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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023786
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】加工フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/06 20060101AFI20230209BHJP
   B24C 9/00 20060101ALI20230209BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B24C1/06
B24C9/00 B
B24C9/00 C
B24C9/00 E
C08J7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129615
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 武弘
(72)【発明者】
【氏名】石橋 利明
(72)【発明者】
【氏名】初見 貴広
(72)【発明者】
【氏名】首長 弘三
(72)【発明者】
【氏名】福島 健司
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA06
4F073BA24
4F073BB01
4F073GA05
(57)【要約】
【課題】ショットブラスト処理によるフィルムの粗面化加工において、加工後のフィルムに残砂の問題が発生しにくい方法を提供する。
【解決手段】本発明のショットブラスト処理では、研磨材を循環使用する。循環により粒径の小さくなった研磨材(回収砂3)は、回収路14より回収され、装置10から除去される。新たな研磨材(新砂1)は、タンク11より装置10内に投入される。投入された研磨剤(新砂1)と循環路13を循環してきた研磨剤(循環砂2)は、ローター12に送り込まれ、ローター12から噴射され、走行するフィルムFの表面に衝突し、フィルムFの表面が粗面化される。本発明においては、新たな研磨材(新砂1)として、粗大粒子が除去されたものを使用することにより、上記課題を解決した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨材を循環して使用するショットブラスト処理であって、循環により粒径の小さくなった研磨材を回収することにより装置内から除去し、除去される研磨材よりも体積平均粒径の大きい新たな研磨材を装置内に投入するショットブラスト処理によりフィルムを粗面化加工する加工フィルムの製造方法において、
新たに投入される研磨材が、粗大粒子が除去されたものであることを特徴とする加工フィルムの製造方法。
【請求項2】
新たに投入される研磨材において、体積平均粒径を個数平均粒径で除した値が2.0以下である請求項1に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記粗大粒子が、長辺と短辺の長さの平均値が300μm以上の粒子である請求項1又は請求項2に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項4】
メッシュによる篩分けにより前記粗大粒子を除去する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項5】
回収される研磨材の長辺と短辺の長さの平均値が、110μm以下である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の加工フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記装置内に投入する研磨材の投入量が、5kg/分以上100kg/分以下である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の加工フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットブラスト処理を利用した加工フィルムの製造方法に関し、更に詳しくは、投入する研磨材から粗大粒子を除去することにより、残砂が大幅に低減された加工フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルムに対して、反射の抑制、貼り合わせ性・剥離性等の接着力制御の向上、印刷適性の向上、等を目的として、表面に微細な凹凸を形成する粗面化加工が行われている。
かかる粗面化加工の手法として、ショットブラストが挙げられる。ショットブラストは、高速で回転するローターに設けられたブレードから噴射される研磨材を加工対象物に送り込むことで、加工対象物の表面に微細な凹凸を形成する方法であり、様々な目的でフィルムの加工に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フィルム表面に対してショットブラストした後、フィルムの幅方向全幅にエアーブラストを行う加工方法が開示され、非マット面にアルミ蒸着したフィルムに適用可能であるとされている。
【0004】
特許文献2には、可視的識別情報の存在する領域が、サンドブラスト加工により粗面化加工され、特定範囲の平均粗さの粗面を有する合成樹脂フィルムに覆われて被着してなる識別シートが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ヘアライン加工を行う前のフィルムに対して、前処理として微細な凹凸を施すことにより、そのようにしない場合と比較して、ヘアライン加工後に削りカスで構成されるヒゲと呼ばれる不良部分の発生を抑制することができると記載されている。特許文献3の実施例では、フィルムに微細な凹凸を施す方法として、ショットブラストが適用されている。
【0006】
ショットブラストでは、研磨材を循環して再利用することが行われており、研磨材の循環装置・方法について、種々提案されている(特許文献4~6)。
【0007】
循環利用される研磨材は、研磨材同士の衝突や、ローターや装置壁面との衝突により、割れたり角が取れたりして、徐々に粒径が減少していく。粒径の減少した研磨材では、十分な凹凸を形成することができないため、加工後のフィルムの品質を保つべく、ある程度まで粒径が小さくなった研磨材は、回収・除去され、その分、新たな研磨材が投入される。回収・除去のための方法としては、特許文献4等に記載のように、エアー(空気)を利用した方法が挙げられる。
【0008】
一方、衝突により割れた研磨材は、エッジが鋭くなり、フィルムとの衝突により、フィルムに突き刺さってしまうことがある。このような「フィルムに突き刺さった研磨材」(以下、「残砂」という場合がある。)は、例えば、凹凸を形成した後のフィルムに別の素材をコーティングした際の歩留まりが低下する原因となる。
【0009】
上記のような事情から、コーティング加工まで含めた一連のプロセスにおいて、歩留まりを改善し、生産性を向上させることのできる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-243497号公報
【特許文献2】特開昭62-279992号公報
【特許文献3】特開2014-144539号公報
【特許文献4】特開2016-168657号公報
【特許文献5】特開平8-267361号公報
【特許文献6】特開2002-210658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、ショットブラスト処理によるフィルムの粗面化加工において、加工後のフィルムに残砂の問題が発生しにくい方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ショットブラストにおいて、研磨材を循環利用する際には、粒径が小さくなり回収・除去され、新たな研磨材が投入される。新たに投入する研磨材は、粒径は一定でなく、粒径分布がある。
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ショットブラスト処理後のフィルムに突き刺さる残砂は、数十~数百μm程の大きさであり、このような残砂は、研磨材を新たに投入した直後に発生する傾向があることを見出した。このことから、本発明者は、新たに投入された研磨材、言い換えれば使用開始直後の研磨材が、粗面化加工の際に残砂が生じる主要因となっていると推測した。
そして、本発明者は、新たに投入された研磨材の平均粒径が大きいと、研磨材の粒子が割れやすくなると考え、新たに投入する研磨材から、粗大粒子(粒径の大きな粒子)を予め分級や破砕等で除去しておくことにより、粗面化加工後のフィルムに生じる残砂を劇的に減少させることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、研磨材を循環して使用するショットブラスト処理であって、循環により粒径の小さくなった研磨材を回収することにより装置内から除去し、除去される研磨材よりも体積平均粒径の大きい新たな研磨材を装置内に投入するショットブラスト処理によりフィルムを粗面化加工する加工フィルムの製造方法において、
新たに投入される研磨材が、粗大粒子が除去されたものであることを特徴とする加工フィルムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ショットブラスト処理によるフィルムの粗面化加工において、加工後のフィルムに残砂の問題が発生しにくい方法を提供することができる。
【0016】
ショットブラストにおいては、研磨材の平均粒径が大きい方が表面粗さ(Ra)を大きくしやすく、加工スピードも上げることができ、工業的に粗面化フィルムを生産する場合に有利である。しかし、粒径の大きい研磨材の粒子は割れやすく、フィルムに突き刺さり残砂の発生の要因になりやすい。
本発明においては、平均粒径の大きい研磨材を使用した場合であっても、粗大粒子を予め除去しておくことにより、残砂の発生を劇的に減少させることができる。
【0017】
粗面化後のフィルムに残砂があった場合、粗面化加工後にコーティング加工等の加工をされたフィルム(最終製品)の歩留まりが低下する。
本発明の方法では、平均粒径の大きい研磨材を使用した場合であっても、粗面化加工後のフィルムにおける残砂が非常に少ないので、コーティング加工等の加工をされたフィルムの歩留まりが向上する。
本発明の方法により粗面化加工した場合、粗大粒子の除去にかかるコストを考慮したとしても、粗面化加工の生産性を向上でき、最終製品の歩留まりも向上することから、一連のプロセスにおけるコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のショットブラスト処理の概念図を示す。
図2】比較例3で使用した研磨材Cの粒度分布を示す。
図3】実施例2で使用した研磨材Eの粒度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0020】
本発明は、ショットブラスト処理によりフィルムを粗面化加工する、加工フィルムの製造方法である。
【0021】
図1に本発明のショットブラスト処理の概念図を示す。本発明のショットブラスト処理では、研磨材は、循環して使用される。
本発明において、ショットブラスト装置(以下、単に「装置」という場合がある。)としては、研磨材を循環利用できる公知のショットブラスト装置を適宜使用することができる。
【0022】
本発明において使用される研磨材に特に限定はなく、例えば、珪砂、アルミナ、カーボランダム、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が例示できる。
この中でも、粒径分布がブロードであり、粗大粒子を含む場合の多い珪砂が、本発明の適用対象として最適である。以下、本明細書においては、主に研磨材が砂(珪砂)である場合を例にして説明するが、本発明において、研磨材は必ずしも砂(珪砂)に限られるわけではない。
【0023】
本発明において、新たに投入される研磨材(以下、「新砂」という。)1は、ショットブラスト装置10のタンク11より装置内に投入される。投入された研磨材はローター12に送り込まれ、ローター12から噴射され、走行するフィルムFの表面に衝突し、フィルムFの表面が粗面化される。
【0024】
フィルムFの表面に衝突した研磨材は、衝突により割れることにより、粒径が小さくなっていく。ローター12から噴射された研磨材は、装置10内の循環路13を経由し、再びタンク11に回収され、再びローター12に送り込まれ、ローター12から噴射され、フィルムFの表面に衝突する。装置10内を循環する研磨材を、以下、「循環砂2」という場合がある。
【0025】
研磨材の粒径が小さくなり過ぎると、フィルムを粗面化加工する能力を十分に果たすことができなくなる。このため、循環により粒径の小さくなった研磨材は、例えば、エアー(空気)により回収され、回収路14を経由し、装置10の内部から除去される。回収路14より除去される研磨材を、以下、「回収砂3」という場合がある。
【0026】
回収砂3が除去されることで、装置10内を循環する研磨材の量が減少するので、その分、新たな研磨材(新砂)1をタンク11より投入する。新たな研磨材(新砂)1は、除去される研磨材(回収砂)3よりも体積平均粒径が大きい。
研磨材は、循環使用により、粒径が減少するところ、粒径の小さくなった回収砂3を除去し、その分、粒径が大きい新砂1を投入することにより、研磨材の粗面化加工の能力(フィルムの表面粗さを下げる能力)を保持している。
【0027】
研磨材同士の衝突やローターや装置壁面との衝突により、割れた研磨材は、フィルムと衝突した際に、フィルムに突き刺さり、フィルムに残砂が発生する。フィルム中の残砂は、粗面化加工後のフィルムに、コーティング加工等を施した際に不具合を生じ、歩留まり低下の原因となる。研磨材が割れる現象は、新砂の投入直後に発生しやすく、研磨材の循環を進めていくと発生しにくくなる。
【0028】
研磨材が割れる現象は、研磨材の粒径が大きいほど発生しやすいと考えられることから、残砂の発生を抑制するためには、新たな研磨材(新砂)の平均粒径を抑える、というアプローチが考えられる。
しかし、そのようにした場合、研磨材の粗面化加工の能力(フィルムの表面粗さを下げる能力)が低下するため、研磨材の使用量が増加したり、加工スピード(フィルムの走行スピード)を落とさざるを得なくなったりするため、生産性の低下につながり、環境面でも経済的にも好ましくない。
【0029】
本発明においては、タンク11より新たに投入される研磨材(新砂)は、粗大粒子が除去されたものである。
研磨材の粒径は、一定ではなく、粒径分布がある。フィルム中の残砂の問題は、新砂(循環砂よりも平均粒径が大きい)の中でも、特に粒径の大きな粗大粒子によって引き起こされており、かかる粗大粒子を予め除去しておくことにより、粗大粒子が割れることによって生じる残砂を劇的に減少させることができることを、本発明者らは見出した。本発明では、新砂から粗大粒子を除去することにより、粗面化加工後のフィルムに生じる残砂を劇的に減少させることができる。
【0030】
粗大粒子を除去する方法には、特に限定はないが、メッシュによる篩分け、遠心分離機による分級、粉砕機置等による粗粒の破砕等が例示できる。
【0031】
研磨材の種類にもよるが、新たに投入される研磨材粒子は、球形に近い形状でない場合も多い。特に、研磨材が珪砂の場合、形状が様々な場合が多く、粒子の長辺の長さ(L)を短辺の長さ(S)で割った値(L/S)は、1~3程度となっていることが多い。
【0032】
本発明においては、新たに投入される研磨材(新砂)は、粗大粒子が除去されたものであるところ、「粗大粒子」とは、粒子の長辺の長さ(L)と短辺の長さ(S)の平均値(L+S)/2が、例えば、300μm以上、310μm以上、330μm以上、350μm以上、370μm以上、400μm以上、450μm以上、500μm以上、等である粒子のことをいう。
【0033】
このような大きさの粗大粒子は、研磨材(新砂)の中にわずかな量であっても含まれていると、残砂の発生の原因となる。すなわち、粗大粒子が割れる現象が発生していると考えられる。研磨材の循環を進めていくと(新砂の投入から時間が十分に経過すると)残砂が発生しにくくなるのは、粗大粒子が割れたり、角が取れて細かく(粒径が小さく)なったりしたためと推察される。
【0034】
新たに投入される研磨材(新砂)において、体積平均粒径(Mv)と個数平均粒径(Mn)で除した値(Mv/Mn)は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることが特に好ましく、1.5以下であることが最も好ましい。
Mv/Mnが上記上限以下であると、粗大粒子が十分に除去されており、粗大粒子の割れによる研磨材の突き刺さり(ひいてはそれに起因するフィルム中の残砂)を十分に抑制することができる。
【0035】
本発明では、前記した方法で粗大粒子を除去するが、粗大粒子を除去する操作により除去される粗大粒子の量は、該操作に供される研磨材粒子全体に対して、概ね、0.5質量%以上、大体は1.0質量%以上である。また、概ね、10.0質量%以下、大体は5.0質量%以下である。
すなわち、除去される粗大粒子はごく僅かにすぎないが、このごく僅かの粗大粒子が割れることで、フィルム加工後の残砂の原因となる。
【0036】
本発明のショットブラスト処理においては、通常、加工対象物であるフィルムを、略一定速度で走行させながら、フィルムの走行経路上に設置されたローターから噴出される研磨材を、フィルム表面に衝突させる。
【0037】
本発明において、定常状態では、ショットブラスト装置の内部を略一定量の研磨材が循環する。
装置の内部を循環する研磨材の量は、50kg以上であることが好ましく、100kg以上であることがより好ましく、200kg以上であることが特に好ましい。また、5000kg以下であることが好ましく、3000kg以下であることがより好ましく、2000kg以下であることが特に好ましい。
上記下限以上であると、フィルムの表面粗さを十分に低下させることができる。また、上記上限以下であると、加工コストを十分に抑制できる。
【0038】
本発明において、粒径が小さくなった研磨材は、エアー(空気)により回収される。回収される研磨材(回収砂)の粒径(長辺の長さと短辺の長さの平均)は、110μm以下とすることが好ましく、90μm以下とすることがより好ましく、75μm以下とすることが特に好ましい。
上記上限以下とすることで、フィルムの表面粗さと経済性を両立させることができる。
【0039】
回収砂として装置内から除去される分の量に相当する研磨材を、新たに装置内に投入する。新たに投入される研磨材(新砂)は、定期的にまとめて投入するようにしてもよいし常時投入するようにしてもよい。
【0040】
新砂を定期的にまとめて投入する場合、投入間隔は、4分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることが特に好ましい。また、180分以下であることが好ましく、120分以下であることがより好ましく、60分以下であることが特に好ましい。
【0041】
この場合、1回あたりの投入量は、5kg以上であることが好ましく、10kg以上であることがより好ましく、20kg以上であることが特に好ましい。また、100kg以下であることが好ましく、80kg以下であることがより好ましく、60kg以下であることが特に好ましい。
【0042】
定期的にまとめて投入する場合も、常時投入する場合も、新砂の投入量は、5kg/分以上であることが好ましく、10kg/分以上であることがより好ましく、20kg/分以上であることが特に好ましい。また、100kg/分以下であることが好ましく、80kg/分以下であることがより好ましく、60kg/分以下であることが特に好ましい。
【0043】
新砂の投入量・投入間隔が上記範囲内であると、フィルムの表面粗さを十分に低下させることができ、また、加工コストを十分に抑制できる。
【0044】
本発明において、加工対象物である(粗面化加工を施される)フィルムの材質に特に限定はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)、延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のフィルムが本発明に適用できる。
【0045】
本発明において、粗面化加工を施されるフィルムの加工前の平均厚さに特に限定はないが、4μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることが特に好ましい。また、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることが特に好ましい。
研磨材の突き刺さりに起因する残砂は、フィルムが薄くなるほど発生しやすく、残砂による影響(不具合)も、フィルムが薄くなるほど顕著になる。フィルムの平均厚さが上記上限以下だと、残砂を抑制する意義が大きくなり、本発明の恩恵を受けやすい。
【0046】
本発明のショットブラスト処理において、フィルムの走行速度は、1m/min以上であることが好ましく、3m/min以上であることがより好ましく、5m/min以上であることが特に好ましい。また、100m/min以下であることが好ましく、70m/minであることがより好ましく、50m/min以下であることが特に好ましい。
上記下限以上であると、生産性の面から好ましい。また、上記上限以下であると、好適にフィルム表面を粗面化することができる。
【0047】
走行させるフィルムの幅(走行方向に対して垂直方向の長さ)は、300mm以上であることが好ましく、400mm以上であることがより好ましく、500mm以上であることが特に好ましい。また、2000mm以下であることが好ましく、1500mmであることがより好ましく、1350mm以下であることが特に好ましい。
【0048】
ローターからフィルムに向けて噴射される研磨材の噴射量は、146kg/Hr以上であることが好ましく、188kg/Hr以上であることがより好ましく、230kg/Hr以上であることが特に好ましい。また、1800kg/Hr以下であることが好ましく、1500kg/Hrであることがより好ましく、1200kg/Hr以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、十分にフィルム表面を粗面化することができ、また、コスト面からも好ましい。
【0049】
本発明において、ショットブラスト工程を行った後のフィルムの線の算術平均高さ(Ra)(JIS B 0601)は、0.1~2.0μm程度となるようにするのが好ましく、0.2~1.2μm程度となるようにするのが特に好ましい。
フィルムが均一に加工できている場合、面の算術平均高さ(Sa)は、Raと同様の値となる。
【0050】
本発明において、ショットブラスト工程を行った後のフィルムの面の最大高さ(Sz)は、1.0~40.0μm程度となるようにするのが好ましく、5.0~35.0μm程度となるようにするのが特に好ましい。
【0051】
粒径の小さくなった研磨材をエアーで回収する場合を例に説明したが、メッシュによる篩で分級し、回収することも可能である。この場合、エアーでは重さで、篩では大きさで分級することになる。
【実施例0052】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
比較例1
市販の珪砂(以下、「研磨材A」という。)をそのまま(粗大粒子を除去する処置を施さずに)ショットブラスト処理に使用する新砂として使用した。レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3000II、マイクロトラック・ベル株式会社製)によって測定したところ、研磨材Aの体積平均粒径(Mv)は188.38μm、個数平均粒径(Mn)は90.89μmだった。
【0054】
平均厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(幅1350mm)に対して、ローターの数が12個のショットブラスト装置を使用し、新砂として、36kgの研磨材Aを、15分毎にショットブラスト装置のタンクに投入し、循環使用により粒径の小さくなった研磨材(回収砂)が同じペースで装置内から除去されるようにし、定常状態において400kg前後の研磨材が装置内を循環するように設定した。
【0055】
定常状態において、フィルムの走行速度15m/minで粗面化加工を実施し、粗面化加工完了後のフィルムを水で洗浄し、次いで乾燥した。乾燥後のフィルムを、レーザー顕微鏡によって観察し、100mあたりに存在する突き刺さった研磨材(残砂)の数を算出した。
【0056】
比較例2
研磨材Aに代えて、別の市販の珪砂(以下、「研磨材B」という。)を新砂として使用した以外は、比較例1と同様にしてPETフィルムにショットブラストによる粗面化加工を実施し、洗浄・乾燥後のフィルムの残砂の数を算出した。研磨材Bには、粗大粒子を除去する処置を施しておらず、研磨材Bの体積平均粒径(Mv)は166.12μm、個数平均粒径(Mn)は78.95μmだった。
【0057】
比較例3
研磨材Aに代えて、別の市販の珪砂(以下、「研磨材C」という。)を新砂として使用した以外は、比較例1と同様にしてPETフィルムにショットブラストによる粗面化加工を実施し、洗浄・乾燥後のフィルムの残砂の数を算出した。研磨材Bには、粗大粒子を除去する処置を施しておらず、研磨材Bの体積平均粒径(Mv)は141.82μm、個数平均粒径(Mn)は78.64μmだった。
【0058】
実施例1
比較例2において、研磨材Bから#70のメッシュを使用したインラインによる分級により粗大粒子を除去した研磨材(以下、「研磨材D」という。)を新砂として使用した以外は、比較例2と同様にしてPETフィルムにショットブラストによる粗面化加工を実施し、洗浄・乾燥後のフィルムの残砂の数を算出した。研磨材Dの体積平均粒径(Mv)は134.94μm、個数平均粒径(Mn)は89.10μmだった。
【0059】
実施例2
比較例3において、研磨材Cから#70のメッシュを使用したインラインによる分級により粗大粒子を除去した研磨材(以下、「研磨材E」という。)を新砂として使用した以外は、比較例3と同様にしてPETフィルムにショットブラストによる粗面化加工を実施し、洗浄・乾燥後のフィルムの残砂の数を算出した。研磨材Eの体積平均粒径(Mv)は131.00μm、個数平均粒径(Mn)は86.85μmだった。
【0060】
実施例3
比較例3において、研磨材Cから#90のメッシュを使用したインラインによる分級により粗大粒子を除去した研磨材(以下、「研磨材F」という。)を新砂として使用した以外は、比較例3と同様にしてPETフィルムにショットブラストによる粗面化加工を実施し、洗浄・乾燥後のフィルムの残砂の数を算出した。研磨材Fの体積平均粒径(Mv)は131.39μm、個数平均粒径(Mn)は89.91μmだった。
【0061】
各実施例・比較例における結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1~3においては、粗大粒子を除去した研磨材を使用してショットブラスト処理を行うことによって、粗面化加工後のフィルムに残存する残砂を劇的に減少することができた。
比較例1~3においては、残砂の量が多かった。残砂は、新砂を投入した直後のタイミングで発生する傾向があった。
【0064】
比較例3で使用した研磨材Cと実施例2で使用した研磨材Eの粒度分布を、それぞれ図2及び図3に示す。研磨材Cには、長辺と短辺の長さを合計して2で割った値が、310μmを超える粗大粒子が確認できるが(図2)、研磨材Eには、該値が310μmを超える粗大粒子は確認できない(図3)。また、該値が310μm未満の粒子の粒度分布は、研磨材Cと研磨材Eとでほとんど変わらない。
このことから、わずかに存在する粗大粒子が、フィルムに発生する残砂の原因となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の加工フィルムの製造方法は、粗面加工後のフィルムに残砂の問題が発生しにくいので、電子機器用、半導体製造用、等の用途に使用される、基材フィルムや工程用フィルムの製造に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 新砂
2 循環砂
3 回収砂
10 装置(ショットブラスト装置)
11 タンク
12 ローター
13 循環路
14 回収路
F フィルム
図1
図2
図3