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  • 特開-粉じん濃度測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023686
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】粉じん濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20060101AFI20230209BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01N15/06 D
G01N15/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129427
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】文村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】福島 淳平
(72)【発明者】
【氏名】松田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】楠畑 菜津子
(72)【発明者】
【氏名】打田 安宏
(72)【発明者】
【氏名】馬場 勇介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】高森 秀
(57)【要約】
【課題】測定の簡略化および作業効率の向上を図ることを可能としたトンネルの粉じん濃度測定方法を提案する。
【解決手段】施工中のトンネル1において、切羽2から10m~50mの区間内においてトンネル断面両側にそれぞれ設けられた測定装置3,3を利用してトンネル1の坑内の吸入性粉じんの濃度を測定する。測定装置3は、吸入性粉じんを分粒できる分粒装置を備えている。測定装置3の測定結果に事前に設定された係数を乗じた値を区間における粉じん濃度の平均値とみなす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工中のトンネル坑内において、切羽から10m~50mの区間内においてトンネル横断面両側にそれぞれ設けられた測定装置を利用してトンネル坑内の粉じんの濃度を測定することを特徴とする、粉じん濃度測定方法。
【請求項2】
前記測定装置が、吸入性粉じんを分粒できる分粒装置を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の粉じん濃度測定方法。
【請求項3】
前記測定装置の測定結果に事前に設定された係数を乗じた値を前記区間における吸入性粉じん濃度の平均値とみなすことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の粉じん濃度測定方法。
【請求項4】
切羽からおおよそ10m、30mおよび50mの地点において、トンネル横断面両側にそれぞれ設けられた測定装置により測定した吸入性粉じんの濃度の平均値と、
切羽から10m~50mの区間内においてトンネル断面両側に設けられた測定装置により測定した吸入性粉じんの濃度の平均値と、を利用して、前記係数を算出することを特徴とする、請求項3に記載の粉じん濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル坑内の粉じん濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル施工時には、掘削作業、吹付けコンクリートの吹付け作業、ロックボルト等の施工に伴う削孔、ずり積み込み作業等に伴い、粉じんが発生する。そのため、トンネル工事では、作業環境管理や健康障害防止を目的として、施工中に生じるトンネル坑内の粉じんの量を把握するとともに、適切な換気設備などを設ける必要がある。
例えば、特許文献1には、トンネル工事中の粉じんを測定する粉じん測定方法として、閃光を発した空間を撮影し、この撮影画像中に存在する白斑画像の数をカウントする方法が開示されている。
なお、厚生労働省は、「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」を制定し、作業環境管理および健康障害防止を目的として、粉じん濃度の設定、測定方法について規定している。そして、この「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」の改正により令和3年4月1日から開始された「切羽に近接する場所の粉じん濃度等の測定」では、切羽からおおむね10m、30m、50mの各地点において、トンネル横断面両側にそれぞれ測定装置を設置して、この6つの測定装置により空気中の吸入性(レスピラブル)粉じんの濃度を測定することが規定されている。
ところが、発破時の爆風や飛来した岩石が接触することによる測定装置の破損を防止するために、発破作業中は測定装置を撤去する必要がある。また、狭いトンネル坑内において、複数の重機が行き交うトンネル工事では、重機等との接触を防止するため、測定時以外の時間帯には測定装置を撤去するのが望ましい。一方、6か所に設置された測定装置の撤去や設置を繰り返し実施するには手間がかかり、工期短縮化の妨げになるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2008/056444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、測定の簡略化および作業効率の向上を図ることを可能としたトンネルの粉じん濃度測定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の粉じん濃度測定方法は、施工中のトンネル坑内において、切羽から10m~50mの区間内においてトンネル横断面両側にそれぞれ設けられた測定装置を利用してトンネル坑内の粉じんの濃度を測定するものである。なお、前記測定装置としては、吸入性粉じんを分粒できる分粒装置を備えているものが望ましい。
発明者らが鋭意検討したところ、上記区間内の2か所で吸入性粉じんの濃度を測定すれば、ガイドラインに基づいた測定結果(6か所の吸入性粉じの濃度の平均値)を推定できることが判明した。かかる粉じん濃度測定方法によれば、測定装置の設置や撤去に要する手間を低減できるため、測定の簡略化および作業効率の向上が可能となる。
なお、粉じん濃度測定方法では、前記測定装置の測定結果に事前に設定された係数を乗じた値を前記区間内における吸入性粉じん濃度の平均値とみなすことが好ましい。このとき、前記係数には、切羽からおおよそ10m、30mおよび50mの地点において、トンネル横断面両側にそれぞれ設けられた測定装置により測定した吸入性粉じんの濃度の平均値と、切羽から10m~50mの区間内においてトンネル断面両側に設けられた測定装置により測定した吸入性粉じんの濃度の平均値とを利用して算出した値を使用すればよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粉じん濃度測定方法によれば、測定の簡略化および作業効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】トンネル坑内の測定装置の配置を示す平面図である。
図2】確認試験における測定期間を示す概略図である。
図3】確認試験時の計測装置の配置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、NATM等の山岳トンネルの施工に伴って発生する粉じんの濃度を測定するための粉じん濃度測定方法について説明する。本実施形態では、厚生労働省の「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」の「切羽に近接する場所の粉じん濃度等の測定」の基準に基づいて、トンネル坑内のPM4.0粉じん(吸引性粉じん)の濃度を推定するものとする。図1に本実施形態の粉じん濃度測定状況を示す。
本実施形態の粉じん濃度測定方法は、図1に示すように、施工中のトンネル1において、切羽2から30m付近においてトンネル横断面両側(左右)にそれぞれ設けられた測定装置3,3を利用してトンネル坑内のPM4.0粉じんの濃度を測定し、係数として1.1を乗じた値を切羽2から10m~50mの区間における粉じん濃度の平均値とみなすものである。
本実施形態では、測定装置3として、PM4.0粉じんを分粒できる分粒装置を備えたものを使用する。このような測定装置3としては、例えば、粉じん計LD-5R型(柴田科学株式会社製)を使用すればよい。なお、測定装置3は、トンネル壁面に治具等を介して取り付けてもよいし、支持脚等の支持部材等を介してトンネル壁面に沿って設けてもよい。
ここで、「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」の「切羽に近接する場所の粉じん濃度等の測定」では、切羽からおおむね10m、30mおよび50mの地点において、それぞれトンネル横断面両側(トンネル軸線の左右)に測定装置3を設置して、これら全6カ所においてPM4.0の粉じん濃度を測定し、その平均値が2.0mg/m以下とすることを目標とするものである。
本実施形態では、切羽から30m付近の2か所において測定した値の平均値を1.1倍とすることで、全6か所で測定した平均濃度(ガイドラインに沿って測定した平均濃度)とみなすものとしている。
【0009】
本実施形態の粉じん濃度測定方法によれば、2か所において粉じんの濃度を測定することで、ガイドラインに基づいた測定結果(6か所の吸入性粉じん濃度の平均値)を推定できることができる。そのため、測定装置3の設置や撤去に要する手間、多数の測定装置3を操作する手間、および、測定データの管理に要する手間等を低減できるため、測定の簡略化および作業効率の向上が可能となる。また、発破時の爆風や飛来した岩石が接触することによる測定装置3の破損を防止するために、発破作業中に測定装置3を撤去する場合であっても、再度設置する際の手間を低減できる。また、重機等との接触を防止するために測定時以外の時間帯に測定装置3を撤去する場合であっても、測定装置3の設置および撤去に要する手間を低減できる。
【0010】
なお、測定値の平均値に乗ずる係数は、トンネル施工時に適宜設定してもよい。
係数の設定方法としては、まず、切羽2からおおよそ10m、30mおよび50mの地点において、トンネル横断面両側にそれぞれ設けられた合計6台の測定装置3によりPM4.0の粉じんの濃度を測定するとともにその平均値(平均値A)を算出する。
次に、切羽2から10m~50mの区間内(本実施形態では切羽から30m)においてトンネル断面両側に設けられた合計2台の測定装置3によりPM4.0の粉じんの濃度を測定するとともにその平均値(平均値B)を算出する。
そして、平均値Aを平均値Bで除することで、2台の測定装置3で測定した場合の平均値に乗ずる係数を算出する。係数の設定は、トンネル施工開始後、切羽が所定長(例えば、坑口から100m)前進した段階で実施する。
【0011】
以下、本実施形態の粉じん濃度測定方法について実施した確認試験結果について説明する。
表1に、試験を実施したトンネルの現場状況を示す。
【0012】
【表1】
【0013】
図2に、測定期間の概要を示す。図2に示すように、測定装置は、発破作業により破損しないよう、発破完了後に設置し、二次吹付完了後に撤去するものとする。すなわち、粉じん濃度の測定は、ずり出し、一次吹付、支保工建て込み、二次吹付および次サイクル準備の作業中に行った。
本実験では、異なる配合の吹付けコンクリートを使用し、粉じん測定を行った。表2に吹付けコンクリートのベースコンクリートの配合を示し、表3にコンクリート材料を示す。また、表4に1サイクルの各作業工程の施工時間(分)を示す。
【0014】
【表2】
【0015】
【表3】
【0016】
【表4】
【0017】
図3に示すように、切羽2から約30m坑口側において、トンネル横断面両側(左右)に測定装置3,3を設置し、PM4.0の粉じん濃度の測定を行った。また、比較例として、切羽2からおおよそ10m、30mおよび50mの地点において、トンネル横断面両側にそれぞれ測定装置31~36を設置し、PM4.0の粉じんの濃度を測定した。表5に測定結果(1サイクルの平均値)および比較例と実施例の比を示す。
【0018】
【表5】
【0019】
表5に示すように、吹付コンクリートの配合を異ならせても、実施例と比較例の比に大きな違いは生じず、切羽から30m付近において測定したPM4.0の粉じん濃度の平均値を0.98倍から1.1倍すると、切羽からおおよそ10m、30mおよび50mの地点において測定したPM4.0の粉じん濃度の平均値と同等となることが確認できた。したがって、左右2か所のみで測定した場合であっても、所定の係数を乗じることで、6か所で測定した場合と同等の濃度測定を推定できることが確認できた。
【0020】
次に、全粉じんの濃度を測定した場合(比較例)と、PM4.0の粉じん濃度を測定した場合(実施例)の比較を行った。全粉じん濃度は、すべての粉じんを対象とした粉じん濃度を3.0mg/m以下とすることを目標とするものである。
測定装置3,3は、切羽から30m付近に設置した(図3参照)。
表6に測定結果(1サイクルの平均値)および比較例と実施例の比を示す。
【0021】
【表6】
【0022】
表6に示すように、吹付コンクリートの配合が異なっても、全粉じんの濃度の平均値の約0.80倍がPM4.0の粉じん濃度の平均値という結果となった。このように、全粉じんの濃度を測定した場合であっても、所定の係数を乗じることで、PM4.0の粉じん濃度の平均値を推定することが可能であることが確認できた。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、切羽から30m付近において断面両側の2か所に測定装置を設置したが、測定装置の設置個所はこれに限定されるものではなく、切羽から10m~50mの範囲内における断面両側の2か所、好ましくは、切羽から20m~40mの範囲内における断面両側の2か所に設置するのが望ましい。
前記実施形態では、吸入性粉じんを分粒できる分粒装置を備えた測定装置を使用するものとしたが、測定装置の構成は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、吸入性粉じんを測定するものとしたが、切羽から10m~50mの範囲内における断面両側の2か所において全粉じんを測定した後、測定値の平均値に所定の係数(例えば、0.8)を乗じた値を、当該箇所における吸入性粉じんの平均濃度としてもよい。
また、前記実施形態では、測定装置をトンネル施工状況に応じて撤去、設置するものとしたが、測定装置を設置したまま、トンネルの掘削、吹付け、支保工建て込みを行ってもよい。
トンネル1の断面形状や断面寸法等は限定されるものではなく、地山状況やトンネル1の用途等に応じて適宜決定すればよい。
【符号の説明】
【0024】
1 トンネル
2 切羽
3 測定装置
31~36 測定装置
図1
図2
図3