(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023748
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】船舶用内燃機関の冷却水制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
F02G 5/00 20060101AFI20230209BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
F02G5/00 E
B63H21/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129548
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 高穂
(72)【発明者】
【氏名】池田 充志
(57)【要約】
【課題】 船舶用内燃機関の冷却システムにおけるジャケット冷却水の制御を的確に行うことができる船舶用内燃機関の冷却水制御装置を提供する。
【解決手段】 船舶用内燃機関51の冷却水循環経路52に冷却器53および排熱利用機器54を備える冷却システム50のジャケット冷却水を制御する装置であって、船舶用内燃機関51を通過するジャケット冷却水の温度を検出する温度検出手段2a,2bと、冷却器53をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス手段3と、排熱利用機器54をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス手段4と、温度検出手段2a,2bの検出に基づき第1バイパス手段3および第2バイパス手段4の作動を制御する制御手段10とを備える船舶用内燃機関の冷却水制御装置1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用内燃機関の冷却水循環経路に冷却器および排熱利用機器を備える冷却システムのジャケット冷却水を制御する装置であって、
前記船舶用内燃機関を通過するジャケット冷却水の温度を検出する温度検出手段と、
前記冷却器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス手段と、
前記排熱利用機器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス手段と、
前記温度検出手段の検出に基づき前記第1バイパス手段および第2バイパス手段の作動を制御する制御手段とを備える船舶用内燃機関の冷却水制御装置。
【請求項2】
前記温度検出手段は、前記船舶用内燃機関に供給前のジャケット冷却水の温度を検出するように配置されており、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出温度が予め設定された温度範囲内となるように、前記第1バイパス手段および第2バイパス手段の作動を制御する請求項1に記載の船舶用内燃機関の冷却水制御装置。
【請求項3】
前記排熱利用機器は複数設けられ、前記第2バイパス手段は前記排熱利用機器ごとに設けられており、
前記制御手段は、複数の前記排熱利用機器に対して予め設定された優先順位に基づき、前記第2バイパス手段の作動を個別に制御する請求項1または2に記載の船舶用内燃機関の冷却水制御装置。
【請求項4】
前記冷却水循環経路を流れるジャケット冷却水を加熱する加熱手段を更に備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出に基づき、前記加熱手段の作動を制御する請求項3に記載の船舶用内燃機関の冷却水制御装置。
【請求項5】
前記排熱利用機器の少なくともいずれかは、ジャケット冷却水を熱源として海水を蒸発させることにより淡水を製造する造水装置である請求項1から4のいずれかに記載の船舶用内燃機関の冷却水制御装置。
【請求項6】
船舶用内燃機関の冷却水循環経路に冷却器および排熱利用機器を備える冷却システムのジャケット冷却水を制御する方法であって、
前記冷却システムに、前記船舶用内燃機関を通過するジャケット冷却水の温度を検出する温度検出手段と、前記冷却器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス手段と、前記排熱利用機器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス手段とを設け、
前記温度検出手段の検出に基づき、前記第1バイパス手段および第2バイパス手段を操作してバイパス流量を調整する船舶用内燃機関の冷却水制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用内燃機関の冷却水制御装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用のディーゼルエンジン等の内燃機関を冷却するための冷却水循環経路には、ジャケット冷却水を冷却する冷却器の他に、内燃機関の排熱を利用する造水装置等の排熱利用機器が一般に設けられており、船舶のクルーが、ジャケット冷却水の水温を見ながら造水装置等への流量調整を行う。
【0003】
ところが、近年においては、機関室の省人化やクルーの技術低下により、造水装置への流量調整が上手くいかない、あるいは必要な造水量が得られない等のミスオペレーションが増加しているため、ジャケット冷却水の制御を自動化することへのニーズが高まっている。
【0004】
内燃機関の冷却システムにおけるジャケット冷却水の制御を自動化する装置として、例えば、特許文献1に開示された排熱回収利用システムが知られている。
図4に示すように、排熱回収利用システム100は、ディーゼルエンジン101のジャケット冷却水を循環させるジャケット冷却水循環経路102に対して、ジャケット冷却器103の他に、ジャケット冷却水から熱を回収して発電する発電手段104、および、ジャケット冷却水から熱を回収して造水する造水手段105が設けられている。
【0005】
この排熱回収利用システム100において、ディーゼルエンジン101に供給前のジャケット冷却水の温度は第1温度計測手段106により計測され、この計測温度が設定温度よりも低い場合には、第1三方弁107の駆動制御によりジャケット冷却水がバイパス流路108を通過する。また、発電手段104による熱回収後のジャケット冷却水の温度は第2温度計測手段109により計測され、この計測温度に基づいて開閉弁110が開閉制御されることにより、発電手段104によるジャケット冷却水からの回収熱量が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の排熱回収利用システム100は、ジャケット冷却器103および発電手段104に対してジャケット冷却水をバイパスさせる制御が、いずれもジャケット冷却水の計測温度に基づいて行われるが、それぞれを計測する第1温度計測手段106および第2温度計測手段109は、互いに異なる機器(すなわち、ディーゼルエンジン101および発電手段104)を流れるジャケット冷却水の温度を計測することから、ディーゼルエンジン101の負荷変動時などにおいて、ディーゼルエンジン101に供給されるジャケット冷却水の温度を所望の範囲に維持することが困難になるおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、船舶用内燃機関の冷却システムにおけるジャケット冷却水の制御を的確に行うことができる船舶用内燃機関の冷却水制御装置および方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前記目的は、船舶用内燃機関の冷却水循環経路に冷却器および排熱利用機器を備える冷却システムのジャケット冷却水を制御する装置であって、前記船舶用内燃機関を通過するジャケット冷却水の温度を検出する温度検出手段と、前記冷却器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス手段と、前記排熱利用機器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス手段と、前記温度検出手段の検出に基づき前記第1バイパス手段および第2バイパス手段の作動を制御する制御手段とを備える船舶用内燃機関の冷却水制御装置により達成される。
【0010】
この船舶用内燃機関の冷却水制御装置において、前記温度検出手段は、前記船舶用内燃機関に供給前のジャケット冷却水の温度を検出するように配置することが可能であり、前記制御手段は、前記温度検出手段の検出温度が予め設定された温度範囲内となるように、前記第1バイパス手段および第2バイパス手段の作動を制御することができる。
【0011】
前記排熱利用機器が複数設けられる場合、前記第2バイパス手段は前記排熱利用機器ごとに設けることが可能であり、前記制御手段は、複数の前記排熱利用機器に対して予め設定された優先順位に基づき、前記第2バイパス手段の作動を個別に制御することができる。この構成において、前記冷却水循環経路を流れるジャケット冷却水を加熱する加熱手段を更に備えてもよく、前記制御手段は、前記温度検出手段の検出に基づき、前記加熱手段の作動を制御することができる。
【0012】
前記排熱利用機器の少なくともいずれかは、ジャケット冷却水を熱源として海水を蒸発させることにより淡水を製造する造水装置とすることができる。
【0013】
また、本発明の前記目的は、船舶用内燃機関の冷却水循環経路に冷却器および排熱利用機器を備える冷却システムのジャケット冷却水を制御する方法であって、前記冷却システムに、前記船舶用内燃機関を通過するジャケット冷却水の温度を検出する温度検出手段と、前記冷却器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス手段と、前記排熱利用機器をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス手段とを設け、前記温度検出手段の検出に基づき、前記第1バイパス手段および第2バイパス手段を操作してバイパス流量を調整する船舶用内燃機関の冷却水制御方法により達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、船舶用内燃機関の冷却システムにおけるジャケット冷却水の制御を的確に行うことができる船舶用内燃機関の冷却水制御装置および方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る船舶用内燃機関の冷却水制御装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る船舶用内燃機関の冷却水制御装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の更に他の実施形態に係る船舶用内燃機関の冷却水制御装置の概略構成図である。
【
図4】従来の排熱回収利用システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶用内燃機関の冷却水制御装置の概略構成図である。
図1に示す船舶用内燃機関の冷却水制御装置(以下、単に「冷却水制御装置」という)1は、船舶の主機であるディーゼルエンジン等の船舶用内燃機関51の冷却水循環経路52に冷却器53および排熱利用機器54を備える冷却システム50において、冷却水循環経路52を流れるジャケット冷却水を制御するものである。
【0017】
排熱利用機器54は、例えば造水装置であり、ジャケット冷却水を熱源として海水を蒸発させることにより淡水を製造する。排熱利用機器54は、ジャケット冷却水の排熱を回収して利用する機器であれば特に限定されず、造水装置以外に、暖房装置、発電装置、給湯装置、動力回収装置等を例示することができる。
【0018】
冷却水制御装置1は、船舶用内燃機関51を通過するジャケット冷却水の温度を検出する2つの温度検出部2a,2bと、冷却器53をバイパスさせるバイパス流量を調整する第1バイパス部3と、排熱利用機器54をバイパスさせるバイパス流量を調整する第2バイパス部4と、第1バイパス部3および第2バイパス部4の作動を制御する制御部10とを備えている。
【0019】
2つの温度検出部2a,2bは、例えば温度センサであり、一方の温度検出部2aが、船舶用内燃機関51に供給前のジャケット冷却水の温度を検出するように配置されており、他方の温度検出部2bが、船舶用内燃機関51に供給後のジャケット冷却水の温度を検出するように配置されている。
【0020】
第1バイパス部3は、冷却器53をバイパスするバイパス流路3aと、冷却水循環経路52を冷却器53に向けて流れるジャケット冷却水の流路をバイパス流路3aに切り替える三方弁3bとを備えており、三方弁3bの開度調整により、バイパス流路3aを流れるジャケット冷却水の流量を調整することができる。
【0021】
第2バイパス部4は、排熱利用機器54をバイパスするバイパス流路4aと、冷却水循環経路52を排熱利用機器54に向けて流れるジャケット冷却水の流路をバイパス流路4aに切り替える三方弁4bとを備えており、三方弁4bの開度調整により、バイパス流路4aを流れるジャケット冷却水の流量を調整することができる。
【0022】
また、第2バイパス部4は、排熱利用機器54のバイパス流量を手動で調整するために、補助バイパス流路4cと、補助バイパス流路4cの開度を調整する流量調整弁4dと、排熱利用機器54および補助バイパス流路4c間における排熱利用機器54の入口側および出口側にそれぞれ設けられた流量調整弁4e,4fとを備えている。
【0023】
制御部10は、温度検出部2a,2bの検出に基づき、第1バイパス部3の三方弁3bおよび第2バイパス部4の三方弁4bの開度調整を行い、冷却器53および排熱利用機器54のバイパス流量を自動で制御する。
【0024】
次に、上記の構成を備える冷却水制御装置1の作動を説明する。冷却システム50の作動中において、制御部10は、温度検出部2bにより検出された船舶用内燃機関51の出口温度が、予め設定された出口用設定温度Toutになるように、第1バイパス部3の三方弁3bの開度を制御する。また、制御部10は、温度検出部2aにより検出された船舶用内燃機関51の入口温度Tinを、予め設定された入口用設定温度の下限値TinL(例:72℃)および上限値TinH(例:78℃)と比較して、下記の制御を行う。なお、初期状態において、流量調整弁4dは全閉であり、流量調整弁4e,4fは全開である。
【0025】
入口温度Tinが入口用設定温度の下限値TinLよりも低い場合(ケース1:TinL>Tin)、制御部10は、排熱利用機器54に対してジャケット冷却水の全量をバイパスさせるように(すなわち、ジャケット冷却水が排熱利用機器54には流れないように)、第2バイパス部4の三方弁4bを制御する。
【0026】
入口温度Tinが入口用設定温度の下限値TinL以上で上限値TinHよりも低い場合(ケース2:TinL≦Tin<TinH)、制御部10は、ジャケット冷却水の全量が排熱利用機器54に供給されるように(すなわち、ジャケット冷却水がバイパス流路4aを流れないように)、第2バイパス部4の三方弁4bを制御する。これにより、排熱利用機器54に供給されるジャケット冷却水の流量調整を、流量調整弁4d,4e,4fの手動での開度調整により行うことができる。
【0027】
上記のケース2において、制御部10は、排熱利用機器54に供給されるジャケット冷却水の流量調整を、三方弁4の開度調整により自動で行うこともできる。この場合は、入口温度Tinが入口用設定温度の下限値TinLよりも低くならないことを条件とする。
【0028】
通常の運転時においては、入口温度Tinは、入口用設定温度の上限値TinHよりも低いが、例えば、ジャケット冷却水を、排熱利用機器54に供給して熱回収を行っている状態から第2バイパス部4の制御によりバイパスさせた場合、冷却器53によるジャケット冷却水の冷却が追い付かずに、入口温度Tinが入口用設定温度の上限値TinH以上になることがある(ケース3:Tin≧TinH)。この場合、制御部10は、第2バイパス部4の制御により、バイパス状態のジャケット冷却水を、再び排熱利用機器54に供給する。なお、排熱利用機器54へのジャケット冷却水の供給をバイパスに切り替えたときに、入口温度Tinの時間変化が設定値を超えて急激に上昇する場合には、制御部10は、入口温度Tinが上限値TinHに達していなくても、ジャケット冷却水を再び排熱利用機器54に供給するように制御してもよい。
【0029】
このように、本実施形態の冷却水制御装置1は、船舶用内燃機関51を通過するジャケット冷却水の温度検出に基づいて第1バイパス部3および第2バイパス部4の作動を制御することにより、冷却器53および排熱利用機器54をバイパスさせるバイパス流量を自動で制御するように構成されており、これによって、船舶用内燃機関51の温度を適正に維持することを優先しつつ、ジャケット冷却水の排熱を排熱利用機器54において効率よく利用することができる。
【0030】
図1に示す冷却水制御装置1は、船舶用内燃機関51を通過するジャケット冷却水の温度を、船舶用内燃機関51の入口および出口にそれぞれ配置された2つの温度検出部2a,2bにより検出しており、これによって、船舶用内燃機関51の出力変動を温度検出部2bによりリアルタイムに計測して、負荷追従制御を容易に行うことができる。但し、
図2に示すように、船舶用内燃機関51の入口に配置された温度検出部2aの検出のみによって、第1バイパス部3および第2バイパス部4の作動を制御することも可能であり、これによって、低コストで制御が容易であると共に、故障率が低いシンプルな構成にすることができる。なお、
図2において、
図1と同様の構成部分には同一の符号を付している。
【0031】
図2に示す冷却水制御装置1’は、
図1に示す冷却水制御装置1と同様に、制御部10が、温度検出部2aにより検出された船舶用内燃機関51の入口温度Tinを、予め設定された入口用設定温度の下限値TinL(例:72℃)および上限値TinH(例:78℃)と比較して、上記と同様の制御を行う。
【0032】
一方、冷却水制御装置1’の制御部10は、
図1に示す冷却水制御装置1とは異なり、入口温度Tinが、入口用設定温度の下限値TinLと上限値TinHとの間で予め設定された温度Tinset(例:75℃)となるように、第1バイパス部3の三方弁3bの開度を制御する。船舶用内燃機関51を通過するジャケット冷却水の温度検出は、船舶用内燃機関51の出口に配置された温度検出部2bのみで行うことも可能であり、制御部10は、温度検出部2bの検出温度に基づき、第1バイパス部3および第2バイパス部4の作動を制御することができる。
【0033】
図1および
図2に示す冷却システム50は、冷却水循環経路52に排熱利機器54が1つ設けられた構成であるが、
図3に示すように、冷却水循環経路52に複数の排熱利用機器54,55を備える冷却システム50に対しても、排熱利用機器54,55ごとに第2バイパス部4,5をそれぞれ設けて、本発明を適用することができる。
【0034】
図3に示す冷却水制御装置1’’の制御部10は、
図2に示す冷却水制御装置1’と同様に、温度検出部2aにより検出された船舶用内燃機関51の入口温度が予め設定された温度になるように、第1バイパス部3の三方弁3bの開度を制御する。第1バイパス部3の制御は、
図1に示す冷却水制御装置1と同様に、温度検出部2bにより検出された船舶用内燃機関51の出口温度に基づき行ってもよい。このように、複数の排熱利用機器54,55を備える場合においても、冷却器53による船舶用内燃機関51は最優先であり、排熱利用機器54,55のバイパス制御とは独立して第1バイパス部3の制御が行われる。
【0035】
各排熱利用機器54,55に対する第2バイパス部4,5のバイパス制御は、基本的には
図1に示す冷却水制御装置1と同様の制御により行われるが、船舶用内燃機関51に供給されるジャケット冷却水の温度が設定下限値よりも高く、排熱利用機器54,55に対してジャケット冷却水を供給できる状況においては、各排熱利用機器54,55に対して予め設定された優先順位に基づき、第2バイパス部4,5が個別にバイパス制御される。例えば、造水装置からなる排熱利用機器54の優先順位が、暖房装置からなる排熱利用機器55の優先順位よりも高い場合、排熱利用機器54に対するジャケット冷却水の供給が優先的に行われ、ジャケット冷却水の熱量に余裕がある場合には、排熱利用機器54と共に排熱利用機器55にもジャケット冷却水が供給される。こうして、ジャケット冷却水の排熱を、各排熱利用機器54,55の優先順位に応じて効率よく分配することができる。
【0036】
排熱利用機器54,55を複数設けることで、ジャケット冷却水の熱量が一時的に不足するおそれがある場合には、
図3に示すように、冷却水循環経路52を流れるジャケット冷却水を加熱する加熱部20を設けてもよい。加熱部20は、蒸気とジャケット冷却水との熱交換によりジャケット冷却水が加熱される構成であり、蒸気弁21の開閉は制御部10によって制御される。制御部10は、排熱利用機器54,55の双方に対するジャケット冷却水の供給中に、ジャケット冷却水の熱量が不足した場合、一方の排熱利用機器55に対してバイパス制御を行う代わりに加熱部20を作動させることで、排熱利用機器54,55のへのジャケット冷却水の供給を継続することができる。
【0037】
このように、ジャケット冷却水を加熱する加熱部20を備えることにより、制御部10は、ジャケット冷却水の入熱と出熱とのバランスをみながら、各排熱利用機器54,55の優先順位も考慮して、第2バイパス部4,5の作動制御をより柔軟に行うことができる。
【0038】
排熱利用機器54の入口および出口には、温度検出部4g,4hがそれぞれ配置されており、排熱利用機器55の入口および出口には、温度検出部5c,5dがそれぞれ配置されている。冷却器53および加熱器20についても、冷却器53の入口および出口に温度検出部3c,3dがそれぞれ配置され、加熱器20の入口および出口に温度検出部6a,6bがそれぞれ配置されている。各温度検出部3c,3d,4g,4h,5c,5d,6a,6bの検出信号は、船舶用内燃機関51に対応する温度検出部2a,2bの検出信号と同様に、制御部10に入力される。
【0039】
ジャケット冷却水の熱バランスは、船舶用内燃機関51および加熱部20での入熱量をQme,Qd、冷却器53および排熱利用機器54,55での出熱量をQa、Qb、Qc、熱ロスをQlossとすると、Qme+Qd=Qa+Qb+Qc+Qlossとして表される。入熱量Qme,Qdおよび出熱量Qa,Qb,Qcは、それぞれを通過するジャケット冷却水の入口温度および出口温度の温度差に比例するため、制御部10は、温度検出部2a,2b,3c,3d,4g,4h,5c,5d,6a,6bの検出温度に基づき、ジャケット冷却水の熱バランスを制御することができる。
【0040】
具体例として、排熱利用機器54の出熱量を、QbH,QbM,QbLの3段階で制御可能とし、排熱利用機器55の出熱量を、QcH,QcM,QcLの3段階で制御可能として、排熱利用機器55は、排熱利用機器54よりも優先度は低いが、少なくともQcMの出熱量は確保したい場合を想定する。制御部10は、排熱利用機器54の2つの温度検出部4g,4hにより検出された温度差と、排熱利用機器55の2つの温度検出部5c,5dにより検出された温度差により、排熱利用機器54,55の出熱量Qb,Qcの比を演算して、第2バイパス部4,5のバイパス制御を行うことにより、排熱利用機器54,55の出熱量Qb,Qcを制御する。各排熱利用機器54,55の出熱量[Qb,Qc]は、ジャケット冷却水の熱量に余裕がある状態では、[QbH,QcH]に制御され、冷却水の熱量が減少するにつれて、[QbH,QcM]→[QbM,QcM]→[QbL,QcM]→[QbL,QcL]と順次変化するように制御される。
【符号の説明】
【0041】
1 船舶用内燃機関の冷却水制御装置
2a,2b 温度検出部
3 第1バイパス部
4,5 第2バイパス部
10 制御部
20 加熱部
50 冷却システム
51 船舶用内燃機関
52 冷却水循環経路
53 冷却器
54,55 排熱利用機器