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特開2023-23735ガスセンサ、及びガスセンサの補正方法
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  • 特開-ガスセンサ、及びガスセンサの補正方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023735
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ガスセンサ、及びガスセンサの補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
G01N27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129527
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 和男
(72)【発明者】
【氏名】笹原 隆彦
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB17
2G060AB18
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB02
2G060HC01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】ガスセンサの出力の経時劣化による変化に応じてガスセンサの出力を適切に補正すると共にコスト増を抑える。
【解決手段】センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正するMCU50を備えるガスセンサ1であって、MCU50は、被検ガスが存在しない環境でのセンサ出力であるエアベース出力を取得してエアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合を求め、求めたエアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合に応じて、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正する補正部を備えるガスセンサであって、
前記補正部は、
被検ガスが存在しない環境でのセンサ出力であるエアベース出力を取得して前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合を求め、
求めた前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合に応じて、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正するガスセンサ。
【請求項2】
前記補正部は、前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の初期値を記憶しており、前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の前記初期値に対する低下の度合を求める請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
コンピューターを用いてセンサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正するガスセンサの補正方法であって、
被検ガスが存在しない環境でのセンサ出力であるエアベース出力を取得して前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合を求め、
求めた前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合に応じて、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正するガスセンサの補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ、及びガスセンサの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサの出力(センサ感度)は経時劣化により変化するため、その経時劣化による変化に応じてセンサ感度を補正することが行われている(例えば、特許文献1,2等参照)。特許文献1には、測定用検出部と補正用検出部とを備えるガスセンサ素子を用い、両検出部の出力の比較結果に応じて測定用検出部のセンサ感度を補正する方法が記載されている。また、特許文献2には、接触燃焼式ガスセンサにおけるエアベース出力と経時量とガスセンサの感度との関係を予めROM(Read Only Memory)に格納しておき、燃焼時の被検ガスに対する出力とエアベース出力との差が一定値以下の場合に、経時量とセンサ感度とをROMから取得してセンサ感度を補正する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3167798号公報
【特許文献2】特開2008-267810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の補正方法は、測定用と補正用との複数の検出部が必要となりコスト増となる。また、環境中には微量の可燃性ガス(VOC:Volatile Organic Compounds)や水蒸気が存在し、環境温度も変化するところ、これら(濃度、湿度、温度)の微量な変化によりエアベース出力にゆらぎが生じる。特許文献2に記載の補正方法は、環境の影響によるエアベース出力のゆらぎを考慮していない分、センサ感度の経時劣化による変化量の検知精度に劣る。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、ガスセンサの出力の経時劣化による変化に応じてガスセンサの出力を適切に補正すると共にコスト増を抑えることができるガスセンサ、及びガスセンサの補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガスセンサは、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正する補正部を備えるガスセンサであって、前記補正部は、被検ガスが存在しない環境でのセンサ出力であるエアベース出力を取得して前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合を求め、求めた前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合に応じて、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正する。
【0007】
本発明のガスセンサの補正方法は、コンピューターを用いてセンサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正するガスセンサの補正方法であって、被検ガスが存在しない環境でのセンサ出力であるエアベース出力を取得して前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合を求め、求めた前記エアベース出力のゆらぎ又は変動幅の低下の度合に応じて、センサ出力又は被検ガスの検知を判定するための閾値を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガスセンサの出力の経時劣化による変化に応じてガスセンサの出力を適切に補正すると共にコスト増を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るガスセンサの概略構成を示す図である。
図2図2は、ガスセンサのエアベース出力を示すグラフである。
図3図3は、エアベース出力のゆらぎと出力電圧との関係を示すグラフである。
図4図4は、エアベース出力のゆらぎの変化率と出力電圧の劣化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るガスセンサ1の概略構成を示す図である。この図に示すガスセンサ1は、検知素子20と補償素子30とを2辺とするブリッジ回路40を備える接触燃焼式(又は吸着燃焼式)のガスセンサである。このガスセンサ1が検知する被検ガスとしては、メタン、水素、プロパン、ブタン等を例示できる。なお、吸着燃焼式とは、パルス電圧がOFF又はLOW電圧の期間に被検ガスの分子が検知素子20の触媒に吸着し、パルス電圧がON又はHIGH電圧になった時に当該ガス分子が検知素子20の触媒上で燃焼しセンサ出力が得られるというガス検知方式である。
【0012】
検知素子20は、ヒーター21と、ヒーター21を覆う検知部22とを備える。また、補償素子30は、ヒーター31と、ヒーター31を覆う補償部32とを備える。ヒーター21,31としては、マイクロチップ上にパターニングされたマイクロヒーター等を例示できる。また、ヒーター21,31の材料としては白金(Pt)等を例示できる。
【0013】
検知部22は、酸化反応に触媒活性を持つ物質で構成されている。この検知部22は、触媒と、触媒を担持する触媒担体とを備える。検知部22の触媒の材料としては、白金、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)等の白金族系や、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等のその他の金属を例示できる。また、検知部22の触媒担体の材料としては、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、酸化スズ(SnO)等を例示できる。補償部32は、酸化反応に触媒活性を持たない物質で構成されている。また、補償部32は、検知部22の触媒担体と同様の材料で構成されている。
【0014】
ガスセンサ1では、ヒーター21により数百度に加熱された検知部22に可燃性の被検ガスの分子が接触(又は吸着)すると、検知部22上で接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)が起こり、その反応熱によりヒーター21の温度が上昇して抵抗値が増大する。他方で、補償素子30の補償部32に可燃性の被検ガスの分子が接触(又は吸着)しても接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)は起きない。このようなガスセンサ1では、ヒーター21の抵抗値の変化をブリッジ回路40によりセンサ出力として取得して被検ガスを検知したり被検ガスの濃度を同定したりする。
【0015】
ブリッジ回路40は、一対の並列回路40A,40Bと、電源41とを備える。この一対の並列回路40A,40Bは、電源41の正極に接続された導線から分岐する。分岐した一対の並列回路40A,40Bは、可変抵抗VRを介して電源41の負極に接続された導線に再結合する。一方の並列回路40Aにおいて、検知素子20と、補償素子30とが直列で接続されている。他方の並列回路40Bにおいては、一対の固定抵抗R1,R2が直列で接続されている。本実施形態では、検知素子20が電源41の正極側に配され、補償素子30が電源41の負極側に配されている。
【0016】
ブリッジ回路40は、検知素子20と補償素子30との間に接続された端子42と、固定抵抗R1と固定抵抗R2との間に接続された端子43とを備え、端子42と端子43との電位差である出力電圧VoutをMCU(Micro Controller Unit)50に出力する。MCU50は、ブリッジ回路40をパルス駆動させると共にブリッジ回路40の出力電圧Voutに基づいて被検ガスを検知する。また、後述するように、MCU50は、エアベース出力VABのゆらぎに応じて出力電圧Voutを補正する。
【0017】
図2は、ガスセンサ1のエアベース出力VAB[mV]を示すグラフである。このグラフに示すエアベース出力VABは、被検ガスが存在しない環境での出力電圧Voutである。ここで、環境中には微量の可燃性ガスや水蒸気が存在し、環境温度も変化するので、これら(濃度、湿度、温度)の微量な変化によりエアベース出力VABにゆらぎが生じる。なお、エアベース出力VABの「ゆらぎ」は、エアベース出力VABの初期値に対する長期的な変動を指すのではなく、エアベース出力VABの例えば600秒間等の短期的な変動を指す。
【0018】
MCU50は、定期的にエアベース出力VABを取得し、エアベース出力VABのゆらぎを求める。エアベース出力VABの取得は、例えば、10秒間隔で600秒間継続する。エアベース出力VABのゆらぎとしては、短期間のエアベース出力VABの標準偏差や二乗平均ゆらぎや分散を例示でき、例えば600秒間に10秒間隔で取得された多数の値から求められる。
【0019】
MCU50は、エアベース出力VABのゆらぎの初期値を求めてメモリー(図示省略)に格納している。MCU50は、エアベース出力VABのゆらぎを定期的に求め、メモリーに格納した初期値と比較し、エアベース出力VABのゆらぎの初期値に対する低下の度合を求める。そして、MCU50は、求めたエアベース出力VABのゆらぎの初期値に対する低下の度合に応じて、出力電圧Voutを補正する。
【0020】
図3は、エアベース出力VABのゆらぎ(μV)と出力電圧Vout(mV)との関係を示すグラフである。このグラフには、被検ガスの濃度が1000ppmの環境中にガスセンサ1を設置した時のエアベース出力VABのゆらぎ(μV)と出力電圧Vout(mV)との関係を示している。このグラフに示すように、エアベース出力VABのゆらぎと出力電圧Voutとは比例関係にあり、エアベース出力VABのゆらぎが大きくなるほど出力電圧Voutが高くなる。
【0021】
ここで、ガスセンサ1の使用開始当初では、検知素子20の検知部22の触媒が高活性を維持していることから、エアベース出力VABが相対的に高く、環境の影響によるエアベース出力VABのゆらぎも相対的に大きく現れる。それに対して、ガスセンサ1の使用期間が長期に亘ってくると、検知素子20の検知部22の触媒の劣化等(熱容量の大きな分子や被毒物質の触媒への吸着・固着等)により、エアベース出力VAB(感度)が相対的に低くなり、環境の影響によるエアベース出力VABのゆらぎも相対的に小さくなる。即ち、エアベース出力VABのゆらぎの低下の度合と、出力電圧Vout(感度)の低下の度合(劣化率)との間には相関がある。
【0022】
図4は、エアベース出力VABのゆらぎの低下の度合(変化率)と出力電圧Vout(感度)の低下の度合(劣化率)との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、エアベース出力VABのゆらぎの変化率と感度の劣化率とは比例関係にあり、エアベース出力VABのゆらぎの変化率が大きくなるほど出力電圧Voutの劣化率が高くなる。
【0023】
そこで、本実施形態のガスセンサ1では、MCU50が、エアベース出力VABのゆらぎの初期値に対する変化率を求め、求めた変化率に応じた補正係数を出力電圧Voutに乗じることにより、ガスセンサ1の出力電圧Voutを補正する。
【0024】
以上説明したように、本実施形態のガスセンサ1では、MCU50が、エアベース出力VABを取得してエアベース出力VABのゆらぎの低下の度合を求め、求めたエアベース出力VABのゆらぎの低下の度合に応じて、出力電圧Voutを補正する。これによって、校正用のセンサ素子を備えることなく(検知用のセンサ素子のみで)、被検ガスに対するセンサ出力(感度)の経時劣化の影響を考慮した、出力電圧Voutの補正を実行できる。従って、ガスセンサ1の出力電圧Voutの経時劣化による変化に応じてガスセンサ1の出力電圧Voutを適切に補正すると共にガスセンサ1のコスト増を抑えることができる。
【0025】
また、校正用のガスを使用することなく、且つ、作業者がガスセンサ1の設置現場に赴くことなく、ガスセンサ1の出力電圧Voutの経時劣化による変化に応じてガスセンサ1の出力電圧Voutを適切に補正することができる。
【0026】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0027】
例えば、上記実施形態では、エアベース出力VABのゆらぎの低下の度合に応じて、出力電圧Voutを補正したが、出力電圧Voutの補正に代えて、被検ガスの有無を判断するための閾値を補正してもよい。この場合、エアベース出力VABのゆらぎの低下の度合が大きくなるほど、被検ガスの有無を判断するための閾値を低くすればよい。
【0028】
また、上記実施形態では、エアベース出力VABのゆらぎの低下の度合を求め、求めたエアベース出力VABのゆらぎの低下の度合に応じて、出力電圧Voutを補正した。しかしながら、エアベース出力VABのゆらぎに代えて、エアベース出力VABの最大値と最小値との差である変動幅の低下の度合を求め、求めたエアベース出力VABの変動幅の狭小化の度合に応じて、出力電圧Voutの補正や被検ガスの有無を判断するための閾値の補正を行ってもよい。なお、エアベース出力VABの変動幅を求める際には、特異値を除く等の処理を行うことにより、出力電圧Voutや閾値の補正の精度を向上できる。
【0029】
また、上記実施形態では、接触燃焼式(又は吸着燃焼式)のガスセンサ1を例に挙げたが、半導体式や熱線半導体式等の他の方式のガスセンサにも本発明を適用できる。さらに、本発明のガスセンサは、ガス警報器のみならず、携帯型のチェッカーや定置式の装置等の様々なガス検知器に適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 ガスセンサ
50 MCU(補正部、コンピューター)
AB エアベース出力
out 出力電圧(センサ出力)
図1
図2
図3
図4