架橋エラストマーは、ジエン系エラストマーを架橋させてなる。即ち、本実施形態の架橋エラストマーは、ジエン系エラストマーの架橋物である。ジエン系エラストマーは、少なくともジエン単位を含むエラストマーを指し、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。ジエン系エラストマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ジエン系エラストマーとしては、タイヤ等のゴム物品の機械的強度を十分に確保する観点から、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0019】
本実施形態の架橋エラストマーに用いるジエン系エラストマーは、ビニル結合量が30質量%以下である。ジエン系エラストマーのビニル結合量が30質量%を超えると、架橋エラストマーを加熱して成形する際にゲル化が生じ、成形を阻害する。また、その結果として、タイヤ等のゴム物品に用いた場合に、所望の品質を保持することができない。同様の観点から、ジエン系エラストマーのビニル結合量は、28質量%以下であることが好ましく、26質量%以下であることが更に好ましい。一方、ジエン系エラストマーのビニル結合量の下限は、特に限定されないが、一般式(1)で表されるジボロン酸エステル骨格単位を架橋エラストマー中に適正量形成させる観点から、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、ジエン系エラストマーのビニル結合量は、ジエン系エラストマー全体のうちの、ジエン単位であり且つビニル結合している単位の質量割合を指す。即ち、ジエン系エラストマーのビニル結合量は、ジエン単位のうちの、ビニル結合している単位の割合ではない。
【0020】
本実施形態の架橋エラストマーに用いるジエン系エラストマーは、重量平均分子量(Mw)が1000以上である。ジエン系エラストマーの重量平均分子量が1000未満であると、架橋エラストマー中で十分な絡み合いが生じない結果、タイヤ等のゴム物品に用いた場合に十分な機械的強度を発現することができない。同様の観点から、ジエン系エラストマーの重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることが更に好ましい。また2000,000以下であることが好ましく、1000,000以下であることがより好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0021】
<ジボロン酸エステル骨格単位>
本実施形態の架橋エラストマーは、架橋部位に、下記一般式(1):
【化4】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基である]で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有する。このジボロン酸エステル骨格単位は、典型的には、架橋エラストマーを製造する際に用いる架橋剤の構造に由来する。
【0022】
一般式(1)中のXであり得る2価の基としては、例えば、炭化水素基が挙げられ、具体例としては、炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基);炭素数6~20の芳香族含有基(1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基等)等が挙げられる。また、上記脂肪族基及び芳香族含有基には、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR-C(=O)-、-C(=O)-NR-、-NR-、又は、-C(=O)-が介在していてもよい。なお、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0023】
本実施形態の架橋エラストマーにおける上記のジボロン酸エステル骨格単位は、ジエン系エラストマーにおける、ビニル結合したジエン単位に残存するビニル基を構成する炭素に結合していることが好ましい。また、上述したジボロン酸エステル骨格単位とジエン系エラストマーとの結合は、直接的な結合であってもよく、任意の基(例えば、炭素数1~3のアルキレン基)が介在した結合であってもよい。
【0024】
本実施形態の架橋エラストマーは、上述したジボロン酸エステル骨格単位の割合が17質量%以下であることが好ましい。この場合、架橋エラストマーに十分なエラストマー性を保持することができる。同様の観点から、架橋エラストマーにおけるジボロン酸エステル骨格単位の割合は、14質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。一方、架橋エラストマーにおけるジボロン酸エステル骨格単位の割合の下限は、0質量%超であれば特に限定されないが、強度を硫黄架橋と同等程度に高める観点から、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。
なお、架橋エラストマーにおけるジボロン酸エステル骨格単位の割合は、製造の際に用いたジエン系エラストマー及びジボロン酸エステル化合物の配合量に基づいて算出することができる。
【0025】
本実施形態の架橋エラストマーは、特に限定されないが、タイヤに好適に用いることができる。或いは、本実施形態の架橋エラストマーは、タイヤ以外のゴム物品、例えば、防振ゴム、免震ゴム、ベルト(コンベアベルト)、ゴムクローラ、各種ホース等に用いることもできる。
【0026】
<架橋エラストマーの脱架橋>
なお、本実施形態の架橋エラストマーは、例えば、有機溶媒の存在下で、下記一般式(3):
【化5】
[式中、Xは、水素又は任意の1価の基である]で表されるモノボロン酸化合物と接触させることにより、容易に脱架橋を行うことができる。この接触工程では、架橋エラストマーの架橋部位において交換反応が起こり、ジボロン酸エステル骨格単位を介した架橋が、モノボロン酸化合物の結合に取って代わる。このとき、典型的には、連結する2つのエラストマーの架橋部位が、下記一般式(4):
【化6】
で表される官能基でそれぞれキャップされた形となって、未架橋状態に戻ることとなる。
【0027】
上記有機溶媒は、SP値が7(cal/cm1/2以上10(cal/cm1/2以下であることが好ましい。この場合、架橋エラストマーとの相溶性が高くなり、上記交換反応をより確実に生じさせることができる。
なお、SP値は、Hansen法に従って算出することができる。また、有機溶媒は、単一溶媒であってもよく、混合溶媒であってもよい。
【0028】
上記モノボロン酸化合物は、ボロン酸の数が1個である。一般式(3)中のXであり得る1価の基としては、例えば、炭化水素基が挙げられ、具体例としては、炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基);炭素数6~20の芳香族含有基(フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等);ヘテロ芳香族基(2-フリル基等)等が挙げられる。また、上記脂肪族基及び芳香族含有基には、-O-、-S-、-O-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-O-、-NR-C(=O)-、-C(=O)-NR-、-NR-、又は、-C(=O)-が介在していてもよい。なお、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0029】
一般式(3)中のXであり得る1価の基は、上述の一般式(1)中のXであり得る2価の基の一方の結合手に水素が結合したものと同じであることが好ましい。一例を挙げると、一般式(1)中のXがフェニレン基である架橋エラストマーを用いるのであれば、一般式(3)中のXがフェニル基であるモノボロン酸化合物を用いることが好ましい。この場合、より効果的に交換反応を生じさせることができる。
【0030】
上記の接触工程では、上記ジボロン酸エステル骨格単位に対する上記モノボロン酸化合物のモル存在比(モノボロン酸化合物/ジボロン酸エステル骨格単位)を、2超5以下とすることが好ましい。この場合、エラストマー同士の連結を効果的に解消することができ、また、脱架橋後の更なる再架橋も容易に行うことができる。
【0031】
(架橋エラストマーの製造方法)
本発明の一実施形態の架橋エラストマーの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、上述した本実施形態の架橋エラストマーの製造方法であって、
ラジカル開始剤の存在下で、前記ジエン系エラストマーを、下記一般式(2):
【化7】
[式中、Xは、単結合又は任意の2価の基であり、Y及びYは、それぞれ独立して単結合又は2価の炭化水素基である]で表されるジボロン酸エステル化合物を用いて架橋させる、ことを特徴とする。
本実施形態の製造方法によれば、ラジカル反応を利用することで、所定の骨格を介した架橋をジエン系エラストマー間に形成させ、上述した架橋エラストマーを容易に製造することができる。
【0032】
本実施形態の製造方法で用いるジエン系エラストマーは、架橋エラストマーについて既述した内容と同じである。
【0033】
本実施形態の製造方法では、具体的には、上述したジエン系エラストマーに、ラジカル開始剤及びジボロン酸エステル化合物を配合してミキサー等で混合し、該混合物を加熱することにより、架橋エラストマーを得ることができる。加熱の温度及び時間については、使用するジエン系エラストマーのビニル結合量、使用するラジカル開始剤の種類、使用量などを勘案して、適宜調整することが好ましい。
【0034】
また、本実施形態の製造方法では、ジエン系エラストマー、ラジカル開始剤、ジボロン酸エステル化合物のほか、目的を逸脱しない範囲において、他の成分を更に適量配合してもよい。他の成分としては、カーボンブラック等の充填剤等が挙げられる。また、ジボロン酸エステル骨格単位を有する架橋に加え、硫黄架橋が併存した架橋エラストマーを製造する場合には、硫黄等の加硫剤や加硫促進剤をはじめとする加硫系を適宜配合することもできる。
【0035】
ラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等が挙げられる。これらラジカル開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ラジカル開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。
【0036】
本実施形態の製造方法において、ジエン系エラストマー100質量部に対するラジカル開始剤の使用量は、特に限定されないが、0.1質量部以上3質量部以下とすることができる。この場合、スムーズな架橋反応を生じさせることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法においては、よりスムーズな架橋反応を生じさせる観点で、オイルの配合量が少ない方が好ましい。具体的に、ジエン系エラストマー100質量部に対するオイルの使用量は、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、実質的に0質量部であることが更に好ましい。
同様に、本実施形態の製造方法においては、よりスムーズな架橋反応を生じさせる観点で、老化防止剤の配合量が少ない方が好ましい。具体的に、ジエン系エラストマー100質量部に対する老化防止剤の使用量は、0.8質量部以下が好ましく0.4質量部以下がより好ましく、実質的に0質量部であることが更に好ましい。
【0038】
<ジボロン酸エステル化合物>
本実施形態の製造方法で用いるジボロン酸エステル化合物は、上述の一般式(2)で表される化合物であり、架橋剤の機能を担う。ここで、一般式(2)中のXについては、一般式(1)中のXについて既述した内容と同じである。また、一般式(2)中のY及びYであり得る2価の基としては、例えば、炭素数1~3のアルキレン基が挙げられる。但し、一般式(2)中のY及びYは、いずれも単結合であることが好ましい。
【0039】
本実施形態の製造方法において、ジエン系エラストマー100質量部に対するジボロン酸エステル化合物の使用量は、20質量部以下であることが好ましい。この場合、十分なエラストマー性を保持する架橋エラストマーを得ることができる。同様の観点から、ジエン系エラストマー100質量部に対するジボロン酸エステル化合物の使用量は、16質量部以下であることがより好ましく、11質量部以下であることが更に好ましい。一方、ジエン系エラストマー100質量部に対するジボロン酸エステル化合物の使用量の下限は、0質量部超であれば特に限定されないが、得られる架橋エラストマーの強度を硫黄架橋と同等程度に高める観点から、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0041】
なお、以下では、本発明の架橋エラストマー及びその製造方法に加えて、架橋エラストマーの脱架橋、及び、脱架橋させた後の再架橋の例についても一連で示す。
【0042】
(架橋エラストマーの調製)
表1に示す配合処方で、エラストマー組成物を調製した。次いで、このエラストマー組成物を、ゴム加工性解析装置(アルファテクノロジーズ社製)により、表1に示す条件で加熱し、貯蔵弾性率G’を測定した。結果を表1に示す。いずれの例においても、貯蔵弾性率G’が概ね所望の値になったため、架橋が形成されたものと判断できた。
なお、基準例1は、充填剤であるカーボンブラックを用いない硫黄架橋(加硫)の例であり、一方、実施例1-1~1-4は、当該カーボンブラックを用いず、貯蔵弾性率G’が基準例1に近似するように条件をそれぞれ適宜調整した例である。同様に、基準例2は、充填剤であるカーボンブラックを用いた硫黄架橋(加硫)の例であり、実施例1-5は、当該カーボンブラックを用い、貯蔵弾性率G’が基準例2に近似するように条件を適宜調整した例である。
【0043】
【表1】
【0044】
*1 ジエン系エラストマー:旭化成株式会社製、「タフデン(登録商標)2000R」、スチレン-ブタジエンゴム、ビニル結合量:10~26質量%、重量平均分子量:373,000(有効数字3桁)
*2 BDB:下式(5)で表されるジボロン酸エステル化合物(合成品)
【化8】
*3 CB:HAF級カーボンブラック
*4 ラジカル開始剤:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
*5 加硫促進剤DPG:1,3-ジフェニルグアニジン
*6 加硫促進剤MBTS:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
*7 加硫促進剤TBBS:N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド
【0045】
なお、実施例1-1~1-5で得られた架橋エラストマーは、溶液NMRを適宜用いることにより、下式(6):
【化9】
で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有することが確認された。また、これら架橋エラストマーにおいては、上記のジボロン酸エステル骨格単位が、ジエン系エラストマーにおける、ビニル結合したブタジエン単位に残存するビニル基を構成する炭素に直接結合して、架橋が形成された。
【0046】
(架橋エラストマーの脱架橋処理)
ここでは、カーボンブラックが混合されていないものとして実施例1-4で得られた架橋エラストマーを選択し、カーボンブラックが混合されたものとして実施例1-5で得られた架橋エラストマーを選択した。
この架橋エラストマーを細かく粉砕したのち、有機溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF、SP値:8.95(cal/cm1/2)に投入し、更にモノボロン酸化合物(BA)としてのフェニルボロン酸(PhB(OH))も投入して十分に混合し、室温(約25℃)で1日静置させた。その際、架橋エラストマーの濃度(架橋エラストマー及び有機溶媒の合計に占める架橋エラストマーの質量割合)、並びに、架橋エラストマー中のジボロン酸エステル骨格単位に対するモノボロン酸化合物のモル存在比(BA/BDB骨格単位)は、表2に示す通りとなるようにした。静置後、キャストして溶媒を蒸発させて、処理済エラストマーを得た。
【0047】
<脱架橋の評価>
得られた処理済エラストマーを用い、ロール成形の操作を行った。ロール成形が行えた場合には、脱架橋された(架橋部位が未架橋状態に戻った)ことにより柔らかさが付与されたものと評価した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、実施例2-1~2-7の全てにおいて、脱架橋の評価結果が○であった。即ち、実施例1-4及び1-5で得られた架橋エラストマーは、所定の有機溶媒の存在下でモノボロン酸化合物と接触させることにより、容易に脱架橋させることができた。
【0050】
なお、実施例2-1~2-7で得られた処理済エラストマー(脱架橋エラストマー)においては、溶液NMRを適宜用いることにより、処理前の架橋エラストマーにおける上式(6)で表される骨格が結合していた箇所が、下式(7):
【化10】
で表される官能基でキャップされた形となって、架橋が解消されていることが確認された(架橋部位が未架橋状態に戻った)。同時に、溶液NMRを適宜用いることにより、上記骨格に由来する、下式(8):
【化11】
で表されるジボロン酸化合物((1,4-フェニレン)ジボロン酸)が生成したことが確認された。
【0051】
また、実施例1-1~1-3で得られた架橋エラストマーも、上述したジボロン酸エステル骨格単位を有しているので、上記と同様の処理により、容易に脱架橋を行うことができるものと考えられる。
【0052】
(脱架橋エラストマーの再架橋)
ここでは、カーボンブラックが混合されていないものとして実施例2-2又は実施例2-3で得られた脱架橋エラストマー(処理済エラストマー)を選択し、カーボンブラックが混合されたものとして実施例2-5で得られた脱架橋エラストマー(処理済エラストマー)を選択した。
この脱架橋エラストマーを、脱架橋処理時に生成したジボロン酸化合物とともに、表3に示す溶媒に投入し、更に表3に示す配合処方でラジカル開始剤を投入して、室温(約25℃)で一晩静置させた。その際、脱架橋エラストマーの濃度(脱架橋エラストマー及び溶媒の合計に占める脱架橋エラストマーの質量割合)を、表3に示す通りとなるようにした。静置後、キャストして溶媒を蒸発させて、処理済エラストマーを得た。
【0053】
<架橋(再架橋)の評価>
得られた処理済エラストマーを、ゴム加工性解析装置(アルファテクノロジーズ社製)により、120℃で10~30分間(貯蔵弾性率G’の値が安定するまで)加熱し、貯蔵弾性率G’を測定した。いずれの例においても、測定した貯蔵弾性率G’が、上記のモノボロン酸化合物を投入する前の架橋エラストマーの貯蔵弾性率G’と比較して、20%以上であったので、架橋が形成されたものと判断できた。より具体的に、測定した貯蔵弾性率G’が、上記のフェニルボロン酸を投入する前の架橋エラストマーの貯蔵弾性率G’と比較して、50%以上であれば、より十分な量の架橋が形成されたとして○と評価し、一方、50%未満であれば、△と評価した。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、実施例2-2、2-3、2-5で得られた脱架橋エラストマーは、所定の溶媒の存在下でジボロン酸化合物と接触させることにより、容易に架橋(再架橋)を行うことができた。
【0056】
なお、実施例3-1~3-7で得られた処理済エラストマー(再架橋エラストマー)は、溶液NMRを適宜用いることにより、下式(6):
【化12】
で表されるジボロン酸エステル骨格単位を有することが確認された。即ち、実施例3-1~3-7で得られた処理済エラストマー(再架橋エラストマー)は、実施例1-1~1-5で得られた架橋エラストマーと実質的に同等の構造を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、脱架橋を容易に行うことが可能な架橋エラストマーを提供することができる。
また、本発明によれば、上述した架橋エラストマーを容易に製造することが可能な、架橋エラストマーの製造方法を提供することができる。