(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023785
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】無線信号処理装置、及び無線信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
H04L27/26 410
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129614
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】國立 忠秀
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】菅 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】李 還幇
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
(57)【要約】
【課題】受信信号に混信したレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能な無線信号処理装置を提供する。
【解決手段】無線信号処理装置100は、記憶部120と、重み情報乗算部111と、FFT処理部112と、振幅加算部113と、閾値判定部114とを備える。記憶部120は、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する。重み情報乗算部111は、受信信号と、重み情報とを乗算する。FFT処理部112は、乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。振幅加算部113は、FFT処理部112で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部112で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する。閾値判定部114は、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、前記干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する記憶部と、
前記受信信号と、前記重み情報とを乗算する重み情報乗算部と、
前記重み情報乗算部で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行うFFT処理部と、
前記FFT処理部で処理された周波数ビンごとに、前記FFT処理部で算出された振幅値を加算し、前記周波数ビンに対する前記振幅値の総和値を算出する振幅加算部と、
前記周波数ビンの前記総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する閾値判定部と、
を備える無線信号処理装置。
【請求項2】
前記閾値判定部で判定された結果に基づいて、前記受信信号に混信する前記干渉信号の抑圧処理を行う干渉信号抑圧部をさらに備える、
請求項1に記載の無線信号処理装置。
【請求項3】
前記閾値は、検出対象となる全ての前記周波数ビンの前記総和値の平均値を2倍した値である、
請求項1又は2に記載の無線信号処理装置。
【請求項4】
前記干渉信号は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ信号である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線信号処理装置。
【請求項5】
コンピュータによって実行される無線信号処理方法であって、
受信信号と、前記受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、前記干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報とを乗算し、
乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行い、
前記高速フーリエ変換処理で算出された周波数ビンごとに、前記高速フーリエ変換処理で算出された振幅値を加算し、前記周波数ビンに対する前記振幅値の総和値を算出し、
前記周波数ビンの前記総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する、
無線信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号処理装置、及び無線信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信が行われる無線通信システムと、物体検知等のレーダシステムとにおいてそれぞれ使用される信号の周波数帯域が重なり、無線通信システムの無線信号と、レーダ信号との間で干渉が発生する場合がある。この無線信号とレーダ信号との間で発生する干渉を解消するための技術が提案されている。特許文献1には、周波数が時間変化するチャープレーダを検出することのできる無線通信装置が開示されている。この特許文献1に開示された無線通信装置は、周波数の時間変化から受信信号がチャープレーダ信号であるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された無線通信装置は、所定の周波数で無線通信が行われるものである。そのため、この無線通信装置は、チャープレーダの信号を検出した場合、無線通信装置の周波数を、チャープレーダで使用されるシステムに明け渡す。すなわち、特許文献1に開示された無線通信装置においては、レーダ信号を検出した場合、無線通信で用いられる周波数を、検出したチャープレーダで使用される周波数とは異なる周波数に変更し、変更した周波数で無線通信を行う。従って、この無線通信装置においては、チャープレーダの信号を検出するたびに、無線通信装置の周波数を、チャープレーダで使用されるレーダ信号の周波数と干渉しない周波数に変更することが必要となる。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、受信信号に混信したレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能な無線信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る無線信号処理装置は、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する記憶部と、受信信号と、重み情報とを乗算する重み情報乗算部と、重み情報乗算部で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行うFFT処理部と、FFT処理部で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する振幅加算部と、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する閾値判定部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様に係る無線信号処理方法は、コンピュータによって実行される無線信号処理方法であって、受信信号と、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報とを乗算し、乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行い、高速フーリエ変換処理で算出された周波数ビンごとに、高速フーリエ変換処理で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出し周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受信信号に混信したレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能な無線信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る無線通信システムの構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る受信機の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3A】本実施形態に係る無線通信システムで適用される受信データのプリアンブル部の構成を示す図である。
【
図3B】本実施形態に係る無線通信システムで適用される受信データのヘッダー部の構成を示す図である。
【
図3C】本実施形態に係る無線通信システムで適用される受信データのペイロード部の構成を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る無線通信システムで適用される受信信号のパラメータを説明するための図である。
【
図5A】本実施形態に係る受信信号と、レーダ信号との関係を説明するための図である。
【
図5B】
図5Aにおける領域Aの部分を拡大した模式図である。
【
図6】本実施形態に係る無線信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】本実施形態に係るペイロード部のブロックと周波数ビンとの関係を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係る無線信号処理装置における干渉信号の抑圧処理の結果を説明するための図である。
【
図9】本実施形態に係る無線信号処理装置における受信信号の評価結果を示す図である。
【
図10】本実施形態に係る無線信号処理装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る無線信号処理装置100について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0011】
図1は、本実施形態に係る無線通信システム10の構成を示す図である。
図1に示す例において、無線通信システム10は、送信機200と、受信機300とを備える。無線通信システム10は、例えば、装置(図示なし)から送られる送信データを、送信機200を介して送信信号として送信する。また、無線通信システム10において、受信機300は、送信機200から送信された送信信号を受信信号として受信し、装置(図示なし)に送る。また、
図1に示す例においては、受信機300で受信する受信信号と、レーダ信号とが混信し、干渉する例を示している。
【0012】
本実施形態における無線通信システム10には、無線通信規格であるIEEE802.11ad(以下、11ad規格と称する)で規定された60GHz帯のミリ波無線通信が用いられるものとする。
【0013】
図2は、本実施形態における受信機300の機能的構成を示すブロック図である。受信機300は、フレーム取得部310(Frame Aquisition)、FFT320(Fast Fourier Transform)、及びチャネル推定部330(Channel Estimation)を備える。また、受信機300は、検出部340(Detection)、及び等化干渉抑圧部350(Equalization、Mitigation)を備える。さらに、受信機300は、IFFT部360(Inverse FFT)、復調部370(Demodulation)、及びデコーダ部380(Decoder)を備える。なお、本実施形態に係る無線信号処理装置100(
図6参照)は、検出部340及び等化干渉抑圧部350に含まれる機能により構成される。無線信号処理装置100の詳細については、後述する。
【0014】
受信機300は、フレーム取得部310において、受信信号からフレームを取得し、同期をとる。具体的には、フレーム取得部310は、受信信号におけるプリアンブル部(
図3A参照)のSTF(Short Training Field)における相関検出によって、フレーム同期を行う。
【0015】
FFT部320は、受信信号のペイロード部(
図3C参照)に対してFFT処理(高速フーリエ変換)を実行し、受信信号を周波数領域に変換する。
【0016】
チャネル推定部330は、ヘッダー部(
図3B参照)のCEF(Channel Estimation Field)を用いて通信路応答の推定を行う。
【0017】
検出部340は、ペイロード部を構成するブロックに対して干渉信号を検出する。干渉信号の検出については、後述する。
【0018】
等化干渉抑圧部350は、受信信号の受信特性の劣化を改善するための周波数等化処理を行う。また、本実施形態において、等化干渉抑圧部350において、受信信号に混信した干渉信号の抑圧処理を実施する。
【0019】
IFFT部360は、等化干渉抑圧部350で実施された受信信号に対し、IFFT処理(逆高速フーリエ変換)を実施する。また、復調部370は、IFFT部360の処理の結果に対し復調処理を実施する。さらに、デコーダ部380は、復調部370の復調処理の結果に対し、符号化されたデータの復号化処理を実施する。本実施形態においては、無線通信システム10において送受信されるデータは、LDPC(Low-Density Parity-check Code、低密度パリティ検査符号)によって符号化されている。デコーダ部380は、このLDPCで符号化された受信データを復号化し、後段の装置(図示なし)に送る。
【0020】
図3A~
図3Cは、本実施形態に係る無線通信システム10で処理される受信データの構成を示す図である。上述の通り、無線通信システム10で処理される受信データは、11ad規格に対応するデータフォーマットで構成される。
図3A~
図3Cに示すように、受信データは、フレームフォーマットとしてプリアンブル部(Preamble Part)、ヘッダー部(Header Part)、及びペイロード部(Payload Part)により構成される。
【0021】
また、
図4は、本実施形態における受信信号に適用する11ad規格において、MCS(Modulation and Coding Scheme)が6の場合のパラメータを示す。
図4に示すように、本実施形態においては、受信信号は、中心周波数が、62.64GHzである。また、チップ時間(以下、T
cと称する)は、0.57nsである。チップ時間は、受信信号を構成する最小単位(サンプル)に関する時間である。また、変調方式は、SC-PHY(シングルキャリア)(π/2-QPSK)である。誤り訂正符号は、LDPCが用いられる。符号化率は、0.5、最小符号語数は、23語であるものとする。
【0022】
プリアンブル部は、
図3Aに示すように、連結されたGolay系列Ga
128及びGb
128で構成される。プリアンブル部は、STF及びCEFの2つの部分を備える。STFは、2176T
cの持続時間を持つ短いフィールドである。CEFは、1152T
cの持続時間を持つフィールドである。このSTF及びCEFは、それぞれフレーム同期及びチャネル推定に用いられる。
【0023】
ヘッダー部は、後続のペイロード部に関する情報を伝送するために用いられる。
【0024】
ペイロード部は、64サンプルのGolay系列Ga
64で構成されるGI(Guard Interval)を含む512のサンプル毎のブロックで構成される。なお、このペイロード部におけるブロック数は、N
blk(N
blkは整数)である。すなわち、ペイロード部には、
図3Cに示すように、ブロック番号n=1から、ブロック番号n=N
blkまでのN
blkのブロックと、最後尾にGIが含まれるように構成される。本実施形態においては、ペイロード部におけるGI区間を利用して干渉信号の検知を行う。
【0025】
(レーダ信号の構成)
本実施形態における干渉信号の対象となる信号であるレーダ信号は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave、周波数連続変調波)方式のレーダで用いられるレーダ信号である。FMCWレーダは、例えば、60GHz帯において、モーションセンサや、車内の乗員検知センサなどに用いられる。また、FMCWレーダは、最大で7GHz帯域幅の超広帯域を使用することが可能であり、高精度な距離分解能で、乗員等を検知することが可能となる。
【0026】
FMCWレーダは、時間の経過に応じて周波数が直線的に増加するチャープ信号を用いて、その経路上にある物体から反射された信号をキャプチャし、送信、及び受信の周波数に基づいて、距離を測定する。
【0027】
上述の通り、本実施形態における無線通信システム10は、60GHz帯の周波数が用いられる。また、FMCWレーダにおいても同様に60GHz帯の周波数が用いられる。近年の自動車等の車両においては、車内の各センサとの通信、車両と外部のシステムとの通信、又は車両と車両との通信を可能にするため、様々な無線通信が用いられる。また、自動車等の車両においては、車内の乗員検知センサや、車外の物体検知等においてレーダが用いられる。そのため、無線通信の受信信号と、例えばFMCWレーダ信号などのレーダ信号とが混信する場合がある。
図5Aは、受信信号と、FMCWレーダ信号と、が干渉した場合の例を示す。
【0028】
図5Aに示すように、無線信号は、プリアンブル部、ヘッダー部及びペイロード部の順にそれぞれ、時間軸において、3328T
c、1024T
c、及び(512×N
blk+64)T
cの受信信号が示されている。また、受信信号は、1.76GHzの周波数帯域を有する。
【0029】
また、
図5Aに示す例において、FMCWレーダ信号は、時間経過とともに周波数が直線的に増加している。このFMCWレーダ信号が、時間経過とともに増加する周波数の速度を周波数掃引速度v
fとする。本実施形態において、周波数掃引速度v
fは、11.66MHz/μsである。なお、本実施形態において、周波数掃引速度v
fは、あらかじめ使用するFMCWレーダ信号の仕様に基づき取得され、ユーザ等により受信機300内の記憶部に格納されているものとする。ただし、この周波数掃引速度v
fの取得、及び格納については実施形態を限定するものではなく、例えば、別途FMCWレーダ信号を受信し、受信したレーダ信号から掃引速度を取得する構成を用いてもよい。
【0030】
図5Bは、
図5Aにおける領域Aの箇所を拡大した模式図である。
図5Bは、1ペイロードブロックにおいて周波数掃引されるFMCWレーダ信号の周波数が示されている。上述の通り、本実施形態において、周波数掃引速度v
fは、11.66MHz/μsである。また、1ペイロードブロックの時間は、T
c×512=0.57ns×512=0.29μsである。よって、1ペイロードブロックにおけるFMCWレーダ信号の周波数掃引される周波数は、11.66×0.29=3.38MHzとなる。
【0031】
(無線信号処理装置100の機能)
次に、無線信号処理装置100の詳細について説明する。
図6は、本実施形態に係る無線信号処理装置100の機能的構成を示すブロック図である。無線信号処理装置100は、制御部110と、記憶部120とを含んで構成される。本実施形態において、無線信号処理装置100の制御部110及び記憶部120は、例えば、受信機300を構成する受信機300の制御部(図示なし)及び受信機300の記憶部(図示なし)の一部の機能として構成される。
【0032】
受信機300の制御部は、例えば、汎用のマイクロコンピュータとして構成してもよい。この場合、マイクロコンピュータには、受信機300として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされていてもよい。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは、受信機300が備える複数の情報処理回路として機能する。また、受信機300の制御部は、ソフトウェアによって受信機300が備える複数の情報処理回路を実現してもよいし、あるいは専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0033】
受信機300の制御部の一部として構成される無線信号処理装置100の制御部110は、
図6に示すように、重み情報乗算部111、FFT処理部112、振幅加算部113、閾値判定部114、及び干渉信号抑圧部115を機能として備える。重み情報乗算部111、FFT処理部112、振幅加算部113、閾値判定部114、及び干渉信号抑圧部115の詳細については後述する。
【0034】
また、記憶部120は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random access memory)、ハードディスク等であり得る。また、記憶部120は、無線信号処理装置100が処理を実行するための入力データ、出力データ及び中間データなどの各種データを記憶することも可能である。
【0035】
また、記憶部120は、
図6に示すように、重み情報DB121と、演算結果DB122と、を備える。なお、これらの各データを格納する記憶部120は、1つであっても複数であってもよい。例えば、1つの記憶部120に対し、領域を分けて記憶する構成としてもよい。あるいは、物理的に離れた場所に設置された複数の記憶装置に、データが分散して格納されていてもよい。
【0036】
重み情報DB121は、受信信号に混信した干渉信号(レーダ信号)の周波数掃引速度vfに基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する。
【0037】
重み情報乗算部111は、受信信号に重み情報DB121に格納された重み情報を乗算する。本実施形態において、重み情報は、FMCWレーダ信号における周波数掃引をキャンセルする複素振幅であり、以下の式(1)のc
n,kで示される。ここで、nは、ブロックの数である。v
fは、レーダ信号の周波数掃引速度である。kは、周波数ビン(FFTビン)の番号である。T
cは、チップ時間である。
【数1】
【0038】
また、受信信号をrn,kで示した場合に、重み情報乗算部111で乗算された結果は、cn,k・rn,kで表される(「・」は乗算を示す)。
【0039】
FFT処理部112は、重み情報乗算部111で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。具体的には、FFT処理部112は、重み情報乗算部111で重み情報を乗算した信号に対し、ブロックごとに周波数領域の信号へ変換する。ブロック番号がnの場合の高速フーリエ変換の結果は式(2)で示される。ここで、FFT処理部112におけるFFTのポイント数は512とする。ベクトルY
nは、ブロック番号がnの場合の高速フーリエ変換の結果を示す集合を示す。
【数2】
【0040】
振幅加算部113は、FFT処理部112で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部112で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する。具体的には以下の式(3)で示される処理が実行される。ここでN
blkは、ペイロード部に含まれるブロックの数である。
【数3】
【0041】
閾値判定部114は、振幅加算部113で算出された周波数ビンの総和値が、所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。具体的には、閾値判定部114は、以下の式(4)に基づいて、干渉信号の抑圧対象となる周波数ビン(被干渉周波数ビン)を判定する。本実施形態において、閾値判定部114で用いられる閾値は、あらかじめ受信機300において設定可能であるとし、例えば記憶部120に記憶される。
【0042】
また、本実施形態の閾値判定部114で用いられる閾値は、検出対象となる全ての周波数ビンの総和値の平均値を2倍した値である。すなわち、閾値判定部114は、全周波数ビンにおける振幅値の総和値の平均値の2倍より大きい振幅の周波数ビンのうち、振幅が最大となる周波数ビンを判定する。
【数4】
【0043】
干渉信号抑圧部115は、閾値判定部114で判定された結果に基づいて、受信信号における干渉信号の抑圧処理を行う。具体的には、干渉信号抑圧部115は、周波数領域等化を行い、FFTによって周波数領域に変換された受信信号において、被干渉周波数ビンに対応する振幅値をゼロとするゼロパディング処理によって干渉信号の抑圧処理が行われる。
【0044】
図7は、本実施形態における無線信号処理装置100において、周波数掃引がキャンセルされた干渉信号と、受信信号との関係を説明するための図である。
図7の横軸は、時間を示し、縦軸は周波数ビン(周波数)である。周波数掃引がキャンセルされた信号は、
図7の信号L1で示されるように、時間の経過に伴い、周波数の値は変化しない。そのため、特定の周波数ビンにおいて、信号L1が含まれることになる。よって、上述の振幅加算部113で振幅値の総和の処理を行った場合、特定の周波数ビンにおいて、信号L1が含まれる傾向が現れる。
【0045】
図8は、本実施形態における干渉信号の抑圧を行わない場合の干渉信号、及び干渉信号の抑圧を行った場合の周波数ビンに対する振幅の結果を示す図である。
図8に示されるように、周波数ビンが470付近において、干渉信号が含まれる周波数ビンの振幅が高くなっていることが示される。
【0046】
本実施形態における閾値判定部114は、この
図8に示されるように振幅の値が大きくなった周波数ビンの周波数を被干渉周波数ビンとして判定することができる。
【0047】
また、干渉信号抑圧部115は、閾値判定部114で判定された結果に基づいて、干渉信号が含まれると判定された特定の周波数ビンをゼロとするゼロパディング処理によって干渉信号の抑圧処理が行われる。また、干渉信号抑圧部115は、先頭のブロックに対してゼロパディング処理を行った後、それ以降のブロックに対しては、干渉信号の周波数掃引速度に基づいて、抑圧処理を行う周波数ビンを特定し、先頭以降の全てのブロックに対しても抑圧処理を行う。抑圧処理としては、被干渉周波数ビンに加えて、その隣接する周波数ビンまたは隣接する複数周波数ビンに対して、ゼロパディング処理を行ってもよい。例えば、
図8に示す例においては、干渉信号が含まれると判定された周波数ビンの番号が470付近(隣接する上下4つの周波数ビンを含む)において、ゼロパディングされていることが示される。
【0048】
図9は、本実施形態において干渉信号の抑圧処理の有無によるBER(Bit Error Rate)の違いを示す。
図9に示す例において、横軸は、SNR(信号対雑音比:Signal to Noise Ratio)を示す。また、縦軸はBERを示す。さらに、
図9は、各SIR(信号対干渉電力比:Signal to Interference Ratio)における干渉抑圧の有無による評価結果を示す。
図9に示すように、干渉信号の抑圧処理が行われた結果、SIRが0dBの場合においても、SNRが2dB以上の場合において、BERが10
-2以下となり、また、SNRが3dB以上でBERが10
-4以下まで改善できることが示されている。
【0049】
(無線信号処理装置100の処理フローの概略)
次に、
図10に示すフローチャートを用いて無線信号処理装置100における処理の流れを示す。
図10のフローチャートに示す無線信号処理装置100の一連の動作は、無線信号処理装置100が起動されると開始され、作業終了により処理を終了する。また、
図10に示すフローチャートは、電源オフや処理終了の割り込みによっても処理は終了する。また、以下のフローチャートの説明において、上述の無線信号処理装置100の説明で記載した内容と同じ内容については、省略又は簡略化して説明する。
【0050】
ステップS1001において、制御部110は、ブロック番号nに初期値として1を設定する。その後、処理は、ステップS1002に進む。
【0051】
ステップS1002において、重み情報乗算部111は、受信信号に重み情報DB121に格納された重み情報を乗算する。本実施形態において、重み情報は、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための情報である。
【0052】
ステップS1003において、FFT処理部112は、FFT処理を行う。具体的には、FFT処理部112は、重み情報乗算部111で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。
【0053】
ステップS1004において、FFT処理部112は、重み情報乗算部111で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。具体的には、FFT処理部112は、重み情報乗算部111で重み情報を乗算した信号に対し、ブロックごとに周波数領域の信号へ変換する。
【0054】
ステップS1005において、制御部110は、ブロック番号nがNblkであるか否かを判定する。ここで、Nblkは、ペイロードのおける最終ブロックの番号である。ステップS1005において、制御部110は、ブロック番号nがNblkであると判定した場合(ステップS1005:YES)には、処理はステップS1006に進む。一方で、ステップS1005において、制御部110は、ブロック番号nがNblkでないと判定した場合(ステップS1005:NO)には、処理はステップS1009に進む。
【0055】
ステップS1006において、振幅加算部113は、FFT処理部112で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部112で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する。
【0056】
ステップS1007において、閾値判定部114は、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。具体的には、閾値判定部114は、上述の式(4)に基づいて、干渉信号の抑圧対象となる周波数ビン(被干渉周波数ビン)を判定する。
【0057】
ステップS1008において、干渉信号抑圧部115は、閾値判定部114で判定された結果に基づいて、受信信号における干渉信号の抑圧処理を行う。具体的には、干渉信号抑圧部115は、周波数領域等化を行い、被干渉周波数ビンをゼロとするゼロパディング処理によって干渉信号の抑圧処理が行われる。その後、処理は終了する。
【0058】
ステップS1009において、制御部110は、ブロック番号nに値として1を加算する。その後、処理は、ステップS1002に戻り、ステップS1002からの処理を繰り返す。
【0059】
上述の通り、無線信号処理装置100は、記憶部120と、重み情報乗算部111と、FFT処理部112と、振幅加算部113と、閾値判定部114とを備える。記憶部120は、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する。重み情報乗算部111は、受信信号と、重み情報とを乗算する。FFT処理部112は、重み情報乗算部111で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。振幅加算部113は、FFT処理部112で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部112で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する。閾値判定部114は、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。
【0060】
この無線信号処理装置100により、受信信号に混信されたレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態に係る無線信号処理装置100は、閾値判定部114で判定された結果に基づいて、受信信号に混信する干渉信号の抑圧処理を行う干渉信号抑圧部115をさらに備える。この干渉信号抑圧部115により、無線信号処理装置100は、検出された干渉信号の影響を抑圧し、受信信号はその内容を変更することなく受信機300で使用することができる。
【0062】
例えば、受信信号に混信したレーダ信号を検出し、受信信号の周波数を、レーダ信号の周波数とは異なる周波数に変更する場合、受信信号の周波数を変更することにより、本来処理すべき受信信号を処理できなくなる。すなわち周波数変更後に再度受信することによる遅延が発生する。一方で、本実施形態における無線信号処理装置100は、干渉信号の影響を抑圧することにより、受信信号の周波数を変更する必要はないため、周波数変更に係る遅延の発生を防ぐことが可能となる。
【0063】
また、受信信号に混信したレーダ信号を検出し、受信信号の周波数を、レーダ信号の周波数とは異なる周波数に変更する場合、受信信号の周波数を変更するために余分な処理が必要となる。例えば、複数のレーダ信号が用いられるシステムにおいては、複数のレーダ信号に対応した周波数が存在し、受信信号に混信したレーダ信号を検出した場合、変更後の受信信号の周波数が、別のレーダ信号の周波数と一致する場合も想定される。また、複数のレーダ信号が用いられるシステムにおいては、複数のレーダ信号に対応した周波数が存在し、受信信号に混信したレーダ信号を検出した場合、他のレーダ信号の周波数と混信しない周波数を求める場合にも処理(手間)が必要となる。これに対し、本実施形態における無線信号処理装置100は、干渉信号の影響を抑圧することにより、受信信号の周波数を変更する必要はないため、周波数変更に係る手間の発生を防ぐことが可能となる。
【0064】
また、上述の実施形態において、閾値判定部114で用いられる閾値は、検出対象となる全ての周波数ビンの総和値の平均値を2倍した値であってもよい。閾値判定部114がこの閾値を用いて閾値判定を行うことで、より正確に受信信号に混信した干渉信号を検出することが可能となる。
【0065】
また、上述の実施形態において、干渉信号は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ信号であってもよい。FMCWレーダ信号の混信が想定される無線通信システムに本実施形態に係る無線信号処理装置100を適用することにより、時間経過にともない直線的に周波数が増加するFMCWレーダ信号の特徴により、干渉信号をより正確に検出することが可能となる。例えば、車両内の無線通信システムと、乗員検知等のレーダ装置にFMCWレーダ信号が用いられる環境において、干渉信号の抑圧による効果が期待できる。
【0066】
(他の実施形態)
実施形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明したが、以上の実施形態に記載した内容により本実施形態が限定されるものではない。また、上記に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0067】
上述の実施形態において、検出及び抑圧の対象となる干渉信号は、FMCWレーダ信号である形態を示したが、実施形態はこの構成に限定されない。例えば、ステップCW(Continuous Wave)信号や狭帯域信号が混信する場合にも適用することができる。なお、狭帯域信号の場合には、FFT処理部112におけるFFTポイント数の5%程度まで周波数ビンを占有する場合に、より効果が期待できる。
【0068】
また、上述の実施形態において、受信信号は、11ad規格に規定されたデータを適用する例を示したが、実施形態はこの構成に限定されない。例えば、フレームサイズを固定長としてCP(Cyclic Prefix)やGI(Guard Interval)を付与して伝送するブロック伝送に対して、無線信号処理装置100は適用することができる。
【0069】
また、上述の実施形態において、干渉信号抑圧部115は、周波数領域等化を行い、被干渉周波数ビンをゼロとするゼロパディング処理によって干渉信号の抑圧処理を行う構成を示した。干渉信号抑圧部115は、さらに、ゼロパディング処理の後に周波数領域に信号補間を行う構成としてもよい。このゼロパディング処理の後に信号補間を行う構成により、無線信号処理装置100は、受信信号に対して干渉の影響のみを抑圧することが可能となる。なお、この信号補間の方法として、例えば、被干渉周波数ビンの周辺の周波数ビンの受信信号や、あらかじめ記憶部120に記憶した過去の受信信号または受信データを参照し、抑圧によって消失した受信信号を補間する方法を適用することができる。
【0070】
また、上述した無線信号処理装置100における処理(無線信号処理方法)をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム(無線信号処理プログラム)、及びそのプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体は、本実施形態の範囲に含まれる。ここで、コンピュータで読み取り可能な記録媒体の種類は任意である。また、上記コンピュータプログラムは、上記記録媒体に記録されたものに限られず、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送されるものであってもよい。
【0071】
以下に、無線信号処理装置100、及び無線信号処理方法の特徴について記載する。
【0072】
第1の態様に係る無線信号処理装置100は、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報を記憶する記憶部120を備える。また、無線信号処理装置100は、受信信号と、重み情報とを乗算する重み情報乗算部111を備える。また、無線信号処理装置100は、重み情報乗算部111で乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行うFFT処理部112を備える。また、無線信号処理装置100は、FFT処理部112で処理された周波数ビンごとに、FFT処理部112で算出された振幅値を加算し周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する振幅加算部113を備える。さらに、無線信号処理装置100は、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する閾値判定部114を備える。
【0073】
上記構成によれば、この無線信号処理装置100により、受信信号に混信されたレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能となる。
【0074】
第2の態様に係る無線信号処理装置100は、閾値判定部114で判定された結果に基づいて、受信信号に混信する干渉信号の抑圧処理を行う干渉信号抑圧部115をさらに備えてもよい。
【0075】
上記構成によれば、この干渉信号抑圧部115により、無線信号処理装置100は、検出された干渉信号の影響を抑圧し、受信信号はその内容を変更することなく受信機300で使用することができる。
【0076】
第3の態様に係る無線信号処理装置100で用いられる閾値は、検出対象となる全ての周波数ビンの総和値の平均値を2倍した値であってもよい。
【0077】
上記構成によれば、閾値判定部114がこの閾値を用いて閾値判定を行うことで、無線信号処理装置100は、より正確に受信信号に混信した干渉信号を検出することが可能となる。
【0078】
第4の態様に係る無線信号処理装置100で処理対象となる干渉信号は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ信号であってもよい。
【0079】
上記構成によれば、FMCWレーダ信号が混信される無線通信システムに本実施形態に係る無線信号処理装置100を適用することにより、時間経過にともない直線的に周波数が増加するFMCWの特徴により、干渉信号をより正確に検出することが可能となる。例えば、車両内の無線通信システムと、乗員検知等のレーダ装置にFMCWレーダ信号が用いられる環境において、干渉信号の抑圧による効果が期待できる。
【0080】
第5の態様に係る無線信号処理方法は、コンピュータによって実行される無線信号処理方法である。無線信号処理方法は、受信信号と、受信信号に混信した干渉信号の周波数掃引速度に基づいて定まる情報であって、干渉信号の周波数掃引をキャンセルするための重み情報とを乗算する。また、無線信号処理方法は、乗算された乗算結果に対して高速フーリエ変換処理を行う。また、無線信号処理方法は、高速フーリエ変換処理で算出された周波数ビンごとに、高速フーリエ変換処理で算出された振幅値を加算し、周波数ビンに対する振幅値の総和値を算出する。さらに、無線信号処理方法は、周波数ビンの総和値が所定の閾値の値より大きいか否かを判定する。
【0081】
上記構成によれば、この無線信号処理方法により、受信信号に混信されたレーダ信号を検出し、受信信号とレーダ信号との信号の干渉を抑圧することが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
100 無線信号処理装置
111 重み情報乗算部
112 FFT処理部
113 振幅加算部
114 閾値判定部
115 干渉信号抑圧部
120 記憶部